山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
気付いたら流れでトレーナーやってて三年経ってた話
「メジロマックイーンっ!!!その見事な末脚で見事!!!天皇賞を制覇しました!!!」
そうやって、彼女が称えられてからはや数週間。俺は菊花賞を取った時より遥かに忙しくなり、ようやくトレーナーとしての自覚が持てるようになった気がする。
この職に就いて、今ではもう三年目。三回目の桜が咲き散っていくのを見ても、その色はまやかしではなく、本物であることなんて、考えなくても分かるようになっていた。
ーーー
桜木「カレーパンと午後のストレートティーは割と合う」
「そうなんですか?」
桜木「ええ、今度試して見てください.........って、俺より健康に良さそうなもん食ってんじゃないっすか」
俺はそう言いながら、もう一口カレーパンにかじりつき、ストレートティーを飲んだ。うん。おいしい!
ここは以前、俺の昼食を食べる場としてよく来ていた三女神の噴水前。最近では皆が居るチームルームで食事を取っていたが、今日は誰も居ないのだ。
「それにしても、桜木さんから食事に誘われるなんて、思ってもみませんでしたよ」
桜木「いやー.........お恥ずかしい話なんですが、誰かと食事するのに慣れちゃうと、寂しくなっちゃって.........あ、迷惑でしたか?」
「いえ!沖野さんが羨ましいと思ってたんですよ。同じ古賀先生の教え子なのに、桜木さんと接する機会。あまり無かったじゃありませんか」
そう言ってさわやかに微笑む男性。彼もまたこの学園に所属しているトレーナーであり、俺の一年先輩。つまり神威の同期であり、同じ古賀さんの教えを受けた人だ。
名前は南坂さん。現在はカノープスという名のチームを運営している敏腕トレーナーだ。
南坂「それにしても、すごいですね桜木さんは.........僕も頑張らなければ行けませんね」
桜木「いやいや!アレはマジでマックイーンの才能ですよ!!俺はただそれを手助けしただけで.........」
南坂「その才能を伸ばすのだって、一筋縄では行かないんですよ?桜木さんは立派にトレーナーをしていると思います」
手作りであろうお弁当を箸でつつく南坂さん。同じ職員室で働いている人だから、俺が あそこでなんて言われているのかも分かっているはずだ。
『トレーナーもどき』。かつてそう言われていた俺は、その言葉に自信をなくし、彼女を手放そうとした。それでも、俺を信じてくれた彼女には頭が上がらない。それに、この人にそう言われると、少し安心する。
桜木「ありがとうございます。南坂さん」
南坂「いえいえ、大したこ「お腹すいたぁ〜〜〜.........」.........この声は」
力の籠っていない声。その声のする方向へ振り返ってみると、青くて長いツインテールをしたウマ娘。ツインターボがバタリと地面に突っ伏していた。
南坂「あーターボさん!!お昼ご飯食べなきゃダメじゃないですか!!」
桜木「.........仕方ない」
そう言いながら、俺は先程コンビニに寄った際に見かけたキッチンカーで買ってきた物を取り出す。幸い、まだそれに口は付けていない。
桜木「ポップアップを発見。ターボチャージャー」
ターボ「ターボチャージャー!!???」ガバッ!
桜木「ほら、これあげるから元気だしな」
南坂「すみません桜木さん。ターボさんご飯食べるか心配なんで、カフェテリアに連れて行きますね.........」
桜木(それはごもっともです)
俺は二回ほど、深く頷いた。一度ギアを入れれば減速することは無いと言われるツインターボ。こうしてご飯の時間に倒れそうになるのも日常茶飯事だ。
彼女は俺のあげた固めはちみーを頑張って吸い上げ、南坂トレーナーと手をつなぎながらカフェテリアへと向かって行った。
ハァァァ...トウトイ......♡
桜木「.........?」
なんか声が聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。多分三女神だな。うん。僕もそう思います。
最後の一口を頬張り、ストレートティーも飲み干して一息つく。最近はやれ取材だの、テレビの出演だので大忙しだった。とはいえ、続けられてるのが凄いことだ。昨日のペースを保っていけば続けられる。
そう思い、いつも通り立ちながらココアシガレットを咥えると、下方向にズボンを引っ張られる感触に襲われる。
キタ「.........あ」
桜木「あら!!来てくれたのキタちゃん!!」
キタ「はい!!きちゃいました!!」
彼女の目線に合わせるようにしゃがみこんでから、脇の下に手を入れ、上に持ち上げる。
女の子にこういうのも失礼かもしれないが、あれからだいぶ重くなっている。だがこれは順当に成長しているということだ。
テイオー「キタちゃーん!!急に走っちゃ.........あ、どうも桜木さん」ペコリ
桜木「やめて!!悪かったから!!許して!!」
キタ「?」
マック「あら、桜木さんいらしたのですね」
桜木「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!゛!゛!゛」
ダイヤ「?」
ーーー
話は数日前にさかのぼる。
沖野「.........えー。残念なことに、今年のオープンキャンパスの案内役を、チームスピカが、公正なくじ引きによって担当することが決定されました」
全員「えぇぇぇぇ!!!??」
桜木「」ダラダラ
絶え間なく汗が吹き出る。というのも、マックイーンとタキオンの視線が酷く鋭く尖っているからだ。他の子達もそれほどでは無いにしろ、やはり鋭さを帯びている。
マック「トレーナーさん」
桜木「ごめんなさい.........」
タキオン「おかしいな、フクキタルくんに頼んで、一時的に運気を上げてもらったんじゃないのかい?当日にそう息巻いて居たじゃないか」
桜木「.........ッスー......実はですね.........」
ーーー
くじ引き会場。
桜木「トイレに行きたくなっちゃった」
突然の排泄感。それに大きい方だ。生理現象というのは空気を読まないもので、いつなんどきでも、万人に訪れるものだ。
しかし、あともう少しでくじを引く時間だ。今トイレにこもってしまえば、明らかにまずい。どうするべきか.........
桜木(やっべー。まぁじで腹の調子悪くなってきたぁ.........!!)
腹部に痛みが走り出した。もう耐えられそうにない。そう思った時、廊下の方を見ると、見慣れた奴がスッと一瞬だけ目に映った。
桜木「しめたっ!!!」ダッ!
桜木「創俺の代わりにくじ引いて良いよありがとうこの恩は絶対忘れない良いってことさ!!!」
神威「は?」
ーーー
マック「で?」ギリギリ
桜木「.........創がね?」
神威『なんか当たった』
桜木『』
桜木「」ダラダラ
鋭さ?そんなもんじゃないよ殺気だよ。特にスカーレット。君なんか俺に恨みでもあるの???ウオッカも若干引いてるぞ。
沖野さんは呆れてため息を吐いた。おい、アンタのくじ運の悪さも引けを取らないぞ。そこはホッと胸を撫で下ろせ。
タキオン「スカーレットくん」
ダスカ「はい」
桜木「は?」
「「フンッッ!!!」」ドゴォ!!!
桜木「ゆでたまごッッ!!!??」
見事なコンビネーションと讃えよう。このクロスボンバーはリングの上で披露したらたちまちファンが急増するだろう。今この首が繋がってることが奇跡的だ。
俺がその場に倒れ伏すと、もう話す事は無いというように沖野さんはミーティングルームからため息を吐きながら去っていった。
テイオー「ねぇ。もうサブトレーナーって呼ぶのやめない?」ゲシッ!
桜木「ぐえっ!」
タキオン「実にいい提案だ。施錠は任せたよ。[桜木]くん」グリッ!
桜木「あがぁっ!」
マック「ではまた今度、[桜木]さん」グイッ!
桜木「いでぇっ!!」
ほとんどが俺を踏み台にしてチームルームを帰って行った。ウララ達とスズカだけ俺を少し心配して出て行った。優しい.........
桜木(くそぉ.........!俺はただお腹痛くてトイレ行っただけなのによぉ.........!!!)
ーーー
桜木「.........背中の蹄鉄痕が疼くぜ」
マック「何カッコつけてるんですの?」
全く、この人はご自分のしたことを棚に上げているのではありませんか?.........まぁ、そのおかげでこうしてキタサンブラックさんと、サトノダイヤモンドさんを案内出来ていますので、良かったのですが.........
桜木「.........あれ?というか、マックイーンはダイヤちゃんと初対面じゃないか?もう仲良さそうじゃないか」
ダイヤ「は、はい!初めましてです!」
マック「ええ、サトノ家とはメジロ家全体でお付き合いがありますので、私自身は彼女の事を聞いておりましたわ」
桜木「はえー.........色々あんだなーお嬢様って.........ねー」
キタ「ねー!」
テイオー「あーずるいサブ.........桜木さん!!!ボクもキタちゃんと仲良くするんだー!!!」
桜木「わざわざ言い直しやがったぞこのクソガキッッ!!!??」
そう言いながらも、彼は渋々と言った様子でキタサンブラックさんを降ろしました。そのままテイオーに駆け寄るよって行く姿を見て、嬉しそうに目を細めました。
桜木「.........すっかりテイオーもヒーローだな」
マック「そうですわね。今ではデビュー二年目にして、私の名も霞んでしまうほどです」
ダイヤ「ま、マックイーンさんも負けてません!!!」フンス!
怒ったように頬をふくらませてそう言うサトノダイヤモンドさん。そんな姿にトレーナーさんは笑い声を上げます。
それに対して、トレーナーさんは目線を合わせるようにしゃがみこみ、サトノダイヤモンドさんの頭を撫でました。
桜木「君みたいなファンが居てくれたから、マックイーンは天皇賞を勝ち切る事が出来たんだ。ありがとう」
ダイヤ「え、えへへ.........」
マック「ふふ、ありがとうございます。サトノダイヤモンドさん」
嬉しいながらも恥ずかしいのか、サトノダイヤモンドさんは頬を赤く染めて笑っていらっしゃいます。とても可愛らしいです。
しばらく撫でた後、トレーナーさんは満足したのか、その手を彼女の頭から離し、ゆっくりと立ち上がりました。
桜木「さっ、オーキャンの続きに行ってきな。まだまだ学園には面白いところがあるぞ!」
テイオー「あ、その事なんだけど〜。マックイーンはここで休んでていいよー?」
マック「えぇ!?ど、どういうことですの!!?」
テイオー「だって〜、ボク案内ほとんどマックイーンに任せちゃってたじゃん♪ボクだってキタちゃんやダイヤちゃんにカッコイイところ見せたいんだい!!行こ!!2人共!!」
二人「えぇぇ!!?」
マック「あっ!!ちょっとテイオー!!?」
二人の手を強引に引っ張って行きながら、テイオーはこの場を後にしてしまいました。残ったのは彼と私の二人だけです。
マック「ど、どうしましょうか。トレーナーさん.........」
桜木「んー.........久々に、二人きりで話でもしようか?」
そう言いながら、彼は三女神の噴水の縁へ腰をかけました。確かに、天皇賞を取ったあの日の夜。パーティを抜け出して二人で歌いあったあの日から、彼とこういう時間は取れていませんでした。
私自身、取材やテレビで忙しい日々を過ごしていますし、彼も同じ様な環境。その上、チームを運営する為にトレーニングも組んでくださっているのです。
マック「.........では、失礼します」
心の中でテイオーの余計なお世話に礼を言いながら、私は彼の座る噴水の隣に、ゆっくりと座りました。
ーーー
テイオー「おー!!さっすがマックイーン♪」
ボクはそう言いながら、あの三女神の噴水から少し離れた茂みの中で、マックイーンとサブトレーナーの様子を見守っていた。
え?キタちゃんとダイヤちゃんのオープンキャンパス?だってもうほとんど紹介するとこないよ?強いてあげるなら、なんか勝手に張り切ってるトレーナーのレッスンくらいかな?
キタ「えっと、テイオーさん?」
ダイヤ「なんでお二人の様子を隠れて見てるんですか?」
テイオー「それはね.........二人の関係がこうなりそうだからだよ♪」
キタちゃんとダイヤちゃんにしっかりと見えるように、ボクは小指をピンと伸ばした。すると、二人はみるみるうちに顔を赤くしてったんだ。面白いよね!
キタ「えぇぇ.........!!そ、そうだったんだー.........!!」
ダイヤ「な、なんだか物語みたい.........!!」
???「ウマ娘ちゃんとトレーナーとの禁断の恋.........!!はぁぁぁ.........尊すぎてご飯もいらない.........♡」
テイオー「.........?うわ、居たんだアグネスデジタル」
声を出してくれるまですっかり気が付かなかった。デジタルはしっかりと隠れられるよう迷彩服とギリースーツでサブトレーナーとマックイーンを観察してるみたい。きたちゃんとダイヤちゃんが怖がってるからやめてくれないかな?
デジタル「はっ!!デジたんとした事が愛しのウマ娘ホープちゃんを怖がらせてしまいました.........!!ですがこれは偵察。同志たんとの取引の為、致し方ない事なのです!!」
テイオー「どうしたんー???」
二人「???」
デジタル「そう、 あれはほんの数日前の出来事でした.........!!」
ーーー
そこはそう、ありとあらゆるウマ娘が不調を感じた時にお世話になると言われる伝説の場所。宝賢膝.........!!
テイオー「保健室だよね?なんで最後膝(ひざ)なのさ」
こ、細かい事は良いんです!!同志たんはそう言っていたので!!!
コホン。兎に角、話を続けましょう。その場所でありとあらゆるウマ娘に完璧な治療を施す存在。そう!!かの名医!ゴッドハンド黒津木先生が居るのです!!!
テイオー「え?でも普通の医者でしょ?」
デジタル「そもそも医者は普通じゃないんですよ 。テイオーさん」
テイオー「それもそっか」
その中でも普通じゃないんですよ!!?なんと病院をやめて数日でウマ娘の身体について勉強し直して!!中途試験で見事一発合格面接不要の満々点!!!しかも問題の訂正と逆にその部分の見解について話したいと解答欄に書き出し終いには問題製作者を泣かせたという
テイオー「問題児じゃん。やっぱサブトレーナーの友達だね」
デジタル「デジたんもそう思います。でも同志たんは凄いのです!!保健室医さんになった後!!ウマ娘の本を執筆しました!!!じゃん!!!」
テイオー「え?ウマ娘の身体の描き方?」
デジタル「デジたんすっごくお世話になってます!!あ!!!同志たんみてますか!!!デジたんは同志たんのおかげでイベントの後のご飯を美味しく食べられます!!!」
テイオー「うるさ!!?」
デジタル「あ、話が脱線しましたね」
テイオー「し過ぎだよ。二人も退屈し始めちゃってるから端折ってよ」
デジタル「分かりました!!!」
黒津木『なぁデジタル。俺の事同志たんって呼んでもらうことできるか?』
デジタル『できるわけないじゃないですか!(笑)』
テイオー「は?」
デジタル「ヒィィィ.........怒ってる顔も素敵.........♡それだけでデジたんはもう.........♡♡♡」ウットリ
テイオー「いいから早く!!!ほら早く!!!ハリー!!!ハーリー!!!」
仕方ありません。吹き出た鼻血は後で何とかしましょうか.........では会話の続きをしてきましょう!!!
黒津木「デジタル。いつも君の洞察力のお陰で、学園生徒の怪我率がみるみるうちに下がってるぞ!!」
デジタル「はぁぁぁぁ!!!何たるありがたいお言葉.........!!黒津木先生にそう言われると、デジたん.........涙が溢れ出そうでございまする!!!」
同志たんは前年度の事後処置頻度と、今年度の事後処置頻度を比較した紙を見せてくださいました。
デジたんは立派にファン活している一般ウマ娘なのですが、ある日推しが怪我で引退しそうになったのです.........黒津木先生がそれを助けたと知った時、デジたんは自分で出来る事。ウマ娘ちゃんを見守り、不調を報告する事にしたのです!!!
黒津木「そんなデジタルにお願いがある.........もちろんタダでとはいはない」スッ
デジタル「なナナナントォ!!?そ、そそれそれはぁ!!!??」
同志たんが胸ポケットから取り出したのは、なんと!!ウエハースチョコカードのシークレットレア!!!
ですがタダのシークレットレアではありません!!!実は今回の弾のそれは、ウマ娘ちゃんのキャラクターッ!!しかも、同志たんの推しであるアグネスタキオンさんにそっくりなのです!!!
デジタル「いいいいいんですかかかか!!?こここ、こんなもの貰ってしまって!!!??」
黒津木「ああ、余り物ですまないが、ちゃんと保存用、観賞用、布教用の三つを用意した」
デジタル「同志たん.........!!」
黒津木「っ!?呼んで.........くれるのか.........?」
デジタル「.........」コクリ
黒津木「俺を.........同志たんと.........!!」
その日、私達は保健室で泣きながら熱い握手を交わしました。あぁ.........!!なんと素晴らしきオタクの友情!!正に東方は赤く萌えておりますともッッ!!!
タキオン「私の目の前で私と似たような存在で取引されるのはなんとも言えない気分になるね」
黒津木「悪い。あ、所でどうだお昼ご飯、ちゃんと上手くできてるか?」
タキオン「ああ、何一つ文句も無いよ。トレーナーくんと違って、黒津木くんは融通が聞いてすごく助かる!なんなんだあの頑固さは!!お米の量くらい多くしても別にいいだろ!!!」バン!!!カラカラ...
デジタル「でゅふふふ.........タキオンさんの可愛らしい一面ががが.........!!」
ーーー
デジタル「という話です。どうでしたか?」
テイオー「え!?いやいや!!ボクはなんで偵察してるかの理由が聞きたいんだけど!!」
デジタル「え?だって端折って欲しいって.........」
テイオー「そこじゃない!!!」
全く!!どういう神経してるのさ!!!理由を端折るウマ娘なんて初めて見たよ!!!ゴールドシップくらいじゃないかな!!?
そう言って攻め寄ると、デジタルは恍惚とした表情で説明したんだ。
どうやら、さっきのウエハースチョコのカードの取引で、サブトレーナーとマックイーンのイチャイチャをカメラに収める任務を請け負ったらしいんだ。それならそうと早く言ってよね!!!
デジタル(もちろんテイオーさんの事もちゃんと見てますよ.........でゅふふ♡)
テイオー(なんだろう、寒気が.........)ゾワゾワ
二人「.........?」
ーーー
桜木「それにしても、今思えばあっという間の三年間だったなー」
マック「ええ、トレーナーさんと出会って、もう三年も経つなんて.........時の流れは本当に早いものですわ」
何かを振り返るように、彼女は空を見上げてそう言った。俺もその視線を追うように、一緒に青い空へとその目を向ける。
噴水の音が静かに後ろで流れて行く。あの日、天皇賞が終わったあの日から、思い出がなんだかよりいっそう綺麗になった気がする。息を飲む綺麗さだ。思い返したく無くなるほど、切なくなる。
桜木「.........三年前は、毎日どんちゃん騒ぎする生活になるとは、思ってもみなかったなぁ」
マック「私のセリフですわ。全て貴方が持ってくるではありませんか」
桜木「ハハハ!いやー。しっかし、そんなどんちゃん騒ぎしてたアイツらも、どんな風の吹き回しか真面目になっちゃって」
そう、ここ数週間でアイツらの勤務態度はすこぶる変わった。まぁ白銀の奴は去年の夏合宿が終わってから躍起になってトレーニングしているが、何かがアイツに火をつけたのだろう。
マック「そういえば、白銀さんも大会が近いとか.........」
桜木「そうだな、八月のイギリス大会。まあ優勝は無理っぽいかな」
マック「もう、冗談も程々にしてください。あんな運動神経の持ち主、世界ひろしと言えど彼しか居ませんわ」
彼女はそう、俺がおかしい事を言っているかのように言った。確かに、世界ひろしと言えど、アイツより強い奴なんて想像すら出来ない。
ゴリラと呼ぶには細いが、その筋肉の密度は限界に達している。ブルース・リーの再来とも言える筋肉を持ち、その一つの身体でいくつもの伝説を打ち上げてきた白銀翔也。テニス以外であれば、大成していただろう。
桜木(けど、居ちまったんだよな。同じ[白銀翔也]が.........)
現在、怪我を負い、長い治療に専念していたプロテニスプレイヤー。イギリス人のケインズ・マーカーが次のイギリス大会で復帰する。その身体能力は白銀翔也そのものと言っても、過言ではない.........違いがあるとすれば、一つだけ。
桜木(生まれてからずっとテニスやってるって、相当やばいでしょ)
そこまで考え、頭を振って先を散らす。俺だってアイツの勝ちを信じたい。それだけはさせて欲しい。
それにしてもアイツ、ゴールドシップの事はどうするのだろう?この前遊びに行ったとか言ってたけど、遊びに行きすぎてもうデートなのかわかんねぇんだよな。
マック「トレーナーさん?大丈夫ですの?」
桜木「え?ああ悪い。ゴールドシップと飯食いに行ったら飯屋の店主がゴールドシップだった話思い出したわ」
マック「は?」
何言ってるんだこいつ、みたいな顔をしながらマックイーンは疑問をぶつけた。俺だってぶつけたかったよ。でも白銀の奴は気にせず話を進めやがったんだ。SAN値バリバリ持ってかれてんだろナンバーワン。
マック「.........まぁ、ゴールドシップさんなら仕方ありませんわね」
桜木「.........だな」
彼女が隣に居る。それだけで景色の色が違って見える。もしかしたら本当に、彼女が夢に変わったのかもしれない。
.........そう、夢だ。だからこの気持ちに蓋をしよう。もう十分じゃないか。ここまで一緒に来れて、相棒としての立ち位置を確立したんだ。これ以上は欲張りだ。
マック「あっ、そういえば私もこの前、ゴールドシップさんに映画を見ないかと誘われましたわ」
桜木「......へー。何を見たんだ?」
マック「えーっと.........たしか、頭が九つに別れた、サメの映画で.........」
桜木(クソ映画じゃん)
マックイーンは思い出そうにも、内容がめちゃくちゃ過ぎてよく分からないのか、なんとも言えなさそうな顔で言葉を探している。サメ映画は当たり外れが多いからな。
そんな事を考えていると、不意に学園のチャイムが耳に届いてくる。お昼休みの終わりを告げる音だ。彼女との心が落ち着く時間も、今日はおしまいだ。
マック「.........では、私は行きますわ。トレーナーさん、放課後にまた」
桜木「ああ、それと.........アレも連れてってくれ」
「えっ!!???」
何の変哲もない茂みの方を指さしてそう告げると、ガサガサと音を立て、声を上げた。どうやら先程キタちゃんとダイヤちゃんを連れていったテイオーが居るらしい。
観念したのか、両手を上げながらトボトボと投降してきたテイオー。それに続くように、オーキャンに来た二人も目の前まで来た。
桜木「レンズの光がチカチカ当たってたぞ」
テイオー「うっ、それはデジ.........あっ!!!居なくなってる!!!??」
マック「テぇーーイぃーーオぉーー?」
テイオー「ぴえっ.........」
指を鳴らすポキポキと音を響かせながら、マックイーンはテイオーに近づく。多分ニッコリとした怖い笑みをしながらだ。彼女の背中からはどす黒いオーラのようなものまで見えてくる。
キタ「あわわわわ.........!!」
ダイヤ「マックイーンさん!お、落ち着いて.........!!」
桜木「さぁ二人とも、今度はおじさんが案内して上げよう。スピカトレーナーの特別ダンスレッスンにご案内!!」
二人「わぁ!!?」
流石にこんな場面を子供には見せることが出来ない。二人の手を引いて足早にその場を去ろうとした。
ドメスティックなバイオレンスを見るには少々刺激が強すぎるお年頃だろう。ここは俺が手を引いて退散せねば.........そう思ってそのままマックイーン達を背にし、前へ歩くと、不意に茂みから見覚えのある奴が飛び出してきた。
ゴルシ「あ」
桜木「やっべ」
二人「?」
出会っては行けない奴にあってしまったのだ。正に目と目が逢うと言うやつだ。好きだと気付くことはないと思う。
あ、ほら見ろ。ゴールドシップの顔!!!ドス黒い太陽みたいな!!!にっっっちゃ〜.........って顔し始めたぞ!!!
ゴルシ「なぁおっちゃん?」ニッッッチャ〜...
桜木「な、なんだよ.........俺はこれから二人をレッスンに「お!いたいた!!」.........」
沖野「探したぞー。せっかくレッスン室借りたのに来ないからな。ほら二人とも、次はダンスレッスンだぞー」
キタ「は、はい!!ありがとうございました!お兄さん!!」
ダイヤ「おじさま!!楽しかったです!!」
二人は沖野さんに手を引かれ、俺に振り返りながら手を振ってくれた。あれ?詰んでませんか?この状況.........?
俺は振り返ることはせず、背中に感じる嫌な予感を感じながら、離れていくあの子達に手を振り続けた。
桜木「ば、ばいばーい.........ッスー.........悪いけど急ぎの用事が出来たんで.........」
ゴルシ「ああ!!そうだよなおっちゃん!!!アタシとこれからウマ娘チャンバラウォーズの映画を作る用事が出来ちまったんだもんなぁ!!!」ガシッ!
桜木「なっ!!?は、離せ!!!そうだ、マック」
マック「さぁテイオー。ここで何をしていたかご説明願えますか?」
テイオー「せ、説明したら許してくれる.........?」
桜木「.........」
あっちはあっちでお取り込み中らしい。どうしたらこの状況を打開できるだろうか。いや無理だ。あの様子じゃ助けを求めれば俺にも飛び火する。いじめられるのは好きかもしれないが、自ら飛び込むほどドMじゃない。
ゴルシ「ほらほら!グラスの奴もスタンバイしてるしよ!!!」
桜木「はァッ!!???まさかあのチャンバラシーンを再現すんのかァ!!?やめろっ!!!使い回しでいいだろあんなのっ!!!」
ゴルシ「おいおい!そんなんじゃ子供には通用しないだろ!!!シネマ王にアタシはなるッッ!!!」
冗談じゃないッ!あんなのともう一度対峙しろってのか!!?無理だ!断らせてもらう!!
そう言おうと思ったのもつかの間、がっしりと両腕で俺の肩をホールドしていたゴールドシップは、流れで俺を担ぎ上げ始めた。
ゴルシ「オッシェェェェイ!!!行っくぞー!!!ビバ!!!カンヌ国際映画祭!!!」ダダダダダ!!!
桜木「くっっっそーーー!!!!!!ガチで狙ってんじゃねェェェェェッッッ!!!!!」
ゴルシ「思えばカンヌってダッセーからよ!!!この際ゴルシ国際映画祭にしようぜ!!!」
桜木「カンヌに謝れェェェェェッッ!!!!!」
悲痛な叫び声を上げながらも、俺は心のどこかで、こんな騒がしい日常に居心地の良さを感じていた。こんな日々が、ずっと続けば良いと.........
だが、現状を変えるのはいつだって、その場から飛び出し、冒険をする者だけだ。その場に留まっていたって、何かが変わる訳じゃない.........それに気がついた時にはもう、残り時間は限りなく残っていなかった。
......To be continued