山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マックイーン「トレーナーさんが倒れた!!?」

 

 

 

 

 それは、あのオープンキャンパスから数日が経った日の寝起きの出来事であった。

 

 

桜木(.........あれ、身体が起きん)

 

 

 目を覚ましたはずだが、身体はまるで眠っているかのように重かった。何とかベッドの上で動いてみようと試みるが、もがくことすら叶わなかった。

 原因は恐らく、最近の多忙なスケジュールのせいだろう。トレーニング以外の時間には取材や、その取材の時間を開ける為の調整のために動いている事が多く、心が少しも休まらない。

 しかも、記者と言っても色々な人が居る。正直全員が乙名史さんみたいな人だったら助かるのにな、適当言ってても理由付けしてくれるし。

 

 

桜木(弱ったなー。動けるようになったら休みの連絡入れるかー.........けどまだ働きたいなー)

 

 

桜木(マックイーンに会いたいし、タキオンの薬飲みたいし、ウララの成長を感じたいし、ライスの頑張り見たいし、ブルボンを坂路でイジメ抜きたい)

 

 

桜木(ブルボンを、坂路で、イジメ抜きたい.........!!)

 

 

桜木(よし!仕事行くか!!)

 

 

 ここは大人しく寝坊したと答えよう。怒られるのには慣れてるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

桐生院「あの.........大丈夫ですか?」

 

 

 朝礼から30分ほど遅れて学園に到着した。たづなさんから怒られることは無く、逆に心配されたし、理事長からも休んだ方が良いのでは?と言われた。優しくて泣きそう。

 隣席の桐生院さんに今朝の連絡事項を伝えられ、チームルームで作業しようと立ち上がると、彼女から心配の声がかけられた。

 

 

桜木「ええ、ちょっと昨日夜ふかししすぎたんです。だから「桜木さん」.........?」

 

 

桐生院「それ、私のバッグです」

 

 

桜木「.........ごめん」

 

 

桐生院「本当に大丈夫ですか?やっぱり休んだ方が.........」

 

 

桜木「いいえ!あの子達が頑張ってるんです!!俺はしっかり、その頑張りを見届けないと!!」グッ!

 

 

 自分の中で大きくなる使命感が支えとなり、体に芯が入った様に力が湧く。その様子を見て、桐生院さんは納得したのか諦めたのか、それ以上何かを言ってくることは無かった。

 俺は間違って持ってしまった彼女のバッグを返し、そのままチームルームへと向かったのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デジタル「デージたん♪デジたんたん♪」

 

 

 さぁさぁやって参りました!!!お昼休みの時間.........♪色々なウマ娘ちゃんがその可愛いお口を開けてご飯を食べたり.........♡ウマ娘ちゃん同士と遊んだり.........♡

 

 

デジタル「はぁぁぁぁ.........♡考えただけでも鼻からファン汁が溢れ出そう.........♡♡♡」

 

 

 そんな事を考えながら廊下を歩いていますと、ふと、同士たんに依頼されていた桜木トレーナーさんのチームルーム前に来ていました。

 ふむ.........問題児で有名な彼です。ウマ娘ちゃんと一緒にいる時は誠実な彼ですが、裏はどうなのかと言われれば話は変わってきます.........!!

 

 

デジタル「ウマ娘ちゃんの素敵な未来.........!!デジたんが必ずまもりゅ!!!」

 

 

 そうデジたんは決心しました!!決心をしてチームルームの窓からゆっくりと中を覗きます.........。

 流石にデジたん。顔見知りでない人の教室に勝手に入るほど非常識ではありません。まぁ資料収集の為にフィルムに収める事はありますけどね.........でゅふふ。

 

 

デジタル「それにしても静かですねぇ。チーム[スピカ:レグルス]といえば、お昼休みは騒がしいと常識になってるはずですが.........皆さん用事でもあるのでしょうね」

 

 

 なら尚更、デジたんにとっては好都合です。誰も居ないということは自分を取り繕う必要は無いと言うこと.........!!桜木トレーナーさんの正体見たり!!です!!

 

 

デジタル(.........ですが、人の気配がどこにも「ガララ...」......鍵は空いてますし.........?)

 

 

 デジたん。こう見えても立派なウマ娘です。人間より感覚が鋭いので、姿形は見えなくても、何かが居ることは分かります。

 開けた扉の先に足を進めると、確かに誰かが居る事をデジたんの本能が感じとります。ですが人の姿はどこにも「グニ.........」.........?

 

 

桜木「」

 

 

デジタル「...............ギョ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギョエエエエエエエエッッッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「と、トレーナーさんが意識不明.........!!?」

 

 

 その知らせを聞いたのは、今日の授業が全て終了し、これからトレーニングを始めようとした時でした。

 チームルームで待っていたのは、トレーナーさんではなく、彼の親友である保健室医の黒津木先生でした。

 

 

マック「そ、それで容態は!!?」

 

 

黒津木「さあな、気が動転したアグネスデジタルが病院にそのまま運んでっちまってな。第一発見者だから責任感じて付き添うって言って行ったが、このとおり音沙汰なしだ」

 

 

 彼の突き出したウマフォンに映し出されているのは、メッセージ通信用のアプリの画面です。そこには、トレーナーさんが倒れている、どうしよう?と言ったようなやり取りが買わされていますが、アグネスデジタルさんという方がとりあえず病院に連れていきますと書かれた後、黒津木先生のメッセージに既読はつけられていませんでした。

 

 

マック「.........行きましょう」

 

 

黒津木「え?別に行かなくても俺の見立てでは.........」

 

 

マック「行きますわ!!!!!出てきなさい!!!!!ブルボンさん!!!!!」パチンッ!!!

 

 

ブルボン「しゅごー。お呼びでしょうか?マス.........?マックイーンさん?」

 

 

 指を弾いて鳴らし、彼女の名前を叫ぶ。これをする事で、ミホノブルボンさんを確実に学園内で召喚できると、トレーナーさんは仰っておりました。

 彼曰く、こうすることでブルボンさんのユニークさを他のウマ娘達にアピールし、友達を作りやすくしようという策略らしいのです。

 最初はそれは必要なのかと思ってしまいましたが、こういう時に役に立つのです。感謝しなければなりませんわ。

 

 

マック「ブルボンさん!!今すぐチームメンバーを集めてくださいまし!!トレーナーさんの危機ですわ!!!」

 

 

ブルボン「!!?ま、マスターの危機.........!!!」ビュン!!!

 

 

 そう言ったブルボンさんは、目にも止まらぬ早さで駆け抜けていきました。その足は彼の言う[彗星]というより、[流れ星]という表現が正しい程に素早い行動でした。

 

 

マック「くっ!爺やに連絡して、今すぐ移動用車の準備をしなければ.........!!」

 

 

爺や「お呼びですかな?」

 

 

黒津木「うわっ!!?どっから現れたこの爺さん!!?」

 

 

マック「ちょうど良かったです!!爺や、今すぐ自家用車の準備を「マックイーンさん」.........?ブルボンさん!もう皆さんを」

 

 

ブルボン「増えました。どうしましょう?」

 

 

 そう言うブルボンさんは、開けた扉の前でたっていました。私はその言葉の意味を理解する事が出来ず、彼女の側まで寄って行ったのですが.........

 

 

タキオン「いやー。いつか倒れると思ってたんだよ。あんな休む暇もなく動いてたらね」

 

 

ウララ「うわぁぁぁぁん!!!トレーナーが倒れちゃったよぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

ライス「ライスのせいだぁ.........!!ライスが居るからお兄さまが倒れちゃった.........うぅ.........!!」

 

 

テイオー「サブトレーナーが倒れたってホント!!?」

 

 

スペ「早く!!早くお見舞いに行きましょう!!」

 

 

スズカ「心配だわ.........無事だといいのだけれど.........」グルグル

 

 

ゴルシ「大丈夫だ!!アタシの焼きそばを食べればおっちゃんは復活する!!!そんな気がするんだ!!!」

 

 

ダスカ「全員で行ったら、迷惑掛かるわよね.........」

 

 

ウオッカ「じゃあお前は留守番してろよ!」

 

 

ダスカ「はァ!!?アンタが留守番してなさいよ!!!」

 

 

沖野「おい、桜木が倒れたってのは本当なのか!!?」

 

 

タマ「おっちゃん倒れたんか!?い、いや。別に心配してないんやけど?い、いつも遊んでもらってる日頃のお礼っちゅうか.........」

 

 

オグリ「タマは桜木と仲が良いからな。心配なんだろう」

 

 

クリーク「ふふ、嬉しいわ.........なんだか子供の成長を見てるみたい」ウルン

 

 

古賀「カッカッカ!トレーナー業ってのは、倒れてから本番だからな!!」

 

 

桐生院「私が!!あの時無理にでも止めていれば.........!!」

 

 

ミーク「トレーナー。たらればは良くない.........です」

 

 

マック「」

 

 

 思わず言葉を失いました。廊下の先には、これまでトレーナーさんにアドバイスを貰ったり、仲良くしてきたであろうウマ娘の方々や、トレーナーの方々が集まってきていたのです.........

 

 

マック「.........爺や」

 

 

爺や「はっ、お嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バスにしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザワザワザワザワ.........

 

 

マック「.........」

 

 

 私を先頭に、病院の中を歩いて行きます。こういう場面を医療ドラマで見た事があります。正に病院で、私達が白衣を纏っていたのならドラマの回診のようになるのですが、残念ながら私達は部外者です。

 黒津木先生は事情を説明しに一旦列から離れ、病院の関係者に謝罪をしておりました。大変申し訳ないですが、仕方ありません。トレーナーさんの危機ですもの。

 

 

タマ「おっちゃん、三回の308号室に居るらしいで。はよ行くで」

 

 

マック「ありがとうございます。タマモクロスさん」

 

 

テイオー「大丈夫かなサブトレーナー.........もしかして、なんかおっきい病気だったりして.........!」

 

 

ウララ「え......?トレーナー死んじゃうの.........?そんなの.........やだぁぁぁぁぁ!!!」ウワーン!

 

 

タキオン「あーもう!!テイオーくん!!!せっかく泣き止んだんだから!!!滅多なことを言うんじゃない!!!」

 

 

テイオー「で、でもさー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パシン.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「ここは病院です。他の患者様もいらっしゃるのです。こんな大勢で来ている手前、騒がしくしては行けません。いいですね?」

 

 

 私が自らの手を叩き、テイオー達にそう言うと、彼女達は頷きながら口を抑えました。

 テイオーの気持ちも確かに分かります。ですがみんな不安なのです。その思いを口にしても解決するどころか、帰って増長を促してしまいます。

 

 

オグリ「この人数でエレベーターは使えないだろう。階段に行こう」

 

 

ライス「そ、そうだね。オグリキャップさん!」

 

 

オグリ「そんなに固くならなくていい。オグリと呼んでくれ。みんなそう呼んでくれてる」

 

 

ゴルシ「分かったぜ旬!!!」

 

 

オグリ「.........?なんだ、ゴールドシップの知り合いも来てるのか?」キョロキョロ

 

 

ブルボン「マックイーンさん。早く行きましょう。このままでは私のキャパシティが限界を迎えてしまいます」プシュー...

 

 

 ああ.........ブルボンさんが天然のオグリキャップさんと意味不明なゴールドシップに挟まれて大変可愛そうなことになっていますわ.........早いところ移動してしまいましょう.........

 

 

 ですが、階段を登っている最中。お恥ずかしい話ですが、私自身、テイオーのあの言葉に感化されてしまいました。

 もし、トレーナーさんの身体が大きな病に蝕まれていたら?病室に着いたら、呼吸器を付けられて寝ているトレーナーさんがいるかも知れません.........

 

 

マック(トレーナーさん.........)

 

 

 もし、もしですよ?これが手術を行なえば、あとは何も心配いらないような病気ではなく、もし.........が、ガンのような重い病気でしたら.........

 

 

マック(トレーナーさん.........!)

 

 

 もしこのまま意識が残らず、彼と何気なく交わした会話が、もし.........最後のものだったら.........!!!

 

 

マック(トレーナーさん!)

 

 

 そんなの.........!!そんなのっ!!たまったものではありません.........!!!!!

 私はそう心で激しく思いを、噴火させるように溢れださせながら、308号室の部屋の扉を勢いよく開け放ちました。

 

 

マック「トレーナーさんっ!!」

 

 

桜木「だから太ぇって!!!」バンバンバン!!!

 

 

デジタル「太くねぇですってッッッ!!!!!」カキカキカキカキ!!!

 

 

マック「.........」

 

 

 目の前に広がっている光景に、少々頭が追いつきませんでした。ここは病院のはずなのに、床の上には色々なイラストが書かれた紙が散乱しており、それを生み出しているのはアグネスデジタルさんだと分かります。現在進行形でそれを生み出しているので。

 そして、それを見てトレーナーさんが怒りの表情で机を叩いていますが、それに反論するデジタルさんもそれに負けないほど怒りに満ちた表情をしています。

 

 

桜木「良いかァッ!オタクの悪い癖は好きな所を誇張する所だッ!見ろこれぇッ!タキオンの足は細いの!!!もう折れそうなレベルで!!!ポキッと行きそうなレベルで細いの!!!」

 

 

デジタル「はぁぁぁ!!???本質を見れてないんですね桜木トレーナーさんは!!!デジたんはみえますよ!!?タキオンさんのあの足はバ力という力でこの太さを体現してるのです!!!!!」

 

 

桜木「アァ!!?さっきから聞いてりゃ何だバ力って!!!そんなの普及しねーぞ!!!ワンピースみたいになるのが落ちだぞ!!!」

 

 

デジタル「残念でしたー!!!もう全宇宙に普及した常識です〜!!!道力みたいにはならないんですよ!!!!!」

 

 

桜木「あ、ようマックイーン」

 

 

マック「.........」

 

 

 私に気付いたのか、彼はキョトンとした顔をし、片手を上げて挨拶をしました。そんな私の存在が気にならないのか、彼はまた、デジタルさんとの議論に入っていきましたわ.........!

 

 

マック「何が.........ようマックイーン、ですか.........!!!」

 

 

ウララ「トレーナー!大丈夫.........?」

 

 

桜木「だから太いっつってんだろッッ!!!」

 

 

デジタル「うがァァァァァァッッ!!!創作は人の自由ッッ!!!口出ししないでくださいィィィ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「いやー悪い悪い。わざわざ集まってもらっちゃってな」

 

 

 居心地のいいベッドの上で、俺は後頭部を掻きながら笑ってそう言った。実際、凄い人数の人が集まってきている。

 まあうちのチームのメンバーはだいぶ睨みを効かせて俺の方を見てきているが、それが俺のした事だ。仕方あるまい。

 

 

マック「.........では、検査の結果を言って頂きましょうか」

 

 

桜木「えー?せめてアイツら外に出してくんない?」

 

 

白銀「そんな要望通るとお思いで?」

 

 

 一番出口に近い所で固まっている親友達を指差す。アイツらは多分めちゃくちゃ俺の事をバカにしてくるから聞かれたくない。

 そう思っていると、不意にウララがゆっくりと俺に近付いてくる。

 

 

ウララ「トレーナー.........」ウルウル

 

 

ゴルシ「言っちまった方が.........楽になるぜ?」コトン

 

 

桜木「.........分かったよ」

 

 

 さすがに、ウララにそんな顔されてしまったらおふざけは出来ない。俺はテーブルに置かれたカツ丼をゴールドシップに返して、なんて言おうか迷っていた。

 だが、いくら迷っていても結論は言うしかあるまい。怒られたとしても、話していればいずれ悟られるのだ。結論から言おう。

 

 

桜木「.........医者からはな」

 

 

全員「.........」ゴクリ

 

 

親友「.........」ワクワク

 

 

桜木(マジでぶっ殺そうかなアイツら)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「過労だって言われた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言い切ると、部屋の中は静かな空間となった。皆、身体から布を擦る音すら響かせてはくれない。視線が俺へと集中するのは慣れてはいるが、心臓に悪いのは変わりなかった。

 暫くして、息をハーっと吐く音や、一息つくように溜息を吐き出す者。そして、心配して損したと言うようにそばに居る子に話し始める子もいる.........問題は.........

 

 

神威「か、過労.........w」

 

 

黒津木「サボリンピック12年連続金メダリストのあの桜木君が過労で倒れたって!!???」

 

 

白銀「バ‪wカ‪wす‪wぎ‪wワ‪wロ‪wタ‪‪w‪w‪w‪w‪w」

 

 

桜木「だァァァァクソッ!だァから言いたかなかったんだよ!!!」

 

 

 ゲラゲラとした笑い声が部屋の中で響き渡る。そう、コイツらは俺がどういう奴か隅々まで知っている。

 たぶん小中学校に留年制度があったら俺は毎年留年してたと思う。それぐらいサボり魔だったのだ。自分でも身体にここまで疲労を貯めたのは初めてだ。社会人時代もなんだかんだ言ってサボってたからな。

 

 

桜木「.........身体の疲労は指摘された。だが倒れた原因は他にある」

 

 

沖野「そうなのか?」

 

 

桜木「ええそうですよ?そこに居るゴールドシップくんに飲まされた薬のせいでね?」

 

 

ゴルシ「あ?」

 

 

 俺が返したカツ丼をかっ食らっていたゴールドシップが顔を上げる。顔面に米粒を散りばめながら、見てくる全員の顔を視線だけ動かして威圧した。

 

 

ゴルシ「あんだよ。アタシはおっちゃんのためを思ってタキオン印の睡眠薬を飲ませたんだぞ!!!」

 

 

タキオン「また私の研究室から勝手に持って行ったのか!!?」

 

 

桜木「飲ませたァ!!?混入の間違いだろ!!!俺はお前に出された変な味のコーヒーを飲んだだけだ!!!」

 

 

タキオン「コーヒー!!?君はあの泥水を飲むのか!!?」

 

 

桜木「うるせぇ!!!今に始まったことじゃねぇ座ってろ!!!黒津木ッ!お前無線会話集見せたな!!!??」

 

 

黒津木「勝手に見てくんだよ!!!お前もう飲み薬作るの禁止な!!!!!」

 

 

タキオン「そんな殺生な!!!元はと言えばゴールドシップくんが勝手に持ち出し!!服用したのが原因だろッッ!!!」ビシッ!

 

 

ゴルシ「ごめん!!!!!」

 

 

三人「あ、うん.........?」

 

 

 まさか謝るとは思っても見なかった。俺たち三人のこの行き場のない勢いに任せた感情は自分の中で衝突事故を起こして霧散した。不完全燃焼とも言う。

 さて、そんなやり取りを複数名の溜息と、こんなに俺が元気なのにも関わらずまだ心配そうに見ている数名。はっきり言っておかなければダメか.........

 

 

桜木「.........とにかく、今日の夜にはもう退院する。明日からはいつも通りの日常だ」

 

 

テイオー「ホント!!?僕のダービーも、ちゃんと見てくれるんだよね!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

ウララ「トレーナー!ウララもトレーニング頑張るよ!!」ピョンピョン!

 

 

 .........さて、どうしたものだろう。目の前で飛び跳ねるハルウララと、静かに俺を見るトウカイテイオー。思えばこの三年間で、多くの人に出会ったものだ。病室に入ってからは静かだが、その出会いを繋げてくれた古賀さんには感謝しないと行けない。

 それと同時に、俺には果たさないと行けない仕事がある

 

 

桜木「.........その事で、古賀さんと沖野さんに、ちょっと相談したい事があります」

 

 

古賀「お、桜木から相談とは、珍しいな」

 

 

桜木「相談とは言っても、確認だけですよ。ですが.........」チラリ

 

 

マック「.........」

 

 

 俺は静かに、マックイーン達の方を見た。これから先の、自分たちの進退に関わる事かもしれない。だから聞きたくなっても仕方が無いが、俺は正直、この話は誰にもしたくない。

 だが、それでは大人は出来ないのだ。しっかりと伝える事。それをすることで、やりたいことを始めてできる。

 そんなことを考えていると、不意に病室のドアが開く音が聞こえた。その方を見ると、アイツらが先に出て行く姿が確認できた。

 

 

桜木(本当、そういう所だけ察しが良いな)

 

 

 いつも助かる。なんて口が裂けても言えない。言ってしまえば茶化されるのがオチだ。

 そんなアイツらに釣られるように、他のウマ娘や桐生院さんがぞろぞろと病室を抜けていった。

 残っているのは.........

 

 

桜木「.........マックイーン。頼むよ」

 

 

マック「.........はぁ、隠し事は信頼関係にヒビを作りますわよ?」

 

 

桜木「多少のミステリアスは日常にスパイスが掛かるだろ?」

 

 

マック「私、辛いのが苦手なのをトレーナーさんはご存知でしょう?」

 

 

 そう言い切る彼女に、俺は手も足も出せない。どうしても口の勝負になると、口先だけは達者で、どうにも勝てる見込みが無くなってくる。昔からそうだった。

 しかし、マックイーンは溜息を吐いて、座っていた椅子から立ち上がった。

 

 

マック「.........トレーナーさん。万に一つもないと思いますが、今回の件でチームを離れたり、私達の担当を降りたり、トレーナーを辞めたりすることはしませんよね?」

 

 

桜木「しない。俺は、自分で掴んだ手を二度と離さないって決めたんだ」

 

 

マック「.........ふふ、それを聞いて、ようやく安心出来ましたわ」

 

 

 彼女は静かに微笑みながらそう言い残し、この病室を去って行った。残っているのは、道の果てが見えている老人と、まだその道の途中である男と、ようやくその道を見つけた俺だけであった。

 

 

桜木「.........長くなると思いますが、聞いてください」

 

 

沖野「ああ、いつになく真剣な話みたいだ。それくらいはする」

 

 

古賀「桜木。何があった?」

 

 

 真剣に鋭さを帯びた目が、俺を貫くように見てくる。この時ほど、俺は二人が頼もしいと思った事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

古賀「.........なんの冗談だ。桜木」

 

 

桜木「冗談?ここまで啖呵を切って、そんなので済ませられるほど俺は強かじゃないですよ」

 

 

 そう言う、桜木の目は強い意志が宿っていた。馬鹿げている。そう、コイツの言い分を蹴ることは容易かったが、俺のトレーナーとしての勘が桜木に感化していた。

 隣に居る沖野を見ると、頭を抱え、桜木の言った事を必死に受け入れようとしていた。

 

 

古賀「もし、それが本当に起こるとしよう。お前さんは何を確信している?」

 

 

桜木「確証はありません。けれど俺は.........宗也とタキオンが最大限まで繋いでくれた道程を、沖野さんの未来への思いを、無駄にしたくない.........ッ!」

 

 

沖野「.........分かった。お前のチームの事は、俺が見る」

 

 

 ようやく、会話に加わった沖野の目は、すっかり覚悟をし終わったようで、その瞳の中で炎が静かに揺れていた。

 だが桜木は、それに待ったをかけるようにその手のひらを沖野の奴に向けた。

 

 

桜木「沖野さんはテイオーを見ていて下さい。正直、そうなる可能性があるってだけで、時期が早まる事もあります。俺のチームの事は、適任がいますのでその人に任せます」

 

 

沖野「そうか.........悪い。本当なら俺自身が行かなきゃ行けないんだが.........」

 

 

桜木「何言ってるんすか、チームスピカのトレーナーは沖野さん以外居ないでしょう?こういうのは、雑用係の俺に任せときゃいいんですよ」

 

 

古賀「.........カカッ、変わらねぇな。桜木」

 

 

 俺がそう言うと、桜木の奴はキョトンとした表情で俺を見やがる。コロコロと表情が変わる面白い奴だが、中身はまるで変わっちゃいねぇ。

 始めてコイツに出会った時。俺はピンと来た。コイツはピースさえ揃えば、凄い奴になる。ここで逃せば、俺は歴史を変えちまう可能性がある。本気でそう思った。

 だが逆に、この男を逃すこと無く歴史を変える可能性もあった。あの日、レースを.........いや、ウマ娘をただ見ていたコイツの目に、歴史を変える可能性を、俺は見た。

 

 

古賀「.........面接試験。お前さんは何故トレーナーになるかと、やよいちゃんに聞かれて、咄嗟にこう言った」

 

 

古賀「[夢を、諦めさせたくないから]」

 

 

 どこにでも転がってるような言葉だ。言葉っつうのは恐ろしいもので、言葉にした瞬間に力が分散する。本心がそうかなんて、分からなくなるんだ。

 けれど、あの時のお前さんの目は、顔は、姿勢は、本物だった。あの日お前さんは確かに、本物のトレーナーだったんだ。

 

 

古賀「.........もう、俺からは何も言わねえよ。好きなようにやれ」

 

 

桜木「っ!ありがとうございます。古賀さん」

 

 

古賀「.........帰ったら、アイツらに謝れよ」

 

 

桜木「そうします。特に、マックイーン達とテイオーには.........」

 

 

 力なく笑う桜木を見て、俺と沖野は目を合わせて呆れたように肩を竦めた。すっかりチームのエースに尻に敷かれちまってる姿は、若い頃の俺を見ているようで思わず同情してしまった。

 だが、分かった事が一つだけある。それはどんなに嫌そうでも、桜木は逃げようとはして居ない。少なくとも彼女達の事は好いているようだった。

 

 

桜木「それじゃあ、また明日」

 

 

沖野「おう、明日会ったら、暫くは会えなくなるのか」

 

 

古賀「お?なんだ沖野ぉ?桜木がいなくなるからなって寂しいのかぁ?」

 

 

沖野「ええ、丁度いい雑用係が居なくなるんでね」

 

 

桜木「沖野さん。それ言い過ぎ」

 

 

 一拍間を置いて、三人の笑い声が病室に響く。桜木以外入院していなくて本当に助かったが、病院の人達には迷惑かけてしまった。後で謝らなければな。

 .........こうして、笑っている姿は見た目よりずっと若く見える。だがそれは、コイツがそう見せてるに過ぎねぇんだ。コイツは何かを抱えている。今だっていい顔してるが、それがいつ、バランスを崩して何かに呑まれる可能性は否定出来ない。

 

 

古賀(それでも、格好付けたいんだろう?男の子だもんな)

 

 

 病室を出ようとして、桜木の方を振り返る。そんな俺に気が付かず、奴はずっと窓の方を見ていた。

 桜木が見せるその背中は、どこか寂しげではあったものの、大きい男の背中をしていた.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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