山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
美依奈「いらっしゃ.........あら!マックイーンちゃん!!」
マック「お、お久しぶりです.........」
お店の中に入ると、カウンター席にはもう既に、私とタキオンさん以外の方が座っていました。全員が美依奈さんの言葉に反応し、私の方を見てきます。
タキオン「なんだ、マックイーンくんの行きつけの店だったのかい?」
マック「いえ、来たのは一回きりですわ.........」
東「だったらここのカレーは食ったことないだろ。常連しか頼まないからな」フフン
美依奈「マックイーンちゃんは食べてったよ。なんせウチの」
マック「あーーー!!!なんだかとってもお腹がすきましたわー!!!」
「???」
慌ててカウンター席に座ります。なかなかの力技で会話を遮断しましたが、タイマーの音が鳴り響き、美依奈さんは厨房の方へと回っていきました。
マック(なんとかなりましたわね.........?)
子供「.........」ジーッ
視線を感じて、カウンターの奥の下を見ると、小さい女の子が下から私を凝視していました。
なんでしょう。嫌な汗がじっとりと頬を伝っていく感覚がありますわ。
子供「.........テレビより綺麗!!」
マック「へ?」
ライス「わっ、ビックリした.........!!」
他の方からはこの子の姿は死角になっており、突然響いた声にたいへん驚いた様子を見せていました。
カウンター側から扉のロックを外して、店内へとその子が出てきます。
子供「しいちゃん!!よろしく!!」
マック「ええ、よろしくお願いします。メジロマックイーンと申しますわ」
しい「知ってる!!」
ウララ「私!ハルウララ!!よろしくね!!」
しい「ハルちゃん!!ここから知らない!!」
大きな声でそう言うと、しいちゃんはウララさんに抱きつきました。それをウララさんは満面の笑みで受け入れ、ぎゅっと抱き上げました。
デジタル「マ゛ッ゛(絶命)」
ライス「えっと、私、ライスシャワーって言うの.........よろしくね?」
しい「シャワーちゃん!!」
ブルボン「ミホノブルボンです。よろしくお願いします」
しい「ミホちゃん!!」
タキオン「アグネスタキオンだ。よろしく」
しい「アグネスちゃん」
タキオン「うん、とりあえずそれはやめてくれるかい?」
そう訂正するようにタキオンさんが促すと、しいちゃんは仕方が無いと言うように、わざとらしくため息を吐いてそれに応えました。
しい「この死んでる人は???」
タキオン「ああ、彼女はアグネスデジタルだ。よくこうなるから気にしなくてもいいよ」
しい「デジちゃん!!」
デジタル「はっ!可愛い声で蘇生されました.........!!!よろしくお願いします!!」
先程まで椅子の背もたれにぐったりと意識を失っていたデジタルさんですが、しいちゃんの声で復活したようです。ウララさんに抱き上げられたしいちゃんと握手をしてました。
しかし、彼女はまだ誰かを探すようにキョロキョロと周りを見渡し始めます。そして、今この場で私が危惧していた言葉を発しました。
「れおちゃんは???」
マック「あ」
「.........!!???」
先程の言葉に、一瞬理解が追いつかなかった皆さんですが、すぐにそれを理解します。私自身もう巻き込まれたくないので、ここでもう一度、自分が座ったカウンター席に静かに戻りました。
ウララ「トレーナーの事知ってるの!!?」
しい「テレビで見るよ!!」
タキオン「け、けど君のような子がトレーナーに興味を持つのは珍しいな.........」
東「.........待てよ、確か美依奈さん所の弟もトレセンでトレーナーしてるって.........まさかな」
マック(ドキっ)
その言葉に反応して心臓が跳ね上がります。他の皆さんは無い無いと言うように手を振って否定しました。世間はそんなに狭くない、と。
狭いのです。ええ、それはもう窮屈なほどこの上ないレベルです。
以前、ここで出会った白銀さんも知らんぷりをするように空を見上げていました。ですが、彼は目の前に出されたカレーを見て、それの礼をしようと顔を上げて絶句しました。
「あん?その通りだけど?」
白銀「」
マック「」
東「.........本当?」
しい「うん!!」
世間は狭い。狭すぎます。息も付けないほど狭いのではありませんか?ポカンと口を開けている私達に、次々とカレーをよそい、並べていくその方は、以前ここに来た時、白銀さんとご一緒に来ていたゴールドシップさんその人でした。
東「お、俺は恩人の弟に迷惑を掛けたのか.........?」
白銀「お前何してんの!!?」
ゴルシ「なんだよ、ゴルシちゃんだってバイトくらいするぞ!!」
マック「なんでよりにもよってここなんですの!!?」バンッ!
カウンターを叩きながら立ち上がると、特に驚いた様子も無く彼女は私の方を見ます。なんでしょう?彼は居ない筈なのに、彼のせいで頭が痛くなるほどトラブルが起こっている気がします。
そして、そんな頭痛にも似た気だるさに参らされてる私に、ゴールドシップさんは意気揚々と経緯を語り始めました。
ゴルシ「フッ、アタシがここで働いてんのはな、味噌ラーメンのスープのように深く、そしてギガトン級パフェよりも高い理由が有るんだ.........!」
マック(.........後でそのパフェについて詳しく聞きましょう)
ーーー
アタシの料理の基本は、大体じいちゃんのレシピに沿って作られてんだ。アタシの作る自慢の焼きそばだって、じいちゃんが長年の苦労に苦労を重ねて編み出した製法なんだ。
アタシは昔、そのレシピをじいちゃんに貰ってから肌身離さず持ってたんだ。けどだからと言ってその全てをマスターしてる訳じゃねぇ。一年前。ようやくじいちゃんの全ての料理をマスター出来ると思ってた所で.........!!
ゴルシ「な、無い.........!!!」
そう、カレーのページが無かったんだ。これじゃあ.........!!じちちゃんと(勝手に)誓った(自称)全宇宙お料理コンテストウマ娘部門ルーキーチャンピオン三連覇を成し遂げることが出来ねぇ!!!
けど、じいちゃんのカレーの味は覚えてる。じいちゃんの得意料理で母ちゃんも父ちゃんも好きだったし、何よりじいちゃんも一番好きな料理だったから、よく食べさせてもらってたんだ。
だから、アタシはこっちに来て食べてきたカレーの味の比較をハイパーAIコンピューター[GOLUSI]を使い算出した。その間僅か0.0000112秒。アタシじゃなきゃ見逃しちゃうね。
ゴルシ「っ!!見えた.........!!見えたぞ!!待ってろおっちゃんの姉ちゃん!!今アタシが行くゥ!!!」
ーーー
ゴルシ「というわけなんだなこれが」
東「何言ってんだコイツ」
マック「なるほど、そういうことでしたのね」
東(コイツら、理解出来るのか.........!?)
メジロマックイーンはホッと胸を撫で下ろすようにため息を吐いた。いや、この場にいる全員がそれを聞いてどうやら納得したらしい。全くもってふざけてやがる。まともなのは俺だけか?
とにかく、ここはひとまずカレーを食って落ち着こう。スプーンでルーをすくい上げ、白米の上にかける。良く煮込まれた豚肉と一緒に、ルーのかかった白米を口に入れた。
うん、いつもの味だ。ここのカレーは本当に美味い。毎日通いたいくらいだ。そう思っていた時、マックイーンが不思議そうな顔をしているのに気が付いた。
東「どうした?何かあったか?」
マック「いえ、以前来た時は鶏肉だったので.........」
ゴルシ「え!?アタシレシピ間違えたか!!?」
鶏肉?そんなの今まで入ってた事なんて.........そう思っていると、その声が聞こえたのか、美依奈さんが厨房から笑いながらでてきた。
美依奈「ああ、アイツ鶏肉好きだからね。来た時にだけ入れてんの。マックイーンちゃんにだけ教えるマジのトップシークレットだけど、あの子鶏肉あげときゃだいたい機嫌直るからね」
マック「た、確かに夏祭りの時も見た事ないほどニコニコして焼き鳥を食べていましたわ.........」
その時の事を思い出すように、マックイーンは優しく微笑みながら、豚肉のカレーを口に入れた。他の連中も、それを見てようやくカレーに手が伸びる。
最初にカレーに手を付けたのはミホノブルボンだが、その表情は変えずとも、耳が驚いたように上に張った。
ブルボン「.........やはり、店の外の匂いから感じましたが、マスターの料理と同じ味がします」
ライス「ほんとだ.........お兄さまのカレーの味がする.........!!」
ウララ「おいしー!!!」パクパク
東(.........どうやら本当に、弟みたいだな)
信じたくはなかった。だが、目の前に突きつけられた現実は、俺の意識を目の前のカレーから罪悪感へと向けさせる。酷い話もあるものだ。謝らなければ、俺はそう思い、美依奈さんに頭を下げた。
東「美依奈さん.........すいません!この前迷惑かけたトレーナーなんですが.........」
美依奈「あ、ウチの弟だったんでしょ?察してたから別にいいよ。どうせヘラヘラ笑って許したでしょ?」
東「へ!?」
あっけらかんとした様子でそう言ってのけた美依奈さん。俺は思わずポカンとしてしまった。
なんなんだ、アイツの周りにいる奴らは皆こんな感じなのか?そう感じながら思案を巡らせていると、ふと数人の視線が俺に集まってきていた。
ブルボン「申し訳ございません。マスターに迷惑を掛けた.........というのは?」
ライス「ら、ライスも聞きたいかな.........?」
ウララ「東さん!!聞かせて聞かせて!!」
東「.........聞いてても、気持ちのいい話じゃないぞ」
そう思いながら、俺は俺自身の口で、あの日の事件を思い返しながら言葉を繋いだ。
ーーー
新人のトレーナーで、訳の分からない奴が居るって話自体は耳にしていた。けど俺自身、直接面識があった訳じゃない。噂程度だ。
その中でも、新人のウチから頭角を表すと、いい噂なんて殆ど流れない。大体が派閥に所属している新人トレーナーの、根も葉もない噂話だ。
東(嫌なところだよな。この職場の唯一のダメなところだ)
ウマ娘の面倒が見られる。それだけで給料を返済してもいいくらいの儲けもんだ。けど実際多くの人間はそうでは無い。強いウマ娘を強く育てる。それはつまり、自分の出世に直結した考え方だ。俺自身、そう教育機関に叩き込まれた。
最初はもちろん信用してはいなかったさ。けど、ある出来事がヤツの印象を、俺の中で最悪にした。
「なぁ、知ってるかよ例の新人.........」
「ああ、比嘉さんの担当バを無理やり取ったんだって?」
「ああ、確か[ミホノブルボン].........とか」
東(.........マジかよ。じゃああの噂は、あながち間違いじゃ無いのかもしれないな.........)
もちろん、その噂を否定する者も、肯定する者も居ない。だから余計に、その噂には拍車が掛かった。どういう訳か、誰も、それを否定しないのだ。
そして、俺はある日チームトレーナーの解約を言い渡された。理由は、厳しいトレーニング方法と、メンタルケアの仕方が悪い、という物だった。
生徒の自主性を重んじる学園機関だ。俺もそれに則って行動をしている。事実申し訳ない事に、[強いウマ娘を強く育てる]トレーニング方法を、そうではないウマ娘に課していると感じている節は、俺自身にはあった。
だが、それでは先は細くなっていくだけだ。現に今のウマ娘のレース界隈では、名前を聞かない者達の活躍を耳にしない。いつも何処らかしこで、強さに名前を売り、デビュー前でも少し名前を調べれば出てくるレベルの者達しか居ない。
強さに固執してしまえば、この世界はダメになる。そう思って行動しても、上手くは行かないのだ。俺はこの時、それをようやく学習した。
そして、途方に暮れている中で美依奈さんに相談したのだ。すると、こんな答えが帰ってきた。
美依奈「そういえばさ、前にトレーナーで酷いのが居るって言ってたじゃない?ソイツの担当取っちゃえばいいのよ!」
東「えぇ!!?」
美依奈「男は度胸!!どうせ悪いやつなんでしょ?大丈夫大丈夫!!なんならウチの弟協力させるよ?」
そう、恐らくそんな噂が流されている程の人物なのだから、担当も酷い目に合っているのだろう。そしてそれを救い、いずれはチームを奪い、その新人を成敗して一件落着。勧善懲悪の出来上がり.........
ーーー
東「本当にすまなかった!!」
そう言って、本当に申し訳なさそうな顔で東トレーナーは頭を下げました。これでは、責めるものも責められませんわ.........
そう思い、彼に頭を上げてもらうようお願いしました。納得は出来ないようですが、今はご飯時です。穏やかにしましょう。
ですが、汗をダラダラと垂れ流しているデジタルさんは手を挙げています。タキオンさんは察しているのか、何度もさりげなく手を下ろさせていますが、何度も手が上がり、終いにはタキオンさんが折れました。
デジタル「.........あの、デジたん思ったんですけど、この事件の黒幕って.........」
美依奈「アタシだけど?」
全員「.........はぁ!!?」
思ってもみない敵兵に、ほぼ全員が声を荒らげました。因みにお三方も含まれています。タキオンは話の途中で察したのか、 片手で目を覆い、東さんは申し訳なさそうに顔を伏せました。
一方の美依奈さんは何か面白いものを見たかのように笑い声を上げています。有り得ません。全てはこの人の手の上だったのでしょうか?
そんなことを考えていると、笑いすぎて出てきた目尻の涙を拭う美依奈さんが口を開きました。
美依奈「いやねぇ?あの後まさかって思ってあの子に電話したわけよ。アンタ職場でどうなのーって。そしたら、[知らない]って帰ってきたのよ!!もう確信したわ、コイツだって」
美依奈「発破も掛けちゃった手前、アタシは止めれなくてねぇ。まぁアイツが本気出せばなんとかなるでしょって思ったわけ。何とかなったしょ?」
タキオン「そのせいで危うくトレーナーくんとマックイーンくんのラブコメが見られなくなるところだったんだぞ!!!」ガタッ!!!
マック「タキオンさん!!?」
ゴルシ「他人の恋路を邪魔する奴はァッ!ウマに蹴られて地獄に落ちろォォォォッッ!!!」
マック「ゴールドシップッ!!!!!」
お二人が大声を上げたせいで、店内が大きく賑わいを見せ始めました。というより、なぜ平然と私が隠していることをこんな所でぶちまけるのですか?神経を疑います。
そんな二人に憤りを感じていると、ふと東トレーナーから視線を感じました。そちらを嫌な予感をしながらチラリと見やると、この世の終わりかのような顔で私を見てきました。
東「ごめ、ほんとにごめん.........俺最低だよな.........そんな関係を引き裂こうとしてたのか.........俺、本当に悪役だ.........」
マック「あぁぁぁぁ!!!やめて下さいッッ!!!そんな事言われたらもう許す他無いじゃありませんか!!!!!」
両手で顔を覆い初めてしまった東トレーナー。もう既に地獄絵図と化してしまっています。ああもう.........!!そんな中でなぜ私は心地良さを感じてるんですの!!???
全部、全部全部全部!!!あれもこれも全てトレーナーさんのせいですわ.........!!!
マック「トレーナーさぁん.........」ジワ
段々と騒がしさが増していく店内。勝手に心を明かされた焦りと憤り、ようやく感じることのできたいつもの騒がしさへの安心感。東トレーナーに対する感情の急激な変化。その全てが一気に私の心を揺らしてきます。
こんな時、一番頼りたい貴方が居ない。その寂しさは確かに胸にあります。どんな大きな感情が起こっても、それだけは確かに存在するのです。どうしようもなくなってしまった私は、混乱して泣いてしまいました.........
ーーー
美依奈「落ち着いた?」
マック「はい......ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません.........」
少し赤くなった目元をハンカチで押さえ、迷惑を掛けた皆さんに謝罪します。なんだか最近、タキオンさんの言うように彼のこととなると、理性が働かなくなる傾向にあると感じます。
美依奈「それにしても、アイツも罪な男よねー。こーんな可愛い子達を置いて自分一人で有給取って、海外旅行なんて」
その一言で、この場にいる全員が顔を伏せます。実際、彼がこのタイミングでなぜ海外へ行ったのか、よく分からないからのです。
もしかしたら、なにか思い出の地とか、そういう縁のある土地でもあるのかと思い、美依奈さんに問いかけてみましたが、その首は横へと振られました。
美依奈「残念だけど、ウチは貧乏だから海外なんて行けなかったのよ。多分パスポートも成人してから作ったものだと思うし、前に行ってたらめっちゃ自慢すると思うのよね、アイツ」
黒津木「そもそも、アイツそんな外国語好きじゃないからなぁ」
マック「そう.........ですか......」
タキオン「.........これで、振り出しに戻ってしまったね」
ため息と共にそう呟いたアグネスタキオンさん。行けませんわ、こういう時こそ、いつも頼りになっていたトレーナーさん。居なくなって初めて、彼を頼っていたのだと実感します。
悲しいのは嫌いです。寂しいのも嫌い。今の私は.........貴方が傍に居なくて、悲しくて、寂しいです。
そんな悲しさを必死に耐える自分の顔を、食べ終えたカレーのお皿は写していました。そしてふと、鼻をすする声が店内に静かに響きます。
その方向を見ると、ウララさんが目に涙を溜めながらも、それを何とか我慢している姿が見えました。
ウララ「トレーナー.........ウララが早く走れないから.........居なくなっちゃったのかな.........?」グズ
マック「ウララさん.........」
ウララ「トレーナーに.........会いたいよぉぉぉぉぉ.........!!」ヒッグ
悲しみが限界に達してしまったのか、ウララさんは声を上げて泣き出してしまいます。普段、底抜けの明るさと言っても過言ではないほど、生き生きとしているウララさんが、声を上げて泣いています。その姿に、私も胸を締め付けられてしまいます。
そんな彼女の背中を、ライスさんとブルボンさんが優しい表情でさすっています。それでも、ウララさんの涙が止まることはありません。
マック「.........大丈夫です。ウララさん」
ウララ「グス.........マックイーンちゃん.........?」
マック「彼は、自分で決めた事はやり通す人です。ウララさんをチームに入れて面倒を見ると言った彼が、貴方を嫌いになるはずがありません」
ウララ「本当.........?」
顔を上げたウララさん。ポロポロとその目から大粒の涙が、重力に従って地面へと落ちていきます。
確かに不安です。心配です。悲しいし寂しい。ですが、彼は必ず帰ってくる。それだけはハッキリと、なぜか断言出来てしまいます。根拠の無い自信ですが、そう言えてしまうのです。
美依奈「マックイーンちゃんもようやく、アイツのことが分かってきたみたいね♪安心してウララちゃん。アイツは貴方達が手を離さない限り、絶対に手を離さない。それだけはアタシが保証してあげる」
ウララ「.........うん!!」
美依奈「なんかあったらうちに来なさい?いつでもとっちめてあげるから!!」
ウララさんの涙をハンカチで拭い、片腕の袖をまくって見せる美依奈さん。なんだかその姿から、力強さを感じます。
ようやく、元の明るさを取り戻したウララさんは、少し覚めてしまったカレーを口いっぱいに詰め込み始めました。
ライス「ウララちゃん!喉詰まらせちゃうよ!!」
ウララ「もいひー!!」
ブルボン「ウララさん。お水をどうぞ」
ごくごくと食べたカレーを流し込むように、ブルボンさんから受け取ったお水を飲み干しました。ご馳走様と言う彼女の声はようやく、元の明るさを取り戻したと言っても過言ではないようでした。
東「.........本当、迷惑かけました」
美依奈「良いの良いの!それよりいつも通り来てよね?お客さん一人減るとこっちも死活問題だからさ!」
東「お代、ここにちょうど置いときますね。さっ、送ってくから帰るぞ」
そう言って、彼はお金をテーブルの上に置いて行かれました。その金額は、あのお三方も合わせた分置いてかれてます。やはり、悪い人ではないようです。
マック(.........少しは信用しても、良さそうですわね)
そうやって、自然に頬が緩んでしまう自分に驚きを感じましたが、あの人の人を見る目が確かだと言う証拠なのです。ここは素直に笑っておきましょう。
しかし、そうして皆が席を立ち、美依奈さんにお礼を言っている中、一人だけカウンター席に座ったままの人物がいました。
マック「.........?タキオンさん?」
タキオン「ああ、私はちょっと、ゴールドシップくんに用がある。ここから学園までなら門限前には帰れるから、先に帰るといい」
マック「.........?分かりましたわ.........」
彼女は、私の方など一度も見ず、鼻歌を歌いながら手際よく厨房でお皿を洗って居るゴールドシップさんを、睨むように凝視し続けていました.........
ーーー
ゴールドシップ。以前から不思議に思っていた。彼女は並外れた身体能力を有している。だが、学園へ所属する前の情報が、これと言ってないのはおかしい。
いや、そんな事今に始まった事ではない。私が聞きたいのはそれではない。
タキオン「.........楽しそうだね。ゴールドシップくん」
ゴルシ「ああ!皆がアタシの料理食ってくれっからな!!楽しくない訳ないだろ!!」
屈託の無い笑顔を向ける彼女。その彼女に疑いを向けるのは、少々罪悪感を感じる。だが、それは『私達の知っているゴールドシップ』に対してだ。私達は、彼女について知らなすぎる。
最も、こんな罪悪感を感じるなんて、トレーナーくんや彼らに出会わなければ、恐らく無かっただろう。私は、彼女が淹れてくれた妙に上品な紅茶に少し、驚きを感じながらもそれに視線を送る。
タキオン「.........普段から紅茶も淹れるのかい?」
ゴルシ「.........いや、それはばあちゃんに教えて貰ったんだ」
タキオン「名前は?」
ゴルシ「は?」
タキオン「ウマ娘は身体能力を両親、又は祖父母から受け継いで強くなる性質がある。君ほどのウマ娘だ。さぞ名の通ったウマ娘なんだろう?」
ゴルシ「.........」
何も言えない。それを表すように、ゴールドシップくんはその顔を見せないように背を向けた。
彼女の正体を探るのは二の次だが、分かるのならここで分かった方がいい。私はそう思い、彼女を問いつめたのだが.........
ゴルシ「.........いや、淹れ方教えてくれたのは人の方のばあちゃんだ。悪いけど、ウチの家族で強いウマ娘はアタシだけだぜ」
タキオン「.........そうか、それはすまないことを聞いてしまったね」
随分と歯切れの悪い答えだ。恐らく彼女は嘘をついている。だが、ここで追求しても答えは出てこないだろう。結論を急いでも、良い事は無いだろう。
ゴルシ「いやー悪いなぁ、ゴルシちゃん突然変異ウマ娘だからよ!!サンプル取りたいなら事務所通してくれよな!!」
タキオン「ハハハ、その時がきたらそうさせてもらうよ」
もう一口、紅茶を口に含んだ。上品な香りが喉を通る際、鼻腔にも挨拶するようにノックする。こんな紅茶、そう飲めたものでは無い。
紅茶に気を向けていると、ゴールドシップくんが頬杖を付きながら、私の方を見ている事に気が付いた。
タキオン「なんだい?」
ゴルシ「そんな事聞きに来た訳じゃねーだろ」
彼女のその真剣な声にハッとし、顔を上げた。そこには、全てを見通してるような彼女の目が、私を射抜いていた。
これでは、どちらが攻めているのか分からないでは無いか。私は本来の目的を思い出し、その手に持った紅茶を、ソーサラーの上へと、特に理由もないが音を立てないよう注意して置いた。
タキオン「.........君は、トレーナーくんが倒れた日、私の薬を飲ませたと言ってたね」
ゴルシ「ああ、そうだけど?」
タキオン「可笑しいねぇ、私が保管してる薬品に増減はなかったのだよ」
ゴルシ「タキオンの勘違いじゃねーのか?」
そう言う彼女は、面倒くさそうな顔で私の方をじっと見てきた。
.........確かに、以前までの私であれば、薬一つ一つに対し、神経質に増減を気にする事は殆ど無かっただろう。あったとしても、どこか床に落としてしまい、紛失してしまった場合だ。誰もそんなもの口に入れまい。
だが彼が現れて状況が変わった。彼は端的に言ってしまえば狂っている。以前、頼んでも無いのに薬のレポートを提出してきたのだ。飲めと言われてないのに、効果も分からない薬を勝手に飲んだ事もあった。
タキオン「君は知らないようだが、私はトレーナーくんのせいで薬の在庫チェックを行わなければならなくてね。危険な薬を勝手に飲まれたり、効果が分からないものに手を付けられると困るんだよ」
ゴルシ「.........」
タキオン「.........単刀直入に聞こうか」
「ゴールドシップくん。君、トレーナーくんに一体何を飲ませたんだい?」
......To be continued