山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
ゴルシ「うーん.........」
現在、白銀の奴から連絡来た日から数日が経った午後の六時過ぎ。トレーニングは終わって、アタシは今寮の自室のベッドの上で、ウマフォンを前に起きながらあぐらをかいて唸ってる。
それと言うのも、あの白銀の奴がデートなんて言うせいで、何を着ていけばいいのか全く検討も付かねーからだ。
そもそも普段何着てってたっけ?記憶にねーな。流石のゴルシちゃんも裸で外は歩けねーしなー。
ゴルシ「あっ!こういう時こそマックちゃんの出番だろ!!!」
「.........お掛けになった電話番号への通話は、お繋ぎできません」
ゴルシ「そうだマックイーンの連絡先で色んなスイーツ店ツケにしてたからブロックされてんだった」
あーもう!!何してんだ過去のアタシッ!!その顔見せたら絶対ブッコロしてやる!!!
.........いや、そんな八時間後のドラえもんみてーなこと言ってる場合じゃねー!!悪かったよーマックイーン!さすがに減量中に有名スイーツ店からひっきりなしに電話掛かって来るなんてキツかったよな?なんせ電話で冒頭に「〇〇店の□□ですけども」なんて言われたら嫌でもスイーツ想像しちまうもんな?いやそうする嫌がらせだけどよ。
今から心を入れ替えました。もうそんな事はしません。代わりに有名スイーツ店の電話番号をマックイーンに教える嫌がらせをするので許してください。
ゴルシ「あぁぁぁ!!!しゃらくせェェェッッ!!!こうなったらどうとでもなりやがれってんだッッ!!!!!」
ーーー
ゴルシ「へ、変じゃねーよな.........?」
あれからしっかりとデート用の服に着替えて、待ち合わせ場所に向かっている。
しかし、行くところ行くところで見えてしまう自分の姿。別に今まで気にしたことなんてなかったのに、今更になって前髪が気になるなんて思いもしなかった。
そもそも、アタシはアイツに一体どんな感情を抱いてんだ?サンドバッグ?丁度よくビリビリに破けそうなTシャツ着てる奴?
いやいや、冷静に考えても見ろ。相手は世界トップレベルのテニスプレイヤーだぞ?そんな奴とよく普通につるんでるなアタシ.........
「何してんのオメェ」
ゴルシ「うるせぇ、今必死こいて前髪直してんだよ.........って!!?」
白銀「おっす。オラ悟空」
なんともないと言った表情で、白銀の奴は背中に長いケースを背負い、片手を上げてアタシに挨拶した。
つい、必死に前髪を直している所を見られてしまったせいで顔の熱が熱くなっていくのを感じる。アタシは白銀に対して一瞬で背を向けながら、自分の頬の熱を両手で感じとっていた。
ゴルシ(なんでここにいんだよぉぉぉ!!もぉぉぉ!!!!!)
ゴルシ「オマエ!!待ち合わせ場所はここじゃねーだろ!!!」ビシッ!
白銀「そうだけどよ。そこに向かってる最中にお前の姿が見えたんだよ。いちいちガラスの前で止まってたから、つい声掛けちまった」
はァっ!?じゃあ全部見られてたってことじゃねーのか!!?マズイ、このままじゃマックちゃんのことバカに出来ねー.........アタシもそんな事で身体を熱くさせちまう恋愛よわよわウマ娘だったなんて.........!!
良いかゴールドシップ。深呼吸だ。別になんてことねーだろ?いつもリフレッシュに付き合ってもらってんだ。そんときと同じ感じで.........
白銀「つうか結構似合ってるな、デートだっつっといて良かったぜ」
ゴルシ(オマエェェェェ!!!こっちは必死こいて平常心保とうとしてんのにそりゃねーだろォォォォッ!!!)
隣でまたもやなんともない様子でそういう白銀に、危なく本気で手をあげるところだった。誰か、この振り上げかけた手をコンクリートに突き刺して事なきを得たアタシを褒めてくれ。
そうだ。これはデートだ。誰がなんと言おうと誘ったアイツがそう肯定したんだ。アタシが喚こうが騒ごうが、それはどうにもならない。
落ち着けゴールドシップ。人は短い時を生きる。人生を充実する為に常になりたい自分を想像するんだ。じいちゃんにそう教えて貰っただろ。
ゴルシ「......お前はいつも通りなんだな」
白銀「はん?そりゃデートなんだからお洒落してくるだろ普通」
ゴルシ(待て、それ遠回しにいつものアレはデートだったって言ってねーか?)
これまたキョトンとした顔でアタシの方を見てくる白銀。一体この男にどれだけ振り回されればいいんだアタシは.........!
気がつけばいつの間にか前を歩いてるアイツ。親指で目的地の方向を指すようにアタシを急かすアイツの姿に、アタシは何だか、心臓が跳ね上がった。
ーーー
白銀「ようし、レジャーシートは敷けたぞー」
ゴルシ「なんでお前望遠鏡のセット出来ねーんだよ!こういうのは普通男の仕事だろ!!?」
アタシの後ろでレジャーシートの上でくつろぎ始める白銀。アタシは望遠鏡を載せるための3脚を固定し、その上に望遠鏡を乗せた。
普通こういうのって逆なんじゃねーのか?普通、スタイリッシュに男がそういう事をして、後ろで女がその姿を見て地味にトキメいちゃうシーンなんじゃないか?
白銀「素敵よーゴルシちゅわーん♡」
ゴルシ「きっしょ!?」
気持ち悪い裏声の猫なで声が後ろから聞こえてくる。流石のゴールドシップ様もチキン肌ブルブルだぜ。
腹を抱えてレジャーシートの上で転げ回るヤツを見ると、なんだか少し安心する。デートだなんだと言っておきながら、結局はいつもと変わりはなさそうだと思ったからだ。
そんなこんなで、望遠鏡のセットを終えてみせると、白銀は感心したような声を上げた。
白銀「ほえー、手際いいな。天体観測慣れてんのか?」
ゴルシ「ああ、ここに来る前は実家の近くでよく見てたんだ」
白銀「それもじいちゃん譲りか?」
ゴルシ「アタシだって何でもかんでもじいちゃんの真似してる訳じゃないぞ!!それに、じいちゃんは星とかよく分からない人種だったからな!」
望遠鏡を覗き込みながらそう言うと、白銀はそっかと言って、それ以上は何も話さなかった。
それにしても、こうして星を見るのは久しぶりだ。こっちに来てからは全然見れてなかった。単に望遠鏡が無いってこともあったけど、暇じゃなかったのもあった。
白銀「.........なんか、面白いもんでも映ったか?」
ゴルシ「おう、今ちょうどお月様が隕石にぶん殴られた跡が見えてるぜ!」
アタシの隣に移動してきた足音が聞こえてくる。それだけで、胸が少しだけドキドキしてくる。視線を少しだけずらして、隣に立つ男の顔を見上げると、いつもより間抜けな顔して月を見上げている。
そんな横顔が、月に照らされて良いものに思えてしまう。こんななんともない姿に絆されてしまっては、アタシもいよいよチョロいウマ娘の仲間入りだ。これ以上はさすがに持たない。アタシはもう一度、その望遠鏡で月を覗いた。
白銀「.........色々とサンキューな」
ゴルシ「え?」
思わず、アタシは視線を隣に戻した。月を見上げる白銀の顔は優しく微笑んでいて、月明かりも相まってカッコよく思えちまう。
その姿に釣られるように、アタシはまた、頬の熱さを思い出した。
白銀「お前が居なかったらきっと、玲皇はあんなに笑えてなかった」
ゴルシ「.........大切なんだな。おっちゃんのこと」
白銀「ああ。大切な奴らの一人だ」
そう言いながら、白銀は自分の掌を月にかざす。月の明るさを確かめるような手で、その光を撫で始める。
その姿に、アタシは何も言えなくなってしまう。普段の姿とは違う、見るだけで深さが分かってしまうその仕草に、見惚れてしまう。
白銀「この歳になるまで大切なものを沢山見つけてきたけど.........やっぱり親友は特別だな」
ゴルシ「へぇー.........意外だな。オマエにもそういう所あるんだな」
白銀「おいっ!!一言余計だぞ!!」
そう言って声を荒らげた白銀に対して、アタシはケラケラと笑った。どんな雰囲気になったとしても、コイツとの関係はそうそう変わりはしないだろう。その証拠に、アタシはこうして笑い飛ばせている。
そうしている中で、白銀の奴はそんなアタシに、いつもはしない微笑みを向けて、静かに話し始めた。
白銀「.........俺、アイツと会ったのは小5の時でさ。引越しした転校先で会ったんだ」
白銀「それが初めての環境変化でさ、友達できるか不安だったのに、アイツ、俺が後ろの席だったから滅茶苦茶話しかけてきやがった」
白銀「面白い奴でさ、たまーに何言ってんのか分かんねぇけど.........一緒にいるとそれが心地好くて、それに、分かんないなりに伝わるんだ」
ゴルシ「.........」
思い出に耽る白銀の姿は、アタシの記憶には存在しない姿で、少し違和感を感じた。過去は振り返らない奴だと思ったけど、それはどうやらアタシの偏見みたいだった。
高鳴る胸の音はもう静まって、アタシはただ、白銀の話を聞いていた。
白銀「.........アイツが事故にあって、夢を諦めた時。アイツの目から色が失ってる事に気付いた。なんて言うか、楽しくなさそうなんだ。いつも楽しそうなフリをしてる」
白銀「見た目じゃ分からない。声でも気付かない。ただ、そんな気がしただけだ。けれど、それは俺達皆が気付いてて、ちゃんと気のせいじゃなかった」
白銀「お前のお陰だよ。アイツが今、人生楽しんでんのは」
ゴルシ「.........!」
そう言って、白銀はアタシの方へと顔を向けた。その表情は、おっちゃんの笑顔みたいにニカッと歯を見せた笑いをしてたけど、その眉は困ったように寄せられていて、凄く悲しそうだった。
ゴルシ「なんで.........そんな悲しい顔すんだよ.........」
白銀「.........アイツが夢を諦めた時、お前らは夢を諦めるなって言われた」
白銀「俺は身体を使った仕事。宗也は才能を使った仕事。創は本と関わる仕事に就いた」
白銀「他の二人は知らないけど.........俺は玲皇から逃げたんだ」
白銀「あんな目をした玲皇を見たくない。だから次会った時、その目が酷く黒ずんでたら、俺はそれきりで、日本には居なかった」
アタシは、自分の口から言葉が出てこなかった。自分の知っている人が、自分の知らない姿で、その心情を吐露している場面で、アタシは言葉を失っていた。
声を掛けてやりたい。けれど、それじゃあコイツが今言葉を吐き出している意味が無くなっちまう。こういう時、人間ってのは最後まで聞いてやるのが一番慰めになるんだ。
白銀「.........逃げたんだよ。俺は」
ゴルシ「.........」
白銀「弱って、もがいて、それでもどうにもならないアイツを、見たくないってだけで見捨てようとしたんだ」
白銀「だから―――「違う」.........?」
思わず、声を上げてしまった。最後まで聞いてやるのが慰めになるとか言っておきながら、アタシもコイツの弱い姿を見ていられなかった。
ようやく、白銀の目がアタシの方へと向いた。不思議と今は、しっかりと顔を見れてる気がする。
ゴルシ「怖いから逃げる。それは別に悪いことじゃねーとアタシは思う」
ゴルシ「生き物が長く生き続けるには必要な事なんだ。少なくとも人類は臆病だからこそ今の今まで生きてきた」
ゴルシ「それに、昔の偉い人も言ってただろ?『三十六計逃げるに如かず』ってよ」
白銀「.........ははッ、本当。救われてばかりだ」
そう言い終わると、レジャーシートに仰向けになって寝っ転がった。その顔はさっきとは違って、ようやくスッキリしたような顔をしていた。
やっぱり、コイツがしょぼくれてるのは落ち着かない。そんな顔が似合わないってのもあるけど、なんだかそれ以外の理由もある気がする。よくわかんねーけどな!!
白銀「.........おっ!流れ星だぜっ!」
ゴルシ「マジか!!ドーナツの穴が三個増えますように!!」
白銀「なんだよそれwww」
頭の下に両手を枕替わりに、白銀は星空を見上げていた。アタシも一度、望遠鏡から目を離して空を見上げた。
今日は雲ひとつない綺麗な黒の上に、宝石のようにちりばめられた世界が、地上の遥か上に存在している。
そこにはスピカやレグルスと言った星々がちゃんと存在していて、そこにはちゃんと、アタシ達の知らない物語が何億年とも紡がれている。アタシの知らない物語が、そこら中に点在している。
ゴルシ「.........やっぱ、好きだな」
白銀「ん?」
ゴルシ「.........あっ!!星!!星のことな!!?」
慌てて、つい口から出てしまった事を補足する。いや、別にコイツの事は嫌いじゃねーけど.........この先どうなるかなんて分かんねーし.........
いや、うん。やめよう。これ以上考えたら、胸がもっと苦しくなる。
.........望遠鏡で星を見るより、アタシは雲ひとつない、星空を見上げるのが好きだ。そこらかしこに点在する星には、手が届かない。星の物語を紡ぐ星達は、その輝きによって、多分。その全てを語ってると思う。
その物語を知るには、その光を見るしかなくて、けれどそれじゃあ物足りなくて、手を伸ばしたくなる。それでもその手は光を撫でるだけで、ちっとも胸の締め付けを解消することは無い。アタシはそれも含めて、星は好きな筈だ。
けれど.........この、胸の苦しさだけは。どうにも好きにならないんだ。
ゴルシ「.........」
白銀「おっ、また流れてきたな。今日流星群だっけか?」
知らんぷりすんなよ。普段うるさいアタシが、こうして黙ってんだぞ?アタシが流れ星に黙って願い事言うキャラじゃないの、知ってんだろ?
コイツと居ると、そんなワガママが、つい口をついて出そうになる。そんな自分が、なんだからしくなくて、好きじゃない。
けれど、それでもアタシはゴールドシップのままだから、きっとそのワガママはいつか顔を覗かせる。今まで、アタシが見てきたアタシの中身が、外に出ていかなかった試しがなかったんだ。
白銀「.........なぁ、流れ星に願ったら叶う可能性って、どれくらいあるんだ?」
ゴルシ「知らねーよそんなの.........勝手に願えば良いだろ」
白銀「どうしたのゴルシちゃん!!急にママに冷たくして!!」
ゴルシ「うるせェー!!アタシはオマエから産まれた覚えはねェー!」
急に不機嫌になったように見えて、白銀の ヤツはきっとびっくりしてるだろう。アタシは地面に生えてる草を引っこ抜いて投げ付けた。一本もアイツには届きもしなかった。
反抗期は怖いわーなどと茶化していた白銀も、アタシの様子がおかしいのに気付いたのか、静かになってしまった。居心地が悪い筈なのに、その静けさがなぜか、今はありがたかった。
星が降る夜は、いつもワクワクして胸が踊る。あの星の破片達は、どんな物語を持っていたのか、アタシは気になる。
けれど、今日は胸が踊ると言うより、心臓がバクバクする。すっごく切なくて、苦しく感じるのは、全部この星達のせいだ。
白銀「.........そろそろやめるか」
ゴルシ「あ.........うん」
レジャーシートから立ち上がって、アタシの隣にある望遠鏡を手に取った。やったことないとか言いながらも、その望遠鏡をしまう手つきは戸惑いを感じさせなかった。
こんなに苦しいのに、切ないのに、終わりたくない。帰りたくない。そんな思いが急に湧き上がってくる。
今日ほど、アタシは自分の事をワガママだと思ったことは無い。苦しみたいのか苦しみたくないのか、自分でも分からなくなってくる。
白銀「おい」
ゴルシ「っ、な...なんだよ.........?」
白銀「そんなしょぼくれた顔すんなよ。天体観測はやめっけど、まだ帰んねぇぞ?」
ゴルシ「は.........?」
レジャーシートと望遠鏡をバックに詰め込んで、白銀はアタシの事を催促するように、また親指で目的地を指し示した。
なんだか今日は、アタシが振り回されてる気がする.........そんな面白くない展開とは裏腹に、アタシを引っ張るコイツの事を見ていたいと思ってしまった.........
ーーー
白銀「到着っと、疲れてねぇか?」
ゴルシ「あー、うん......大丈夫」
あの天体観測をしていた場所から少し歩いたとある神社。三女神を祀ってるとか言う珍しい神社で、一度白銀達もここに初詣に来ている。アタシらはそんとき、巫女のバイトをしてたから覚えてる。
正直、いつもより大丈夫じゃない。トレーニングを一通りした時だって、こんなに心臓がドキドキする事なんてねーのに、一体アタシの身体はどうしちまったんだ?
ゴルシ「.........つーか、何しに来たんだよ?なんかお願いしに来たのか?」
白銀「バカ言え、俺は初詣とイタズラする時以外神社には来ねぇ」
ゴルシ「アタシが言うのもなんだけどオマエヤベーな」
白銀「よく言われる」
一体アタシの目の前に寂しくそびえる神社に、どんな酷いことをしようと言うのだろう。そう警戒しながら白銀のことを見ていたけど、アイツが財布を取りだした瞬間を見て、奇行に走ることは無いと感じて止めた。
ゴルシ「イタズラじゃねーのかよ」
白銀「気が変わったんだよ。気分屋だからな、俺」
ゴルシ(自分で言うかっつーの)
心の中で突っ込んでみても、全然モヤモヤは晴れてくれない。五円玉をぶっきらぼうに投げ入れて、律儀に両手を叩くコイツを直視出来なくて、アタシは星空に目を逸らした。
胸の苦しさも、この晴れないモヤモヤも、全部星が連れてきてくれたものだったら、そのせいに出来たのに.........
ゴルシ「.........そもそも、なんでここに来たんだよ」
アタシは、ここに来た時から抱いた疑問をぶつけてみた。白銀はしっかりと神社に意識を向けていたから、返答はすぐには返って来なかった。
手を合わせて縮こまった背中、下を向いているのか、後頭部は見えない。そんな姿から、白銀はゆっくりと普段通りの張った背筋と、何かを見上げるように顔を上げながら、返事を返してきた。
白銀「.........ウマ娘の事なら、ウマ娘に頼るのが一番だろ」
ゴルシ「.........!!」
そう言って、白銀はアタシの方に振り向いてきた。今日見せてきた表情の中で.........いや、今まで見せてきた中で、一番真剣な表情で.........アタシの姿をその目に捉えている。
白銀「ゴールドシップ.........」
ゴルシ「ひゃ.........な、なんだよぅ.........?」
近づいてきた白銀は、アタシの肩に手を置いた。
いつもは意識しない体格の差。人間というのは、ウマ娘より見た目の筋肉が発達しやすい。それでもプロで大きな活躍見せてるコイツの姿が、ようやくアタシにも理解できた。
正直、そんな経験はほとんどねーけど、今まで触った男の手の中で、一番硬かった。
けれど、その手つきはとても優しく、アタシの両肩を包み込むように掴んだ。その気になれば振り解けるのに、アタシは全く、その気が起きないみたいだ。
ゴルシ(なんだよ.........これ.........)
映画のワンシーンみたいな展開だ。心をときめかせる女と、真剣な表情の男が向かい合って、満点の星空の下.........。
そんな現実逃避をしても、目の前にいるのは白銀で、ここに居るのはアタシ、ゴールドシップだ。コイツの目に映るアタシの姿が、それを実感させる。
苦しい。耐えられない。離れて欲しい。けれど、それが寂しくて、切なくて、そばに居て欲しい。そんなチグハグな思いが混ざりあって、泣きそうになってしまう。
白銀「俺、お前に伝えることがある」
その言葉を聞いて、今までで一番心臓が跳ね上がった。コイツと出会ってからじゃない。アタシがこの世に生まれてから、一番。
白銀「.........俺さ―――」
ゴルシ「.........」
行き場の無い感情が暴走するように、アタシの心が狭い部屋の中の壁をバウンドするように、アタシはこの身体の外に今すぐにでも飛び出したかった。
そんな想いが、胸を抑えていない手に現れる。何かに頼りたいようにそれを伸ばすが、アタシの揺れ動く視線と連動するように、その手を引っ込める。
コイツは何を言おうとしてるんだろう?
そんな事はもう分かる。
そして
アタシもきっと.........同じ気持ちだ。
ギュッと目を瞑った。
コイツの声をしっかり聴く為に、耳を立てた。
揺れ動く心を無視して、白銀のシャツに手を伸ばしたんだ.........
けれど.........
「―――8月の世界大会。出ようと思ってる」
その手は、シャツ握る前に、引っ込んでしまった。
ゴルシ「は.........?」
耳を疑った。苦しさも、モヤモヤも、全部消えてなくなって、けれど、涙が出そうなのは変わりなくて、悲しみが溢れ出した後、口から突いて出てきたのは、怒りの感情だった。
ゴルシ「なんで.........!?どうしてだよッッ!!!白銀ェッッ!!!」
ゴルシ「アタシ言ったよなァッ!?去年の夏合宿の時ッッ!!!」
「イギリスで開かれる世界大会には、絶対出るなってッッッ!!!!!」
静かな木々に囲まれた神社の境内に、響き渡るアタシの怒声。シャツ掴もうとしたても、胸の高鳴りを抑え込んでいた手も、今はコイツの胸ぐらを両手で掴みあげている。
ゴルシ「なぁ!!足りなかったか!!?オマエが次に出る大会の全員の戦績言うくらいじゃッッ!!!アタシの事を信用出来なかったのかよ!!!」
去年の夏合宿。コイツを連れて、森の奥で蛇花火をしたあの日。アタシはコイツに忠告した。来年開かれるであろう、イギリス大会には絶対にでるな、と.........
出てしまえば、白銀はもう、皆の知ってる白銀にはならないからだ。そうならないように、アタシは[頼まれた]んだ
白銀「っ、したさ.........流石に、ネットにはじかれたボールがどっち側に落ちるのか分かるやつなんて、この世に居ねぇからよ.........!!」
ゴルシ「だったら―――「けどよ」―――?」
そう言って、白銀はアタシに掴まれて苦しいはずなのに、ニヤッと笑って見せた。その姿が、あの日から姿を消したおっちゃんと重なって見える。
そして.........また、心臓が少しだけ跳ね上がった気がした。
白銀「それこそ、[逃げ]なんじゃねぇか.........?」
ゴルシ「っ!逃げることのどこが悪いんだよッ!さっきアタシが言っただろッッ!!!逃げることは別に悪いことなんかじゃねぇってッ!!!」
この男は、一体何を言ってるんだ?アタシは一体、何を期待していたんだ?そんな自問自答で生まれる苦痛が、何よりも辛くて、ついそれをぶつけるように、目の前のコイツを更に地面から離れるように掴み上げてしまう。
それでもそのニヤケ面は消えてはくれなくて、その顔が何よりも辛くて、アタシはそれからまた、目を逸らした。
白銀「.........なぁ、ケインズ・マーカーに挑んだ俺が、[負けて]、俺は人が変わっちまうから挑まない。確かにいい方法だ。けどよ」
白銀「勝負から[逃げ]ても、俺は多分、俺じゃ居られねぇよ」ニヘラ
ゴルシ「っ.........!?」
力無く、柔らかく笑う笑顔。そんな笑顔に、アタシはただ、力が抜けてしまった。
もう、コイツの胸ぐらを掴みあげることも出来ない。ゆっくりと白銀を地上に下ろしていくアタシの手に、視線を送った。
白銀「.........[負けない]。そして、[逃げない]。要するによ。[勝つだけ]だ。簡単だろ?」
生意気な笑顔で、そう言った。
ゴルシ「.........それが出来ないから忠告したんだろ.........」
人を小馬鹿にするような態度で.........
白銀「俺、原因分かってるぜ、それ」
それでも、その笑った顔はどこか優しくて.........
ゴルシ「.........なんだよ」
アタシは―――
白銀「.........多分、そこにお前が居なかったから」
大っ嫌いだ.........
ゴルシ「っっっ.........!!勝手にしろよッッ!!!もうッ!!!」
白銀「あっ.........またなぁぁ!!!ゴルシッッ!!!8月の世界大会ッ!一緒に行こうぜェーーッッ!!!」
ゴルシ「うるせーッッ!!!野球誘うノリでそんなとこに誘うんじゃねーッッ!!!」
大っ嫌いだ。大っ嫌いだ。大っ嫌いだ。頭の中でアタシはその文字を反復させる。身体が熱いのは全力で走ってるから。胸が苦しいのも全力で走ってるから。
目から涙が溢れてんのも............多分、全力で走ってるから。
心臓のドキドキも、モヤモヤも全部無くなったのに、胸が締め付けられる様な苦しさも、怒りを吐き出す前に溢れ出た悲しみも、アタシの身体の底から止まらなくなる。
ゴルシ「バカ.........!!もう知らねー.........!!!」
そんな言葉を使っても、結局考えるのはアイツの事ばかりで、苦しさも涙も、溢れ出るばかりだった。
結局、その日は気付いたら寮のベッドで布団にくるまって寝てた。フジキセキに怒られた記憶もなかったから、多分門限前には帰ってたと思う。
次の日、アタシはいつも通りに振舞って生活してたけど、周りの視線は、そんなアタシをどこか心配したものだった.........
......To be continued