山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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トレーナー「ナリタブライアンって名前は海外でも通用するよな」

 

 

 

 

桜木「.........全員、揃ったな」

 

 

全員「.........」

 

 

 とある病院の個室。テイオー以外の患者は居ないこの部屋で、頬がジンジンと紅葉型の痛みを発している中、チームメンバーと沖野さん。そして東先輩が俺に対して視線を注いでいた。

 皆、俺がぶっ叩かれてから一時間もせずに集まりやがった。その理由は、テイオーが病室の俺とマックイーンの写真をグループに貼ったからだろう。

 

 

沖野「.........手酷くやられたな、それ」

 

 

桜木「ほぼ死にかけました」

 

 

全員「.........」ジー...

 

 

マック「なっ、私は何も悪くありません!!!」

 

 

 恥ずかしそうに顔をぷいっと背けるマックイーン。久しぶりにそんな仕草が見れたせいか、とても嬉しく感じてしまう。

 

 

ウオッカ「あっ、そういえばよ。サブトレーナーのダチは呼ばなくてよかったのか?」

 

 

東「あー。今ちょうど来客中らしくてな、手が離せないらしいんだ」

 

 

桜木「そこら辺もおいおい話すよ.........今は」

 

 

 疎らに散り始めた視線をもう一度集め直す。人の視線を誘導する。その技術がまだ俺の中に残っているのに驚くが、使えるものは使っておくべきだ。

 腕を組み、足を組んで座った俺に、周囲の空気は一瞬にして変容した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「あれは確か36万.........いや、一週間と二日前だったか.........まぁいい」

 

 

桜木「俺にとってはつい昨日のような出来事だが、お前らにとっては多分、これからの出来事だ」

 

 

ゴルシ「なんでエルシャダイなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九日前 ナリタ空港

 

 

デジタル「.........」ジュー...

 

 

 入口近くのフードコートの一角でジュースを飲みながら座って待つデジたん。

 私デジたんは急に同志たんに連れられて、ここまでやってきました。

 

 

デジタル「.........あの」

 

 

三人「あ?」

 

 

デジタル「ヒェッ...」

 

 

 こ、怖いっっ!!!?いつもは面白くて怖さの欠片も感じないのにこの圧.........ッ!つ、潰される?デジたん今日ここで心の臓潰されちゃうんですか!!?

 フードコートの片隅でカタカタ震えるデジたんを尻目に、御三方はそれぞれイライラしながらスマートフォンをいじったり、分厚い本を読んだり、.........えっと、なんかカードをビリビリ破いたりしてました。

 

 

黒津木「お前何してんの?」

 

 

白銀「アイツの二軍デッキ破いてる」ビリビリ!

 

 

神威「一軍デッキはどうしたんだよ」

 

 

白銀「俺達森の中でクマに投げつけただろ」

 

 

二人「あっ」ゾワゾワ

 

 

 え、話に着いて行けません。よくデジたんが話し相手を振り切る事はありますが、ここまで突き放される事ありますか?ドンッて感じですよ?もう突き飛ばされてます。

 クマ?森の中?カードを投げつけた?なんで生きてるんです?どういう事なんですかそれェ!!?て言うよりなんでデジたんここに居るんですか!!?授業は!!?え!!?

 

 

デジタル「な、なぜデジたんはここに?」

 

 

黒津木「あー。ほら、もっと間近でウマ娘ちゃん達を見守りたい〜って言ってたろ?コネを使ってレグルスでマネージャー契約結ばせてやろうと思ってな」

 

 

デジタル「同志たん.........!!」

 

 

神威「やっぱ最近のラーメントレンド知るには若者連れてきた方がいいと思ってな」

 

 

デジタル「ラーメン!!デジたんラーメンにはちょっと煩いですよ!!!」

 

 

白銀「ポッチャマ狩り」

 

 

デジタル「え!?ポッチャマが居るんですか!!?」

 

 

白銀「いる訳ねぇだろハゲ」

 

 

デジタル「この人ぶん殴って良いですか!!!??」

 

 

白銀「俺イケメンなんだけどぶん殴られんの???」

 

 

 無意識に立ち上がって手を振り上げましたが、何故か同志たんと司書さんに抑え込まれてしまいました。え?さっき頷いてませんでした?て言うかデジたんだってれっきとした女の子なのにハゲってなんですか!!!ハゲって!!!

 そう思っていると、お二人の視線がフードコートの外に向けられているのに気が付き、デジたんもその視線を追いました。

 

 

デジタル「.........あっ!!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

 気が付けば、フードコートから少し離れた場所で、腕時計をチラチラと見ている桜木トレーナーさんが居ました!!よく気付きましたね!!

 

 

黒津木「良かったな。ポッチャマ居たぞ」

 

 

白銀「そろそろ狩るか.........♠」

 

 

神威「そういや再開された?」

 

 

二人「まだ」

 

 

神威「じゃあまだ死ねないな」

 

 

デジタル(テンポが早すぎませんか?)

 

 

 またしても突き放されてしまいました。こんな事があるんですね.........デジたんももう少し他の子に分かりやすく話したいと思いました。まる。

 そして、何度か同志たん達が結構大きな声で桜木さんに呼びかけますが、反応を見せません。よく見ると、ワイヤレスイヤホンを耳に指しています。

 

 

白銀「試しに呼んでみろ変態女」

 

 

デジタル「それデジたんのことです?」

 

 

白銀「そうだよ」

 

 

デジタル「これからあなたの事をミスタークレイジーと呼ばせて頂きますね。憎しみと憎悪を込めて」

 

 

白銀「まぁ呼ぶだけならタダだしいいぞ」

 

 

 寛容!!これがプロスポーツ選手の器!!?じゃないですよこの人本当に酷い人です!!!割と最初から見損なってましたけど見損ないました!!!

 .........まぁ、渋々とトレーナーさんの名を呼んでは見ましたが、結局反応はしません。デジたん声は大きくありませんので。

 期待外れと言ったようにため息を吐くミスタークレイジー。本当に人をムカつかせるのが上手な人です。今度は自分が声をあげようと息を吸います。最初から自分で呼べば済む話だったのに.........

 

 

白銀「おいッ!玲皇ッ!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

 ミスタークレイジーが桜木トレーナーさんの名前を呼びますが、反応はありません。そのままコロコロとキャスターを転がして歩いて行っています。

 このままではまずいです!!デジたんマネージャーになれません!!え!?今までのお話は!!?桜木さんが居なくなってから作られた六話分のデジたんは!!!??タイムパラドックスですよ!!!未来を変えては行けないんですよ!!!??

 

 

デジタル「聞こえてないんじゃないですか!?」

 

 

黒津木「いいや、アイツは性格悪いし耳は良いから絶っっっ対聞こえてるね!!!」

 

 

神威「くっ!白銀ジョンさえ居れば!!」

 

 

デジタル「誰です!!?」

 

 

 その人が居ればこの状況が打開できるのでしょうか?デジたんは考えます。でもでも、白銀と言っている時点でミスタークレイジーの関係者である事は確定です。信用できません。

 そうやってどうするか、デジたん達が唸っていると、白銀さんは何か思いついたように 拳を作って手のひらをポンっと叩きました。

 

 

白銀「あっ、居たわ、ジョン」

 

 

二人「マジ!!?」

 

 

デジタル「ど、どこです「ガシッ!」.........か......... ?」

 

 

 目の前に迫ってきたミスタークレイジー。いえ、白銀さん。デジたんの頭を鷲掴みにして怖いくらい満面の笑みを向けて来ています。

 

 

白銀「変態女。お前ジョンになれ」

 

 

デジタル「ヘェァ!!?まずジョンさんを知らないのに!!?なんなんですか白銀ジョンって!!???」

 

 

三人「花火の事だよッッ!!!」

 

 

デジタル「終わったァァァァッ!デジたんの人生ここで詰んだァァァァッッ!!!こんなことならトレセン学園入学分岐前でセーブデータ作っとけばよかったァァァァァ!!!!!」

 

 

 デジたんの身体がまるで物のように持ち上げられ、このままでは白銀さんに片手で投げられてしまいます。流石プロスポーツ選手。侮れない肉体!!!

 

 

白銀「死ねェェェェ玲皇ォォォォォッ!ジョン・バズーカァァァァァッッッ!!!!!」ググッ ズバァン!

 

 

桜木「だァァァァァッッ!!!うるせェェェェェッッ!!!ここどこだと思ってんだ公共機関だぞテメェ「アァァァァァァッッ!!!デジたん走ってないのに凄く早い速度出てりゅゥゥゥゥッッ!!!」はァ!!!??」

 

 

 頭からきりもみ回転して桜木トレーナーさんに突っ込んでいくデジたんの体。空気を裂く音がビュンビュン聞こえるんですが、まさか自分がそんな音を出す時が来るなんて思っても見ませんでした。

 そしてやっぱり聞こえていたのかも、桜木トレーナーさん。すごい剣幕で騒いでる音に振り向いて怒鳴りましたが、多分デジたんを見て驚いてます。

 

 

デジタル「止めて止めて止めて下さいィィィィィィッッッ!!!!!」

 

 

桜木(熱血パンチはさすがにダメだよな)

 

 

デジタル(熱血パンチが何かしりませんがやめてください死んでしまいます)

 

 

桜木「ぐぅぅおおおおおぉぉぉぉぉッッッ!!!!!ブゥァアアアアアニングゥゥゥゥッ!キャァァアアアァッチィィィィッッッ!!!!!」ダキィッ!

 

 

 きりもみ回転がかかったデジたんをなんとその両手で受け止めてくださった桜木トレーナーさん.........!!素敵です!!カッコイイ!勢いは殺しきれずに軸足先が回転し続けてコンパスみたいになってますが、いずれ止まるでしょう。

 

 

黒津木「すげぇ!日本でクソザコブロッコリーとクソしか使えねぇバーニングキャッチをここで見られるなんて!!」

 

 

神威「待て!!!玲皇はバーニングキャッチの発動派生が有るんだぞ!!!」

 

 

白銀「ナンダッテェ!!!?」

 

 

デジタル「助かりましたぁ〜桜木トレーナーさぁ〜ん.........「何勘違いしているんだ?」ひょ?」

 

 

桜木「アンドォォォォォォォォッッッ!!!!!」ギュルギュルギュルギュル!!

 

 

 先程からトレーナーさんの回転が弱まってません。それどころかさっきよりもすごい音と回転が掛かっています。これもしかしてもしかしたりします?

 そんな裏切られたい期待を胸に桜木トレーナーさんの表情をチラリと見ると、まるでイタズラがこれから成功するような子供の笑みを浮かべ、デジたんと目を合わせてきやがりました。

 

 

桜木「リリィィイイイイイスゥゥウウウッッッ!!!!!」

 

 

デジタル「ひょわひょわひょひょわぁぁああぁぁあぁぁあああああ!!!!!?????」

 

 

 コイツッ!?ぶん投げやがりましたよ!!!!??見た目はいたいけな女の子であるデジたんを投げ飛ばしやがりました!!!この世に居るはずがないと思っていた人間を今日二人も見つけてしまいました!!ダブルショックっ!!

 いや!!!ここは冷静に助けを求めるべきです!!!さっき投げ飛ばされた時より回転具合も速度も早いですけど助けを求めるしか.........

 

 

神威「俺は悪くねェッ!」スクッ

 

 

デジタル「まだ何も求めてないんですけど!!!!???」

 

 

白銀「汚ェぞ鉄雄ォッ!素手で勝負しやがれェッッ!!!」ヒョイ

 

 

デジタル「金田さァァァァァァんッッッ!!!!!」

 

 

 酷いッ!司書さんは自己肯定しながらしゃがみこんで!!!ミスタークレイジーは身体を横に逸らしてなんか急にAKIRAみたいな事を言い始めました!!!もう頼りになるの同志たんしか居ません.........ッ!

 

 

デジタル「同志たぁぁぁぁぁんッッ!!!」

 

 

黒津木「フッ......アグネスデジタル」ニコッ

 

 

デジタル「同志たん.........!!!」

 

 

 ああ.........!!あんな優しい微笑みをデジたんに向けてくれるなんて.........!!素晴らしい同志たん!やはり頼るべきは貴方しか居ません!!!さぁ!!!その片手で.........

 

 

 ん?片手?

 

 

黒津木「アグネスデジタルを右に」

 

 

デジタル「ゲェェェメストォォォォォッッ!!!」ドンガラガッシャーンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「はい。これハンコね」

 

 

デジタル「ありがとうございます.........」

 

 

白銀「うんめぇぇぇ!!!」ズルズルズルズル

 

 

 あんな騒ぎを起こしましたが、今は司書さんが行きたがっていたラーメン店に来ています。

 どう何とかしたのかと言うと、黒津木先生は周りにミスタークレイジーが仕掛けたドッキリだと言ったら、集まった警官も納得して散り散りになっていきました。変な所で人望ありません?

 

 

デジタル「用事は済みましたよね?黒津木先生」

 

 

黒津木「ごめんて」

 

 

 もう同志たんじゃあありません。あの状況でアグネスデジタルを右にするなんて裏切り行為に等しいです。応急処置してくれた事だけは感謝します。

 

 

桜木「ったく、俺も忙しいんだぜ?」ズルズル

 

 

デジタル「そのくせラーメンは食べるんですね」

 

 

桜木「道民のソウルフードよ。目の前で食われたら食べるしかねぇ」

 

 

神威「どういうことだってばよ?」

 

 

桜木「殺すぞ」

 

 

神威「分かるってばよ.........」カタカタカタカタ

 

 

「へいっ!味噌ラーメンお待ち!」

 

 

 脅しに屈しましたね。ですがこのラーメンの匂い.........抗いがたいのも事実です!デジたんもいただきましょう!!

 

 

デジタル「いただきます!」チュルチュル!

 

 

 ふぉおお.........!凄い!濃厚な豚骨ベースのスープがよく絡んだ中太ちぢれ麺っ!中々口の中が楽しい事になっています!!スープが具材にも染み込んででこれも素晴らしい!!チャーシューがホロホロしてます!

 そんなこんなで隣で一心不乱に食べてる司書さんを見ると、何だか負けたくなくなってきました!デジたんもファインモーションさんがオススメしている食べ方で応戦しましょう!!

 

 

白銀「.........本当に行くのか?」

 

 

桜木「この格好見て、言う言葉はそれか?」

 

 

 .........隣でラーメンに夢中になっているデジタルと神威を確認し、白銀は箸を置いて俺にそう問いかけた。

 本当、気が狂ってるのにこういう所がまともなせいで酷く頭が混乱する。いつまでも思考停止にはさせてくれないらしい。

 俺は今の自分の格好を見せた。キャリーバッグは既に荷物でパンパンで、どうにかこうにか閉じることが出来た。こんだけ苦労してきたのに、今更引き返せるわけが無い。

 そう思っていると、背中を何かでつつかれる。振り返ってみると、黒津木がA4サイズの封筒を持っていた。

 

 

桜木「なんだよそれ」

 

 

黒津木「保険だ。お前の旅が無駄足にならない為の、な」

 

 

桜木「お前.........嫌なこと言うなー」

 

 

 最初は結構俺のことを考えてくれてるのかと思ったが、黒津木が発した言葉の意味を深く考えると、げんなりしてくる。

 無駄足になる。それはつまり、テイオーが怪我した際の足を見てくれる医者が、最終的に見つかる事は無いという事だ。まだ始まってすら居ないってのに、そう言われると気が滅入ってくる。

 

 

黒津木「良いか。ウマ娘は人体と同じ肉体を持ちながら、怪我の仕方は複雑で、俺達人間のそれとは違う。だから、走ってるだけで一生治らない怪我も起きる」

 

 

黒津木「それには、俺が知りうる最もウマ娘を治してきた医者の資料が入ってる。エディ・ファルーク。誰も見つからなければその人を宛にしろ」

 

 

 そう言われて、俺は封筒を少し見つめた後、その場で見ることはせず、キャリーバッグのポケットに突っ込んで入れた。

 .........だが、今はそれ以上に気になることが出来た。

 

 

桜木「.........治らない怪我って、例えばどんな.........?」

 

 

黒津木「そうだな。一つ例をあげるとすれば『繋靭帯炎』。一度発症すれば、治療をしたとしてもその痛みに一生付き合わなきゃ行けなくなる症状だ」

 

 

桜木「もし、テイオーの怪我がその......『繋靭帯炎』だったら.........」

 

 

黒津木「玲皇。今は治らない怪我の事より、テイオーの事を考えろ。流石のエディ先生も繋靭帯炎は治したとは聞かないが、いい方向へは持って行ってくれる筈だ」

 

 

 どうやら世界にはやはり、ブラックジャック先生も大門未知子先生も居ないらしい。分かっていた事だが、こうして現実を語られると嫌になってくる。

 人間とウマ娘の総数は圧倒的に人間の方が母数が多い。故に、医学の発展も化学の進歩も人間が基準で、ほとんど同じ見た目のウマ娘については二の次だ。

 俺はトレーナーだ。彼女達と隣で走る存在じゃない以上。走れなくなった時の苦痛を分け合えるほど分かり合えるとは到底思えない。

 .........それでも。

 

 

桜木(疑うより、信じてみる.........か)

 

 

 そんなフレーズが、気付けば頭の中で流れ始める。そうだ。単身海外に行くのなんて、嵐の中に飛び込んでいくのと同じことだ。何も迷わずに良く決断したものだ。

 そう考えながら、残ったラーメンのスープを飲み干す。地元北海道を彷彿とさせる味噌スープが口の中に広がっていく。この味とも、暫くはお別れだ。

 

 

桜木「これで払っといてくれ。それじゃ、またな」

 

 

黒津木「おう。お釣りはこっちで好きに使わせてもらうぜ?」

 

 

桜木「ああ.........あ、そうだ。すまんデジタル」

 

 

デジタル「?」...チュルチュルン

 

 

 耳をピクンっと反応させた後、そのままこちらへゆっくりと振り返るアグネスデジタル。そうとうラーメンにご執心だったようで、恥ずかしそうに頬を染めながら今食べている分を全て啜りあげた。

 

 

桜木「マックイーン達とテイオーの事。よろしく頼むな」

 

 

デジタル「.........?はい!おまかせされましたよ!!」

 

 

 意気揚々と敬礼まで見せてくれるデジタル。俺は酷い大人だ。どんな結果が待っているのか知っているのに、それから逃げるようにそれを伝えずに、ただのお願いとして重荷を背負わせている。

 酷い事をしている。帰った時には、謝らなければ行けないだろう。そう思いながら、チケット関係の作業と身体検査を手早く済ませ、人生で四度目の飛行機に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 上品な声のアナウンスが機内に流れ、それに意識を向けるわけでもなく、気が付けば離陸は既に行われていた。

 灰色に近い色をした世界は、どうにも時間の流れが早い。こんな世界で過ごしていれば、あっという間におじいちゃんになってしまう。

 

 

桜木(それは、なんか嫌だな.........)

 

 

 昔はそれが夢でもあったのに、今はそうなりたくない。雲の上を走りゆく飛行機は素晴らしく快適で眠気を誘う。夢を見るならば最高の環境だろう.........

 

 

 窓から見える空の青さに視線を移す。これから足を踏み入れるであろう外の世界に胸を踊らせられるほど、今回の旅は気楽なものでは無い。

 視線は窓の外に向けられるが、意識は既に自身の思考に向けられていた。

 

 

 やるしかない。俺は今、そのためにこの飛行機に乗り込んだんだ。『夢を追う』だけじゃ、俺は誰かに自分の二の舞を舞わせることを止めることは出来ない.........

 あの日。あの春の天皇賞を見たあの時。久しく感じていなかった世界の色を、俺は感じた。透き通った透明色に近い光。あれは正しく、夢の色だ。あれを俺は一度、失っている。

 

 

 誰かが言った。夢を持つと、時々すごい切なくなって、時々すごい熱くなる.........

 

 

 今、彼女の姿を思い浮かべれば、どうしようも無く会いたくなる。もし面と向かって別れを告げていたら、どうにかなってしまっていただろう。

 彼女が走る姿を思い出せば、あの日と同じ気持ちが込み上げてくる。もう既に、俺の夢は彼女なのだ。これをもう一度失うとなれば、想像を絶する苦痛を味わう事になるだろう。

 

 

 そして、それはテイオーも同じことだ。

 

 

桜木(.........俺にも夢はある。それでも、誰かの夢も、守ってみせる)

 

 

 首元に静かに光る王冠に、俺は静かに手を添えていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーの根性が5上がった!!

 『夢守り人』になった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(来て.........しまわれた.........)

 

 

 飛行機が到着、身体検査や検問など諸々終え、デトロイトにある空港のロビーに立っていた。俺は今、アメリカンドリームの大地に立っている。

 待って?今思えば凄いことしてない?初めての海外でガイドもつけずに低辺校で習った学習知識とQUEENを聞きかじっただけの日本人がこの地でやって行けるの?

 足がガクガクしてきた。本当にどうしよう、あっ、行く人来る人皆髪の色が違うし男の人はデケェし女の人はボンキュッボンだ。本当に日本じゃない!!!

 

 

桜木(なんか吐きそう.........)

 

 

 考えても見てほしい。もしここで俺が日本語で何か言ったとしても、その殆どは彼らに通じることは無い。そう思っただけで身体は拒絶反応を起こし、心は鎖国を推し進めようとする。

 心はやはり、げんなりとした気持ちのままコロコロとキャリーバッグを引きずって前へと歩く。こうして周りを見渡してみると、日本というのは清潔なんだなと改めて感じる。

 そんな根本的な日本との違いに、これから対面するであろうカルチャーショックに、俺は不安を隠せないでいた。

 

 

桜木(トイレ大丈夫かなぁ.........別にウォシュレットとか便座暖めろとは言わないけど、せめて綺麗であって欲しいし、消臭はしといて欲しいよなぁ)

 

 

「おい」

 

 

桜木(ご飯とか食えんのかなぁ、俺たまに日本食でも味濃いとか思っちゃう時あんのに、味覚ぶっ壊れたりしないだろうか.........?嫌だなぁ、帰った時にあの子らに料理作れないよ.........)

 

 

「聞こえてないのか?」

 

 

桜木(あっ!日本じゃないから盗難とかも気をつけねぇとなぁ.........俺外では大丈夫だけど、家じゃしょっちゅう財布とか携帯無くすし、ちゃんと管理を.........)

 

 

 「チッ」

 

 

桜木「いざとなったら飲み込んででも.........うげっ!!?」

 

 

 突然、後ろ側の襟を物凄い力で引っ張られる。思考に耽っていた最中だったので、完全にその人に気が付くことが出来なかった。

 怖い。もしかしたらなにかしてしまったのだろうか?遠い異国の地で、何かマナー違反をして怒られてしまうのだろうか?

 相も変わらず強い力で引っ張られたまま連れ去られていくと、更にそこからもう一段階強くかかる力で振り投げられてしまう。

 

 

桜木「なっ!?」

 

 

 投げ飛ばされた事に驚いてしまったが、相手の優しさなのか、ジャストでベンチに座る体制になった。しばらく自分の身体の無事を確認していると、目の前に一人の人物の後ろ姿が見える。

 

 

桜木(探検家か?創作物でしか見た事ないぞ.........)

 

 

 投げ飛ばした俺の事なぞ露知らず、謎の探検家、しかも背丈や体のラインからして女性は、自分の大きいバッグを漁っている。

 人生で初めてが多いこの光景に、なんと言って伺えばいいのか分からず、俺はただそれを眺めているだけだった。

 暫くすると、お目当てのものをやっと掴めたのか、彼女はしゃがみこんだ姿勢から、その姿をゆっくりと立たせた。

 

 

桜木(.........?ウマ娘なのか.........)

 

 

 探検家でウマ娘、これまた珍しい。目の前をユラユラと揺れる尻尾に、俺はようやく気が付いた。

 こんなこともあるんだと思いながら見ていると、彼女はバッグから取り出した二つの物をセットしている。

 あれは.........カメラと三脚だ。しかも、どこかで見覚えが.........

 

 

桜木(あっ!あれ確か講演会で使った後寄付したカメラと同じタイプのやつだ!本気で探検家してるんだ!!!)

 

 

 久々だった。男の心をくすぐるには十分な素材だ。今はほとんど見ないステレオタイプの探検家で、しかもウマ娘で、一個30万円するカメラを買うほどに本気になっている人。その実態を知れば誰でも惹かれてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、その声を聞く時までは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遣米使先遣隊隊長の」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナリタブライアンだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ナリタ.........ブライアン.........?ブっさん......!?ブっさんンンンんッッッ!!!?????」

 

 

 その日、俺が記念すべき海外で初めて張り上げた声は、彼女のあだ名になってしまったのであった.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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