山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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トレーナー「家庭教師ヒットマンってあったよな」ナリブ「目の前に居るのは本職だぞ」

 

 

 

 

 

桜木「.........」ガクガク

 

 

ナリブ「.........」ブルブル

 

 

 現在、道路の中を割と早いスピードで走行する車の中。俺とナリタブライアンは肩を寄せあって結構怯えに怯えちらし、ビビりにビビり散らかしていた。

 それと言うのも.........

 

 

「お前ら、少しでも動いたら殺す」

 

 

二人「!」ブンブンブンブン!

 

 

 車を運転する男からの圧が半端ないからだ。スキンヘッドで黒手袋したスーツの男なんて、ろくなものじゃない。スーパーで買い物した後、何が起こったのか。話は数十分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「いや〜、あるでしょ〜とは思ったけど、ここで必要なもの全部揃っちまったなー」

 

 

ナリブ「何の話をしてる.........日本じゃ見慣れないものしか置いてなかったぞ.........」

 

 

 スーパーから出てきた俺達は、それぞれ対称的な表情をしていた。俺は探し物が全てこのスーパーで見つかった事の驚き。そしてナリタブライアンは野菜尽くしの品ぞろえにげんなりとしていた。

 

 

桜木「とにかく、指名手配されてんだろうから今空港にいくのは悪手だろう、クレシェンテルーナとか言うリアルルパン三世が銭形警部に捕まるまでは、デトロイトでゆっくりと.........」

 

 

ナリブ「.........?どうし.........あっ」

 

 

 俺達が乗ってきたジミーの車には、見覚えのある二人組。そう、ホテルで撒いた二人のウマ娘婦警さんの姿がそこにはあった。

 思わず俺達は身体が固まる。助けを呼ぼうにも、その相手は今、職務質問という形で行く手を阻まれてしまっているのだ。

 

 

ジミー「〜〜〜.........!」

 

 

パール「m9(・∇・)」

 

 

婦警ズ「〜〜〜.........!」

 

 

二人「(*;ω人)」

 

 

 俺たちに気付いたらしいジミーとパールさん。その方向を指さし、婦警さんは渋々振り返ると、俺達の存在を補足し、ゆっくりとした足取りで向かってくる。婦警さん達の後ろの車内から二人して日本人の様に手を合わせ、申し訳なさそうにぺこりと謝った。誰だってそうする。俺だってそうする。

 

 

桜木「OH MY GOD!!」

 

 

ナリブ「おいっ!!さっさと逃げた方が良いんじゃないのか!!?」

 

 

桜木「お前この距離からあそこまで地面揺らせる!!?」

 

 

 僅かな希望を持って俺はナリタブライアンにそう尋ねるが、首を瞬時にブンブンと横に振った。自分の出来る事を瞬時に判断できるのは素晴らしい。俺も無駄な期待をせずに済んだ。

 20メートル、10メートルと近付いてくる警官に、俺達はただ気持ちの悪いジットリとした汗を背中にまで滲ませる事しか出来ない。

 捕まる。そう思った次の瞬間、甲高い騒音が右方向から強制的に耳へと入ってくる。耳の良いウマ娘達はそれに思わず耳を塞いでしまう。

 

 

ナリブ「くっ、なんだ.........!!?」

 

 

桜木「車だッ!!!」

 

 

 さっきの甲高い音は、ドリフトによるタイヤと地面との摩擦音だった事が察せられる。俺達の目の前で婦警寄りにスリップする大型車。

 誰だ?何のために?どうして?そんな考えが過って行動が固まる前に

 

 

「乗れ」

 

 

桜木「ッ!行くぞッッ!!!」

 

 

ナリブ「おいっ!自制心はどうした!!?」

 

 

桜木「動けなくなって捕まりましたじゃ笑い話にもなんねェだろッッ!!!」

 

 

 黒い色でコーティングされたガラスからは見えないが、隙間から漏れ出た声は確かに聞こえた。俺達は後部座席のドアを乱暴に開け、素早く車へと乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ、ジャパニーズと言うのは聞いていた通り、平和ボケした種族らしい。見ず知らずの人間が運転する車に乗り込むとは、臓器を売られても文句は言えまい」

 

 

桜木(怖ぇ〜.........マジで生きた心地がしねェって.........)

 

 

 車に乗って、かなりのスピードが出てはいるが、走行音は非常に静かだ。ハンドルが右にあるのを見るに、日本車らしい。あまり車種には詳しくない為、よく分からないが、ハイエースではないことは確かだ。

 車内には先程からQUEENが流れている。キラークイーンだとかバイツァダストだとか、物騒な曲が流れている。

 

 

ナリブ「な、なぁ、私達は今どこに向かっているんだ?」

 

 

桜木「.........俺達はどこに向かってる?」

 

 

「我々の隠れ家、アジトだな。まさかとは思うが、自分たちのした事の大きさを理解してないのか?」

 

 

 そういいながら、スキンヘッドの男はニヒルな笑みを浮かべた。俺はそれをミラー越しに見て、唾を飲む。

 何個目かの信号待ち。そこで男はようやく、俺達を捕まえた理由を話し始める。

 

 

「実は、我々がひた隠しにしていたあるダイヤが盗まれた。その犯人は、ある情報を渡せばそれを返すと宣ったが、肝心の交換場所には姿を見せなかった」

 

 

桜木「なんの事だ.........?一体何を―――」

 

 

「惚けるな、『クレシェンテルーナ』。並外れた身体能力を持つ男と、人間が疑わしい女.........フフ、ピッタリだ。ボスが提示した奴らの特徴と一致している。これで俺も晴れて、ヒットマンの仲間入りだ」

 

 

 そう言いながら、車を発進させた男。俺はその言葉に身体全体の体温が全て氷点下に下がっていく感覚があった。そして、ナリタブライアンもヒットマンという単語が聞こえたのだろう。恐怖に言葉を失ってしまっている。

 

 

桜木「.........タバコ、吸ってもいいか.........?」

 

 

「構わん。興味本位で聞くが美味いのか?今日ようやく酒が飲める年になったが、身体の為に止められててな」

 

 

桜木「俺は美味くて吸ってるんじゃない.........が、美味いと感じる奴が居るのも確かだ.........」

 

 

桜木(どうする.........?どうしたらっ、良い.........!??)

 

 

 こうして話してみれば、意外と普通に話せるヤツなのかもしれない。だが、ヤツは結局そういう輩だ。ヒットマンという事は、ファミリーに所属してるのだろう?家庭教師ヒットマンは見た事あるからそれくらいは知っている。

 奴は、流れている音楽に乗るように軽快な鼻歌でハンドルを切る。その光景と、俺達の内に沸き立つ恐怖がギャップを生み、更に世界を狂気的に見せる。

 恐怖に震える手を必死に落ち着かせながら、胸ポケットからタバコ、普段は吸わないマルボロとライターを取り出すと、隣に居るブライアンがギョッとした。

 

 

ナリブ「こ、ここでタバコなんて吸うな!!煙が―――」

 

 

桜木「っうるせぇ!!一服くらいさせろッッ!!!こっちはストレス溜まりっぱなしなんだッ!!!ガタガタ言うなッッ!!!」ギリィッ!

 

 

ナリブ「っ!!?」

 

 

 一番吸っちゃいけない理由で今、初めて俺は煙草を吸った。ストレス発散の為に吸えば、それに依存する様になる。だが、今はそれに頼るしか冷静になる方法も、俺自身の精神が救われる方法も思いつかなかった。

 煙草を口に咥え、片手でライターを持ちながらウィンドウを叩いて、開けるように指示をする。それが伝わったのか、男はスイッチを押して外の風を中へ入れた。

 

 

桜木「っ.........ケホッ!ケホッ!クソっ」

 

 

 比較的軽めのタバコしか吸ってこなかったが、見知った銘柄はコレしか売って無かった。舌の根元が痺れるようにチリチリするし、喉は少し煙を吸い込んだだけでイガイガする。それでも、今はそれにすがるしかなかった。

 ふと静かだと思い、隣を見ると、いつもムスッとしている筈のナリタブライアンが少し涙目になっていた。一瞬驚いたが、この状況で見知った顔にあんな対応されれば、女の子は誰でもそうなる。余裕が無い時に余裕の無い対応しか出来ないのが、俺の悪い所だ。

 

 

桜木「.........ヤツらのアジトだってよ。どうするブっさん」

 

 

ナリブ「!......ど、どうするも何も、こうなったら大人しく、付いて行くしか.........」

 

 

桜木(何か......っ、何かないかッ!?この状況を完璧に無傷で何の犠牲もなしに切り抜けられるパーフェクトでイケメンな策は.........!!!??)

 

 

 涙が滲み溢れて滴り落ちる汗、その背景に鼻歌が混じりながらも、この車は、刻一刻とアジトへと連行される。そうは考えても、頭の中は今目の前の男が銃を持っているという米国では確定的な要素が、全ての択を撃ち抜いて黙らせられる。

 そんな、奇跡の様な物はどこにも存在はし得なかった。

 

 

桜木「.........アンタ、名前は.........?」

 

 

「.........ニコロ・エバンス。今夜初めて人を殺すヒットマンだ」

 

 

桜木「ニコロ.........提案、がっ、ある」

 

 

 非常に苦しい。煙草のせいじゃない。一瞬で車内の空気が一変した。飯を食ってなくて良かった。胃に何か入れてたら、危なく車内を汚していた所だった。

 美味しくない。こんなに美味くない煙草は初めてだ。胸の内に広がる煙を追い出すように吐き出した後、俺は言葉を絞り出した。

 

 

桜木「た、助けてくんない.........?」

 

 

ニコロ「嫌だ。俺の初仕事をみすみす失敗させるような事をする訳ないだろう」

 

 

桜木「だ、だよね.........ハハ」ポイッ

 

 

ナリブ「お、おま、ポイ捨てはダメだろ」

 

 

 空いてる窓から吸いかけの煙草を捨てた。そんなもう、人間としての常識とか、大人としての体裁とか考える余裕もなく、これから死ぬ。その事実が、俺の心を酷く打ちひしがらしたのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 そこまで話し終え、トレーナーさんは息をふぅっと吐き出しました。その顔には、今もその緊張感が生きている事を示す様に汗が滲んでいます。

 周りで話を聞いているだけの私達も、とても生きた心地がしません。周りの視線や耳を向ける彼の特技も、今この場では重苦しい空気を生み出している一つの要因になっています。

 

 

ダスカ「い、生きてる.........のよね?」

 

 

桜木「生きてる。でなきゃここでこうして話せる訳が無いだろ?」

 

 

ウオッカ「いや、理屈では分かってるけどよ.........」

 

 

 どうやら、その話を聞いて誰もトレーナーさんが生きて帰ってこられる状況を見いだせなかったのか、中には泣きそうになりながらトレーナーさんを見る方も居ました。かく言う私も、お恥ずかしい話ですがその一人です。

 そんな中、一人おもむろに立ち上がった方が居ました。サイレンススズカさんです。

 

 

スペ「スズカさん!!?」

 

 

スズカ「大丈夫よ皆。足はあるから、お化けじゃないわ」モミモミ

 

 

桜木「う、うん......ありがとうスズカ.........?」

 

 

 彼のふくらはぎを確認するような手つきで両足を確認すると、スズカさんは座っていた場所に戻ってかれました。何とも珍妙な方法ではありましたが、確かにそれを確認できて、皆さんが安心した事は、空気に乗って伝わりました。

 

 

マック「.........ですが、よく無事に帰ってこられましたわね.........」

 

 

テイオー「そ、そうだよ!!あんまりこういう事言いたくないけど!!サブトレーナーし、死んじゃうところだったんだよ!!?」

 

 

 今まで珍しく黙って聞いていたテイオーが、ようやくベッドの上で声を上げました。病室に響き渡る彼女の声が、私達に事の重大さを再認識させます。

 死んでしまう。この場にいる誰もがその一言で凍り付きます。この先の話、出来れば心臓に悪い部分は聞きたくありません。

 それでも.........目の前で優しく笑みを浮かべる彼の話からは、それ以上に良い話が聞けると、それを見て思ってしまいます。

 

 

桜木「.........まぁ、マックイーン以外は知らないと思うけど」

 

 

全員「......?」

 

 

桜木「俺は、命が掛かってると運が良くなるんだ」

 

 

マック「.........あっ...」

 

 

 その、どこかで彼から聞いた言葉が聞こえ、その記憶を頭の中で模索しました。そう、あれは確か、夏合宿の最終日。背中に迫る花火が飛び交う中、彼が私を抱え、走り抜けた時の言葉でした。

 それを思い出して、思わず彼から視線を外してしまいます。気がつけば、身体が少し熱くなってきたように思えます。

 

 

ウララ「マックイーンちゃん!!顔赤いよ??」

 

 

マック「な、なんでもありませんわ.........」

 

 

ブルボン「マスターも、体温の急激な上昇が見られます」

 

 

ライス「えぇ!?だ、大丈夫?」

 

 

 視線を彼に戻してみると、自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、少し照れ臭そうにしていました。別に、言わなくてもよろしかったですのに.........

 

 

東「.........ま、まあこの際、お前とマックイーンの間で何があったかは聞かん」

 

 

沖野「そ、そうだな」

 

 

桜木「ん゛っんん、兎に角、奇跡なんて起こりえなかった状況だった。だがそれは、ある要素が『定数』だと思ってたからだ」

 

 

全員「定数.........?」

 

 

 トレーナーさんが発した言葉の概念。確か、確定された数字であると、数学の授業で教えられました。実際、数字が不透明であったり、代数を使われたりしますが、実際、定められれば以降、その問題の定数はそれ以外有り得ません。

 .........トレーナーさんは、ゆっくりともう一度、お話を始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、とあるビルの一室に閉じ込められ、それは丁寧に尋問を受けていた。約六時間。気がどうにかなりそうだったが、命を繋げるため、ありもしない嘘を吐き続けた。

 

 

ニコロ「おい、そろそろハッキリさせろ。ダイヤをどこに隠した?」

 

 

桜木「.........そうだなぁ、例えば、木を隠すなら、森の中.........とか?」

 

 

ニコロ「宝石店か?」

 

 

桜木「誰も、そんなことは言ってないが?まぁ信じたいなら信じれば良い。嘘は言ってない」

 

 

 そう言って、俺は自由にされている両手を使い、煙草を吸う。これで本日五本目だ。自己記録更新中である。

 コイツらは俺を殺さない。ダイヤの在処を知っていると思い込んでいるからだ。俺がヘマしない限り、ブっさんも無事で居られる。

 

 

桜木「.........それにしても、随分楽しそうに仕事するじゃないか、ニコ」

 

 

ニコロ「その名前で呼ぶな。腹立たしい」

 

 

 俺の煙草の煙から逃げるように隅へと逃げるヒットマン。身体の健康には相当気を使っているらしい。面白い話もあるものだ。

 しかし、一つ疑問点がある。この男、どうにも楽しみすぎている節がある。そこがどうも怪しい。いくら初めての仕事とはいえ、ここまで楽しそうにするだろうか?

 まるで仮面をつけているみたいだ。付け入る隙があるならばそこだろう。実際、仮面の付け方なら俺の方が一枚上手だ。

 

 

桜木「羨ましい限りだ。そんな四六時中ニコニコしながら仕事できる職場に就けるなんてな」

 

 

ニコロ「.........お前は、楽しくないのか?」

 

 

桜木「.........」

 

 

 だいぶ慣れ始めた12ミリのマルボロを一息吸い、煙を吐いた。楽しい.........そう言われてしまえば、そう、ハッキリ言ってしまえば、高校時代のあの部活よりは、刺激的ではないだろう。だが.........

 

 

桜木「充分だ。あまり楽しすぎると刺激に慣れて味気なくなる。トレーナーって職業は、噛めば噛むほど味の出る良い職場だよ。煙草と同じだ」

 

 

ニコロ「.........トレーナーではなく、怪盗だろう?」

 

 

桜木「.........そうだった。聞かなかった事にしてくれ」

 

 

 ボロを出してしまったが、それを相手は上手く逃げるための口実だと思ったらしい。どうやら散々怪盗では無いと言った序盤のアレが効いている。あんなに嘘ついて怪盗じゃありませんでは命に関わる。

 煙草を吹かしていると、ふとヒットマンのズボンの携帯に電話がかかって来る。相当のQUEEN好きなのか、着信音もそれだ。俺も嗜む程度ではあるが、本当に普通の人間だったら仲良くやれていた筈だ。

 

 

ニコロ「.........分かった。直ぐに向かおう」

 

 

桜木「.........!」

 

 

ニコロ「お前のあの妙に鍛えられた連れだ。他の連中は手を焼いてるらしい」

 

 

ニコロ「すぐに代わりのものが来る。俺と違って、気は長くない連中だ。無駄な抵抗はするなよ」

 

 

 そう言ってドアノブに手をかけて出ていこうとするヒットマンの顔は、酷くつまらなさそうであった。

 

 

 俺は.........俺は、そこに何故か、同情と言うべき感情が湧き上がってしまう。あんな、四六時中付けたくもなさそうな仮面を、俺は付けたくない。

 だから.........

 

 

桜木「おい」

 

 

ニコロ「.........?」

 

 

桜木「.........向いてないぞ。この職場」

 

 

ニコロ「.........余計なお世話だ」

 

 

 酷く不満げな顔をようやく見せて、奴はこの部屋を名残惜しそうに去って行った。奴にも奴の都合がある。そう思っても、首を突っ込まざるを得なかった。

 

 

 時計の音もしない静かな空間。自分の息する音だけが聞こえてくる世界で、ようやく扉が開く。今度はせいぜい、イラつかせないよう足掻かなければ.........

 そう思いながら開いて行く扉を見ると、そこには一瞬、人間と形容すべきかどうか分からない化け物じみた奴が居た。

 

 

桜木「.........マフティー・ナビーユ・エリン!!?」

 

 

「誰よ!!私は怪盗クレシェントルーナよッッ!」

 

 

桜木「っ!その声!!?」

 

 

 イギリス訛りの英語で発せられたその声。あの二人組の婦警と出会った時に聞こえた天の声にそっくりだった。黒いピッチリとしたタイツにカボチャマスクと言った素っ頓狂な格好をしているが、確かにその声はあの天の声だった。

 

 

ルーナ「ごめんなさいね!!私達のせいで警察にもマフィアにも目をつけさせてしまって!!」

 

 

桜木「いや、大丈夫だ。それより連れが居るんだ!!何処にいるか分かるか!!?」

 

 

 そうやって聞いてみると、怪盗は腕に着けた時計のスイッチを押す。すると、近未来的なホログラムが現れ、マップが構築され始める。下の部分には一つのシンボル、少し上に二つ、そして上の方に一つあるのが分かる。

 

 

ルーナ「発信機の信号よ。下は私の相方、上の二つは私と貴方。一番上が貴方の連れである三冠バよ」

 

 

桜木「発信機!!?そ、そんなのどうやって.........痛っ!?」

 

 

 おもむろに近づいてきた怪盗は、俺の耳に着いているカサブタを剥がした.........ように思えたが、実際それは小型のチップなようなものだった。

 

 

ルーナ「貴方、本当に運がないわよ。だって私達と同じような行動ルートを通るんだもの。待ち伏せしてこれ付けといて良かったわ」

 

 

桜木「ぐぎぐぬぬ.........」

 

 

 そんなもの、こっちは嫌という程既に分からされてる。こういう分からせって女の子が様になるんじゃないの?なに?昨今は成人男性がそんなに需要高いの?まずいぞ腐のオーラを感じる。

 .........とまぁそんなふざけた事を考えつつも、耳にはタタタと聞こえる複数の足音が入ってくる。どうしたものかと言われても、ここにはダクトも窓も抜け道も無い。正面突破するしか無い。

 

 

ルーナ「流石にクレシェントだけじゃダメかー.........貴方、腕っ節に自信はある?」

 

 

桜木「経験は無い。けど殺陣の経験は実戦形式でたんとあるぜ」

 

 

 一時期、リアリティを追求した殺陣に挑戦する為に、白銀とガチタイマンを何度か張った試しがある。勿論寸止めルールではあったが、止めるまではマジで攻撃してくるから本当に怖い。

 だが、そのお陰で学園祭で上映したカンフー風アクション映画は大好評だった。あの経験がまだ俺の中で生きているのならば、この場を切り抜けることに役立つだろう。

 

 

ルーナ「ちょっと心もとないけど、自信がある事はいい事ね!!それじゃあ頑張って!!」ピトッ!シュー!

 

 

桜木「はァッ!?」

 

 

 さっき剥がされた発信機をもう一度耳に付けられると、怪盗は上にお馴染みワイヤー銃を打ち込み、引っ張った。

 まぁ酷い話もあったものだ。近付いてくる一つの足音、開かれる扉の側面へと回り込む。上手く行けば、この先やりすごせる何かがある。

 

 

「どこだッ!いるのは分かってるんだぞッ!俺をコケにしやがってッ!」

 

 

桜木(入ってきたのは一人、あの丸いのに気を引かれて真ん中まで行くぞ.........!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組員1「見つかったか?」

 

 

組員2

(桜木)「影も形もないぞ」

 

 

組員3「くそ、こんな事ボスに知られたら.........」

 

 

 部屋に入ってきた組員を気絶させた後、俺はそいつの服とサングラスを奪って変装をした。

 なに?それだけじゃバレるって?安心してくれ。逆だった髪を下ろして生活してたら一週間誰も俺に気が付かなかった事は学生時代に経験済みだ。髪を下ろすのに多大な労力はかかるが、やってみる価値はこうしてあった訳だ。

 

 

桜木「それより、上の階にいるあの女も危ないんじゃないか?」

 

 

組員1「確かにな、だが安心しろ。ニコロは生まれた時からこちら側の世界で生きてきた人間だ。何とかするさ」

 

 

組員3「待て、うちのファミリーに居るならニコロを知らないなんて事はないだろう。何故わざわざそんなことを言った?」

 

 

桜木(ギクッ)

 

 

 痛い所を突かれる。ていうかあのヒットマン、そんな頃からこの道を歩いてたのか。そりゃ他の道歩けなくてつまんなくなるよ。才能あるけど向いてない。

 さて、ここからどう弁解すれば収まるだろう?二人の組員は俺の顔を見ながらゆっくりと近付いてくる。一か八か、切り抜けるしかない。俺はマフィアの一員だ。そしてあの男の仲間である女が、怪盗の手を借りて逃げ出さないようにしなければ行けない。

 

 

桜木「考えても見ろ。相手は怪盗、しかも男は既に逃がされている。奴らがニコロの対策をせずここに来ている訳が無い。うちの今後を考えても、何かの手違いでニコロを失ったり、他ファミリーから怪盗に出し抜かれたとか言う舐められる様な事を起こす訳には行かないだろう?」

 

 

組員3「た、確かに.........」

 

 

組員1「う、疑って悪かった。俺達はこのフロアでもう少しあの男を探してみる。お前は、女の様子を見てきてくれ」

 

 

 そう言って男達は申し訳なさそうな顔で、そそくさとこのフロアの探索を続け始めた。一難が去ってほっと一息を吐くが、こんな事で一々安心してはいられない。奴らは銃を持っている。それを忘れてはならない。

 俺も、出来れば使いたくないと思いながら尻ポケットに忍ばせた奪った銃に意識を向ける。気絶させる際、発砲されかけたが何とかなった。しかし、壁に思い切りぶつけてしまった為壊れてる可能性もある。どんなに固くてもコイツは精密機械の類だ。

 

 

桜木(.........さて、俺は俺で、ブっさんを探しに行かなきゃな。だが、味方の数が変動するとは思わなかったぜ)

 

 

 ひやりとした汗を頬に感じながら、切にそう思った。もしあそこで来てくれなければと思うとゾッとする。

 目の前のエレベーターのボタンを押して、俺は束の間の静寂を人生最後の休息だと思い、じっくりと考えを巡らせる。

 

 

 それは、今一人捕まっているナリタブライアンの事ではなく、これからどう脱出しようということでも無い。突然現れた怪盗も勿論、[桜木にとっては]都合のいい存在の為、今それについて考える必要は、どこにも無かった。

 

 

 エレベーターが到着し、ドアを開く。束の間の休息だと分かりきっていたが、身体はまだまだそれを求める。

 

 

桜木(.........よし)

 

 

 覚悟を決め、奪ったネクタイを締め直し、サングラスで遮断される蛍光の光を隙間で視認し、目を慣らす。

 ゆっくりと閉まっていく自動ドア、行き先は最上階。今度は休息などと言う優しい静寂ではなく、死という怪物が最終車両に乗っている夜間列車に乗車しているという覚悟を、今一度改める時間だ。

 祈りも、懺悔も必要ない。桜木にあるのは一つの誓いだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『.........では、バレた時の罰を、文句を言わず、甘んじて受け入れることです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(.........そうだよ。じゃなきゃ、不公平だもんな)

 

 

 エレベーターの壁に背をもたれかけ、ゆっくりと呼吸する。今はそれだけが精一杯だ。怖いのも、辛いのも、等しく苦手だ。

 けれど、やり遂げなければ行けない。俺には帰る場所がある。これ以上嬉しいことは無い筈なんだ。だから、俺はその為に頑張れるはずだ。

 

 

 エレベーターが最上階に着く。扉が開く事で、覚悟の時間は終わりを告げる。後は、階段を降りて、ブっさんを探すだけだ。

 

 

桜木(待ってろよ.........今行くからな.........!)

 

 

 そう、心に強く思いを抱きながら、ビル最上階の階段を、細心の注意を払い、ゆっくりと降りていくのであった.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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