山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
ニコロ「.........」
ゆっくりと目が覚めるように、意識が覚醒した。身体のあちこちが痛くて仕方がないが、なぜだかどこか清々しかった。
桜木「.........ふぅぅ......お、気が付いたか」
ニコロ「.........何故、まだ居る?」
桜木「話くらい聞かせろよ。別にやりたくもねぇ仕事なんでやってんのか、知りたいだけさ」
そう言って奴は、タバコを口に咥えた。その姿を見ていると、俺が羨ましがってると思ったのか、パッケージから一本のタバコとライターを渡してきた。
ニコロ「.........」
桜木「火ぃ付けながら吸うんだ。あ、初めてだからあまり肺に入れない方がいいぞ。これマルボロだから重めだし」
ニコロ(そんな事を言われても分からないんだが.........)
そう思いながらも、上半身を起こし、俺は口に咥えたタバコに火をつけ、肺に入れないよう舌を引いて空気を吸った。
ニコロ「.........不味い」
桜木「ハハハっ!流石のヒットマン様も、初喫煙は失敗談になったか」
ニコロ「初仕事がそもそも失敗だ」
桜木「ああ、確かに。言われてみればそうだ.........ふぅぅ......」
タバコの煙の味は、美味しくない。肺に入れてみようとしてみるが、途中まで吸って息が止まる。これ以上入れるのは、厳しいかもしれない。
それでも隣にいる男はスパスパと吸っている。よくこんな物が吸える。だが、そんな姿が何故か、羨ましく思えた。
ニコロ「.........俺は、この世界で生きていくと定められた存在だ」
ニコロ「両親もヒットマン。俺が物心着く前に死んだが、割と良い人格者だったとファミリーから聞いている」
ニコロ「娯楽も外の世界も知らずに、ずっと身体を鍛えさせられていた。殺せば戻れなくなる。そう思っていたから、俺はこの仕事をしたくなかったのかもしれない」
スラスラと、今まで無かったほどに言葉が溢れ出す。今日初めて会った人間に、これ程まで自分の感情が軟らかい物だとは気が付かなかった。
そんな中でも奴は何も言わず、短くなった煙草を吸い、何かを思い出すようにオフィスの天井を見ながら、その目を細めていた。
桜木(.........レール、か......)
その一つの単語が、俺の古い記憶を掘り起こす。それは俺がまだ、クソ親父の事が好きで、尊敬していた頃の事だった。
その記憶を忌みながらも俺は、その思い出の情景を、何処か懐かしんでいた。
桜木「.........確かに、一直線に進むレールの上を歩くように、俺達の人生や運命ってのは、誰かに決められてんのかも知れない」
桜木「けどな、レールっつうのも結局、神様じゃなくて、色々な人が多くの困難の中で作り上げた人類の叡智だ」
桜木「行きたい場所にレールを敷いたり、方向をシフトしたり、それこそレールに乗らない選択もできる」
ニコロ「.........」
何故、電車は好きな場所に行けないのだろう。そう聞いた時、クソ親父は困った顔で言った。
電車は決められた場所にしか行けない。だが、そのレールを敷くのも、その電車に乗って遠くに行くのも人間だ。だから、好きな場所に行ける。
だが、 コイツが何処に行くのか、それに関しては干渉しない。それをしてしまえば、他人の人生に介入してしまえば、俺は俺を守れなくなる。だから、俺は釘を刺した。
桜木「言っておくが、ヒットマンを続けるなら俺は止めないぞ。と言うより、もうあの手の事は二度と出来そうに無い。俺の才能が、アレで枯れ果てちまった」
身体の奥底から、一つの情熱が鎮火する感覚が分かる。あの講演会で俺の夢は終わり、そして、この一連の出来事で、俺の才能は俺の身体から成仏するように消えて行った。
演技をしろと言われれば出来るだろう。今日より平凡で、怠惰で、つまらないそれに、俺はもう楽しさを感じることはない。
そんな寂しさを覚えるような感触を感じながら、俺は肺に煙を入れる。その時、待ち望んでいない声が聞こえて来た。
ニコロ「俺は、分からない.........」
桜木「.........」
ニコロ「辞めて、何が出来る?この道しか見てこなかった。この道以外見れなかった俺が今更、どこをどう歩ける?」
下手くそな奴だ。仮面はまだ外せていないのに、苦しいのが痛いほど伝わってくる。そんなの、俺には関係―――
『トレーナーにならないかい?』
桜木「.........」
同じだ。苦し紛れに外に出たあの時の俺と、同じなんだ。もがいて、あがいて、必死に手を伸ばした手を掴まれて、俺は今の俺になれたんだ。
コイツも必死に今、手を伸ばしてるんじゃないのか?俺がやるべき事は、あの日俺がされた様に、その手を掴むことなんじゃないのか.........?
桜木「.........そうだなぁ」
ニコロ「.........?」
桜木「まず、身体の動かし方を知っていて実践できる。そして、熱くなりながらも冷静に分析できる頭もある。それに何より、[目が良い]。だから.........」
「なぁお前、トレーナーにならねぇか?」
あの日、俺の人生が変わった一言を、俺の口から投げ掛ける。
俺に他人の人生を変える事なんて出来ない。トレーナーとして、あの子達のトレーニングを見ているのも、あの子達が自分で自分の人生を変える為に強くなる手助けをしているだけで、俺と言うひとつの要素で変えたいなどと思ったことは無いし、それが怖い。
内に秘めた想い、辿り着きたい場所、ただ早くなりたい、自分が変わりたい、夢を叶えたいという意思を、ただ手助けしたいだけなんだ。
ニコロ「.........トレーナーとは、一体なんだ?」
桜木「そうだなぁ.........」
奴の疑問に答えようとした時、俺の耳にまた[イギリス訛りの英語]が聞こえてくる。
内容としては簡素なもので、屋上に来い、隣のビルに居るという物だった。声の様子からして、どうやら急いでいるらしい。
桜木「.........まぁ、それはここを出た時に人に聞くなりネットで調べるなりするんだ。お前はもう、自分で歩けるんだから......よっと」
ニコロ「.........?どこに連れていく気だ?」
満身創痍のヒットマンの肩を担いで、歩を進める。かなり困惑気味のようだが、これはチャンスだ。こいつに夢を見せる。最大のチャンスを、俺は逃したくない。
桜木「ちょっと屋上までな」
ーーー
ナリブ「まさかアンタ達だったとは思わなかったな」
パール「ごめんなさいね。本当はあの時警察で保護するつもりだったんだけど、状況がね.........」
そう言って、目の前のイギリス生まれのウマ娘、パールは申し訳なさそうに謝った。先程までカボチャを被っていたあの怪盗だったのだが、私は全く予想もしていなかった。
彼女達が言うには、どうやらICPOの捜査官でありながら、全く新しいおとり捜査の実施をしていたらしい。勿論、怪盗という名で通っているので、警察も本気で捉えてくる。マスクを外している時だけが、警察として扱われるらしい。
パール「.........それにしても、いつまで隠れてるのよ。ジミー」
ジミー「地震、怖い」
ナリブ「.........心配しなくても、あんな真似は二度としない」
ジミー「ほんと?」
二人「ほんとほんと」
二人でそう言うと、ジミーは恐る恐るその姿を見せた。私が地震を起こしたという話を聞いた瞬間から必死に遠ざかる姿は中々面白かった。
ナリブ「.........!来たみたいだぞ?」
パール「あらほんと.........って」
ジミー「Wow!?He is crazy!?」
奴は何ともないような表情でヒットマンに肩を貸しながら、私達に向けて「よう」というように手を上げる。いや、ようじゃないが?
そして渋々ワイヤーを射出する奴を出すが、それを見て桜木は大振りな身振り手振りで中止を促す。
ナリブ「何を考えてるんだ.........!?」
パール「待って、なんか調理し始めたわよ!!?」
ジミー「Crazy?Yes crazy」
何故かスーパーで購入していた携帯調理器具で、桜木は野菜とサプリメントを煮詰め始めた。隣にいるヒットマンはそれを嫌そうに見てるし、私達も嫌だった。笑っているのは桜木だけだ。どういう神経してるんだ?
暫く待っていると、不意に遥か地上の方からサイレンの音が無数に聞こえてくる。もしやと思いみてみると、完全に隣のビルがパトカーに占拠されていた。
それだと言うのに、その音を聞いて青ざめているのはヒットマンで、楽しそうに笑っているのは桜木だ。これではどっちが常識人か分かった物じゃない。
パール「貴方電話とか出来ないの!!?」
ナリブ「そ、そうか!!!」
私はすぐさま、外国に来て交換していた連絡先に電波を飛ばす。しかし、桜木は電話を手に取らないどころか、それに反応すら示さない。まさか、壊れてしまったのだろうか?
見かねたパールが自らの携帯を取り出し、長いアンテナの様なものを伸ばした。それをヒットマンに向けてボタンを押すと、やつはびっくりした様子でその電話に出た。
パールは英語で何か言った後、私に電話を預けた。そして向こうも桜木に電話を渡す。
ナリブ「何をやってるんだアンタは!!?」
桜木「ハハハっ!!いやーもうこの状況が楽しくて楽しくて!!」
三人(何言ってんだこいつ)
酒でも飲んだんじゃないのか?いや、この状況に酔っているのかもしれない。ともかく、奴をさっさとこっちに来させなければ.........
そう思っていると、奴は調理器具の火を止め、そこに大量の水を入れ始めた。
パール「な、何をする気なの.........?」
ナリブ「.........まさか」
ジミー「ooorrrrrrrrrrr」ゲロゲロ
事の顛末を予想したジミーはビルの谷に吐瀉物を降らせた。そしてそれは見事に的中し、桜木はそれを一気に飲み干したんだ。控えめに言って頭がおかしい。
そして、身体にはみるみるうちに変化が現れた。奴の身体からは蒸気が溢れるようにして出現、天へと昇っていく。そして.........
頭には、私達にはとても身近な物が存在していた。
ナリブ(アグネスタキオンの薬か......!!?)
力を確かめる様に手を開いたり握ったりしている桜木。そしてそれをなんの前触れも無く地面へと振り下ろす。微弱な振動がここまで伝わってくる。ジミーは気絶した。
ジミー「」
パール「ちょっと、ヒットマンを担いだけど!!?まさかそんなことないわよね!!?」
ナリブ「有り得るぞ!!あのバカは正真正銘何でもやらかす問題児で有名だ!!!」
桜木「跳ぶぞォォォォォォッッッ!!!!!」
二人「馬鹿野郎ォォォォォッッッ!!!!!」
奴は60mのビルの幅を一瞬で走り抜き、ギリギリで跳躍したのだ。横から見れば月をバックに、男二人。まるでET見たいな展開になったであろう。それは正に感動的な名シーンに他ならない。
ところがどっこい、これは現実。正直私は心臓が死にそうだった。と言うか変な口調になるくらい動揺していた。
ちなみにヒットマンはと言うと、青ざめを通り越して真っ白になってた。あまりに不遇でちょっと可哀想だった。
そしてその時、今この場で一番聞きたくない言葉が、この夜のデトロイトに響き渡った。
「あっ!!!これ届かんわッッ!!!」
ナリブ「」
パール「」
ニコロ「Hey!?What do you mean!!?」
桜木「We die」
ニコロ「」
あと三分の二の距離という所でそんな会話が聞こえてくる。あんな無表情でも気絶しながら涙は流せるのだと私はこの時初めて知った。
それでもあのバカは笑顔を止めない。正直気が狂ってる。奴は担いだヒットマン思い切り、私達のいるビルの方向へと投げ飛ばした。
桜木「ブっさんッッ!!!」
ナリブ「!?なんだッッ!!!」
桜木「助けてッッ!!!」
ナリブ「たわけッッッ!!!!!」バッ!
パール「あっ!!!ちょっと!!?」
私はパールの手に持っていたワイヤーを射出する奴を奪い取り、今自分のいる場所から桜木に向かって飛んだ。飛んできたヒットマンは、パールが何とか抱きとめたようだ。これで一つ不安材料は無くなった。
等速直線運動の法則に逆らうこと無く、どんどん身体は地面へと向かって言っている。このまま行けば2人ともぺしゃんこ。翌日にはデトロイトの新聞に大々的に取り上げられることになるだろう。それだけは絶対に避けたい。
必死に伸ばされた桜木の手を掴み、力を込めて握る。痛そうな声が聞こえたが知らん。自業自得だ。私はそのまま、パール達のいるビルに向けてワイヤーを射出した。
落下が止まる。それだけで安心する程、生きた心地がようやく感じることが出来た。
桜木「ふぅ.........サンキューブっさん」
ナリブ「.........たわけというエアグルーヴの気持ちが、今初めて分かった」
ーーー
桜木「その後、パールさん達に服買ってもらって、デトロイトを出立したってわけ。ほら、かっこいいだろ?背中の三日月のデザインが特にさ」
全員「.........」ポカーン...
無茶苦茶です。ハッキリ言って、まだ映画の方がリアリティがあります。事実は小説よりも奇なりとか、そんな次元ではありません。
そんな彼になんと声を掛ければいいでしょう?頑張りました?身体は何ともありませんか?本当に人間なんですか?おバカ?きっと、そのどれもが正しくありません。
マック(うぅ......だと言うのに、なぜこんなに帰ってきて嬉しいんですの.........?)
意外と単純なのかもしれません。自分のそういう部分に嫌になりながらも、それでも彼にかける言葉を探しました。
ですが、私やチームの皆さんが声をかける前に、ゴールドシップさんが言葉を発しました。
ゴルシ「足りなくね?」
全員「え?」
ゴルシ「日数だよ。五日間でそんな事あって、帰ったとしても六日目だろ?三日足んねぇぞ」
マック「た、確かに.........」
ゴールドシップさんに向かっていた視線が、一斉にトレーナーさんへと向けられます。当のトレーナーさんはどうかと言うと、先程から何故かソワソワし始めて居ます。
まさか、何か知られては行けないことが.........?う、浮気?いえいえ!!そもそも誰かと付き合ってる訳ではありませんし!!
ですが、今のこの彼の反応が私の不安を煽ってしまいます。違うなら違うと仰ってください.........!
桜木「あの、非っっっ常に言い難いんだけど.........」
全員「.........」ゴクリ
桜木「.........タバコ吸ってきて良い?」
全員「.........はぁぁぁ」
.........呆れました。まさか、それで先程からソワソワしていたのですか?本当、なんでこの人の事を私は.........
アグネスタキオンさんがしっしっ、と言うように手で出ていくように促すと、申し訳なさそうにしながらも笑って彼は病室を退室して行きました。
テイオー「有り得ないよね、本当に人間なのかな?」
タキオン「そのうち辞めると思うよ」
ウオッカ「だよな!?サブトレーナーおかしいんであって、話について行けない俺達は悪くないよな!!?」
そのウオッカさんの言葉に同意するように、皆さんは首を縦に振ります。私も正直、所々お話が飛躍しすぎていて付いて行けませんでしたわ。
東「なんか俺、アイツの事が怖いよ......」
沖野「俺もだ。次は何をしでかすか分かった物じゃない.........」
お二人は頭を抱えて今後について考えていました。私も考えた方が良いのでしょうか.........?
いえ、あの人はあれでもカッコイイ時は凄くカッコイイんです。レースをする前の地下バ道の時だって.........
マック(うぅ.........本当にずるい人です......トレーナーさん.........)
全員「.........」ジーッ
マック「.........?な、なんですか?」
ふと、皆さんの視線が私に集まっているのに気が付きました。ただ私の方を見ていたり、ニヤニヤしていたりと、その反応は様々でしたが、しっかりと私だけを見てきます。
テイオー「マックイーンって、やっぱ変わったよねー?」
ダスカ「そうよね、入学式の時なんてあんなツンツンしてて肩肘張ってる感じ凄かったのに」
マック「な!?」
ウララ「そうなの??マックイーンちゃんトレーニングしてる時もニコニコしてるよ!!!」
スペ「や、やっぱりサブトレーナーさんが好きなんですね.........!!」
マック「な、なな.........!!?」
気が付けば病室内では、私とトレーナーさんがどんなに仲良しかという話に発展して行きました。先程まで静かに彼の話を聞いていた静寂さも、今はその存在をすっかり潜めています。
ゴルシ「いやぁ〜、やっぱチョロかわマックちゃんだなぁ〜」
マック「そ、それを言うなら貴女だってそうではありませんか!!!デートだなんだとなった途端!!!急に空気が抜けた風船のようにふにゃふにゃになって!!!」
ゴルシ「バカッ!アタシのトラウマを抉るなよ!!!」
テイオー「ゴルシ!!!」
ゴルシ「やめろォ!!!」
あっという間に、いつもの.........いえ、トレーナーさんが帰ってくる前の空気が、彼と共に帰ってきました。少し騒がしくて嫌になるほどだったのに、なぜかいつも以上に心地よい空間が形成されていました。
マック(.........本当、ずるい人です)
「騒がしいな」
全員「.........!!?」
そして、その空間にいつもは聞きなれない声が聞こえてきました。その方向へ振り返ってみると、お話の中で大活躍していたナリタブライアンさんがそこに立っていました。
もし、この人があの場に居合わせて居なければと思うと、彼がこの場に二度と姿を表せなかった可能性が脳裏を過ります。気付けば私は、声を大にして、ブライアンさんの名前を呼んでしまいました。
マック「ブライアンさん!!!」
ナリブ「!?な、なんだ?急に大声出して」
マック「トレーナーさんを助けて頂き本当に感謝申し上げます!!!もう私、なんて言ったらいいか.........!!!」
ナリブ「おい、頭を上げろ!!感謝を言われる筋合いはないが!あの男の事はこってりと搾っておけ!!!あの男あの時助けた礼を駄菓子一つ寄越して終わりにしやがった!!」
全員(うわぁ...)
[うまい棒]と書かれた包装紙に包まれたお菓子が、ブライアンさんの手に思い切り握られていました。今も怒りに手をプルプルとさせています。流石のゴールドシップさんもドン引きしているようです。
ゴルシ「いや、アタシだってもっとまともな礼すんぞ.........焼きそばご馳走するとか.........」
ナリブ「.........はぁ、ところで、肝心のあのたわけはどこだ。ここに行くと連絡は来てたが.........」
「え、なに?玲皇居ねぇの?」
そんなどうしようもない程力の抜けた声が、廊下の方から聞こえてきました。そして、次の瞬間には保健室医の黒津木先生と図書室司書の神威先生が、顔をにゅっと出してきました。目の下に大きな隈を作って。
タキオン「おや、黒津木くん。それにモルモット代理くんじゃないか。彼なら一服しに外に出て行ったよ」ヤレヤレ
白銀「なんだよ。せっかく玲皇に二軍デッキビリビリドッキリしようと思ってたのによ」
デジタル「いや、実際ビリビリにしてたのにドッキリにはならなく無いですか?」
白銀「うるせぇぞ変態女」
デジタル「ミスタークレイジー。そう、ミスタークレイジーです。すっかり忘れていました」
二人の成人男性を病室内に投げて飛ばす白さん。本当に人間なんでしょうか?
二人は倒れた後即座に立ち上がり、椅子に座りました。ウトウトしながらも何とか意識を持とうと努力する姿が見られます。
黒津木「寝たら死ぬからな、創(ボソッ」
神威「わぁってらぁ、あの話した後これ飲んですぐ退散、だろ?(ボソッ」
ライス「な、何の話.........?」
二人「こ、こっちの話!!!」
慌てて両手で否定するお二人。どこか怪しさを感じます。後で追求した方がよろしいかも知れません。
取り敢えず、何故ここに来たのかを聞こうと口を開きかけたその時、また廊下から声が聞こえてきました。
「えー?なに?桜木くん留守?」
全員(お、女の人の声.........!!?)
白銀「外でタバコ吸ってるらしいっすよ」
「そっ、じゃあお話しといてくれる?私は桜木くんとお話してくるわ☆」
そう言った後、その女性は姿を見せず、遠ざかる足音と病院内がざわつく声が聞こえてきました。
まさか.........ほ、本当に浮気を.........!?い、いえ、まだそうと決まった訳ではありません!!!
そう悶々としていると、気が付けばナリタブライアンさんは目の前の椅子に腰を下ろして居ました。
ナリブ「それで?桜木はどこまで話した?」
ブルボン「デトロイトでヒットマンを撃破し、ビルを飛び越え損ねた辺りまでです」
ナリブ「.........一番肝心な部分を話してないじゃないか」
スズカ「嘘でしょ.........?」
沖野「い、一番肝心って.........?」
そう、その言葉が意味することは、今までの話は全て前座だったということです。
全く、トレーナーさんもさっさと話せば良いのに、あんな勿体ぶらなくても宜しいではありませんか.........
大きいため息を吐いたあと、ブライアンさんはゆっくりと話し始めました。
ナリブ「確かに、[アメリカでテイオーを見てくれる医者]は居なかった.........」
「[アメリカ]では、な.........」
ーーー
七日目 デトロイト空港
桜木「お世話になりました。パールさん、ジミーさん」
ジミー「呼び捨てで構わない。俺達はトモダチ、だろ?」
そう言って、ジミーは桜木に対して笑顔で握手をした。その様子を、パールは微笑みながら見て、本来ならば居るはずの無い[元ヒットマン]、ニコロ・エバンスは無表情で見ていた。
桜木「お前も、あの時いい夢見たって聞いたけど?」
ニコロ「ふざけるな。あの時見た夢は、よく分からん凱旋門近くで、そこのよく分からん耳の生え方した様な奴の隣で、大勢にカメラのシャッターを切られたんだ。あんなの二度とごめんだ」
桜木「良いのかー?トレーナーになったら、あんなのいくらでもあるぞー?」
ニコロ「くっ.........」
心底嫌そうな顔をするが、どこかバツが悪そうに顔を背けるニコロ。コイツも結局、桜木に振り回される事になるのか.........
それにしても、凱旋門.........それは私達頂点を求めるウマ娘にとっては、喉から手が飛び出でる程に欲しい物がある場所だ。それは.........
桜木「凱旋門賞」
ニコロ「.........?」
桜木「恐らくお前が見た夢の舞台だ。あの地で、多くの日本のウマ娘の夢が散っていった。夢だろうとなんだろうと、あの舞台に立てたなら羨ましい」
ナリブ「.........」
そうは言っているが、桜木の目は憧れと言うより、どちらかと言えば挑戦的であった。
愚直で、直線的で、迷いの無いその目。その目に当てられてしまえば、誰もがその気になってしまう、そんな桜木の目を、私は初めて見た。
ニコロ「.........お前も来い。今度は勝つ」
桜木「おいおい、まだトレーナーにもなってねぇのに凄ぇ自信だなぁ」
桜木「.........けど、それが強さだ」
桜木「重賞の重みも、GIの凄さも真に理解していない人間は、物怖じする事が無い。ただひたすらに強くなって、目の前の壁を壊せ。自分の殻を破ったように.........今度は、目の前の壁を」
ニコロ「.........!」
そう言って桜木は、右手で作った拳をニコロの鍛え上げられた胸に押した。まるで夢を与えるように.........
別れの言葉はそれきりで、何も無かった。ジミーもパールも手を振って、ニコロもその目で私達を見送った.........
ーーー
ナリブ「.........なぁ」
桜木「ん?どうした?」
ナリブ「あのヒットマンに言った言葉、アンタにしてはやけに芯が通ってたが、何かの受け売りか?」
飛行機を待っている間、暇に暇を重ねていた私は、つい桜木に疑問を問いた。別に、それを聞いてどうこうするわけではなかったが、どういう真意であの言葉が出てきたのかが気になった。
ゆっくりと懐かしむ様な目で空を見た後、照れくさそうに笑いながら、桜木はその口を開いた。
桜木「.........俺がトレーナーになった時、説明会をサボらされたんだ。古賀さんに」
桜木「あんなくだらない説明より、もっと有意義な事を教えてやる.........ってさ」
ナリブ「.........」
桜木「.........恐れるな。前を見ろ。常に壁を壊せ。仲間を信じて、お前の道を歩け」
桜木「.........俺はそうやって、あの人の意志を分けてもらった。だから、俺もあの人を見習ってそうしただけさ」
握りしめた王冠のアクセサリーに、信じる仲間の姿を思い出したのか、桜木は少し寂しげに、飛び立つ飛行機のその雲を見ていた。
信じる仲間を置いてまで、いや、信じているからこそ、置いていけたのだろうか?私には到底理解出来ない。そして、真似もできないだろう。人の夢の為にここまで出来る男を、私は知らない。
ナリブ「.........もう一つ聞きたいことがある」
桜木「今度は何!!お母さん気が短いんだからいっペに言って!!!」
ナリブ「誰が母さんだ.........なぜ[日本]行きじゃなくて、[フランス]行きなんだ?帰るんじゃないのか?」
降って湧いた疑問ではなく、今度はチケットを購入した時点で気になっていた事を聞く。すると奴は、自信満々に警察に保護されていた荷物から、一冊の本を取り出してきた。
ナリブ「?これは.........?」
桜木「エディ・ファルーク。ウマ娘に関しての知識は黒津木の上を行く唯一存在。そして、その人が院長務めてる病院が、[フランス]にある.........!」
「行くぞ.........![パリ]へっ!!!」
力強くそう宣言をする桜木。ここ、デトロイトでは見れなかった自信を、ようやく取り戻したのだろう。期待に胸を膨らますように、奴は息巻いていた。
かく言う私も、飛行機に乗り込んでからは、よく分からない期待を胸に、未だ見ぬ地、[パリ]への憧憬を胸に、二度目の空の旅を迎えたのであった.........
......To be continued