山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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奇跡の境界線はすぐそこに

 

 

 

 

 

 七日目 パリ、シャルル・ド・ゴール国際空港

 

 

桜木「.........」

 

 

 デトロイトの空港に比べ、それなりに綺麗な雰囲気があるフランスの空港。俺はそこで、ブっさんのトイレを待つ傍ら、ある人物へメッセージへと送っていた。

 それは以前、会えるかどうかの相談をした以前の職場の先輩に対して送ったものだ。(※ライスシャワー「猫さんだ.........!」参照)

 

 

 ブーッブブ!

 

 

 [ごめんなさい、明日は用事があるから厳しい]

 

 

桜木「.........そっか、まぁ、仕方ないよな」

 

 

 正直、期待半分、諦め半分ではあった。先輩にも先輩の人生がある。せっかく日本を飛び出して、フランスでの生活を謳歌しているのだ。わざわざこんな話をして、あの人の軌道を揺らがせる訳には行かない。

 それに.........

 

 

桜木(一応、アポは取れたしな)

 

 

 デトロイトで行き詰まったある日。俺は試しに、会う事はエディ先生に会うことは出来るかという話を、病院に電話を掛けて話してみた。

 相手は何だか言い淀んでいたり、困惑していたりしたが、アポはアポだ。テイオーを見てくれとまでは言わないし、アドバイスか何かを貰えればそれで良い。

 

 

ナリブ「すまん、待たせた」

 

 

桜木「いや、構わない。取り敢えず今日はもう遅いから、どこかホテルに泊まって、明日病院に向かおう」

 

 

 俺はブっさんにそう言ってから、先輩にメッセージを返した。また、当たり障りの無い事を書いて.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!!!どういう事なのよ!!!」

 

 

 書類に埋もれた部屋。廊下や他の部屋とは違う、どこか威厳を感じさせるような雰囲気のある、この建物唯一の部屋の中で、私は目の前の、かつて[院長秘書]だった彼に声を荒らげた。

 

 

秘書「いいですかボス」

 

 

「ボスじゃない!!!私の事は前の様に.........」

 

 

秘書「そうは行きません。先代の院長が失踪した際に発見した手紙に、代理は貴女だとそう書かれておりました」

 

 

「ぐぬぬ.........」

 

 

 私には似つかわしくない、院長の椅子に気が引けながらも腰を下ろし、上に書類が散乱しつつも、どこか厳かな机の上で頭を抱えた。

 だって有り得ないじゃない!!!私を通さずに!!!勝手に!!!先代の院長名義で!!!アポを取るなんて!!!

 

 

「いいからさっさと断りなさい!!!こんな格好で人に出れるわけないじゃない!!!」

 

 

秘書「至って普通の格好ですが?」

 

 

「私には私の正装があるの!!!初対面の人とこの格好でどう話せって言うのよ!!!」

 

 

秘書「あの格好は些か変質者じみていますが」

 

 

「私が安心して話せる格好があれなの!!!文句ある!!?」

 

 

秘書「ええ、我が病院の信頼に関わりますね」

 

 

「じゃあ私を院長から下ろしてよ.........」

 

 

 長いブロンドに染めた髪が視界に入る。最近は診察も無いし、人前に出ることもなかったからあの格好をする必要も無い。

 そう思っていたのに、今全てが壊された.........一体誰なのよ、今日来たっていう、[居ないはずのエディ先生]に会いたい来客って.........

 

 

秘書「ほら、もう行きますよ。良かったじゃないですか、わざわざ同じ日本人に変質者だと思われなくて」

 

 

「日本人なの.........?そう、じゃあ.........まだ安心ね.........」

 

 

 私はため息を吐いてから、ウォーターサーバーから出てくる冷えた麦茶を一気に飲み干した。

 .........思えば、エディ先生の居た頃は、お茶くみばかりさせられていた気がする。男って、どうして女の子にお茶を汲ませたがるのかしら?理解に苦しむわ、自分で取りに行った方が確実で手間は掛からないのに、それでお給料が一人分出てくるなんて、非合理的よ。

 

 

(.........彼のお誘い、こんな事なら受けとけばよかったかも)

 

 

 変に真面目な所が災いして、久々に会う後輩の話を断ってしまった。院長とは言っても代理、世間ではまだエディ先生はこの病院に務めている事になっている。私が受け持っている患者に呼ばれれば診察もするし、治療もする。手術はまぁ、他の人が居るし、私はしないけども。

 

 

「.........分かったわ、行きましょう?相手を待たせちゃ、失礼だものね」

 

 

秘書「その通りです。ボス」

 

 

「ボスはやめて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

ナリブ「.........」

 

 

 時計の針が痛々しい程に響いてくる静かな部屋。会議室なのだろう。そこにはフリップボードやらプロジェクターやらが備えられている。

 

 

桜木(懐かしいな、営業してた頃を思い出す)

 

 

 あんな日々、思い出したくもないが、この知識の貯留ができたのは、本当に運が良かったのかもしれない。あの開発部の[先輩]に会えなければ、それさえ無かった。

 あぁクソ。それ以外はタバコを吸ってた記憶しか無い。吸いたくなってくるじゃねえか、ここは病院だ。我慢しねぇと.........

 

 

「〜〜〜!!!」

 

 

「.........」

 

 

ナリブ「.........?揉め事か?」

 

 

桜木「さあな、フランス語は分からん。あんなに巻舌出来る人種他に居んのか?」

 

 

ナリブ「なんだ?出来ないのか?試しにやったら出来るかもしれないぞ?」

 

 

桜木「.........らーーーらららららら」

 

 

ナリブ「フン」

 

 

 鼻で笑われた。酷い。やれって言われたからやったのにこの仕打ち。まぁ俺もデトロイトで散々滅茶苦茶して迷惑かけたし、仕方も無いか.........

 そう思っていると、ドアノブが不意に回される。

 その時、極度の緊張のせいか、時間が止まったように感じた。それでも時計の針が進む音は痛々しくて、鉛のように重い唾を飲み込んでしまう。

 その扉が開かれた時、あの書物の著者であるエディ・ファルークの写真には無かったブロンドの長髪に目を引かれた。

 

 

桜木(エディ先生じゃない.........?)

 

 

「ごめんなさいね、エディ院長は今.........え?ウソ.........!!?」

 

 

桜木「え.........?アレ.........?」

 

 

 そこに立っていたのは、いや、佇んでいたのはブロンドの長い髪をした、女性.........メイクこそしているものの、その姿はどこか、俺の世話をしてくれた[先輩]に似ていた。

 いや、似ている所ではない。あの時は分厚いレンズのメガネをしていて、光が当たれば茶色に見えた髪ではあったが、顔のパーツは先輩そのものだ。

 .........他人の空似だろう。いくら会いたかったからとは言っても、こんな所で私情を挟んでは行けない。そう思っていた。

 

 

 次の彼女の一言までは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜木くん.........!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「っ!!???嘘だろ.........!!?」

 

 

ナリブ「な、なんだ急に立ち上がって!!?知り合いか.........!!?」

 

 

 あまりにも劇的な、そして有り得ない筈の再会。それが有り得てしまった。座っていた椅子を後ろに倒した事も、ここに来た目的も一瞬ですら忘れてしまう程の、そんな衝撃的な再会であった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナリブ「.........まぁ、出会いはこんな所だ」

 

 

テイオー「.........あー」ダラダラ

 

 

ナリブ「?どうした.........?」

 

 

マック「ドウイウコトデスノ?カレハタシカコイビトハオサナナジミトイッテイテデートノケイケンモソコカラデキスモシタコトナイト、マサカウソ?ウソヲツカレマシタノ?」ブツブツ...

 

 

 自分の口から、まるで呪詛のような負の感情が溢れだしてしまいます。分かってはいても、それを止める事は出来ません。これが嫉妬がどうかすら判別がつかない程、余裕がありません。

 

 

ナリブ「なんだあれは、新手の特急呪霊か?」

 

 

ゴルシ「ああ、恋の病っつう呪いに狂い踊らされちまってんだ。おっちゃんも隅に置けな「ゴルシ!!!」やめろっつってんだろォ!!!」

 

 

沖野「どうしてアイツが絡むとこううるさくなるんだ.........」

 

 

マック「.........はっ!」

 

 

 ようやく、周りの喧騒が耳に入ってきて我にかえりました。ああ.........なぜあの人の事になるとこう、周りが見えなくなってしまうのでしょう.........

 ウララさんもライスさんも心配そうに、私の方をじっと見ています。それがなんだかとても申し訳なく思います。直ぐに大丈夫だと伝えました。

 ようやく話の続きを.........そう思った時、ブライアンさんの様子が少し変でした。難解なパズルを解いてる時のように、何かを考え抜いた末、恐る恐る、口を開きました。

 

 

ナリブ「恋って、誰が誰に?」

 

 

マック「え」ダラダラ

 

 

ゴルシ「そりゃお前マックちゃむぐむぐ」

 

 

 私は慌ててゴールドシップさんの口を塞ぎました。えぇ、危ない所でした。確かに彼の事になると周りが見えなくなる節があるのは自覚していますが、これが恋心がどうかは、実の所分からないのです。

 彼に対して、どのような好きの感情か、まだ名前をつけていない以上、下手に誤解を招くような表現をされるのは溜まったものじゃありません。これで危機は去りました。

 

 

白銀「その子と玲皇に決まってんじゃん」

 

 

マック「」

 

 

全員「あ」

 

 

 そうでした。この人、こういう事を言いふらす人でした.........あぁ、また変に誤解されて、からかわれるか生暖かい目で見られるかのどちらかの対応をされてしまう.........

 そう思っていましたが、今尚、ブライアンさんは腕を組んで、難解なパズルがひとつ増えた様な顔でポツリと呟きました。

 

 

ナリブ「れ、恋愛.........と言う奴らしいな、分からない」

 

 

全員「え」

 

 

ゴルシ「オメーピッコロか?」

 

 

 今までに無い反応をされましたが、正直助かりました。からかわれるのも生暖かい目で見られるのも、あまり好きでは無いので。

 とは言っても、まるで見たことの無い生物を見られるようにじーっと観察されるのは頂けませんわね.........

 

 

マック「あの、そうじーっと見られると、こちらも反応に困ります.........」

 

 

ナリブ「あぁ、悪い。私の周りで恋愛してる奴なんて居なくてな。しかし、表面上は余り変わらないな」

 

 

テイオー「サブトレーナーが来たらすぐ分かるよ♪」

 

 

マック「テイオー!!!」

 

 

 思わず声を張り上げてしまいましたが、テイオーは悪びれる様子もなく、きししと笑って楽しんでいました。こっちは楽しくとも何ともありませんのに.........

 こほん、とブライアンさんから咳払いの音が聞こえてきます。どうやらようやく、話の続きが聞けそうですわ.........

 

 

マック(もう.........許しませんわよ、トレーナーさん.........!)

 

 

 心の中で、半ば八つ当たりであることを知りながらここには居ない彼に対して、私は行き場のない怒りをぶつけました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩「そう、そんな事が.........」

 

 

桜木「いや、こっちこそそんな事があったなんて知りませんでしたよ。会社辞めて単身フランスなんて.........」

 

 

 あの後、積もる話もあるものの、掻い摘んでお互いの状況を話した。

 先輩は会社を辞めたその後、妹が居るというフランスのパリへ飛び込んだらしい。元々付き合いで習わされたフランス語のお陰で、言語の壁は無く、大学で取得していた医師免許も相まって、この病院で下働きから再度医師免許を取得し、医者になったと言うのだから驚きだ。

 

 

桜木「そっかぁ.........そんな先輩が、今やブロンドの髪をなびかせて院長かぁ.........」

 

 

先輩「だぁかぁらぁ!!!名義はエディ先生なの!!!常にあの人が行動するような事を想定しながら病院の方針考えるのもしんどいのよ!!?」

 

 

桜木「けど、会社に居た時より楽しそうだ」

 

 

先輩「はぁ、そりゃそうよ。多くの人の手助けが出来る。そう思ってあの会社の開発部に居たのに、結局はお金儲けの事しか考えてないんだもの。お金なんて、後からついてくる物なの」

 

 

 本当、人生とは分からないものだ。俺は彼女の秘書(先輩は頑なに否定していた)に出された麦茶を一口飲む。久々に、日本を感じた気がして心が休まった。

 

 

ナリブ「.........話を咲かせている最中にすまないが、ここに来た理由をさっさと話した方が良いんじゃないか?」

 

 

桜木「あぁ、そうだった。本当はエディさんに話が伺えればと思ったんだけど、元々先輩にも相談しようとしていた事なんだ」

 

 

先輩「わ、私に.........?何かしら.........」

 

 

 さっきまで和やかな雰囲気だったが、その空気が一変する。それは、俺個人が感じているものかもしれないし、ここにいる全員が感じている事かもしれない。

 俺は.........ここに来た理由。テイオーの足についての相談を、先輩に打ち明けた。

 

 

桜木「.........という事なんです」

 

 

先輩「.........そう、そういう事.........」

 

 

 俺の話をひとしきり聞いた後、先輩は深く考え込んだ。次に出てくる言葉でこの先が変わる。運命の瞬間だ。今まで俺を.........そして、これからテイオーを弄ぶ運命を、俺が壊す。

 時計の針の音すら耳に入ってこないほど、俺は次の言葉に、集中していた。

 

 

先輩「.........私は、貴方の力になりたいと思っている。たった一人の良い後輩だもの」

 

 

桜木「先輩.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、力になれそうも無いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「え.........?」

 

 

 [なぜ]も[どうして]も、喉をつくことすらしなかった。それほどまで、ここまで来て裏切られるとは、思ってもいなかったからだ。目の前の現実の飲み込みを拒否する理性も、人間が今まで積上げてきた知性という名の本能が、自動処理をし始める。

 ようやく、時計の針の音が聞こえてくる。その一回、一回にこれまでの苦難と困難の全てが想起され、燃やされて灰にされていく。俺は結局。運命には打ち勝てなかった.........

 

 

先輩「.........この病院にも、エディ先生が居た頃は、ウマ娘の治療や診察、手術を行ってきたわ」

 

 

先輩「けどね、世間には彼が高齢で、診察する事もままならないと伝えてからは、彼女達を診ることはしてないの。何故だかわかる?」

 

 

二人「.........」

 

 

先輩「[分からない]のよ。彼が、どうやって、何を基準に診断して、治療して、手術したのか、そのデータが、この病院に務めている私達に公開されてないの」

 

 

桜木「て、手伝った人達は!!?」

 

 

先輩「居るわ、エディ先生に詳細は伝えられず、ただ経過の報告や手術の指示に従っただけ。どういう理由でそうしたのかも、伝えられてないの」

 

 

桜木「そんな.........」

 

 

 俺は今、どんな顔をしているだろう。少なくとも、あの子達に見せていいものでは無い事くらい、理解出来る。ここまで来て、無茶までして.........一体、何をしにここまで来たんだ。

 

 

先輩「.........ごめんなさいね」

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 俺は結局、人を苦しませただけだ。目の前の人を、テイオーも、そして.........マックイーン達にも、ただ無駄に、苦しませた。

 医者を連れて来るどころか、アドバイスすら貰えない。俺は.........ただひたすらに、無力だった。

 

 

ナリブ「.........日本はもう、日本ダービーの日か」

 

 

先輩「.........じゃあ今日が、運命の日って訳ね」

 

 

桜木「.........」

 

 

 部屋に備え付けられた時計は午後六時を指し示す。日本より8時間遅れているフランス。向こうではもう、東京ダービーの日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人々の歓声

 

 

 熱狂的な空気

 

 

 二本の指を掲げる少女

 

 

 ぎこちなく僅かに動く左足

 

 

 夢の崩れる音、時計の針と共に聞こえてくる。

 

 

 神様によって敷かれたレールの上をただ歩くその物語に何も抵抗も出来ないまま終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供(ウマ娘)の夢を守らずして、何が大人(トレーナー)だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めきれません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩「.........桜木くん?」

 

 

 俯いた彼から聞こえてきたのは、私の知っている彼からは到底想像出来ない程、粘り強く、そして、気迫に満ちていた言葉だった。

 

 

桜木「俺は、あの時.........トレーナーになった時に決めたんだ。誰にも、俺と同じ様な思いをさせないって.........!!!!!」

 

 

桜木「ここで逃げたら.........ここで終わったら.........ッッ!!!」

 

 

桜木「死んでも死に切れねェ.........ッッッ!!!!!」

 

 

先輩「.........っ!」

 

 

 伏せていた顔、彼はその顔を上げて、私を真っ直ぐ見てきた。その目はギラギラとした両目、いえ、双眸と言った方が正しいのかも知れない。

 獣の様な何かを追う者。そして、自分に近しいものを守る者の目。そんな彼の目が、私の心を射抜くように、真っ直ぐ私の目を見てきた。

 

 

ナリブ「.........私からも、頼む」

 

 

先輩「貴女.........」

 

 

 今まで黙っていた彼の隣座るウマ娘も、私に向かって頭を下げた。まるで、受け持つ患者の家族が、その命を医者に預けるように.........

 

 

ナリブ「アイツは鬱陶しいが、スゴい奴だ。会長や私と、並び立てるかも知れない、本当に強い奴なんだ」

 

 

ナリブ「それが.........!こんな怪我なんかで終わっていい筈が無い.........ッ!!」

 

 

先輩「.........」

 

 

 二人とも、その目で私の方を見た。誰よりも真っ直ぐで、誰よりも直線的。そして、誰よりも素直。そんな目、今どきの子供ですらしないのに、いい歳してそんな目をされたら、こっちは揺さぶられるに決まってる。

 .........特に、桜木くん。彼はこんな子じゃ無かった。諦めきれないなんて言う子じゃ無かった。上からの指示を仕方ないでこなして、理不尽に怒られればヘラヘラ流す。それが.........私が彼に対する、五年前で止まっている印象。

 

 

先輩(.........そうよ。たまにはギャンブルするのも悪くないわ)

 

 

先輩「.........分かった、こっちの出す条件をクリアすれば、私がついて行って上げる。ちょっと待ってて」

 

 

二人「!!ありがとうございます!!!」

 

 

 たった一欠片の希望ですら、彼らは喜んでそれに手を伸ばす。そんな姿に、私は少しだけ、[賭けてみる]ことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........これは?」

 

 

先輩「エディ先生が残したノートパソコンよ。これは全部彼が私に使っていいと伝言が記されていたわ。見て欲しいのはこのファイルよ」

 

 

 先輩はマウスのカーソルをあるファイルに合わせてクリックをする。その中にはもう一つフォルダがあって、その下にはExcelのデータがあった。

 

 

先輩「彼が残した物は全て目を通した。けれど、ウマ娘に関するものだけは見つからなかったの。この、パスワードで保護されたファイル以外からは.........」

 

 

ナリブ「っ!!じゃあこれが.........!!!」

 

 

先輩「ええ、ウマ娘に関する診察、治療、手術のデータに違いないわ。問題は」

 

 

 そう言いながら、先輩はExcelのデータをクリックする。そこには、数字の羅列だけが存在しているだけで、特に何も、ヒントも言葉も記されては居なかった。

 

 

先輩「この謎の数字の羅列。尋常じゃない量よ。これがパスワードの手がかりだと私は感じたわ」

 

 

ナリブ「数学、か.........あまり好きじゃないが.........やるしか「待て」.........なんだ」

 

 

桜木「.........似てる」

 

 

二人「へ.........?」

 

 

 似ている。確かに、この数字の羅列。特に最初の数字の並びに、記憶の片隅にある何かに引っ掛かりを覚える。俺は確かに、この羅列を知っている。

 数字.........数学.........それに関わりがあるとすれば、神威、神威創だ。確かに、この数字の羅列とアイツとの思い出に、なにか関連性を感じる。

 だとすればいつだ.........?確かに高校の頃、アイツから難しい数学の話を聞くのは割と好きだったが、こんな数字だけの羅列で教えられた覚えは無い。なんなら面倒くさがりだったから言葉だけで教えて貰った記憶しかない.........

 じゃあ卒業してからか?卒業してからなんてトレーナーになって出会うまで一度も.........

 

 

桜木(.........いや、会ったな、一回だけ)

 

 

 そうだ。アイツらにメンタル壊して仕事辞めたって連絡した後何も送らずに、トレーナーになるってだけ連絡した後だ。あの後古賀さん所に突撃しに来た後、良い感じに酔った神威が紙に書いて説明し始めたんだ。

 それだ.........!!正直難解すぎて理解も及ばなかったが、完全にそれだ!!!間違いねェ!!!だとするならば.........

 

 

桜木「そのファイルって、丸ごとコピーとか出来ますか?」

 

 

先輩「え?え、ええ、一応出来るけど.........」

 

 

桜木「じゃあメールで俺の親友に送ります」

 

 

先輩「は?」

 

 

 軽く体を押すと、先輩は流れるようにそこを退いてくれた。よし、後は神威にメールを.........いや待てよ。アイツLINEとか見ねぇしメールも見ねぇだろ面倒くさいしマジくたばれよバカ(でも好き)

 あーあ、どうする〜?誰に送る〜?正直白銀は口が軽くすぎてこれが大事な極秘資料だって事を口外しそうで怖い〜。じゃあもう黒津木しか居ない〜。

 

 

先輩「ちょ、ちょっとちょっと!!!これ一応だけど病院のデータなのよ!!?ダメに決まってるでしょ!!!」

 

 

桜木「良いからテーピングだァッ!!!」

 

 

先輩「えぇ!!!??」

 

 

ナリブ「また始まった」

 

 

桜木「言っときますけどねェ!!!この場に居ない人しか見られないデータなんて存在しないも同義なんですよ!!!存在しないデータを流して何になるんですか!!!死ぬんですかそうですか!!!じゃあ僕死にマース!!!」

 

 

先輩「そんなガンダムみたいな事言う空気じゃないでしょ!!!」

 

 

 勢いで喋ってしまったが、それでもどうやら俺の言った事に一理あるらしく、それからは大人しく椅子に座って事の顛末を見守ろうとしていた。

 そして見守ろうとしていた矢先に俺が変な文章打ち込んでるの見てまた止めに来た。

 

 

先輩「ちょっと!!!これで本当に読んでくれるの!!!??」

 

 

桜木「読む!!!」

 

 

ナリブ「どこからその自信が湧いてくるんだ.........?」

 

 

桜木「知りたいかッ!それはアイツが.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オタクだからだッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒津木「ブフォwwwエペ楽しすぎて寝れないwwwFPS止められないんだけどwww」

 

 

 時計の針がそろそろ深夜一時を指す頃合い。普通の社会人、ましてや学校勤務の奴は寝てるって?甘いぜ、甘ちゃんが。

 知らない奴に教えてやる。学校ってのはな、寝るところなんだよ(バカ)

 正直、最近は俺の保健授業に、如何に怪我が今後の人生に響くかを解いたお陰で、そこまで保健室を利用する生徒は居なくなってきた。偶に寝に来るやつとか居るけど、残念だったな。そこは俺のベットだ。

 

 

黒津木「あァ!!?クソァ!!!まぁだレヴオク使ってるバカいやがんのかよッ!!!あーはいはい!!終わり終わり!!!ダクソして寝るわ!!!」

 

 

 そう思ってエペを終了させ、パソコンのホーム画面に戻ってみると、メールの方に通知が来ているのに気が付いた。宛先は.........フランス?しかも病院か.........

 

 

黒津木「おっかしいなぁ.........こういう応援系はもう参加しないって公言したんだけど、手に負えない患者でも来たかぁ?まぁ有給使って飛んでいくしか.........ん?」

 

 

 そのメールを開く。そうして俺の目に飛び込んで来たのは、慣れ親しんだ言語の羅列であった。その言葉を眠気に浸された脳みそで必死に読み砕いていく。

 

 

 

 

 

 俺だ。機関のエージェントからの追っ手を何とか振り切る事が出来た。奴らを壊滅させる手をようやく掴んだが、俺の力だけではどうにも出来ない。

 そこでお前に白羽の矢が立った。黒津木宗也。俺と一番付き合いが長いお前に、このファイルを託す。お前が世界の命運を握っている。お前だけが、世界を覆す手段を持っている。

 その発想力と、神威の数式を用いて、この暗号を解いてくれ。健闘を祈る。

 

 

 エル・プサイ・コングルゥ

 

 

 

 

 

黒津木「.........ハハ、なんだよアイツ。元気そうじゃん」

 

 

 懐かしい。シュタインズ・ゲートかぁ.........そういや、アイツの影響で見たんだっけか。本当、お前は人を乗せる天才だよ。

 

 

黒津木「世界の命運ねぇ.........そうだよなぁ、俺達にとっちゃ、今生きている場所が世界なんだもんなぁ.........あークソ。夜中だってのにやる気が湧いてきちまったぜ」

 

 

 そのファイルをダウンロードしながら、俺は傍で充電していたスマホを手に取り、電話をかける。相手は勿論.........

 

 

神威「もひもひ.........」

 

 

黒津木「起きろぉ創ぇ。朝だぞー」

 

 

神威「マジ!!?(タッタッタ!シャッ!タッタッタ!)お前ェェェッッッ!!!!!」

 

 

黒津木「アッハ!!!ざまぁwwww」

 

 

神威「切るぞ」

 

 

黒津木「まぁそう言うなよ.........」

 

 

 俺はそう言いながら、ゲーミングチェアから立ち上がった。そして、暫く何も喋らなかった。いや、喋れなかった。何を言えばこいつが付き合うか、分からなかったからだ。

 あの 、メールに送られてきた文章。あの書き方は明らかに悪ふざけだ。俺達の間でしかまかり通らない、そんな悪ふざけ。でも、それは結局ただの飾りだ。

 きっと、あの内容自体は、玲皇から送られてきた言葉は、本物の言葉だ。電子の文章だが、今思えばそれは、ハッキリと伝わってくる。

 

 

 アイツはきっと、助けを求めてる。アイツの乗っちまった不幸なレールの行き先を、変えようとしている。世界を変えたいと、本気で願っている.........だから、俺は

 

 

黒津木「なぁ、今から変えようぜ、俺ら二人で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「玲皇の世界をさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神威「.........乗った。面白そうだ。今からそっち行くから待ってろ」

 

 

黒津木「おう、さっすが元ブラック企業勤め、深夜出勤はお手の物か」

 

 

神威「やめろ」

 

 

 それが最後の一言で、それっきり電話は切られた。俺は創の到着まで、先にファイルの中身を見ようと、ゲーミングチェアに座った。

 

 

黒津木「.........お客様が乗り込んだ列車は、途中下車が不可能な車両になります。忘れ物、失くし物、全て手に持って、安全確認を怠ること無く、ご乗車下さい」

 

 

 深夜テンションは最高潮。さっきまで感じていたゲームの充実感は比にならない。本当にアイツは、人を乗せるのが上手い。

 だから、俺も乗る。今度は失わないように、忘れないように、壊れないように、俺も、創も、翔也も、同じ列車に乗る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が乗った列車は、途中では降りられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒津木「.........はっ、FF7かよ」

 

 

 そんな一つの言葉で、これからの状況はひっくり返る。深夜一時を回った時間にそう、俺はそう思った.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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