山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

68 / 235
マックイーン「おかえりなさい!!!トレーナーさん!!!」

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

安心沢「えっと、その.........ごめんなさいね?」

 

 

 手を合わせて謝るトレーナーさんの社会人時代の先輩、安心沢さん。しかし、トレーナーさんはそれをふいっと顔を背けて知らないフリをしました。そうされた彼女は地味に傷付いています。

 トレーナーさんが.........彼が病室に戻り、過去と現在の安心沢さんの変わり様が余程ショックだったせいか、暫く嗚咽が病室内に響き渡っていたその後、今は椅子に座って、見た事ないほど不機嫌な顔を晒していました。

 

 

マック「と、トレーナーさん?ほら、安心沢さんも謝ってる事ですし.........」

 

 

桜木「嫌だ。絶っっっ体許さない。先輩は半年間だけとは言え、あの会社で唯一の心の拠り所だったんだ.........もしまた同じ事が起きたら俺は.........」チラッ

 

 

マック「.........!!?わ、私はあんな風にはなりませんわ!!!」

 

 

安心沢「あんな風ってなによ!!!」

 

 

マック「あーーーもう!!!話がややこしくなりますわ!!!」

 

 

 きっ!と口を挟んだ彼女に睨み付けると、少し驚いた様な顔をして、立ち上がった椅子から座り込みました。

 そこから何か考えるような顔を見せましたが、やがてなにか納得して、それから口を挟むことはしませんでした。これでようやく彼を落ち着かせ.........

 

 

黒津木「おい」

 

 

桜木「.........あ?」

 

 

 目に酷い隈を作った黒津木先生が、トレーナーさんの前に立ちはだかる様にして麺と向かいます。その顔はどこか不敵な笑みを浮かべていました。

 

 

黒津木「ふふ「止めないかッ!」まだ何も言ってないだろ!!?」

 

 

 笑いの後、何かを言おうとした黒津木さんはビンタという制裁を受けました。正直、今の黒津木先生が何を言おうとしたのか分かりませんが、なんだか一波乱起きそうでしたので、私はそっと胸を撫で下ろしました。

 

 

 

桜木「じゃあなんて言おうとしたんだよ」

 

 

黒津木「十日間もイチャラブしてたんだね.........ナリタブライアンとかってさ」

 

 

桜木「.........俺の右手が「ホントのことだろッッ!!!??」」

 

 

東「カミーユ・ビダン.........」

 

 

 隣に座っている東トレーナーから聞き慣れない人物名が聞こえて来て振り返りましたが、皆さんの視線を受けて、彼は咳払いをしました。

 その声に、襲われかけている黒津木先生と、右手をその彼に押し当てようとするトレーナーさんが振り返りました。

 

 

東「説明、してもらおうか」

 

 

桜木「.........」

 

 

東「皆に、少なくとも、何も聞かずに協力した俺に、それを聞く権利は発生するんじゃないのか?」

 

 

 その東トレーナーの言葉に、取っ組み合いをしていたお二人は顔を見合せました。その目は決意.........ではなく、どうするべきかをお互いに問い掛けあっている様子でした。

 五秒程そんな時間が経った時、不意に何かを叩く音が、お二人の視線を動かします。その視線の先は、神威司書が椅子の座る部分を叩いた後で、お二人の視線の先が自分に来たと分かった瞬間。人差し指を下に向け、動かします。座れ、という合図を、口に出す事無くお二人に出したのです。

 

 

黒津木「.........へへ、助かっち(ボソッ)」

 

 

桜木「.........それはどうかな?」

 

 

 先に、椅子に着いたトレーナーさん。次に黒津木先生が座ろうとしましたが、その一瞬で彼は先生の椅子を後ろに引いて、転ばせました。

 

 

桜木「.........まず、今回の事。謝らせて欲しい」

 

 

全員(あ、続けるんだ.........)

 

 

 後方に思い切り倒れ込んだ先生が怒鳴りつけようとしましたが、場の空気が変わったせいか、先生も空気を読んでその顔を見せかけた怒りを無理やりしまい込み、椅子をしっかりと手で固定して座りました。

 

 

桜木「.........俺の身勝手のせいで、皆に凄い迷惑を掛けた。本当に.........ごめん」

 

 

ウララ「トレーナー.........」

 

 

 彼は深々と頭を下げました。優しいウララさんが声を掛けますが、それに答えることは無く、暫くの間、沈黙が流れました。

 

 

テイオー「.........頭、上げてよ」

 

 

桜木「.........」

 

 

 この騒動の、話の中心であるテイオーがそう声を掛けると、彼はゆっくりとその頭を上げます。その表情からは、しっかりと話す決意を固めたという様子が見て取れました。

 

 

テイオー「まずさ、なんでボクが怪我することが分かったの?」

 

 

沖野「っ、それは」

 

 

桜木「良いですよ沖野さん。俺が話します」

 

 

 何かを話そうとした沖野トレーナーを遮り、彼は深く息を吸い、吐きました。何を言われても仕方が無い。そういう様に彼はどこか諦めた表情をし、話を始めました。

 

 

桜木「.........俺が、テイオーの骨折の可能性を知ったのは、あのアンテナを付けてマックイーンと並走した夜だ」

 

 

テイオー「え!!?」

 

 

マック「ま、待ってください!!だって、あの時はデータが読み込まれず、エラーが.........」

 

 

桜木「それはあのノートパソコンが一部の機能しか使えなかったからだ。家に帰った後、俺は不意に、自宅にあるパソコンにデータを移して、その詳細を見た.........その結果が、テイオーの足には、骨折の可能性があると言う物だった」

 

 

 淡々と事実だけを述べる彼の表情は、まるで氷のように冷たいものでした。優しさも、私情も一切挟むこと無く、彼は彼の見てきた事実だけを伝えています。

 皆さんは、その言葉に衝撃を受けました。なんせ、その出来事は私がデビューする以前の話です。その時から、彼はテイオーの足について、知っていたと言ったのです。

 

 

ゴルシ「.........そういう事かよ」

 

 

マック「.........?ゴールドシップさん.........?」

 

 

ゴルシ「いや、こっちの話だ」

 

 

 彼女はどこか納得したような表情をしていました。そして、その隣にいるタキオンさんも、まるでそれを知っていた様に振舞っています。

 ですが、それ以外は.........テイオーですら、その事実については、どうやら知らされていなかったようです。

 

 

沖野「.........俺も、知っていた」

 

 

テイオー「えぇ!!?トレーナーも!!?」

 

 

沖野「それが分かった次の日の朝、桜木は相談してきた。お前のデビューを、どうするかを.........」

 

 

マック「.........なぜ、何も言わなかったんですの?」

 

 

桜木「テイオーはああ見えて、察しもいいし頭も良い。走り方に問題があると言われて修正した上で、三冠を取れるかなんて、すぐにでも分かると思ったからだ」

 

 

 確かに、トレーナーさんの言い分は分かります。それを悟らせること無く、解決法を見つけられれば良い。それ以上の最善は無いでしょう。

 私もきっと、同じ立場だったら.........

 

 

マック(黙っていた.........でしょうね)

 

 

 自分の言葉で、誰かの夢や目標への道を閉ざす。それほど軽々しく、そして重々しい事はありません。他の誰かならともかく、テイオーはそれが有り得てしまった。

 .........ですが、テイオーはどうやら、言わなかったという部分より気になる所があったらしく、ゆっくりとその口を開きました。

 

 

テイオー「あの、さ.........?[走り方に問題がある]......って.........?」

 

 

桜木「.........お前ももう、薄々感づいてるだろ?」

 

 

全員「.........」

 

 

 重々しい空気。それを肌で感じとれてしまうほど、今この空間はそれに支配されています。それは恐らく、誰も聞きたくない、そして、誰も言いたくない事。

 それを、彼は臆する事はせず、しっかりとした強さで、言い切りました。

 

 

桜木「[テイオーステップ]だ。あの走法が、お前の足に負担を掛けている」

 

 

全員「.........!!」

 

 

テイオー「あ......はは...そっか.........」

 

 

 彼女はそう言って、顔を伏せました。普段の明るさは身を潜め、彼女の不安や恐怖が、明らかに見て取れてしまいました。

 

 

マック(テイオー.........)

 

 

 明らかに、夢が壊れる様な音が聞こえて来ます。一度も聞いたことなど無いはずなのに、一瞬でそれだと分かってしまいます。

 .........それでも、彼は.........トレーナーさんは止まりません。立ち上がった彼はその足取りで、テイオーが居るベッドの側まで近付きました。

 

 

桜木「まだ終わりじゃねえぞ」

 

 

テイオー「え.........?」

 

 

桜木「お前の夢は、まだ終わってない」

 

 

 そう言った後、見下ろす様な目線から膝を曲げ、テイオーと同じ目線になるトレーナーさん。その声からは、覚悟と厳しさと共に、彼の優しさが混じっていたような気がします。

 

 

桜木「俺達がお前の足について黙っていたのは、お前を傷付けたくなかった訳じゃない。お前の夢が叶う可能性を、一つでも潰したくなかっただけなんだ」

 

 

テイオー「っ、でもボク.........トレーナーやサブトレーナーに迷惑掛けて―――」

 

 

桜木「迷惑なんて誰でも掛ける。俺だってお前より沢山の人に迷惑掛けた。それはお前のせいじゃなくて、俺がやりたかった事をやった代償だ」

 

 

桜木「それでも大人は子供の夢を守るものだし、子供は大人の背中を見て憧れるもんだ。後悔はしてない。反省もしない。だからもし、迷惑を掛けたお詫びをしたいってんなら―――」

 

 

 次の言葉を言う直前。彼は先程までの真剣な表情を変えました。その、私の目に映る横顔は、まるで全てを覆せてしまう.........そう、まるで奇跡のような、[何でも乗り越えてくれそうな]、あのニカっとした笑顔で、彼はテイオーに言い切りました。

 

 

桜木「お前が大人になった時、子供達にカッコイイ背中を見せてやってくれ」

 

 

テイオー「.........!」

 

 

桜木「約束だ」

 

 

 トレーナーさんは小指を出して、それをテイオーに向けます。前々から思っていましたが、彼は本当に、人を乗せるのがお上手です。先程まで暗かったテイオーも、徐々にその顔に明るさを取り戻していきました。

 無言のまま、お二人は指切りを終えると、彼は自分の席へと戻って行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........んで、肝心の治療法だけど」

 

 

 話を一つ進めようと思い、俺は安心沢先輩の方を見ながらそう問いかけた。俺のその視線に気付いたのか、彼女は堂々と立ち上がり、声高らかに宣言した。

 

 

安心沢「安心して!絶対治るわ!!」

 

 

全員「ほんとう!!?」

 

 

安心沢「多分☆!!!」

 

 

 先程までとても頼りがいのある雰囲気であったが、最後の一言で一気に胡散臭くなった。なんでこうなってしまったのだろう.........

 俺はまた悲しくなって頭を抱き抱えた。

 

 

ゴルシ「おい!!!話が違ーだろ!!!」

 

 

安心沢「お黙りウマガール!!!良い!!?これでも譲歩に譲歩を重ねて出した言葉なのよ!!!断言なんてして見なさい!!!裁判になったら即一発アウトよ!!!医者はどんなにリスクが無くても100%は使わないの!!!」

 

 

黒津木「うんうん」

 

 

 そんな情けなさを感じる力強い発言に、隣にいる黒津木は首を大きく縦に振った。まぁ確かに、どんな簡単な手術でもミスがあれば大変だ。特に人の命に関わる事。断言は出来ないだろう。

 しかし、先輩はその発言の後、昔のような柔らかい表情で言葉を繋いだ。

 

 

安心沢「けど、全力は尽くすわ」

 

 

安心沢「あの桜木くんが、あそこまで必死になるんだもの。可愛い後輩の為に頑張るのが、先輩の努めよ」

 

 

桜木「先輩.........」

 

 

 その姿は正に、社会人時代で見せてくれたあの時の姿と同じだった。頼もしく、そして時に厳しい先輩。なにより、身体の動きに関しての情熱は、とても目を惹かれるあの時と全く同じ姿だった。

 そうだ。いくら見た目が変わって、変質者になっても、根っこの部分は変わらない。あの人は俺が尊敬している先輩の一人で、立派な人なんだ。

 

 

スペ「な、なんかカッコイイですね.........」

 

 

ライス「う、うん」

 

 

沖野(変な影響受けなきゃ良いけど.........)

 

 

 周りの安心沢先輩に対する視線が少し変わった。どうやら、少しは信頼してくれたみたいだ。俺はほっと胸を撫で下ろした。

 安心沢先輩は俺の方にチラリと視線を動かした後、テイオーの居るベッドの方へと歩き、身体の調子や怪我の状態についての確認をし始めた。

 

 

桜木(.........もう、安心だな)

 

 

 確証は無い。それでも、これでようやく地獄行きのレールがシフトした気がした。レースに出る事が一番の目的ではあるが、テイオーの心が救われたのならば本望だ。

 これで、ようやく俺も休め―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ終わってませんわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「え?」

 

 

 ようやく、この疲れともおさらばできる。そう思った矢先に、不意にそんな声が聞こえてきた。

 伏せていた顔を上げ、その声の主。マックイーンの方へと視線を動かすと、そこにはニコニコと笑っているが、明らかに怒っているマックイーン.........いや、マックイーン[達]がそこに居た。

 

 

マック「確かに、トレーナーさんは動かなければ行けなかったのかも知れません。それについて咎めるつもりはありませんわ」

 

 

マック「けれど、いなくなる直前に私は言いましたよね?」

 

 

桜木「な、何を.........?」

 

 

 離れる直前。確かに、何かを話した気がするし、現にそれのお陰であの時大分気が楽になった。だが、あの時マックイーンは何を.........

 俺の思考が及ばないのが分かったのか、マックイーンは仕方ないと溜息を吐き、答え合わせをするようにその言葉を強調した。

 

 

マック「[バレた時の罰を、文句を言わず、甘んじて受けること].........そう言いましたよね?」

 

 

桜木「え?あっあ.........」

 

 

 そうだ。そう言えばそんなことを言われた気がする。確かその時俺もそれで納得した気がする。

 だがそれはあの一時の感情だ。見ろ。ウララやライス、ブルボン以外は皆それぞれの怒りで俺を見ている。受けなければならないのは分かるが、受けなくても良ければ俺はそっちに流れたい。

 

 

桜木「お、おおお俺だけか!!?コイツらも同罪だろ!!!」

 

 

白銀「はァ!!?」

 

 

黒津木「言うと思った」カポッ

 

 

神威「この瞬間を待っていたんだ!!!」ゴクゴク

 

 

 俺が慌ててアイツらに指を指す。すると、神威と黒津木は自分で持ってきたであろう水筒の中身を飲み干した。

 因みに白銀はその中身がなんなのか察したらしく、半分ほど飲んだ神威の水筒をぶんどって自分も飲んだ。相変わらずの暴君さに安心すら湧く。

 

 

白銀「うおおぉぉぉ!!!力が!!!湧いてくるッ!!」

 

 

神威「バカ!!!すぐずらかるぞ!!!罰を全部玲皇に押し付けんだ!!!」

 

 

黒津木「バーカバーカ!!!」

 

 

桜木「俺を裏切ったのか!!?俺を売ったのか!!?」

 

 

「「「俺達の満足は!!!これからだッ!!」」」

 

 

桜木「この裏切り者ォォォォォッ!!!」

 

 

 奴らは若干身体を光らせながら、急いで病室から抜け出した。恐らくアグネスタキオンのウマ娘化薬だろう。これで、今この場で罰を受ける対象は俺一人になった訳だ。

 俺は廊下に向けた顔を、ギコギコと音が鳴るような動作で首を皆の方へ向けた。どうやら見た感じ、アイツらを追うより、今この場にいる俺への罰を優先させる気らしい。

 

 

マック「トレーナーさん?」

 

 

タキオン「覚悟は」

 

 

ゴルシ「良いか?」

 

 

桜木「.........」

 

 

 それじゃあダメだ.........それじゃあ結局.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元通りのまんまだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもであれば、ここで彼の悲鳴が響き渡り、今日という日は終わりを迎えたでしょう.........しかし、彼は抵抗を見せず、その場で頭を垂れました。

 

 

桜木「僕は!!悔いているんだ!!今までの人生を.........!!」

 

 

マック「あ、あの......トレーナーさん?」

 

 

桜木「バカな事をしでかしたよ.........!!!」

 

 

全員「.........」

 

 

 その姿は、本当に悔やんでいるようでした。今までならば、どこか抵抗を示してもおかしくはないのに、今回はその様子は一切ありません。

 一人、二人と、怒りの感情が鞘に戻っていく空気が感じられます。本当に反省しているのならば、今この場で許して差しあげても―――

 

 

「信じるなよ。ソイツの言葉を」

 

 

桜木「.........!!」

 

 

マック「ぶ、ブライアンさん!!?」

 

 

ナリブ「私はコイツと十日間行動を共にしてきた。だから、コイツの性質は何となくわかる.........ゲロ以下の性悪さが鼻につくレベルの悪人だぞ」

 

 

 その一言で、ブライアンさんのその言葉で、鞘に戻りかけていた感情が元に戻ります。その空気を肌で感じとったのか、トレーナーさんは立ち上がり、自らが座っていた椅子に戻りました。

 どこか諦めたように、そして仕方が無いというように、彼は溜息を吐きました。

 

 

桜木「.........タキオン」

 

 

タキオン「.........?」

 

 

桜木「人間ってのは、能力に限界があるな.........」

 

 

 そう言いながら顔を上げた彼の表情は、何か憑き物が落ちたような顔で、どこか柔らかさを感じました。諦めて罰を受ける気になったのでしょうか.........?この異様な雰囲気に、また不安を感じてしまいます。

 

 

桜木「人間は、策を弄すれば弄するほど、予期せぬ事態で、策が崩れさるってことだ」

 

 

桜木「人間を超えるものにならなければな.........!」

 

 

タキオン「なんの事だ.........?何を言っている!!?」

 

 

 それを聞いた瞬間、彼は顔を伏せました。チラリと見えた口元は、優しさとは無縁の笑みで、彼の大好きな[悪役]に似た表情でした。

 そしてそれは.........あながち間違いではありませんでした。

 

 

桜木「俺はァ!!人間を辞めるぞ!タキオォォォ―――ンッ!!」

 

 

全員「なっ!!???」

 

 

桜木「お前の薬でだァァァ―――ッッ!!!」

 

 

 彼はそう言って、自身のジャケットの内側から取り出したビンの中身を飲み干しました。

 侮っていました。迂闊でした。油断していた自分が情けないです。彼は可能性さえあればそれに賭けるずるい人です。そんなの、初めて会った時からそうだったではありませんか。

 呆気に取られていた私達を尻目に、彼は廊下へと飛び出して行きました。

 

 

マック「に、に.........!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃がしませんわよ!!!トレーナーさん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「カス共ォォォォォッ!!」

 

 

「「「げっ!!?玲皇ォ!!?」」」

 

 

 病院から全速力で約三分。アイツらは自分達にはもう関係がないと言うように公園でノンビリしていやがった。いや、そんなことさせんが?

 

 

神威「お前!!罰はどうしたァ!!」

 

 

桜木「逃げてきたに決まってんだろッ!!捕まる時はてめぇら全員道ずれにしてやらァッ!!」

 

 

黒津木「クッソ!!!逃げるぞ!!!玲皇の後追ってきてる奴らが尋常じゃねェ!!!」

 

 

白銀「ヘェェ!!?待って!!!俺のジュース!!!」

 

 

「「「うるせぇ早く行くぞッッ!!!」」」

 

 

白銀「俺のジュースが!!!」

 

 

 自販機で買ったであろう白銀のジュース。一回も白銀の手に触れることなく、あの落ちてくる場所へ寂しそうにポツンと缶ジュースはそこにあった。

 だがそんな事は関係無い。後ろを見ればマックイーンを筆頭に俺達を追うウマ娘達が血眼になっている。白銀の首根っこを掴んで逃げてる分ありがたいと思え。

 

 

マック「そこのトレーナーさん方!!!止まりなさいッッ!!!」

 

 

黒津木「今どういう状況!!?」

 

 

桜木「だまくらかして逃げてきたんだよッッ!!!捕まったら殺されるぞ!!!」

 

 

 四人一列になって逃げる姿はさながら訓練を受けた戦闘機のようだが、そんな雄々しいものでは無い。狩られるものと、狩るものの縮図そのものであった。

 あぁ、あんなに会いたい会いたい、聞きたい聞きたいと思っていたマックイーンの声も今は別。どうにかこうにか明日までは絶対に聞きたくない。

 そう思いながら、俺達は長い長い弱肉強食のレースを行う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウマ娘「待てーーー!!!」

 

 

桜木「逃げろォォォォォッ!!!」

 

 

タマ「あ?なんや今の.........おっちゃんか!!?」

 

 

 ウチらの目の前を横切って行った二つの集団。姿は確認できへんかったけど、声からしておっちゃん達とマックちゃん達や。海外から帰ってきてすぐの筈なのに、元気やなぁ。

 

 

イナリ「た、タマ」

 

 

タマ「なんやアホイナリ」

 

 

イナリ「お、オグリが.........」

 

 

 なんや、いつもなら突っかかってくるはずのウチの軽口に、何も言わずにオグリの名前を出して.........

 まさか!!さっき買った食いもん全部食って喉に詰まらせたんか!!?

 そう思って振り返ってみたけど、オグリはなんともあらへん。何かを探るように手を開いたり閉じたりしてるだけや.........ん?

 

 

タマ「お、オグリ?まさかさっき買った食いもん、全部食ってしもうたんか!!?」

 

 

オグリ「た、食べてない.........」ウルウル

 

 

オグリ「食べてないのに.........無くなった」ブワ

 

 

 いや、食ってないのに無くなったなんて有り得へんやろ。それもうあれやで?夢遊病で飯食ってるレベルの話やで?

 あーもうあれや、無意識下に食ってた!!そういう事にしよう!!なんか面倒臭い予感が―――

 

 

クリーク「オグリちゃん。アレ.........」

 

 

神威「なんか拾った」

 

 

二人(あんのアホ[バカ]―――!!!)

 

 

 多分、イナリも思ったで、だってウチと同じ顔してたんやもん。そして次にウチらは恐怖したんや。

 何にって?そんなん、オグリが次にどう行動するかに決まってるやん!!オグリはなぁ!!食いもんはくれるで!!優しいからなぁ!!けど、[あげる]んと、[奪われる]んは根本的に違うんや!!だから.........

 

 

オグリ「.........コロッケ、フライドチキン、焼き鳥、ささみ揚げ、カレーパン、焼きとうもろこし.........」

 

 

タマ「お、オグリ?アカンて、また買えばええやろ?な?」

 

 

オグリ「みんな、商店街の人達が丹精込めて私の為に作ってくれたんだ.........」

 

 

イナリ「き、気持ちは分かる!!けど冷静になった方が.........」

 

 

オグリ「皆の思いを無駄にする奴を.........!!生かしておくかぁ.........ッッッ!!!!!」

 

 

二人(アカン[ヤバイ])

 

 

 目の色が変わったオグリは、その目に青白い炎を灯してしもた。これはもう、ヘルカイザーならぬ、ヘルオグリや。もう誰にも止められへん。

 

 

オグリ「追うぞッ!!」

 

 

二人「お、おう!!!」

 

 

クリーク「楽しくなってきました〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「はァっ!はァっ!桂ァ!今何キロォ!!?」

 

 

黒津木「1キロ走りきったくらい!!!」

 

 

白銀「追いつかれる!!追いつかれる!!」

 

 

神威「増えてない!!?ねぇ四人増えてない!!???」

 

 

 そんな切羽詰まった神威の声に釣られて後方を確認してみる。居る。ヤバいのが一人。ヘル化の炎を瞳に宿した芦毛が一人。オグリキャップが増えてる。更に後方にはタマの姉御。クリークママ。そして江戸っ子イナリだ。地獄地獄

 

 

オグリ「私の食べ物を返せェェェ―――ッ!!」

 

 

黒津木「食い物!!?さっき神威が拾ったって奴は!!?」

 

 

桜木「僕が全部、食べちゃいました.........」

 

 

黒津木「食べたァ!!?この(走ってる)中の中でェ!!???」

 

 

桜木「腹減ってたんだよ!!!やっぱ飯は日本に限るよなぁ!!?うんめぇぇぇ!!!!!」

 

 

神威「不幸だァァァ―――ッ!!」

 

 

 某有名不幸系主人公の口癖を聴きながら、この状況をどう打破すれば良いかを考える。はっきり言ってこのまま逃げ続ければ捕まってしまうのは目に見えている。流石に走りのプロに、走りで勝とうだなんて到底考えられない。

 で、あるならば、その一つの要素にもう一つ足してしまえばどうなるだろう?走るだけではなくなってしまえば、少しは可能性は出てくるかもしれない。俺達[三人]はそう思った。

 

 

桜木「創ェ!!」

 

 

神威「あァ!!?」

 

 

桜木「俺はァ!手札からァ!速攻魔法!スケープ神威を発動ッ!」

 

 

 その宣言で察したのか、黒津木と白銀は息ぴったりに神威を追ってくるマックイーン達に蹴りつけた。え?死ぬって?安心しろ。アイツは俺と同じで死なない程度に豪運だ。

 そして思った通り、それに驚いたマックイーン達はその足を止めた。

 

 

ライス「お兄さま!!?」

 

 

神威「いっっっつ.........おい!!俺を裏切ったのか!!?俺を売ったのか!!?」

 

 

三人「創.........」

 

 

 悪いと思うさ.........!今もこうして苦虫を噛み潰して、お前との別れを悲しんでるんだ!俺達はそれぞれ、片手を握り締めて別れを惜しんだ。

 言葉は、要らない。俺達にそんな野暮なものは必要無いんだ.........生きているならば、またどこかで.........そんな思いを込めて、俺達[三人]は同じ掛け声とポーズを発した。

 

 

「「「デュエッ!!」」」

 

 

神威「こんの裏切り者ォォォォォッ!!」

 

 

 

 

 

 ―――司書さんは叫び声を最後に、ガックリと頭を下げました。そして、トレーナーさん方はまたもや逃走を続けます。

 

 

マック「彼には悪いですが拘束して置いていきましょう!!」

 

 

ブルボン「マックイーンさん。ここはスピカトレーナーに連絡を取って連行した方が良いかと思われます」

 

 

ウララ「疲れたよぉ〜.........トレーナー早いぃ〜.........」

 

 

 あぁ、可哀想に.........ウララさんからみるみる元気がなくなってきています.........それもこれも全て、トレーナーさんのせいです!絶っっっ対に許せません!!!

 

 

マック「分かりました!ウララさんと司書さんは沖野トレーナーの到着を待ってて下さい!他に残りたい方はいらっしゃいますか!!?」

 

 

タキオン「私も残るよ。正直長距離を走るのは向いてないんでね」

 

 

ダスカ「もしもしトレーナー!!」

 

 

東「今沖野は運転中だ!!俺が変わりに要件を聞く!!」

 

 

 流石スカーレットさん!!行動が早いです!!すっかり助かりました!!私は彼女からウマフォンを貸してもらい、すぐさま要件を伝えました。

 

 

マック「現在一人確保しました!!場所は〇〇店の前です!!ウララさんとタキオンさんが疲れてしまってますので一緒に乗せてあげてくださいまし!!!」

 

 

東「お、おう.........いつになく必死だな」

 

 

タキオン「彼女、桜木トレーナーの事になると周りが見えなくなるんだよ」

 

 

マック「タキオンさん!!!」

 

 

 私のお咎めも難なくひらりと身を躱すように、タキオンさんには何も応えていません。私はむぅっと声が出そうになるのを抑えつつ、ウマフォンをスカーレットさんに返しました。

 

 

マック「さぁ!!先に行ってしまわれたオグリキャップさん達を追いますわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀「はぁくそ.........創が死んじまった」

 

 

黒津木「悔いるな、必要な犠牲だったんだ」

 

 

 そう言いながら、俺と宗也は二人で息を整えていた。一方玲皇はと言えば、今目の前のコンビニで奥の手を購入している最中だった。

 

 

桜木「戻ったぞ!!」

 

 

白銀「何買ってきたんだ!!打開できるんか!!?」

 

 

桜木「にっくまーん!!残金28円!!」

 

 

黒津木「バカ返品して来い!!!」

 

 

桜木「ダーメだ俺ァ腹ぺこなんだムグググ!!!!!」

 

 

 ダメだこいつ、早く何とかしないと.........

 そんな事を思いながらさぞ美味そうに肉まんを貪り食う玲皇を見ていると、俺達の背後から地響きに似たような振動と音が感じ取れた。

 恐る恐る振り返ってみると、そこはやべー奴らの大群になってて、間違いなく捕まれば蹂躙コース間違いなしの魔境だった。

 

 

白銀「逃げんぞバカ共ォ!!!」

 

 

黒津木「言われなくても分かってるよ!!!」

 

 

桜木「ムググウム!!!」

 

 

「待て白銀ェ!!!」

 

 

 あのバカ女の声が聞こえてくるが、走り出した手前止まることは出来ない。申し訳ないと思いつつも、俺は走りながら振り返ることで話を聞く姿勢を見せ付けた。

 

 

白銀「なんだバカ女ァ!!!要件なら手短にしてくれ!!!取り込み中だ!!!」

 

 

ゴルシ「これなーんだ???」

 

 

白銀「」

 

 

桜木「白銀のスケボー!!!??」

 

 

 あのバカ女が背中の袋から取り出したスケボーの一部分。間違いねぇ!!!アイツの名前の落書きが俺の記憶と一致してらァ!!!間違いなく落札に2000万円賭けた俺のスケボーだ!!!

 

 

ゴルシ「お前が止まらねーと叩き割っちまうぞ!!!」

 

 

白銀「ザッケンナァ!!!」

 

 

桜木「乗るなエース!!!戻れェ!!!」

 

 

黒津木「エースゥ!!!(裏声)」

 

 

 乗るなァ!!?戻れだとぉ!!?ふざけんのもいい加減にしろよ!!!コイツらにはあのスケボーの真の価値が分かってねぇ.........!!!

 あれに掛けた金とか、あれに乗った思い出とか、あれに乗ってた選手の事とかそんなちゃちぃ理由はねぇんだ。

 あれは.........あれは、俺とあのバカ女が唯一共有している.........!!!大っっっ切な繋がりなんだよォ!!!

 

 

白銀「あばよガキ共ッ!!一生妄想の中でちゅぱちゅぱしてろォッ!!」

 

 

桜木「死んで欲しい」

 

 

黒津木「なんでアイツ的確に俺達を殺す言葉を放ってくるの?」

 

 

 泣きそうになりながらアイツらは反対方向に走り始めた俺を見た。そんなのお前らのオタク加減が気持ち悪いからに決まってんだろ カスチキンが。

 だがこれでこのスケボーは守られた!!!俺とバカ女の繋がりはこれで.........ん?

 

 

ゴルシ「よう」

 

 

白銀「あっれれー?落書き以外何も合ってないぞ〜?」

 

 

 おかしい。落書きは記憶に一致するのに、スケボーの種類が違う。目の前でニコニコと笑うゴールドシップに悪寒が走る。

 ハメられた。俺はこのバカ女にハメられたんだ。いや、性的なほうじゃねえぞ。断じてねぇ。そんな嬉しいことめったに起こるはずがねぇ。

 次の瞬間。ゴールドシップが俺の事を落としに掛る。その両腕を持ってして俺の首を絞め落とそうとする。あ、背中にあの柔らかいのが.........いやいや!!!ここは純粋に助けを呼ぶべきだろ!!!

 そう思い、声をかけようとした瞬間、玲皇から声が聞こえてきた。

 

 

桜木「翔也ァ!!受け取れェッ!!!」

 

 

白銀「っ!!!サンキューッッ!!!」

 

 

 玲皇から投げられた袋が、放物線を描きながら俺の手に納まった。アイツが投げて寄こしたんだ。打開策が入ってるに決まって―――

 

 

白銀「石と.........中華まんのゴミ.........?」

 

 

桜木「それ捨てといてぇ?」ニヘラヘラ

 

 

 俺に投げて寄こしたゴミ(本物)を指さして笑う玲皇と宗也。首を絞めるゴールドシップも残念でしたと言うように、にへらとした笑みで俺を挑発した。

 

 

白銀「ご、ご、ご」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴミカスゥゥゥァァァアアアアッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「はァっ!はァっ!」

 

 

マック「いい加減諦めたらどうですの!!?」

 

 

桜木「断る!!!」

 

 

 ご友人がお二人も捕まった筈なのに、トレーナーさんも保健室医さんも、その足を止めることはなく、徐々に学園へと向かって行ってしまっています。このまま行けば、多くの方々にご迷惑を.........!!!

 いいえ、もうそんな甘い事を考えている余裕はありません。迷惑なんて掛けてしまえばいいのです。彼らを捕まえるのに、妥協は一切考えられません!!!

 

 

スペ「サブトレーナーさん!!!そんなに罰を受けるのが嫌なんですか!!!」

 

 

桜木「嫌だね!!!なんなら俺の代わりに受けてくれてもいいんだぞスロットルブラスト!!!」

 

 

スペ「スペシャルウィークです!!!!!」

 

 

「今スペちゃんの名前間違えましたか?」

 

 

黒津木「やべぇまた増えたぞ!!!!!」

 

 

 トレーナーさんが久々にスペシャルウィークさんの名前を間違えたせいで、お出かけ中であったグラスワンダーさんが参戦。そしてお連れのエルコンドルパサーさん、セイウンスカイさん、キングヘイローさんもこの追いかけっこに参加をし始めました。

 

 

エル「ヘイ!!?グラス!!落ち着くデス!!」

 

 

スカイ「なんか面白い事になってるね〜」

 

 

キング「思わず追いかけたけどこれ着いてきた意味あるの!!?」

 

 

桜木「はっはー!!!なんだ現役乙女たち!!!おじさんを追い抜かす気にはならないのかい!!?」

 

 

全員「イラッ」

 

 

黒津木「バカお前!!!挑発なんざすんじゃねぇ!!!」

 

 

 トレーナーさんの要らない挑発のせいで全員が怒りを刺激され、うち何人かは掛かってしまいます。なんの理由も無く、彼が挑発するなんて有り得ません。恐らく、これは彼の作戦です.........!!

 

 

マック(釣られてしまったのはブライアンさん、スカーレットさん、ウオッカさんですか.........!)

 

 

桜木「ははッ!行くぞ宗也ァ!パルクール作戦だ!!!」

 

 

黒津木「クソ!!怖いもの知らずめ!!!」

 

 

 あともう少しで手が届き、トレーナーさんが掴めそうな所で、彼は前方に跳躍しました。目の前にある塀にジャンプで飛び越そうとしたのでしょう。ですが、明らかに飛び越えられてはいません。

 数人程、掛かってしまったせいで心配でしたが、何とかなりそうです.........そう思っていた矢先でした。

 

 

桜木「無駄無駄無駄無駄ァ!!!」

 

 

ウマ娘「嘘でしょ!!?」

 

 

 なんと、彼らは塀に向かってさらに足を突き出すことで、反対方向にも跳躍したのです。そしてそれだけでは飽き足らず、街頭に手を伸ばし、それを利用して飛距離を伸ばしてしまったのです。

 それのせいで、掛かり気味だった三人と、長距離が得意では無い方々はダウンしてしまいました。

 

 

ウオッカ「悪い.........オレ.........もう.........無理ぃ.........」

 

 

スズカ「わ、私も.........」

 

 

ナリブ「くっ.........あんな見え透いた挑発に乗らなければ.........!」

 

 

ダスカ「あ、アタシ.........ちょっと疲れたかも.........」

 

 

 これは.........少し緊急事態かもしれません。早くしなければトレーナーさんに逃げられてしまいますが、この方達を放っておくのも.........そう思っていると、目の前に一台の車が、綺麗なカーブを掛けて止まりました。

 

 

安心沢「はーい☆」

 

 

マック「安心沢さん!!!」

 

 

(なんだあの変質者)

 

 

 流石に安心沢さんの格好がおかしいせいか、皆さん困惑気味でした。せっかく来てくださったのに、これでは.........

 そう思っていた矢先に、後部座席側の窓が開き始めました。

 

 

テイオー「みんなー!早く乗りなよー!」

 

 

全員「て、テイオー!!?」

 

 

 困惑する皆さんに身振り手振りを大きく加えて説明すると、事情を知らない方々は渋々といった様子で車に乗り込んでいきました。

 これは、良いチャンスです......!!

 

 

安心沢「勢いで乗せちゃったけど、どこに迎えばいいかしらん?☆」

 

 

マック「ではトレセン学園へ向かってくださいまし!!トレーナーさんの行先も恐らくそこですわ!!!」

 

 

 理由は分かりません。ですが、なんとなくそうな気がするんです。彼の帰巣本能か、トレーナーとしての性なのかはわかりませんが、彼はきっと、そこに行く.........!!

 

 

マック「走れない者は車に!!まだ動ける方々は私と彼を追いましょう!!!」

 

 

タマ「凄い頼もしいやんマックちゃん.........こんな姿初めて見たで.........」

 

 

ナリブ「.........なるほど、これが恋、か.........」

 

 

 後ろで何やら黄色い声が聞こえ始めましたが、今はそんな事にかまけている暇はありません。ここで彼を逃してしまえば、明日には溜飲が下がって罰が軽くなる可能性があります.........!!それだけは、絶対に避けなければ.........!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たづな「お待ちしていました!樫本さん!」

 

 

樫本「お久しぶりです。たづなさん」

 

 

 目の前の緑の制服に身を包む女性に、私は懐かしみを抱いた。以前、ここでトレーナーを勤めていた私にとっては古巣のような場所.........校舎を見ても、以前と変わりない様子が私の心に光をともすと同時に、仄暗い闇を浮き彫りにします。

 

 

樫本(.........何も、変わっていないようですね)

 

 

 トレーナーを勤めていたのも今は昔の話。私の立場はURA職員の一人として、ここに視察に来ただけです。なるべく私情を挟むことは無いように―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってきたぞぉぉぉ―――ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樫本「!!???」

 

 

 平和という言葉が何より似合うトレセン学園に、怒号にも似た声が外から響きわたります。あまりの珍事に反応出来ず、少し遅れて振り返ってみると、そこには二人の男性、しかも走行速度はウマ娘に匹敵する程のスピードで門を通り、学園内へと無事侵入を果たしていました。

 

 

樫本「.........今のは?」

 

 

たづな「桜木.........さん達ですね」

 

 

 あまりの出来事に、たづなさんも困惑しているのでしょう。その顔を伏せながら、走ってきた二人うちの片方の名を言いました。

 別にそんな事が聞きたい訳ではありません。正直面倒事は避けたいですが、学園にいるウマ娘に危害が発生するならば、それを見過ごす訳にも行きません。

 

 

樫本「あの、不審者ですか?警察に通報した方が.........」

 

 

たづな「......ナー...です」

 

 

樫本「.........はい?」

 

 

 たづなさんにしては小さい声で、あまりにも聞き取りづらかった私は、ついその言葉を聞き直してしまいます。

 いいえ、この場合、察してしまった私が一番悪いのです。何も聞かず、そしてそれを胸の内に閉まっておけば、この事実をなかった事にできたかもしれません.........

 ですが、伏せていた顔を上げ、怒りのせいか顔を真っ赤にさせながら目に涙を貯めたたづなさんは、断言してしまいました。

 

 

たづな「トレセン学園!!専属の!!トレーナー!!さん!!ですっ!!!」

 

 

樫本「」

 

 

たづな「ああああもう!!!寄りにもよってなんで今日!!!しかも!!!騒ぎを起こして帰ってくるんですかあのトレーナーは!!!」

 

 

 珍しく怒りを爆発させているたづなさんに呆気、その事実に絶句と二つの強い情報がぶつかり合い、私は頭の中が真っ白を通り越して宇宙になりました。

 

 

たづな「ちょっっっとお灸を据えてきますね!!!!!」ダダダッ!

 

 

樫本「えっえっ.........え?」

 

 

 私の目の前を走り去るたづなさんは、まるでウマ娘のような速さで走っていってしまい、伸ばした手は結局、何も掴まずに終わりました。

 そして、そんな私の隣を大勢のウマ娘が早いスピードで走り抜け、私の長い髪を風圧でなびかせました。

 

 

樫本(.........ウマ娘を管理する体制を作る前に、あの桜木というトレーナーを管理する方が先決かも知れませんね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やよい「ナァーハッハァ!喜悦ッ!やはり名バの残した数々の栄光を飾る時が一番充実するなぁ!!!」

 

 

ネコ「ミャー」

 

 

 頭に乗っているタマ(ネコの方だぞ!)もご満悦そうに鳴き声をあげた。お主もそう思うか!ここまで二人三脚、いや、たづなを入れたら三人四脚でやってきた仲だ!!理解してくれる者が増えるのならそれだけでうれしい!!

 それにしても.........

 

 

やよい「特にこの、歴代の名バが残した蹄鉄の中でも、シンザンが付けていたとされるこれを見ていると、身体から炎が燃え上がる様な気持ちに.........!!うぅ.........もっと早くに生まれていれば、その勇姿を拝めたものを.........!!」

 

 

ネコ「ミャー…」

 

 

 おー!お主も理解してくれるか!!やはり日本中を魅了してきたその走りとダンスを直に見れないのは悔しくて仕方が無い!!

 だが、残っているのはこの蹄鉄と、トロフィーと、荒い映像だけ.........せめてこの宝を皆と共有.........ん?

 

 

やよい「不審.........!嫌な予感がするぞ!!」

 

 

ネコ「ミャ?」

 

 

 私のこのやよいイヤーが微かに反応している.........!そして間違いなく、その音は鮮明に、そしてこの私との距離を縮めている!!

 私はお宝を、どこの輩とも分からん奴に盗まれる事が無いよう!!!抱き抱えてうずくまることで危機を脱しようとした!!!

 

 

やよい「鉄壁ッ!!お宝だけは守り抜く!!」

 

 

桜木「うおおおおお!!!!!ただいま戻りました理事長ォォォォォ!!!!!お腹痛いんすか!!!!!また後で挨拶に伺いますね!!!!!」

 

 

ネコ「ミャ!!?」

 

 

 うぅ.........何事かと思えば、桜木トレーナーが帰ってきていたのか.........ナリタブライアンに直接同行を頼んだ故、事の顛末は知っていたが、まさか帰ってきて有給も消化し終えていないのに、学園に足を運んでくれるとは.........!!私は彼をどうやら見誤っていたかもしれない.........!!

 そこまで.........!!有給があったとしてもウマ娘の為に学園に顔を出すとは!!!その心意気!!!賞賛に値する!!!

 こんなところで伏せている場合ではない!!!今すぐにでも彼を手厚く迎え入れなければ!!!

 

 

やよい「提案ッ!!すぐに彼のおかえりなさい会を.........んン!!?」

 

 

ネコ「ミャ?」

 

 

やよい「無い.........!!?あのシンザンが残した蹄鉄が!!!無い!!!.........まさか」

 

 

桜木「ぉぉおおおお!!!なんか拾ったァァァァァ!!!!!」

 

 

やよい「」

 

 

ネコ「」

 

 

 走り去っていく桜木トレーナー。その両手に持っていたのは間違いなくシンザンの残した蹄鉄そのもの。

 え?なんで?マジックなのか?桜木トレーナーはマジシャンなのか?いや、そんな事はどうでもいい.........!!!

 

 

やよい「.........決意ッ!!タマ、暫しここで待っていてくれ!!」

 

 

ネコ「ナァ?」

 

 

やよい「宣言ッ!!秋川やよい!!ここにシンザンの蹄鉄を飾ると同時に!!桜木トレーナーの謝罪文も掲載する!!!」

 

 

ネコ「ヤベーヨヤベーヨ」

 

 

 そうと決まればこうしてはいられん!!!私は桜木トレーナーを追うウマ娘達に混ざるよう、久々にこの肉体を疾走本能に任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「クッソァ!!!んでさっきから追っ手が増えんだよォォォォォッ!!!??」

 

 

黒津木「ウルセェェァァア!!!元はと言えばテメェが年中無休で大殺界なのが悪ィんだろうがァァァァ―――ッッ!!!」

 

 

 そんな大絶叫とともに廊下を風のように疾走する俺達男二人。後ろには先程から増え続けているウマ娘がその存在を誇示するように、地響きの様な足音を響かせている。

 生贄だ.........!!もうここまで来たら生贄を捧げてウマガミ様の溜飲を鎮めるしか方法はねェッッ!!!

 

 

桜木「宗也ァッ!!」

 

 

黒津木「んだテメェ!!!」

 

 

桜木「これなぁーんだ!!!」

 

 

黒津木「ファ!!?それタキオンのシークレットぱかプチ!!!??」

 

 

 俺は懐から、アグネスタキオンを模したぬいぐるみを取り出した。どうして今手に持ってるのかだって?分からん。今日の俺はなんか磁石みたいで物を良く引き寄せる。

 このぬいぐるみは未だタキオンがデビューを果たしていない中で極秘に作られていたファンメイドのぱカプチだ。多分デジタルがせこせこと手作りしたのだろう。

 

 

デジタル「アイエー!!?デジたんの自作ぱかプチ!!?自作ぱかプチナンデ!!?」

 

 

桜木「Go To!!!」

 

 

黒津木「それを捨てるなんてとんでもない!!!」

 

 

桜木「Hellッッッ!!!!!」

 

 

 勿論、俺にだって良心はある。可愛いぬいぐるみを投げるなんてしたくはない。だから上にポスン、とあげただけだ。取らないなら俺がもう一度その手に持っていた。

 だが黒津木は取った。期待通りにそれをバスケ選手のような跳躍で飛び、見事リバウンドを取る花道の如く綺麗にその両手で包み込んだ。

 まぁ、着地した際の慣性運動に身体を上手く適応できず、そのままゴロゴロと進行方向に転がして行ったが、身体は鍛えられている。無事だろう。俺は無視してそのまま走りさろうとした。

 

 

黒津木「ま、待て.........!!」

 

 

桜木「あァ!!?」

 

 

黒津木「待って.........くれ......!!」

 

 

 倒れ込んだ体制のまま、黒津木は顔を上げた。その表情は真剣な眼差しで、その目は俺を真っ直ぐに射抜いていた。思わず俺は立ち止まった。そして、追ってきたウマ娘達も.........

 

 

黒津木「.........思えば、四人の中で一番長い付き合いなの、俺とお前だよな.........」

 

 

桜木「どうした急に」

 

 

黒津木「.........せめて、エールを送らせてくれ.........」

 

 

 その目には、徐々に涙が溜まって行った。その姿を見て、俺も涙を流しそうになる。

 あぁ、そうだ.........俺達四人の親友も、始まりは俺と黒津木だった.........

 二人しか居ない俺の自宅でスマブラで騒ぎ、外から聞き付けた白銀が大声で俺達の名を呼び、三人になった。学校で読書している神威に白銀がしつこく話しかけて、いつの間にか四人になったんだ.........!!

 あぁ.........!!俺は親友達になんて酷いことを.........!!悔やんでも悔やみきれない!!謝っても謝りきれない.........!!

 

 

黒津木「フレェェェ!!!フレェェェ!!!玲ェェェ皇ォォォォォ!!!」

 

 

桜木「宗也ァ.........!!」

 

 

黒津木「がんばれがんばれ玲皇ッ!!負けるな負けるな玲皇ッ!!」

 

 

 熱い。身体のそこから迸るような熱さを感じる.........!!これが友情!!これが友!!!今俺は正に!!正しさの中に居る!!!

 だが.........その熱さに比例するように、背筋が冷めていく感覚に陥る。一体何が起きている?そしてなぜ黒津木は負けるなコールからずっと負けるなコールを続けてる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マケ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「」

 

 

 遠くから聞こえる呟くような声。背筋を冷ましたであろう原因のその根本。後ろで固まっていたウマ娘達全員が道を開ける。

 そこには.........書類をまとめたクリップボードを片手に、先程まで設備の点検でもしていたのであろうシンボリルドルフが、プルプルと身体を震わせて静かに立っていた。

 

 

桜木「宗也ァ.........!!」

 

 

黒津木「ククク.........俺はお前との逃亡の最中、ずっとこの機会を狙っていたのさ.........いつ裏切られても良いようになァ.........!!!」

 

 

桜木「宗也ァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

黒津木「またまたやらせていただきましたァン!!!」

 

 

 俺は憎悪に任せて叫び声を上げた。その声で覚醒したのか、シンボリルドルフの震えは止んだ。その変わり、その身体から蒼白い炎にも似たオーラを纏い、ギラギラとしたその目で俺をロックオンした。

 

 

ルドルフ「私はァッッ!!!んン負けたくないィィィィィッッッ!!!!!」

 

 

グルーヴ「貴様ァ.........!!また会長をヘル化させたなァ!!!」

 

 

桜木「クッソ!!!付属品のエアグルーヴ(激昂)も着いてきやがった!!!」

 

 

 もうこれ以上この場には留まっていられない。俺はもう一度.........今度は一人だけでこの学園内を逃げる孤独なレースが始まろうとしていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南坂「今日の模擬レース、見事でしたね!ネイチャさん!」

 

 

ネイチャ「いやぁ〜、模擬レースで勝ってもGIに勝てなきゃねぇ〜」

 

 

 そう言いながら、ゼッケンを付けたウマ娘。ナイスネイチャさんは困ったように涼太を広げました。

 

 

乙名史(素晴らしいです!トレセン学園の模擬レースはやはりレベルが高い.........!!その上今回はレースの実況が有り、臨場感も演出!!更にはこの後ライブまで.........!!)

 

 

 私はメモ帳に今回の要点をまとめながら、実況席の方をチラリとみました。あぁ!実況を務めた赤坂さん!!彼女は実際のレースでも的確な情報を伝えるプロフェッショナル!!やはりトレセン学園はレースに対する姿勢そのものが違います!!

 

 

ターボ「良いなぁ!!ターボも模擬レースしたい〜!!」

 

 

南坂「ターボさんはまた今度の模擬レースで出れますから.........」

 

 

ネイチャ「そうだよターボ。今度は出れるよう、補習受けないようにねー」

 

 

 今回、中距離の模擬レースで大金星を取ったネイチャさんの隣で、ツインターボさんが地団駄を踏みます。大逃げが得意なターボさん。彼女の走りにはいつもドキドキさせられます!

 

 

T1「そういやこの後のライブ何踊るんだ?」

 

 

T2「何って、うまぴょい伝説に決まってるだろ?」

 

 

 あぁ!プログラムにはお楽しみとしか書かれていなかったライブをネタバレされてしまいました!!ですが問題ありません!!むしろ楽しみです!!彼女達の磨かれたダンスを余念なく観察する事が出来る.........素晴らしいです!!

 

 

ネイチャ「じゃ、ライブあるからぱっぱと準備しましょうかね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本能に任せた疾走。駆け抜けて身体に触れる風よりも、身体を駆けさせるエネルギーの循環熱量の程は尋常では無い。

 遠くから聞こえてくるラッパの音。大きくなってきているとはつまり、それは進行方向で何かがあるのだろう。だが、そんな事などは関係無い。何があろうが突っ走る。出なければ死ぬ。それだけが答えだ。それだけが生きる意味だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『位置について』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声が明確に聞こえてくる。目の前にはあのウマ娘がレースで最初に居るゲート。扉は閉まっている。周りの喧騒は徐々に高まって来ていて、身体の血の巡りの興奮を増長させる。

 

 

「お、おいなんか足音が聞こえてこないか.........?」

 

 

「っ!!おい!!アレ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よーい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 構うもんか、扉が閉まってる?だったら、蹴り開ければ良いだけの話じゃねぇか.........ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ドガァ!!!)『ドン!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤坂「な.........!!なんですかアレは.........!!?」

 

 

 ライブが始まろうとしていたその時、実況席からは一人の男性を先頭に、後ろから並々ならぬ人数のウマ娘が大群で押し寄せてきました。

 それだけならばいざ知らず、その後方集団の先頭には.........

 

 

 シンボリルドルフ

 オグリキャップ

 エアグルーヴ

 グラスワンダー

 エルコンドルパサー

 ゴールドシップ

 タマモクロス

 スーパークリーク

 スペシャルウィーク

 ライスシャワー

 ミホノブルボン

 駿川たづな

 秋川やよい

 

 

赤坂(な、なんてメンバーなの.........!!?)

 

 

 自然と握られてしまった手には、汗がじっとりと滲み出す。ここで常識に則り、追われているであろう彼を止めるのが普通でしょう。

 しかし、この私の実況者としての魂の火が燃えたぎるこの情景を、果たして自分の手で潰せるだろうか?否、そんな事は出来ない。気付けば私は、その手に実況マイクを握りしめていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「7枠1番!!桜木トレーナーが飛び出して行ったッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ヅゥゥゥァァアアアアッッッ!!!!!」

 

 

 焼けるような速度で身を焦がしながらも、ただひたすらに前に向かっていた。それでも、距離を離すことは出来ていない。それどころか―――

 

 

「続くシンボリルドルフッ!!ライスシャワーッ!!オグリキャップッ!!桜木トレーナーを捕まえようとその手を必死に伸ばすッ!!」

 

 

ルドルフ「言っただろう!!私はァッ!!勝ァつッ!!」

 

 

ライス「創お兄さまに酷い事した!!絶対に許さない!!!」

 

 

オグリ「GRRRROOOOOOッッッ!!!!!」

 

 

桜木「三人ともヘル化しやがってッッ!!!」

 

 

 その瞳に、その肉体に蒼白い炎が宿る三人。それだけならばまだ良い。後ろで差しを狙うグラスワンダーもその炎を自在に操ることが出来る。もし三人を引き離す為に全力を出せば、その隙を突かれる。

 そんな事が起きればまず間違いなく捕まる。捕まった先にはこんな大事件を起こした責任を先ず取らされる。絶対にあの病室で逃げなかった方が良かった。そう思わされる。

 

 

桜木「くっ.........ククク」

 

 

三人「.........!!?」

 

 

 だが、それは『レースをしているならば』の話だ。俺がしているのは逃走劇であって、勝ち負けだけのレースでは無い.........!!

 

 

桜木「なぁ会長殿ォッ!俺は以前蹄鉄をはめ、薬を飲んで君に勝負した際完膚無きまでに叩きのめされたなぁ!!」

 

 

ルドルフ「なんの事だ!!何を言っている!!?」

 

 

桜木「その敗因は俺がレースに拘ったからだ!!!」

 

 

全員「っ!!?」

 

 

 俺のその言葉に、今走っている全員が驚愕する。レース場の四分の三ほどを走りきりそうな所で、俺は策を繰り出す。

 

 

桜木「今の俺にそれは無いッ!!勝利して逃げ切る!!それだけよ!!それだけが満足感よッ!!」

 

 

桜木「過程や.........方法なぞ.........ッ!!」

 

 

桜木「どうでも良いのだァァァッ!!」ガバァッ!

 

 

「おおおおおおおっと―――!!!桜木トレーナーが内側での走行中!!!なんと柵に手をかけ!!!レース場の真ん中を横断して行ったァァァァァ!!!!!」

 

 

 どうだァ!!!この掟破りの地元走りはァァァ!!!いくらお前達が優秀なウマ娘と言えど!!レースのルールを破ることなど到底出来る訳が―――

 

 

ルドルフ「これが生きる為の私の足掻きだァァァァァッッッ!!!!!」ガバァッ!

 

 

桜木「何ィィィィィ!!!!!?????」

 

 

 あ、有り得ない!!!ありのまま今起こった事を話すぜ!!ルールを守ると思ったら問答無用で生徒会長がルールを破りやがった!!!何を(ry

 いやそんな事はどうでもいい!!会長の他にもう一人ルールを破っている奴がいる!!!

 

 

「ゴールドシップ!!!ほぼシンボリルドルフと同じタイミングで柵を飛び越えたァァァァァ!!!」

 

 

ゴルシ「ゴォォォォォラァァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

ゴルシ「テメェェェェッッ!!!マックイーンの事が好きなら素直に罰くらい受けやがれェェェェェッッッ!!!!!」

 

 

桜木「うううおおおおおいいいいいいいッ!!何俺の悩みを公共の場でカミングアウトしてやがんだァァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

 くっ!!流石に追いつかれそうにもなる!!!あのゴールドシップが本気で俺を追いかけてきてるんだ!!会長殿にも引けは取られてねぇ!!!

 つかっ!!!視界に映る走る場所の端っこに誰かいんだけどぉ!!!

 

 

「たづなさん!!!なんとあの事務員のたづなさんです!!!これはどういう事なんでしょう!!?」

 

 

黒津木「ニャメロン!勝てるわけが無い!!たづなさんは伝説のスーパー事務員兼スーパー理事長秘書なんだどぉ!!」

 

 

白銀「ふーん。伝説って?」

 

 

神威「ああ!」

 

 

東「頼む沖野。コイツらを黙らせてくれ」

 

 

沖野「裁判で死刑になるレベルの事しなきゃ行けなくなるから勘弁してくれ」

 

 

 いつの間にか実況席が賑やかになってやがる!!!

 だがちらほらとリタイヤしてる子達が続出している.........!!!賭けるっきゃねぇッッ!!!

 

 

桜木「身体持ってくれよッ!!三倍タキオン薬だァ!!!!!」グビグビィ!!

 

 

グルーヴ「な!!?眩しッ!!」

 

 

たづな「しかも早い!!!??」

 

 

 流石アグネスタキオンの薬!!!即効性抜群!!!しかも発行したお陰でグルーヴが怯んだ!!!これで何と煙に巻ける可能性が増してきたぞ!!!

 

 

「桜木トレーナー早い!!他のウマ娘達も追いすがる!!」

 

 

「桜木トレーナー今一着でゴール.........いや、これは.........!!!」

 

 

「2週目!!!2週目です!!!桜木トレーナー止まることなくそのまま走行を続けております!!!」

 

 

 実況の言う通り、俺はゴールを踏んでも走る事は止めなかった。それはこれがレースではなく、俺が逃げ切る戦いだからだ。

 後ろを見るに、他のウマ娘達は既にバテバテ、グラスワンダーも俺の横断戦術にバカ正直に挑んだせいで、ヘル化させずに済んだ.........!!!あとは、逃げ切るだけ.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日の勝利のめーがみはー♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそっ!なんてプロ根性だ!!こんな時でも声を乱さず歌えるなんて!!だが、これは俺にとっての勝利のファンファーレだ!!!

 

 

ルドルフ「くっ.........負けたく.........な、い」

 

 

ライス「うぅ.........お兄さま.........」

 

 

オグリ「お腹.........すい、た.........」

 

 

 三人のヘルシスターズもヘロヘロだっ!そんな周りが死に体の状態でも俺の三倍タキオン薬に着いてこれるとは中々やるなぁ!!ゴールドシップゥッ!!

 

 

ゴルシ「はっ!はっ!はっ!はっ!」

 

 

桜木「そろそろ諦めたらどうだ!!俺は逃げ切るぞ!!誰がなんと言おうとも!!」

 

 

ゴルシ「.........へへへ」

 

 

桜木「.........?」

 

 

 後ろにピッタリとへばりつくように俺の後ろを走るゴールドシップ。付かず離れずの距離を保つだけでも辛いはずなのに、彼女は不敵に笑って見せた。

 

 

ゴルシ「お前、アタシがなんで走ってんのか分かるか.........?」

 

 

桜木「は.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『風を切ーって大地蹴ーってキーミのなーかにひーかりとーもす♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言っている意味が分からない。ゴールドシップの事だ。意味が無い事もあるだろう。だが、俺の勘はそうでは無いと告げる。次に備えろ。逃げる為に脚を溜めろと告げる。

 バカ言うな。こんな所で溜めてみろ。ゴールドシップに捕まるのがオチだ。それに見ろ。次で二週目のゴールだ。三週目を走り切ればもう俺を追う者などどこにも居ない。

 現にマックイーンも―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドーキドキドキドキドキドキドキドキ♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待て、まさか.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ガコンッ!!)『君の愛馬が!!♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず、その耳に残る特徴的な音がした場所を振り返る。そこにはもう、あの不敵な笑みをしたゴールドシップは居ない。してやったりとした顔をしながら、ゴールドシップはターフの上で仰向けになって居やがった。

 

 

ゴルシ「お膳立てはしてやったぜー!!!さっさとおっちゃん捕まえて今までの鬱憤晴らしちまえ!!!」

 

 

「なんとおおおおおお!!!ここでまさかの登場!!!桜木トレーナーと苦楽を共にしてきた名実ともに最強の相棒ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイーンだマックイーンだッ!!メジロマックイーンが今しがた!!ゲートから飛び出したァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「やぁァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 どうやら間に合ったようです!!これで寄り道が無駄にならずに済みました!!ゴールドシップさんには後で沢山礼をしなければ気がすみません!!

 

 

桜木「マックイーンだとぉぉぉぉぉ!!!?????」

 

 

マック「トレーナーさァァァァァァァんッッッ!!!!!」

 

 

 これで一体、何回目の人生で一番の大声の更新でしょう。彼が居なくなってからその間隔は無いに等しい程狭まった気がします。

 

 

桜木「な、なんで今出てきたんだ!!?」

 

 

マック「そんなの決まってるではありませんか!!!貴方の考えてる事など手に取るようにお見通しですわ!!!」

 

 

 あのずる賢いトレーナーさんの事です。あの手この手で機転やトンチを効かせて追手を煙に巻くだろうと考えられました。

 私があの集団を離れる際、ゴールドシップさんに小声で頼みました。もし彼が手を打ち、学園からも逃げそうになった場合は、頑張って持ちこたえて欲しい.........と

 そしてこの一体一で彼と走り抜けている状況。考える隙は与えません。間髪入れない質問で彼の本心を聞き出します。

 

 

マック「そんな事より!!!なぜ逃げるんですか!!!私達の事が嫌いになったんですか!!!」

 

 

桜木「!!?違うッ!!」

 

 

マック「では何故!!!」

 

 

桜木「怖かった!!!!!」

 

 

マック「!!?」

 

 

 走り抜ける彼の背中に、私は少し寂しさを覚えました。彼の居ない寂しさとは比較にならないほど小さいのに、無視できない。そんな寂しさでした。

 

 

桜木「罰を受ければ確かに元通りだったさ!!!けどそれが怖かったんだ!!!」

 

 

桜木「本当に!!!!!俺なんかが君達を引っ張っちまって良いのかって!!!!!」

 

 

マック「!!!」

 

 

桜木「自分勝手した事に後悔はしてない!!!反省もしてない!!!けど責任は取るべきだ!!!」

 

 

 責任を取る。その言葉と同時に、彼から感じた寂しさが一気に膨れ上がり、胸を締め付けます。

 あぁ.........十日間も会わないうちに、私は貴方の仮面をつけた姿も、その素顔も忘れてしまっていたようです.........

 

 

桜木「今日皆に会えて本っっっ当に良かった!!!!!マックイーンはまたスタミナが伸びたよな!!!!!」

 

 

 いや。

 

 

桜木「タキオンは人を気遣えるようになってた!!!!!成長してる!!!!!」

 

 

 ダメです。

 

 

桜木「ウララあんなに走れるようになったんだな!!!!!一着も夢じゃないぞ!!!!!」

 

 

 そんな事.........

 

 

桜木「ライスも大分押しが強くなった!!!!!デビューが楽しみだ!!!!!」

 

 

 そんな事.........!!!

 

 

桜木「ブルボンも表情が柔らかくなってたぞ!!!!!三冠インタビューが楽しみだ!!!!!」

 

 

 言わないで.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が居なくてもやって行ける!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........!!!」

 

 

桜木「マックイーン達が短期間で成長できたのは!!!!!全部東さんのお陰だ!!!!!俺が居たらこうはならなかった!!!!!だから―――」

 

 

マック「バカァァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

桜木「―――!!???」

 

 

 この人は.........!!!この人は本当におバカです!!!そんな.........!!!どうしてそうなれたかも知らないで.........言いたい放題自分は好き勝手に言い散らかして.........!!!

 

 

マック「私達が変わったのは!!!!!貴方が居なくなった[お陰]ではありません!!!!!貴方が居なくなった[せい]です!!!!!」

 

 

マック「確かに私はスタミナが着きましたわ!!!!!ええ着きましたとも!!!!!お陰で体重が増えましたわ!!!!!なんせ貴方が作る献立料理がありませんもの!!!!!カロリー増し増しですわ!!!!!」

 

 

マック「タキオンさんが気遣えるようになったのは貴方という支柱が居ないせいでいざと言う時好き勝手出来なくなったせいですわ!!!!!でなければ今頃学園中あの人が作った薬品のせいでゾンビだらけです!!!!!そうに違いありません!!!!!」

 

 

マック「ウララさんが走れるようになったのは貴方が何も言わず姿を消したせいで自分が遅いから嫌われたと感じたからです!!!!!知っていますか!!???彼女は貴方に嫌われたと思って泣いてしまったんですのよ!!!??」

 

 

マック「ライスさんについてですが!!!!!あれは貴方に対する怒りの感情ですわ!!!!!彼女は溜め込みやすい質ですから!!!!!貴方への鬱憤が滲み出てただけです!!!!!」

 

 

マック「ブルボンさんの表情が柔らかくなったのは楽しいという感情を覚えたからで す わ!!!!!貴方がいる日々が楽しい事を貴方が居なくなってから知ったんです!!!!!」

 

 

 身体から熱が巡る。普段、レースでは感じることの出来ない熱。勿論、春の天皇賞でもそれを感じる事はありませんでした。

 それでも、その熱の源は何かを私は知っています。今、目から頬に流れる熱と同じ熱さです。

 

 

マック「責任を取るべきとおっしゃいましたよね!!!!!」

 

 

桜木「.........!!!」

 

 

マック「貴方が取るべき責任は!!!!!チームを変えられなかった!!!!!成長させる事が出来なかった!!!!!だから自分は身を引く!!!!!そんなものではありません!!!!!」

 

 

 たったの十日間、彼が居ないだけでチームは変わりました。いえ、変わってしまいました。それは、良くも悪くも、と言った所でしょう。ウマ娘としてならば、強くなれる環境に身を置く方がその先幸せかも知れません。

 ですが.........!!!私達は違うのです!!!私が居たいのは!!!強くなれる場所ではありません!!!選抜レースで7着だった私を見出してくれた彼の傍なんです!!!

 

 

マック「貴方が取るべき責任は!!!!!変わってしまったチームを元に戻すことです!!!!!」

 

 

マック「私の体重を減らし!!!!!タキオンさんの気遣いを止めさせ!!!!!ウララさんをのびのびと走らせ!!!!!ライスさんをニコニコさせ!!!!!ブルボンさんに表情トレーニングを付けさせる!!!!!」

 

 

マック「それが.........!!!!!貴方の取るべき責任です!!!!!!!!!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

 徐々に彼の走行スピードが緩やかになっていきます。ウマ娘並のスピードから、人間の全速力、ランニング、歩くスピードへと落とされ、遂に彼は、逃げる事をやめました。

 取りたくない責任を、彼は取ろうとしていたのです。態々悪役にまで成り下がって、久々に仮面をつけて。

 

 

桜木「.........良いのかな」

 

 

マック「.........良いに決まってます」

 

 

桜木「.........また、振り回すよ?」

 

 

マック「たまになら良いです。いつも振り回してしまってるお詫びですわ」

 

 

 ようやく、彼の素顔が見えてきました。いつもは乱暴な言葉使いですが、彼の本心は人を傷付けられない言葉だけです。

 背中を向ける彼。その立ち姿のまま数瞬、肩を震わせた後、鼻をすすりながら腕で目元拭いました。

 

 

桜木「.........ありがとう」

 

 

マック「.........おかえりなさい。トレーナーさん」

 

 

 そう、私は彼に言葉を掛けました。小さい反応が彼の身体に現れ、少しの沈黙が流れました。彼はまだ、迷っているのでしょう.........

 そんな彼の迷いを吹き飛ばす様に、彼への言葉が多くの方々から届きます。

 

 

タキオン「モルモットくんッ!!君は最高のモルモットだー!!!私から逃げられると思うなー!!!」

 

 

ウララ「トレーナー!!!ウララ!!!トレーナーと一緒に頑張りたいよー!!!」

 

 

ライス「ら、ライスも!!!お兄さまと一緒に変わりたい!!!」

 

 

ブルボン「私もです!マスター!!まだマスターとZガンダムを買いに行くというオペレーションが遂行されてません!!!」

 

 

デジタル「私まだ桜木トレーナーさんがどんな人か分かりません!!!分からないのにさよならなんてあんまりです!!!」

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 小さかった反応は、小さな震えに

 

 

スペ「私も!!!サブトレーナーさんのおすすめのラーメンが食べたいです!!!」

 

 

ダスカ「そうよ!!!アンタのせいで今日のショッピングが台無しになったんだから!!!荷物持ちくらいしなさいよね!!!」

 

 

ウオッカ「おおお、オレも何か言わねーと.........あ!!今度オレと一緒にバイクの免許取ろーぜサブトレーナー!!!それで今日の事はチャラだ!!!」

 

 

テイオー「そうだよ!!!このままチームトレーナーやめちゃってどうすんのさ!!!ボクの菊花賞.........はまだ分かんないけど、出れた時経費で入場出来ないよ!!?」

 

 

 小さな震えは、やがて大きな嗚咽に変わっていきます。

 あんなに居なくなった事に対して、不安や文句を言っていた皆さんも、彼に対して言葉をかけて居ました。

 不意に、私の隣に誰かの気配を感じました。振り返ってみると、ゴールドシップさんが任せろと言うように私に対してウインクをします。

 

 

ゴルシ「.........なぁおっちゃん」

 

 

ゴルシ「みんなああ見えて、おっちゃんの事が好きなんだ。勿論そこにはアタシも居る」

 

 

ゴルシ「みんな、おっちゃんの居るトレセン学園が大好きなんだ」

 

 

桜木「.........っ、っ!」

 

 

沖野「桜木ー!!!お前が居ないとチームの雑用係が当番制になっちまうー!!!チームルームが滅茶苦茶にされちまうぞー!!!」

 

 

東「俺もまだお前に謝れてねー!!!今じゃなくていい!!!今度面と向かって!!!お前とお前のチームに謝らせてくれー!!!」

 

 

黒津木「お前の悪いところだぞー!!!一人で抱え込んでんじゃねー!!!俺達にもお前の苦しみを感じる権利はあるはずだー!!!」

 

 

白銀「悪いと思ってんなら最初っからやんじゃねー!!!お前に悪役は端から向いてねーんだよー!!!」

 

 

神威「玲皇ー!!!奇跡を超えるんだろー!!?奇跡ってのは常識が通用しねーから奇跡なんだぜー!!!」

 

 

 ああもう.........あんなに声を抑えて.........この場にいるのはもう、貴方の事が好きな人ばかりですのに。涙を堪える理由も、どこにも.........!ありませんのに.........!!

 そう思いながら涙を我慢する私もきっと、彼と同じなんです。いつもは手を引いて、知らない場所や景色を教えてくれるトレーナーさん。今回は、私が手を引いてあげましょう。

 

 

マック「おかえりなさい.........!!!トレーナーさん!!!」

 

 

 声がしっかり出ずに、震えてしまいます。もう、涙を止める理由も、それを我慢する必要もありません。

 溢れ出る涙を拭おうとせず、止めようとせずに、私は、彼にもう一度。[おかえりなさい]と伝えます。

 それでも彼は、みんなの前だから、溢れ出る涙を拭い続けます。止めようとします。けれどもう、その姿に不安はありません。

 彼はやがてその手を止め、ゆっくりと息を吐きます。溜息にも似た、諦めにも似た、力を抜くような吐息。そうして、彼はようやく、私の方へと振り返りました。

 

 

桜木「.........ただいまっ!」

 

 

 振り向いたその顔は涙で濡れ濡れで、でも笑っていて、けれどいつも通りのニカッとした笑いじゃなくて、本当はどこにでもある、ありふれた幸せそうな顔。初めて見せてくれた本当の笑顔。

 私はようやく、彼の心に触れられたのだと気付きました.........

 

 

 初夏の風が吹くトレセン学園のターフの上。その後、迷惑を掛けたお詫びにと、今度はしっかりと一人一人に罰を言い渡されるトレーナーさんの嬉しそうな顔は、とても印象的でした。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。