山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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貴顕の使命は果たせずに

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 雨が降っていた。曇天の空に敷き詰められた鼠色の雲は、これから起きることの不吉さを予兆するように存在していた。

 10月27日。秋の天皇賞が始まる早朝。窓の外から見え、耳に入ってくる音はやけに、俺の心を酷く騒がせた。

 

 

桜木(俺が支えるとは言った。勿論そのつもりだ。けど.........なんなんだ.........?)

 

 

 いつも通り身支度を整え、暇な時間を心を落ち着かせる為に使う。けれど、溢れ出すのは不安ばかり。

 まるで、この雨がこの先も俺に付きまとうような感覚だ。

 雨は別に、マックイーンに撮って悪い条件ではない。彼女の走りには、降ってくる雨の影響も、悪化したバ場のターフもものともしない力強さがある。

 だと言うのに.........俺はこの好きでも嫌いでもない雨に、一体何をざわめいている?

 

 

桜木「.........そろそろ行くか」

 

 

 荷物を持って、玄関へ行く。靴を履いて試しにドアを開けると、雨は思った以上に強く降っており、水が地面を叩きつける音が絶え間なく耳に入ってきた。

 雨は嫌いではない。嫌いではないと言うのに、いつも以上に憂鬱なそれにため息を吐きながら、俺は傘を手に取り、自宅を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 大丈夫、いつも通りに走れば、負けることは無いはず.........そう、自分に言い聞かせながら、見えない何かに締め付けられる胸を、ゆっくりと落ち着かせます。

 現在、レースに出走する前の控え室。チームの方々やトレーナーさんも、一緒にその時を待ってくださいます。それに.........

 

 

黒津木「おー、すげぇ歓声だな」

 

 

神威「レースも始まってねぇのにな」

 

 

白銀「ゴルシ焼きそば売りに行かね?」

 

 

桜木「まて、どうしてお前らがここにいる」

 

 

 いつもの方々が、何故かいらっしゃいます。聞き耳を立てていると、どうやら黒津木先生と神威司書は有給をとって、白銀さんは何となく.........だそうです。

 ですが、今まで来ていなかった人がここに居る。という事は、それほど私のレースに期待していてくださっているということ.........必ず、勝利して見せなければなりません。

 

 

マック(.........そろそろ行きましょうか)

 

 

 いつもの騒がしさを見せ始めた彼らを尻目に、私は一人、地下バ道へと向かいました.........

 

 

 

 

 

桜木「〜〜〜!.........あれ、マックイーンは?」

 

 

 こんなヤツらと言い争ってる場合じゃない。そう思い、マックイーンが居た鏡の前に視線を送ったが、もうそこに彼女は居なかった。

 

 

ウララ「えっとね?さっき、黙って出て行っちゃった.........」

 

 

桜木「.........そうか」

 

 

 シュン、と落ち込んだ様子を見せるウララ。ライスもブルボンも、声を掛ける事が出来なかったのだろう。二人も同じように、耳が前に萎れたように倒れていた。

 普段のマックイーンなら、そんな事は無かったはずだ。どんなレースの前であろうとも、優雅に、余裕を持って、誰かが話しかけてきても、笑ってそれを受け入れられていたはずだ。

 やっぱり.........今日はなにかが起こってしまうのだろうか?朝の不安がまた、鈍い痛みのように顔を出してくる。

 

 

桜木「.........マックイーン」

 

 

 王冠のネックレスを握りしめる。今日のコイツは.........少しも煌めいてはくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「ふうぅー.........」

 

 

 ゆっくり、胸につかえるような空気を吐き出すように、息を吐きだします。それがため息なのか、それとも深呼吸のそれなのか、自分でも判別が付きません。

 外の雨の音が聞こえてくる地下バ道。出口の陽の光が無い分、薄暗さがいつもより際立っています。

 

 

マック(メジロ家のウマ娘としての期待、応援してくださるファンの方々への期待)

 

 

 心の中で言葉を紡ぐ。脳裏には、その方々の顔が見えてきます。その方達は決まって笑顔で、私の天皇賞制覇を喜び、次を期待してくださっていました.........

 

 

マック(そして―――)

 

 

マック「私を信頼してくださるチームメンバーと、トレーナーさんからの期待.........」

 

 

 そんな方々の笑顔より、鮮明に浮かび上がる人達の表情。目尻のシワや頬にできる窪みまで、ハッキリと脳裏に写し出せます。

 

 

マック「.........っ」

 

 

 .........だからこそ、怖い。勝てずに、その笑顔を歪ませる結果になってしまったらと思うと.........私は、怖くて仕方がありません。

 けれど.........

 

 

『一着で待ってる』

 

 

 彼の声が脳裏に響きます。そうです、待っている彼の為にも、勝たなければ行けません。誰もが.........皆さんが、私の勝利を待ってくれているのです。

 それを.........無下にすることは出来ません。私は、走らなければ行けないのです。

 

 

マック「皆さん、必ず勝ってみせますわ」

 

 

 近づく出口から聞こえてくる歓声。その声が大きく聞こえる度に、不安も恐怖も溢れだしそうになります。

 お願いです。お願いですから、今この時だけは.........どうか不安を出さないで欲しい。

 そう、自分の心にお願いしながら、私は出口から外へと向かって、歩みました。

 

 

 ―――しかし、髪飾りと一緒に付けた王冠は、決してその光を、私に見せてくれる事はありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいにくの天気の中、秋の『天皇賞』に臨む18人がゲートへ入りました」

 

 

桜木「.........」

 

 

 実況の声が響く観客席。きっと、彼女らにも届いている事だろう。ゲートの中で、険しい表情をしているマックイーンが、ここからでも見える。

 

 

桜木(外を回ると、宝塚の二の舞になる.........きっと彼女も、そう考えてるに違いない)

 

 

 内側先行。前を塞がれることがなければ、逃げを打たれたとしても最終コーナーで必ず抜ける事が出来る。その練習も、宝塚の教訓を生かし、何度もしてきた。

 その為には.........最初のコーナーまでにはいい位置に付かなければならない。

 

 

ウララ「大丈夫かな?マックイーンちゃん.........」

 

 

ライス「だ、大丈夫だよきっと!」

 

 

ブルボン「マックイーンさんのステータスを考慮した場合、勝つ確率は高いです。安心して大丈夫ですよ。ウララさん」

 

 

 雨の中、レインコートを着て応援する三人。他の子達や沖野さん。アイツらも同じように雨具を着てマックイーンのレースの行く末を見守っている。

 ただ、二人ほど険しい表情をして.........

 

 

テイオー「ねぇサブトレーナー.........」

 

 

桜木「.........どうした?」

 

 

テイオー「ボク、嫌な予感がする.........」

 

 

ゴルシ「.........」

 

 

 耐えきれなくなった不安をぶつけるように、テイオーは静かに俺に言った。ゴールドシップも、マックイーンの方を見ながら少し、焦っている気がする。

 

 

桜木(.........大丈夫とは、言いきれないな)

 

 

 彼女の担当である俺が100%安心しきれていない中で、大丈夫とは言えない。何度も裏切ってきた大人の様に、俺はなりたくない。

 何も言わない俺に察したのか、テイオーはそれきり何も言わず、これからレースが行われるターフに視線を移した。

 

 

桜木(頑張れ.........!)

 

 

 そんな、選抜レースの時に発した言葉と同じものを心の中で祈るように思いながら、ゲートが開く時を、俺はひたすらに待っていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盾の名誉を目指して.........」

 

 

 雨の音と共に耳に響く実況の声。その声に合わせて、私を含めゲートに入っているウマ娘達は、その体勢を、走るためのものへと変化させます。

 

 

 ガコンッ!

 

 

「―――今、スタートです!」

 

 

 ゲートが開いたのと同時に、そのまま直線を曲がること無く、真っ直ぐ走っていきます。出走ゲートは外側だった為、焦って内側に行こうとすれば順位を落とす事になります。それだけは避けなくては行けません.........!

 

 

マック(.........よし、このタイミングでッ!)

 

 

 走っている最中に出来たインコースへの空き。そこを縫うように外側から位置を動かし、コースの内側へと着くことが出来ました。

 

 

マック(後はポジションをキープしていけば.........!!)

 

 

 順調にレースを運べています。これなら、皆さんの期待に応えられる.........!!

 前方で逃げている二人のコースを視認しながら、走りながらレースプランを練り上げます。

 レース展開は縦長。後ろの人達に関しては、私の後ろ三人に気を配れば、差される心配は無さそうです。それに、この不良バ場に慣れてない様子も垣間見えます。

 

 

マック(流石に内側は開きませんか.........なら、外から抜け出すまで.........!!!)

 

 

 大欅の前。この後は最後の直線が待っています。もう内側にこだわる必要はありません。

 ポジションは理想的。脚もまだこの直線を全力で走る程に残っている。このレース。勝てますわ!!

 

 

「マックイーン、動いた!」

 

 

 実況の声のとおり、私は三番手から動きました。大欅を超えたあたりで二人を抜き、先頭に躍り出ます。

 空から降る雨が身体にかかろうと、私は全力で走ります。皆さんの期待に応えられるならば.........こんな雨など、造作もありません。

 

 

マック(ここから.........!!)

 

 

 直線の途中。まだ残っている力を奮い立たせ、全力を振り絞ります。身体にかかる雨の量も増し、まるで豪雨に晒されている感覚に陥ります。

 ゴールまでもう少し.........!!ここを超えれば.........!!私は、皆さんの望む[メジロマックイーン]に.........!!

 

 

 そう、心の中で、誰が求めているかもしれない私になれると思いながら、私は、そのゴールを誰よりも早く、走り抜けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メジロマックイーン!今ゴールイン!!」

 

 

桜木「やった.........!!!」

 

 

 俺達の目にはしっかり、この雨の中走り抜けたマックイーンの姿があった。彼女はこちらに満面の笑みを向けながら、大きく手を振っている。

 

 

沖野「やったな桜木!!」

 

 

桜木「はい!!沖野さんやトレーニングに付き合ってくれたみんなのお陰です!!」

 

 

 腕を伸ばし、俺の頭を巻き込むように抱き寄せてくる沖野さん。胸に残る不安を全て打ち消してくれた彼女に、俺は深く感謝した。

 並大抵の事じゃない。やっぱり、あの子は俺にとって夢そのものだ。どんな困難な暗闇の中でも、必ず辿り着く場所に居てくれていて、行くべき場所を照らしてくれる。確かな存在だ。

 俺も、沖野さんから身体を離し、大きく彼女に向けて手を振った。テイオーも、他の皆も、同じように彼女に手を振り、健闘を称えた。

 

 

桜木「ハハハ!!どうだみんな!!うちのマックイーンは強いだろ!!なぁゴールド.........シップ.........?」

 

 

ゴルシ「.........まだ、終わってねー」

 

 

桜木「.........?何言って―――っ.........!!?」

 

 

 一番人気に応えた。その言葉が、実況の声に乗って耳に入ってくる。誰がどうみたってマックイーンがこのレースを制した。そう.........思っていた。

 レースの着順を示すはずの掲示板には、順位は表示されていない。普段ならば、赤い背景に確定と白く書かれた文字が浮かび上がる箇所に、青い背景に白い文字で、『審議』と文字が映し出されていた。

 

 

桜木「.........マックイーン」

 

 

 不穏そうな表情をしていたゴールドシップから目を離し、走りきったマックイーンの方を思わず見やる。

 消えた.........いや、沈んでいた不安が海面から顔を出すように、俺の胸の内からまた、その暗い感情が表に出始めていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第1位に入線したメジロマックイーンは、他のウマ娘の進路を妨害したため―――」

 

 

「18着に降着といたします」

 

 

桜木「嘘だろ.........!!?」

 

 

 有り得ない。トレーナー資格の勉強の為に、色々と多くの失格や反則事例には目を通してきたが、1着から降着して18着になるなんて、前代未聞だ。

 沖野さんも、掲示板の方を見上げながら、その顔を驚き一色に染め上げていた。その掲示板には、赤い背景に確定と文字を映し出しながら、1着の番号は、本来2着であった子の番号が映し出され、マックイーンの番号は、最初からなかった事のようにされた。

 

 

桜木「くそ.........っ」

 

 

神威「.........お、俺のせいかな〜?あ、あはは.........」

 

 

黒津木「バカ、今回に関してはマジで運が悪かったんだ。火に油を注いでんじゃねぇ」

 

 

神威「.........悪い」

 

 

 場の空気を和ませようとした神威も、黒津木にそう詰められて顔を俯かせる。今、この空気を打開できる者は、誰一人として居ない。

 .........彼女は、マックイーンはどうしてるだろうか?あんなに満面の笑みで手を振り、俺達の期待に応えてくれたあの子は、一体どうなる?俺はどう声をかけてあげれば良い?

 

 

桜木(.........神様、これがアンタが用意した俺達の試練ってんなら.........)

 

 

桜木(相当.........ひねくれてるぜ.........!!)

 

 

 どうにもならない。力差で負けた。技術で負けた。ならばそこからどうやって勝ちに行くか、思考する楽しみは存在する。そして、確かにそれらを超え、それらを掴んだ時、大きな喜びに打ち震える。

 だがこれはどうだ?力を出した。技術を使った。そのうえでルールとして負けてしまったのなら、それはもう.........どうしようもない状況ではないか.........

 

 

桜木(.........ごめん)

 

 

ウララ「.........?トレーナー.........?」

 

 

 悔しい。目の前の観客席とレース場を仕切る柵に、拳を作った両手を乗せて、歯を食いしばった。今回は明らかに.........俺の采配ミスだ。迂闊だった。

 勝ちに近道なんて無い。そんなの、今の今まで何度と経験してきたはずだ。俺の浅はかさが露呈した内側先行、勝てたはずのレースに、真実だったあの笑顔に、俺は泥を塗ってしまった。

 

 

桜木(ごめんね.........!!)

 

 

 雨が降っていた。背中にのしかかるその雨粒は、酷く重く感じた。それが俺の責任であるかのように、重く、苦しく、そして悔しさを募らせるように、その雨は俺の背中を打った。

 周りの声は、聞こえなかった。目の前の景色も、見えなかった。あるのはただ一つだけ。彼女の笑顔だけだった。彼女の笑顔が、泥の中に消えていく姿だけだった.........

 

 

桜木「っ.........!」

 

 

 冷たい雨の中で、温かさを感じた。けれどその温かさは、ちっとも優しくは無い。音もなく、押し寄せる感情から押し出される様に出てきた温かさだ。意識しては行けない。

 だから.........それを雨のせいにして、頬に感じた一筋の温かさはそれきりにして、俺は.........俺達は、レースを終えたマックイーンを迎えに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 あのレースから一日が経ち、私達は元通りの、トレーニングの日々へと戻りました。

 .........勿論、他の方々から暖かい言葉を沢山頂きました。そういう事もある、一大事にはならなかったから今度から気を付ければ良い、あの場面は自分も同じようにしていた、などと、共感や激励の言葉を数多く貰いました。

 .........今はその優しさが、とても苦しく感じます。

 

 

ライアン「.........マックイーン、大丈夫?」

 

 

マック「えっ!?ええ、もちろんですわ」

 

 

 そうでした。今は心配したライアンとドーベルがトレーニング前に、チームルームを訪れていたのでした.........

 目を向けると、お二人とも心配そうな表情で私の顔を覗き込んでいました。

 

 

マック「多くの方の期待に応えられず、一緒に出走した方々を危険な目に合わせてしまったのは事実です」

 

 

 あの日のレース。私は一番人気という、ありがたいファンの方々からの声援がありました。そんな中で、こんなことをしてしまった自分が恥ずかしい.........

 そして何より、共にレースを作り上げていく仲間であるはずのウマ娘を危険に晒すなんて.........メジロ家のウマ娘として、恥ずべき行為です。

 

 

マック「でも、だからこそ下を向いてなんていられません」

 

 

マック「レースの失態は、レースで取り戻してみせます」

 

 

 次のレース。具体的に言ってしまえば、[有馬記念]。今度のレースで、今回の失態を必ず取り戻さなければ.........

 そんな思いが伝わってしまったのか、ドーベルはまた心配そうな顔をして口を開きました。

 

 

ドーベル「ちゃんと反省もしてるんでしょ?必要以上に自分を責めることないから」

 

 

桜木「そうそう、今回の事はしっかり頭に残して行こう。そうすればレース中のプランの幅が広くなるはずだ」

 

 

マック「っ、トレーナーさん.........」

 

 

 私を気遣い、先にタキオンさん達にミーティングとトレーニングメニューの受け渡しを済ませてきた彼が、扉を開けました。

 少しビックリした様子のドーベルと、ゆっくり頷くライアンを見て、少し落ち着きます。

 

 

桜木「にしても、予防策張った俺のトレーニングが、まさか仇になるなんてなぁ.........マックイーンにとって大事なレースだった手前、本当申し訳ないことしたなぁ.........」

 

 

ドーベル「アンタもよ。二人揃って責任感強すぎ」

 

 

桜木「社会人は責任種族だーー!侮るなーー!」

 

 

 いつも通りにふざけてみせる彼に、ライアンは苦笑いを、突然の大きな声にドーベルは驚きの表情を見せました。

 .........やっぱり、二人にはただいつも通りにふざけてるだけの彼が見えているのですね.........

 

 

マック(そんな事、全くありませんのに.........)

 

 

 苦しんでいる。彼もまた、今回の事で悔やみ、考えているはずです。でなければ、あんなにわざとらしく取り繕う必要ありませんもの。

 ですが.........その、彼が苦しんでしまう状況を作ってしまったのは、他ならない私なのです。私の存在が、存在そのものが彼を苦しめている.........本当、自分が嫌になりますわ

 

 

ゴルシ「オッスぅ〜。ゴルシちゃん通信の時間だぞ〜」

 

 

桜木「なんだこいつ!!?」

 

 

ゴルシ「レーダー反応には外にカメラを持った変質者がいっから気ーつけろよー?まっ!アタシが死んでから蘇生したセミ紹介したら飛んで逃げてったけどな!!」

 

 

 唯一変わっていないとすればこの人だけです。一体どういう神経してるのでしょうか?全く理解に苦しみます。

 ですが.........カメラを持った方と言われれば十中八九、私の取材に来た記者さんです。

 

 

マック「.........私の取材に来た方々です。くれぐれも今後はそのような対応はしないでください」

 

 

ゴルシ「おいおい、学園にまで来るようなヤツらだぞ?降着して負けちまったマックちゃんの写真が出回るならともかく、関係ないヤツらのあられもない写真が出回ったらどうすんだよ」

 

 

マック「貴方中々良い度胸してますわね?」

 

 

桜木「どうする?コイツがここまで言うんだから今日はトレーニング控えておくか?」

 

 

 .........全く、この人もゴールドシップさんも、私を甘く見すぎです。何かを聞かれればその都度私が誠心誠意応えるだけです。それが、今回騒動を起こしてしまった私の責任なのですから.........

 

 

マック「その必要はありませんわ。何かを聞かれれば、その都度応えるまでです」

 

 

マック「.........それよりも、今度はちゃんと勝利して、明るい話題の取材を受けないとですわね」

 

 

桜木「.........マックイーン」

 

 

 ああ、何故でしょう。上手に笑えません。この人の前だと、特に上手く表情を作ることが出来ないんです.........

 貴方のそんな心配した表情なんて、見たくないんです。お願いですから、そんな顔はやめてください。

 

 

マック「.........さあ、体を動かしたい気分ですわ!行きますわよ、トレーナーさん!」

 

 

桜木「あ、ああ.........」

 

 

 

 

 

 ―――無理をしている。彼女は、大丈夫では無い。そんな事はとっくのとうに分かりきっている。レースが終わった後も、今も、彼女はずっと苦しんでいる。

 なのに、かける言葉が見つからない。彼女を安心させる為の言葉も、行動も、俺の引き出しには何も無い。

 一人、チームルームを出ていくマックイーンに遅れて着いていくように、俺はこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日のトレーニングはいつもと違い、軽いものでした。先日レースに出走したので、その配慮だと思われます。

 彼が優しい人柄だと言うのは、この三年間で身に染みて分かっています。でも、だからと言って.........

 

 

マック「寮は目の前ですのよ?別に送っていただかなくても平気ですのに.........」

 

 

桜木「俺がそうしたいんだ。ダメだった?」

 

 

マック「べ、別にダメという訳では.........」

 

 

 本当、過保護な人です。こうは言っておりますが、結局の所、私が記者に質問攻めされるという事態を避けたいのでしょう。

 こんなに甘やかされてしまっては、自分が弱くなってしまいます。自分の事はしっかり、自分でできますのに.........

 そう思っていると、学園の門を出た辺りで誰かが走ってくる足音が聞こえてきます。数からして、一人ではありませんでした。

 

 

「あっ、マックイーンさん!秋の『天皇賞』についてコメントをお願いします!」

 

 

「あのような危険な走りはどうして起きてしまったのでしょうか!?」

 

 

 やはり、そう質問されてしまいますか.........無理もありません。私も彼らと同じ立場であれば、きっと同じような質問をし、同じように記事を書いていると思います。彼らの仕事は、それで成り立っているのです。

 胸に残る空気を入れ替えるように気持ちを切り替え、彼ら彼女らにしっかりと身体を向けます。

 

 

マック「この度は、レースに関係する方々にご迷惑をおかけし、まことに申し訳ございませんでした」

 

 

 取材に来た方々に対し、深く頭を下げ、謝罪をします。その際、横目で彼の顔を見ましたが、その顔は、何とも言えない表情でした。

 

 

マック「私が未熟であったばっかりに、周りに気を配ることができず、あのような事態を招いてしまいました」

 

 

「妨害を受けたウマ娘には、どのような対応を取られましたか?」

 

 

マック「おひとりおひとり、お詫びをさせていただきました」

 

 

 脳裏に過ぎるのは、私が頭を下げたウマ娘達です。彼女達は被害者であったにも関わらず、笑って私を許してくださるどころか、私の降着を残念に思ってくださっておりました。

 今思っても、本当に事故が起きなくて良かったと、本当に感じております。

 質問はもう、終わったのでしょうか?そう思い、一息付けると思った時。思ってもない言葉が出てきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『強引に内側に入れ』と言う、トレーナーの指示があったともされていますが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........トレーナーさんの指示!?」

 

 

 一瞬、彼が何を言ったのか理解が出来ませんでした。しかし、その言葉は次第に、私の中で意味を形成していきます。

 それが完全に形作られた時。私は思わず声を上げてしまいました。反論の言葉すら思いつかず、喋る内容も整ってないままに、その言葉を否定しました。

 

 

マック「そんなことありませんわっ!!あれは私の判断で行ったことです!トレーナーさんはなにも関係ありません!!」

 

 

 そうです。今回のレースは、私だけの問題。彼は私のトレーニングに付き合ってくださっただけなのです。これ以上彼に.........余計な心配をかけさせたくなんかありません.........

 その時、私と記者の方々を線引きするように、一本の腕が私の前に躍り出ました。それは.........他でもない、トレーナーさんのものでした。

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「.........トレーナーさん?」

 

 

 一際険しい表情を見せる彼の顔。その顔に、記者さんたちは恐れるように一歩引きました。

 私も.........少し、怖い。こんな表情をする彼を今まで見た事はありません。一体、どんな言葉が飛び出すのでしょう。私はその時を、不安を抱きつつ待っていました。

 

 

桜木「.........今回の件。責任はトレーナーである俺にあります」

 

 

マック「な.........!!?」

 

 

桜木「宝塚の敗因を、内側を先行できなかった事などという自分の浅はかな分析に、マックイーンを付き合わせてしまいました」

 

 

マック「トレーナーさん!!」

 

 

 頭を深く下げ、謝罪をするトレーナーさんの服を思わず引っ張ってしまいます。違うんです。こんなこと、貴方が謝ることではありませんのに.........!!

 

 

桜木「まことに、申し訳ございませんでした」

 

 

「.........」

 

 

桜木「.........これで記事のネタには困らないでしょう?一般出のトレーナーが采配ミスをした。ゴシップ好きなら飛びつくでしょうね。さあ、行こうマックイーン」

 

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔で立ち尽くす記者の方々を置いて、トレーナーさんは私の腕を引っ張り、寮までの道を歩きました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

 お互い、無言のまま帰路を歩きます。私達二人の空気は完全に、居心地の悪いものになってしまっています。

 彼の責任ではありません。それを、ハッキリと彼に伝えられれば.........そう思っていても、今回問題を起こしたのは私自身。何かを言う資格などどこにもありません。

 

 

マック(.........ごめんなさい)

 

 

 罪悪感に押し出された言葉が、心の中で唱えられます。謝られても彼が困るだけなのは、知っていましたから.........

 あともう少し歩けば、寮に着きます。いつもなら名残惜しい彼とのこの時間も、今は、早く開放されたい.........そう、思っていました。

 

 

マック「.........あら?」

 

 

桜木「ん.........?あっ」

 

 

「あっ!マックイーン!サブトレーナーも!どうしたのさー二人ともー!もしかしてデート〜?」

 

 

 寮の門から現れたのは、ジャージを着ていたテイオーでした。おかしいです。今日の彼女はもう、トレーニングは終わったはずですのに.........

 そんなものじゃない、とトレーナーさんが手を振って応えると、つまらなさそうにテイオーは口を尖らせていました。

 

 

マック「あの、今日はもうトレーニングは終わったはずですが.........」

 

 

テイオー「うん!『トレーニング』はね♪」

 

 

 そう嬉しそうに、私達の目の前でストレッチをしながら答え始めるテイオー。その姿に、今までの悪い空気を忘れ、私とトレーナーさんは顔を見合わせて笑ってしまいます。

 

 

桜木「.........『菊花賞』まで、落ち着けないのか?」

 

 

テイオー「当ったり前じゃん!!出れないかもって言われてたのに、ちゃんと出れるんだもん!!」

 

 

マック「.........テイオー」

 

 

テイオー「見ててよねマックイーン。ボクが三冠を取る所.........!!」

 

 

マック「.........!!」

 

 

 その両の眼には、熱い闘志が宿っていました。その溢れんばかりの熱気が、私にも飛び火するように、体を熱くさせます。

 .........羨ましい。彼女はきっと、沢山の方々の期待に応えることができる。そう思うと、同時に悔しさも滲み出てきます。

 

 

桜木「軽めにしとけよ。何かあったら、止めなかった俺が沖野さんに怒られるからな」

 

 

テイオー「もちろんだぞよ〜♪」

 

 

 私達に手を振りながら、ランニングへ出ていったテイオー。その後ろ姿を、私達は手を振って見送りました。

 私も.........テイオーに負けてなんて居られません。

 

 

マック「.........トレーナーさん」

 

 

桜木「ん?どうしたの?」

 

 

マック「次のレース。予定していた『有馬記念』より先に『ジャパンカップ』へ出走したいのです」

 

 

桜木「.........」

 

 

 前のレースの疲労が溜まっているだろう。そう言われるかと思いましたが、トレーナーさんは何も言わずに、私の目を見ました。彼は、どんな時でも私達の意見を尊重してくださいます。

 

 

桜木「.........分かった。『ジャパンカップ』に出よう」

 

 

マック「!ありがとうございます.........!」

 

 

 今度こそ、期待するファンの方々の為、そして支えてくださったチームメンバーの為、ここまで一緒に着いてきてくださったトレーナーさんのために、一着を取らなければ.........!

 

 

マック(必ず.........必ず勝ってみせますわ.........!!!)

 

 

 新たな決意と悔しさを胸に、私は『ジャパンカップ』への出走を決めました.........

 

 

 

 

 

  To be continued

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