山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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トレーナー「夢の跡地を草原に」

 

 

 

 

 遂に始まってしまった中等部外部講和会。開幕のザワザワとした空気も、俺がビシッとキメたスーツ姿になった時は、会場は痛いくらいにシンとして居た。

 

 

桜木(作戦その一、大成功だな)

 

 

 知能のある生物は、目の前で突飛な事が起きれば対処が困難になる。それは知能が高ければ高い程有効である。何故ならば経験則から対処するのが本能レベルで染み付いているからだ。

 だから敢えてあの登場をした。今まで真面目を気取っていた奴らに打って変わって、俺がこの場を支配する。大勢の注目を集めるのは、富や地位でも、名誉でも無い。常識の欠落した人を不快にさせないパフォーマンスだ。

 とは言っても、やりすぎは禁物だ。俺は独裁者になりたい訳では無い。ただ、この講和の中だけは、全員俺の世界に引きずり込まなければ、あのイベントは最大限まで楽しめないのだ。

 

 

桜木「それではね、まず自己紹介の方させて頂きます」

 

 

 手元のノートパソコンを操作して、パワーポイントをプロジェクターでステージの壁に投影させる。よしよし、動きも重くないな。

 

 

桜木「200X年生まれのてんびん座。血液型はOですね。良く漫画の主人公とかもO型が多いと言われてますね」

 

 

 へー、と言ったような声が各所から聞こえてくる。よく見るとうんうんと頷いている子も居る。よほど漫画が好きなのだろう。

 

 

桜木「僕ね、中央生まれではありません。生まれてから高校卒業までは、北海道で暮らしていました」

 

 

桜木「会社は○○という企業で、僕は営業で3年、働いていました」

 

 

 そうそう、頑張って働いてたんだよなー。心は折れたけど。 今思えばそれも無駄じゃなかったって訳だ。

 

 

桜木「この会社は、動けなくなった人の稼働部位の補助機を作る会社で、僕もその身体の動きに興味を持っていたんで、面接して就職しました」

 

 

桜木「すっごい良い企業で、仕事も勉強も楽しかったんだけれど、人間関係が上手くいかなくて、メンタルがおしゃかになったんでね、退職しました」

 

 

 自分でここまで聞いていても、トレーナーになれる要素が全くない。なんならメンヘラになってトレーナーやってるとか狂人すぎるのでは?まぁ、人生何が起こるか分からないのが醍醐味ではある。

 

 

桜木「それでね、やめた瞬間に体調が戻ったんで、どうしたもんかなーとフラフラしてたら、レース場が目に付いたわけですよ。ウマ娘の。『うっわぁこれ逆張りして今まで見てこなかったやつじゃんー』ってなって、いい機会だからどんなもんかと思って会場に入ってね」

 

 

 あの時の大歓声は今でも覚えている。何を知ってる訳でもないのに、涙が出そうになる程の人々の感情の高揚。とても素晴らしいものだった。

 

 

桜木「実はそこにねー、悪魔が居たんですよー。『どうだ兄ちゃん。その様子だとレース見んの初めてだろ?』って尋ねてきたものですからね?『ええ、めっちゃヤバいっすね。足の可動域の限界も見た目の筋肉の比率的にも人間とは対して違わないのに、回転率もパワーも段違いですね。しかもあの一着をもぎ取ったあの子、あれで抑えてますよきっと。必死ではありましたが後ろを焦らすように付かず離れずで走ってました。本気で走ってたら多分もう三人分くらい開いてましたよ』ってもう興奮して捲し立てちゃったんですよ」

 

 

 そう。あれは衝撃的だった。ウマ娘という名前しか知らなかったから、膝とか逆関節なんじゃ無いかとか思ってた。それが実は人間と同じ構成の身体図で、体格も人間サイズ。

 その未知への興奮を誰かに吐露したくて全て吐き出したが、その相手が行けなかった。

 

 

桜木「でねー。もうその人はびっくりして、目を見開いた後に豪快に笑ったんですよ。そしてね『あんた見る目あるなぁ。トレーナーにならないかい?』って言われて。こっちもびっくりですよ。話を聞けばあの一位の子のトレーナーだと言うんですよ?あ、その人古賀さんって言うんですけどね?」

 

 

 その名を出した瞬間。また全体がざわつき始めた。こうして見るとスゲーんだな、古賀さん。

 腕時計をチラ見してみると、まだまだ時間には余裕がある。質問コーナーを設けるのも良いかもしれないな。

 

 

桜木「まぁ、カッコ良くいえばキャリアアップという物ですね。ここまででなにか質問のある生徒さんは居ますかね?」

 

 

 ちらほらと手が上がっているな.........お、エアグルーヴがマイクを持って移動してる。気が利く人だな。

 マイクを渡されて立ち上がる黒髪のウマ娘。前髪に若干の白が特徴立っている。先程の主人公の血液型で頷いていた子だ。

 

 

「ジュニアクラスA組のウオッカです!桜木さんに質問があります!」

 

 

 元気の良い子だな。ちょっと眩しいくらいだ。

 

 

ウオッカ「桜木さんの人生の中で、カッコイイと思った人は誰ですか!!」

 

 

 うわ、もっと眩しくなった。うーん、この子その辺の男子よりハートが燃え上がってるなー。

 

 

桜木「カッコイイ.........そうですね、例えば、平和な世界で、誰もが幸せに生きてる世界で、その平和を乱そうとする人が居たとしますよね?」

 

 

桜木「その人です」

 

 

ウオッカ「え!?」

 

 

桜木「これは完全に持論です。誰もが幸せになれる世界で、それが間違ってると言えるのは簡単じゃないんですよ。皆幸せだから黙ってる、では無いんです。だから僕は主人公サイドより悪役の方が好きになりやすいし、元敵キャラのライバルキャラも好きになりやすいです」

 

 

桜木「誰にも理解されない、その人だけの正義を持っている。それが見えて来やすいのが悪役です。これを持ってるなら主人公も大好きです」

 

 

 納得してくれたであろうか、仕方が無い。昔から俺はそうなんだ。どこかひん曲がってる。勿論、王道のヒーローがヒロインを守る展開も大好物だが、やはり一人で戦う敵キャラも魅力的なのだ。

 

 

ウオッカ「あ、あの。因みにどんなキャラが好きですか?」

 

 

桜木「ベジー○さんです」

 

 

 間髪入れずにそう断言する。あの主人公を超えるタフネスさが最高に魅力的で、悪だった自分と現在の立場に葛藤するシーンなんて、こいつ本当に人間臭いなって思ってしまう。

 とと、行けない行けない。こういう事をしてここに来てるんだから、あまり興奮して二の舞を演じない様にしないとな。

 

 

ウオッカ「あ、ありがとうございました!」

 

 

桜木「はい、他の方は居ますか?」

 

 

 先程座ったウオッカがエアグルーヴにマイクを手渡したのを視認して、質問の有無を確認する。先程と同じようにちらほら居るな.........

 

 

「ジュニアクラスB組!トウカイテイオー!!です!!」

 

 

 お、トウカイテイオーと言えば、この前マックイーンと話してて出てきた子か.........うーん。あの小さい身体から溢れ出る自信が目に見える様だ.........

 

 

テイオー「単刀直入に聞きたいです!!スパイですか!!!」

 

 

桜木「???」

 

 

 お?何だこのクソガキ。質問が突飛すぎるぞ?くぅ、そういうのは本人には言わずに、身内でイジって遊ぶ奴だろ。俺達もそうやって遊んでたんだぞ、怖いもの知らずめ。

 だけど、まぁ理由は推測できる。昔右手が動かな過ぎてスパイみたいだと言われたからだ。多分癖になってるから直らないし直そうとも思わん。

 

 

桜木「あーーー残念だなーーー。スパイだったらスパイだって言えたんだけどなーーー?」

 

 

テイオー「そっか!!!ありがとうございました!!!」

 

 

テイオー「良かったねマックイーン。スパイじゃないって」

 

 

マック(マイク!マイクがまだ入ってますわ!?)

 

 

 残念。がっつり話し声が流されている。と言うよりそこに居たのか、マックイーン。もしかしてマックイーンも俺の事をスパイだと思ってたのだろうか?うーん。受けてみようかな、スパイの試験。

 そんな下らない事を考えながら腕時計を見ると、次に進むには丁度いい時間だ。そう思い、質問コーナーを一旦切り上げ、次の段階へとステージへと話を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程の質問は少々肝が冷えました。テイオーはなぜ、あそこで私の名前を出したのでしょう.........隣でまた手を合わせて申し訳なさそうに謝る彼女を見て、また仕方ないとため息を吐きました。

 

 

テイオー「でもちょっと残念だなー。本当にスパイだったら面白いのに」

 

 

マック「テイオー.........」

 

 

 まったく、この人は.........そう思うのも無駄だと思い、意識を講和会へと向け直しました。

 実は、彼の話を聞いていて、驚いていました。彼の勤めていた企業は現在、お父様が運営しております。とは言っても、会社のトップが変わったのはつい先月の事。恐らく面識は無いでしょう。

 何処かで接点があればと夢を膨らませながら、あの人の仕事ぶりを想像してしまいます。見ず知らずの私をあれだけ評価してくださった人なので、想像の中の働く彼も、誰にでも優しく、人の為に働く姿が目に浮かびました。

 そんな妄想をしている間に、前からプリントが流れてきました。

 

 

桜木「これが今回の目次ですね。これから講和の進行はそのプリントを参考にして進ませていただきます」

 

 

 そこには、大雑把に、講和、スペシャルゲスト紹介、休憩、スペシャルゲスト登場、質問と言う順番で並んでおりました。

 

 

テイオー(あの人結構適当なんだね)

 

 

マック(いえ!私の献立表は隅々まで丁寧に.........)

 

 

 そう、きっと時間が無かったのです。仕方がありません。あの人だって暇だから私のトレーニングを見てくれている訳ではなく、無い時間の合間を縫って来てくれているのです。多分。きっと

 

 

桜木「まぁ僕の自己紹介で全部時間を埋めても良いのですが、皆さんの為に、今回は僕の知識を活かして、皆さんの身体の可能性について触れて行きたいと思います」

 

 

桜木「.........はい、準備が整いましたので、ここでスペシャルゲストの紹介を致しましょう!!友達のゴールドシップです!!!」

 

 

ゴルシ「ピスピース!中等部のみんな〜?元気してるか〜?みんなが大好きな?アタシだぞー!!!」

 

 

テイオー(げ、ゴルシ.........)

 

 

マック(?誰ですの?)

 

 

 プロジェクターから投影された映像では、トレーニングコースを背景に、長身で芦毛の、頭には会長と同じようにアンテナを着けたウマ娘が両手にピースを構えてアピールしておりました。

 とても美人な方ですが、テイオーが狼狽えるなんて.........そう思っていると、ヒソヒソと話しかけてきました。

 

 

テイオー(ゴルシ、ああ見えて滅茶苦茶なんだ。奇想天外ウマ娘って学園で言われてるんだよ?)

 

 

マック(まぁ、そうだったんですのね)

 

 

 とてもそんな風には見えませんのに。

 

 

桜木「今回は、このトレーニングコースに計六ヶ所に設置されたカメラを通して、ウマ娘の身体の可能性について触れて行きたいと.........?ゴルシー?どしたー?」

 

 

ゴルシ「なんかやる気無くなってきた。今のあたしは産まれたてのフグだ。どうせ炒められて眼鏡とタンポポのワルツを踊らされるんだ.........」

 

 

 気付けば、映像の中のゴールドシップさんはカメラに背を向けて寝転んでいました。ああ、こういう人なんですのね。

 どうするのだろうと思っていると、トレーナーさんはため息を吐いて、口を開きました。

 

 

桜木「ゴルシのすっげぇ所見てーなー.........?」

 

 

ゴルシ「」ピクッ

 

 

 暇そうに揺らしていたしっぽが止まり、耳を傾けるゴールドシップさん。そんな彼女の機嫌を損ねないように、慎重に言葉を選んで行くトレーナーさん。本当に仲良しなのですね

 

 

桜木「.........みんなが大好きなゴルシの力強くて輝かしい走り、見てみたいなー。みんなに紹介したいなー?」

 

 

ゴルシ「そこまで言うなら仕方ねえなー♪見物料はおめぇの命ではらえよな!!!」

 

 

 そう言った次の瞬間。嬉しそうにルンルンとコースを走り出しました。六つほどに分割された画面では、ゴールドシップさんの走りが綺麗に映し出されています。

 

 

桜木「ゴールドシップはですね、中〜長距離を追い込みに近い差しで走り抜けるウマ娘です。先程の様に非常に気分屋なので、レースの行方を知るのは恐らく大変困難な物になると思いますが.........」

 

 

 そう言いながら、彼は分割された内の一つの画面を拡大し、映像を巻き戻し、教鞭を伸ばして解説を始めました。

 

 

桜木「まず注目して欲しいのは姿勢ですね。前に倒れてはいますが、早くなり過ぎないように角度を保っています。レースを展開していく上で、差しや追い込みをする場合は前を見ながらしっかりと着いて行かなければなりません。その上でもこの姿勢は首に負担を掛けないので、追い込みとしての理想像になりますね」

 

 

 スラスラと出てくるレースへの知識。とても一年前までレースに触れてこなかった人とは思えません。しかし、それだけでは解説は終わりません。

 

 

桜木「次に見て欲しいのは脚の回転率ですね、これは本当に素晴らしいです。彼女はステイヤー脚質であるうえに、その長い脚を活かした歩幅と踏み込むパワーで回転率を大幅に減らし、スタミナが有りながらも更に減少を抑制するという事が出来ています」

 

 

 そう言うと、ゴールドシップさんの全体像が見える様に映像を縮小しました。確かに、回転率が低い分スタミナの消費を抑えられ、後半に追い上げられると考えれば、非常に恐ろしい物です。

 画面が移り変わり、もう一度六つの場面に戻りました。そこにはラストの直線でスパートを掛けるゴールドシップさんの姿が映し出されておりました。

 

 

桜木「最後のスパートも回転率を上げると言うより、地面を蹴る力を強くする感じでスピードを出している傾向がありますね。彼女の前進している最中の浮遊距離が先程の1.107倍ほど増大しています」

 

 

ゴルシ「ゴーーール!!!お前ら見てたか〜〜〜??!ゴルシちゃんの華麗な走り!!!アタシはチームスピカに所属してっから!!興味あったらよってくれよなーーー!!!」

 

 

 パッと両手を広げてのゴール宣言。チームの勧誘もしながら、とても気持ち良さそうに全身に太陽の光を浴びていました。

 

 

テイオー(凄かったねマックイーン)

 

 

マック(ええ、見事な走りでした)

 

 

 トレーナーさんはそんな彼女に対して、お礼の言葉を言うと、投影された画面を切り替え始めました。

 

 

桜木「実はですね。今回のメインはこれじゃないんですよ」

 

 

桜木「先程の走りのデータを元に、pcのソフトを使って力の出力を計算し、3D上で再現出来るのです」

 

 

 ???トレーナーさんが何を言っているのかいまいち分かりませんでした。隣に居るテイオーも首を傾げており、恐らく大半のウマ娘達が首を傾げていると思います。

 

 

桜木「まあ、見てもらった方が早いですねー」

 

 

 何を見せてくれるのでしょうか?そう思っていると、プロジェクターで移され始めたのは白い空間。そこに一本の線が入ると、みるみる内に世界が形成され、先程のゴールドシップさんの姿がありました。

 

 

桜木「このゴールドシップですが、先程の走りをデータとして取っています。なので.........」

 

 

テイオー(わ、走った!!!)

 

 

 体育館では、おーと言った声が響きました。画面の中のゴールドシップさんは、先程の本物の走りと何ら遜色無い走りを見せています。

 それだけではありません。各コースのタイムも緻密に計算し、表示されています。

 360度全てを再現し、走った時に出来た足跡でさえも、数値の上で残せてしまう。ビデオ媒体よりも信用性の高さが伺えます。

 

 

桜木「これはデータです。実際に走っている訳ではありません.........ですから」

 

 

 トレーナーさんがそう言うと、画面の中のゴールドシップさんは、その走り方を変えます。現実の物より前傾に、そして回転率の高い走り方、逃げの走り方へと変わりました。

 するとどうでしょう?コースタイムにも変化が生じ、とても驚異的な物へと数字を変えました。

 

 

桜木「このように、ウマ娘の負担を考えずに、模範的な走り方、各配置の走り方を、 身体能力そのままで見る事が出来ます」

 

 

テイオー(すごいすごい!ボクもやってほしー!!)

 

 

マック(テ、テイオー!静かにしてください!)

 

 

 隣で興奮するテイオーを何とか宥めていると、チャイムの音が聞こえてきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴り響くチャイムの音。本番への合図。あとは宣言するだけで始まる。心臓が高鳴る。まるで開演前のブザーの様に。

 

 

桜木「えー、チャイムがなりましたのでね。これで.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊びは終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬の静寂。次に押し寄せて来たのはヒソヒソとした静かなざわめき。舞台に一人立つ男。学校のチャイムは、開演のブザーはもう鳴り終わった。

 右手を挙げ、分かりやすいように指を鳴らした。ステージ以外の照明は落ち、ざわめきは激しさを増していく。

 

 

「な!?は、離せ!!!」

 

 

桜木「御苦労。生徒会長シンボリルドルフ」

 

 

ルドルフ「.........」

 

 

 理事長と共にステージへと上がってくるシンボリルドルフ。理事長もだいぶ焦ってる感じだ。あまり暴れると段取りが面倒くさいが、前持って対策してあるのでそこは問題無い。

 両手を後ろで拘束され、ステージの右側でシンボリルドルフを後ろに登壇する理事長。ふふふ、いい気味だ。もうちょっといじめて良いだろうかと思い、たづなさんの方を見る。うん、いい笑顔だ。

 生徒側からはルドルフの行動に対しての疑問が投げかけられる。喋らない様にお願いしているが、ルドルフは答えたくて堪らない様で、必死に我慢している。まぁ答えたくなるよね。

 

 

桜木「お前ら、おかしいと思わなかったか?ぽっと出の俺が、トレーナー?笑っちまう。点数や知識さえ取って、外面さえ良けりゃ誰でもなれんだよ」

 

 

 うぅ、言ってて心が痛い。このセリフのインパクトの為に今まで優しい口調で話してた分、生徒達の反応が痛々しい程伝わってくる.........

 

 

理事長「そ、相違ッ!!私は君の思いに触れ!真に優しき者だと感じた!!」

 

 

桜木「だから、それが嘘だったんですよ。理事長さん」

 

 

理事長「!?」

 

 

 あ、まずい。言い過ぎたか.........?ルドルフの様子を見ても結構辛そう。俺も辛い。ネタバラシしたい.........

 理事長は既に涙目だ。たづなさんに視線を送ってみると、これ以上はやっては行けないようだ。俺もそう思う。取り敢えずここは安心してもらおう。

 

 

ルドルフ(大人しくしてください。理事長)

 

 

理事長(!シンボリルドルフ.........!)

 

 

 よーし。ルドルフの話に耳を傾け始めたな。これで少しは安心だ。

 

 

桜木「俺はな、キラキラ輝くお前らが許せなかった。ただ走る事が好きなお前らウマ娘が。だからここで、未来への道を叩き潰そうと思う」

 

 

 あーーーー!!!!!なんでこんなに辛いんだ!!!!!いつもお風呂で悪役ごっこしてただろ!?!?!?

 生徒側の方ではあまりの変貌に涙を流し始めた子も出だした。もう無理ぽ。

 しかし、次の瞬間にまた体育館がざわざわとしだした。

 

 

たづな「.........!」

 

 

桜木(ありがとうたづなさん!!!)

 

 

 事前に用意していたパソコンをたづなさんが操作して、プロジェクターに画面を投影させる。そこには全員を安心させられるように、『現在、ヒーローショーとなっております』という文字と、俺の土下座が映し出されている。

 やりすぎです、と言いたいのか、たづなさんは頬を膨らませて俺を見る。ありがとう、命の恩人だよ貴方は

 それを見た生徒は安心出来たのか、涙が引っ込んだ様子だった。ルドルフの方を見てみると、理事長はルドルフの話を聞いていてプロジェクターを見ていない。しめしめ

 

 

桜木「教えてやろう。改造人間の恐ろしさをッッッ!!!!!」

 

 

 ステージの両端からスモークが噴出される。スモークで体全体が浸ったのを確認し、教壇の下に隠したケースから特注怪人スーツを取り出し、それを着用する。

 

 

怪人「クハハハハッ!!!我が名はバッタルメットッッ!!!貴様らウマ娘をォ〜〜〜!!根絶やしにしてくれるゥ〜〜〜!!!」

 

 

 もうネタばらししたからな。心も辛くないし、演技っぽくやっても白けない。ここまで来ればこっちの物だ。ステージから飛び降り、生徒達の間の空いた道の部分をゆっくりと歩く。

 うーん。ちょっぴり怖がってる子もいるけど、ヒーローショーという事で、目がキラキラしてる子も多いなー.........けど、果たして喜んでくれるだろうか.........

 

 

怪人「.........決めたぞ、まずお前から潰してやろう!!その未来を見る目が気に食わん!!!」

 

 

ウオッカ「うぇ!?お、俺から!?」

 

 

 その反応とは裏腹に、その目はキラキラとしている。あー、さてはヒーローの出番がわかってるな?さて、どう喜んでくれるのか?

 

 

「未来を見て、何が悪いんだ?」

 

 

怪人「!?だ、誰だッ!!!??」

 

 

 体育館のしまった入口。ゆっくりと開けられ光が徐々にこの広い空間を満たしていく。逆光でシルエットとなった人影が、ゆっくりと近付いてくる。

 黒いスーツに白い装甲。赤いラインが入った腕と足に、黄色い蛍光色の仮面。ベルトには、特徴的なマシンがあった。

 

 

ウオッカ「ラ、ライダーだッッッ!!!!!」

 

 

 その声と同時に盛り上がりを見せる体育館。俺があの時から欲していたもの。最初で最後の成就だ。しっかりやろう。

 

 

怪人「莫迦な.........!!!!ライダーなどこの世に居る訳ないだろうッッッ!!!!!」

 

 

ライダー「居るさ、お前みたいのが居たら、一人や二人くらいライダーだっているだろ」

 

 

 面倒くさそうにそう答えるライダー。手首のスナップを皮切りにこちらへと走ってくる。覚悟を決めて俺もそのライダーの方向へと駆け出す。

 勢いよく突き出した腕を躱され、右フック、左ボディの二連コンボの後、掴まれて体育館入口側へと投げ飛ばされる。いや、マジで強すぎ

 

 

怪人「おのれライダー.........ッッ!!!」

 

 

ライダー「あ?なんだそりゃ」

 

 

 懐から出したいかにもなボタン。それをその手を突き上げて堂々と周りに見せつける。

 

 

怪人「これは.........爆破スイッチだ。コイツを押せば、あのアンテナを付けられ、俺に服従するシンボリルドルフと、ゴールドシップが爆発を起こす.........!!!」

 

 

理事長「な!?」

 

 

ライダー「卑怯な手使いやがって」

 

 

 そう言って舌打ちをしながらも、ライダーは戦闘態勢を解く。生徒のウマ娘達はその姿に絶望感が漂っていた。

 そのボタンをチラつかせながらゆっくりとライダーに近付いて、一発、二発と殴ってみる。うーん。やっぱりそんなに良い音が出ないな.........

 

 

「負けるなライダー!!」

 

 

「がんばれーーー!!!」

 

 

 お、丁度いいライダーコールが来たな、そろそろ先に進んでみるか。

 

 

怪人「トドメだ。お前の道もここで終わりだな」

 

 

ライダー「うるせえ、お前が前に立ってるだけで、俺の道はまだ続いてんだよ.........邪魔だ。そこは俺の進む道だ」

 

 

 目の前で跪くライダーに対して、装置を持ってない左腕を高く上げる。これが合図だ。

 派手な効果音がなると同時に、大袈裟に体制を崩してボタンを投げ出す。

 

 

ルドルフ「ライダーッッ!!!これを使えッッ!!!」

 

 

ライダー「ッッ!!!サンキューッッ!!!」

 

 

 モデルガンを持ったルドルフは、腰に忍び込ませていたライダーの武器を投げて手渡した。それを手に取り、ベルトのチップを装着させて刀身を振って出す。

 

 

「EXCEED CHARGE」

 

 

 その無機質な機械音声と共に、赤く光る刀身で一閃される。その場に倒れ込むと、生徒のウマ娘達から拍手喝采が巻き起こった。

 だが、 まだ終わりでは無い。

 

 

怪人「ルドルフ.........ッッ!!!何故だ、洗脳は完璧だった筈.........ッッ!!!」

 

 

ルドルフ「.........確かに、貴様の技術は素晴らしい物だ。この皇帝であるシンボリルドルフを、一瞬でも跪かせいようと思い上がれる程にはな」

 

 

ルドルフ「我が名は『皇帝』ッッ!!!!!シンボリルドルフッッッ!!!!!」

 

 

ルドルフ「こんな玩具でその魂と誇りを操ろうとするとは笑止千万ッッ!!!」

 

 

 そう言うと、頭に着けたアンテナを握り潰すシンボリルドルフ。すっごい迫力だ。演技で食っていけそうだなおい。他のウマ娘もその姿には大興奮。やっぱ好きだよね、裏切ったと思ったらちゃんと仲間だったって展開。

 けれどまだまだフィナーレじゃない。

 

 

怪人「ククク.........!!!まだだ、まだ私にはもう一人仲間が居る.........!!!」

 

 

 その発言と共に、またもやウマ娘達に動揺が走る。そう、アンテナを付けた奴はもう一人居るのだ。

 

 

怪人「さあ来いゴールドシップ.........ッ!」

 

 

 体育館の入口の方を向きながら、俺はそう言った。すると、ぬるりと横から、ゆっくりとゴールドシップの姿が見えてくる。逆光でシルエットになっているが、間違いない。

 

 

怪人「クハハハハッッ!!!今度こそ終わりだッ!ライダーーーッッ!!!」

 

 

 タッタッタッと一定のリズムでゆっくり走ってくるゴールドシップ。その表情が露になる。今まで見た事ない様な真剣な表情。視線だけで刺せそうな眼力に、度肝を抜かれた。

桜木(ヒエッ)

心臓の鼓動が全身に伝わる程に強くなる。ゴールドシップのその表情に感化され、少年の様な気持ちを思い出していく。

 最後の一歩の踏み込みで、一気に俺の懐に潜り込んでくる。大丈夫。これはウマ娘に蹴られても良い程頑丈なんだ。比喩では無い筈だ。

 そのまま、ゴールドシップは俺に下から上方向へ飛び上がる様なドロップキックを腹に決めてくる。何とか衝撃を殺せる様にワイヤーを背中に付け、エアグルーヴのタイミングで引っ張りあげられ、蹴られてるフリをしようとするが、ちょっと当たってる。

 ステージの上まで飛んで床に背中を擦る。痛い、痛い痛い痛い痛い。痛いが、幸いライダーが来るまで猶予はある。意識を外して痛みを忘れろ。

 

 

ライダー「お前.........」

 

 

ゴルシ「アタシは楽しい事が大好きなんだ。アンタもそうだろ?」

 

 

ゴルシ「見せてくれよ!!アンタの未来!!!」

 

 

ライダー「.........ああ!!」

 

 

 そんな会話が終わった後、走ってくる音が聞こえる。片手を着いてスタイリッシュにステージに飛び乗るライダー。流石身体能力最強の男。

 そんな男の頑張りに答えなければ。そう思い、何とか力を振り絞り、立ち上がって見せた。

 画面越しからでも分かる。相当心配してくれているが、後はやりきるだけだ。

 

 

怪人「おのれおのれおのれ.........ッッ!!!これで終わりだッッ!!!ライダーッッッ!!!!!」

 

 

 ステージの両控えからスモークが勢いよく出てくる。タイミングを見計らい、ライダーに向かって駆け出した。

 

 

「EXCEED CHARGE」

 

 

 スモークがライダーを覆うのと同時に、プロジェクターがスモークにライダーの姿を移す。機械音声が 喋り追えると同時に、赤い光はアイツの後ろに控えさせた右足に送られる。

 映像は回し蹴りの容量で右足が振られ、赤い線が俺へと向かってくる。地面に貼ったバミリしたテープの上で両手を広げ立ち止まると、そこは丁度、プロジェクターで映されたその線が円錐の形に展開していた。

 

 

桜木(よし、位置的には完璧だ.........ッッ!!! )

 

 

 ステージの壁には、高く飛び上がるライダーの姿。開いた円錐の中に吸い込まれていく瞬間。体育館は暗転し、ライダーの叫び声と、爆発する効果音だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(す、すごい.........)

 

 

 ゆっくりと明るくなっていく体育館の中。私は思わず呟いてしまいました。隣で珍しく静かにしているテイオーに視線を移してみると、その目をずっとキラキラとさせていました。

 

 

マック(テ、テイオー?大丈夫ですか?)

 

 

テイオー(うん.........)

 

 

 心ここに在らず、ですわね。返事に身が入っておりません。ですが、そんな風になってしまうのも気持ちが分かります。

 ヒーローショー。実物を見た事はありませんが、小さい頃、お友達だった男の子が、両親と見に行ったと自慢していたのを思い出します。確かに、これは自慢してしまうのも頷いてしまいます。

 

 

テイオー(.........あれ?理事長がステージに上がってきてるよ.........?)

 

 

マック(あら?本当ですわね)

 

 

 しかも、結構な駆け足気味で横の階段を駆け上がって行っています。

 隣で立つライダーをスルーして、そのままトレーナーさんが倒れている場所へと向かい、腕を組みました。

 

 

理事長「ば.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「莫迦者ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで聞いた事のない理事長の怒号に、私達、ウマ娘一同はすくみ上がりました。確かに普段から大きい声で、目立つ方でしたが、ここまで感情が乗っている事はありませんでした。

 

 

理事長「なぜこの私に何も言わなかったのだッッ!!!」

 

 

理事長「人に対する慈愛ッッ!!!人体の知識に対する渇望ッッ!!!そしてウマ娘に 対する未来への展望ッッ!!!どれを取っても君から嘘偽りは無かったッッ!!!」

 

 

理事長「こんな.........こんな姿になってしまって.........うぅ.........無念.........!!! 」

 

 

桜木「えっと.........」

 

 

 膝から崩れる様にして座り込む理事長。彼が仰向けに倒れている傍で泣き出してしまいました。

 衝撃的な光景でした。当然、体育館のざわめきは大きな物に変化していきます。トレーナーさんはやりずらそうに困惑しておりました。

 

 

理事長「不満があったのならッッ!!!相談すれば良かったでは無いかッッ!!!」

 

 

桜木「あの、理事長.........」

 

 

理事長「なんだ!!!!!」

 

 

桜木「あれ.........」

 

 

 トレーナーさんは、ステージの壁に向かって指を指しました。それに釣られて理事長が壁の方に向くと、プロジェクターから先程見せられたトレーナーさんの土下座と、『現在、ヒーローショーとなっております』の文字が映し出されておりました。

 

 

理事長「な、え.........きょ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚愕ゥゥゥッッッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな理事長の今日一番の叫び声と、トレーナーさん。ライダーさん。そして生徒会長とゴールドシップさんの笑い声で、ヒーローショーは幕を閉じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ......To be continued

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