山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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T「ファン感謝祭ってそういう名前のファン増幅イベントだよね?」マック「止めなさい」

 

 

 

 

 

 まだまだ二月という季節の寒さを思い知る今日この頃。俺、桜木玲皇は今日も今日とて、ファン感謝祭実行委員長として、昼休みを忙しく過ごしていた。

 

 

桜木「日本文化の素晴らしさを再確認させたい?」

 

 

グラス「はい♪」

 

 

 こんな要件だったり

 

 

桜木「トレセン学園にいるウマ娘達の出身地の名物を出店にして食べたい?」

 

 

オグリ「そうだ」

 

 

 こんな実現不可能に近い要件も

 

 

桜木「ウオッカに負けないような出し物?」

 

 

ダスカ「そうよ!!」

 

 

 ふざけるな。俺もその要件でウオッカから頼まれてるんだよ。

 というような調子で、着々と無理難題やほとんど責任放棄といった言葉が正しいような要件が舞い込んでくる。俺はなんでも相談センターではない。

 

 

桜木(くっそ〜.........宣伝方法も一任されてて、それも考えなきゃならんのに.........)

 

 

マック「どこへ行かれるのですか?」

 

 

桜木「気分転換に学園を歩くよ.........来る?」

 

 

マック「ええ、お供致しますわ」

 

 

 二人で一緒に席を立ち、廊下へと出る。教室の扉につけている吊るした看板を反転させると、不在という文字が姿を現す。用があるなら職員室で放送がかかるはずだ。

 何故か鍵を閉める時、マックイーンが自分が閉めたいと言い出したので、鍵を預けると、どこか幸せそうな表情でその鍵を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「〜〜〜♪」

 

 

桜木「.........かなり上機嫌っすね」

 

 

 廊下を歩いている際、無意識の内に鼻歌を歌っていると、彼からそう指摘されました。正直、彼にそう言われるまで自分が鼻歌を歌っている事にも気付かない程でしたので、すごく恥ずかしかったです。

 ですが、仕方ないではありませんか?彼から鍵を受け取り、彼と共に出た教室の鍵を閉める.........そんなの、幸せ以外何も感じる訳ありませんわ。

 あ、あわよくば、彼のお家の鍵もこうして.........〜〜〜///

 

 

桜木(うわ、なんか急に悶え始めたぞ.........)

 

 

マック「.........はっ!」

 

 

 彼からの心配そうな自然に気づき、私は背筋をピンと張り直しました。こんな姿、とても淑女とは言えませんわ。

 自分の腑抜けた気を切り替えるべく、コホンっと咳払いをし、何とかなかった事にして見せると、目の前にある喫煙室から、白銀さんが出てこられました。

 

 

桜木「あ?」

 

 

白銀「お?」

 

 

マック「待ってください。なんでそんなお二人共喧嘩腰なんですの?」

 

 

 目と目があったその瞬間、そのお二人の視線の間をバチバチとした火花が可視化されるほどの険悪ムードが漂ってまいりました。

 まぁ、普段から大体50%の確率でこうなってしまうのですが、流石に白昼堂々と喧嘩されても困ってしまいます。

 

 

桜木「.........あれ、お前手に持ってるタバコどしたの?」

 

 

白銀「捨てる」

 

 

二人「なんで.........?」

 

 

 彼の手には、大量にタバコのカートンが詰められた袋が握られておりました。噂によると、喫煙所でタバコを持ち歩かずに吸うために常備しているらしいのですが、まさか本当だとは思いませんでしたわ.........

 しかも、トレーナーさんの話によると、彼の吸っているPeaceという銘柄は、酷く強い物らしいのです。何が強いのかはわかりませんが、あんなものを吸い続けるなんておかしい、とトレーナーさんは申しておりましたわ。

 

 

白銀「そりゃお前、ゴールドシップにタバコ臭いって言われたら辞めるっしょ」

 

 

桜木「お前が禁煙???無理無理‪w」

 

 

白銀「愛のパワーを舐めるな」

 

 

 酷く真面目な顔でそう仰られた後、白銀さんは私達の横を通って行かれました。あの人の事です。きっと難なくやり遂げてしまいますでしょう。

 とりあえず、聞きは去りましたわ。お散歩の続きをしましょう。そう思って歩を進めていると、彼が隣に居ない事に気が付きました。

 

 

マック「.........トレーナーさん?」

 

 

桜木「.........」

 

 

 振り返ってみると、先程白銀さんと会話をした所から一歩も動いていない彼が居ました。白銀さんが歩いて行った方向を見るように、体をそちらに向けております。

 気になって彼に近付いてみると、なにやら考えを巡らせている様子で、心ここに在らず。という言葉が似合うほど、意識を全て内側に向けているようでした。

 

 

マック「.........何か、気になることでも?」

 

 

桜木「っ、ああ.........悪いけど職員室に寄って戻ろう。いい宣伝方法を思い付いた」

 

 

 そう言って彼がこちらに向けた顔は、いつもの様なイタズラを思い付いた顔.........と言うよりは、真っ直ぐ成功しか見えていない、明るい顔でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「さて、それで君達を呼んだわけなんだけど.........」

 

 

「えっと、どうしてカレン呼ばれたの?」

 

 

「ファル子もわかんないかも.........」

 

 

白銀「翔子も分かんない.........」

 

 

 うーん。一人は余計だったかも〜.........なんて、今更言える訳も無い。なんせこの三人は放送で名指しで呼んできたのだ。何もせず帰す訳にも行かない。

 そう思っていると、隣にいるマックイーンが急に顔をこちらに近付けてきた。ちょっとドキッとしてしまう。

 

 

マック(あの、どういう事なんですの?)

 

 

桜木(これからの話の流れで理由は分かるから、ちょっと見守っててくれる?)

 

 

 そう言うと、マックイーンは渋々と言った感じで乗り出していた身を正常な状態に戻した。

 以前であればこういう事は上司や同僚に確認してからやっていたが、今はトレーナー。思い付きで行動しても咎められないし、なんならあらゆる工程に確認が無くなり、スピーディに事が進むようになる。

 

 

桜木「君達に頼みたいのは他でもない、それぞれのSNSで感謝祭の宣伝をして欲しいんだ」

 

 

カレン「え〜?でもカレン、最近はずっと感謝祭の準備の事あげてるよ?」

 

 

ファル子「うんうん!ファル子もウマッターで発信してるよー!」

 

 

白銀「感謝.........祭.........?」

 

 

 ダメだコイツ、早く何とかしないと.........仮にも出資者の中で一番トレセン学園に貢献しているはずだ。なのに何だこの体たらくは、見ろ。あって間もないけど隣にいる二人が恐らく普段見せないであろうドン引き顔を見せてるぞ。

 先程、意図を聞いてきたマックイーンも合点が言ったようで、どこかスッキリとした顔をしていた。意外と表情豊かなのが最近のファン急増の理由だろう。

 

 

桜木「ただ宣伝して欲しい訳じゃない。『学園公認の宣伝者』として、宣伝して欲しいんだ」

 

 

三人「.........?」

 

 

桜木「難しい事じゃない。次に写真投稿をする際、これを一回だけ付けて、学園公認になったと言って欲しいんだ」

 

 

 そう言って、俺は紙袋に入れた三本のタスキを机の上に置いた。そこには、ファン感謝祭宣伝大使と銘打ってある。これを作ったのは良いものの、どこの誰に渡せばいいかを四苦八苦していた訳だ。

 

 

カレン「それだけでいいの?」

 

 

桜木「ああ、それだけでいい」

 

 

ファル子「ホント〜!?アカウントとか乗っ取られたりしないー!?」

 

 

桜木「そんな事はせん」

 

 

白銀「プロレス技も柔道も掛けてこない!!?」

 

 

桜木「お前にはやる」

 

 

 悲痛な叫びを上げている白銀をよそ目に、二人はそれを手に取り、目の前で付けてくれた。うん。なかなか良い感じだ。

 白銀もそれに手を伸ばし、掴んだ所で、二人は挨拶をして廊下へと出て行った。恐らく、もう次のネタが出来上がったのだろう。楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 

白銀「俺どうすりゃいい?一応SNSしてっけど全部で発信は出来んぜ?」

 

 

桜木「お前は動画投稿で宣伝して見てくれ。ゴールドシップと何かやる口実は出来ただろ」

 

 

 そう言うと、白銀は何か思いついたのかジャンプしてから走って廊下に駆け出して言った。その様子を俺とマックイーンは同じような心境で見送っていた。

 

 

マック「.........大丈夫でしょうか」

 

 

桜木「ああ、俺もたった今人選ミスったなと思ったよ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからも、学園祭でやりたい要望は溜まって行った。

 

 

桜木「成程、オペラをしたい.........と」

 

 

オペラ「はい!!是非とも先生に稽古をお願いしたいのです!!!」

 

 

「わ、私からもお願いします〜.........」

 

 

 以前、俺をヒーローショーで見てからその憧景の目で見つめてくるテイエムオペラオー。そして、その付き添いに来た子。名はメイショウドトウだ。先程弱々しい声で自己紹介された。

 さて、となると台本やステージ、小道具や大道具。衣装も必要になってくるはずだ。今すぐに出来るとは即答出来ない。

 

 

桜木「.........わかった。それをやるには準備が必要だが、そもそも準備が出来るかどうかも定かじゃない。とりあえず待っててくれるか?」

 

 

オペラ「はい!!!いつまでも待ちます!!!」

 

 

 なんなんだ、どうしてそんな俺に眩しい目を向けてくれるんだ。止めてくれ。俺はそんな目で見られる様な大人じゃないんだ。

 いつまでもそんなキラキラとした目で身を乗り出して見つめてくるオペラオー。そんな彼女はドトウに引っ張られ、廊下へと連れていかれた。その間も視線を外してくれなかった。

 

 

桜木「.........はぁぁ、なんなんだあの子は」

 

 

マック「あら、良いではありませんか。貴方はもっと人に尊敬されるべき人だと思いますわ」

 

 

 あの子の気に当てられたのか、マックイーンも変な事を言い出し始めたぞ.........どうやらあの子、周りを自分の流れに乗せる天性の才能があるのかもしれない。全く、俺がそれを習得するのにどれほど時間をかけたのか分かっているのか?

 とは言っても、こんなものは老いた者が若者に向ける羨ましいという気持ちだ。あの子が将来どんな道を行くのか、今から楽しみでもある。

 

 

 その後も.........

 

 

桜木「.........つまり手品のショーがしたいと?」

 

 

スイ「手品じゃないわ!!魔法よ!!」

 

 

フジ「この通り、魔法を皆に見せつけたいと言い出してキリが無くてね.........君なら何とかできるんじゃないか?」

 

 

 弱ったぞ。確かに舞台上での経験は豊富な方ではあるが、マジックだの芸だの、そんな物を扱った試しはほとんど無い。

 なんだ?音源にオリーブの首飾りとか、ジャズとか流せば良いのか?そもそも台本いる?小道具は?そこら辺はめっきり弱いぞ.........?

 待て、この子は手品がしたいんじゃなくて、魔法のショーがしたいんだよな?だけどどうすればいい?魔法なんてそんなのハリーポッターとかサリーちゃんとかしか知らないぞ。

 

 

桜木「う〜ん.........それは良いんだけど〜.........万が一観客が危ない目にあったら大変だから、フジキセキにアシスタントしてもらえる?」

 

 

スイ「.........分かったわ、折角の機会よ!!アタシの魔法を間近で見せてビックリさせてあげるわ!!」

 

 

フジ「アハハ、それは楽しみだね」

 

 

 そう言ってスイープトウショウは椅子から降りて教室から出る為に扉へと向かって行く。フジキセキもそれに付き添うように後ろを着いて行った。

 フジキセキと言えば、たまにボランティアで手品やマジックのショーを披露していると聞く。彼女がアシスタントになれば、スイープにバレずに手品が出来るだろう。傍から見れば魔法である。

 これで肩の荷が降りた.........そう思っていると、先程出て行ったフジキセキが顔をひょっこりと覗かせ、声は出さずに「ありがとう」と口を動かし、今度こそこの教室を後にした。

 俺はその思いやりに胸がキュン、としてしまい、思わずマックイーンの方を見た。どうやら彼女もあの攻撃をもろに食らった様である。

 

 

桜木「.........なぁ」

 

 

マック「.........えぇ」

 

 

桜木「俺、フジさんがモテる理由、わかったよ」

 

 

マック「私もですわ.........」

 

 

 これができる男.........あいや、ウマ娘という事なのだろう。同性のファンが多いというのも頷ける。

 はぁ.........俺にもそんなスキルが備わっていれば、今頃可愛い女の子と付き合えてたのかもしれない.........なんて、そんな事を思っていたら出来るはずもない。持たざる者は持つ者を恨まず、日々研鑽するしか無いのだ。

 

 

マック(まぁ、トレーナーさんの方が素敵ですけど.........)

 

 

 

 

 

 ―――彼の方をちらりと見ると、思っていた以上にショックを受けていたようでした。大方、あのスキルを身につけてさえ居ればなんて考えていたのでしょう。そう言う浅はかさも可愛らしいです。

 .........あぁもう。最近はめっきり彼を否定する事が無くなってしまいましたわ.........これでは依存しているのと変わらないではありませんか。

 ですが、本当にあんなスキルを彼が持っていなくて助かりましたわ。あんなもの振り回してしまえば、彼が通った後はもう女性で溢れかえるに決まっておりますもの。

 それに.........

 

 

マック(しっかりと「ありがとう」と言ってくださる方が、貴方らしいですから)

 

 

 どんな状況であろうと、しっかりと目を見て、その声で伝えてくれる方がトレーナーさんらしいです。あんな風にしなくても、貴方には貴方の良さがあるのです。

 そう思っていると、またもや教室の扉がノックされました。

 

 

桜木「どうぞー」

 

 

「失礼します!!」

 

 

 

 

 

 ―――耳に響いてきた声は、とても元気な声だった。今まで出会った事の無い声.........ということはつまり、初対面のウマ娘であるという事だ。

 扉を丁寧に開け、その子は入ってくる。ショートヘアーで栗毛のウマ娘。確かに、初めましてで間違いなかった。

 

 

桜木「ではお名前と相談の内容について教えてください」

 

 

「はい!!ビコーペガサスです!!」

 

 

 ほう。ペガサスですか.........あの伝説上の生き物と同じ名を冠するウマ娘。中々カッコ良い名前をお持ちですな.........

 っと、いけないいけない。今は職務中。しっかりとお話を聞かなければ.........そう思い、彼女の相談内容に耳を傾けた。

 

 

ビコー「実はアタシ!!桜木さんのファンなんです!!」

 

 

桜木「.........ん?」

 

 

 なんだろう。この流れ、嫌な予感がしてくる。そしてこの子の目、よく見てみるとあのオペラオーと同じようなキラキラとした眼差しで俺の方を見てきている.........

 助け舟を出してもらおうと、マックイーンの方を見てみるが、彼女はその言葉にすっかり気を良くしていたみたいだった。

 

 

マック「まぁ!!トレーナーさんのファンですの?」

 

 

ビコー「はい!!講演会の時から!!」

 

 

マック「ふふ♪私としても嬉しい限りですわ♪」

 

 

 はい出ましたー講演会ね。うんうん、アレを見てファンになったって、それもうアレでしょ?相談内容ってヒーローショーがしたいんでしょ?

 クソァ!!なんでみんなステージを使いたがるんだ!!!時間割どうすんの!!?出店とか催し物している子達も見れるように調整かけたいんだけどこっちは!!?

 

 

ビコー「その、相談なんですけど!!桜木さん!!」

 

 

桜木(はいはい。どうせヒーローショーでしょ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローショーが見たいです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........んん〜???」

 

 

 あれ、聞き間違いかな?ヒーローショーが『したい』んじゃなくて、『見たい』って言ったのかな?どういうこと?耳でも詰まってたのかな.........?

 

 

桜木「ごめん、もう一回言ってもらっていい?」

 

 

ビコー「ヒーローショーが見たいです。桜木さんの」

 

 

桜木「」

 

 

 絶句した。そしてこの世の全てに絶望した。聞き間違いでは無かった。なんなら名指しで指名されてしまった。逃れようは無いのだろうか?

 いや、断れば良い話だろう。俺にだって日本国に住む日本国籍を持っている日本国民だ。この国は人権という最強の武器がある。決定権は俺にあるのだ。

 

 

桜木「も、申し訳ないけど、今回は見送り―――」

 

 

ビコー「ダメ、ですか.........?」ウルウル

 

 

桜木「やります」

 

 

 Q.そんな決定権がお前にあるのか?

 

 

 A.無いです。

 

 

 即答だった。なんせ隣に居るマックイーンも少し引くほどの速さだ。自分でもびっくりしてしまう。

 でも仕方ないじゃないか。あんな目で言われてしまえば誰だって折れるに決まってるだろう。ウララといいこの子といい、俺はこういう小動物系に弱いのかもしれない。

 

 

マック「.........ちなみに、どういうご算段が?」

 

 

桜木「そんなの無いよ.........とりあえずやるから、安心していいよ」

 

 

ビコー「やったー!!ありがとうございます!!」

 

 

 頭を下げた後、廊下へと出ていくビコーペガサス。その姿が見えなくなるまで手を振った後、俺はすぐさま頭を抱えて机に突っ伏した。

 

 

桜木「ど゛お゛し゛て゛だ゛よ゛お゛ぉ゛お゛お゛お゛ぉ゛!!」

 

 

マック「いくらなんでも優しすぎます。いつか身体を壊しますわよ?」

 

 

桜木「うぅ.........助けてマックイーン」

 

 

 救いの手を伸ばそうとするが、それを振り払わうようにパシッと叩かれてしまう。傷付いた。深く。グッサリと傷ついてしまった。

 身から出た錆だとは分かってはいても、これが自分の性分だ。仕方あるまい。じんじん痛む心に手を添えながら、俺は顔を上げた。

 

 

マック「.........あら」

 

 

桜木「どうしたの?」

 

 

マック「今私のウマフォンに通知が来て.........カレンさんとファルコンさんがSNSを更新したようです」

 

 

 マジか、まだ一日も経ってないってのに.........若者って言うのは行動力の化身みたいなところがあると常日頃から感じてしまう。

 彼女が見ているスマホの画面を隣で覗き込んでみると、あのタスキを付けて宣伝してくれているみたいである。しかも、公認となった事でコメント欄では喜ばれている。狙った通りだ。

 

 

桜木(これで今後の情報が注目されるな.........ん?)

 

 

桜木「お、翔也の奴も動画投稿したみたいだぞ」

 

 

マック「本当ですか?」

 

 

 今度はマックイーンが俺のスマホの画面を覗き込んでくる。近いしちょっといい匂いがしてくるなんて口が裂けても言えない。

 気を取り直して動画のタイトルを見てみると、そこには[報告]とだけタイトルが付けられており、サムネは何故か土下座している物であった。どこに謝罪する要素があるんだ?

 とにかく、一度動画の中身を見てみよう.........そう思い、俺は画面をタップしてその中身を見た。

 

 

白銀「練習サボってたせいでランクが8位になりました」

 

 

二人「嘘でしょ.........?」

 

 

 マジか、本当にマジかよアイツ。やりやがった。全世界で真面目にスポーツ取り組んでる奴らを敵に回しやがった。

 しかもあのタスキを付けてるのに、最後まで動画みても全然説明とか一切しやがらねぇ。アイツの頭おかしいんじゃねーの?

 

 

桜木「.........あっ、ゴールドシップからコメント来てる」

 

 

マック「[今度からお前の事はハチってよぶわ].........ですって」

 

 

 うわー。距離が遠くなったなー。あんな盛大に告白したのに、マジかわいそー。というよりゴールドシップから聞いたけど付き合ってる訳では無いらしい。本当に可愛そう。

 まぁ学園祭前にちょっとした大会あるし、そこで挽回できんだろ。せいぜい5位くらいまでしか行かないだろうけど。

 

 

桜木「本当に人選ミスだったかなぁ.........」

 

 

マック「ま、まぁ気長に待ちましょう。彼はああ見えてすごい人ですから」

 

 

 そうだといいんだけど.........なんて言いながら、俺は先程来た要望をまとめようとノートパソコンを開いた。

 今日の放課後、会議が開かれる中で感謝祭に関する事が取り上げられる。その中で生徒からの要望。感謝祭の宣伝方法。そして今までになかった盛大なイベントを議論するらしい。

 それを有意義な物にする為に、俺はこうした地道な努力を強いられている訳だ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........という訳なんですけど、ここまでで何か質問はありますか?」

 

 

 トレセン学園会議室。そこにはやよい理事長やたづなさん。生徒会長のシンボリルドルフを含む数名の者達が皆、俺の言葉に耳を傾けていた。

 

 

ルドルフ「一つ良いだろうか?」

 

 

桜木「なんでしょう?」

 

 

ルドルフ「何故マックイーンがここに?」

 

 

マック「.........?」

 

 

 いや、俺もそう思ってたんだよ?トレーニングはまだ有馬の疲れがあるから休み休みでいいけど、先に行っててって言ったんだよ?

 そして君はなんで首を傾げてるの?居てはいけませんの?みたいな感じだけどそうだよ。居ちゃいけないんだよ。

 皆からのそんな視線を受け取ったマックイーンは、察したらしく、溜息を吐いて口を開いた。

 

 

マック「私は彼のチームのエースです。勿論お仕事が大切なのも重々承知しております」

 

 

マック「ですが、そのせいでトレーナーとウマ娘間との信頼関係が崩れる事にならないとは言い切れません。ですから私がこうしてしっかり仕事をしている姿を見て、そのような事がないようにしているのです」

 

 

ルドルフ「な、なるほど.........」

 

 

 すごい。あのシンボリルドルフが下がった.........普段なら有無を言わさずに論破して見せるのに。マックイーン、メンタルが強いと言うより、図太い。

 だが、マックイーンの言い分もよく分かる。俺も学生時代、部活に精を出していた学生だった。だがその顧問は生徒会も兼任しており、大会時期は文化祭と重なっていて、練習したくても通しが出来ない。そんな中で他の部員達は不満が募って行ったものだ。

 そのケアをしてくれるのだったら、これほど嬉しいことは無い。やはり彼女が居ると心強いと思うのは、思い違いではなかったのだろう。

 

 

桜木「.........他に質問は?」

 

 

やよい「.........本当にこれだけか?」

 

 

桜木「はい?」

 

 

 先程まで資料とにらめっこを続けていた理事長が目を落としたままそう呟いた。今まで見てきたハイテンションとは違う、落胆にも似た声だ。

 なんだ、この人は一体俺に何を求めていたんだ?そう思っていると、理事長はそこからガバッと顔を上げて、声を上げた。

 

 

やよい「不全ッ!!これではいつもの感謝祭と全く変わらない!!」

 

 

桜木「.........!!」

 

 

やよい「私が君に頼んだのはッ!!今までの常識や概念を打ち破るだろうと見込み!!この任を任せたのだ!!」

 

 

 なんて横暴、なんて無茶振り。ここに来て今まで掛けられてこなかった強い圧の数々。だが、不思議と嫌な気分は無かった。あの日々との決定的な違いは、彼女と.........いや、この学園に居る人達と築いてきた信頼関係のおかげだろうか。

 だから、その言葉が掛けられた瞬間。無意識に掛けていた思考の鍵が開けられた。今まで散々悩んで来たのが嘘だったかのように、まとめて体に流れてくる。こんなにもやが晴れたのはいつぶりだっただろうか.........

 

 

マック「.........トレーナーさん?」

 

 

 

 

 

 ―――その時の彼の横顔は、叱咤激励を受けているものとは思えないほど、破顔しておりました。いつもであれば、しゅんとした表情を見せるはずです。

 

 

桜木「.........勿論、用意しておりますよ」

 

 

マック「え!!?」

 

 

 そんなはずがありません。彼に事前に確認したところ、今のところはこれが最大限に出来ることだと仰っておられました。私自身、これ以上やる事を増やしてしまえば、彼の体力が心配になってしまいます。

 それでも、そう言いきったのです。この強い圧、静かな圧、期待の圧が掛かる中、彼はいつもの様な[なんでも乗り越えるようなニカッとした笑顔]で、言ってのけたのです。

 

 

桜木「正直、頭の中で作り上げていたので、企画の段階ですらありません。それでも聞きたいですか?」

 

 

やよい「是非ッ!!君の考えを聞かせてもらおうではないか!!桜木トレーナー!!」

 

 

 そんな大それた嘘を、彼は何ともない様子で言ってのけました。私にあんなに眠れない程悩んでいると言っていたのが嘘だったかのように言葉を発したのです。

 .........けれど、何故でしょう?そんな彼の 行動に、ドキドキにも似た.........どちらかと言えば、ワクワクという感情に近いものを自分の中に感じます。

 きっと、いつもの様な大胆で、私達の予想を大きく裏切る事になるでしょう。ですが、それも今ではもう、楽しみの一つとなってしまっているのです。

 そして、彼は静かに口を開きました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネットでファン感謝祭を中継する特別番組をやります」

 

 

「中継を担当するリポーターのは学生から募集します」

 

 

「そして映像映えするようイベントや催しの調整を行います」

 

 

「番組の最中にURAファイナルズに関する情報も上げていきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「.........」

 

 

 怒涛の展開でした。今まで彼の口からも、そして資料からすらも確認できない情報、彼の構想が初めて、表に現れました。ここに居る全員が、その勢いに唖然と言うように、目を見開いたり、先程までの圧を引っ込めてしまいました。

 ですが.........一つ、気掛かりがあります。それは、この彼の思惑が果たして上手くいくのかと言うものです。きっと、ここにいる皆さんも、この案に魅力を感じながらも、そう思っていることと思います。

 私は、彼に対し失礼だと思いつつも、問いかけました。

 

 

マック「あの.........本当に実現出来るのですか?」

 

 

桜木「.........へへ」

 

 

 私にそう聞かれたトレーナーさんは、私の方へ顔を向け、しばしの間は無表情でした。しかし、次第にその顔は今まで彼が見せてきたもう一つの笑顔。イタズラを思い付いたような悪い子供の笑顔で、笑いました。

 そして、声高らかに宣言したのです.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来らァッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声と、彼の表情を見て、私は納得しました.........

 

 

 この人は、全く、これっぽっちも、無責任と言っても差し支えない程、何も考えていないのだと。今この場で、思い知りました.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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