山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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T「この忙しい時こそ雑談だ」マック「それが賢明ですわ」

 

 

 

 

 

桜木「.........ぁぁぁ」

 

 

 トレセン学園のグラウンド。そこに備え付けられているベンチに腰を掛けていると、日頃の疲れか今日の疲れか、声になるかならないかの音が喉から漏れ出る。

 二月も終わりを迎えようとしている。俺はその実感を、手に持った冊子の中身を見ながら湧かせている。傍から見れば俺の目は死んでいるだろう。

 

 

桜木(オペラに手品にヒーローショー.........めんどくせぇから全部ごちゃ混ぜにしてやったけど.........何とかなるのかぁ?)

 

 

 開かれた冊子の中身はト書き(演劇用語で地の文の事)や台詞の羅列がびっしり書き込まれている。我ながらよくここまで台本を書き上げたものだ。

 既にこれらはオペラオーやスイープに渡してある。しかも、魔法のショーをしたいスイープには他の人とは違う特別な台本と言って渡してある。手品のタネが適当に変えられた物だ。

 

 

桜木(まぁ、後はフジさんが上手く立ち回れば機嫌よく終わってくれるでしょ)

 

 

 問題は、ヒーローショーだ。果たして誰が、何の役をやるかが問題になってくる。勿論、俺は悪役がやりたい。そう考えながら台本を作成していたのだが.........

 

 

マック『勿論、トレーナーさんは正義の味方ですわよね?』

 

 

桜木『え』

 

 

桜木「.........あんなこと言われちゃなぁ〜」

 

 

 前科があるとはいえ、まさか釘を刺されるとは思わなかった。まぁたしかに、いくら演技とは言っても、自分のトレーナーが悪役をやっている姿なんて見たくないのかもしれない。ウララとか泣いちゃいそう。よし。やめよう。

 

 

桜木(やだなぁ.........動きたくないなぁ.........観客席でのんびり観させてくれよぉ.........俺は人が真剣に演技してる姿を粗探しすんのが好きなんだよぉ)

 

 

 まぁ別にそんなこともないが、悪あがきにそんな性格の悪いことを考えてみる。この多大なストレスをかけてくる環境へのせめてもの抵抗だ。

 まぁ幸い、脚本自体はよく出来ていると見てくれた子達は褒めてくれた。上手く行けば成功はしてくれるだろう。

 そんな半ば皮算用の様な思考を張り巡らせていると、不意に隣に座ってくる者が居た。

 

 

マック「お疲れ様です。トレーナーさん」

 

 

桜木「マックイーン.........最近近いね」

 

 

マック「!き、気のせいですわ!!!」

 

 

 そう言いつつも、その場から一切離れようとしないマックイーン。本当、最近はトレーニング以外も彼女の顔を見ない日は無いと言うほど顔を合わせている。

 まさか、俺は尾行されているのか?こんな素敵で可愛らしいセレブリティなお家のお嬢様に.........?

 

 

桜木(いやいや、ないでしょそれは)

 

 

 どこの世界にこんな一般庶民以下の出身の男を好きになるお嬢様が居るんだ。そんなもの創作物のなかでしか無いだろ。

 一人心の中の平穏を保とうとしている俺だったが、今度は軽い足音が聞こえてきた。その方を見てみると、タマモクロスがこちらへと歩いて来ていた。

 

 

タマ「よーマックちゃんにおっちゃん。調子はどうや?」

 

 

桜木「ボチボチでんな」

 

 

マック「嘘をつかないで下さい。すっかり過労気味ではありませんか」

 

 

 隣にいる彼女にそう言われると、流石の俺も痛い。だがね、過労気味という理由だけで大人は休めないんだよマックイーン.........

 そんなやり取りを見ていたタマはケタケタと笑い声を上げた。

 

 

タマ「なんや二人とも!!あれから随分仲良うなったな〜!!これはもうアレか!!?結婚まで行くんちゃうんか〜???」

 

 

マック「な、けっ.........!!?」

 

 

桜木「タマの姉さんよぉ.........ちょっち親戚の面倒臭いおじさんっぽいぜ?」

 

 

タマ「え?おっかしいなー.........ウチはどちらかと言えば、近所のお節介焼きのオバチャンのモノマネやったつもりなんやけどなー」

 

 

 いや、そこで変なボケプライドを見せつけられても困るんだが.........とは言っても、タマモクロスの言った通り。あのジャパンカップに出走した日から彼女との距離は以前より格段に縮んだと思う。精神的にも、物理的にも.........

 隣をチラリと見やると、マックイーンは両手を頬に添えながら顔を赤らめている。少々真に受けすぎではないだろうか。

 

 

桜木「あんましからかわないでやってくれよ?思春期は当事者含め面倒臭い時期なんだから.........」

 

 

タマ(.........まぁ、それだけで片付けられる問題やないと思うんやけどな)

 

 

マック(結婚.........と、トレーナーさんと、けっこん.........///)

 

 

 どんどん現実から意識が切り離されていくマックイーン。その様子を見て嬉しくない訳が無い。なんせ俺と結婚している様子を想像しているのだ。

 だが、俺は指導者。彼女は生徒。妄想先の関係性はもはや犯罪的。俺は犯罪者にはなりたくない。可愛らしい彼女の姿が、俺の中で葛藤を次から次へと産み落としていく。

 何とかこの状況から抜け出したい。願わくば話題を変え、二度とこんな話をしたくない。そう思っていると、遠目にまた見知った顔のウマ娘が見えてきた。

 

 

桜木「!おーい!!ブっさーん!!!」

 

 

ナリブ「ん?桜木と、マックイーン.........それとタマモクロスか.........」

 

 

ビワ「なんだブライアン。私の知らない内にそんなに友達が出来たのか?」

 

 

ナリブ「茶化さないでくれ姉貴」

 

 

 クスクスと笑うビワハヤヒデと共に、溜息を吐きながらこちらへ近づいてくるナリタブライアン。よーし。これで何とか話題が変わってくれるぞ。

 

 

ナリブ「何の用だ?」

 

 

桜木「いや、見掛けたから呼んだだけ」

 

 

ナリブ「アンタと私はそんなに仲良くないだろ」

 

 

桜木「なんだよ〜。二人で海外行った仲だろ〜?」

 

 

二人「え」

 

 

桜木「.........え?」

 

 

 ギョッとした表情で俺の顔を見てくるタマモクロスと、妹と俺の顔を交互に見やるビワハヤヒデ。これはまさか、酷い失態を犯したのではないか?

 そう思っていると、酷くにこやかだが優しさとは無縁の雰囲気を放つハヤヒデがこちらに近付いてくる。

 

 

ビワ「私の妹に何をしたんだ?」

 

 

桜木「な、なんもだよォ!!?なぁブっさん!!!」

 

 

ナリブ「くっ、あまり人に話せないことだ」

 

 

ビワ「.........ほう?」

 

 

 あぁぁぁ!!!確かに話せない!!!マフィアに捕まって殺されそうになったなんて普通は言えない!!!笑い話にすら昇華できない!!!

 

 

桜木「ち、違うんだってェ!!!有給取って海外行った時!!!勝手に着いてきたんだってェ!!!」

 

 

タマ「おっちゃん‎.........流石に見苦しいわ、素直に話さんと命ないで?」オドオド

 

 

桜木「見苦しいも何も真実なんですが!!?というか助けてタマさん!!!そろそろぶん殴られる!!!」

 

 

タマ「いやクラーク堕ちしたおっちゃんを助ける義理は無いで?」

 

 

 くそァ!!!こんなことならタマモクロスを格ゲージャンキーになんかしなけりゃ良かった!!!死ぬほど後悔してらァ!!!

 仕方ないだろ〜?だって強いんだもん投げキャラ.........アーマー付きと一フレと無敵の三択投げできて、足払いから受身されたらほぼ確で一フレ投げ通るんだよ.........?使うでしょ。そりゃ。

 こうなったらもう最後の砦に頼るしかない!!!俺は必死に声を上げてその人に助けを乞うた。

 

 

桜木「マックイーン助けて!!!」

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「.........マックイーン?」

 

 

マック「けっこん.........えへへ......トレーナーさんと.........けっこん......///」

 

 

桜木「」

 

 

 き、キャラ崩壊を起こしてらっしゃる.........マックイーン。君は一体どこまで俺の心を揺さぶるつもりなんだ.........?

 そして、その姿を目視で確認したビワハヤヒデは、確信めいた口調で俺に行った。

 

 

ビワ「自身の担当に対してここまでスケコマシだと、気分が悪くならなくて助かる」

 

 

桜木「ま、待ってくれ!!!そ、そうだ!!!昔当たった悟空のA賞のフィギュアあげるから!!!パーツ着いててスーパーサイヤ人化する奴!!!」

 

 

ビワ「いらん」

 

 

桜木「GTのDVDは!!?全部もってるよ!!?見た事ないでしょ!!?」

 

 

ビワ「しつこい男だ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全て持っているに決まってるだろう!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビワ「なるほど......そういう事が.........」

 

 

桜木「分かって頂けましたか.........?」ボロ

 

 

 あの後、一発ぶん殴ったお陰か、ハヤヒデは一種の賢者タイムの様な落ち着きを取り戻し、俺の話を聞いてくれた。せめて殴る前に聞いてくれ。せめて。

 

 

タマ「なんや、話的にはおもろいけど展開的にはおもろくないな」

 

 

桜木「おたく渋いね」

 

 

タマ「やめてや」

 

 

 クラークの勝利ゼリフを言うと、タマは拒絶反応を起こすようにゲンナリさせた。俺が相当イジメ抜いたからな。反省もしてないし後悔もしてない。なんならもう少しいじめ抜きたい。

 

 

マック「.........ハッ!わ、私。今まで一体.........?」

 

 

桜木「楽しそうに旅行してたよ」

 

 

 ようやくトリップから帰ってきたマックイーン。人が増えている事に驚きの声を上げている。

 なんともまぁ珍しい集まりになったものだ。全員俺の顔見知りではあるが、見事にあまり接点がない。

 

 

ビワ「ああ、そう言えば君に借りたドラゴンボールの原作だが.........」

 

 

桜木(おっ、ようやく戻って来るか.........)

 

 

ビワ「今生徒会長が持っている」

 

 

桜木「なんて???」

 

 

 予想外の展開が過ぎる。一体何がどうなってそんなことになってしまったんだ.........?全く理解が追いつかない。俺のドラゴンボールは一体どこに向かっているというのか.........?

 

 

ナリブ「私が生徒会室で暇つぶしに読んでいたら興味を持たれてな。譲った」

 

 

桜木「本来俺のものなんですけど?」

 

 

マック「ドラゴン.........ああ、確かトレーナーさんの好きなお話でしたわね 」

 

 

タマ「なんやマックちゃん、ドラゴンボール知らへんのか?」

 

 

 いやー。知らないでしょう。あんな今でも作品展開してはいるものの、既にあの作品は35年以上前に連載開始されたものだ。特にマックイーンはそういったサブカルチャーに触れる機会も無かったんだろう。

 

 

桜木「やめてくれよ?どうすんだよ今度ヘル化した時。手から気功波打ってきたらもう太刀打ち出来ないぞ」

 

 

ビワ「大丈夫だ。会長が読み終わった後はエアグルーヴに貸す予定だ」

 

 

桜木「どういう事!!?何が大丈夫なわけ!!?」

 

 

 エアグルーヴに布教したからどうしたというのだ?まさか、クレヨンしんちゃんよろしくスーパーサイヤかあちゃんにでも変身してくれるのか?

 一体俺のドラゴンボール原作はいつになったら帰ってくるのだろう.........?これならいっそ学園の図書室に寄付して買い直した方が早い気がする。神威もドラゴンボール見た事ないらしいし丁度いいかも知れない。

 

 

マック「そ、そんなに面白いものですの.........?」

 

 

ナリブ「面白いものなんてものじゃないぞ」

 

 

ビワ「あれは最早聖書に近い物だと思っている」

 

 

桜木「まぁ、ある意味バトル漫画を描く人にとっては聖書みたいなものだな.........」

 

 

 実際、鳥山明(ドラゴンボール、Dr.スランプ)大友克洋(AKIRA)以前と以後では漫画の歴史は大きく発展を遂げたという話はとても有名である。

 特にドラゴンボールのサイヤ人編からはAKIRAの影響を多大に受けているという話もある。ベジータのモデルが鉄雄だったりとか.........

 って、俺は一体何の話をしているんだ。こんな所で無駄話している場合ではないだろう。

 

 

マック「それにしても意外ですわ。ナリタブライアンさんがそういう物に興味を持たれるとは思っていなかったので.........」

 

 

タマ「あー、ウチもそれは思ったわ。ドラゴンボールのどこが良いんや?」

 

 

桜木(あれ、まだこの話続くの?)

 

 

 そんな俺の思いとは裏腹に、この話はどんどんと発展していく。興味の対象がドラゴンボールそのものから、 ナリタブライアンへと移ったのだ。

 その興味を持たれた当の本人は、少し考えつつも、静かにその口を開いた。

 

 

ナリブ「.........あの作品は、登場人物がどんどん強くなっていくからだ」

 

 

ナリブ「血反吐を吐くようなトレーニングや、戦いの最中で覚醒したりしても、次の話に行く頃にはそれすら上回る敵が現れる」

 

 

ナリブ「.........私も、その展開を夢見ながらレースを走っているんだ」

 

 

桜木「.........いつか、自分の力を軽く上回る奴が出てきて、そいつとレースを走る事をか?」

 

 

 俺がそう問いかけると、ブっさんは照れているのか、恥ずかしそうに顔を逸らした。

 .........確かに、この作品はどんなに強くなっても、次に出てくる敵はそれを上回ってくる。その中で、味方陣営はどう力をつけて、どう戦うのかが醍醐味だ。

 それを、ブっさんは望んでいる。例えどんなに強くなったとしても、それを超えてくる強敵との戦いを望んでいる。そんな彼女がこの作品に心を引かれるのは当然と言えば当然なのかもしれない。

 

 

ナリブ「姉貴はどうなんだ?」

 

 

ビワ「ん?私か?第一巻の表紙の悟空が可愛かったからな。もう既に心は掴まれていた様なものだ」

 

 

桜木「まぁ、ちっちゃい悟空は女の子にも人気出てたからなぁ」

 

 

 うちの母親が事実そうだった。大人になった姿も好きだが、やはり子供の頃の姿の方が子育てする親にとってはとても可愛く映るのだろう。自分の子供が目の前に居ながら、小さい頃は可愛かったと言うのと同じ感覚だ。

 

 

タマ「おっちゃんはどこが好きなんや?」

 

 

マック「私も気になりますわ。親友の方達ともいつも盛り上がりますわよね?」

 

 

桜木「も、盛り上がるっつっても。好きなキャラの話してるだけだぜ?」

 

 

 弱ったな。たまに話すアレが見られてたのか。結構恥ずかしいぞ。今度からは控えた方が良いかもしれないな.........

 だけどまぁ、俺があの作品を好きな理由は大体検討が着いている。そこに関しては深く考えなくとも良いだろう。

 

 

桜木「ストーリーかな。やっぱ今でも人気ある作品だし、ゲームに出来る要素が沢山あるだろ?」

 

 

ナリブ「確かにそうだな」

 

 

桜木「俺毎回買っちゃうんだよね。ストーリーなんて飽きる程見たから知ってるのに」

 

 

マック「し、知ってるのに買ってしまうんですの.........?」

 

 

桜木「買うさ。好きだからな」

 

 

 ある意味、勝手に感じている恩を返していると言っても良い。あの作品のおかげで、俺は多くの人達とコミュニケーションを撮ることが出来たのだ。その勝手に感じている恩を、俺は勝手に返している。

 

 

桜木「まぁ正直、ゲーム難易度もそう高くないし、サクッと遊べるのがいい所だよ。ゲームは子供のものだってわかって作られてる」

 

 

ナリブ「ゲームか.........気になるな」

 

 

桜木「.........あげるか?」

 

 

 俺がそう提案すると、ブっさんは明らかに目を輝かせて俺の方を見てきた。そんなに反応することか?

 実際、もう手につけていないゲームが何本かある。さすがに機種そのものを譲ることは出来ないが、ソフトくらいなら軽い物だ。全クリしてるし。

 

 

ナリブ「姉貴。一緒にやろう」

 

 

ビワ「ああ。ふふ、随分嬉しそうだな。ブライアン」

 

 

タマ「ええなぁ。ウチも欲しいわぁ」

 

 

桜木「ドラゴンボールじゃないけどやるよ。古めで配信映する奴」

 

 

タマ「ホンマか!!?どういうのや!!?」

 

 

桜木「クラッシュ・バンディクーとかジャック&ダクスターとか怪盗スライクーパーとか」

 

 

タマ「クラッシュ以外知らへんわ.........」

 

 

 確かにクラッシュ以外知名度は低めだが、どちらも面白い作品だ。だが残念な事にどちらも続編の3からは日本未発売。まっこと悲しい話である。

 そんなこの世に憂いを感じていると、ふと隣からこちらを見てくる視線を感じ.........いや、視線が刺さっている。刺してくる人物がいる。

 

 

桜木「.........どうしたのマックイーン?」

 

 

マック「.........ずるいです。私も何か、トレーナーさんのおすすめを知りたいです」プクー

 

 

桜木「んん、んぅ.........」

 

 

 弱ったぞ。ゲームに触れてこなかった人。しかも女の子にオススメできるゲームなんて俺は知っているのか.........?

 

 

タマ(出たで!!アレが恋する乙女の必殺技!!嫉妬や!!)

 

 

ビワ(れ、恋愛と言うやつらしいな.........)

 

 

ナリブ(分からない.........)

 

 

 聞こえてんだよ野次ウマ娘とナメック星人二人。あんまし人をおちょくってると痛い目を見るぞ。

 そう思いながら、意識の方をマックイーンに向けてみる。どうやら先程の声は聞こえてないらしく、可愛い膨れた顔を見せてくれている。

 さて、どうしたものか.........正直ゲームは面白いものではあるが、危険なものではある。ハマってしまえば、際限なく出来てしまうのだ。特にマックイーンはそういう時、抑制する理性が少し心もとない。と言うより、ハッキリ言って弱い。

 

 

マック「.........なんにも無いんですの?」

 

 

桜木「い、いや!あるよ!あるある!!」

 

 

桜木「一緒にカービィやろう?簡単だから初心者向けだし、二人プレイできるからサポートもしやすい!」

 

 

 慌てて口を突いて出ていった提案だが、我ながら良いと思ってしまった。確かにカービィなら他のゲームより簡単だし、女の子に人気あるし、何よりゲームを沢山やってる俺でも面白い。飽きずに出来る。

 我ながら天才的な提案をしてしまった.........そう思っていると、タマの方からクスクスとした笑い声が聞こえて来た。

 

 

タマ「おっちゃ〜ん.........まさかマックちゃんがカービィみたいな食欲やからってそんなこと言ったんか〜?」

 

 

マック「.........トレーナーさん?」

 

 

桜木「い、いやいやいやいや!!!何言ってるんだよ!!?そんな訳ないべや!!!」

 

 

マック「貴方、焦ると訛るってちゃんと分かってます?」

 

 

桜木「分かってるよ!!!命の危機だよ!!?焦るに決まってんじゃん!!!」

 

 

 ヤバいって。身体はもうハヤヒデのパンチを食らって既に限界。悲鳴をあげてるぜ.........

 そこから更にいつもより強めのマックイーンの制裁なんて受けた日にはもう立てない。ここは何としてもしなければ.........

 

 

タマ「けど我慢出来ずにスイーツ食べちゃうマックちゃんは?」

 

 

桜木「.........まぁ、可愛いとは思うけど」

 

 

マック「.........ふぅん」

 

 

桜木「.........あれ?」

 

 

 熱を感じる。隣に座るマックイーンから。ただならぬ熱と恐怖が出てくる。俺はそれを感じながら、恐る恐る彼女の方向を見た。

 怒ってる。彼女から怒りの感情を感じ取るのはそう難しい事ではなかった。おかしい.........俺は言葉を選んで慎重に褒めたつもりだったのに.........

 

 

桜木「ま、マックイーンさん?なぜ怒っていらっしゃるのか、私まったく想像つかないんですが.........?」

 

 

マック「人前でそんな堂々と『可愛い』なんて、しかもそれ。先程のタマモクロスさんの発言を肯定していますよね?」

 

 

桜木「.........あっ」

 

 

 俺は一つ。重大なミスを犯していた。褒める前にまず、否定しておけばよかった。それをしなかったお陰で、カービィ並の食欲を持っていると肯定し、それをほめてしまったのだ。

 その怒りには恥ずかしさも混じっているのだろう。キッと睨みつけてくる彼女の頬は赤くなっていて、少し涙が滲んでいた。

 

 

マック「私が一番気にしている事を.........!苦労も知らずに褒めるなんて.........!!!」

 

 

桜木「へ、へへへ.........」

 

 

 知っているよ。などとは言えない状況だろう。彼女の苦労は俺が一番良く理解している。彼女のご飯を作るのにどれだけ俺が苦労していると思っているんだ。

 だが、そんなことを言っても今は火に油を注ぐ行為でしかない。どちらも苦労をしているのだ。それでいいじゃないか.........

 いや、良くない。このまま行けば俺は彼女にメジロ家秘伝。メジロ殺法百手。48ある護身技の一つ。一本背負いで地面に沈められる。

 逃げよう

 

 

桜木「スゥー...悪いけど急ぎの用事が出来たんで.........」

 

 

マック「あら、逃げられると思ってるんですの?」

 

 

桜木「そんなの!やってみなくちゃわかんねぇ!!!」

 

 

ナリブ「無駄な事を.........今楽にしてやれ」

 

 

ビワ「努力だけではどうやっても越えられん壁もある」

 

 

タマ「グッバイ、おっちゃん!」

 

 

 全員が全員俺の逃げ切りを応援するどころか、制裁を食らう前提で話しかけてくる。まだだ.........まだ希望はある.........!!

 タキオンが作った身体筋力ウマ娘化薬は手元にないが、チョロ可愛いマックイーンだ。適当に騙せばなんとかなるだろう!!!

 

 

桜木「あっ!!UFO!!!」

 

 

「何(ですって)!!?」

 

 

桜木「今だァァァ!!!」ガシィッ!

 

 

 俺は一生懸命足を動かした。だがあの走っている特有の空気抵抗は一切感じず、代わりに何故か首が締まる苦しみと靴底がすり減る感覚だけだった。

 

 

マック「.........変わりませんわね」

 

 

桜木「」

 

 

マック「まさか、こんな古典的な方法で逃げれると思われるなんて.........心外です」

 

 

 不味いことになった。完全に火に油を注ぐ結果となってしまった。適当に騙すとかじゃなく、普通に考えて騙せば「今、ちゃんと考えて騙せば良かったと思ってます?」.........「はい」

 俺のその素直な返事に、マックイーンは呆れるようにため息を吐いた。

 

 

マック「ハァ.........折角手をひねるだけで許して差し上げる所でしたのに。おバカな人」

 

 

タマ「でもそういう所が〜?」

 

 

マック「もちろんおしt.........タマモクロスさん?」

 

 

タマ「お〜おっかないで.........あんましからかうのはこの辺にしてズラかろうや」

 

 

 俺に向けていた怒気を少しだけタマの方に向けるマックイーン。そしてそれを機敏に感じ取ったタマは、ブっさんやハヤヒデに手招きしてその場から立ち去って行く。

 ああ、俺はこのままこの場で痛い目にあうんだなぁ.........と、乙女心に理解を示せない自分に情けなさを感じつつ、現実を受け入れようとしていた。

 

 

マック「.........さっ、休憩も終わりましたし。トレーニングに行きますわよ」

 

 

桜木「.........へ?」

 

 

マック「良く考えれば、悪いのは私ですわ。ただちょっと.........恥ずかしかったものですから、あんな反応をしてしまったんです」

 

 

 そう言って申し訳なさそうに謝るマックイーン。いつもだとこの後きっちり制裁を食らうはずなのだが、彼女の大人になった部分が垣間見えた瞬間であった。

 だが、そんな安心と同時に、気になる事が一つ出てきた。

 

 

桜木「なぁ、さっきなんて言おうとしたんだ?」

 

 

マック「はい?」

 

 

桜木「ほら、タマにからかわれた時、何か言いかけてたでしょ」

 

 

マック「あ、あーーー!」

 

 

 そう問いかけると、目の前を歩き始めていた彼女は突然動揺を見せ始めた。なんだ、もしかして悪口か?普段俺に言えないような本音なのか?

 

 

桜木「なんでも言ってくれマックイーン。遠慮する必要なんて無いんだぞ?」

 

 

マック「.........お」

 

 

桜木「お.........?」

 

 

マック「お、推して参る!!そう!!そう言いたかったんです!!さっ!早く行きましょう!!?」グイッ!

 

 

桜木「わっ!ちょ、引っ張んないで!!?」

 

 

 なんとも強引な誤魔化し方。しかし、それで誤魔化されてしまう俺も俺だろう。事実、その行動に不快感が無いどころか、嬉しく感じてしまっている自分もいる。

 いつか、彼女の俺に対する嫌な気持ちも直接聞けるようになりたい。それと同時に、このどうしようも無い渦巻く葛藤から開放されたい。

 そんな事を考えながら、引っ張り寄せられるシャツの袖に恥ずかしさを感じつつ、今日のトレーニングをこなそうと、気持ちを入れ替えたのだった。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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