山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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T「三年間ありがとうな、マックイーン」マック「ええ、そしてこれからも......」

 

 

 

 

 

 三月の終わり頃。新たな始まりを予感する事が多いこの時期。振り返る事もあるが、今はそんな感傷に浸る時間はなく、誰かの出会いが別れになろうと、誰かの喜びが悲しみになろうともそれを感じる暇すらない。

 そんなアンニュイな気持ちを辛うじて引き締めている新品のスーツに身を包み、なれないワックスで後ろに固めた髪の毛を触っていると、不意に声を掛けられる。

 

 

沖野「おいおい、そんな堅苦しい格好しなくても別にいいんだぞ?」

 

 

桜木「いやいや、逆になんでそんないつも通りでいられるんすか?」

 

 

 パーティ会場には似合わないスピカのトレーナーである沖野さん。サブトレーナーをしている俺の立場から見れば先輩であり、上司でもある。

 この人はどんなに周りの人が着飾ろうとも、関係ないと言うようにいつものベストと黄色いシャツ。挙句の果てには蹄鉄キャンディを口に入れている。

 

 

桜木「見てくださいよ。アイツですらあんなにピシッとスーツきてんのに.........」

 

 

白銀「お姉さん。ウマ娘の調教のついでに、俺も調教してみませんか?月給300円で」

 

 

沖野「.........待て、なんでさも当たり前のように居るんだアイツは」

 

 確かにそう言われてしまえば疑問である。なんでここに居るのだろう?いや、アイツだけでは無い。黒津木も神威も、このパーティに出席している。

 トレセン学園の出資者としてならば名目上、ここに居ても何ら不思議では無いだろう。他二人は何故いるんだ?

 .........いや、あまり深くかかわらないでおこう。ここで質問してキレられたりしたら、折角のパーティが台無しになる。

 

 

沖野「それにしても.........」

 

 

桜木「.........?」

 

 

沖野「似合わねぇなぁ.........その髪形」

 

 

桜木「うっさいっすよ.........」

 

 

 軽く笑い声を発しながらそういう沖野さんに、反抗するように悪態をついてみる。俺だって自分でも似合わないと思っているんだ。

 場の雰囲気を壊さないよう、溜息を堪えていると、不意に肩に手を置かれる。その方向を見ると、多くの見知った顔がそこには居た。

 

 

東「よう、調子はどうだ?」

 

 

南坂「なかなか似合ってるじゃないですか、桜木さん」

 

 

古賀「おう、やっぱ社会人してただけあってスーツが似合うなぁ、おめぇさんは」

 

 

桜木「あ、あはは.........ありがとうございます。こうして顔合わせるのは、何だか久々な気がしますね」

 

 

 振り返った先には、声を掛けてくれた三人を含めた桐生院さんがそこには居た。古賀さん以外、いつもよりキチッとしたスーツやオシャレな格好でパーティに参加している。

 そういえば、最近俺が忙しいのもあるせいか、顔を合わせるのも、こうして他愛もない話をするのも久々な気がする。ストレス解消の為にも、こうした場は必要なのかもしれない。

 

 

桐生院「桜木さん!本日は本っ当に!!おめれとうございます!!!」

 

 

桜木「き、桐生院さん?ちょっと飲み過ぎなんじゃ.........」

 

 

桐生院「何言ってるんれすか!!そんなに私は飲んれないれすよ!!」

 

 

 いやいや、明らかにそんなワイン片手に顔を赤くしてたら誰だって飲み過ぎだと思いますって.........

 そう思いながら、未だにグイグイと顔を近づけようとしてくる桐生院さんをこれ以上近付けさせないよう、肩に手を当てて何とか接近を食い止める。

 

 

東「おいおい、桜木が困ってんだろ?あんまし迷惑かけんなよ」

 

 

桐生院「颯一郎さんに言われたくないれす!!!」

 

 

東「それ言われちゃあ何も言えねぇけど.........ほら、な?この後表彰もあるんだし、この辺にしとこうな」

 

 

 そう言いながら東さんは桐生院さんの身体を掴み、俺から引き離してくれた。それについてはありがたいと思っている。

 だが、問題はあの距離だ。妙にあの距離感の桐生院さんの扱いにどこか手馴れている感じがみてとれる。

 そう思っていたのが分かったのだろう。古賀さんがまた俺の肩を叩き、話をしてくれた。

 

 

古賀「ああ見えて、アイツは桐生院家の遠縁なんだ。昔からの幼なじみなんだとよ」

 

 

桜木「え!!?そうなんすか!!?」

 

 

古賀「ああ、今は大分マシになったが、昔はコンプレックスの塊でなぁ、桐生院本家てききゃ、良い顔はしなかったわなぁ」

 

 

 そう言って古賀さんはカッカと声を上げて笑っていた。先程より遠くに離れた二人の方、特に東さんの顔を見る。とても古賀さんが言ったようには思えない。

 きっと、どこかで踏ん切りがついて乗り越えられたのだろう。やっぱり、あの人は俺が好きなタイプの人間だ。

 

 

古賀「それにしても、でかくなったなぁ、桜木」

 

 

桜木「え?」

 

 

古賀「俺ぁ、お前さんがやる男だと思ってた.........けどよ、そこまでどう歩くかは正直見通せてなかった」

 

 

 その話を聞いた時、最初に湧いて出てきたのは驚きだった。この人は、俺に対して一体、どれほどの期待を浴びせてくれていたのだろうと。

 そして、次に嬉しくなった。その期待に、俺はしっかりと答えられたのだと。そんな恥ずかしさにも似た嬉しさを隠すように、自分の考えを吐露した。

 

 

桜木「.........そりゃそうっすよ」

 

 

桜木「目的地は皆に見えているもの。けど、そこへの行き方はみんな違うんです」

 

 

桜木「レールに乗るヤツも居れば、車に乗ったり、歩いて行ったりするヤツも居る。道程の楽しみ方なんて、人それぞれじゃないっすか」

 

 

 人が通った場所。そこには必ず道が出来上がる。それは実際に歩く道も、人生の道もそう変わりは無い。

 誰かが一度歩いた道は、困難もあるが解決策が存在する。それを手探りながら道を往くのが人生だと、俺は思っている。

 

 

古賀「桜木.........」

 

 

桜木「.........へへ」

 

 

古賀「お前ホント何言いてぇか分かんねぇな」

 

 

桜木「へぇ!!?」ズコォ!!!

 

 

 思わずずっこけてしまった。そんな俺の様子を見てまた古賀さんはカッカと笑う。沖野さんも手を差し伸べてくれてはいるが、笑い声を抑える気は無く、そのまま手を伸ばしている。南坂さんやこっちに戻ってきていた東さんと桐生院さんも、笑い声を漏らしていた。

 

 

桜木「.........でもまぁ、俺は本当に何もしてないっすよ。全部マックイーンが頑張ってきた成果です」

 

 

東「ハハハ、ここまで来てそれを言えるってことは、もう相当沖野に毒されちまってんな」

 

 

沖野「バカ言うんじゃねぇよ。コイツは元々毒されてんだ」

 

 

桜木「人を劇物扱いしないでくださいよ」

 

 

 全く、失礼な人達だ。俺を一体なんだと思っているのだろうか?

 ぐぅ.........最近ようやく俺の言ってる事が伝わってきてると思ったのに、もう変な事言うの辞めようかな?理解者なんて多分乙名史さんしか居ないだろうし.........

 

 

「桜木さん。お久しぶりです」

 

 

桜木「うお!!?びっくりした.........来てたんですね乙名史さん」

 

 

乙名史「当たり前じゃないですか!!!今日は歴史に名を残すウマ娘が表彰される日なんですから!!!」

 

 

 突然、背後から声をかけられて驚いてしまったが、その姿を見ると安心のため息が出てしまった。

 彼女もスーツに身を包んではいるが、やはり今日も取材の為に来たのだろう。いつも通りのスーツ姿だ。

 やや興奮気味な彼女に苦笑いをしていると、不意にその後ろから近付いてくる人物に気が付く。これまた黒いスーツを来たロングヘアーの女性だ。

 誰だろう.........?どこかで会った気がするんだけど.........

 

 

「初めまして。桜木トレーナー」

 

 

桜木「あっはい。初めまして。えっと.........?」

 

 

乙名史「桜木さん。この方はURA職員の樫本理子さんです」

 

 

 ゆ、URA職員?という事はつまり、レースを運営企画している大元の団体および会社の社員ってこと.........?

 すごいな、裏を返せば俺達トレーナーやレースに参加するウマ娘。なんならトレセン学園の存在意義を担っている所の人って事じゃないか!粗相のないようにしないと.........

 

 

桜木「アハハ.........こういう場合名刺を交換するべきだと思うんですけど、トレーナーになってからそういうものはいらないと教わってしまって.........」

 

 

樫本「構いませんよ。そのような部分がトレセン学園の良い部分でもあり、悪い部分でもありますから」

 

 

桜木「え.........?」

 

 

 何故か彼女の言葉から、敵意にも近い何かを感じとってしまう。いや、それだけじゃない。目だ。彼女の俺を見るその視線が、決して良い感情のものでは無いと分かってしまった。

 やばい、俺もう何かしちゃったのかもしれない。しかもそれ多分誤解じゃない。絶対なんかやってる気がする。謝った方がいいのだろうか?いやでも理由も分からないのに謝られたらムカつくって人居るし.........

 そんなどっちつかずの問答を自分の中でぐるぐるとしていると、古賀さんが間に入って空気を中和してくれた。

 

 

古賀「まぁまぁ、理子ちゃんも思う所はあるかも知らんが、今日はめでたい席だ。今日くらい、良い気持ちでいようじゃないか」

 

 

樫本「.........そうですね。今日は大変名誉ある賞を受賞する日です。今日だけは、私も信念を忘れましょう」

 

 

樫本「おめでとうございます。桜木トレーナー」

 

 

 彼女から差し伸ばされる手。少々萎縮しながらも、俺はその手を取った。その人の温もりからは、敵意や怒りと言ったマイナスの感情は伝わってこない。

 俺はその手から視線を離し、彼女の目を見る。その目は先程とは違い、俺の頑張りや苦労を理解し、褒めてくれているような優しい目で俺を見ていてくれた。

 

 

桜木「.........さっきも言ったんですけど、俺がやった事と言えば彼女達を見ていただけです」

 

 

桜木「怪我をしないよう、危ない事がないよう、のびのびとレースが出来るようにしただけなんです」

 

 

樫本「.........確かに、言ってしまえば簡単に聞こえ、そして当たり前に聞こえてしまう事ですが」

 

 

樫本「それが徹底できない者も居ます。貴方は、立派なトレーナーです」

 

 

 そう言った彼女の姿は、どこか悲しげであった。何かあったのだろうか、それを問うには俺は勇気が無い。

 離れていく彼女の背中を、俺はただ見つめる事しかできな.........

 

 

白銀「そこのお姉さん。この翔也とテニスの練習をしませんか?」

 

 

樫本「テニス.........?すみません、私そのようなスポーツはあまり.........」

 

 

桜木「喰らえェッ!!!」バゴォ!

 

 

白銀「ヒポポタマス!!?」

 

 

 危ないところだった.........危うく樫本さんがコイツの毒牙にかかる所だった。本当に油断も隙もない。お前はゴールドシップが好きなんだろうが、他の人にちょっかいかけんな。

 身体を捻り、回転させながら一歩進んでの大振りのフック。遠心力と推進力がヤツの頬にぶち込まれた。周りの人は何事かとこちらを見たが、なんだ白銀かと言うように視線を戻して行った。

 

 

桜木「すんません。コイツは悪いヤツなんで話しないでください。穢れます」

 

 

樫本「えっえっ」アタフタ

 

 

沖野「さぁさぁ理子さん。積もる話もあるでしょう。こちらへどうぞ」

 

 

 ナイスだ沖野さん。持ち前のさり気なさで樫本さんをこのゴタゴタから見事救出してくれた!!!

 ホッと胸を撫で下ろしていると、背後で白銀が立ち上がってくる気配を感じとる。俺は溜息を吐きながらヤツへと振り向いた。

 

 

桜木「お前さぁ?ゴールドシップの事が好きなんだろう?どうかと思うぜああいうのは」

 

 

白銀「だってOK貰ってねぇし、付き合ってねぇんだから保険かけといた方が良いだろ」

 

 

桜木「お前の事はこれっぽっちも信用も信頼もしてねぇけど見損なったぞ!!!」

 

 

 俺はそう言いながらもう一度白銀を叩いた。先程のような本気の殴りではなく、ヤツの鍛え上げられた胸部をペチンと鳴らした。

 そうされるとヤツは嬉しそうにヘラヘラと笑って小走りで去っていった。コイツ本当にプロスポーツ選手なのか?と誰もが思うだろうが、それを狙ってやっているのだと思うと何故か安心する。

 結局、コイツは猫を被ることが出来ない性格なのだ。どんなに凄くても、コイツは聖人扱いと言うか、超人扱いされるのを嫌う。一時期はもてはやされたこともあったが、それを嫌ってこのような行動を取るのだ。憎めない所もある。

 

 

「全く、騒がしいと思ったらまたトラブルですの?」

 

 

桜木「あ、アハハ‎.........騒がしくしてごめんな、マックイーン」

 

 

 また俺の後ろから声を掛けてくる人が居る。今日はやたらと背後を気にしないと行けない日らしい。

 振り返らなくても声でわかるが、俺はマックイーンの方へと振り返った。しかし、そこには彼女の姿だけではなく、俺のチームメンバー全員がおめかしやオシャレをして立っていた。

 

 

桜木「おっ、今日は皆美人さんだな」

 

 

ライス「び、美人さんなんて.........///」

 

 

ブルボン「ありがとうございます。マスター」

 

 

 照れるライスと素直に礼を言うブルボン。この様子を見ていると、いつもの日常だと錯覚してしまう。

 だが、それは直ぐに違うと思わされる。二人とも普段は着ないドレスに身を包み、ここが大切なパーティの場なのだと思い知らせてくる。

 

 

ウララ「トレーナー!!ウララもね!!お化粧したんだよー!!」

 

 

桜木「おー!!可愛いなウララー!!自分でやったのか?」

 

 

ウララ「ううん!!デジタルちゃんがやってくれたの!!すごいんだよ!!?シュバババーって感じなの!!」

 

 

 大きい身振り手振りでそう俺に伝えてきてくれるウララ。フリフリのドレスが忙しなくその装飾を主張してくる。

 しかし、デジタルにそんな特技があったのか.........全く気付かなかった。デジタルが居てくれるならこの先こんなパーティがあっても安心だろう。特にウララなんてお化粧の仕方分からないだろうし。

 

 

桜木「ありがとうなデジタル。今度コミケ行こうな」

 

 

デジ「えっへん!デジたんはやればできる子なので!」

 

 

タキオン「私もやって貰ったが、中々の手際だったよデジタルくん。私専属のメイクにしたいくらいさ」

 

 

桜木「君はもう大人になるんだから自分でしっかりしなさい」

 

 

タキオン「えぇー!!?」

 

 

 どうして?というような声を大きく上げるタキオン。当たり前だ。俺はてっきり珍しく自分でちゃんとメイクしたんだと思ってたんだから。

 全く、何でもかんでもデジタルにやってもらおうとするのはダメだと思うぞ。デジタルが居なくなったら何も出来なくなるじゃないか。

 

 

桜木「.........まぁ、今日は耳の痛い話はこの位にして、皆本当に変わったなぁ」

 

 

タキオン「.........それを言うなら」

 

 

マック「トレーナーさんもですわ.........フフ」

 

 

 

 

 

 ―――まるで分かっていないように、彼は首を傾げました。以前も時々スーツを着る事はありましたが、今日は黒色のスマートなスーツで、中のシャツはグレーのストライプ。ネクタイは紫と、普段とは違うおしゃれが見て取れます。

 

 

「カッコイイね。マックイーン」

 

 

マック「ええ、本当にそう.........ちょっと!何言ってるんですのテイオー!!!」

 

 

テイオー「にしし♪マックイーンが怒ったー!」

 

 

 いつの間にか横で誘導をしかけてくるテイオーにまんまと引っかかってしまいました.........トレーナーさんも、少し恥ずかしそうにしてらっしゃいます。

 ど、どうしましょう.........!私までなんだか恥ずかしくなってきましたわ.........!!!

 

 

マック「あの!違くて、あいえ、違くはないのですが.........うぅ」

 

 

桜木「ふ、フォローありがとうな.........けど、この髪型だけはどうにも好かん.........」

 

 

マック「そ、そうですか?私はなんだか、家の若い使用人の様で素敵に思えますが.........」

 

 

 いつものような重力に逆らった髪型ではなく、後ろにペタンとなった彼の頭。普段生え際の真ん中辺りから顔にかかるように何本か出ていた髪も、今はぴょこんと一本だけでています。

 

 

マック(本当に、使用人みたいね.........)

 

 

 照れる彼の顔を見ながら、私は想像を働かせます。もしも、彼が使用人.........願わくば、私の執事であったならば.........などと、有り得もしない妄想を繰り広げてしまいます。

 

 

桜木『お嬢様、本日のお茶はイギリス王室から取り寄せたダージリンになります』

 

 

マック『まぁ!それは素敵なお茶会になりそうですわ!さっ、貴方もご一緒に!』

 

 

桜木『い、いえ!自分はお嬢様の使いでございますゆえ、一緒にお茶をするなど.........』

 

 

マック(.........ああ、トレーナーさんは変なところで遠慮するのでした。やっぱり、今の関係性が一番好ましいわ)

 

 

 心の中で一人、そう納得しながらも、その意見に否を唱える自分も中には居ました。その彼女に『今は』と伝え、何とか鎮まってもらいます。

 

 

「お集まりの皆さん。ご多忙の中御足労頂き、誠にありがとうございます」

 

 

「これより、今年度のURA賞受賞会を行わせていただきます」

 

 

桜木「お、ついにか」

 

 

マック「発表会場に参りましょう、トレーナーさん」

 

 

テイオー「ほらほら!トレーナーも行くよー!」

 

 

沖野「お、押すなよテイオー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、今年度のURA賞もいよいよ最後の表彰となります」

 

 

桜木(いよいよ、か.........)

 

 

 ステージの真ん中で立つ二人の少女。トウカイテイオーと、メジロマックイーン。確かに、今年の二人の活躍を見れば、誰もがその賞を受賞する事に、意義を唱えることは無いだろう。

 

 

「登壇していただいているのは、こちらの二人です」

 

 

「奇跡の復活を遂げ、見事無敗のまま三冠を手にして見せました。134票を集め、見事、年度代表ウマ娘に選ばれました。トウカイテイオーさん」

 

 

テイオー「いえーい!」

 

 

 ステージを見ている人達に向け、三本指のピースサインを突き出すテイオー。その笑顔には、どこか力強いものを感じてしまう。

 こうしてみると、あの菊花賞は夢ではなかったんだと思い知る。

 『夢を追っていた多くの人間』が、『一人の少女の夢を守る』為に奔走した10日間。正に物語の中で展開されるようなトラブルを乗り越えた先に掴んだ夢。彼女は、その夢をちゃんと掴むことが出来たんだ。

 

 

マック「おめでとうございます。けど、来年はきっとこうは行きませんわね」

 

 

テイオー「なに〜?」ピクピク

 

 

 自信満々なテイオーをおちょくる様に強気な笑みでそう呟くマックイーン。それに反応するテイオーはいつも通り、子供のようだった。

 その変わらない姿が、どこか安心してしまう。

 

 

「春の天皇賞を初め、年間3勝。2着2回。貫禄の強さを見せつけ、最優秀シニア級ウマ娘に選ばれました。メジロマックイーンさん」

 

 

マック「とても光栄ですわ」

 

 

 優雅な微笑みでそう答えるマックイーン。その姿は、初めてであった頃のようで、何だか懐かしく感じてしまう。

 .........いや、別に今のマックイーンがどうとかじゃない。本当はちょっとドジで好きなことに理性が効かなくて突然一つの物事に関してバクシン的な行動力を持っているのも彼女のいい所だと思ってる。本当だ。桜木嘘つかない。

 

 

テイオー「さっすがマックイーン♪でも有馬記念惜しかったけどね〜」

 

 

マック「なんですの.........?」ピクピク

 

 

沖野「お前ら.........お互い素直に褒めれば良いだろ〜?」

 

 

 チーム全体のトレーナーである沖野さんがそう言うと、ステージを見ていた人達が一斉に暖かい笑い声をあげる。

 それを見ているだけで、何だか不思議と嬉しく感じた。違和感の感じる喜びが、俺の中で不安とともに反響している。

 

 

 今でも時折、ふとここは自分の『居るべき所』では無いと感じる。ここにいては行けないと、見て見ぬふりをするしかないその感情が、時折その目だけを壁から覗かせる。

 あるべき場所に帰るべきだと何かに囁かれ、それに従って行動したこともある。その時はマックイーンや色んな人達のおかげで良い所に収まった。だけど、それだけなんだ。

 そんな自分の居場所一つ見つけられない。そんな不甲斐なさと情けなさが混在する中でも、一つだけ、明確に違うものが存在している。

 決して綺麗なものでは無い。かと言って、決して汚れきっているものでもない。姿形もまだ分からない。無色透明な執着心。それが何なのかは、未だによく分かっていない。

 

 

桜木(けれど.........)

 

 

 それを突き動かす何か。それを突き動かす言葉を、俺は知っている。

 記憶の片隅に存在する、消えかけたノイズのかかった誰かの言葉。

 『夢を探せ』という、誰かでいて、誰でもない人の言葉。

 その言葉が、俺をこの、『今一番居たい場所』に居させてくれている。今の俺にとっては、この言葉だけが頼りなんだ。

 

 

「―――さん」

 

 

 今思えば、この三年間、たくさんのことがあったと思う。学生生活を送っていた頃には、想像もできなかった。

 驚くだろうなぁきっと。今の俺が教え子とはいえ、可愛い女の子に囲まれて仕事してるなんて。

 

 

「―ーナーさん」

 

 

 今でも正直夢なんじゃないか思っている。だって考えても見なさいよ。鬱で完全にやられた自分がここまで社会復帰できるなんて正直思ってなかったもん。まぁ病院行って診断受けてないし、なんなら会社辞めた瞬間楽になったけど。

 もうこれはあれだ。生きてりゃ勝ちって奴だ。この人生をヒントにすれば本でも書けるんじゃないか?自己啓発本とか体験談とか。

 ようし老後の心配はなさそうだな。印税でどっぷり稼いでや.........

 

 

「トレーナーさん!!!」

 

 

桜木「うぇ!!?ど、どうしたマックイーン!!?」

 

 

 突然、声をかけられて動揺を見せてしまう。どうしたのだろう。ステージの上という誰もが注目する中だと言うのに、彼女はいつもの様な様子で俺のことを呼んでいる.........

 いや、よく見ると周りの人全員が俺の事を見ている気がする。一体どうしたと言うのだ?何があったと.........?

 そう思っていると、不意に視界の下にマイクが差し出される。そのマイクを手に取り、戻っていく手の方を見ると、沖野さんが苦笑いをしていた。

 

 

沖野「なんだ桜木、またお得意の妄想か?」

 

 

桜木「.........否定したい気持ちはたっぷりありますが、それと近い状態だったんすよね.........何も言えねぇ」

 

 

マック「本当、こういう場では締りが悪いですわね.........」

 

 

 本当にそう思う。これで一体何度目の失敗なんだ。俺には学習能力というものが備わっていないのだろうか?

 いや、無い。そう言えてしまうほど、こういう場でこういう失敗はもう嫌という程経験している。マックイーンのデビュー戦しかり、ライスとブルボンのデビュー戦しかり.........

 

 

マック(.........全く)

 

 

 

 

 

 ―――思わず漏れ出そうになってしまう溜息を、何とかこらえます。やはり彼は、どこかこういう所で抜けていると感じてしまいます。

 

 

マック(.........けれど)

 

 

 マイクを持ち直し、司会の方から何を言えば良いかを聞いた後の彼は、しっかりとした表情になっていました。抜けている後の彼は、何故かかっこよく見えてしまいます。

 

 

桜木「えー、皆さん大変ご迷惑お掛け致しました。チーム[スピカ]のサブトレーナー及び、チーム[スピカ:レグルス]のトレーナー。桜木玲皇と申します」

 

 

古賀「おう!迷惑したぞー!」

 

 

桜木「すいません」

 

 

 彼がそう言って頭を下げると、こちらを見ている方々から暖かい笑いが溢れ出てきます。こういう所も多くの人々に受け入れられているのだと思うと、何だか嬉しく思ってしまいます。

 

 

桜木「今日までの経験を踏まえてこれからに繋げていけること.........まだ新人の俺は、まだ分からないことばっかりです」

 

 

桜木「おんぶにだっこで、俺をこの上に立たせてくれたマックイーンに恥じないよう努めようと思っています」

 

 

 まるで自分は、そんな器じゃないというふうに、自虐にも似た謙虚さを彼は見せました。そんなこと、全くありませんのに。

 むしろ、おんぶにだっこなのは私の方です。一人では節制も、立ち直ることも出来ない私を、ここまで走らせてくださったのは他でもない。トレーナーさんなんです。

 話はこれで終わり.........そう思っていましたが、彼はそのまま、話を続けました。

 

 

桜木「勿論、マックイーンだけじゃありません。俺が担当させてもらっている子達や、スピカの皆。その皆のお陰で、今の俺が居ると思っています」

 

 

桜木「.........以前。彼女に、マックイーンに言った言葉があります」

 

 

桜木「.........『山あり谷ありウマ娘』」

 

 

マック「.........!」

 

 

 しっかりとした声で、真っ直ぐな目で、背筋を伸ばした姿勢で、彼はそう言いました。その言葉は確かに、一度彼の口から聞いた事のあるものでした。

 あれは確か、節制に失敗し、彼とどちらが痩せられるか対決した時の事です。ピリピリとした空気が嫌になり、一時休戦をした私と彼は、アイスを片手に一時をすごしていた時です。

 

 

桜木「たくさんの事がありました。苦しい事も、楽しい事も、たくさん」

 

 

桜木「けれど、その先に必ず居るんです。どんなに挫けそうな時も、頑張って立ち上がろうとする時も、必ずその先で、待っていてくれているんです」

 

 

桜木「坂道を登っていようと、下り坂を下っていようと.........あの子達が居てくれる」

 

 

桜木「あの子達の走る背中が、俺は何よりも好きなんです」

 

 

 それを聞いた時、今までのどんな言葉よりも、心に貫くような感覚が走りました。彼の奥底に眠る、信念の核にも近い本音。いつもは照れて誤魔化すような彼の、真剣な言葉。

 その顔を見ていると、その声を聞いていると、胸がきゅーっと締め付けられます。何故か最近、恋を自覚する以前よりも、それが強く感じられてしまいます。

 

 

テイオー(ねぇねぇマックイーン)

 

 

マック(?な、なんですの?)

 

 

テイオー(.........カッコイイね)

 

 

 

 

 

 ―――ボクは思わず、隣にいたマックイーンに耳打ちしちゃった。マックイーンはちょっと顔を赤らめて、当たり前ですわ、なんて言ってる。

 だって、いつものおっちょこちょいなサブトレーナーじゃないんだもん。ちゃんと誰にでも伝わるような言葉で、説明してくれてる。

 それに、ボクはこの背中を知っている。

 

 

『大人は子供の夢を守るものだし、子供は大人の背中を見て憧れるもんだ』

 

 

 きっと、あの言葉を掛けられたボクにしか気付けない。今サブトレーナーは、皆が頼りにするような、大人の背中をしてる。

 大人ってなんだろう?って、マックイーンと悩んだ時期がある。あの時はサブトレーナーが言ってた事に、納得してた。ううん、それが多分、その時の正解に近かったから、妥協してたんだと思う。

 でも、あの時。夢が叶わないかもって挫折しかけた時、あの人の言葉で分かった。ボクのなりたい大人は、皆が頼りにしてくれて、目標になれるような人に。ボクはなりたい。

 

 

沖野(.........立派になりやがって)

 

 

 

 

 

 ―――初めて会った時は、ウマ娘のウの字も知らないド素人だった。なんせ、人体と同じ構造でそんな早く走れるわけは無い。何か特別な器官とか、骨格がある筈だ。でなければうさぎみてぇな逆関節出なけりゃおかしい.........

 俺は正直びっくりしたよ。この世にウマ娘を知らないで、今まで生きてきた人間がいるなんてな。

 けれど.........今やこうして、コイツはここに立っている。人の夢を傍で支えたいと言っていた時のまま、良くも悪くもまぁ、代わり映えのしない心のまま。

 

 

『二人以上担当したいんです。何とかなりません?』

 

 

沖野(はは、なる訳ねぇだろんなもん.........俺が無理言って理事長に頼んだんだよ.........お前は知らねぇだろうけどな)

 

 

 あの日。スズカとオグリキャップと一緒に来たコイツは、そんなことを言いやがった。つい二つ返事で何とかしてやるって言っちまったが、その後はもう後の祭りだ。

 その日の内に理事長に相談した。まぁ、かなり熟考してたけど、なんとか許可を出してくれた。あの人も懐が深い所があると思うが.........きっと、俺と同じように、コイツに期待していたんだろう。

 トレーナーでありながら、トレーナーらしくないコイツが、トレセン学園にどんな風を吹かせてくれるのか.........

 

 

沖野(なぁ桜木、俺の選択は、間違いじゃなかったぞ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「き、緊張した〜.........」

 

 

マック「素敵なスピーチでしたわ!トレーナーさん!」

 

 

 俺の目の前にずいっと身体を前進させて、マックイーンは言った。そんな彼女はどこか嬉しそうに、その耳をぴょこぴょこさせている。

 おかしい。俺はそんな喜ばせるような事言った記憶はないと思うんだが.........

 そう思い、心当たりを探ろうと思考をこらす寸前で、目の前にいつものメンバーが現れる。

 

 

黒津木「中々決まってたぜ。やるじゃねぇか」

 

 

神威「いや〜、中々の名言だったな〜。お前の決めゼリフに追加しとけよ〜」

 

 

桜木「アホ、使い所が無さすぎるわ」

 

 

 どこの場面で使えばいいんだどこの場面で、目の前にいるコイツらはどこか俺を小馬鹿にするようなニヤつきで俺を見てくる。それを見て、イラつきと同時に日常を感じ取ることが出来た。

 

 

白銀「まぁよ、昔は考えられなかったよなぁ、大人になっても俺達四人で同じ所に居るなんてよ」

 

 

桜木「.........だな、正直お前とは顔合わせたくなかったけど」

 

 

白銀「えぇ!!?」

 

 

 信じられない。というような表情を見せる白銀。コイツはさっきまでの自分の行動を振り返られないのだろうか?

 漏れ出た苦笑の声が隣から聞こえてくる。見ると、そこには口元に手を当て、笑っているマックイーンの姿があった。

 

 

桜木(.........頑張ったよな、三年間)

 

 

マック「.........?」

 

 

 そうだ。もう彼女がトゥインクル・シリーズの舞台に上がり、3年が経った。苦しかった事も、辛かった事もあったはずなのに.........思い起こされる情景は、いつも楽しそうな彼女の顔と、楽しいという感情だった。

 

 

桜木「.........三年間、ありがとう。マックイーン」

 

 

マック「トレーナーさん.........ええ、そして、これからも.........」

 

 

 優しい微笑みを浮かべ、彼女はそう言った。そう、言ってくれた。これからも、俺と共に歩んでくれる事を、暗に伝えてくれた。

 

 

 少し照れくさそうにしながら、彼は笑ってくださいました。まるで、私の思っている事に、返事をするように.........

 

 

桜木(これからも.........)

 

 

マック(変わらず、一緒に.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ((歩いて行きたい.........))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たな始まりを予感させる三月の末。二人は秘めたる思いに心を馳せながらも、今はまだその時ではないと言うように、その言葉を飲み込むのであった。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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