山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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T「ファン感謝祭という名の地獄」マック「自業自得ではありませんか?」

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 ファン感謝祭。それは普段であるならば単なるお祭り騒ぎで幕を開け、そのまま幕を閉じるイベントだ。

 だが、今年は違う。URAファイナルズの宣伝やマンネリ防止のため、理事長から直々にファン感謝祭実行委員会に選ばれた俺は、それはもう地獄のような忙しさに身を投じた。

 そして、それは配信イベント中もお構い無しだった。

 

 

理事長「注目ッ!これより!グラスワンダー考案のトレセン笑点を始める!!」

 

 

桜木「あの、俺もやるんです?」

 

 

理事長「勿論ッ!!!」

 

 

 何故、俺が大喜利をしなければ行けないんだ。せめて司会席だろう?なんであんたが歌丸師匠なんだ。

 それにグラスが怖いのなんの。大喜利なのに笑っちゃいけないってなんなの?

 

 

理事長「説明ッ!皆は動物園にいるとするッ!なにか動物を見つけッ!指を指して[あっ!]っと言うのだ!そしたら私が[なんだ?]と言う!それに続いて話してくれ!」

 

 

エル「ハイ!」

 

 

理事長「エルコンドルパサー!」

 

 

エル「あっ!」

 

 

理事長「なんだ?」

 

 

エル「グラスかと思ったら!豚デース!!!」

 

 

 あの時、本当に生きた心地がしなかった。だって俺、隣に居たのに笑っちゃったもん。グラス。めっちゃ怖かった。

 そしてこれだけでは無い。その後は何故か二人羽織で熱々おでんを早食いするという地獄の詰め合わせのような企画をやらされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........いつものメンバーが食う係と」

 

 

理事長「うむ!二人羽織で手を担当する四人はこの子達だ!!!」

 

 

 そう言われ、紹介されたのはサクラバクシンオー。メジロブライト。ゴールドシップ。アグネスデジタルだった。

 正直誰を選んでも地獄を見る羽目になるのは確定している。何故なら俺は猫舌だからだ。ゴールドシップとか何してくるか定かじゃないしそこ以外なら.........

 

 

理事長「勿論ッ!くじ引きで決めさせてもらうぞ!!!」

 

 

桜木「」

 

 

黒津木「玲皇.........」

 

 

神威「可哀想.........」

 

 

 哀れみの目を向けられながら、俺達はくじを引いた。黒津木はデジタル。神威はブライト。白銀はゴールドシップ。当たり前だよなぁ?と言いながら彼女に振り返っていたが、興味無さそうにそっぽ向いてて可哀想だった。

 因みに俺はバクシンオー。何とかなりそうだ。

 

 

理事長「注釈ッ!途中で冷めないよう、ガスコンロで沸かしながらやるぞ!!食べる時はよそってな!!!」

 

 

桜木(くそ、俺の浅はかな作戦が.........!)

 

 

 見事に秘策を粉砕されながらも、ちゃんちゃんこを着込む。うーん。この懐かしい感じ、死んだばあちゃんを思い出すぜ.........

 

 

バク「よろしくお願いします!桜木トレーナーさん!」

 

 

桜木「よろしくな」

 

 

ブライト「はわ〜.........殿方の背中というのは、がっしりしてるのですね〜」

 

 

神威「大丈夫?なんかもうのぼせたみたいな喋り方なんだけど.........」

 

 

デジ「なんか、凄いことやってますね.........」

 

 

黒津木「俺もそう思うよ.........」

 

 

 それぞれ会話を交わしながら、ゆっくりと席に座り、おでんが来るのを待つ。各々のテーブルの上にガスコンロがセットされ、おでんが入っているであろう鍋が下ろされ、蓋をあけられる。

 湯気が顔に当たった瞬間。いい匂いとか、美味しそうとか、そんなプラスな思考は存在せず、ただ単に汗が溢れ出た。苦しい時に出る汗だ。気持ちが悪い。

 そう思っていると、おでんの熱を感じとったゴールドシップのテンションが爆上がりし始めた。

 

 

ゴルシ「なーなー!!アタシがいただきますの挨拶していいか!!?」

 

 

桜木「ど、どうぞご自由に.........」

 

 

ゴルシ「この世の食材に感謝を込めて!!!」

 

 

「「「「いただきます!!!」」」」

 

 

((((トリコかな?))))

 

 

 背中にいるウマ娘の手が合わさり、いただきますの合唱が始まる。食べる係の俺達はそれを聞いて、とあるジャンプ漫画の事を思い出した。

 

 

白銀「うんまそぉ〜〜〜!!!」

 

 

黒津木「ひとり立派なグルメ細胞を埋め込まれた奴が居ますね.........」

 

 

 それを思い出したのだろう。一人は完全に一瞬にしてグルメ細胞を埋め込まれた人間が居た。正直、関わりたくない。

 

 

白銀「決めたァ!!!俺はこいつら一品一品をフルコースにしてやるぜ!!!これで俺のフルコースは完成だァ!!!」

 

 

神威「ハハ、随分食卓に並ぶ頻度が高いフルコースだなぁ」

 

 

 本当だ。これがフルコースに設定されたならもうグルメ界とか行かなくていいんじゃないか?GODとか食べたら死ぬでしょ。こんなどこにでもあるおでんがフルコースなんて.........

 

 

白銀「お前はココ?」

 

 

桜木「オレハココジャナイヨ」

 

 

 なんだコイツ、俺がどこかの毒使いに見え始めたのか?薬でもやっているのだろうか?そう思っていると、不意に頬に熱い空気が当たり始める。もしやと思いその方向を見ると、俺はギョッとした。

 

 

バク「桜木さん!!お口はどこですか!!」

 

 

桜木「待って!!今むくから!!よし向いた!!」

 

 

バク「分かりました!!!バクシーン!!!」

 

 

桜木「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁッッッつぁッ!!!」

 

 

 こ、コイツ!!!大根丸々一個俺の口に突き入れてきやがった!!!せめて箸で切り分けてよ!!!もしや俺一番ダメな人材を引いてしまったのでは!!?

 い、いや!!!ほかのやつらもきっと同じことになってるはずだ!!!絶対口とか火傷して.........

 

 

ゴルシ「おい、ふーふーしたか?」

 

 

白銀「した」

 

 

ゴルシ「よし、あーん」

 

 

白銀「あーん.........ん〜、んま」

 

 

 なんだアレ、一番健全じゃねぇか。納得いかねぇ.........ゴールドシップが真面目に二人羽織してるなんて.........

 

 

ブライト「司書様は〜、おでん、お好きですか〜?」

 

 

神威「す、好きだよ?美味しいし.........あの、そろそろ食べさせてくれる?」

 

 

ブライト「かしこまりましたわ〜」

 

 

神威「.........おー、割と冷まされてる」

 

 

 くっ、なんて画期的な方法を取ってるんだ神威のやつ.........確かに、橋で持って外気に触れさせれば、少しは冷ませる.........俺もブライトと組めばよかったかも.........

 

 

デジ「あの、ふぅふぅは?」

 

 

黒津木「要らないからいいよ。遠慮しないで」

 

 

 くそァ!!!これだから北海道外出身のやつは!!!俺の苦しみも分からないで!!!熱いものふぅふぅもしないで食べるとかありえない!!!

 そう思っていると、不意に背中側から不穏な気配を感じ始める。やめろバクちゃん。勝ち負けとかもう関係ないから.........美味しくおでん食べさせて.........

 

 

バク「桜木さん!!悠長な事をしてる場合ではありませんよ!!このままでは負けてしまいます!!鍋から直接食べましょう!!」

 

 

桜木「はァ!!?ざっけん「バクシーン!!!」なア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのイベントが終わった後、今度はちゃんと俺に告知されていないイベントが始まった。

 名付けてカラオケタッグバトル。ゴールドシップが主催のイベントだ。ふざけるな、お前はもういきなりお笑い決勝戦(※pixivのファン感謝祭で一番盛り上がることがしてぇ!!!参照)をやっただろ。欲張りさんめ。

 

 

ゴルシ「まーそんなカッカすんなよおっちゃん♪銀河がひとつ消えちまうぞ♡」

 

 

桜木「禿げる以上にリスクでかいな」

 

 

ゴルシ「という訳でもうおっちゃんが居ない間に準決勝までやっちまったぜ!!」

 

 

桜木「はやない!!?」

 

 

 思わずへんな言葉遣いで突っ込んでしまった。いや、ゴールドシップだからと言われれば納得できるが、流石にこれは酷い。なんせ準決勝に進まなかった人達はその自慢の声を放送に載せれなかったのだ。可哀想に。

 

 

ゴルシ「因みに敗退してった奴らの歌はアタシのパカチューブで見てくれよな♪」

 

 

桜木「そういうところ本当上手いよな、お前」

 

 

 そう言うと、隣でゴールドシップはにへへと笑った。こういう素直さが人に好かれる所なのだろう。白銀のやつもこれにやられたのか.........

 

 

ゴルシ「うっし!じゃあ準決勝第一試合!!チーム[エンカ]の!!キタサンブラックとそのじーちゃんだ!!!」

 

 

桜木「え!!?一般の人も参加すんの!!?」

 

 

 俺がそう聞くと、隣にいるコイツは何言ってるんだ?当たり前だろ?と言うふうに首を傾げた。お前のそういう所があのバカに似てんだよ。言ってないことをさも言ったように振る舞うな。

 

 

キタ「よ、よろしくお願いします!」

 

 

キタ爺「えーキタちゃん共々、頑張らせていただきます」

 

 

桜木(.........おい、俺あの人テレビで見た事あっぞ)

 

 

ゴルシ(おん?あったりめーだろ?大物演歌歌手だぞ?)

 

 

 突然衝撃的事実に雷が落とされる。知らなかった.........キタちゃんのおじいちゃんって、演歌歌手だったのか.........そう思ったらなんかお父さんの方も見た事あるな.........

 あ、あー.........なんか着物着て演歌歌ってた姿見た事あるわ。今なんかパズルのピースがハマった。実は凄い家の子なんだな、キタちゃんって.........

 そう思いながら、俺は二人のこぶしと思いの乗った歌に聞き惚れていた。この年でこの声量.........すごい人材だ。ぜひ歌手デビューをして欲しい。

 

 

ゴルシ「凄かったなー!!対戦相手が可哀想なくらいだぜー!!」

 

 

桜木「だなー、よし対戦相手の人を.........え?降参した?流石に大物演歌歌手は倒せない?」

 

 

 まぁ、妥当だな。流石にあの歌唱力の後で出てきても、あまりいいコメントは残せない。それにしてもすごい人を呼んできたなキタちゃん。

 

 

ゴルシ「という訳でチーム[エンカ]決勝進出だー!!」

 

 

キタ「やったー!!一緒に温泉旅行行こうね!!おじいちゃん!!」

 

 

キタ爺「ハハハ!そうだな!」

 

 

 軽快に笑いながら颯爽と去っていく二人の後ろ姿を見て、この先の勝ちを確信した。きっとこの二人よりすごい人は居ないだろう.........そう、思っていた。

 

 

ゴルシ「次の準決勝第二試合はこの二人からだー!!チーム[サターン]のサトノダイヤモンド!!」

 

 

ダイヤ「よろしくお願いします!!」

 

 

桜木(.........ん?)

 

 

 ゴールドシップに促されて登場したのはサトノダイヤモンド。しかし、俺が疑問に思ったのはそこではない。彼女の後ろに着いてきた男性だ。

 誰だ.........?知らない、はずなのに.........何故か俺は、この男の人を知っている気がする。

 

 

ゴルシ「二人はどういう関係なんだー?まさか、そこら辺の人を拉致ってきたのか!!?」

 

 

ダイヤ「ら、拉致だなんて!!違います!!私のお父さんの会社の部下さんです!!お歌がとっても上手なんですよ?」

 

 

「はは、お恥ずかしい限りです」

 

 

 んー、この声もどこかで聞き覚えが.........ま、まぁ、歌い始めたらきっと分かるだろう。

 そうこうしている内に歌が始まるイントロが流れ、俺は彼の声に耳を傾けた。

 

 

「きーおくのなーかに〜♪」

 

 

桜木(あっ、あああああああああ!!!!!!!!!!???????????)

 

 

 知ってる!!!ぜっっったい知ってる!!!この人あれだろ!!?日本一歌が上手いサラリーマンの人だろ!!?うーわ一時期曲聴き漁ってたわ!!!

 つーか何!!?ダイヤちゃんもしかしてSEG〇の人なの!!?ちょっと要望言おうかな、最近のSEGAのゲームのロゴの言い方気に食わないんだよね。

 なに?あのセ〇ッって、違うだろ!!?セ〜〇〜だろ!!!なーんでカッコつけちゃうかなー!!!

 

 

 そんな悶々としている内に、曲は終わってしまった。す、素晴らしかった.........一ゲームファンとして、今ここに生きてて本当に良かった.........

 

 

ゴルシ「凄かったなーおっちゃん!!こりゃ対戦相手も「すいません......」お?」

 

 

桜木「あの、一瞬だけで良いんで、DAYTONA歌ってくれません?」

 

 

「良いですよ?」

 

 

「スゥー.........デイトォォォ〜〜〜ナァァァ〜〜〜〜〜!!!Let’s Go Away!!!」

 

 

ゴルシ「おおおおお.........!!!すっげー肺活量だなー!!!肺に植物でも栽培してんのか!!?」

 

 

桜木「ありがとう...ありがとう...」

 

 

 最高に嬉しかった。嬉しすぎてせがた三四郎になりかけた.........

 もうこれだけでゴールドシップに文句を言う気も失せてしまった。ダイヤちゃん。君の会社のゲームはあまりやった事ないけど、ソニックヒーローズの新作かリメイク、待ってます。あ、それとPS〇2もう少し何とかしてください。

 そしてやはり、対戦相手は降参してしまった。どうやら先程の歌声に胸を打たれたらしい。商品は要らないからサインが欲しいと言い出したそうな。

 

 

桜木「.........つか、優勝賞品ってどこの経費だ?まさか俺の知らない間に口座番号抜かれてんじゃ.........」

 

 

ゴルシ「いや?白銀が出してくれたぞ?面白そうだからって」

 

 

 アイツ.........また無駄遣いしやがって、金遣い荒いのは前々からだけど、大富豪になってから磨きがかかってやがる。

 さーてと、次は決勝戦。きっと白熱した戦いになるんだろうなぁ.........そう思いながら、俺は二人のチームをステージに呼んだ。

 しかし.........

 

 

キタ「.........グス」

 

 

ダイヤ「.........ヒグ」

 

 

桜木「えぇ!!?この手の放送事故はキツイんですけど!!?」

 

 

 なんと、二人ともまさかの泣きながらの登場。流石のトラブルに強い桜木さんもてんやわんやで大混乱。

 大人が慌ててどうする、そう叱責するように背中をゴールドシップにはたかれた。思わず彼女の方を見ると、そこにはいつも通りの笑顔があった。

 

 

ゴルシ「おいおいおい!!どうしちまったんだー!!?まさかおじいさんはスペースサイドにエイリアンを滅ぼしに!!部下は人体実験を繰り返す悪の組織を壊滅させに行ったのかー!!?」

 

 

キタ「う、ううん。おじいちゃん、急にお仕事が入っちゃったの.........」

 

 

ダイヤ「ぶ、部下さんは、急にばーちゃろん?の新作?がって.........」

 

 

 なるほど、二人ともそれぞれ同じ様な理由でパートナーが居なくなってしまったわけだ。せっかくここまで来たのに、不戦敗、という訳には行かない。

 かと言ってここでそれぞれソロで歌うとなれば、それは真新しさが無い。やっている事は普通のカラオケだ。ならば、やることは一つだけだ。

 

 

桜木「さて、このトラブルをどう乗り越えるのでしょう。注目の展開は、休憩室中継の後!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........それで、私が呼ばれたのですね?」

 

 

 ごめん、と言って、彼は頭を下げその両の手を擦り合わせました。まぁ、今回に関しては致し方ありません。説明さえ受ければ、今回の事は十分許せる物です。

 

 

ゴルシ「ま、まさかおっちゃんが自分から進んでマックちゃんとデュエットするなんて.........!!」

 

 

桜木「俺だって嫌だったよ!!」

 

 

マック「.........その言い方では、まるで私と歌うのが嫌だと聞こえるのですが?」

 

 

 そう聞こえたのならごめん、と素直に謝る彼の顔を見るに、どうやら本当にそう思っての発言ではなかったようです。少し安心しました。

 しかし、彼とデュエットをするのも今回で何回目でしょう、今度こそ。まともな曲で歌いたいもの―――

 

 

南坂「桜木さん!もうそろそろこちらにカメラ回ってしまいます!」

 

 

桜木「まずい!マックイーン!裏に回ろう!」

 

 

マック「ちょ、ちょっと!歌う曲はどうするんですの!!?」

 

 

桜木「ゴールドシップ頼んだ!!!」

 

 

 その言葉にギョッとし、彼に強く手を引かれながら、私は後方にいる彼女の方に首をまわし、目を向けました。

 そこには、酷くニヤついた様子の笑顔をで、半目のゴールドシップさんが手をユラユラと振っていました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「おーっし!!オマエらー!!チャンネルはそのままだったかー?数分ぶりに会えたゴルシちゃんのご尊顔はどうだ?嬉しくなっちまうだろ!!?」

 

 

 ステージ裏の配信モニターから見える彼女は、どこか先程より嬉しげであった。隣にいるマックイーンはソワソワしながら、これからの展開に不安を感じている。

 

 

桜木「.........不安か?」

 

 

マック「.........だって、あのゴールドシップさんですのよ?絶対、まともな選曲じゃありませんわ」

 

 

 そう言いながら、彼女はため息を吐いた。確かに、彼女の言うことも最もだ。アレがまともな選曲をしてくるはずがない。

 だが、それでも.........

 

 

桜木「なぁマックイーン。それでも俺達二人は、あの子達を泣かせたままに出来なかった。だろ?」

 

 

マック「.........本当、お人好しな人です」

 

 

桜木「.........お互い様だ」

 

 

 二人で微笑みを交わしながら、俺達はモニターに目を向ける。彼女との距離は、手が届くか届かないかの距離だ。きっと伸ばせば、すぐにでも指が触れ合う。

 だけど、俺達にそれは必要ない。例え手を繋いでいなくとも、言葉を紡いでなくとも、心には一直線に伸びる想いが伝っている。

 どんなにくだらない日常でも、どんなに心を打ち負かす非日常でも、俺達二人は、この繋がりを断ち切られる度、それより強い想いで繋がってきたと思っている。

 

 

ゴルシ「今回は特例で!!決勝に上がってきた二人がタッグを結成だー!!そして!!それに対抗するタッグは!!チーム[平均身長]だー!!」

 

 

キタ「えぇー!!?」

 

 

ダイヤ「お、おじ様とマックイーンさん!!?」

 

 

 ステージに出てくると、用意された椅子に座っていた二人が勢い良く立ち上がった。こういう反応されると、期待に応えたくなるものだ。

 しかし、チーム平均身長は中々いい名前だ。俺もマックイーンも男女の平均身長ピッタリの背丈だ。

 

 

キタ「お、お二人の胸を借りるつもりで!!」

 

 

ダイヤ「頑張って歌います!!!」

 

 

 二人はもうやる気十分、先程までの悲しみはもう吹っ飛んだようだ。これならば、俺達が体を張って出てきた甲斐が有る。

 

 

ゴルシ「よーし!!そんじゃあ先行はおっちゃん達な!!アタシが選曲した曲を流してやるよ!!」

 

 

 そう言って、ゴールドシップは南坂さんに合図を出す。それにしても手際が良いなあの人.........何かやってたんだろうか?カラオケ音源を機材に差し込み、音が会場、そして配信にクリアに乗るように操作をする。

 やはり、トラブルというのは一人で何とかしようとするから苦しいのだ。頼もしい仲間さえ居れば、何とかなる.........ありがとう、ゴールドシップ。

 

 

 パーヤ♪パーヤ♪パッパヤッパヤ♪パッパッパヤッパー♪

 

 

桜木(三年目の浮気じゃねぇかッ!!!)

 

 

 そのイントロを聞いた瞬間、俺はマックイーンの方を見た。彼女も困惑した様子で、俺の顔を見るように視線を向けた。

 椅子に座った二人はよく分からない曲のようで、どうして俺達が困惑しているのか分からないらしい。だが、ゴールドシップと配信のコメント欄は分かっているように俺達をおちょくってくる。

 絶対に許さんぞ.........これが終わったらどうなるか.........なんて、思っている暇も無い。俺はとにかく、三年目に浮気をした亭主関白の夫だ。そうなりきるんだ.........!

 

 

桜木「っバカ言ってんじゃないよ〜♪お前と、俺はぁ〜?喧嘩もしたけど一つ屋根の下暮らしてきたんだぜ〜?♪」

 

 

桜木「馬鹿言ってんじゃないよ......♪お前の事だけぇは〜♪一日たりとも忘れた事など無かった俺だぜぇ〜♪」

 

 

 

 

 

 ―――最初は困惑気味でしたのに、歌い出した途端、彼はノリノリで歌い始めました。それは正に、浮気で開き直る夫のような物です。

 なんでしょう.........?別に、彼とはそういう間柄ではありませんのに、ムカッとしてきました。

 

 

マック「よく言うわ〜♪いつも騙してばかりで〜♪私が何にも知らない♪とでも思っているのね〜♪」

 

 

 そうよ!本当にいつもいつも終わった頃に事の顛末を言うの!!自分一人で何とかしようって!!いつもいつも!!

 それだけじゃないわ!!今思えば新人の時だって!!いきなりアグネスタキオンさんとも契約したいだなんて!!!アレは今思えば浮気だわ!!!契約したのは私が後だけど!!!

 

 

 

 

 

 ―――えぇぇ!!?な、なんか怒ってらっしゃる!!?歌声に怒りが乗っかってきているのが伝わってきますけどマックイーン様!!?

 え、ええい!!まだ二十年も生きていない小娘に気圧されてたまるか!!!俺は昭和の亭主関白だぞ!!!

 

 

桜木「よく言うよ〜♪惚れたお前の負けだよ〜♪もてない男が好きなら♪俺も考え直すぜぇ〜〜〜♪」

 

 

マック(な、なんですって〜〜〜.........!!!)

 

 

 

 

 

 ―――こ、この人は.........まっっったく悪びれる様子も無く、惚れた私が悪いですって!!?ゆ、許せないわ.........!!ここまで心を掻き乱されたのは初めてよ.........!!!

 次から次へと.........!!タキオンさんだけに飽き足らず!!ウララさんにライスさん!!他のトレーナーさんが受け持っていたブルボンさんに!!!マネージャーとしてデジタルさんまで!!!もう許せない!!!

 

 

マック「バカ言ってんじゃないわ!!!♪」

 

 

桜木「(語気が強い!!?)バカ言ってんじゃないよ〜.........♪」

 

 

マック「遊ばれてるの分からないなんて可哀想だわ〜♪」

 

 

 

 

 

 ―――なんだろう、俺、なんかしてしまったか?君を怒らせるような事、ここ最近は本当に大人しくしてたつもりなんだけど.........

 怖すぎてもうビクビクしながら歌ってる。きっと浮気がバレた男ってこんな気持ちなんだろうなぁ.........

 

 

桜木「三年目〜の浮気ぐら〜い多めに見・ろ・よ♪」ビクビク

 

 

マック「開き直〜るその態度〜が気にいらないのよぉ〜!!!♪」

 

 

桜木「三年目〜の浮気ぐら〜い多めに見・て・よ.........?♪」グスン

 

 

マック「両手をつい〜て謝ったって〜許してあ・げ・ない!!!!!♪」プイ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「いやー凄かったなーオマエら!!視聴者投票の公正な審査の結果!!勝ったのはチーム[平均身長]だー!!!」

 

 

桜木「.........」メソメソ

 

 

マック「あの、えっと.........」オロオロ

 

 

 勝ちました。ええ、それは良いです。どんな物事でも、勝利というのは心に気持ちの良い物を与えてくれる物です。

 しかし、代償があまりにも大きすぎます。まさか彼にここまでダメージが入ってしまうなんて.........役に入り込みすぎる、というのも考え物ですわね.........

 

 

キタ「す、凄かったね。ダイヤちゃん.........!」

 

 

ダイヤ「うん!なんか、本当の夫婦喧嘩みたい.........!」

 

 

 そ、そう思われるのは悪い気は.........というより、良い気しかしませんが、今はそんな事にうつつを抜かしている暇はありません。ここ最近頑張り尽くしだった彼に、酷い事をしてしまいました.........

 

 

マック「そ、その、ごめんなさい。役に入り込んでしまい、あんなに強く.........」

 

 

桜木「!そ、そうなの.........?凄いな.........役者の才能あるよそれ」

 

 

マック「そう、でしょうか?」

 

 

桜木「うん!あんな一瞬であそこまで心情を作り上げるなんて、そうそうできることじゃないからね。レース引退しても、テレビで沢山見れるんだろうなぁ」

 

 

 先程まで悲しそうに静かに泣いていた彼でしたのに、訳を話した瞬間からはケロリと切り替えていました。その上、私の事まで褒めて.........

 全く、本当にお人好しな人です。私のせいで悲しい思いをしたのに、あわや褒めるだなんて.........

 

 

ゴルシ「終わりよければすべてよしって事で!!優勝賞品の「待った!!!」―――んだよー!!」

 

 

桜木「俺達二人が貰っても正直使えん。だよな?マックイーン」

 

 

マック「.........そうですわね、まさかトレーナーさんと行く訳には行きませんから」

 

 

 まぁ、行きたい気も山々ですが、まだその時期ではありませんし、そもそも気が気でありません。温泉に行った所で、楽しめる気がしません。

 それに、今でなくても機会と関係があればいつかは行けます。今、このなんとも言えない男女の関係のまま行くより、ハッキリさせてからの方が楽しめます。

 

 

桜木「俺から白銀にもう一組追加で言っとくから、それはキタちゃん達にあげようと思う」

 

 

マック「ええ、その方がきっと良いです。そういう訳でお二人共。こちらはお渡ししますわ」

 

 

 私は額縁に入った温泉旅行券をお二人に渡すと、彼女達はその目を輝かせ、お互いの顔を見合った後、私達の方へ満面の笑みを向けてくださいました。

 

 

二人「ありがとうございます!!!」

 

 

ゴルシ「っかー!!勝負に気を取られて子供の笑顔を守る事を忘れちまってたー!!これじゃあスペースゴルジャー失格だぜ.........」

 

 

ゴルシ「まーでもよー!!二人が優勝した事は変わりねーからトロフィーは受け取ってくれよな♪」

 

 

 そう言いながら、彼女はどこからともなく巨大なマイクを模したトロフィーを持ち上げ、私達の方へと歩いてきました。

 それを、彼と一緒に手を伸ばし、受け取りました。それにしても、中々の重さです.........

 そうしていると、視界の端の方に動く何かが見えます。何かと思い見てみると、それは桐生院さんが動かしたカンペでした。それには、「トロフィーを二人で挟むようにしてカメラ!!」と書かれていました。

 

 

桜木「マックイーン、笑顔でな」

 

 

マック「それはこちらのセリフです。なるべくカメラ写り良く笑ってくださいね?」

 

 

桜木「ハハ、善処するよ」

 

 

 桐生院さんの指示通り、トロフィーを挟むようにしてカメラに笑顔を向けました。トラブルはありましたが、これもいい思い出になったと感じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「つ、疲れた.........」

 

 

南坂「お疲れ様です。桜木さん」

 

 

 配信休憩室。まさか歌うとは思っていなかった為、体力消費がとても激しかった。いくら歌の練習もしていたとはいえ、年月が経てば歌い方もその筋肉も劣化してくるものだ。

 

 

桐生院「それにしても、南坂さんの手際。すごい良かったです」

 

 

桜木「あっ!そうですよ!昔なんかしてたんですか?」

 

 

南坂「あはは、いやー。高校時代、大学の入学費とか払うのに色々バイトしてたんです。機材とかもいじる機会があったので.........」

 

 

 どこか恥ずかしそうにそう喋る南坂さん。そうか、この人も苦労してトレーナーになったんだな.........今じゃこんな、トレーナー業とは関係の無い仕事をやらされて.........

 いや、指名したのは俺だから実質俺が悪いじゃん。理事長が悪いよあの権力ヤクザロリっ子が。

 

 

桜木「そんな過ごし方してたら部活とか出来なかったんじゃないですか?」

 

 

南坂「まぁ、部活は出来ませんでしたけど、友達とバンドしてましたよ」

 

 

桐生院「へー!!じゃあ!ぎたー?とかも、こう......ジャーンってできるんですか!!?」

 

 

 この質問もまた照れながら彼は答える。ポジション的にはギターだったらしい。さぞ学生時代はモテただろう。この優しいルックスでギターも引けるなんて完璧すぎやしないか?

 

 

南坂「桜木さんはどうです?音楽とか歌い方とか聞く限り、やってたイメージはあるんですけど」

 

 

桜木「あー、高校時代に白銀が言い出しっぺでやろうとしたんですけど、創が楽器買った瞬間みんな飽きましたよ」

 

 

 あれは酷かった。金欠で一人だけ楽器買えなかったので、白銀のキーボードを借りて練習してたが、買った瞬間にみんな飽きたんだ。俺も飽きた。

 バンド.........そういえば、次の大きいイベントと言えばナリタタイシン達のバンドコンサートだろう。まぁコピーバンドだが、クオリティは練習を見ていた黒津木が保証している。期待は出来る。

 そんなことを考えていると、休憩室の扉をノックされる。俺が反応する前に南坂さんが反応し、入室を促した。流石の反応の速さ。これがモテる秘訣か.........

 

 

「失礼しまーす!!」

 

 

桜木「あら、ウララじゃんか!他のみんなもどうしたの?」

 

 

 入ってきたのはウララを筆頭に、ライスとブルボン。そしてデジタルであった。1体どうしたのだろう?もしかして何か困ったことでもあったのだろうか?

 しかし、入ってきたみんなの表情はそんな俺の予想に反して、ポジティブなものであった。

 

 

ウララ「あのねあのね!!トレーナーが頑張ってると思ってね!!休み時間にクッキー作ったんだよ!!」

 

 

ライス「こ、今度はちゃんとお砂糖で作ったから、しょっぱくないよ?」

 

 

ブルボン「皆さんの分もあるので、食べてください」

 

 

 そう言いながら、ブルボンはその手に持っていた紙袋を俺に渡してきてくれた。中身を見ると、確かにたくさんのクッキーが入っていた。

 これはありがたい。休憩室のテーブルに皿を置き、そこにクッキーを乗せる。

 

 

桜木「ありがとうなわざわざ、忙しかったろ?」

 

 

デジ「ふふふ.........トレーナーさんがいい物を見せてくれたおかげでどうにかなりましたよ.........!忙しさなんて!!」

 

 

 いい物.........?一体、俺はデジタルに何かしてやったのだろうか?とても気になるな。

 そう思い、俺が何をしたのかをデジタルに聞いてみると、同じアグネスの名を冠するタキオンの様な薄気味悪い笑みを浮かべ、スマホを取り出した。

 

 

「バカイッテンジャナイヨ〜♪」

 

 

桜木「おっ、お前.........」

 

 

デジ「いや〜〜〜!!まさかあの伝説の三年目の浮気がもう一度!!!しかもアーカイブに残るだなんて.........!!!ありがとうございます!!!トレーナーさん!!!」

 

 

桜木「ヅァァァァァァッッ!!!そうだあれ永久保存確定だァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 抜かった。そうだあれアーカイブ残るんだ.........その場でうずくまりながら絶望に付す俺とは対照的に、デジタルは嬉しそうな足取りで休憩室を出ていった。

 他の子達も俺を心配しつつも、自分の出し物があるから出ていってしまった。俺はしばらくうなだれながら、何とかテーブルの方まで這いずって行き、椅子に座り込む。

 

 

桐生院「えっと.........」

 

 

南坂「.........ドンマイです。桜木さん」

 

 

桜木「また.........アイツらにからかわれる.........」

 

 

 これから先に待ち受ける地獄を想像しながら、クッキーを皿から取り、口へと運ぶ。サクサクとした食感に味覚から感じ取れる糖が脳の疲れを癒してくれる.........

 このまま、俺の将来も癒してくれればいいのに。そんな事を思いながら、俺は一時の安らぎを噛み締めるのであった。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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