山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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T「ロックとオペラとヒーローショー」

 

 

 静まり返るステージを中心とした世界。そこでは今から、ナリタタイシン達が今日の為に練習してきたバンドを披露することになっている。

 トラブルの予兆は無い。正直、彼女達に関しては心配する事はないだろう。きっと、このライブを成功させる事ができる。

 

 

南坂「配信音響準備出来ました。会場の演出はどうですか?」

 

 

「すいませーん!このライトってサビで使うんでしたっけ!!?」

 

 

南坂「.........すいません、僕ここから離れてしまっても大丈夫ですか?」

 

 

 無線でのやり取りをしていた南坂さんであったが、演出の方が心配なのだろう。俺もさっきの声を聞いていて不安になってしまった。ここに残っていてくれるより、行ってくれた方が気が楽だ。

 

 

桜木「構いませんよ。配信ペースは体内時計で何とかなりますから」

 

 

南坂「ありがとうございます!」

 

 

 そう礼を言った後、彼は足早にここを去って行った。ライブが始まるまで後十分ほど、ここからなら充分間に合うペースだ。

 残すイベントはこれと、ヒーローショーだけだ。それが終われば、俺のこの大役ともおさらばになる。寂しい気持ちが無い訳では無いが、それでも楽になる気持ちの方が幾分か高い。

 

 

桜木「.........頑張ってくれよ」

 

 

 青春。俺の最も熱かった時代。そして、最も絶望した時代。あの日得た物と失った物を天秤にかければ、一体どちらが傾くのだろう。あの頃は、きっと失った物の方が多かった気がする。

 だが、時が経てばあの経験が、俺の人生を培い、多くの体験や人を巡り合わせてくれた。今考えればきっと、得た物の方が多いのだろう。

 失ったのは一時の利き腕の感覚と、正体を見誤った夢の存在。得た物は、死を本能で感じとり、自然を悟った経験と、かけがえのない者達。今天秤にかければ、どちらが重いかなんて明白だ。

 

 

黒津木「.........羨ましいか?」

 

 

桜木「バカ言え。俺ぁもうとっくのとうに、青春を忘れちまったおじさんだよ。テメェらとバカ騒ぎしてた事しか覚えてねぇ」

 

 

黒津木「ハハ、アルツハイマーの疑いがあるから腕の良い動物病院紹介しとくね」

 

 

桜木「せめて人用にしてくれ」

 

 

 軽口を叩き合いながら、盛り上がりをようやく見せ始めた会場を映すモニターに視線をやる。ステージ上には、どうやら始まる為の演出のスモークが撒かれ始めた。

 いよいよ、ライブが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「いよいよですわね.........」

 

 

テイオー「ボク、こういうバンドのライブとか見るの初めてだからドキドキしてくるよ〜.........♪」

 

 

 薄暗い会場。普段ならば、その暗さに少し恐ろしさを感じている所ですが、今は多くの観客の熱に当てられ、私も思わずソワソワとしてしまいます。

 まだかまだかと言うように、多くの人がざわめきを小さくも、確かに発していると、徐々にステージに光を灯し始めました。

 そこでは、センターのスタンドマイクの前でギターを持ち、堂々と立つナリタタイシンさん。ドラムを前に座るビワハヤヒデさん。キーボードを触りたそうにしているウイニングチケットさん。そして、正体不明の黒子の方がもう一台のギターを持っていました。

 

 

タイシン「.........」

 

 

 三本の指を頭上にあげ、ひとつずつ折り曲げていくのに合わせ、会場は徐々に静まりを見せていきます。いよいよ、ライブが始まるのです。

 指が全て、タイシンさんの手の内に入ったその瞬間。その手をギターに掛けましました。

 大きな音が来る。その予想に反して聞こえてくるのは一つの音だけ。それを追うように、もう一つ音が響いた瞬間。ようやくギターのメロディが流れ始めました。

 

 

テイオー(わー!!これ知ってるー!!トレーナーが車でかけるやつだよ!!)

 

 

マック(た、確かにそうですわ.........!)

 

 

 隣にいる彼女にそう言われ、あの曲のタイトルを思い出そうと必死に捻り出します。しかし、イントロの間にそれが出てくる事はありませんでした。

 歌が始まる。最初の演奏で声を上げていた方達も、歌を聞かなければ始まらないと思ったのか、ざわめきは一旦収まりました。

 ギターに目を向けていたタイシンさんが、その目を会場に、ここにいる人々に向けました。

 

 

「午前二時。踏切に。望遠鏡を担いでった」

 

 

 静かな声でありながら、芯のある歌声。それは歌うと言うより、人の心に語りかける様な静かさでした。

 それとは対照的に、人々は大きくざわめきを起こします。きっと、彼女がここまで歌える事に驚いたのでしょう。現に私も、今のこの状況に驚いております。

 

 

「ベルトに結んだラジオ。雨は降らないらしい」

 

 

「二分後に君は来た。大袈裟な荷物しょってきた」

 

 

「始めようか、天体観測。ほうき星を探して」

 

 

 徐々に声に強さがこもってきました。それに心が振るわされるような感覚になっていきます。きっと、彼女の声がこの歌と親和性があるのでしょう。

 

 

「今まで見てきたものは全部。覚えている」

 

 

「君の震える手を、握ろうとしたあの日は.........!」

 

 

 サビへと入る直前。語りかける声は、もうその声を世界に届ける様な力強い物へと変わっていました。チケットさんのキーボードやハヤヒデさんのドラム。黒子さんのベースも、最初の頃より力強さを帯びている気がします。

 

 

「見えてる物を見ようとして!!!」

 

 

「望遠鏡を覗き込んだ!!!」

 

 

「静寂を!切り裂いて!幾つも声が産まれたよ!!!」

 

 

「明日がボクらを呼んだって!!!返事もろくにしなかったァ!!!」

 

 

「今という!ほうき星!!今も二人追いかけている!!!」

 

 

「uh year! aha♪」

 

 

 サビを歌い切り、そのまま二番.........とは 行かず、そのままCメロに行くための間奏になりました。

 既にここで観客の人達は私を含め、曲のクオリティの高さに圧巻されていました。これはもう、プロと言っても差し支えないのでは無いのでしょうか?ここまでにする為に、たくさん練習した事が伺えます。

 

 

「背が伸びるにつれて、伝えたい事も増えてった」

 

 

「宛名のない手紙も、崩れるほど重なった.........!」

 

 

「ボクは元気でいるよ?心配事も少ないよ?!」

 

 

「ただ!一つ!!今も思い出すよ!!!」

 

 

 彼女の思い。その全てが乗るように、それが誰かに伝わるようにしっかりと声が響いてきます。彼女は一体、この気持ちを誰に伝えているのでしょう?

 その歌詞に心を重ね、その歌に想いを乗せた歌い方は、最後まで私達を彼女の世界に引き寄せました。

 

 

「予報はずれの雨に打たれて、泣き出しそうな」

 

 

「君の!震える手を!!握れなかったあの日を.........!!!」

 

 

「見えてる物を見落として!!!望遠鏡をまた担いで!!!」

 

 

「静寂と!暗闇の!!帰り道を駆け抜けた!!!」

 

 

「そうして知った痛みが!!!未だにボクを支えている!!!」

 

 

「今という!ほうき星!!今も一人追いかけているっ!!!」

 

 

「もう一度君に会おうとして!!!望遠鏡をまた担いで!!!」

 

 

「前と同じっ!!!午前二時っ!!!踏切まで駆けてくよぉ!!!」

 

 

 ウイニングライブのそれとは違う歌い方のせいか、彼女の声は既に枯れ始め、声の裏返りも目立ち始めています。

 しかし、そんな事すら気にならないほど、彼女の熱に当てられ、熱くなる観客。私もそれに釣られ、胸が暑くなってしまいます。

 

 

「始めようか!天体観測!!二分後に君が来なくとぉもっ!!!」

 

 

「今というっ!ほうき星っ!!」

 

 

「今も二人追いかぁけているッッ!!!」

 

 

「uh year! aha♪ah... aha year year!!!♪」

 

 

 ステージの周りを埋め尽くすほどの観客。その全てが、きっとこの歌声に衝撃を受け、そして聞き惚れていた。

 汗を振りまきながら、彼女が最後にギターに手を振り下ろした余韻。それを全員感じ終えると、拍手喝采が巻き起こりました。

 

 

「うおおおおおおお!!!タイシーーーン!!!最高だったぞーーー!!!」

 

 

タイシン「ちょ!!?」

 

 

 会場に響き渡る男性の声。それに反応するように怒った顔を見せるタイシンさん。どうやら、彼女のトレーナーさんみたいです。怒った顔を見せつつも、その裏には嬉しさが込み上げているのを隠しきれていませんでした。

 

 

マック「素晴らしかったですわね.........」

 

 

テイオー「いいないいなー!ボクもあんなふうにギターとか弾いてみたいよ〜!」

 

 

マック「あら、ではまず練習しなくては行けませんわね」

 

 

 あの姿を見て、彼女もバンドに興味を持ったのか、羨ましそうに口を開きます。その後も、タイシンさん率いるバンドは、他のバンドのコピーを5曲。アンコール8曲を歌いきりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「すげぇな。ありゃすぐプロなれるぜ」

 

 

黒津木「だろ?あとは歌い方のセーブの仕方だけだなー」

 

 

 モニターに映し出されるライブ様子。そこはもはや、フェスと言っても過言ではないほどの盛り上がりを見せていた。

 しかも、それに見合う実力もある。あの歌唱力は本物だ。俺もアドバイスした手前、練習に顔を出したり、ボイストレーニングを教えたりしたが、あそこまで自分の声を扱えるようになるとは.........

 

 

黒津木「.........おっ、最後のアンコールはBelieveか」

 

 

桜木「男と生まれたからには」

 

 

黒津木「少年漫画の海賊の方だよ」

 

 

 ああ、そっちか。ニコニコ暮しが長いから神イントロの方かと思ってしまった。

 .........それにしても、いい曲しか歌わないものだ。ここまでこのレースの世界にマッチした曲をアンコールに持ってくるとは.........

 

 

桜木「.........誰にも似てない、夢の背中。か」

 

 

黒津木「.........どうだ?お前も、新しい夢の背中。追えてるか?」

 

 

 夢。その正体。その真実。俺はその言葉に一瞬思考を向けたが、すぐに黒津木の方を向いた。

 

 

桜木「.........さあな、まだ。他人の夢を追いかけてる背中を、追いかけてるだけだ」

 

 

黒津木「.........そか」

 

 

 未だに俺の夢は見つからない。誰かの声が囁くように、俺に自分の夢を探せと言い聞かせる。それに抗う抵抗感と、何故かそれに従わなければ行けない焦燥感がせめぎ合う。

 天皇賞も、スピードの果ても、多くの一着を取るのも、変わる事も、三冠も、全て人の夢だ。それを失った時、俺はきっと一人では立てなくなる。

 あの日、テイオーが骨折したあの日。俺は逃げた。夢が崩れる音を、直接聞かなかった。聞いていればどうなっていたであろう。中途半端な地頭の良さが、ありもしない未来を夢想し、いつ来るかも分からないいつか誰かの未来に苦しんでいたであろう。

 だから、俺は見つけるんだ。自分だけの夢を.........

 

 

桜木「.........さっ、そろそろカメラが戻るぞ。ピシッとしなきゃな。お前もさっさとスタジオから出て、カメラ操作に集中しろよ」

 

 

 残すイベントはヒーローショーだけ。これを成功させれば、俺は晴れて元のトレーナーとしての生活に戻ることが出来る。お昼休みは安泰だし、家に持ち帰ってトレーナー業務以外の仕事をする必要も無い。

 俺はその時を、少しずつ待ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開演のブザーが鳴り響く。先程までフェスの熱気でザワついていた観客ももう、次に始まるなにかに期待し、その熱をまた、体の奥へと溜め込んで行く。

 だが、幕は上がらない。その変わり、綺麗な声のナレーション。ライスシャワーの声が、 会場全体を、これからの世界に案内し始める。

 

 

「ここは、とある時代の、とある王国」

 

 

「この国では、毎日毎日、朝から夜まで、楽しいオペラが繰り広げられていました」

 

 

「そして、オペラが一番上手な人が王様になって、食べきれない程のご飯や、呼ぶと直ぐに来てくれる召使いさん。そして、凄くカッコイイ魔法を、手に入れることが出来る世界.........」

 

 

 まるで、子供に絵本を読み聞かせるような声で語りかけるその声に、観客達は息を呑んだ。これから、想像している以上のものが見られる。そんな期待を胸に、目の前の膜が上がっていく。

 ステージの上には、まるで豪華絢爛な城の一部屋を想起させるようなセットが組まれており、壁の窓には、禍々しい城が描かれていた。

 そのセットのクオリティに感心する暇もなく、上手側から今回の主役である、テイエムオペラオーが歩いてくる。

 

 

 

オペ「王になってはや一週間。ボクは既に、全てを手に入れたも同然だ!♪」

 

 

 どうやら話は、オペラの上手い一人の存在が王になる成り上がりストーリーではない。そう観客に伝えるように、彼女は大きくセリフを歌う。

 勿論、他のキャラが主役で、オペラオーから王の座を奪う事も考えられるが、今回の公演はオペラオーの企画だと言うのは、みなが知っている為、それは無いとされた。

 

 

オペ「だけど、心配事はある。あの隣の城に住む魔女が、ボクを良く思っていないらしい!♪」

 

 

オペ「それでも、ボクには信頼できる友と!♪魔法がある!♪なんとでもなるさ〜!♪ハッハッハッハー!!」

 

 

ドトウ「お、オペラオーさん!♪お食事の用意がで、できました〜?♪」

 

 

 自信の無い歌声と共に、袖の方から顔を出すメイショウドトウ。その声に返事をするようにオペラオーはもう一度笑い声をあけ、袖へと消えていく。

 ステージは暗転し始め、セットを動かす車輪の音と、数人の足音が聞こえた後、また明かりが灯ると、そこには先程の絢爛さとは違う、禍々しい部屋のセットが存在しており、窓にはきらびやかな城が描かれている。

 

 

スイ「くぅ〜〜〜!!!悔しい悔しい悔しい!!!なんでアタシはあの綺麗なお城じゃなくて!こんな廃墟みたいな城に住んでるのよ!!!」

 

 

フジ「仕方ないよスイープ。オペラの練習サボりすぎて追放されちゃったんだから」

 

 

スイ「うるさいわよ!!!だって嫌だもん!!!なんで必要も無いのに四六時中歌わなきゃ行けないの!!?近所迷惑じゃない!!!」

 

 

 ご最もな指摘をしてみせるスイープの発言に、会場に笑いがチラホラ起きる。フジキセキはその姿に苦笑しつつも、スイープが目配せしたのを合図に、袖へと消えていった。

 

 

スイ「フン!!いいわよ別に!!アタシには最っ高の魔法があるんだから!!!歴代最強の王様だかなんだか知らないけど!!これであの王様もおしまいよ!!」

 

 

スイ「水晶玉を用意しなさい!!この目で王の最後を見届けてあげるわ!!」

 

 

 そう宣言するスイープの自信満々な声の後、フジキセキは水晶玉を手に持ち、その後ろからは黒子が現れ、部屋のセットを半分隠れるように袖へと動かした。

 それと同時に、オペラオーの城のセットが半分、反対方向から現れる。オペラオーとドトウも一緒に現れた。

 

 

スイ「さぁ!!私の消滅魔法の時間よ!!」

 

 

 水晶玉をフジから受け取り、隣の机へと置いたスイープは、袖から大きな鍋を持ってくる。

 そこに、トカゲの尻尾(おもちゃ)。悪魔の目玉(おもちゃ)。カラスの羽(おもちゃ)を投入する。

 

 

フジ「.........コホ」

 

 

スイ「!ちょっと!魔法が失敗したらどうするのよ!!キセキ!!」

 

 

フジ「いやーごめんごめん、でも成功してるみたいだよ?」

 

 

 鍋を指差し、そう伝える彼女に反応してスイープは鍋に目をやる。そこには、先程の咳で仕掛けを作動させた鍋が、スモークを吹き出していた。

 

 

スイ「ふ、フン!!もちろん!!こんな程度で失敗する大魔法使いじゃないわ!!ここからもっと凄いことになるんだから!!」

 

 

オペ「ん?何だか嫌な予感が.........」

 

 

ドトウ「ふ、ふぇ〜!!?ど、どこからともなく煙が出てます〜!!?」

 

 

 魔法の準備の最中、オペラオーサイドの方にも動きが見られる。家事ではないか?そうパニックに陥る二人を尻目に、スイープはどんどん魔法を続けていく。

 

 

スイ「まずは金縛りの魔法よ!!」ポイッ!

 

 

オペ「っ!!?か、身体が動かない〜〜〜!!?♪」

 

 

ドトウ「わ、私もです〜.........!!?♪」

 

 

 何かのキューブを鍋に入れた瞬間。オペラオー達は金縛りにあったかのように微動だにしなくなる。若干ドトウがフラフラとしているが、遠目からは分からない。

 

 

スイ「次に!!棺の魔法!!」ポイッ!

 

 

オペ「ど、どこからともなく棺が.........!!?♪」

 

 

ドトウ「たたたた、大変です〜!!!♪」

 

 

 あまりにも危険な状態。それでもオペラを止めないのは、観客にこの世界の常識を知らせているのだろう。

 

 

スイ「次に引き寄せの魔法!!」

 

 

オペ「ひ、棺に呼び寄せられる!!?♪」

 

 

ドトウ「お、王様〜〜〜!!!♪」

 

 

 仕掛けが作動し、自動で開かれた棺の中に収まるよう入ったオペラオー。そして、両足がその中へ収まった瞬間、まるで意思を持ったように、棺の蓋は閉められる。

 

 

スイ「仕上げよ!!最後に消滅ぅ〜.........」

 

 

フジ「.........あっ!!!」

 

 

スイ「えっ!!?」ポチャン!!

 

 

 突然、声を上げるフジキセキに驚き、手に持っていたかき混ぜ棒を鍋の中に落としてしまう。

 その瞬間。棺の足元の隙間からスモークが溢れ出し、ドトウの金縛りが解ける。

 

 

ドトウ「お、王様!!!」ガチャ!!!

 

 

ドトウ「えっ.........?」

 

 

スイ「何よキセキ!!魔法が失敗しちゃったじゃない!!」

 

 

フジ「そういえば、今日の晩御飯どうするか決めてなくてね。何が食べたい?」

 

 

スイ「も〜〜〜!!!そんな場合じゃ.........あれ、居なくなってる?」

 

 

 オペラオーが姿を消し、ドトウもスイープもアワアワと慌て出すステージの上。唯一慌てていないのは、未だに夕飯の心配をしているフジキセキだけだろう。そのまま、ステージは暗転して行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「オペラパートとマジックショーは無事成功したな.........」

 

 

 ホッと胸を撫で下ろしながら、二つの難関を何とか突破することが出来たことに安堵する。

 

 

「ひぃ.........黒子って意外と忙しいのな.........」

 

 

 役目を終え、その黒い布を顔に垂らした帽子を取る神威。今回、大活躍してくれた一人だ。タイシンのライブの黒子も、この神威だ。

 

 

桜木「ああ、サンキューな創。ゆっくり休んでてくれ」

 

 

 ようし。あとは俺が頑張るだけだ.........そう思いながら、光が灯り始めたステージの方へと目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オペ「うぅ.........こ、ここは.........?」

 

 

 天からの照明が、ステージ上に伏していたオペラオーを照らす。ゆっくりと起き上がりながら、周りの様子を伺っている。

 

 

「みんなーーー!!!こーーんにーーーちわーーー!!!なのー!!!」

 

 

オペ「!!?」

 

 

 スポットライトがステージの端に灯ると、そこには装着型マイクをし、勝負服を着たアイネスフウジンが大きな声で挨拶していた。

 それに驚いたのはオペラオーだけではない。観客全体も、突然のことに驚きを隠せないでいる。

 

 

フウ「あれ?誰かいるなの?」

 

 

オペ「き、君は.........?」

 

 

フウ「あたしはアイネスフウジンって名前なの!!今日はヒーローショーの司会のお姉さんなの!!」

 

 

 ヒーローショー。オペラオーはその言葉に疑問を感じ、観客はその言葉に更に混乱を極めていた。先程までオペラをしていたのに、次はヒーローショー?一体この舞台の脚本家は何を考えているのだ?頭がイカれているのか?

 その脚本を作った人物はと言えば.........

 

 

桜木(あっ、オペラオーその動きは違うな.........フウジンも今セリフ忘れかけたな?)

 

 

 自分の平静を保つ為に素人では気付かない粗を探していた。とても普通の人間ではない。

 

 

フウ「けど.........もう時間なのに、裏にヒーローもヒールも居ないなの.........」

 

 

オペ「役者が居ないのかい?それは大変だ!!だったらこのボクが!!皆を照らすヒーローに「その必要は無いよ」っ、どこからか声が.........!!!」

 

 

 狼狽えるステージ上の二人。その視線はやがて、ステージ奥の壁の方へと向かう。すると、 そこにスクリーンが映し出され、ツギハギのメイクをしたアグネスタキオンが映り込む。

 

 

タキオン「やぁやぁ、どうやら。ヒーローショーのボイコットは成功したようだねぇ」

 

 

フウ「あ、アナタは!!?」

 

 

タキオン「私を知らないのかい?だったら教えてあげよう。私の名はアグネスタキオン。表向きにはトレセン学園の一生徒であるが、その実、日々怪人研究に専念している悪の博士さ」

 

 

 そう言いながら、彼女は自分で用意したフリップで説明をする。そこには学生服の横に矢印が書かれ、その先には白衣が集中線とともに書かれていた。

 

 

フウ「ど、どうしてボイコットなんか!!?」

 

 

タキオン「私は先祖代々から、悪の使命を受けていてね。一生に一度は悪事を働かなくては行けないのだよ」

 

 

オペ「あ、あのウマ娘は!!?」

 

 

 フリップを捲ると、彼女が一番下に来る相関図が出てくる。その頂点にはなんと、先程オペラオーをこの世界へ追いやったスイープトウショウの似顔絵があった。

 

 

オペ「こ、ここは未来の世界だったのか.........!!?」

 

 

タキオン「それともう一つ。このトレセン学園に潜入させた一人の怪人が、どうやら私を裏切り、のうのうとトレーナーをしているらしくてねぇ。そのお仕置も兼ねているのさ」

 

 

フウ「か、怪人がトレーナーを!!?」

 

 

 驚きの声を上げつつ、もしかしたら観客の中にその人物がいるかもしれない。アイネスフウジンは辺りを見回してその人物を探してみるが、そんな見分けなど着くわけもない。

 その姿を見て静かに笑うタキオンだったが、そのまますぐモニターの画面が写り変わる。

 

 

桜木『おい!!マジでどうしようもねぇ放送事故だ!!早くカメラ止め.........あぁ!!?なんでモニターに俺が!!?』

 

 

『ふふふ、我らから逃げられるとお思いで?』

 

 

 突然現れた怪人にカメラを向けると、そこには紫色の鎧のような外骨格を持つ存在がいた。

 そしてそれは、桜木の体を掴むと、スタジオの外へと連れ出して行く。

 

 

オペ「ま、まさか彼が.........」

 

 

タキオン「そうとも、裏切り者さ」

 

 

フウ「う、嘘なの!!桜木トレーナーさんは真面目な人じゃないけど!!立派なトレーナーさんなの!!!」

 

 

 モニターの画面がタキオンに戻り、嘲笑うような笑顔を全てに向ける。走行している内に、下手側からバランスを崩しながらも登場する桜木が現れた。

 

 

桜木「クソっ!!どうなってんだマジで!!!」

 

 

タキオン「随分久しぶりだねぇ。[トレーナー]くん?」

 

 

桜木「っ、アグネス.........タキオン.........っ!」

 

 

 投影されたそれを、膝をつきながら見上げる桜木。その顔は観客からは見えないものの、その声から想像にかたくないものだと思える。

 実際、彼は苦虫を髪潰すような顔をしていた。それを見て、タキオンはその目を細め、冷酷な表情を浮かべる。

 

 

タキオン「何故、私を裏切ったんだい?」

 

 

桜木「.........なんのことだ?」

 

 

タキオン「とぼけても無駄だよ。証拠は上がっているんだ」

 

 

 彼女がそう言うと、またモニターの画面が写り変わる。今度はなんだ?観客がそう思っていると、そのスクリーンにはスマホで撮影されたような映像が出てきた。

 そして、そこはこの舞台。体育館と同じ場所で、舞台の教壇には、桜木の姿があった。

 

 

桜木『遊びは終わりだ』

 

 

フウ「えぇ.........?」

 

 

桜木「くっ.........」

 

 

 その映像は以前、桜木が講和会をした際の映像であった。彼が注目を集め、生徒を楽しませたヒーローショーであった。

 その一部始終が映し出され、彼が怪人に返信した際には最早、言い逃れは出来ないものであった。

 

 

タキオン「理解していただけたかい?つまり、彼こそ私の。トレセン学園を乗っ取るという計画の裏切り者であったと言うわけなのだよ」

 

 

タキオン「そんな君がなぜ、私を裏切り、のうのうと、トレーナーの真似事をしているんだ?」

 

 

桜木「.........へっ、決まってんだろ?そっちに居るより、こっちの方が楽しいんだよ」

 

 

タキオン「そうかいそうかい。その楽しい生活に終止符を打つことになるとは、可哀想だが、裏切った罰は与えないとねぇ?」

 

 

 フリップを机から退け、その指を鳴らすタキオン。それを合図に、上手側下手側からわらわらと溢れ出す怪人。遂に桜木達一行は、その怪人達に囲まれてしまった。

 

 

オペ「くっ、どこか知らない場所に来たと思ったら、今度はよく分からない者に囲まれてしまっている!!」

 

 

桜木「災難だったなアンタ、正直同情.........」

 

 

オペラ「ああ!!これも全て!!ボクという美しい存在を輝かせる為の髪の試練!!というわけなんだね!!」

 

 

桜木「.........元気そうでなによりだよ」

 

 

 背中合わせで桜木とオペラオーは、囲んでくる敵に相対する。アイネスフウジンはおろおろとしながら、巻き込まれないようキョロキョロと様子を伺っていた。

 桜木を連れてきた敵の親玉らしき存在が手を振りかざすと、一斉に中心に向かって行く。そのシーンに観客はまさに、息を呑んだ。

 

 

桜木「チッ、こなくそぉッッ!!!」

 

 

オペ「ボクは愛を持って戦おう!!戦奏序曲!!ウーノ・カンツォーネッッ!!!」

 

 

 合図を皮切りに次々と押し寄せてくる手下達。桜木はそれを荒々しく、オペラオーはまるでオペラをするように歌を歌い、踊りを踊るような動きで捌いて行く。

 手下の一人を持ち上げ、ジャイアントスイングの容量で周りの敵をぶっ飛ばした後、オペラオーが杖を地面に突き、歌声を上げると、魔法の演出が壁に映し出され、手下達は袖へと帰って行く。

 

 

「フン、やはり雑魚ではダメか」

 

 

桜木「あとはお前さえ倒せば、俺の平穏は戻ってくんだな?」

 

 

「倒せればの話だ」ブンッ!

 

 

 親玉怪人は背中に生えた突起物を引き抜いた。それは持ち手の先に鋭利な刃が着いた剣であった。流石の桜木も、それには声を詰まらせる。

 

 

「変身しないのか?」

 

 

桜木「バッキャロー、俺ァ人間だっての!!」

 

 

「怪人としてのプライドも失ったか!!」

 

 

 相手を真っ二つにするのに躊躇はない。傍から見てもそう思わせるほど、怪人はそれを思い切り縦に振った。桜木はそれを避けつつ、距離が離れないよう重心を調整し、足を運んで元の距離を保つ。

 

 

「ほう、なかなかやるな」

 

 

桜木「お褒めに預かり光栄ですよ.........っと!!!」

 

 

「っ!!?」

 

 

 姿勢を屈みつつ、上半身を振り子のように下から上へと動かす推進力の力と地面を蹴る足の力を使い、相手に向かって跳躍しながら、片足をまるで鞭の様にしならせながら蹴りつける。

 

 

桜木(へっ、どうだ黒津木。本場のヒットマンにも通用する蹴り技だぜ.........!!)

 

 

黒津木(うおおマジか!!?ここでアドリブ攻撃かよ!!!即興殺陣ごっこしてなかったら真面目に終わってたぞ!!!)

 

 

 間一髪、怪人側はその蹴りを喰らわずに済んだものの、その蹴り技を見た観客は度肝を抜かれていた。

 

 

桜木「けっ、埒があかねぇ.........アイツの言う通りにするのは嫌だが、怪人になるっきゃねぇな.........!!」

 

 

オペ「くっ、嫌な気配が彼の身体から.........」

 

 

フウ「どうなっちゃうなのー!!?」

 

 

 突如としてスモークが発生する舞台。またもや現れたスクリーンには桜木が怪人へと変貌していく過程が映し出され、人々はそこに注目を集める。

 その間、ステージの中央で堂々ながらも、静かにスーツを装着する桜木。スクリーンが消え、怪人。バッタルメットが再びこの世界に姿を見せた。

 

 

桜木「この姿になったからには.........容赦は出来ねぇぞ」

 

 

「それで良い。「こちらも本気で行かせてもらう」」

 

 

三人「なっ.........!!?」

 

 

 途中からエコーのように声が重なる親玉の怪人。もう一方の声に振り向いてみると、なんともう一体。瓜二つの姿をした怪人が、反対方向から現れた。

 

 

「「我が名はニドキリマル。貴様の命とその一生。切らせてもらう」」

 

 

桜木「くっ!!」

 

 

 二体の怪人に追い詰められる桜木。何とか刃は避けているものの、その先に拳や蹴りを放たれ、徐々に体力を奪っていく。

 その攻撃に巻き込まれないよう、二人は少し遠巻きでその戦いを見守っていた。

 

 

フウ「あわわわ!ま、負けちゃいそうなのー!!」

 

 

オペ「ぱ、パワーが違いすぎる.........ボクの出る幕じゃ.........いや.........?」

 

 

フウ「な、何かあるなの!!?」

 

 

オペラ「ボクがオペラの王になった際。究極オペラ魔法として教えられた魔法がある。今はもう、祭壇に捧げる為だけの物と風化してしまっていたが、もしかして.........」

 

 

 深く考えをめぐらせ、どうするかを思考するオペラオー。そうしている間にも、桜木は二人のニドキリマルに攻撃されていく。

 そして、敵の怪人にぶっ飛ばされ、奥の壁に激突し、倒れ伏した桜木の姿を見て、オペラオーは一か八かの賭けにでた。

 

 

「「終わりだ。裏切り者よ」」

 

 

オペ「やるしかない.........!!天演十奏ッッ!!!レリナト・カンツォーネッッ!!!」

 

 

 そう宣言しながらステージの中央へと躍り出るオペラオー。その美しい歌声と共に、神々しい楽器の演奏がどこからともなく聞こえてくる。

 何かが起きる。観客にそう予感させるほど、ステージ上は静かに、そして確かに、その危機的な雰囲気を徐々に移し替えて行った。

 その歌が終わる頃。またもやスモークが張られ始める。ステージ全てを包み込み、全ての役者の動きを止める。ただ一人を除いて。

 

 

桜木「.........」

 

 

 フラフラと立ち上がりながら、足取りの覚束無いまま、彼もまた、ステージの中央前へと出てくる。しかし、その怪人の外装の一部分が一つ、また一つとはげ落ちていく。

 だが、その部分から見えるのは皮膚ではなく、また別のスーツであった。黒を基調とし、身体の、関節の節々に筋肉のような筋を見せる黒き存在。

 スモークが晴れたその時、ステージ上にいるもの全員が、徐々に変貌していく姿に驚く

 

 

「「な、何が起こっている.........!!?」」

 

 

オペ「お、大きな赤い目.........!!?」

 

 

フウ「ひ、左胸に何か書いてあるなの.........!!?」

 

 

 怪人としての外側が全て外れ落ちたその時。今度はその桜木の纏った黒い外骨格からスモークが吹き出される。

 その姿は、正しく、日本男児ならば誰もが知っているであろう、ヒーローの姿そのものであった。

 

 

桜木「.........っ!」グッ!

 

 

 右手で作った拳を、顔の横に移動させ、手刀を作った左腕で、右腕の前腕と前からクロスさせる。

 

 

桜木「仮面ライダーッッ!!!」シュパッ!

 

 

 手刀を作った左手を拳にし、腰の横に移動させるのと同時に、今度は右手を手刀にし、斜めに切り下ろす。そして、もう一度元の位置に切り上げながら、その戦士の名を、高らかに叫んだ。

 

 

桜木「BLACKッッ!!!」グッ!

 

 

「「.........ククク、何を言うかと思えば、仮面ライダーだと?笑わせるな。怪人であるお前が、ライダーなんぞになれるものか!!」」

 

 

桜木「なんだ、知らねぇのか.........?」

 

 

「.........?」

 

 

 唐突な問いかけ。その突然の問いかけに、この場にいる誰もが首を傾げる。さもそれは常識のように、彼が口を開いたからだ。

 だが、その答えは誰からも出てこない。それを鼻で笑いながら、桜木はその答えを提示した。

 

 

桜木「日本男児は皆、生まれた時から仮面ライダーなんだぜ?」

 

 

「「貴様は.........何を言ってるのだ.........!!?」」

 

 

桜木「分からないなら分からないまんまでいいんだよッ!とぅあッッ!!!」

 

 

 怪人達の方へと跳躍し、接近する桜木、もとい、仮面ライダーブラック。戸惑いながらも距離を取る怪人達だが、やらなければやられる。そう思ったのだろう。せっかく取った距離を自ら縮めに行く。

 剣を見事なコンビネーションで繰り出してみせるも、片方には持ち手にフック。もう片方には足裏で蹴るようにして弾く戦士は、正に子供たちを熱狂させるヒーローそのものであった。

 

 

桜木「そんなものッ!俺゛に゛は゛通゛用゛し゛な゛い゛ッッ!!!(絶対的説得力)」

 

 

「「くっ!図に乗るなァ!!!」」ブンッ!

 

 

 先程の連携が聞かなかったはずだが、怪人達は凝りもせず同じように剣をライダーに向けて振りかざす。それに応えるように、ライダーも構えをとり、迎撃の体制に入った。

 今度は片方の手を掴み、攻撃を受け止めながら、突っ込んできた片割れの腹部に蹴りを入れる。それが後ろに下がったのを見てから、掴んだ方の怪人に拳を浴びせる。

 よろけている隙を突き、もう一度中央の奥へと軽快に移動するライダー。それを追うようにして怪人達は二手になるも、ライダーは観客側に向けて、ベルトに両手を添える。

 

 

桜木「キングストーンフラッシュッッ!!!」

 

 

「「か、身体が.........!!?」」

 

 

オペ「凄い!!二人の身体の動きを止めてしまった!!」

 

 

 天井から赤いレーザー照明が照らされ、怪人達は身動きが取れなくなる。ライダーはそこからまた真横に移動し、高く跳躍してみせる。

 

 

桜木「ライダーッ!パンチッッ!!!」

 

 

「ぐぬぉ!!?」

 

 

 普通では考えられない、頭を下に、足を上にしながらの落下。その先に突き出された拳には、落下の速度と全体重が乗せられている。

 しかし、ニドキリマルは体を間一髪で動かし、剣を犠牲にしその身を何とか守る。

 

 

桜木「くっ!ライダーッ!キックッッ!!!」

 

 

「させるかッ!」ズバッ!

 

 

桜木「うおぉ!!?」

 

 

 飛び上がり、重力の力と蹴り出す力の作用が働く飛び蹴りを喰らわそうとしたその時、攻撃していない方のニドキリマルが動き出し、ライダーの身体を切り付けることでその攻撃を阻止する。

 体制を崩しながらも、受身を取りながら体制を立て直すライダー。その顔は仮面で分からないながらも、苦虫を噛み潰しているのが観客にも分かる。

 

 

桜木「倒せそうではあるが、あの剣をどうにかしなくちゃな.........武器が欲しいところだぜ.........!」

 

 

オペラ「!ならばこれを使うといい!ボクが 王座に着いた際、先代から譲り受けた魔法の杖だ!!」ポイッ!

 

 

桜木「っ!でかした!!!」

 

 

 きらびやかな装飾が施された地面から腰の高さまである長い杖。よくある魔法の杖のような先端になにか着いているようなものではなく、持ち手の部分に魔力を貯めるような宝石が内蔵されている。

 その杖を試すように一振りし、充分戦えると感じたライダーは、怪人達へと突撃していく。

 

 

桜木「リ゛ボル゛ケ゛イ゛ン゛ッッ!!!」

 

 

「「な、なにィ!!?」」

 

 

 今できる必殺技ではないが、観客達は特に違和感を感じてはいない。この世界観の勢いのせいなのか、それともBLACK特有の可能性のせいなのか。

 怖気ながらも、二人の怪人はまたコンビネーションでその剣を振るう。それを王の杖できり払いながら、二人の怪人を一列に並べさせた。

 

 

桜木「っ!0.1秒の隙がある!!!そこだァァァ!!!」

 

 

「「ぐぉぉぉぉ.........!!?」」

 

 

オペラ「や、やった!!!」

 

 

フウ「す、すごいなの!!!」

 

 

 観客が横から見れるよう、二人をまとめてその杖で貫くように見せるライダー。その後、激しく抵抗を見せるものの、ブラックはそれを許すことなく、二人をステージの奥へと追いやって行く。

 観客に背を向けている状態でスローモーション気味に杖を引き抜き、振り向きながら下から上へと切り上げる。その後、杖を回転させながら両手を上の方でクロスさせ、先程の切り上げと逆方向に切り下げる。

 その軌道はアルファベットのXを人々に想起させながら、彼は一度見れば、誰もが忘れないポーズを取った。

 

 

 一欠

 

 

「「ぐおぉぉ.........ら、ライダー.........!!!」」バタッ!

 

 

 二人の怪人が倒れ伏したその瞬間。場面は暗転し、爆発音だけが辺りに響く。

 しばらくの間、その轟音の余韻を観客は感じながら、暗転が開けるのを待った。

 爆発音の余韻すら無くなったその時、ステージは光を取り戻す。そこには変身を解いた桜木、オペラオーとフウジン。そして、モニターに映るアグネスタキオンの姿があった。

 

 

桜木「どうだ!俺はもう戻らねぇぞ!!」

 

 

タキオン「ふぅン。非常に残念だが、今の君を連れ戻すには少々骨が折れるねぇ。一族に課せられた一世一代の大悪事もやり終えた事だし、私はもう君には関わらないようにしよう」

 

 

桜木「困ったら電話しろよ」

 

 

タキオン「分かった」

 

 

 先程までの空気とは打って変わり、シュールな空気が場を包む。そのやり取りに、観客は静かに笑い声を漏らした。

 モニターは消え、タキオンはステージから姿を消す。ようやくひと段落した。そう感じた桜木はため息を吐き、手に持った杖をオペラオーへと返した。

 

 

桜木「サンキューな、お前のおかげで何とかすることが出来た」

 

 

オペラ「別に構わないさ!!ボクの時代に戻った暁には!君の存在を伝説に刻もう!」

 

 

フウ「ヒーローショーは出来なかったけど、桜木トレーナーさんのお陰で、子供達も喜んでくれたはずなの!!そうだよねー!!」

 

 

「はーい!!!」

 

 

 視界のお姉さんであるフウジンが返事を促すと、観客達は肯定の声を上げた。それを見て、桜木達は嬉しそうに笑顔を向ける。

 その時、黒子が袖から、棺桶を押しながら登場してくる。それを見て、ステージにいる者はギョッとした表情を見せた。

 

 

桜木「な、なんだアレ!!?」

 

 

オペラ「あ、あれはボクがこの世界に飛ばされた時に吸い込まれた棺桶だ!!!」

 

 

フウ「えぇ!!?」

 

 

オペラ「くっ、また吸い込まれてしまう〜〜〜!!!」

 

 

 咄嗟に手を伸ばした桜木だったが、間に合わずに棺桶へと吸い込まれていくオペラオー。またもや自動的に蓋が閉じられ、黒子がそれを袖へと運んで行く。

 その様子を静かに見ながら、桜木とフウジンは唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オペラ「んん.........?また飛ばされてしまったのか.........?」

 

 

ドトウ「王様〜〜〜!!!良がっだでず〜〜〜」ズビー

 

 

オペラ「ど、ドトウ!!?という事は.........!!!」

 

 

 うつ伏せで倒れていたオペラオーが、ドトウの声を聞いて勢いよく飛び起きる。辺りを見回すと、そこはきらびやかな城の一室であった。

 

 

オペラ「だ、だけどどうやって?」

 

 

ドトウ「悪い魔法使いさんは私がお説教しました〜〜〜」フェーン!

 

 

スイ「ご、ごめんなさい.........」グスッ

 

 

オペラ「あ、あぁ.........」

 

 

 部屋の端っこで涙を拭うスイープ。それを見て、ドトウの秘められた行動力の高さに若干恐怖を感じたオペラオーではあったが、自分を心配してくれた彼女に対して、そして普通では体験出来ないようなことを体験させてくれたスイープに対して、感謝の言葉を贈る。

 

 

オペラ「そうだ!!ボクが見てきた世界の事をオペラにしよう!!」

 

 

スイ「えぇ!!?い、嫌よ!!歌も踊りも疲れちゃうんだから!!」

 

 

フジ「そうは言うけど、実際の所はみんなとやりたいんじゃないの?夜に一人で台本読んでるの知ってるよ?」

 

 

スイ「っ!!?そ、それは.........」

 

 

 今まで隠していたことが明るみになり、顔を赤くするスイープ。その姿を見て、最初に笑ったのはオペラオーだった。それを皮切りに、舞台に上がっている子達が笑い声を上げる。

 スイープの手を引き、最初の明るい雰囲気のまま、袖へと出ていく四人。そのまま幕は下ろされ、終了していく。観客は皆そう思っていた。

 

 

「こうして、王様は無事、元の世界へと戻ることが出来ました」

 

 

「恥ずかしがり屋さんだった魔法使いさんも、これからはお友達と楽しく、平和に暮らしました」

 

 

「そして、この国に一つ。伝承が増えました」

 

 

「どんなに悪者でも、変わることが出来れば、正義の味方になることが出来る」

 

 

「そんな人を、この国の人達は[仮面ライダー]と呼ぶのでした」

 

 

「めでたし、めでたし.........」

 

 

 最後に、ライスシャワーのナレーションで締められた劇。観客側の方の照明が着く前に、彼ら彼女らはその手の叩く音を、出演者に向けて放ち始めた。

 そして、それはあかりが着いてからも鳴り止まないほど、多くの人々が、この世界観に魅入られていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「いぃぃぃぃやったァァァァァ!!!!!!!」

 

 

黒津木「お疲れ様よほんと」

 

 

 ファン感謝祭用に設けられたスタッフ休憩室で、俺は飛び跳ねながら歓喜に心を震わせた。

 やっと.........!!!やっと開放されたんや!!!ワイは自由や!!!ここが家だったらもう服とかパンツとか脱いでまうところやった!!!

 と、心の中でエセ関西弁を操りながら、ベンチにどっしりと体重を任せる。

 

 

桜木「っ.........づぁぁぁぁ.........」ヘト

 

 

白銀「ういぃ、おつかれちゃん」

 

 

神威「おら、ジュース買ってきてやったぞ」

 

 

 壁に背中を貼り付けていると、空いた扉の先にいつもの奴らが現れる。こうして俺の日常は帰ってくるわけだ。

 長いようで短かった。苦しくもあったが、まぁ楽しかったとでも言っておこう。そう思いながら、俺は神威が手に持っているコーラに手を伸ばした。

 

 

白銀「そういや、閉会式の時なんかやんのか?」

 

 

神威「さぁ?」

 

 

桜木「ああ、タイシン達が最後また歌ってくれっからよ。これは、ファン感謝祭大成功と言っても間違いなしだな」

 

 

黒津木「.........んー、最後になーんか、トラブりそうな予感が.........」

 

 

 ないない、そう言いながら、俺はペットボトルの蓋を開け、炭酸特有の気の抜ける音を聞いてから口を着けた。ヘトヘトの体に糖分が染み渡る感触。なるほど。これは確かにマックイーンが甘さを求める欲望にもうなずける。

 

 

桜木「っぷは、大体よぉ?お前ら俺の事年中大殺界とか言っちゃうわけだけど?現にこうして跳ね除けてますから?ナメてんじゃねぇぞ」

 

 

白銀「腕のいい詐欺師紹介しとくわ」

 

 

神威「占い師じゃねぇのかよ」

 

 

黒津木「.........おっ、玲皇。内線で電話来てる」

 

 

 いつものような軽口の言い合いに発展する前に、俺の尻からカノンのメロディが流れてくる。まぁ、せいぜい迷子の連絡だろう。俺はそう思い、その電話に出た。

 

 

桜木「もしもし桜木です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、俺は嫌という程思い知った。年中大殺界などではない。俺は、一生大殺界なのだと.........

 

 

桜木「えぇ.........!!?」

 

 

 電話の先から聞こえてくる大きな泣き声。涙と嗚咽が混じりながら流れてくるそのトラブルの情報に、俺はもう、平常時の自分の運を信用しない事を固く、胸に誓った.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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