山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マックイーン「私、怖いんです......」

 

 

 

 

 

マック「.........ふぅ」

 

 

 多くの記者の方々が集まる会場。その袖で、私は緊張を吐き出すよう、肺から空気を抜きます。

 これまで、ここには幾度となくたってきた気がしますのに、なぜか今日はいつも以上に緊張してしまいます。けれど、その理由は既にわかっています。

 

 

テイオー「ねぇマックイーン!!こうやってみんなが話題にしてると、なんだか本当に対決する実感が湧いてくるよね♪」

 

 

マック「.........えぇ、本当に、そうですわね.........」

 

 

 彼女が居る。今回の天皇賞には、三冠を無敗で制覇したトウカイテイオーが居る。そのプレッシャーが、何よりも大きい理由だと分かります。

 世間の期待。どちらが勝つか負けるか、正に世紀の大決戦だと、嫌でも思い知らされます。

 

 

マック(それでも、私は負けられない.........!)

 

 

 自分の中に存在する弱さに見て見ぬふりをして、自らを奮い立たせる。そうしなければ、彼女に勝つことは出来ない。そんな事を思ってしまうほど、今の私は不安定でした。

 

 

桜木「.........なぁ、マックイーン」

 

 

マック「!.........トレーナーさん.........」

 

 

 背後から掛けられた彼の声。それに振り返ることはせず、私は彼を呼ぶことで反応を示します。

 怖かったのです。彼の今の表情がもし、不安で覆われてしまっていたら.........折角作り上げた虚勢が、全て取り払われてしまう。

 本当、彼のおかけでもあり、彼のせいでもあると思います。ここまで私が本心を顔に出せるようになってしまいました。

 

 

桜木「肩の力、抜けてないぞ」

 

 

マック「.........ご指摘。ありがとうございます」

 

 

桜木「.........不安、だよな」

 

 

 その言葉を聞いて、私は視線を少し、テイオーの方にずらします。彼女は今。集まっている人達に意識が向いているようでした。

 .........正直。助かりました。虚勢を張るだけでもう、精神が疲弊しているのを感じていたからです。

 

 

マック「不安です。けれど、やってみなければ分からない事もあります。幸い距離は私の適正。いくらテイオーと言えども.........」

 

 

桜木「俺が聞きたいのはそうじゃない。君は今。怖いか?」

 

 

 .........酷い人です。そんなの、貴方が一番分かっているのではありませんか?その怒りを伝えようと彼の顔を初めて見ました。

 そこには、不安そうな顔は一切ありません。そこにあるのは、強い意志を感じる、彼の真面目な顔。そんな顔をされると、何も隠せなくなってしまいます。

 

 

マック「.........怖いに、決まってるじゃありませんか.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「.........笑ってください。いつもの私らしくないと、言えばいいではありませんか.........!!」

 

 

 私は彼に、そう、自分を責めるよう言いました。普段であるならば、どんなレースだろうと関係なく、勝つ気持ちでそれに臨みます。

 でも今回は.........そう行かないんです。心がもう、怖気付いているのです。彼女の立ち上がった姿を見たあの日から。あの、三本指を掲げた、あの日から.........!

 それでも彼はその表情を崩すことはありません。最近はもう慣れてきた、彼の厳しさが、私の背筋を正してきます。

 

 

桜木「俺は、トレーナーだ」

 

 

マック「知っています」

 

 

桜木「チームのトレーナーではあるけど、君のトレーナーだ」

 

 

マック「.........存じて、おります」

 

 

桜木「俺は君の隣を走ることは出来ない。レース中に君に出来ることは、信じることしか出来ない」

 

 

桜木「それでもレースの前ならなんだってできる。だから、遠慮せずに頼ってくれ」

 

 

 .........本当、不思議な人です。優しいと思ったら厳しくなって、厳しいと思ったら優しくなる。まるで、飴と鞭で躾られているようです。

 けれど、その飴のような甘さも、鞭のような苦さも、とても安心してしまう。それはきっと、彼が本心で私とぶつかってくれるから.........

 彼のことを考えている内に、自然と肩の力は抜けていました。スズカさんと話し終えた時に走ったあの時と、まるで同じように身体が軽く感じてしまいます。

 

 

「トウカイテイオーさん!メジロマックイーンさん!そろそろ時間です!」

 

 

テイオー「はーい!!ほら行こ!マックイーン!!」

 

 

マック「ありがとうございます。トレーナーさん。どうしても辛くなったら言いますから、その時はお願いしますわね」

 

 

桜木「ああ!どんとこいっ!」

 

 

 彼は胸を張りながら、作った拳をそこに叩きました。その表情は私を安心させるように、ニカッとした、なんとでもしてしまうような笑顔でした。

 彼女に対する恐怖心も、勝てないかもしれないという弱い自分も、気付けば小さくなっていました。

 ずるい人です。いつだってその笑顔と強引さで、私達を連れ回して、事情を引っ掻き回して、有耶無耶にして、往くべき道を綺麗にしてしまうとんでもない人。

 そんな彼に.........いつも助けられっぱなし。気がつけばそんな彼に決して小さくない感情を抱いている。それが弱さかどうかはまだ、定かではありません。

 けれど.........一つだけ確かなことがあります。それは、その感情は決して、悪いものでは無いと言うこと。そして、いつか私を支える、強さになるという予感がありました。

 

 

マック「.........では、言って参りますわね、トレーナーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メジロ婆「.........」

 

 

「トウカイテイオーさん、初めてのTM対決ということで日本中盛り上がっておりますが、意気込みを聞かせて貰えますか?」

 

 

 春の天皇賞を迎える季節。年の始まり、出会いの始まり、新たな挑戦の始まり。色々な門出の時期。それは、日本に住んでいる者ならば例外なく、誰にでも感じられる物です。

 ここ、メジロ家では今しがた執り行われている春の天皇賞のインタビューを、家の者と見ていました。

 

 

テイオー「ボクは今までに負けた事が無いからね♪マックイーンが相手でも、絶対に勝つよ!♪」グッ

 

 

 テレビに映る二人の少女。私から見て右側にいるのは、昨年。骨折という大きい壁を乗り越え、見事無敗の三冠に輝いたトウカイテイオーというウマ娘。

 誰がどう見ても、彼女が出走する天皇賞。マックイーンにとっては一筋縄では行かない。去年のように、一着だけに意識を向けることは出来ないでしょう。

 もし、テイオーという子が、同じタイミングでデビューを果たしていたのなら、勝利はできたかも知れません。

 マックイーンにとって初めての天皇賞ということもあり、意識はレースに勝つことだけに向いたでしょう。

 ですが、一度勝ってしまっているレース。無意識の内に、彼女を意識してしまっている可能性もあります。

 

 

爺や「.........お嬢様」

 

 

 彼女の付き人である爺やが、不安そうな声を出します。レースに知識がある者達は全員、どうやら私と同じ心境のようです。

 

 

「メジロマックイーンさん!前回の春の天皇賞も勝っています!今年はどうですか?」

 

 

マック「.........」

 

 

 その言葉に対し、彼女は普段通りの落ち着きを見せ、そのマイクを口元に近付けました。もしかすると彼女は、私達が考えているような状況に陥っていないのかも知れません。

 

 

マック「正直に言ってしまえば、どうなるか。私にも分かりません」

 

 

マック「それでも全力を尽くすまでです。[ジャックポットを狙う]様な一つに絞ることはせず、全てを掛けて。テイオーや他のウマ娘達に勝ちに行きます」

 

 

メジロ婆「.........!」

 

 

 そう、力強く宣言する彼女の姿は、一年前の春と同じく、才能や力が中心となって居ない彼女が居た。

 もし、ここでトウカイテイオーと張り合うようなインタビューをしていたのなら叱ろうとも思っていましたが.........要らぬ心配だったようです。

 

 

爺や「.........おじい様を、思い出されますな」

 

 

メジロ婆「えぇ、彼女は私と似ている。そんな彼女に、おじい様に似ているトレーナーが付いてくれて、安心しました」

 

 

 そう思っていると、今度は二人のトレーナーにインタビューのマイクが回っていきました。

 先程と同じ質問を記者からされるお二人。この桜木トレーナーも沖野トレーナーも、どちらも面白い方です。どんな言葉が聞けるのでしょう―――

 

 

沖野「テイオーは地の果てまで走って行けるぞ!!!なっ!!?テイオー!!!」

 

 

テイオー「え、う、うん.........」

 

 

桜木「だったらこっちは天まで翔けちゃうもんね!!!そうだろマックイーン!!?」

 

 

マック「え、え、えぇ.........」

 

 

桜木「はい!!!空走れるマックイーンの方が凄いからマックイーンの勝ちね!!!沖野さんの負けー!!!」

 

 

沖野「はァ!!?負けてないんだが!!?」

 

 

爺や「.........おじい様よりかは、いささか若すぎる気もしますが.........」

 

 

メジロ婆「.........」

 

 

 まるで、あの子達の代わりにと言うようにお互いに意識し合うトレーナー達。あまりに大人気なさすぎて、逆にあの子達が引き気味ではありませんか。

 .........でも、そういう変に子供のような所が、あの子に良い影響を与えているのかもしれません。

 

 

「「マックイーン(テイオー)が絶対勝つぞ!!!」」

 

 

 みっともない意地の張り合いを、全国に向けて発信されていると思うと、思わず笑いが零れてしまいます。それはどうやら、他の者達も同じようで、一種の緊張状態であったメジロ家は無くなり、普段の暖かさが感じられるようになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「はァっ、はァっ!」

 

 

桜木(身体の動きが以前より自然的な物から離れてる.........けど、加速力も持久力もあの頃よりは上がっているな.........)

 

 

 ターフが広がる学園のグラウンド。そこでは先日のように、夕方の自主トレーニングをしているマックイーンの様子を、静かに見守っていた。

 試行錯誤の中、彼女は彼女なりの走り方を見つけて行く。問題があればそれを訂正し、進む方向性を教えていくを繰り返した結果だ。俺の力もあると思うが、それを見つけて行くのは彼女の力だ。

 

 

桜木(.........ライスやブルボンはクラシック級。ウララとタキオンはデビュー。俺のチームも、随分大きくなったもんだ)

 

 

 思い返せば、俺のしてきた事は微々たる物だ。それでも彼女達は、その俺の小さな力を十二分に吸収し、成長して行ってくれている。

 人に夢を聞かれれば、俺は彼女達の行く末を見ることと言うだろう。だがそれはきっと、俺の夢なんかじゃない。俺だけの、夢じゃない。

 多分、これは人の夢だ。他の誰かの夢に勝手に乗って、自分で走った気になっているだけなんだ。彼女達の行く末が見たいというのもきっと、彼女達の夢があってのことなんだ。

 

 

「考え事か」

 

 

桜木「.........ニコ、レポートは書いたのか?」

 

 

ニコロ「これからだ。お前はどうなんだ」

 

 

 海外研修生としてやってきたニコロ。彼はここでみにつけた技術や知識をレポートにし、本国のトレセン学園に提出するよう義務付けされている。

 天に広がる晴天に目を向けながら、俺は考えた。俺の方は果たして、なにか進んでいるのだろうか?自分の中から出てきた答えは、否定であった。

 

 

桜木「.........さあな、走ってる感じはするのに、何故か前に進んだ気がしない。ランニングマシーンに乗せられてるみたいだ」

 

 

桜木「.........お前、夢はあるのか?」

 

 

ニコロ「.........」

 

 

 俺は先の見えない、周りが変わらない景色にうんざりしていた。なんど自分の中で問答しても、帰ってくる答えはどうも他人行儀の他人事。そんな事を繰り返せば、いつしか自分が偽りだらけになってしまう。

 俺もだいぶ、弱くなってしまったようだ。こんな所で人に頼るだなんて、昔の俺が見たらかっこ悪いと思っただろう。実際、俺もそう思っている。

 それでも俺は、また手を伸ばしてしまった。どうしようもない程気が付けば追い詰められていて、手を伸ばしてきたアイツに、今度は俺が手を伸ばしていた。

 

 

ニコロ「.........[門]だ」

 

 

桜木「門.........?」

 

 

ニコロ「世界の扉であろうその門に。俺は用がある。夢で見た景色の意味を問う為に」

 

 

 ターフに一つ、風が吹いた。その風は、アグネスタキオンの熱を感じた、あの夢の中の熱風とは少し、違っていた。

 その風は俺を撫でた。磨くように、身体の表面を撫でて来た。鼻をくすぐる匂いは、どこまでも広がる草原のようで、心が踊った。

 奴が言った門とは、恐らく。俺の知っている門だろう。日本にいる誰しもが待ち望みながらも、未だ一人として、辿り着いたものは居ない栄光。

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「ふぅっ.........?」

 

 

 その栄光までの道のりは果てしなく遠い。一人では、いや、きっと二人でも苦しいに違いない。

 それでも俺は彼女を見た。見てしまった。受け取った視線に少し困惑しながらも、手を振って反応してくれる彼女を見て、それは確信に変わった。

 

 

桜木(ああ.........やっぱり、夢なんだな)

 

 

 いつしかひとりではなくなった。いつしかもう一人が夢に変わっていた。ただそれだけだった。ただ、それはあまりにも大きな変化だった。

 二人でも辛く、険しい道のり。だがそれは、[普通の二人]。普通のトレーナーと、ウマ娘であったのならの話だ。

 [一心同体]。俺と彼女がその二つの身体に、一つの想いを重ねている。そんな彼女に、俺は強い期待。願望を抱いてしまっている。

 

 

ニコロ「.........貴様はどうなんだ」

 

 

桜木「.........フフ」

 

 

 目の前にいる男に言葉を言おうとして思わず、その出かけた言葉に笑ってしまった。これでは本当に、あの子の事しか見てないじゃないか。

 けれど.........それが事実だ。俺にとってあの子は、そう。それ以外の何物でもないんだ。

 

 

桜木「.........あの子だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子が、メジロマックイーンが、俺の夢そのものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今思えば、最初から予感はあったのかもしれない。ただ気になっただけで、いつものお人好しで声を掛けた。そう思っていた。

 けれど蓋を開けてみればどうだ?彼女は強かった。俺が何かをするまでもなく、彼女は強くなり続けた。

 そのひたむきな、目標に対する努力が、誇り高きメジロのウマ娘であろうという姿が、いつしか俺の中で、憧れに近しい何かになっていた。

 

 

桜木「あの子が居るなら、俺は頑張れるのさ」

 

 

 その憧れという感情をいつしか、理解にする為、彼女の凛々しい立ち姿の隣に居ても、様になる為に、俺は頑張ることが出来る。

 

 

桜木(.........そうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺.........ちゃんと[トレーナー]になりたいんだ.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく、胸の内にあった焦燥感が、その存在を消した。俺はやっと、自分の夢に気付く事が出来たんだ。

 誰かが叶える夢。その夢を叶えた誰かの隣に居ても、見劣りしない、自分を卑下しない様な男になりたい。

 例えそれが、誰であろうとも、彼女であろうとも、誰かと共に歩んだトレーナーであると、自信を持って、虚勢ではない胸を張りたい。

 

 

桜木「.........俺もいつか、お前の夢に辿り着く」

 

 

ニコロ「!」

 

 

桜木「俺が、俺で良かったと思う為に、紛い物なんかじゃねぇって、証明する為に」

 

 

 誰かが俺に言った。[トレーナーもどき]という言葉。今それを使う人は、ここには[俺以外]には居ない。

 俺は今でも、自分はトレーナーを出来ていないと思っている。それは、俺が胸を張って彼女達を育てていると言えないからだ。

 俺はきっかけを与えているだけ。そんな事を思う必要が無いほど、自分を肯定出来るだけの材料が欲しい。

 俺は卑屈だ。誰がなんと言おうと、世界で一番要らない人間は俺だって言うし、泥の中無惨な姿で死んでいようと、誰も気にかけやしないとすら思っている。

 そんな人間が自分を肯定できる唯一の物なんて決まっている。[世界で一番]。それがあれば、俺はようやく、俺の期待を裏切り続けてきたこの存在を認める事が出来る。

 

 

桜木「けれどよ、その前に先ず。二つ目の盾を取らなくちゃな.........」

 

 

ニコロ「.........フッ、期待している」

 

 

 身体の昂りの鎮静を表すように、風は止んだ。それから言葉を交わすことなく、奴は一人レポートを仕上げに学園の中へと戻って行った。

 奴からの期待、それは果たして、天皇賞であろうか?それとも、先にある、栄光で相見える事だろうか.........?

 どちらにせよ、今は目の前の事をやるべきだ。マックイーンと共に、勝つ為に.........!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???』のヒントLVが1上がった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???』の影が忍び寄る.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日経ち、時はついに天皇賞当日を迎えた。勝負服に着替えている彼女達を待つ為、俺達は控え室の前で待たされている。

 来てしまったこの日に、俺は緊張を隠す事が出来ず、ついついシガレットを口にくわえてしまっている。懐かしい癖がまた顔を見せるとは思わなかった。

 

 

テイオー「いや〜!いつもの勝負服もいいけどさ♪こっちもこっちでかっこいいよね〜!!♪」

 

 

ウオッカ「いいな〜。オレも勝負服二着目貰いて〜」

 

 

ダスカ「何言ってんのよ。アタシらまだあの勝負服で成し遂げてもないのよ?先ずはそこからでしょ」

 

 

 売り言葉に買い言葉。スカーレットの言葉に反応したウオッカはすぐさまメンチを切り、スカーレットもそれに乗っかる。

 それを見て沖野さんは大きいため息を吐いた。

 

 

沖野「おいおい.........ここに来て喧嘩はやめろよ.........」

 

 

二人「トレーナー(アンタ)に言われたくない(わよ)!!!」

 

 

桜木「お〜怖.........それにしてもホントカッケーな。ソルバッドガイみたいで」

 

 

テイオー「そ、なに.........?」

 

 

 いや、まぁ知らねぇよな。格ゲーのキャラクターなんて.........名前を出した俺がバカだった。

 しかし、いつまで経ってもマックイーンの方は出てこない。一体どうしたのだろうか?

 

 

タキオン「案外、恥ずかしがってるのかも知れないねぇ」

 

 

桜木「え?なんでさ?」

 

 

 俺が疑問をそのままぶつけてみると、タキオンは俺を小馬鹿にするように大きくため息を吐き、どうしようもないと言いたげにその首を横に振った。

 なんなんだ、俺がお前に何かしたか?最近は勝手に薬飲んでねぇぞ。

 全く、いくら俺が察し悪くたって言ってくれなきゃわかんねぇこともあるでしょ。

 不貞腐れそうになりながら心の中で弱音を吐いていると、ついに、待ちに待ったその扉が音を立てて開いてくれた。

 

 

マック「ど、どうでしょうか.........?」

 

 

桜木「.........」

 

 

 

 

 

 ―――おずおずとした動きで、私はその扉を開け、初めて人の前で、この勝負服を披露します。

 うぅ.........普段の勝負服とは違い、白を基調にした派手目な装飾.........これほど造形美が追求されている服だと、少し着させられている感があるのではと思ってしまいます。

 

 

ゴルシ「なんだよマックイーン!!似合ってんじゃねーか!!」

 

 

ウララ「マックイーンちゃんかわいいー!!!」

 

 

 最初に声を出してくださったのはゴールドシップさんでした。その後に、ウララさんが私に触れるように近さに接近してきます。

 そんな事に驚いていると、今度はライスさん達から声を掛けてくださいました。

 

 

ライス「マックイーンさん!く、黒い勝負服の時は、ライス、キリッとしててカッコイイなーって思ってたけど!白い服も素敵だと思う!」

 

 

ブルボン「マックイーンさんのステータスにも非常に合致している勝負服です。端的に言うと、似合っています」

 

 

デジ「あばばばばば!!?い、今思えば!!!勝負服が二つって!!!二度楽しめるってことでしゅか!!?爆発しゅる!!!爆発してデジたん星になりゅ!!!」ウガー!!!

 

 

 それぞれ、私の勝負服に関しての感想は悪いものではありませんでした。スピカの方々も、沖野トレーナーも、この服に対しての印象は良いと言ってくださいました。

 ただ.........ひとりだけ、未だにうんともすんとも言わない人がひとり。

 

 

タキオン「.........はぁ、君。少しは彼女の担当だという自覚を持ちたまえよ」

 

 

桜木「へ?あ、ああ.........!!!悪い!!!その.........」

 

 

マック「.........?その、なんです?」

 

 

 なにか弁解しようとした彼は、その次に言おうとした口をつぐみ、その目を泳がせました。なにか、言い難い理由でもあるのでしょうか.........?

 も、もしや.........前の勝負服の方が好みだったのかも知れません.........!!い、いえ!私だって一アスリート。ただ一人の趣向で勝負服という大事な物をコロコロと変える訳にも.........

 そう思っておりましたが、気付けば彼は決心を固め、私の前へ一歩。ずいっと近付いて参りました。

 

 

桜木「えっと.........」

 

 

マック「は、はい!」

 

 

桜木「なんて、言うか.........」

 

 

ダスカ「早く言いなさいよ!!!」

 

 

桜木「っ!すごい似合いすぎててなんも言えませんした!!!すんません!!!!!」

 

 

マック「......へ.........?」

 

 

 スカーレットさんに責められた勢いで理由を言い切り、そのままの勢いで頭を下げる彼を、私ただ呆然と見ていました。

 .........なんでしょう?彼にそう言われたのは初めてではありませんのに、何だか、胸の、心臓の部分から全身に熱が渡っていく感覚があります.........

 ですが、ただ熱いわけでは無いんです。なんといいましょうか、こう.........温もり、温かさが身を包むような、そんな感触が。彼の言葉だけで形成されていきます。

 

 

桜木「.........あの、マックイーンさん?そろそろ頭を上げても「ダメです」.........はい?」

 

 

マック「.........少し汗をかいてしまったのでお化粧を直してきます」

 

 

 今、彼の顔を見たらきっと大変なことになってしまいます。こんな程度の事で嬉しくなってしまうなんて.........本当、恋というのは厄介なものです。

 そう思いながら、私はその扉をもう一度閉め、彼等彼女等の前から姿を消しました。

 

 

桜木「.........不味かったかなぁ」

 

 

沖野「.........はぁ、見てるこっちがドキドキしてきやがる」

 

 

 

 

 

 ―――ため息の声が聞こえたのでそっちの方へ振り向くと、ウララとブルボン以外、皆暑そうに手で顔を仰ぎ始めていた。

 

 

桜木「な、なぁ?やっぱり言わなかった方が.........」

 

 

テイオー「いや、サブトレーナーはもっとマックイーンに伝えた方がいいと思うよ?そういうの」

 

 

桜木「なんで?」

 

 

 俺が本心からの疑問を聞こうとすると、テイオーはドキッとした様子で体を強ばらせた後、背中を向けて口笛を吹き始めた。なんだ、お前は一体何を知っているんだ?

 それを問いただそうとテイオーに近付こうとすると、おもむろに俺の肩から何かが触れる感触を感じた。振り返ってみると、そこには満足気な沖野さんの顔が、そこにはあった。

 

 

沖野「まぁ、なんだ。こうして気も休んだ事だし。もう一度張り直していこうじゃねぇか」

 

 

桜木「.........沖野さん」

 

 

沖野「俺とお前は敵同士。天皇賞出走が決まった時、そう言っただろ?」

 

 

 そう言われて、その日の事を鮮明に思い出す。いつものいい加減な沖野さんはその日からキッパリ姿を見せず、今の今まで、俺と敵対する事を徹底してきていた。

 

 

 初めての事ばかりだった俺に、ウマ娘のウの字も知らない俺に、親切に教えてくれた人が、最高のライバルになるなんて、思っても見なかった。

 だから.........

 

 

桜木「.........沖野さん、例え足場が見えなくとも、俺は突き進みますよ」

 

 

沖野「.........そいつは、勝ちに行くってことで解釈していいか?」

 

 

桜木「どうぞ、ご自由に」

 

 

 自分の言葉に理解に近しい感情を持たれるのは、悪い気分ではない。今まで理解されてこなかった分、その喜びはひとしおだ。

 後ろの方でまた勝負服について何故か喧嘩し始めた仲良しを後目に、俺達は出走準備の放送が掛かるのを、静かに待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間もなく出走準備になります。選手の方々はレース場に集合下さい」

 

 

テイオー「.........いよいよだね、マックイーン」

 

 

マック「.........ええ」

 

 

 出走準備のアナウンスが響く地下バ道。テイオーは私の隣でそう、楽しげにその口を開きました。きっと彼女は、今日という日を心待ちにしていたのでしょう。

 対する私は、やはり.........いえ、姿を消したはずの恐怖心がまた、顔を見せ始めました。先の事など分からないと、自分でも言っていたはずなのに.........

 

 

テイオー「!.........それじゃあボク!先行ってるね!!マックイーンにも負けないから!!」

 

 

マック「え?ちょ、ちょっと―――」

 

 

 彼女は突然、後方にいる皆さんに向かって、そう声を上げました。突然の事でしたので、私は思わず、彼女を引き留めようとしてしまいます。

 ですが、それを言い切る前に、彼女は私にこっそり、その場を離れる前に耳打ちをしてきました。

 

 

テイオー(頑張ってね♪マックイーン)

 

 

マック(は、はい?)

 

 

 その言葉の意味が分からず、それを聞き返そうとしても、彼女は直ぐにここから走って行ってしまいました。本当、どこまでも真っ直ぐなんですから.........

 そして、これからどうするべきか、何が出来るのか、答えは出ません。私が出来ることは、全てやり尽くした筈です。

 身体が冷え込んで行く。まるで雨に打たれてるみたい.........でも、これ以上のことは何も―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『遠慮せずに頼ってくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「―――.........」

 

 

桜木「.........?マックイーン?」

 

 

 どうしようないと思ったその時、その言葉を思い出しました。その記憶が蘇る事を感じ取った身体は自然に、そう。彼とのトレーニングで、自然に動けるようになってしまった身体は、踵を返して皆さんの方へと歩いてしまいました。

 

 

マック「.........まだ、怖いん......です.........」

 

 

桜木「.........出来ること、あるか?」

 

 

 困惑しながらも、自分の出来る事を探してくださる彼を見て、私は少し安心してしまいました。これでは、メジロのウマ娘失格かもしれません。

 それでも、強がる事を拒絶するようになってしまった心と身体は、彼を求めてしまいます。彼にして欲しい事。私が、テイオーを恐れずに走れるようになれる事.........

 

 

マック「.........て、ください」

 

 

桜木「え?」

 

 

マック「あの、秋の天皇賞の時と同じ事.........」

 

 

桜木「.........っ!!?え、えぇ.........あー.........」

 

 

 ここに居る誰もが知らない、彼と私だけの出来事.........雨に打たれた様な寒さが、あの日の辛さと、心強さを思い出させてくれる。きっともう、それしか無いのです。

 彼もそれに気付いたのでしょう。アレと同じ事を、今度はこの場でやるのかと言うように見渡しています。

 

 

桜木「.........それしか、ないんだな?」

 

 

マック「.........」...コクリ

 

 

桜木「.........っよし」

 

 

全員「.........なっ!!?」

 

 

 私の背中に、彼の両手が優しく触れ、彼の方へと引き寄せられていきます。私の身体の前面が、彼の前面とピッタリ、密着するようにくっつきました。

 自然と、ため息が出て行きます。まるで恐怖心が急いで逃げ出すように、肺の中から冷たい空気が出て行きました。

 彼の抱き寄せてきた右手が離れ、ゆっくりと私の頭を優しく撫でながら、抱きました。彼の心臓の鼓動と、私の鼓動が、だんだん一つになるように一体化していきます。

 

 

桜木「.........怖いよなぁ、相手はなんせ、無敗で三冠取っちまったトウカイテイオーだしなぁ」

 

 

マック「はい.........」

 

 

 彼の慰めるような手つきで、私の心はどんどん解されて行ってしまいます。強がりも、見栄も、何も張れなくなってしまう。そんな優しさ.........

 

 

桜木「人気もよぉ、テイオー一番マックイーン二番。おまけにぁTM対決と来た。いくらそう羅列しちまう日本人特有の気質だとしても、普通MT対決だろ?」

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「.........そりゃ、そんなにすげー。しかも目の前で思い知らせてきやがったテイオーから、逃げたくもなるわ.........な」パシッ

 

 

マック「っ.........!」

 

 

 彼の両手が、私の背中から離れました。そして、その両手で、私の肩を押さえるように力強く掴みました。

 私から一歩離れ、彼が私の顔を見るようにかがみ始めます。きっと、弱気になっている私を怒る為です。私は思わず、目を瞑ってしまいました。

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「.........?」

 

 

 それでも、思っていたような言葉は聞こえてきません。彼の説教も、叱咤激励も、待っていても待っていても、それは来ませんでした。

 思わず、目を開けてみると、そこにはやはり、厳しい顔をした彼の表情。ですが、それはすぐに、優しい物へと変化していきました。

 

 

桜木「.........それでも、だ」

 

 

マック「え.........?」

 

 

桜木「日本中を巻き込んだ大決戦。例え、人口の半分がお前の一着を望んでいなくても.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ってこい、マックイーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝って、[奇跡(テイオー)]を超えてこいッ!マックイーンッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の一着を.........俺は待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、彼の願いでした。私の一着を待ち望む、彼の本心でした。熱さしか無い言葉な筈なのに、それは妙に暖かくて、とても安心してしまう.........そんな言葉。

 

 

マック「......はい.........!!!」

 

 

 その言葉に、彼に、耳飾りと共に付けた王冠のアクセサリーに、私の全てを一人誓います。

 走りたい理由も走れない理由も、今はまだ何も分かりません。けれど、今は少なくとも、これだけで[走れる理由]になります。今はそれだけで、十分です。

 

 

桜木「.........もう、心配ないな」

 

 

マック「ご迷惑、お掛け致しました」

 

 

桜木「気にしないでよ。これくらいしか出来ない」

 

 

 彼は何の気なしにそう言ってのけますが、それでも、出来ることを全てしてくれるという彼の姿勢が、私の心を安心させてくれるのです。

 

 

マック「では、行って参ります」

 

 

桜木「おう!」

 

 

マック「.........[必ず]、勝ってみせますから」

 

 

 私が力強く宣言すると、彼はそれに対し、いつもの様に[なんとでもしてくれるような笑顔].........いえ、この場合は、[なんとでも出来るような勇気をくれる笑顔]で応えました。

 もう、心の内に恐怖はありません。テイオーに対するコンプレックスもありません。あるのは.........もう一度、春の盾を取る勇気と覚悟。それだけです。

 

 

 私は、右耳に付けた王冠の眩しい煌めきを肌に感じながら、大決戦の舞台。二度目の春の天皇賞が行われるターフへと、歩を進めていくのでした。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........ふぅ」

 

 

 外の光が入ってくる出口。逆光で影が見える程の眩しさの中を歩いていく彼女の背中を見て、自分の出来る事を果たした達成感とともに、緊張の糸が少し解ける。

 

 

 しかし、そんな安堵の時も束の間で、ふと意識を戻すと、拍手の音がまばらに聞こえてきた。

 

 

タキオン「おめでとう」

 

 

桜木「へ?」

 

 

ゴルシ「おめでとう!!」

 

 

ウララ「なんかよくわからないけど!!おめでとうトレーナー!!!」

 

 

ライス「おめでとう.........!!」

 

 

ブルボン「おめでとうございます」

 

 

デジ(ダイイングメッセージでおめでとうと残されている.........)

 

 

スペ「おめでとーです!!サブトレーナーさん!!」

 

 

スズカ「おめでたいわね」

 

 

ダスウオ「おめでとう!!!」

 

 

沖野「おめっとさん」

 

 

 何故かみんなに祝われ始める俺。一体どうしたというのだ、まだマックイーンは勝ってないし、沖野さんに至っては敵宣言したままだ。

 どういう事かと困惑していると、スカーレットが俺の脇腹を肘でつついてくる。

 

 

ダスカ「もう!!そこまで行ってんなら言いなさいよね!!」

 

 

桜木「は?な、何言っちゃってんの!!?俺状況理解できないんですけど!!!」

 

 

ウオッカ「な、何言ってんだよ!!あんなことした癖に!!!し、したんだろ!!?そ、その.........こ、こく.........」ダラー

 

 

沖野「おいおい!!鼻血出てんぞ!!?」

 

 

 まずいぞ。俺は察してしまった。これはおそらく全員、何か勘違いしてるんじゃないか.........?こ、ここはマックイーンの名誉のため!!弁解しなければ!!

 

 

桜木「か、勘違いしてる所悪いけど!!そういうんじゃねぇから!!!」

 

 

全員「.........は?」

 

 

 俺のその一言で、全員の、ウララ以外の表情が一気に険しくなった。言ったら殺される。言わなければ世間に殺される.........い、言うしかない.........!!犯罪者としてのレッテルを貼られる前に!!未成年なんちゃら法に触れていると国から疑われる前に!!!

 

 

桜木「あ、あれはその、秋の天皇賞ん時、あまりに落ち込んでてさ.........俺もその、そんなマックイーン見たくなかったし?」

 

 

全員「.........」

 

 

桜木「んで、ついあのような事を.........たはは.........?」

 

 

全員「.........この......!!!」

 

 

桜木「へ.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「芦毛ロリマニアがァァァァァッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「えぇぇぇぇぇ!!!??」

 

 

 まさか、弁解という行為がこのような事態を引き起こすなど考えても居なかった.........天皇賞が始まる直前、俺は怒り狂う者達にもみくちゃにされ、既に体力の九割ほどを奪われるのであった.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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