山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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貴顕の使命を無くしてでも

 

 

 

 

 

「―――ッッ!!!」

 

 

 空を割らんばかりの歓声。まるで、レースが始まったことを告げるような騒がしさが、ここ、京都レース場の多くの人々によって形成されている。

 

 

桜木(.........一年、か)

 

 

 あれから、マックイーンがその宿命を果たして一年。そして、彼女が走り続けてきた使命を果たしてから一年になる。

 夢は原動力だ。その力は、若ければ若いほど身体の隅々まで巡るのに時間が掛からない。だが、叶えてしまえば話は別だ。人は、見知った景色に振り向きはしない。

 

 

タキオン「.........心配かい?」

 

 

桜木「はっ、そりゃそうだ。無敗か連覇か、どちらかが途切れる。本人たちゃ気にしてねぇだろうけど.........」

 

 

沖野「.........俺たちは、そうじゃねぇんだよなぁ」

 

 

 二人揃って溜息を吐く。どちらかの偉業がどちらかの手によって妨げられる。真剣勝負をしている本人達には気持ちの良い経験ではあると思うが、勝手に夢を乗せてきた大人達はそうは行かない。

 そう重い事実を改めて突きつけられながら、俺は胸ポケットからココアシガレットの箱を取り出そうとする。

 しかし、俺の手に掴んだはずのシガレットは更に上から抜かれるようにするりと手を離れ、隣に行く。

 

 

トマト「おっ、頂いてくぞー」

 

 

ゴルシ「あっ、母ちゃん」

 

 

 通称トマトハイッテナイパスタ。明らかに偽名であるが、ゴールドシップの母親が俺達の前に現れる。いつも大きいレースになると、こうして目の前に現れるのだ。

 そういえば去年の菊花賞以来な気がするな.........どうしてこう、ピンポイントで大決戦というか、ドラマが生まれる舞台を見に来るんだろうか?

 

 

トマト「あいよ。お前らも食えよ」

 

 

「あ、キンちゃんありがとう」

 

 

タマモ「えぇ?悪いなぁホンマに!!ありがたく受け取っとくで!!」

 

 

ニコ「これは煙草じゃないのか?」

 

 

黒沼「先端を見れば分かる。そういう菓子だ」

 

 

東「あ、俺駄菓子好きじゃないんで」

 

 

 頭が痛くなってきた。オールスターほとんど勢揃いしてる.........一体どうしたというのだ。トマトに気を取られてすっかり気付かなかったぞ.........

 というより、一人見慣れない男性が居る。トマトの事をキンちゃんと言っていたが、まさか.........

 

 

ゴルシ「あれ、今日は父ちゃんも一緒なのか?」

 

 

「ああうん!!なんてったって今日はあの母さん―――」

 

 

トマト「おい」

 

 

「―――が好きで好きで仕方がないって言うメジロマックイーンさんの二度目の天皇賞ですからね!!是非現地で!!ビデオを取らなきゃと!!」

 

 

 ニッコリと満面の笑みでそう言い切る男性。何故かトマトが彼にガンを飛ばしている。何故なのだろう。そしてそんな滅茶苦茶怖い彼女に恐れを抱かずに居られるあたり、流石ゴールドシップの父親とも言える。

 そう思っていると、彼は何かを思い出したかのように反応をみせ、俺達の方へと近付いてきた。

 

 

「申し遅れました。僕の名前は桜.........」

 

 

桜木「さ、桜.........?」

 

 

トマト「.........」ギロッ

 

 

「桜庭 皇奇(さくらば こうき)と申します。ゴールドシップがいつもお世話になっております」ペコリ

 

 

沖野「あ、あぁ、どうも.........」

 

 

 これから世紀の大決戦があると言うのに、どうにも締まらない。その空気が先程まで締めたはずの糸を弛め、逆に緊張してしまう。

 

 

ウララ「タマちゃん達はどうしてここに来たの?!!」

 

 

タマ「ウチはマックちゃんの応援や!!秋ん時は負けレースやったからなー。ここいらで勝つとこしっかり拝みたいんや!!」

 

 

ニコロ「コイツの育てたウマ娘がどれほどか見に来た」

 

 

黒沼「リッティンの付き添いだ」

 

 

 なるほど.........タマはマックイーンの勝ちを、二人は強さを見に来たのか。だったらある程度納得出来る。

 そう思っていると、不意に会場にどよめきが走り始めた。何事かと思い、モニターを見てみると、そこには靴に嵌めているはずの蹄鉄を持つマックイーンの姿があった。

 

 

「メジロマックイーンが落鉄した為、打ち直しにより発走時間が遅れます」

 

 

桜木「なっ、落鉄.........!!?」

 

 

 思わず、ターフと観客席を仕切る鉄柵から身を乗り出し、彼女の姿を肉眼で追ってしまう。今この状況での落鉄、完全に不意をつかれてしまった。

 

 

デジ「こ、この前のレースの一番人気の子も、落鉄があって負けちゃったのですが.........」

 

 

桜木「どうすりゃいいんだ.........!!」

 

 

 その言葉を聞き、俺の心は完全に掻き乱されてしまう。もっと彼女に注意を向けていれば良かったのだろうか?しっかり者の彼女に、甘えづくしの自分が嫌になる。

 居てもたってもいられない、それでも今の自分はどうすることも出来ない。その苛立ちをどこかにぶつけようと思い、俺は無意識の内にその手を振りあげていた。

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーが慌ててどうするんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........!!!」

 

 

皇奇「信頼関係というのは信じ合えて初めて生まれるもの。一度疑ってしまえばやり直しです。ここで彼女の勝ちを信じることこそが、トレーナーとしての役割です」

 

 

 今日、初めて出会った男性に強く、しかし丁寧に叱責される。その言葉は最もだと、俺の理性と感覚でハッキリと分かってしまう。

 一度疑えばやり直し。酷い話だ。ここまでの道程を振り出しに戻る事になれば、彼女は今度こそ勝ち目が無くなる。それだけは.........絶対に避けたい。

 

 

桜木「マックイーン.........まだ、大丈夫だぞ」

 

 

 それは、彼女に対して言ったのだろうか?それとも、信じる力が弱まった自分に言い聞かせたのだろうか?どちらか分からないそんな中で、俺はひたすら、彼女の蹄鉄がうち終わる時を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 全く、どうやら今日は、ツキがないようです。こんな晴れやかな舞台だと言いますのに、天から見放されている気分になってしまいます。

 .........だと言うのに、気持ちはとても静かで、少し冷たい。蹄鉄を打ち付ける金具の音が、私の耳に聞こえてきます。

 

 

マック(それにしても、落鉄など誰にでも有り得る事なのに.........何故こんなにも、恥をかかされた気に.........)

 

 

 パーマーに蹄鉄を見つけてもらった時は、あまり気にしませんでした。ですが、それが人々の注目を集めた事で、少しずつ、それが大きくなり、自覚が出るほどに膨れ上がりました。

 蹄鉄がようやく靴に付く。その所まで何とか持ち直した時、不意に気付いてしまいました。何故、自分が恥ずかしかったのかを。

 

 

マック(.........あぁ、成程。普段天から見放されたような運を持つあの人と一緒に居るのに、どうなるか分からないなんて、運に身を任せていたのに気付いたからね.........)

 

 

 勝つか分からない。それは、今でもはっきりと言葉に出来ます。ですが、それは事実であり、心の持ちようとは関係ありません。

 勝とうとしているのか、負けを恐れているのか、その理由に運は必要ないのです。

 天を頼る事が出来ないのなら.........この身をただ、突き動かすのみ。それが、あの人の.........トレーナーさんの背中を見て教わった事です。

 

 

マック「.........貴重なお時間を無駄にしてしまい、申し訳ありません。もう、大丈夫ですわ」

 

 

 蹄鉄の付け直しが終わり、ハプニングは去りました。ですが、心はようやく、根本を治すことが出来ました。後は.........走りきるだけです。

 私は皆さんに頭を下げた後、彼が居る観客席に視線を向けました。彼の願いと共に、温もりと共に、ここを走り抜けるために.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『???』を覚えた!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひと時のハプニングは過ぎ、ようやくレースの始まりを告げるファンファーレが聞こえてくる。これを聞くと、いつも口の中がカラカラになる。

 

 

桜木「.........?あれ.........?」

 

 

 各バがゲートの中に入っていく。俺はその中で一人、ただマックイーンの方に視線を向けていた。だが、そこに居るのは、まるで別人だ。この前までの.........彼女じゃない。

 

 

デジ「.........お祈り、しませんね.........?」

 

 

桜木「あ、あぁ.........」

 

 

 普段の彼女であれば、走る前に必ず、何かに祈るように手を合わせていた。いや、直接聞いた訳じゃないから、別に祈ってたとかじゃないのかもしれない。ただ、そう見えたから俺達が勝手にそう言っているだけだ。

 

 

沖野「.........っ、こりゃ―――」

 

 

東「どうなるか、分からねぇな」

 

 

 行先を見通せない。ベテランの二人が冷や汗を流しながら、じっとゲートの方を見守る。二人からみても、今のマックイーンは異常なのだろう。

 

 

「十四人のウマ娘がそれぞれのプライドを賭けて―――」

 

 

 実況のアナウンサーはそう言った。走る体勢に入った彼女達の姿を見て、賭けられているのはプライドだけじゃないと悟った。

 そこにあるのは、人々の夢だった。この舞台に対するそれぞれに勝手に乗せた、乗せてしまった夢と希望も、一緒に賭けられている。

 全身に興奮と熱狂が渦巻き、今にも暴れだしそうな最高潮。それに達しそうになるその瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――スタートしました!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各ウマ娘、まずまず揃ってスタートしました。出遅れはありません」

 

 

沖野「始まっちまった.........」

 

 

 その声を聞いて改めて思った。ここまで、来てしまった。ここに来てしまったのならもう、勝つか負けるか、二つに一つしかない。

 

 

桜木「......っ...大丈夫、大丈夫」

 

 

 自分の弱さが嫌になる。中途半端に良い地頭は、悪い結果ばかりを予想する。それを押し殺すよう、しっかり念入りに、自分を偽る。今は、この弱さは邪魔でしかない。

 そう思っている内に、レースではメジロパーマーが突然速度を上げ、先頭に躍り出る。この3200m。一体何を考えて.........

 

 

タキオン「ここのレース場はペース変化が激しい。スタミナ自慢だけでは、到底勝ち目は無いよ」

 

 

桜木「.........何が言いたい?」

 

 

タキオン「今逃げているウマ娘も、それに釣られる子も勝ち目はあまりないって事さ。あのスピードであのまま走れるなら、話は別だけどね」

 

 

 そう興味深そうに、彼女はいつも通り鼻で笑うような声を出しながら、先頭に出たパーマーの姿を観察しはじめる。一瞬、マックイーンの事かと思ってヒヤヒヤした。

 

 

スペ「正面スタンド!!回ってきますよ!!」

 

 

沖野「っ!」

 

 

桜木「っ.........」

 

 

 正面スタンド。ここから先、レースのバ場は違うレースかと言う程に様変わりを遂げる。先程走った影響で地面は抉れ、走り方を変えなければ勝利は掴めない。

 けれど.........俺は、気付いてしまった。多分。沖野さんも気付いたと思う。マックイーンだけじゃない。テイオーからも感じる、異変とも言える異常.........

 

 

ダスカ「嘘.........!!?」

 

 

タキオン「っ、まさか、このタイミングで[ヘル化]するなんてね.........!」

 

 

スペ「テイオーさん.........!!」

 

 

 マックイーンの後ろに着けていたテイオー。そして、スリップストリームを表すかのように、空気の流れに蒼白い炎が入り交じり始めた。

 

 

皇奇「これは.........」

 

 

トマト「こうなっちまったらもう、距離適性も関係ねぇ。わかんなくなっちまったな、コウ」

 

 

 その言葉を発した彼女が実際、どこまで予想していたのかは分からない。だけど、確実に言えることは、一つだけある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このままでは、マックイーンは負ける.........という事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「くっ.........!!!」

 

 

 先程まで感じられなかった圧が、背中に当てられています。今まで何処にいるか、レース中全く分かりませんでしたが、今だけハッキリと分かってしまいます。

 彼女が.........トウカイテイオーが、背中に居ると。肌で感じとれてしまいます。

 

 

マック(.........!!?足が.........!!?)

 

 

 ゆっくりと、徐々にですが、確かにその速度を落として行ってしまいます。身体で感じていた風を切る感覚も、弱々しいものへと変貌していきます。

 

 

マック(こんな所で.........!!!私はメジロマックイーン.........!!!メジロのウマ娘として貴方には絶対.........!!!)

 

 

 それでも、そう意気込んでみせても、身体はそれをハッキリと強がりだと見破ります。そんなものでは、もうこの身体は、力を貸してはくれないようです。

 万事休す。いえ、絶体絶命と言った方がいいでしょう。実際もう、打つ手は完全になくなったと言っても.........過言では、無いのです.........!!!

 

 

マック(ここまで.........来たのに.........!!!)

 

 

 メジロとして、メジロに最もふさわしいウマ娘として、気高く生きようとしてきました。ですが、もうその誇りでも、使命でも、私の走る力とはなってはくれないようです。

 

 

 悔しい、辛い、勝ちたい、負けたくない、泣きたい、叫びたい、そんなレースには必要ない感情が次から次へと現れる最中でも、背中の足音は遂に側面へと回ってきます。

 今、彼女を視界に入れてしまえば.........私はもう、彼女に勝つ事は.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故、走ってるのかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、テイオーが、いえ、世界の時間が止まったかのように、その疑問が湧き上がると共に、全てが動きを止めて行きます。

 そんな事は分かるのですが、今自分がいるのは何故か、こことは違うどこかの庭園だということに気が付きます。

 そして、鳥のさえずりが響くそこにはティーテーブルとチェアが置かれ、お茶も用意されておりました。

 ですが、そんなことに疑問など抱かず、私は問いかけられた質問に、心で答えます。

 

 

 何故走るのか、決まっています。メジロのウマ娘として、走りによってその本願を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、なんで力を貸してくれないのよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........何故、でしょう.........?今まで、その為に走ってきましたのに、今ではもう、それで身体に力が入る事も無くなってしまいました。

 それは.........その疑問は、私の全てを打ち壊すように、少しずつ、ゆっくりと身体を砕いていきます。全て壊されてしまえばもう、走ることが出来なくなってしまう。

 走る理由は分かりません。どうして今、自分が走っているのかなんて、自分でも分からないんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰かに走って欲しいって言われた?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけでは.........無い、と。思います。走ること自体は私から始めた事だと、自分でも記憶していますから。

 でも.........なんのために走っていたのかさえ、もう分からなくなってしまいました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だったらもう、やめたらどうかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(.........そう、よね。ここまで来たんだもの。誰も文句なんて早々―――)

 

 

 心の中で、貯めに貯め込んだ弱気を吐露してしまいます。ただでさえ、身体は重いのに、 これ以上重くなってしまうと本当に勝てなくなってしまいます.........

 いえ、仕方ないのです。そもそも、走る理由も分からない自分に、無敗で、しかも三冠バである テイオーに勝とうだなんて、思い上がりも甚だしいです。

 負けて当然.........仕方の無い事。

 

 

 そう。そんな弱りきった心に、誰も文句なんて言ってこないでしょう。そう、普通はそうなのです.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイィィィィィーンッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........!!!!!」

 

 

 その声が聞こえた瞬間。砕かれ散っていった筈の身体が何故か、再生を始めました。身体もなんだか、軽くなった気もします。

 辺りを見渡しても、彼の姿はどこにもありません。だと言うのに、身体は何故かはっきりと、彼の存在を感じ取っています。

 

 

桜木「諦めてんじゃねェぞッッ!!!」

 

 

桜木「たとえ.........!!!日本中がお前の一着を望んで居なくともッ!!!」

 

 

桜木「たとえ!!!つまらない強さだと言われてもッッ!!!」

 

 

桜木「俺はッッ!!!俺だけは.........!!!お前の勝つ姿が見たいんだ.........!!!」

 

 

 その言葉は、私の弱った心に喝を入れると同時に、新しい私に気付かせてくれました。身体は冷たいはずなのに、何故か完璧に動かせる。そんなコンディション。

 

 

桜木「さぁ.........!!!覚悟決めろよ、メジロマックイーン.........!!!」

 

 

マック「っ!」

 

 

 四肢から末端から中心にかけ、ゆっくりと熱が伝わっていきます。まるで、彼から何かを受け取っているような感触です。

 徐々に声だけだったはずの彼の存在が、ゆっくりと私の中に形成されていきます.........

 

 

桜木「今の[お前]は.........いや、[俺達二人]はッッ!!!」

 

 

 あぁ.........そうなんですね。きっと、この何よりも近くて、離したくない彼との関係が.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇跡だって超えてるんだぜッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私にとって、[走りたい理由]なのでしょうね.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『共鳴』のスキルを獲得した!!!

 

 

桜木「っ、はぁ......!はぁ......!」

 

 

 どっと疲れが溢れ出す。倒れそうになる体を何とか鉄柵に両手をつき、支えてみる。何故か運動した後のような気持ちの良い汗が、 全身から溢れ出している。

 彼女の姿は無い、どこか不思議な安らぎを感じる空間。それでも、そこには確かに彼女の存在を感じ、彼女に語り掛ける何かが居た。

 一体、何が起きたと言うんだ?俺はいまさっき、どこにいたんだ.........?それに、マックイーンに語りかけていたあの声は.........?

 

 

「トウカイテイオー見事な追い上げを見せる!!!メジロマックイーン苦しいか!!!」

 

 

桜木「っ!マックイーン!!!」

 

 

 疲れてる場合じゃない。今は、マックイーンのレースの最中だ。俺はもう.........!!ジャパンカップみたいな.........!!!過程を見逃す失敗だけはしたくない!!!

 

 

ダスカ「ま、不味いんじゃない.........?このままじゃマックイーン.........」

 

 

ウオッカ「お、お前!!どっちを応援してんだよ!!?」

 

 

ダスカ「!!わっかんないわよ!!もう頭がぐちゃぐちゃで!!ああもう!!!どっちも頑張んなさいよ!!!!!」

 

 

 レースではまだ、マックイーンは先頭を走り抜けている。テイオーと同時に飛び出し、首位争いは二人のものだった。けれど、テイオーはヘル化の影響で現実を捻じ曲げる力を持っている。距離適性による敗北は、無いものと言っても良い。

 それでも.........!!!

 

 

桜木(頼む.........!!!奇跡を.........超えてくれ.........!!!)

 

 

 彼女に言った言葉。果たして届いているのか定かではない。けれどもう、そんな些細な事なんて、考えるバカな事はしない。

 きっと、彼女に声は届いた筈だ。受け取ってくれた筈だ。だったら後は.........信じてやるしか、無い。

 その時だった。首にかけた王冠のアクセサリーが、一際強い輝きを放つのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『共振』のスキルを獲得した!!!

 

 

マック(.........)

 

 

 身体の調子は、まるで先程のことなど無かったかのように、絶好調になりました。それに今なら、限界以上まで、いえ。奇跡以上の力を出せる気さえしてきます。

 

 

マック((わたし)の、走りたい理由.........)

 

 

 今まで出てこなかったその答え。ようやく、答え合わせが出来そうです。レースの最中となってしまいましたが、何とか間に合わせることが出来ました。

 

 

マック(終われない。こんな所で、彼と歩んできた道のりを、絆を、想いを.........!!)

 

 

 息を飲む音が隣から聞こえてきます。今はそこに居たのですね。前に居なくて助かりました。

 身体はウォーミングアップをようやく終えたと言っていいほど、心地の良い熱を保温しています。

 

 

 もう、この際ハッキリとさせてしまいましょう。私は既に、誇りのために走る事は出来ません。既に果たしてしまったメジロの使命もまた、同じことです。

 体の奥底から引っ張り出したとしても、役目を終えたそれらが見せてくれるのは思い出だけ。決して、今の私に力を与えてくれる産物では無いのです。

 けれど.........あの時から、変わらない[心]があります。それだけが、私の[走る理由]なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『断言出来るよ。君は大化けする。人々の視線を持っていくレベルまで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私を信じてくれた彼。7着という不甲斐ない始まり方をした私の物語を、彼はその心全てで肯定してくれた.........!!!

 

 

マック(だったら.........!!!)

 

 

マック(そんな事、言われてしまったなら.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(奇跡を超えるしか!!!無いじゃないッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「っ!!?あれはまさか.........彼女も!!?」

 

 

 隣にいるタキオンが、やや興奮気味にそう声を上げる。俺もまさかと思い、身を乗り出してその姿を視認した。

 確かに、マックイーンもあの青白いを、徐々にだが体から溢れ出している。その姿に驚きを感じつつも、どこかこれで終わりではない事を感じていた。

 

 

ニコロ「っ.........」

 

 

黒沼「.........よく見ておけリット。これが、頂点を決める戦いだ」

 

 

 頂点。それは確かに、そうかもしれない。今目の前で走っている彼女達は、正にこの時代に生きるウマ娘として、最強を謳われている。

 もし、同じ時代に生まれなければ、もし違う時期に生を受けていれば、この様な心苦しい事は起こらなかったかもしれない。

 神様は残酷だ。そして、それ以上に人間は残酷だ。どちらかの夢が、目標が潰えるレースでさえ、その熱を無意識にあげてしまう。

 

 

タマ「.........なんや、可愛そうやと思っとんのか?」

 

 

桜木「.........まぁ、な......」

 

 

タマ「別に、今に始まった事やないやろ。マックちゃんの夢を叶える為にもう、多くの子が夢を潰されたんや。そう思うてるんなら、マックちゃんも、他の子も可愛そうやで?」

 

 

 俺を諭すような優しい口調で、タマモクロスは言った。夢を潰す感覚。潰される感覚は、自分が一番よく知っている。だからそんな思い、誰にもして欲しくないと思っていた。

 けれど、そんな俺の気持ちに反して、今走っている彼女達の表情は、真剣ながらもどこか楽しそうであった。

 それはきっと、目の前で走る彼女達の姿が新たな夢に、新たな目標になっているのかもしれない。走る事でようやく、舞台に立つことでようやく、見られる景色があるのかもしれない。

 

 

タマ「それに.........おっちゃんの夢はまだ、終わりそうにないで?」

 

 

桜木「っ.........!!?」

 

 

 どこか不敵な笑みを浮かべながら、彼女は俺の胸元を指した。そこには、王冠のアクセサリーが静かに揺れている。だが、そこからは微かに、彼女に向けて光が放たれているのを感じられた。

 

 

 それを見た時、俺は自分の目を疑った。マックイーンから出現した、あの[ヘル化]特有の蒼炎のようなオーラが、王冠の耳飾りに吸われていく様に無くなって行った。

 

 

桜木「一体.........何が.........!!!??」

 

 

 目の前で想定外が起こり続けるレース。こんなの、生まれて初めてだ。柔軟な理解を得意とする俺の脳が、その現実を拒もうとしている。正直、パンクしそうだ。

 

 

タキオン「っ!!?白いオーラがマックイーンくんの身体を包み込んだぞ!!!」

 

 

 そのタキオンの言葉通り、マックイーンから.........いや、[ヘル化]のオーラを吸い取った王冠から、白いオーラがマックイーンを優しく包み込むように放出される。

 そこからはもう、誰も言葉を発することは出来なかった。テイオーは先程以上に蒼いオーラを燃え上がらせているが、マックイーンはそれを徐々に突き放していく。

 勝利を求めるそれに、圧倒的な力量で突き放していく。彼女は今、何を思っているのだろう?勝利以上の何かを、勝ち負けの先にある何かを、見出したのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイィィィィィーンッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の、テイオーの叫び声が、先程息を飲む声が聞こえてきた位置より、後方から聞こえてきました。

 その声から、私に勝ちたいと言う。メジロマックイーンに勝ちたいと言う意思が、嫌という程伝わってきます。

 

 

マック(.........でも)

 

 

 その彼女の全力も、人々の声も、今はもう関係ないんです。勝ちや負けも、今私が走る理由にはなっていない。

 まさか、以前まで己の生きる意味としていた天皇賞でこんなことを思うなんて、[メジロ]のウマ娘として失格だと自分でも感じます。

 

 

マック(それでも.........!!!)

 

 

 それでも良い。それすら、今は考えなくて良い。今はただ.........あの人が信じてくれた自分の走りを.........!!!

 [ただ一人のウマ娘]である、メジロマックイーンとしての走りを!!!私は信じるだけです!!!

 

 

マック(貴顕の使命なんて、今は要りません.........!!!)

 

 

マック(ただ、貴方の隣に居る事を、私が私の居たい場所に居る事を、私自身が許せる資格をッッ!!!)

 

 

 あの日。秋の天皇賞を降着により盾を逃したあの日。私は、多くの人々から非難を、そして私も、私自身に非難を浴びせました。

 それでも、彼は私の傍に居てくれる事を選んでくれた。どんな大舞台で、[メジロ]としての期待に答えられなくとも、[メジロマックイーン]という、一人のウマ娘を期待していると言ってくれた。

 それでも私はまだ、彼の隣を歩いても許せる資格を自分が持ち合わせているとは思っていませんでした。

 その為に、私はあの線を、一番最初に駆け抜けなければなりません。[勝利]はその為の条件にほかならないのです。

 

 

マック(その為に、勝ちを譲ることはできません.........!!!)

 

 

 今まで身体に力が入らなかった事がまるで嘘だったかのように、私の期待に応えるべくその速度を、限界の先まで上げてくれます。

 この思いは、強がりでも何でもない。これこそ、今の私が[走りたい理由]なのだと、その身体も理解し、ようやく力を貸してくれます。

 例え、日本中の半分が私の一着を望んでいなくとも、例え、世界中の誰もが私の勝利を望んでいなくとも、私には、私の一着を待ってくれている大切な人がいる.........!!!

 

 

マック(参ります.........ッッ!!!)

 

 

 自然体のフォーム。彼が作りあげてくれた、私にとって一番効率的であり、そして尚且つ速度の出せる走り方。

 走り方を疑え。そう言われた時、私はずっと[否定]する事だけを考えておりました。しかし、それは自分の本心には無い行為。明らかに壁に当たる行為です。

 でも、疑うという事は決して、[否定]することだけでは無い。[肯定]する為に、それを出来るだけの信じられる根拠を集める事だと、今になって理解しました。

 身体の重心、足の運び、息を吸うタイミング、それを吐く量。その全てを、自然と一体にして行きます。

 今までは、彼の言う通りに走っていただけ。でも今は、その一つ一つの行程の意味をしっかりと理解しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は.........!!!もう一度ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの人の隣でッッ!!![ただのメジロマックイーン]としてッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(テイオーッッ!!!貴方を超えますッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........すっげぇ......」

 

 

 口から溢れ出たのはそんな、どこにでも有り触れた称賛。だけど、その胸中は、今まで感じた事の無い感情の高まりであった。

 ぐんぐんと速度を上げ、テイオーを突き放していくマックイーン。その姿に、憧れにも似た、何か別の感情が溢れてくる。

 

 

「強い走りだッッ!!!メジロマックイーンッッ!!!テイオーの追い上げをものともしない!!!」

 

 

「その勢いのまま今!!!栄光のゴールを踏み切りましたッッ!!!」

 

 

レグルス「やったぁぁぁぁ!!!」

 

 

 うちのチーム全員が、マックイーンがゴールを踏み締めたのを見て声を上げた。ウララ達はハイタッチを、タキオンとデジタルはその走りを目に焼き付けていたようであった。

 

 

桜木「.........ほんと、よくやったよ。マックイーン」

 

 

 色とりどりの紙吹雪が舞う中を、彼女は来てくれた観客に対して手を振っていた。以前までの彼女とは違う.........とは言っても、やはりレースに対する敬意は変わらないようだ。

 

 

沖野「.........そりゃお前もだ。ここまで良く、マックイーンを育てたな」

 

 

桜木「いや、俺は.........うん。そう、ですね。頑張ったと、思います」

 

 

 俺は何もしていない。もしそう言ってしまったら、きっと一生懸命走った彼女に怒られる。そう思った俺は、一歩踏み出すことにした。

 彼女の為に在りたい、それでも、それをひけらかす事はしたくない。自分の中では矛盾する二つに折り合いをつけて、何とか肯定してみる。

 

 

トマト「いやぁ、それにしても。アンタのウマ娘はいつもドラマを作るな.........ん?」

 

 

桜木「え?」

 

 

 先程まで何故か上機嫌でにこやかだったトマトが急に、マックイーンの方に視線を向け、疑問の声を出した。俺もそれに釣られ、つい不安になってしまう。

 

 

桜木「あ、あの、どうしました.........?」

 

 

皇奇「どうしたのキンちゃん?」

 

 

トマト「いや、マックイーン.........つうかさ、テイオーもそうなんだけど.........」

 

 

 そう言って、トマトはマックイーンの方を指さした。だが、不自然な事に、彼女が指したのはマックイーンの身体ではなく、地面の方に向いている気がする。

 嫌な予感がする。この場にいる全員が、その言葉を聞きたくない一心で、待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足、折れてね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「え.........嘘だろ.........!!!??」

 

 

皇奇「有り得ないでしょ!!?だってそれはむぐっ.........」

 

 

トマト「さー帰るぞー。空気悪くなっちまったし、ここいらでとんずらだー」

 

 

 何かを言いかけた皇奇さんの口を塞ぐようにして、そそくさと退散していくトマト。一体誰が悪くしたと思っているんだ?

 とは言っても、今心配なのはマックイーンだ。普通に見れば特に様子は変わっていない。だが、よく見れば彼女の左脚の動きが少々ぎこちないようにも感じられる。

 

 

桜木「.........大丈夫、トレーナーが慌ててどうすんだ、だろ?桜木.........!!!」

 

 

 内心、焦りと不安でいっぱいだった。それでも、ゴールドシップの父さんに言われた言葉を反復して、平静を取り繕う。

 それでも、彼女の顔を流れる汗が、レースによる物ではなく、痛みを耐えている物かもしれないと思うと、どうしようもなく.........気が気で無かった.........

 

 

 

 

 

 ......To be continued.........?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇奇「いででででっ!!?もう車だから!!離してもいいでしょ!!?」

 

 

トマト「ダメだ。お前は口が軽すぎなんだよ。今日だけはっつうから連れてきてやったのに」

 

 

 耳を強く引っ張られながら、僕は彼女と一緒に乗ってきた車の前まで連れてかれる。流石ウマ娘。現役を退いたとは言え、やはりパワーは人間のそれとは違う。

 そんな呑気な事を考えていると、不意に身体全体が振られ、車のフロントに全身を叩きつけられた。正直痛い。生まれつき頑丈だとか、彼女からのそういう攻撃に耐性が着いているということを抜きにしても痛い。

 

 

皇奇「もう.........それで、さっきの折れてるって.........?」

 

 

トマト「あん?言葉通りの意味だけど?アタシが嘘ついてるとでも言いてーのか?コウ」

 

 

皇奇「いやだって.........骨折するのは.........宝塚前でしょ.........?」

 

 

 頭を擦りながら彼女の方へ振り向こうとすると、もうそこにキンちゃんは居なかった。もしやと思い、車の中の助手席を見てみると、不機嫌そうな顔で早く乗れと催促してくる。

 これ以上はたまらない。そう思った僕はいそいそと運転席側の扉を開けて、シートベルトをつける。待たせた罰として軽く肩パンされるけど、結構これも痛い。

 

 

トマト「.........まぁ、いい感じに歴史がズレてるってこった。トウカイテイオーも菊花賞出走。オマケに無敗の三冠バと来たもんだ」

 

 

皇奇「.........父さん、乗り越えられるかな」

 

 

トマト「さぁな、こればっかりは、クソジジイの信じる可能性って奴に、賭けるしかねーよ」

 

 

 いいから早く発進させろと言うキンちゃんに気圧されながらも、僕はキーを差し込んでエンジンを掛ける。

 その時ふと、両親と姉の顔を思い出した。どこにでも居る、普通の家族の表情。

 でも、彼はそうなれないかもしれない。ここまで踏み込んで、僕の父さんの様になってしまえば.........未来はもっと、暗くなるかもしれない。

 

 

皇奇(.........それは、嫌だな)

 

 

皇奇(父さんも母さんも、家族でいる時は幸せそうだったんだ。その幸せすら無くなるなんて.........)

 

 

皇奇(.........恨むよ。神様)

 

 

 年甲斐もなく、心の中で神様なんて言っちゃって。そう後から茶化してみても、滲み出た怒りを抑えることは出来ない。僕は隣にいるキンちゃんにバレない程度に、ハンドルを強く握りしめた.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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