山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マックイーン「トレーナーさんが辞める......!!?」

 

 

 

 

 

桐生院「おはようございます!」

 

 

 職員室の扉を開けて、私はいつも通り挨拶をしました。この時間帯はレースを控えている子が担当に居たり、たまたま早く起きてしまった人や、新しくスケジュールを組むトレーナーの方々は居るのですが、やはり少ないです。

 ですが.........

 

 

桜木「あ、おはようございます。桐生院さん」

 

 

桐生院「あれ、今日は早いですね!桜木さん!」

 

 

 彼がこの時間帯に居るのは初めての事でした。普段から朝は弱いとどこか愚痴のように言っていた筈ですが、いったいどうしたのでしょう?

 

 

桐生院「どうしたんですか?こんな時間に居るなんて、珍しいですね」

 

 

桜木「あーうん。昨日理事長に呼ばれてね。その返事を考えてて.........」

 

 

 自分のデスクに荷物を下ろし、座りながら彼に問いかけると、どこか言いにくそうにそう答えました。

 まぁ、桜木さんの事です。また変な事をしてお叱りを受けたのでしょう。そう思い、私はバッグから資料を取り出しました。

 しかし、しっかりとその手に持っていた筈なのですが、ファイルに束ねた紙が一枚、地面へと向かって落ちていきます。

 

 

桐生院「あっ!」

 

 

桜木「ああ、自分取りますよ」

 

 

桐生院「!ありがとうございます!.........?」

 

 

 彼が席から立ち上がり、私に背を向けその資料を拾ってくれました。私は彼にお礼を言って視線をパソコンの方に戻そうとしましたが、その際、気になる物が視界に写りました。

 

 

桐生院(.........!!?)

 

 

 寸でのところで、声が出そうになりましたが、何とか堪える事が出来ました。まだ朝の早い時間帯です。大きな声は周りの人を驚かせてしまいます。

 私は視線をその気になった所に移しました。そして、見てしまったのです.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資料の下敷きになった封筒に、『退』という文字が書かれ、真ん中から折られた封筒が.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「嘘ぉぉぉ!!?」

 

 

桐生院「わ、私もそう思いたかったんですけど.........」

 

 

マック「そんな.........」

 

 

 朝のホームルームが始まる前。私達チーム全員と、彼のお友達。そして東さんが桐生院さんのトレーナー室に招かれました。

 重々しい空気の中、彼女は先程あった事を話してくださいます。まさか.........そんなこと、ある訳がありません.........!!!

 

 

ダスカ「ふ、ふん!どうせいつものサブトレーナーの事なんだから!趣味の悪いイタズラに決まってるわ!」

 

 

ウオッカ「だ、だよなぁ!!?」

 

 

 ここに居る方々の殆どが、その話を信用してはいませんでした。勿論、沖野トレーナーや東トレーナーもその内に入っています。

 ただ、一人だけ。異常に焦っている人物がこの場にいました。

 

 

ゴルシ「.........」ブツブツ

 

 

マック「ご、ゴールドシップさん.........?」

 

 

 顔を俯かせ、片手で額を抑える彼女はぶつぶつと何かを確認するように、一心不乱に独り言を呟いていました。

 耳に入ってきたのは、時期がズレたのか、なにか影響させてしまったのか、という何ともよく分からないものばかりです。

 

 

スペ「あの、直接聞くって言うのは.........?」

 

 

沖野「.........それが出来りゃ、苦労はしねぇんだけどよ」

 

 

スズカ「聞き、にくいわよね.........」

 

 

 皆さんがあまりの難問に唸り声をあげます。いくらなんでもこのタイミング。唐突すぎて、そんな可能性無いと思っておりました。

 ですが、考えても見れば、多忙なスケジュールに加え、私の骨折.........無理は無いのかもしれないと思うと、可能性が出てきてしまいます。

 そんな時、彼の友人達が声を上げました。

 

 

神威「いや、流石に有り得んしょ」

 

 

黒津木「俺もそう思う。だってアイツ滅茶苦茶楽しんで働いてるし」

 

 

白銀「ここは直接聞くしかないべや!!!」

 

 

全員「お、おぉ.........!!!」

 

 

白銀「東っちが!!!」

 

 

東「なんで俺なんだよぉぉぉぉぉ!!!??」

 

 

 突然の抜擢により、東さんは怒りを露わにして白銀さんの襟を両手で掴みます。そんな事は気にせず、掴まれている彼は人をバカにするような表情をします。

 

 

マック「わ、私からもお願いします!!こ、こんなの絶対何かの間違いに決まってますわ!!」

 

 

東「マックイーン.........そ、そうだよな。誰も行かねぇんだったら、俺が行くっきゃねぇよな.........」

 

 

 彼が自信がなさそうにそう言うと、レグルスのチームメンバーは皆さん力強く首を縦に振りました。やはり、ありえないとは言っても不安なのでしょう。

 

 

桐生院「すみません.........こんな話持ってきてしまって.........」

 

 

タキオン「仕方あるまいさ。一人で抱えるより、こうして話してくれたお陰で事実確認が取れるんだからね」

 

 

ウララ「うぅ.........トレーナー、疲れてるのかなー.........?」

 

 

ライス「き、きっとそうだよ!お兄さまが辞めちゃうなんて.........」

 

 

 まだその話を信じきれていないとは言っても、疑い切ることも出来ていません。皆さん、半信半疑という状態です。

 ブルボンさんも口には出しませんが、その耳は悲しそうに萎れています。デジタルさんも、焦る様に周りの皆さんの反応を伺っておりました。

 そんな事、絶対有り得るはずがありません。そう思いながら、私は焦る気持ちを抑えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東「おっ、来たか」

 

 

桜木「もー。話ってなんすか?これでも忙しいんすよ?新米トレーナーだからって」

 

 

マック「き、来ましたわ.........!!!」

 

 

 視界に映るのは、トレセン学園の噴水広場。時間帯で言えば昼休みに入った所です。

 私達は近くの茂みに身を隠し、彼の口から答えが聞ける時をただ待ち続けます。

 

 

東「あー.........その、辞める.........のか?」

 

 

桜木「.........?ああ、もうそこまで話行ってるんすね」

 

 

 彼の表情は最初、なんの事か分からないというような感じでしたが、次第に彼の中で合点が行ったのか、どこか納得したような表情になりました。

 その表情に、嫌な予感をしてしまいます。

 

 

桜木「まぁ、仰る通りです。俺には荷が重すぎますから」

 

 

マック「.........そんな」

 

 

東「!.........そうか」

 

 

桜木「?そんな悲しい顔しないでくださいよ。いつでも会おうと思えば会えるじゃないっすか」

 

 

 私は愕然としました。否定の言葉が聞こえてこない事に、全てを否定してしまいたくなってしまいました。

 で、でもまだ彼の趣味の悪いイタズラかもしれません。まだ信じきる訳には.........

 

 

神威「やべぇな.........マジっぽい」

 

 

マック「え.........?」

 

 

黒津木「おい!言葉を慎めよ.........」

 

 

神威「.........言っとっけど、この状況でおふざけに付き合えるほど余裕ねぇからな」

 

 

黒津木「すまん。雷避け行ってくる.........」

 

 

神威「行ってらっしゃい。あっ、因みにシンはジェクトだから気をつけろよ」

 

 

 隣から聞こえてくるそんなやり取りも、今は何も感じません。彼らは私の反応を伺ってきましたが、あまり変化は見られなかったため、少し申し訳ない雰囲気を漂わせていました。きっと、彼等なりの気遣いなのでしょう。

 

 

タキオン「.........全く、黒津木くんも司書くんも空気が読めないのかい?」

 

 

二人「ごめん.........」

 

 

ゴルシ「.........まー、こうなっちまったら仕方ねー!どうやっておっちゃんを引き止めるか作戦会議だ!!」

 

 

マック「ひゃぁ!!?き、急に立ち上がらないでください!!」

 

 

 隠密行動に伴い、私は車椅子ではなく、ゴールドシップさんの背中に乗っていました。移動する際に音が出る物ですから、この場にはそぐいません。

 ですが、急に立ち上がられるとびっくりしてしまいます。茂みに隠れていたせいで、頭には葉っぱが何枚か着いてしまっています。せめて、何か一言くらい言ってくださってもよろしいと思いますのに.........

 

 

スペ「ひ、ひとまずチームルームに戻りましょう!!」

 

 

テイオー「わー!!?き、急に立たないでよー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ふぃ〜。急に呼び出されて何かなって思ったけど、マジでなんだったんだ.........ん?」

 

 

ゴルシ「ようおっちゃん!!」

 

 

 おかしい。俺は確かに、チーム[レグルス]のルームに帰ってきたはずだ。[スピカ]と間違えたか?

 そう思い、一度出て扉の表札を見てもちゃんと[レグルス]と書かれている。俺は安心して中に入った。

 

 

桜木「ゴールドシップ。今度はなに?」

 

 

ゴルシ「いやよー。最近悩んでんのかなって思ってさ!!アタシなりにおっちゃんを元気づけようと考えて作ってきたわけよ!!」ドンッ!

 

 

桜木「.........あー」

 

 

 机に置かれたのは、大きな鍋であった。しかも音の大きさ的に、中に何か食べ物が入っている。

 彼女の顔をチラリと見ると、どこか自慢げな顔のままその蓋を開けた。そこから漂ってくるのはほのかな香辛料の匂いと、様々な具材の匂い。中身はすぐにわかった。

 

 

ゴルシ「おっちゃんカレー好きだろ!!」

 

 

桜木「うん。好きだよ?でもねゴールドシップ。俺さっきカフェテリアで食べたの。ご飯。嘘じゃないよ?ライスと一緒に食べたから。なんなら呼ぶ?」

 

 

ゴルシ「おう。このカレーを食うかこの場で死ぬかどちらか選べよ」

 

 

 いや。なんでそんなバルバトスみたいなこと言うん?なんですか、僕はトレセン学園で一定期間働くと貴方に遭遇するシステムの元生まれてきたんですか?

 それに流石にこの量を食うのは空腹時でも中々厳しい。ここはタッパに移して分割させてもらおう.........

 

 

桜木「あのー。タッパに移して後日食べるって言うのは.........」

 

 

ゴルシ「今食えッ!!すぐ食えッ!!骨まで砕けろゥ!!!」

 

 

桜木「最後の何!!?」

 

 

 結局、その鍋の中のルーを食べ切るまで俺が解放されることは無かった。好きな物がこんなにも苦しみを味わわせてくるとは思ってもみなかったが、これも経験の内だと、ポジティブに捉えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、訪問者は沢山来た。

 

 

ウララ「トレーナー!!遊ぼー!!」

 

 

桜木「おう!何して遊ぶ?」

 

 

ライス「お兄さま!ライス、絵本読んであげるね!」

 

 

桜木「お、おう!」

 

 

ブルボン「マスター。ガンプラを作りましょう」

 

 

桜木「お、俺不器用だからお手柔らかに.........」

 

 

 まぁ、この位なら可愛い方だ。まだ俺の身体が持ってくれる。

 

 

タキオン「今日はマッサージでもしようじゃないか!」

 

 

桜木「えぇ.........俺そういう身体に触る系はちょっと.........」

 

 

タキオン「私が君にするんだよ」

 

 

桜木「え」

 

 

デジ「トレーナーさん!!今日はウマ娘ちゃんに抱く妄想を語り合いましょう!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

 ここまで来ると、何か異変すら感じてきてしまう。一体彼女達に何があったと言うんだ?恐らくではあるが、まさかアイツらだろうか?

 そう勘繰ってしまう程には、日常にしてはややぎこちない彼女達が目の前に現れてくる。

 

 

マック(.........どれもこれも、決定打にはならないわね)

 

 

 

 

 

 ―――あれから作戦会議で出てきた案を全て実行に移したものの、彼を引き止めるまでの物になっているかと言われれば、確信はありません。

 こうしてタキオンさんの実験室にあるモニターで様子を伺ってみていても、やはり分かります。彼の意思は硬い。この日常を見ていても、揺らぐ様子は全くありません。

 

 

白銀「なぁ、これは流石に俺達の出番じゃね?」

 

 

黒津木「だなっ、あと頼んだ!!行くぞ創!!!」

 

 

神威「はァ!!?何やるかくらい言えよ!!!」ズリズリ

 

 

 突然、そう言ったや否や、司書さんを引きずって彼らは実験室を後にしてしまいました。

 タキオンさんはため息を吐いて、何も言いませんでしたが、呆れ果てたのでしょう。現に私も、この状況であそこまで元気で居られる彼らの気を疑ってしまっています。

 

 

スズカ『走りましょう。サブトレーナーさん』

 

 

桜木『それは君達の役目でしょ!!?』

 

 

マック「スズカさんも.........ダメみたいですわね」

 

 

タキオン「ま、まぁ、彼女は走る事に何か付け加えて楽しむ傾向にあるから、まず走らなきゃ行けないのがネックだね.........」

 

 

 山を登ったり、景色を楽しむと言うのが以前スズカさんから聞いた趣味でした。一見普通のように思えますが、その行為には必ずと言っていいほど走るという事が併合されています。

 ウマ娘と言うのは走るのが好き.........とは言っても、流石に限度があると思います。

 

 

スペ「つ、次は私が行きます!!」

 

 

テイオー「うん!!頑張ってね!!スペちゃん!!」

 

 

マック(.........なぜおしゃぶりを手に?)

 

 

 不安を拭えないまま、次々と打ち立てた作戦がこなされていく。彼が思いとどまったのかさえ確信がない中、時間ばかりがすぎていきます。

 

 

スペ『サブトレーナーさん!!クリークさんから強くなる為の秘訣を聞きました!!試したいです!!』

 

 

桜木『今度はスペ.........?あぁ、うん。でちゅねでも何でもいいから.........』

 

 

マック「.........羨ましぃ」ボソッ

 

 

タキオン「ンん〜〜〜!!?今のは彼とそういうことがしたいという解釈で良いのかな〜〜〜!!?」

 

 

マック「はいはい。どうぞご勝手に」

 

 

 彼がスペシャルウィークさんに膝枕をされている映像を見て、つい本音が漏れだしてしまいましたが、頬杖をつきながらタキオンさんを軽くあしらうことで事なきを得ます。

 .........本来であれば、彼の枕になっているのは私の膝であるはず。なんて支離滅裂な思考も一瞬で、次にはもう、彼が辞めてしまった後の事を考えてしまいます。

 

 

タキオン「.........おや、廊下からニコロくんが来てるね」

 

 

マック「あっ、開けましたわ」

 

 

タキオン「.........静かに閉めたねぇ」

 

 

桜木『待てッ!誤解だ!!これはスペが早くなりたいって言うから!!!』

 

 

ニコロ『ふざけるなァッ!!!学園の生徒に手を出すなど、そこまで性根が腐っているとはなッッ!!!』

 

 

 彼は全速力でニコロさんを追い掛け誤解を解こうとしますが、元殺し屋から放たれる拳一閃が彼の頬にねじ込まれます。

 きりもみに回転して壁に激突し、痛みに悶えながらも誤解を解こうとしますが、うじ虫を見るような目付きで一蹴されます。

 

 

ニコロ『消え失せろッ!二度とその面を見せるなッッ!!!』

 

 

桜木『酷い.........俺が、俺が何をしたって言うんだ.........』

 

 

タキオン「いや、うん.........これは可哀想だ」

 

 

 彼の不運にも磨きが掛かっているような気がするのは気のせいでしょうか?最近はもう哀れみを感じることしか無くなってきました。

 これでは、埒があきません。ここはもういっその事、直接聞くしか無いようです。

 

 

マック「.........チームの皆さんで乗り込みましょう」

 

 

タキオン「ああ、私も丁度、それしかないと思っていた所さ」

 

 

 隣でそう呟く彼女の表情は、いつもと違い、鋭さを帯びた真剣さがありました。彼女もどうやら思う所があるそうです。

 そうと決まれば、話は早いです。傷心気味にチームルームのあと片付けをし、職員室に戻って行ったトレーナーさんを追う為に、私達は準備を整え、彼の向かった職員室へと向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ひ、酷い目にあった.........」ボロッ

 

 

 今日は何故か来客が多い。しかも、ただの来客ではなく、俺と何かしたいという物だったり、俺に何かしたいという感じの提案をしてくる。

 なんだ、今日は母の日ならぬトレーナーの日なのか?日頃の感謝を伝える祝日にあの権力ロリっ子ヤクザ理事長が制定したのか?大いに有り得る。

 

 

桜木(それにしても、な〜んか視線感じんなぁ.........?)

 

 

 職員室に戻り、席に着いたは良いものの、最近は感じることの無かった視線圧。いや、以前は一般出の素人トレーナーというレッテルが貼られていた為、それは嫌悪感であったが、今のそれから感じ取れるのはマイナスの物ではない気がする。

 今日は不思議な事が多いもんだ.........そう思いながら、今年のダービーやデビュー戦に向けての資料を作ろうとキーボードを近付けると、職員室の扉がノックされた。

 

 

「失礼します」

 

 

桜木(あれ、マックイーンの声?)

 

 

 彼女の声だ。そう思い、耳だけを向けていた意識を、視線と身体全身で向けてみる。扉を静かに開け、車椅子で入ってくるマックイーンの姿が見えてくる。

 .........いや、彼女だけじゃない。チーム[スピカ:レグルス]のメンバーが勢揃いしている。一体、どうしたというのだろう?

 

 

マック「トレーナーさん」

 

 

桜木「ど、どうしたの?今日ってもしかしてなんかの記念日?みんな俺に優しいなと思ってるんだけど.........」

 

 

 目の前までタキオンに押されて来たマックイーンに、そう問いかけてみる。帰ってきたのは沈黙だった。これがハンター試験ならばそれは肯定となろう。

 だが、ここは日常。沈黙は沈黙以上の意味を持たず、そして、それに意味自体は存在していない。黙りたいから、黙っているだけなのだ。

 

 

マック「トレーナーさん.........」

 

 

桜木「う、うん」

 

 

マック「.........トレーナー、さん......」ジワ...

 

 

桜木「え」

 

 

 徐々に震えを帯び出す彼女の声。しっかりと俺の方を見てくる彼女の目には、見慣れることは無い涙が溢れ出し始めていた。

 

 

桜木「だ、大丈夫!!?おおお俺なんかした!!?」

 

 

マック「うぅぅ.........トレーナーさん.........!!!」

 

 

タキオン「えぇ.........?」

 

 

 遂に本格的に泣き始めてしまったマックイーン。その姿を見て、他の子も感化されたのか、ウララもライスも泣き始めてしまう。ブルボンは声を出さないまでも、静かに直立不動で泣き始めてしまった。

 涙を流していないのは、我慢しているデジタルと、この唐突な状況に引き気味なタキオンだけだった。

 

 

桜木(ま、不味い.........ただでさえスペのでちゅねがバレかけてんのに、担当全員泣かせてたらマジでクビになる.........!!!)

 

 

桜木「お、落ち着こ?な?なんだみんな〜?俺は、別にやましい事も、隠し事もしてないぞ〜?」

 

 

「嘘だッッ!!!」

 

 

 唐突に張り上げられた声。その声にはあまり、馴染みというか、聞き覚えはない。誰が声を上げたのか、それを確認するために視線を移してみたが、やはりそれは、知らないトレーナーだった。

 

 

「隠し事してないなんて........デタラメだ!!!」

 

 

桜木「え」

 

 

「そうだ.........!!!どうして辞めちゃんだよ!!!せっかくお前の事、素直に認められるようになってきたのに!!?」

 

 

桜木「え゚ぇ゚!!?」

 

 

 何!!?うちの子だけじゃなくてここに居るトレーナー全員泣き始めたんですけど!!?何が始まるんです!!?いや、なにか始まってるんですか!!?皆もしかして千の風になってがリアルタイム幻聴してる訳!!?

 

 

桜木「ち、ちょっと桐生院さぁ〜ん。みんなおかしいよねぇ?急に泣き始めちゃったり.........」

 

 

桐生院「ぅうっうぅっ.........桜木さぁ〜ん.........!!!」

 

 

桜木(この子が一番ひどい泣き方してるぅ〜!!?)

 

 

 もうどうにもならないと言うように、片手で口元を抑えながら涙を流す桐生院さん。泣いていなかったデジタルもついに涙を流し始め、泣いていないのはついに俺とタキオン二人だけになった。

 どうするべきかなんて言う、次の行動の為の思考すら生まれない。どうして?何故?が常に反復横跳びの状態で俺の中に現れる中、勢いよく職員室の扉が開け放たれた。

 

 

東「.........」

 

 

桜木「あっ、東先輩!!?お願いします!!!助けて下さい!!!」サササッ!

 

 

 新米トレーナー職員室に入ってきたのは、ベテラントレーナーである東さんだ。正直この状況、俺の手にはとても負えない。ここは彼に任せ、俺はちょっとトイレにでも行ってこよう。

 そう思い、俺は職員室の中心に彼を連れてきた。皆が注目する中、どうにかして彼から誤解を解いて欲しいというか、打開して欲しい。そう思い、口を開いた。

 

 

桜木「みんな!!!落ち着こう!!!」

 

 

「.........!!!」

 

 

桜木「なんで皆泣いてるのか分かんないけど!!!多分俺がなんかしちまったんだと思う!!!正直、何したのか分かんないし、誤解かもしれない!!!だから、東さん。お願いします!!!」

 

 

 自分でもよく分かる。雑な振りだ。だがもう、頭が働いてくれなかった。この変な空気に当てられて俺もおかしくなっていたんだ。

 そうこうしている内に、皆の視線が東さんへと向く。これで良し。後はトイレにでも行っていれば自然と元通りになっているはずだ。

 そう思い、俺はこの場から離れようとした。

 

 

「.........違う」ガシッ

 

 

桜木「.........へ?」

 

 

 歩みが止まった。俺にとって、ヴァルハラへ向かう為の前進が今、止められたのだ。他の誰でもない、東さんに。

 一体どうしたのだろう?そう思い、俺は初めて東さんの様子をちゃんと伺ってみた。一言で表すなら、不穏だ。いつもの様子と違う彼が、ここに居る。

 そんな不穏な空気の中、俺は動けずに居る。その中で動いたのは目の前に居る男だ。だが、動いたと言っても、その両膝を地に付かせただけだった。

 それでも、この場の注目を一点に集めるには十分なものだった。

 

 

東「違うんだ皆.........!!!お前らやマックイーンの骨折なんかじゃなくて.........桜木が辞めちまうのは俺のせいだッッ!!!」

 

 

桜木「えええぇぇぇぇぇ!!!!!???」

 

 

 何だこの人!!?いきなり全ての罪を一身に背負い始めたぞ!!?一体本当にどうしちまったんだ!!?あの事を俺は許してはいないけどもう気にしちゃいないぞ!!?

 慌てて周りを見ても、未だに涙しか流さない。誰も、東さんの奇行を止めてくれる人は誰もいない。タキオン、お前は笑ってないで止めてやれ。そして俺のデスクに隠してたおもちゃのライフルを出すんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや辞めるってそもそも何!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきからなんかチラホラ聞こえた来てたけど、 敢えてスルーというか!!!なんかミュートしてましたけど!!!なんすか!!?俺辞めるんすか!!?

 も、もしや.........俺、マジモンのクビ?俺に話行ってないだけで、秘密の集会かなんかで可決された?理事長から?権力ヤクザロリっ子から?

 こ、ここは確かめなければ.........!!!

 

 

桜木「ち、ちなみにその話はどこから.........」

 

 

全員「.........」スッ

 

 

 その指の向かう先は二つ。一つは桐生院さんに向かってだった。チームメンバーと東さんは彼女を指していた。

 そしてもう一つは.........窓の外の方であった。遠目で見れば、いつものメンバーが盛大に何かの紙をばらまいている。

 俺は、窓を開けて確認して見た。

 

 

黒津木「おぉぉぉぉい!!!玲皇が辞めるぞぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

神威「署名にサインを!!!あとアイツの住所をトレセン学園に変更して辞めたくても辞めれない環境作りに御協力を!!!」

 

 

たづな「こ、困りますから!!!一般生徒やトレーナーの方々を巻き込まないでください!!!」

 

 

白銀「うるせェッッ!!!玲皇が辞めるっつってんだろォッッ!!!」

 

 

桜木「何やってんだアイツら.........」

 

 

 思わずそんな事を口に出してしまうくらい困惑してしまった。本当に何やってるんだ.........あと神威、お前はブラック勤務のせいで辞めさせない方法がそれになってるぞ。

 白銀に至ってはあの学園の悪は絶対に許さないたづなさんをうろたえさせている。どういう事なんだ一体.........

 もう既に機能を果たしていない思考回路を無理やり働かせようとした所、またもや職員室の扉が開けられる。その方向を見ると、沖野さんと、何故かユニフォームを着てサッカーボールを抱えたゴールドシップがそこに居た。

 

 

沖野「みんな聞いてくれ!!!桜木は辞めない!!!さっき理事長に確認してきたからな!!!」

 

 

全員「え.........?」

 

 

ゴルシ「いや、なんでおっちゃんも驚いてんだよ」

 

 

 俺も思わず驚いてしまった。もしかしてワンチャン理事長に辞めさせられるんじゃないかと思ったから。いや、でも良かった。これで外部的要因は無くなっ.........

 

 

黒津木「あァァァァァ!!!玲皇が辞めちまうゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

神威「クッソ!!!辞める前に俺が殺してやる!!!アイツの最後の職業はトレーナーだって白銀と賭けちまった!!!負けたら俺の本全部燃やされちまう!!!」

 

 

白銀「あ!!!それ今思い出した!!!絶対辞めさせてやっから!!!玲皇ォォォォ!!!創に殺される前に退職届にサインしろォォォォ!!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

 いや、まだ残ってた。俺の周りの環境を最悪にしてくる原因。それを取り除かねば、俺の平穏は訪れる事は決してない。

 俺は内にふつふつと湧いてきた怒りを原動力に、ゴールドシップに近付いた。

 

 

桜木「悪いッ!!サッカーボール借りるわ!!」

 

 

ゴルシ「な、はァ!!?これはおっちゃんと皆の親睦を深める為に超次元的なサッカーを.........」

 

 

桜木「ウマムスイレブンはまた今度なッ!!!」ダッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「テメェェェらァァァァッッ!!!」

 

 

三人「げっ!!?玲皇!!?」

 

 

 上靴から外靴に履き替え、学園の正面玄関から奴らの前へと躍り出る。アイツらの事だ。最初は皆と同じように勘違いしてたと思うが、絶対後からそうじゃないと気付いた筈だ。

 だがバカは高い所と同じくらい祭り好き。どんちゃん騒ぎができるのならどうでもいいバカだ。俺はそれを粛清しなければならない。

 

 

桜木「覚悟は良いなァッッ!!!」ズバァンッ!

 

 

白銀「ドワッ!!?」

 

 

 抱えたサッカーボールから手を離し、重力による自由落下を与える。地面に着き、バウンドした頂点。最も外部的影響を受けない位置で渾身のシュートを繰り出し、白銀の顔面にぶつける。

 

 

桜木「トドメェッッ!!!」ドスッ!

 

 

神威「ゴエッ!!?」

 

 

黒津木「ま、まさかアレは.........伝説の.........!!!??」

 

 

 白銀の顔面に当たり、跳ね返ってきたボールを、今度はその右手で殴りつけるようにして打ち返す。その先には神威。流石に顔面は眼鏡をかけているので、溝らへんに向けて放つ。俺は優しいから。

 だが、ボールは先程のように俺の方へ戻ってくること無く、空高く、上空へ舞い上がってしまった。そこまで天高く一飛び出来るほど、俺は人間離れしていない。

 それでも方法はある。俺は背後にある学園の壁に向かって跳躍し、そこから更に壁を蹴って上へと上がる。

 身体を地面に対して徐々に平行にしていき、フィギュアスケートの様に腕を閉じ、回転させる。足を伸ばせば届く位置まで来た俺は、そこから身体を広げ、地面に向けてシュートを放った。

 

 

桜木「終わりッッ!!!」ズバババァン!

 

 

黒津木「ジェクトシュートォォォォッッ!!!」ズサァッ

 

 

 俺の渾身のシュートが炸裂したのを見て、俺は自由落下を始めた身体を、今度は地面に対して平行から垂直にし直す。

 タイミングさえ掴めれば、この程度の高さなら無傷で着地できる。足が地面に着く瞬間、なるべく力を入れず、かと言って入れなさ過ぎずに着地し、膝を折り曲げ、手を付き、前転する。

 

 

桜木「.........あのボール良いな」

 

 

 頭の中で勝利のファンファーレが流れる。目の前に倒れ伏す三人を後目に、俺はゴールドシップから借りたボールを持ち、何事も無かったかのように学園内へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「ベテラントレーナーの承認を蹴ったぁ!!?」

 

 

桜木「おう!」

 

 

マック「な、なぜですか.........?」

 

 

 あの後、しっかりと彼から話を聞く為にチームルームへと集まりました。そして聞いた所によると、彼は理事長からベテラントレーナー昇任の案内を蹴ったという話でした。

 桐生院さんが見たのも、『退職届』、ではなく、『辞退届』だったそうです。全く、紛らわしいにも程がありますわ。

 

 

桜木「なぜって.........俺がベテランって言う風貌してるか?」

 

 

テイオー「た、確かに.........」

 

 

沖野「おいおい、普段の行いは目に余る部分もあるが、お前さんはちゃんと結果を残してるじゃねぇか」

 

 

桜木「だとしても、この曲者揃いのチームで振り回されてる姿や、俺が好き放題してる姿を新人が見たら.........なんかこう、やる気無くさないですか?」

 

 

東「.........一理あるな」

 

 

 トレーナーさんの仰ることも最もだったそうで、ここに居る大人の方達は皆、納得しつつも、その行動を惜しんでいました。

 

 

桐生院「で、でも!ベテラントレーナーになればお給料も上がりますよ!」

 

 

桜木「それなぁ、理事長にも言われたけど.........俺お金が嫌いなんだよなぁ。あるのもないのも好きじゃない」

 

 

ダスカ「どっちよ.........」

 

 

桜木「程々でいいの程々で。俺は今の稼ぎが丁度いいと思ってるし、なくて苦しんだり、あって驕り高ぶることもないからね」

 

 

 やれやれ、という仕草を取る彼。この分なら本当に心配はなさそうです。最初はどうなる事かと思いましたが、何とか解決することが出来ました。

 

 

タキオン「それにしても、まさか職員室で泣くとはねぇ」

 

 

マック「なっ、あれはその.........ほ、他の方も泣いていたので、釣られてしまっただけですわ!!!」

 

 

桜木(いや、思いっきし一番乗りで泣いてたけどね。マックイーン.........)

 

 

 

 

 

 ―――いやぁ、あの時は本当にびっくりした。状況を改めて教えられたけど、それでも泣くまでとは思えない。

 まぁ、彼女にとって俺がそれくらい大きい存在になったと言うのは、嬉しい事なのかそうじゃないのか.........

 お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、殆どの人達は皆チームルームを出ていく。勿論、沖野さんや桐生院さん。東さんと言ったトレーナー陣もだ。

 

 

桜木「.........お前、授業は?」

 

 

ゴルシ「あん?ゴルシちゃんはこう見えてスーパーエリートウマ娘だからな!!たまに他の奴らの為に出ないでやんないと!!」

 

 

 なんだその理屈は、成績は良さそうだが態度が良くなさそうだからちゃんと出席しなさい。

 とは言っても、コイツは聞き入れないだろう。ゴールドシップと言うのはそういうウマ娘だ。

 

 

ゴルシ「いや〜、それにしても安心したぜ〜!!辞めねぇんだろ?トレーナー」

 

 

桜木「当たり前だ。天職みたいなこの職を辞めることなんて絶対―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――他人の夢にすがるのはやめろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「っ、いっ.........!!?」ズキンッ

 

 

ゴルシ「っ!!?おっちゃん!!?」

 

 

 ノイズ混じりの音声が頭の中で再生される。まるで、鍵が掛けられたものを無理矢理こじ開けられたように、激しい頭痛が俺を襲う。

 思わず、しゃがみこんでしまった。吐き気を伴う程の頭痛は体験した事があるが、それも徐々に強さを持つもので、ここまで唐突に来るのは初めてだった。

 

 

ゴルシ「おい!!大丈夫か!!?救急車呼ぶか!!?」

 

 

桜木「っ、大丈夫っ.........だ。悪いけど、デスクの引き出しに頭痛薬あるから.........それ取ってくれ.........」

 

 

 正直、それで何とかなるとは思えないが、今はそれに頼るしかない。俺の背中をさすっていたゴールドシップが、それを取るために離れる最中、俺はその声に注意を凝らしてみた。

 

 

ゴルシ「クソっ、どこだよ.........!!!」ガサゴソ

 

 

桜木(.........最近見る、夢では無いな.........)

 

 

 ぼんやりとだが、朧気に想起させられる情景。不確かな空間ではあるが、夢と言うには説得力のある物の配置だ。

 だが、どうやっても思い出せない。鍵はこじ開けられたはずなのに、俺の無意識がそれを拒絶している。今がチャンスなのに、これを知る機会はもう、無いかもしれないのに。

 手を伸ばすんだ.........ずってでも、這ってでも.........もがいて―――

 

 

ゴルシ「おっちゃん!!水入れたから!!飲めっか!!?」

 

 

桜木「あっ.........あぁ、悪いな.........」

 

 

 あと少しだと思った。ようやくノイズやぼやけが消え出した記憶に手が掛かった。その瞬間、俯いていた視線を、顎に優しく手を添え、視線を彼女の顔に持ってかれる事で中断される。

 

 

桜木「.........」

 

 

ゴルシ「.........?な、なんだよ?」

 

 

桜木「.........いや、なんかお前の顔見てると落ち着くなって.........な」

 

 

 何故かは分からないが、彼女の顔を見てほっとする自分が居る。彼女は照れ臭そうにしながらも、コップと薬をテーブルに置き、俺を椅子に座らせてくれる。

 ここ最近、頭痛薬に頼りっぱなしだ。自己管理がどうとか思うが、完全に不可抗力だ。自分ではどうしようもない。

 

 

ゴルシ「.........出てった方がいいか?アタシ」

 

 

桜木「気遣いは嬉しいけど、俺は寂しがり屋なんだ。授業サボるってんなら、ここに居てもいいぞ.........」

 

 

ゴルシ「おいおい、とても学園で働いてる奴のセリフじゃねーな」

 

 

桜木「サボリンピック12年連続金メダリストを舐めるな」

 

 

 薬を飲み込み、一息つく。これからやることも沢山あるのに、こんなのが続いたら大変だ.........なんて、先の見えない未来を憂う。

 今はそんな事を気にしても仕方が無い。かと言って、それを対処する準備も今は体調が悪くて出来ない。

 俺の隣に座る事でサボるという意思表示をしたゴールドシップと他愛も無い会話をする事で、俺はこの不安を、何とか見て見ぬふりをすることが出来たのであった。

 

 

 

 

 

......To be continued

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