山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
マック「.........ふぅ」
桜木「だ、大丈夫か?あまり無理しない方が.........」
マック「いいえ。メジロのウマ娘として、この程度の怪我でへこたれる訳には行きません。せめて、自分の足で立っている姿を皆さんに届けなければ.........」
6月の初夏を迎えたトレセン学園。既に一年の半分が過ぎてしまったと言うのに、未だにその実感が湧かないのはきっと、この怪我のせいでしょう。
来る日も来る日も、車椅子に乗り、授業と皆さんのトレーニングのマネージャー。まぁ、得ることも多くありましたが、やはりアスリートとしては、身体を動かすメリハリが無ければ、心も体もなまってしまいます。
今は放課後のトレーニング前のミーティング。普段であるならば、手短に用件をそれぞれに伝え、各々トレーニングをしていく筈ですが、今日は違いました。
タキオン「インタビューだからと言っても張り切りすぎじゃないかい?」
ライス「マックイーンさん?大丈夫?い、痛くない.........?」
マック「お気遣い感謝致します。ですが、これは必要なことなのです.........!」
そう、本日はタキオンさんとウララさんのデビュー。そして見事ダービーを走り切ったブルボンさんとライスさんへのインタビューです。是非、チームの皆さんで取材をということらしいのです。
私が骨折してからというもの、ファンの皆さんから暖かい言葉を多く頂きました。それに応えるため、今日のインタビューではしっかりと、自分の足で立っている姿を見せたいと思ったのです。
それでも.........うぅ、彼からの提案とは言え、車椅子で生活しているせいで痛みは無いにしても足が重い.........筋肉量のバランスを崩さないで居られるお陰で、なんとか立つことはできますが、まるで産まれたての小鹿みたいで.........
マック「っひゃぁ!!?」ガタンッ!
全員「あっ!!?」
桜木「どうわっ!!?」ドシーンッ!
どうやら、椅子の足に自分の健康な方の足を引っ掛けてしまったようです.........こんな程度、怪我さえなければ.........と言うより、そもそも引っ掛かる事すら無かったのに.........想定よりも鈍っている自分の身体に、少々焦りが生じます。
.........でも、おかしいです。倒れて地面に身体を打ち付けている筈なのに、あまり痛みが.........
ウララ「マックイーンちゃん大丈夫!!?」
マック「え、えぇ.........痛みはありませんわ.........」
ブルボン「恐らく、マスターが下敷きになった影響で身体へのダメージに補正が入ったのでしょう。良い判断だったと思われます。マスター」
マック「え.........?」
マスターが下敷き。その言葉に私は最初、理解が及びませんでした。でも、私の下に何かがある事は分かります。恐る恐る視線をそちらへ向けると.........
桜木「.........どうも」
マック「.........」...ポンッ///
え.........なんでトレーナーさんが下に居るんですか.........?と、と言うより、顔がちか.........!!?
は、離れなければ!!!し、心臓が壊れそうな勢いで急に動き出してきました!!!このままでは身が持ちません!!!
デジ「あっ!!!今丁度いいポージングなのでお二人共動かないで頂けます!!?すぐ資料にしますので!!!」
二人「え」
こ、この状態で動かないと言うことは.........こ、こんな鼻先が触れ合ってしまう距離を保つという事ですか.........!!?
し、しかし。いつもチームに献身的に貢献しているデジタルさんの珍しい頼み.........む、無下に断ることは出来ません.........
うぅ.........彼の吐息がくすぐったい.........わ、私の鼻息は大丈夫でしょうか?か、彼に不快な思いをさせてなければよろしいのですが.........
たづな「桜木トレーナーさん!乙名史記者が来まし.........た」
全員「あっ」
乙名史「失礼しま.........!!?こ、これは.........!!?」
私達の姿を見て固まっているたづなさんの背後から、記者である乙名史さんが教室の中へと入ってきてしまいました。
先程まで、心臓が痛い程に鼓動を繰り返していましたが、今では別の意味で心臓が壊れそうな程、この胸を叩いています。
血の気が引く私達。感情の昂りを思わせるような震えを見せる乙名史さん。静かに怒りをあらわにしているたづなさん。この状況は非常にまず―――「素晴らしいですッ!」.........い?
乙名史「見た所によると!メジロマックイーンさんの歩行練習の際!倒れた所をトレーナーである桜木さんが下敷きになる事で彼女を無傷で救ったと見えます!!」
乙名史「きっと!!多くの心配するファンに答える為の歩行練習だったのでしょう!!マックイーンさんも素晴らしいです!!そしてその様子を後世に残そうとアグネスデジタルさんはスケッチを.........!!!」
乙名史「私、感服致しました.........!!!」
全員「.........」ポカーン
あ、当たっています.........事の顛末が全て、彼女の言う通りに当てはまっています。まぁ、デジタルさんの部分は少々違うと思いますが.........
それにしても、彼から乙名史さんの事を聞いた時は、超極大誤釈による評価上げによって自然と評判にはなりますが、それが事実になる確率は多分天文学的数字になると言っていましたのに.........
もしや、私達は今、とんでもない歴史的瞬間に立ち会ったのではありませんか?これこそスクープになるような.........
たづな「.........事情はわかりましたが、その、マックイーンさん?」
マック「?はい」
たづな「そこから離れてくれないと.........学園的にも、風紀に関わる事に.........」
マック「え?あっ.........」カ〜...///
ーーー
乙名史「ではこれからインタビューを始めさせていただきます」
レグルス「よろしくお願いします!」
俺達は元気良く挨拶をする。一時はどうなるかと思ったが、まさかまさかの乙名史さんの飛躍解釈により事なきを得た。
だが、一息つく余裕は無い。俺は今、とてつもない不安に駆られているのだ.........
乙名史「いつも通りのレース関連のお話もしたい所ですが、今回は読者の方々の質問もありますので、そちらも混じえて聞かせてください!」
タキオン「構わないよ。どんな質問にも答えて見せようじゃないか」
桜木(タキオンんんんん.........お前のことだぁぁぁぁ.........!!!)
妙な胸騒ぎがする。このアグネスタキオン。どうしてかは知らないがこの場でなにか爆弾的な何かを落とす気がする。
まぁ、気の所為ならいい。俺の不幸によって鍛えられた嫌な予感センサーの誤作動であるならばそれでいいのだ。
乙名史「まずは、ミホノブルボンさん。見事無敗の二冠達成、おめでとうございます!」
ブルボン「ありがとうございます。これも全て、トレーニングを見てくれるマスターと、切磋琢磨出来るチームメンバーのおかげです」
乙名史「ライスシャワーさんも、惜しい所でした。結果は負けてしまいましたが、良いレースだったと思います!」
ライス「!えへへ、ありがとうございます.........!」
.........やっぱり、この人は他の記者とは違う。インタビューが始まってまだ最初だが、 俺のその思いは改めて強まった。
ブルボンがダービーを取った。それはまだ事実だから良い。だが、その華やかな結果だけを写し、他の努力を積んできた子を無視するような記者が多すぎる気がする。
ただ、ろくでもない奴が多いと言うのはマックイーンの秋の天皇賞の時に身を持って理解した為、今更期待もしないが、それでも悲しいものである。
乙名史「そういえば、ライスさんは関東、特に東北方面では中々人気がありますが、何か理由をご存知でしょうか?」
ライス「あっ.........!お、お兄さま!しーっ、だよ?」
ぐいっ、と俺の袖を引きながら、ライスは その人差し指を自分の口の前まで持っていく。どうやら、恥ずかしいから秘密にして欲しいらしい。
だけど、俺はトレーナーだ。ウマ娘の為になるのなら、俺はどんなことだってやる!それが例え、ライスが恥ずかしいと思っている事だとしてもだ!!
桜木「.........実はですね。ここにある一本の動画がありまして.........」
ライス「わ、わー!!やめてよお兄さまー!!」
乙名史「は、拝見させて頂きますね.........!!」
よっぽどそれを見られるのが嫌だったのか、手を伸ばして俺のスマホを取ろうとする。だけど少し身長が足りなかったな。ライス。俺がちょっと手を伸ばすともう届かないぞ?
そんなライスの可愛らしい抵抗も虚しく、俺のスマホは乙名史さんへと渡される。動画は既にセットしている為、タップするだけで再生される。
ライス『スペシャルウィークさん!北海道の人って、話す時に[べや]って言うよね.........?』
スペ『はい!北海道弁です!』
ライス『ふふふ♪ライスね?最初は熊さんの事かと思ったんだー♪がおー!』
スペ『ああ![べあー]って事ですね!今まで全然気付きませんでした!』
桜木「これがバズりにバズって、今では東北のライスのファン名称は熊さんになってます」
そう。たったこれだけの動画がバズったのだ。タキオンから急に送られてきたと思ったらこれだったから俺は正直昇天しかけた。因みにデジタルは今初めて見せたので塵になった。
乙名史「なるほど.........確かに、これはファンが増えても納得できます!」
ライス「うぅ.........恥ずかしい.........///」
桜木「まぁまぁ、ファンが増えるのは良い事だからな?ライス」
その小さな両手で顔を覆ってしまったライスに優しく言い聞かせる。頭から湯気が出ているのが幻視してしまうほど可愛らしい仕草を見せてくれるが、これもトレーナーの務めだ。
乙名史「ではお二人に読者からの質問です。性格が正反対のお二人ですが、それとはまた違う性格の桜木トレーナーに振り回されて大変では無いですか.........という質問が来ています」
三人「え」
え、え、何その質問。答えずらすぎじゃない?視線だけズラして二人の様子見てみたけど、明らかに困惑してますよ?
い、いや。俺はトレーナー。彼女達の内に秘めた評価を聞き、それを改めるのも役目という物.........俺自身、常識がない部分が多々ある。きっと心底思う所があるだろう。全部、あいや、半分.........三分の一くらい真に受けて見ようじゃないか!
俺は、打ち壊される前提で彼女達の話を聞こうと思った。だって仕方ないだろう?こんな周りを巻き込んでハプニングやトラブル起こすトレーナーなんて、もっとしっかりして欲しい以外の感想なんて出てきやしない。
けれど、最初に口を開いたブルボンの様子からは、怒っていると言うよりも、なんというか、優しい気持ちが伝わってきた。
ブルボン「.........私は良く、表情の変化が乏しいと言われたり、機微がないと言われます」
ブルボン「トレセン学園に入ってからの私は、走る事以外には勉学以外の事をせず、友人と呼べる人達も居ませんでした」
ブルボン「ですが、マスターはそんな私に、『楽しい』という感情をその存在を持って教えてくれました」
彼女が口を開いたと思ったら、突然シリアスチックな真面目な空気に様変わりする。まさかそんな事を言われると思っていなかったから、思わず泣いてしまいそうな程に衝撃を受けている。
ブルボン「確かに思う所はありますが、マスターが楽しんでいる姿を見ていると、私も安心して楽しめるんです」
ライス「ら、ライスもそう、かな?」
ライス「いつも大変な目にあってて、可哀想って思うんだけど、おに.........トレーナーさんはそれでも、楽しそうにしてるの」
ライス「そんなトレーナーさんを見てると、ライスもなんだか、何でも楽しめる気持ちになるんだ.........!」
彼女も、俺に不平不満を言う事はなく、その心全部で俺の事を肯定してくれる。正直、涙が出そうになった.........こんな子達がチームになってくれて、本当に良かった.........!
乙名史「素晴らしいです.........!桜木トレーナーの良い影響を皆さん受けているのですね!」
桜木「い、良い影響だなんて!俺はいつも、こんな大人にならないか心配で.........」
全員「それは無い!!!」
桜木「あ、あはは.........」
思いっきり否定されてしまった。まぁ、こんな滅茶苦茶な大人なんて探そうとしてもそうそう見つからない自信はある。俺個人としては普通なのだが、トラブルやハプニング、そしてあのゴミカス(控えめ表現)共が居ると混沌を極めてしまう。
そうしている内に、インタビューは次第に、デビュー戦を終えたタキオンとウララの話へと移っていく。
乙名史「ではここからは先日、デビュー戦を終えたアグネスタキオンさん、そしてハルウララさんにインタビューをしていきたいと思います」
ウララ「よろしくお願いしまーす!!」
タキオン「お手柔らかに頼むよ」
俺がお手柔らかにお頼みしたいのはお前の方なんだが.........なんて口が裂けても言えない。後で拗ねられても手に負えないからだ。
とにかく、爆弾発言だけは避けてもらいたい.........
乙名史「ではお二人にまず、レース直前、桜木トレーナーからなんと声をかけられましたか?」
桜木「.........質問が随分と具体的ですね」
乙名史「ええ!貴方のレース前の言葉!とても好評なんです!!次はどのような言葉を掛けるのかを楽しみにしてる人もいるんですから!」
桜木「えぇ.........?」
どうやら、毎度デビュー戦恒例の声掛けが好評らしい。俺自身、新たな門出である為、本人と同じように期待している事を伝えているだけなのだが.........
まぁ、そんな青臭いパフォーマンスも喜ばれると言うのは身を持って知っている。日本人男性はいつも男子心を持ち合わせている。突っ走る様な勢いのある青さが皆大好物なのだ。
ウララ「えっとねー!!トレーナーが走る前に言ってくれた事はねー!!」ブンブン!
桜木「う、うん。思い出すのは良いけど、一旦落ち着こうな.........?」
腕をぶんぶんと音が出る程の勢いで振るウララ。何がそこまで楽しいのか、はたまた嬉しいのかは分からない。
だが、彼女にとっては良い思い出なのだろう。そんな楽しげな感情を引連れたまま、彼女は嬉しそうに話してくれた。
ーーー
ウララ「デービユー♪デービユー♪」
あのねあのね!!走る前の、チカバドウ?だっけ!!あそこでね!!わたしもう走りたくて仕方が無かったんだー!!
走りたくて走りたくて、うずうずーって感じなの!!学園で皆と走ってた時と違って、こう.........ふいんき?が違ったの!!
桜木「ウララ」
ウララ「!!なになにトレーナー!!」
それでねそれでね?トレーナーがゆっくり、ウララの名前を呼んでくれたんだー♪ウララと遊んでる時もたまにこういう風に呼んでくれるの!!
でもね?トレーナーがウララの肩に手を置いた時に思ったんだ!いつものトレーナーじゃない!って!
優しいんだけど、優しくない?そんな感じ!!だからちょっとびっくりしちゃった!!
桜木「楽しみか?」
ウララ「!うん!!ウララ!!皆といーっぱい走りたいんだー♪」
桜木「.........そうか、ウララが楽しんでくれるなら、あまりアドバイスとか緊張解しとかは、返って邪魔になるな」
トレーナーはたまに、難しいお話をする時もあるけど、ウララ頑張って聞いてるの!!でも、レースの前はしてこなかったんだー!!
それでね?トレーナーはウララの肩に手を置いたまま、ゆっくりしゃがみこんだの!!ウララと同じくらいの大きさになってくれたんだよ?
でねでね!!トレーナー、どんなお話してくれるのかなー♪って楽しみにしてたの!!ワクワクがだんだんいっぱい広がってくのがわかったんだー♪
「楽しんでこい、ウララ」
「お前の楽しそうな話、待ってる」
ウララ「.........!」
その時、わたし初めて思ったの。レースで力いっぱい走るのも楽しいけど、トレーナーにそれを見てもらいたいって!!
それでそれで!!わたしのレースしてる時の話!!たーっくさん聞いて欲しいって思ったの!!
ーーー
ウララ「それでねそれでね!!レースで1着になったからー♪トレーナーその後、ご飯屋さんに連れてってくれたんだー♪」
桜木「次も期待してるからな、ウララ」
ウララ「うん!!」
その時の事を思い出しているのだろう。ウララはしっぽを嬉しそうに振りながら可愛く笑っている。思わず頭を撫でてしまったが、問題は無いだろう。
乙名史「素晴らしいです.........!ウララさんの性格を読み、楽しむ事を決して邪魔しないお言葉.........!!それが彼女にとって最も走る理由になると熟知した上でのアドバイスや緊張解きを敢えてしない姿勢!!感服致しました.........!!!」
メモにペンを走らせながら、徐々に息巻き、ついには立ち上がって天を仰ぐような仕草をする乙名史さんに、俺を含めたチーム全員は苦笑いをする。
彼女はそこから何事も無かったかのように席に座り直し、今度はタキオンの方へと振り向く。
乙名史「では今度は、アグネスタキオンさんのお話をお聞かせ願えますか?」
タキオン「そうだねぇ。まぁ、トレーナーくんの言葉も印象に残ってはいるが.........」
そう言いながら、タキオンはチラリと俺の方に視線を流して来た。恐らく、思っている事は同じだろう。
あの日、タキオンのデビューと同等の大きな出来事が、起こったのだ。
ーーー
桜木「後は.........タキオンだけかぁ〜」ノビー
タキオン「随分気が抜けてるじゃないか。ここで負けてしまう可能性も、万に一つくらいはあると言うのに」
私のレースが始まる直前。地下バ道で彼は隣でその身体を気持ちよさそうに伸ばした。ここが日常ならきっと、間抜けなあくびもその行為にオプションとして追加されていただろう。
桜木「お前が負ける?ないない、お前自身がそう思ってねぇのに、俺が心配する必要なんて無いだろ?」
タキオン「.........全く、お陰で余計に負けられなくなったよ」
どこまでも破天荒、どこまでも向こう見ず、そして、どこまでも愚直。だから、成長した分を疑わず、そのまま先に進む事が出来る。以前の彼であったなら、きっと心配であたふたしていた所だろう。
しかし、このお陰で心配事は一つ減った訳だ。マックイーンくんの時の様に慌てふためく事は無いだろう。そう思い、私は静かに笑った。
その時だった。
「流石に、今回のデビュー戦は易々と勝てねぇと思うぜ?」
桜木「あ.........?」
タキオン「おや.........?」
背後からの突然の声。それは明らかに、私達二人に話しかけているものだと感じた。彼と同じタイミングで、その声に振り返る。
そこには、私達にとって、見知った顔がそこにあった。
タキオン「君は.........!!?」
桜木「な、何でここに居んだよ.........!!?」
「創!!?」
神威「なんでって、これ見りゃ分かんだろ?」
タキオン「それは.........なるほど、おめでとう、といった所かな?」
目の前で不思議そうな顔をして、片手にはパンフレットを、もう片方の手はその襟に付けた光り輝くバッジを見せつけるように服を掴む司書くん。私は以前から、彼の動向については知っていた為、驚きは直ぐに納得へと変わっていった。
だが、彼らの悪い所は自分の事を人に言わない事だ。トレーナーくんは私が納得までに至った根拠を知らない。彼は司書くんが付けたバッジを間近で凝視し、疑いの目を向けている。
桜木「お前.........嘘つきは泥棒の始まりっつうけど、本当に泥棒になんなよ.........」
神威「盗んどらんわ!!!こちとら真面目にせこせこ図書室司書しながらトレーナーの勉強してたんじゃ!!!」
桜木「トレーナーってよぉ、第一。見た限りお前そんなスカウトとかしてねぇじゃん。担当はどこだよ担当は?トレーナーになったからってレースに走れる訳じゃねぇんだぞ?種族変えてから出直せ?な?」ポンポン
神威「本当.........人をイラつかせるのが上手い奴だ.........」ピキピキ
可哀想なものを見る目で司書くんの肩を叩くトレーナーくん。知らないと言う事は人を滑稽にするものだと思っていたが、まさかこれほどまでに酷いものだとは思っていなかった。私も気をつけよう。
そう思っていると、司書くんの袖をグイッと引っ張る存在が現れる。その存在も、私がよく知る一人のウマ娘であった。
カフェ「何をしてるんですか......レースが始まりますよ.........?」
神威「.........ん!!!」
そのカフェの存在に硬直する二人。司書くんも驚き固まっていたが、トレーナーくんより先に硬直が解け、その掌で指し示すようにカフェの存在を誇示する。
桜木「え、え、マジで言ってる?」
神威「あぁ〜あ、ひっさびさに黒帯の実力を試したくなってきたなぁ〜.........?」ポキポキ
桜木「へいへいへーい!!俺達地球人!!皆友達!!!」
流石空手段位黒帯に達している司書くんだ。圧力も半端なものでは無い。トレーナーくんは如何に自分の正中線を守り抜くかという思考に移ってしまっている。
まぁ、このノリもいつもの彼らの物で、司書くんも慣れっこだ。彼はトレーナーくんを解放するように手で追い払うようにして彼を遠ざけると、トレーナーくんは難を逃れたように息を吐いた。
桜木「ふぅ、死ぬかと思ったぜ.........」
タキオン「友人だからと言って、そんな煽りを毎回の様にしてたらそれはそうなるだろう?」
桜木「俺は煽らなきゃ生きて行けねぇ」
タキオン「せめて君の親友だけにしておいてくれたまえよ?」
はぁ、とため息をつけながら、彼にそう忠告する。職業柄ストレスを貯めやすい為、こういった所で発散出来るのなら発散するべきだ。命を脅かさない程度にだが.........
そうこうしているうちに、入場のアナウンスが耳に入る。どうやらそろそろ時間らしい。
タキオン「それじゃあ行ってくるよ、トレ―――「待て」.........?」
桜木「お前にとって新しい舞台だ。そこに立つには、相応しい始まりが必要だろう?」
彼は私の肩に手を置いて、そう言った。その顔は、いや、正確には目だが。最初に見た時と同じように、私は狂っていると思った。
.........だが、それはきっと、私が狂っているからだろう。自分を基準にして物を考えれば、大抵のものには狂気が篭っている。そう考えれば、彼は世間一般で見れば、[普通]の枠組みから外れることは無い。
けれど、私はそれでも彼は[狂っている]と思う。この世界のどこに、一人ならいざ知らず、可能性だけを秘め、それを表に出さなかった者を五人も集めてチームを作るトレーナーなんてどこにいると言うんだい?
桜木「お前の信じている物、お前を疑っている者。全部ひっくるめて来い。その走りで―――」
「魅せつけて来い。タキオン」
「
タキオン「.........君って奴は、前から思っていた事だが、見かけによらずロマンチストだねぇ」
彼の口から出てきた言葉に、思わず笑ってしまった。別に、それが特段面白かった訳では無い。ただ、その言葉にあまりにもこの身体が反応を示してしまった自分に笑っただけだ。
あの日。退学勧告を受け、私が生徒会長と併走をしたあの時。彼の目の色を狂っていると言った。そして、それを彼は完全に否定することはせず、[深くなった]だけと言った。
その深さが深まる程、彼はきっと、私達を信じている事になる。今はそう、私は結論付けた。
桜木「ダメか?」
タキオン「ダメなものか、こうして君にそう言われる立場になって分かったよ。言葉の[重み]ってやつがね」
気分が高揚する。この表現がしっくり来るだろう。たった一つの言葉だけで、私は現に、今までに無い好奇心が駆り立てられている。
人を乗せるのが上手いとよく言われる彼だが、こうしてこの身に実感すると、それが良く分かる。
カフェ「.........私には無いんですか?」
神威「えぇ.........俺恥ずかしいからパスしたいんだけど」
カフェ「.........意気地無し」
桜木「そうだぞ創ぇ〜?これくらいのパフォーマンス、トレーナーたるもの士気を上げる為に.........ん?」
またからかうように司書くんに近付くトレーナーくんであったが、その彼が手に持っているパンフレットに目を移す。
何事かと思い、不安になりながらもその様子を見ていると、トレーナーくんは彼の手からパンフレットを奪い取り、一部分を凝視した。
桜木「.........創」ダラダラ
神威「.........なに?」ダラダラ
桜木「お前のレース.........来週だぞ.........」
カフェ「え」
タキオン「.........ぷふっ、アッハッハッハッハッ!!!」
ーーー
タキオン「いやぁ〜、あの時笑いすぎたせいで、負けるかと思ったねぇ」
桜木「嘘つけ、ぶっちぎりだったじゃねぇか.........あんなデビュー戦初めて見たぞ.........」
目の前でひょうひょうとうそぶくようにそんな事を言うが、実際タキオンのレースは凄かった。デビュー前の運営に送るデータではあまり良い物が取れなかった為、それはを元にした人気は三番人気であったが、どうやら本番で調子を取り戻してくれたらしい。
だが、これで肩の荷が降りた.........結局振り返ってみれば、爆弾発言などなかった。無事にインタビューは終わってくれるのだ.........
乙名史「素晴らしいお言葉に素晴らしいレース.........!!そしてライバルの登場.........!!これからの桜木トレーナーの邁進、行く末が楽しみです!!」
乙名史「あ、お話は変わりますが、読者の方からの質問に、休日はどのように過ごすのかという質問がお二人に来ております!ご回答お願いできますか?」
休日?休日か.........ウララはきっと、皆で遊んだりして過ごしているのだろう。そんな様子が見て取れる。タキオンは.........
待て、コイツのプライベートなんも分かんねぇぞ?まさか爆弾ってこれか!!?クソァ!!!こんな事になるなら爆弾解除しときゃあ良かった!!!いつからこの世界はときメモ方式になっちまったんだ!!?
桜木(タキオンっ!)
タキオン(?)
桜木(喋るな!!!)
タキオン(.........♪)ニヤリ
桜木()
終わった。何が終わったかは知らないが、とにかく何かが終わった。乙名史さんはウララの話を聞き、嬉しそうにペンを走らせている。
あぁ.........その目をタキオンに向けないでくれ.........その質問をこいつにしないでくれ.........なんかもう、嫌な予感がする.........
乙名史「ではタキオンさんも、休日の過ごし方を教えてください」
タキオン「そうだねぇ.........」フゥン
やめろぉぉぉぉ!!!どうせ人体実験とかしてんだろぉぉぉぉ!!!国で禁止されてるみたいな人体錬なんちゃらとか!!!人語を理解し話すキメなんちゃらとか作っちゃってんだろぉぉぉ!!?
タキオン「実験だねぇ」
桜木(終わった.........)
乙名史「なるほど.........因みにどのような?」
タキオン「最近は感情がウマ娘の走りに対してどのように作用し、相乗効果をもたらすかを研究しているのさ。この前は.........映画を見に行ったねぇ」
桜木(.........お?)
話を聞いてみるに、どうやら俺の考えていたようなことでは無かったらしい.........良かった。ここで素直に自分のトレーナーで実験薬の治験してます!なんて言った日には印象が最悪になる。下手すりゃ警察の出番だ。流石にそれは何とか避けたい。
だが、蓋を開けてみればなんてこと無かった。彼女も普通のウマ娘だったという訳だ。マッドサイエンティストだの目が濁ってるだの散々言われてきたが(俺に)プライベートは普通だった訳だ。
乙名史「ふむふむ、それは誰かとご一緒に?」
タキオン「あぁ、黒津木くんとだ」
桜木「え」
タキオン「先週も先々週も彼と出かけたねぇ。海外暮らしをしていた経験もあって、知識も豊富で退屈しないよ」
乙名史「.........」
その言葉一つで空気が一変する。乙名史さんもペンをスラスラと走らせていたが、それがぎこちなくなり、やがて動きを止めてしまった。
.........いやいや、そんなわけないだろう?だってあの、チキンで通ってるような男だぞ?黒津木という男は。確かに顔はイケメンの部類で俺達の中で一番整ってはいるが、性格はアレだぞ?
それに腐ってもこの学園の教員だ。そんなことある訳が無い
乙名史「その.........タキオンさんは黒津木さんとは、お付き合いをしている関係.........なのですか?」
桜木「そ、そんな訳ないよなぁ!!?タキオン!!?」
タキオン「アッハッハッハッ!何をそんな慌てふためいているんだいトレーナーくん?確かに世間一般で考えれば、休日にそのようなことをしていれば恋愛関係にあると言ってもおかしくは無いが.........」
その言葉を聞いて、俺はほっと一息を着いた。そうだよな、いくらなんでもそれは有り得ん。一人の人間、一人の男だとはいえ、流石にモラルに反する事はしない。
それに、あの理論詰めしてくるタキオンが否定に入ったのだ。これは安心して良いだろう。俺はそう思い、浅く座っていた椅子を深めに座り直そうとした。
「まぁそうなるねぇ」
桜木「」ドンガラガッシャーン!!!
全員「えぇぇぇぇぇ!!!??」
思わずそのまま地面に尻もちを着いてしまった。というか椅子が壊れた。椅子の脚が一本ぽっきりお逝きになられた。ご逝去されてしまったのだ。
.........いやいやいやいや、いやいやいやいや!!!ありえないでしょ!!?だって、仮にも教員よ!!?なにしてんのアイツは!!?
乙名史「こ、告白は一体どちらから!!?」
タキオン「そんなものないよ。気が付いたらそういう関係になっててね。確認したら「そうかも」、って返ってきただけさ」
桜木「お、おっとなぁ.........」
ごめん。割と大人な恋愛関係だったみたいだ.........だったら言うことは無い。成り行きでそうなってしまったなら仕方ない。どちらかがアクションを働いたのなら問題だが、流れでそうなったならどうしようも無い。川の流れは自然の内は止めることは出来ないものだ。
だが、これで予感は当たってしまった.........次回の雑誌にはきっとスキャンダルみたいな記事が出来上がってしまっている事だろう。
最悪だ。こんな事なら非人道的な人体実験してる方がまだキャラ立ての面で言い訳効くから楽だったのに.........
桜木「.........」ブツブツ
マック「ち、因みにその、恋人らしい事は何を.........?」
タキオン「.........?どういう事だい?」
マック「そ、その。手を繋いだり、とか.........き、きき、キス.........とか.........///」キャー
結局。その後のインタビューはタキオンに対する色恋の話へと移り変わっていった。俺はファンからの怒りの矛先の行く末に気が気で無くなったのと、黒津木の野郎に先越されたショックで、意識を手放したのであった.........
......To be continued
ーーー
おまけ
タキオン「時に黒津木くん」
黒津木「んお?なんすか?」
俺の家のソファーは全て私の物だ。と言うように身体を投げ出し、今週発売されたレース雑誌に読みふけていたタキオンが突然、俺に話を振ってきた。
一体何なのだろう?そして出来ることなら足を退けて欲しい。俺も座ってるんだぞ。俺の太ももは君の足置きではない。
タキオン「世間一般では、私達はどうやら付き合っているという判定らしい」
黒津木「.........マジ?」
タキオン「大マジだよ」
そういうタキオンの表情は、よく分からない。雑誌で顔全体を隠すようにして居るのか、はたまた偶然そのようになっているのかは分からない。
だが、せめて紅茶を飲みたいならちゃんとそっちに視線を向けた方がいいのと寝っ転がって居ないで欲しい。こぼすぞ。
タキオン「考えても見たまえよ。休日は一緒にどこかに出かけるか、こうして君の家に来ているんだ。そうじゃないのかい?」
黒津木「.........ふむ」
さて、どうしたものか。ここで肯定したならば、俺はめでたく教員生活卒業、そして晴れて世界の全てに感謝を告げたくなる規則正しい獄中生活が待っているかもしれない。
タキオン「いや、違うなら違うと言ってくれたまえ。私もデビューを果たす身だ。そろそろ身の振り方もきちんとしておかなければと思ってね.........」
黒津木「デビュー.........デビューかぁ」
そういえば、そろそろそんな時期になってしまうか.........一時は事態も事態だったため、自らその道を断ったが、ようやく彼女が、その実力を人々の目にお披露目できる様になる。
そう思うとなんだか.........いや、うん。覚悟くらい決めた方が良いよな。それがお互いにとって良い事だ。
黒津木「.........分かった。なぁタキオン」
タキオン「っ.........」ピク
俺が彼女の名前を呼ぶと、雑誌からはみ出たその耳が微かに反応を見せる。心做しか、少し静かな気がする。雰囲気と言うか、彼女の思考というか、いつもの彼女では無い。
もしかして、怖いのだろうか?答えを聞く事が?答えがあるのならば、それを求めずには居られない性を持つ研究者である彼女が?
勝手な想像だ。だけど、そう思うと尚更、この気持ちを伝えたくなった。
黒津木「.........このままで良いさ」
タキオン「っ!そ、それって.........」
黒津木「ああ、これからもよろしくな」
タキオン「.........うん、ふふ」
黒津木「あっ、でも公にするなよ?一応俺学園の関係者なんだから。保健室使ってくれる生徒減る可能性あるし.........」
そう釘を刺すと、彼女は分かっているよ、と言った。その耳はいつもよりパタパタと忙しなく動いており、なんだかとても可愛く思えた。
そして数週間後。何故か発売された雑誌には俺とタキオンの事が掲載されており、この関係性が白昼の元に晒された。理事長のお叱りも勿論。今までで一番の大目玉であったのだった.........
......To be continued
神威創が急にトレーナーになったみたいで着いていけてない方もいるかもしれませんが、現在pixivにて連載されている僕の友人が書いている外伝の内容によるものです。気になった方は是非ご覧下さい
https://www.pixiv.net/novel/series/7779335