神殿を出た空は、次の神殿に向かう。次は確か、南風の獅子の神殿だ。
地図を広げ、空はパイモンと相談する。
「ええと、確かここに道があるはずだ。うん、よし、オイラに任せろ!」
地図と実際の土地を交互に見ながら、空とパイモンは直線距離で道無き道を突き進む。
しかし途中で迷ったので、風立ちの地にある大樹を目印に、まずはそこに向かう事にした。
そこで空は、不思議な形の物が宙に浮いているのを発見する。
「ああ、それは風のかたまりみたいなもんだ……。空、風立ちの地にある七天神像に行こうぜ! それを神に捧げるんだ。ほらほら……行くぞ! 詳しい事は、後で教えてやるから」
よく分からないが、パイモンがそう言うなら。
空はもうあと数十メートル先の大樹へ足を向けた。そこには星落としの湖と同じ風神の神像がある。
「七天神像だ! さて、供物を捧げて、神がどう応えるか、見てみようぜ」
空は七天神像に、供物を捧げた。
捧げられた七天神像は光を放ち、空に恩恵を授けた。それと同時に、空は異変を感知する。
「風の音……これは、南風の獅子の神殿の近く?」
「オイラには何も聞こえないけど……まあ、それはともかく。七天神像の祝福を感じたか? モンドの人々は、それを『失われた風神の瞳』って呼んでるんだ。神像の眼窩に嵌め込むのに値するって意味だ」
モンドの人々は、本当に風神を尊敬しているのだろう。
七天神像を見上げて、空は風神への期待に胸を高鳴らせる。風と共にあるモンドの神なら、きっと――
「目として作られた宝石を、ツバメが咥えて飛んでったっていう逸話もあるけど……実は、『失われた風神の瞳』に実体はないんだ。『神の目』を持つ人はそれを集め、加護を得るために七天神像に捧げる。『神の目』は持ってないけど、この世界の常識を超えたおまえなら……神像に風神の瞳を捧げると、祝福をもっともっと貰えるぞ!」
集めて得ができるのなら、そうしよう。
空はパイモンに努力すると応え、南風の獅子の神殿へ向かう。
大樹の裏の川を渡り、道なりに進む。風の音がどんどん大きくなっていく。
坂道を駆け上ると、サークル状の岩造りから、風が吹き上がっていた。見上げれば、南風の獅子の神殿が見える。
「この風域を使うと……南風の獅子の神殿にある場所へ一気に登れるんじゃないか?」
「多分そうだ。行こう」
空が風の翼を広げて風域に飛び込めば、すぐに空高くまで上昇する。風域からズレて、南風の獅子の神殿へと移動し、着地。
空は神殿前に立つリサを見つけて、駆け寄った。
「あら、可愛い子ちゃん。危ないのに手伝ってくれるなんて、感激だわ。何か分からない事があったら、お姉さんに聞いてちょうだい」
「図書館司書の仕事は?」
「あら、いい質問ね。基本的に肉体労働と頭脳労働以外のことかしら」
「それ以外に何があるんだ!」
一番聞きたいのは他のこと……だったのだが、先に神殿を攻略した方が良さそうだ。
神殿に入った三人は、気を引き締めて神殿の奥へと足を進める。
「わたくしも少し本気を出そうかしら」
遠くに見える神殿の奥を睨むように見つめ、リサは呟く。
「やっぱり、この神殿の奥から……非常に強い元素反応を感じるわ。パイモンちゃん、そこには行ける?」
「行っても何も出来ないぞ」
パイモンには戦闘能力がない。
少し残念そうにリサは納得すると、すぐに切り替えたようで道の先を指さす。
「この風を使って上に移動しましょう」
空は頷き、リサと共に上へ移動する。その先には閉じた扉と操作台。操作台に触れて扉を開くと、炎スライムが一体。
「お姉さんに任せて」
雷元素を操るリサは、炎スライムに攻撃すれば過負荷反応を起こす事が出来る。
過負荷による爆発で吹き飛ぶスライムを追撃し、リサは1人で炎スライムを撃破した。
「リサは強いんだな!」
「あら、ありがとう。でもお姉さんは魔法使いだから、近接戦になると弱いのよね」
「近接戦は俺がやるよ」
「うふふっ、可愛い子ちゃんは頼りになるわね」
くすくすと笑ったリサは、それなら、と少し先に進んだ部屋を指さした。
「きっと次は団体よ。護衛をお願いしてもいいかしら」
「任せて」
リサは大人だなと空は思う。蛍に対して兄らしく振る舞う自分と似た空気を感じる。
自分が弟の位置にいるのは少しくすぐったい。
足早に部屋に向かうと、そこにはぽつんと石碑があるだけだった。
「なるほど、『雷元素の石碑』ね。雷の力で起動させてみるわ、足元に注意して」
空は注意に従って、少し離れた場所で足元に注意を払う。
リサが石碑を起動させると、炎スライムが四体飛び出してきた。
「……セイ!」
素早くリサと炎スライムの間に入った空は、元素スキルを放ってスライム達を吹き飛ばす。一瞬だけ背後に視線を向けた空は、リサが頷いたのを見て炎スライムに突撃した。
炎スライムに突撃した空の後方から、リサは雷の力を放つ。
「痺れなさい」
過負荷反応でダメージを与え、リサは着実に炎スライムを傷付けていく。
そして前線の空は絶対にリサへ攻撃にいかないように動き、牽制する。
見事な連携に、パイモンは「はわ……」と間抜けな声をもらした。
「可愛い子ちゃん、少し離れて頂戴」
リサの言葉に反応した空は、地面を蹴ってその場から離脱する。
それを確認したリサは、雷元素の力を貯めて、放出する。
「これは……お仕置きよ」
空から降る雷のように出現したそれらは、的確に炎スライム達を撃ち抜いた。
「ほぇー……元素スキルって、そんな使い方もあるんだなあ」
「ふふ、そうよ。さあ、進みましょう」
感心したように言うパイモンに、リサは微笑む。こうして素直に褒められるのは悪い気分では無いのだ。
リサに先導されて進んだ先には、水場の上にいるヒルチャールが四体。
下に飛び降りて進む道だったので、空達は飛び出して、ヒルチャールにむかって落下攻撃をする。
「法器タイプの人は落下攻撃が独特なんだな」
「そうみたいだ」
リサが元素を纏って球体になって落下していたのを見た二人は、驚いたようにリサを見る。
「痺れさせちゃうわよ」
その間にリサは元素爆発を発動してヒルチャールをあっという間に倒してしまった。
それには、水場があり、感電反応を起こすことが出来たという事もあるだろうが……。
流石は騎士団の図書館司書、強い。
「水に濡れた敵に対して、お姉さんはすごいのよ」
経験に裏打ちされた自信なのか、リサは傲慢という風ではなく、客観的な事実としてそう告げた。
そして部屋の奥にある風域を見ると、
「風域よ。ここから上に上がりましょう」
「おう!」
風域から上に登ると、閉まっていた扉を開く。そこから飛び降りて、空は剣を構え、リサは元素力を高める。
前と同じように、空が前線で動き回って注意を引き付け、リサか後方から感電させる。
リサに狙いをつけたヒルチャールは、空が重撃か元素スキルで吹き飛ばして、近付かせない。
「消えるんだ」
空がヒルチャールを纏めて元素爆発で巻き上げて、その隙にリサは大きな水スライム討伐する。
生き残ったヒルチャールは空が斬り伏せた。
「感電した敵の間には、連鎖ダメージが発生するわ。摩擦で生じた雷の火花は、落ちるような恋ほどの衝撃はないけれどね」
団体の敵を倒した三人は、開いた扉から先に進む。
その時に見つけた、リサの首元のネックレスについた大きな宝石に、空は目を丸くする。
戦闘にわざわざこんな装飾をつけるなんて……リサはするようなタイプじゃないと思っていたのだが。
「リサ、それ……」
「ん? わたくしの首にある『宝石』が何かって? 嘘……本気で聞いてるの? これは『神の目』よ。選ばれた人間が、元素の力を引き出すための装置ね」
「それが、神の目」
「神秘学の視点からいえば、外付けの魔力器官とも言えるかしら」
この世界で元素の力を使うには神の目が必要なのは知っている。
それがまさか……このような宝石だったとは。
「……『神の目』も知らないなんて、あなた一体何処から……突然変異で知力が高くなったヒルチャールかしら? ヒルチャールは吟遊詩人にもなれないほど、知能の低い怪物だもの。逆にあなたは、魔導師にもなれるほど素質を持ったいい子よ」
「ありがとう」
突然の褒め言葉に、空はよく分からないなりにお礼を言った。
戸惑ったような子供らしい表情に、リサは微笑む。
そうこうして話している間に動く足場のゾーンを抜け、神殿奥へと辿り着く。
「これを壊せば、帰って休めるわよね。休めると思ったら、俄然やる気が湧いてきたわ」
「
「それらはモンドの四方の風の守護者で、風神『バルバトス』の眷属でもあるわ。
「トワリン――それが風魔龍の名前よ。
「人々に風魔龍と呼ばれる前、彼の者は『四風守護』の中の『
「四方の風の中で、トワリンがそのうちの三つの力しか使えない原因がこれよ。
「彼は、初めに『自身の力』を燃やし尽くしてしまったからね。
「どうして?」
「たぶん……憎しみだと思うわ」
「憎しみ……?」
リサから出た言葉に、パイモンと空は困惑する。
「モンドに対する憎しみよ。その憎しみを風より強い力にし、そして彼は魔龍となった……」
「でも、『四風守護』だったのに、なんで……何で守るべき都市を、憎むようになったんだ?」
当然の疑問を口にしたパイモンに、リサは恥を感じているような顔をした。
暫く沈黙した後、リサは沈んだ様子で話を続ける。
「モンドの人間としては、とても言いにくいわね。これを読むといいわ……百年以上も前の出来事よ」
差し出された書物を受け取って、空とパイモンは顔を見合わせる。
ここですぐ読みたいが、リサの前で読むのは止めておいた方がいいだろう。
二人はリサにことわって、神殿から出てリサと別れた。
外は暴風が止み、モンドもまた平穏な風が吹いているのが見える。安堵の息を吐いたパイモンは、笑って空に話しかけた。
「ふぅ、やっと全部片付いた。これでモンドの元素の流れも、地脈の循環も元通りになるよな。騎士団に戻ってみるか? もちろん、他にやりたい事があったら、オイラも付き合うぞ」
「うん」
「そうだ、四風守護の神殿でまた『失われた風神の瞳』を手に入れただろ。今後も入手するかもしれないけど、そいつの使い道を忘れるなよ」
「分かってる。……パイモン、風立ちの地に行こう」
空は風の唾を広げて、風立ちの地の目印である大樹へと向かう。
川を渡り、大地を踏み締めて、空は大樹の下へ。七天神像手前の階段に腰を下ろして、リサから貰った本をバッグから取り出す。
空の隣から顔を出して、パイモンも覗き込む――『森の風』と書かれた、その本を。
◆第1巻
数百年前の学者達は、モンドの数多くの無名の吟遊詩人の詩を整理・記録し、それらを集めて詩集『森の風』を出版した。
◆第2巻
――龍の書物――
マスクの著作『風と国土の文明と習俗考察』より抜粋、『風土と人情誌』を翻訳。
……
北風騎士の『狼』、蒲公英(獅牙)騎士の『獅子』、西風騎士の『鷹』、そしてトワリン――『風龍』は、古くから『四風守護』と見なされてきた。
獅牙騎士がモンドを解放し、西風騎士団が設立され北風騎士が入団した後、『四風守護』の伝説がモンドで形成された。そして、トワリンは遥か古より守護の一つとなっている。
およそ百年前、大陸全土が混乱の時代を経験した。暗黒の力が広がり、至る所が侵略した。数多くの蛮族が存在し、魔獣が大地を蹂躙した時代。人間の生活圏は城壁の内側まで圧縮され、外は危険に満ちていた。
その頃のモンドは苦しみに包まれていた。獅牙騎士の伝承に相応しい人物が見つからず、西風騎士団も苦戦により人材を多数失う。その時、強大な腐敗魔獣、毒龍『ドゥリン』がモンドに襲いかかってきた。
モンドの人々の祈祷が最後に風神の意志を呼び起こし、そしてこの意志がまた風龍『トワリン』を召喚に至らせる。風龍はモンドの最後の守護者として、ドゥリンと死闘を繰り広げた。
戦いの結果は明らか、ドゥリンの骸骨はモンド南部の雪山に眠っている。だが戦いの過程は今では解明出来ない。噂によると、風龍が毒龍ののどを噛みちぎり、もろとも空から落ちた。ドゥリンの骸骨は寒天の雪山に落ち、トワリンは風神に召還され、長い眠りについたとされている。
……
人々は信じていた。いざという時には風龍が目覚め、モンドを守ってくれると。
だが安寧の時代に、四風守護の信仰はもう不要、四風守護それぞれの神殿も荒れたままとなっている。
「ある人の注訳:騎士団と幾度となく戦った害獣『風魔龍』が、かつての四風守護トワリンだと気付いた時には、憎しみに駆り立てられた感情はもう和解できない段階まで進んでいた。百年に渡った眠りから目覚めたトワリンは間違いなく、この町の裏切りを感じているだろう……」
「これは……確かに、モンドの人の口からは言いにくいだろうね」
「トワリンとモンドの人達は、こんな結末でいいと思ってるのか?」
「パイモン――まだ、終わってないよ。モンドの被害はまだ少なく、トワリンはまだモンドから去っていない。きっと、これからがモンドの人達の正念場だ」
メインストーリーここまで。
力尽きたので次回からモンド編、璃月編どちらも終了した時間軸から始まります。