???「これはただの日記帳よ。廃棄するには惜しいから、ここに置いておくわね。本来の持ち主は鷹野。文書とは違う別の日記帳よ。表には出なかったもの。どうしてかって? 読んだ所で何にもならないから、かしら。一部の酔狂な人たちにとっては面白いかもしれないわね。少なくとも私は楽しめたわ」
.
__________
0o月1x日、召集日。
ジロウさんてどんな方かしらと思っていたわ。
機関の監査のために定期来村する番犬部隊のジロウさん、診療所勤務になる症候群研究者の一人である入江、私の部下として雇った山狗部隊を率いる隊長の小此木、入江と同じく研究者として選ばれた私。
入江機関設立のために都内某所に召集されたの。
番犬部隊で二尉のジロウさんが階級を割り振ってくれたのよ。入江は二佐、部下は二尉、私は三佐。私を含めた四人で話をする時だけの呼び方だから、普段は違うわね。
本来であれば私が最高責任者なのだけれど、トップが女性だと何かと不便だから、入江所長に代わって貰ったわ。
後日、下見ついでに来村する事を約束したわ。
__________
0o月2x日、来村。
施設は既に立ててあったから地下への機材搬入の為に多少の時間は掛かってしまったけれど。
空白だった箇所に診療所の看板が掲げられ、ここが私の勤務先になるのねと感慨深く浸っていたところに、ジロウさんに声を掛けられたの。
本当は以前にもお会いしているのだけれど。村の人々の【目】があるから、今回が初めてのように振る舞わなければいけないのは仕方ないわね。
お互い初めてではないはずの、初めての挨拶を交わして。宜しくの握手までして。くすくす、何だか可笑しいわね。
__________
0o月0x日、勤務初日。
診療所開設に伴い、入江所長にご挨拶。「初めまして」ですって仰っていたけれど、実は以前にもお逢いしているのよね。判っていて言ったのでしょうけれど。所長なのだし以降は彼に一任しておくわ。
早速患者さんが来ているのかと思いきや、私の部下だったわ。世間話がてら今後の予定を話しているようね。私も話に参加しないと。勝手に話を進められては色々な計画が水の泡よ。
時報がラジオから聞こえてきたから、もうお昼になるのね。他に患者さんを見込めそうにないので、カメラを持ってジロウさんを誘って散歩に出ようかしらね。
ジロウさんたら、おかしいのよ。私から誘ったら「どうしたんだい?」と不思議そうにしていたけれど。たまにはいいじゃない、だってジロウさん……(以降、文字が滲んで判読できず)
__________
0o月1x日、初めての発症者。
初めて発症者が出たそうよ! 右腕を持って現れたそう。話によると現場監督と揉めたとかなんとか。右腕は現場監督さんのものと推察するわ。氷付けにして保存しなければ。
そうではなくて、この方の解剖よ、カ イ ボ ウ !
所長は…気が進まないみたいね。仕方がない、私がやるわ。私がやらないと。せっかくの検体なのだし、じっくり見ておきたいの。
何とか所長を説得したわ。症候群撲滅を目指す私達だから出来る事を。証人として部下にも聞いて貰ったわ。もちろん、口外しないと約束させて。
__________
o6月2x日、
あれだけ毎日のように逢っていたのに今日は訪ねて来ないなんて。ジロウさんを捜して外に出ていたのだけど見つけられなくて、診療所に戻ったら、ジロウさんが一時的に【東京】に行くことになったと所長から口伝を受けた。
どうして、ねえ、どうしてよ。私に何も告げずに行くなんて……
どうして、どうして、どうして…(滲んでいて判読不能)
__________
o6月0x日、やっと逢えた。
一時的に【東京】に行っていたジロウさんにようやく逢えたのは、日没後深夜。眠れなくて寝れていなくて診療所で泣き腫らした丸一日後だった。一日以上逢えないなんて、私には耐えられなかった。
私、そこまでしてジロウさんが好きなのだと気付いたの。ジロウさんの声を聞くとホッとする自分が居て。私の中にはいつもジロウさんが居て。
ジロウさん、ジロウさん、ジロウさん、ジロウさん…("ジロウ"さんの名前でビッシリミッチリと見開きで埋まっており、所々に水に濡れたような箇所が有り)
__________
o6月xx日、沙都子ちゃんと梨花ちゃんの定期検診。
沙都子ちゃんが患ってから数ヶ月が経っての今日、ロールシャッハテストを始めたの。彼女、中々闇深くてね。心を開かせるまで所長と私と梨花ちゃんの協力でこれまで頑張っていたわ。
画用紙に数種類の色の絵の具を垂らして半分に折って乾かした簡素なものなのに、面白いように想像してくれて、私は研究が続けられている事を実感しているわ。
絵なのかしらこれは。一枚の画用紙に彩られたモノ。彼女の想像するものは、身近なものから宇宙を感じさせるものまで多岐に渡っていたわね。直近だと「蝶々の絵、ですわね」と言っていたわ。そうね、私にもそう見えるわね。
始めた頃は「人の眼」や「怒っている人の顔」とか言っていたのに。
__________
o6月0x日、富竹さん来村。
逢いたかったわ。数ヶ月ぶりね。声は毎日のように聞いていたけれど貴方の腕に私の自慢の胸を押し付けるのも何度目かしらね。いつもデレデレしちゃって何にもないけれど。私は、貴方が私の傍に居てくれるだけで大好きなのよ。
本当はもっと色々な事をジロウさんと一緒にしたいのに。そういう時だけ【東京】に、私には何も告げずに行ってしまうから。どうしてなのか聞いてみたい。でも、聞きたくない私が居るの。ねえ、どうして?
__________
__________
o6月0x日、珍しい事もあるのね。
部下が診療所に通うようになった。どういう事なの小此木ッ!
あいにくジロウさんは【東京】に行っていて居ないのよ。えっ、違うの? あら、怒鳴ってしまってごめんなさいね。でも…どういう風の吹き回しかしら?
ふぅん、所長に用があるのね。鍵を掛けてまで話す事が…私には教えてくれても良いのにねぇ。雇い主は、この私よ? 忘れたの?
ねえ、雲雀のとこの十三、どうしているのか私、知っているのよ。……ふぅん、教えてあげなくも無かったのにねぇ。彼に何とはなしに貴方の事を聞いたのだけど、貴方にどこまでもついていくって言っていたわよ。どれだけ慕われているのか少しだけ分かった気がしたわ。気がした、それだけよ。貴方が気になるなんて微塵も思ってはないわ。
__________
o6月xx日、
部下が、所長と致している処を見てしまったわ。ドアが開いていて、声が聞こえたの。残念ながら不可抗力よ。きょ、興味があったわけでは決して……
部下も所長も、あんな顔で…幸せそうで…私にはジロウさんが居るのよ。でもジロウさん、あの部下みたいに乱暴してくれないから。いつも優しく包んでくれるだけ。私、それだけで満足なの。満足なのよ……あの部下みたいに積極的になってくれたら良いのに、なんて、思っては駄目よ。あぁでも。あの部下なら…駄目、駄目よ、私。ジロウさん一筋なのよ私は。
__________
o6月xx日、あの日以降。
部下を問い詰めてやったわ。けれど特に収穫は無かったから、所長のほうを問い詰めたの。
ようやく話してくれたわ。部下が所長に取り入って仲良くなった事。所長もまんざらでもない事。隙を見ては何度も逢っている事。【東京】に連れ添って行っている事。部下の願望を聞いて実行している事。
たくさん、たくさん話したわ。
私には何も言ってはくれないのね。ほんとうに女には興味ないのか、気になってしまったわ。
部下の腕に胸を押し付けてみたけれど、特になんとも思われなかったわ。うぅん、残念ね。
__________
、
先に公開してしまったけど、まあいいか(いいんかい)
東京組が初めて出逢った頃のお話から、祟※しに続いている【Secret code security. 0】と【祭囃子が鳴り響く頃に 1.0】の間のお話を、鷹野の日記を通じて描いたもの。
以下オマケ↓
【scraps of paper 9.9】
.
???「これはただの紙切れよ。
廃棄するには惜しいから、ここに置いておくわね。
本来の持ち主は小此木。表には出なかった紙切れよ。どうしてかって?
読んだ所で何にもならないから、かしら。
鷹野の日記に挟まれていたみたいね。
一部の酔狂な人たちにとっては面白いかもしれないわね。少なくとも私は楽しめたわ」
.
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
俺は、所長の何を知ってるというんだろうな。実は何も知らねぇんだよな。知らされてねぇと言うか。
富竹から少し聞いた事があるくらいなもんで所長自身から身の上話を聞いた事がねぇからよ。
研究関連以外の話は鷹野からも聞かねぇから、よほど警戒されているのか、それとも箝口令を敷かれているのか。
所長から話してくれる事を待つしかねぇ。俺からは何も出来ん。所長の事も鷹野の事も、俺は知らねぇんだよなぁ。
富竹の事は昔に逢ってっから少しだけ知ってんだがな。
鷹野が山狗と俺を選んでくれた事は嬉しかったんね。んだが、思いは複雑でなぁ。
富竹は番犬で監査に来てんだろうし、鷹野は研究者として来てんだろうし、所長は研究者であり、医者として来てんだろうし。俺は表向き造園会社で働きに来てんだが。
所長の東京時代だとか幼少時代とかよう知らんからな。中々話してくれん。無理に聞く必要は無ぇが気になっちまうのは、ただの興味なんかじゃ‥‥ねぇと思うんだがなぁ。
【何かのメモ。ここから下は破られていて判読不能】