???「例によって、イタズラにカケラを集めて遊んでみたものよ。
今回は葛西さんと詩音さんが居るわ。さぁて、今日は何の日かしらね?
一部の酔狂な人たちにとっては面白いかもしれないわね。少なくとも私は楽しめたわ」
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この男は滅多な事では激怒しない。『私』が生きてきたなかでは、そのような態度を見た覚えがないからだと気付く。『私』の母さんのオテンバだったころの話を『姉妹』で聞いていた時も、どこか懐かしむような表情でハハハと笑うだけ。あれ、何の話をしてこんなことになったんだっけ。
「葛西は、マンションを出たいと思った事は無いんですか? 私の護衛みたいな感じでくっついてきてくれるのは有難いんですけど。最近、窮屈になってきちゃって。いやまあ、ここからなら悟史くんが入院している病院が近いですし、私は出たくないし、葛西が居てくれるとなんだかんだ助かるし」
「確かに園崎家には日頃世話になっていますから、護衛だけでは足りないのでは無いかと思っていたところです」
足りてないんじゃなくて、充足し過ぎているんですよ。ばっちゃや母さんに制止されない程度の護衛をしてもらっているんですから。少しくらい離れていてもバチは当たらないと思う、うん。
「私は、葛西の本心が聞きたいです」
「私の本心、ですか。そう言われましても困りますが」
そのような表情を私に向けられても困りますが。ハハハ、詩音さん貴方にはかないませんな。園崎の血筋は分岐することはあっても途絶えてはいない。さすがは茜お嬢様の子。見覚えのある眼光。マトモに見てはいけない。
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雛見沢村の本家にお世話になっている『姉』と『私』は『帰る“家”といえる場所』が興宮にもある。『姉』のバイト先であるおもちゃ屋さん、『私』のバイト先であるカフェ喫茶のエンジェルモート、図書館、ブルーマーメイドといったような隣村とは違った都会的な公共施設を、園崎家親戚筋の者が牛耳っている。それを知らないでいるのは、いっとき東京から来るような余所者くらいなもので。
母さんの、あまり詳しくは言えないのですが……昔馴染みである葛西というコワモテの男が『私』のお付きとして学生時代はボディーガード代わりに居てもらっていたんですよね。このマンションの手配と手続きだって葛西の協力が無ければ住めなかったんですから、ありがたいやら申し訳ないやら。もちろん、ちゃんと感謝していますよ。今はボディーガード無しでも出歩けるようになったんです。色々ありましたからね。ウワサが回るのは興宮であっても変わりませんから。あっ、何があったか探るのはナシの方向で。
葛西には悪いけれど、今日のこの時間にこうして待って貰っているように昨日電話しておいて正解でした。良くも悪くも律儀なんですよね。
マンションの玄関ベルを鳴らすと共に、扉の向こうに居るであろう相手に呼び掛ける。
「はろろーん。私です、詩音です。かさい、いるー? あっ、ちゃんと居てくれたんですね」
「お帰りなさい、詩音さん。寒いなかご苦労様です。部屋を暖めておきましたんで、どうぞ、上がってください」
まるで執事のような、滑らかな動作で答える彼に対して何も不思議に思うことなく受け入れる私も私だけどね。手に持っていた買い物袋をあまり揺らさないようにしないと中身が崩れちゃいますから慎重に。よし、っと。
「はいはい、お邪魔しますよー。と言っても本来は私の『家』なんですけどね。よいしょっ、と」
適度に暖まっている室内に入る。本家に数日泊まりに行っていただけで懐かしさを感じるのは何故かは分からないけど、ここで幾日か葛西と過ごしてきたからかもしれないと思う。腰を落ち着かせて少し伸びをする。
「んー、数日ぶりに戻って来たけれど、ほとんど出たまんま残っていたんですね。あまり物を置いてないとはいえ」
私の帰りを見越してのこと、既に出されていた小さな相席テーブルと座布団が用意されている。くつろぐためのスペースを確保すると、手荷物を袋ごと彼に渡す。箱から甘い匂いが漏れているから、すぐに何かは分かってしまうけど。
「あっ、そうだこれ、葛西に」
「何かと思えば、これは……ケーキの箱ですか。開けてみても?」
相手が悟史くんでないことを除けば、嬉しそうな顔になっていく葛西の変わり様に驚くことは少なくない。私も甘いものは好きですし、食べたいときに食べていますし今日は……特別ですし。
「なるほど、エンジェルモートの新作でしょうか」
「違いますよっ。珍しく気が乗ったんで、お姉とショートケーキを作ったんです」
「詩音さんと魅音さんがですか。有り難く頂きます」
箱を開けて更に顔のほころぶ葛西を見て、悟史くんだったらもっと喜びそうかなとホッとする。悟史くんにはちゃんとしたものを贈るから、もう少し待っててね悟史くんっ。
「珈琲お出しますから少々お待ちを」
手際がよく気配りのできる葛西によって準備が進み、箱から出されたケーキと共に珈琲が振る舞われる。私も客に珈琲をお出ししているけれど、葛西がここまで拘りを持っているとは思わなかったから驚いちゃったのよね。
「ほらほらぁ、あまり説明しちゃうとあれなんで食べてみてくれません?」
私の手作りケーキがフォークで少しづつ葛西の口に運ばれていくのを眺める。
「ほぅ、苺には蜂蜜がコーティングされていますね。生クリームには洋酒を入れましたか。美味しいですよ、詩音さん」
「葛西にそう言っていただけて嬉しいです。お姉にも伝えておきますね」
一口啜りながら、小さい頃に試した珈琲の味は苦いばかりだったのを思い出す。葛西さんに味を教わるまでは『絶対に飲まない!』なんて思っていた事もあったっけ。
「詩音さんがこれだけ出来るのですから、悟史坊っちゃんにも差し上げてはいかがかと」
「ええ、そのつもりですよっ。悟史くんには別の日に! 私が! 私だけで作ってプレゼントしますからお構い無くっ」
わたわたと騒ぎ出す詩音さんの光景に見覚えがあり、そこに茜お嬢様が重なる。そんな時もありましたな。そのころの私は青かったので。ハハハと笑ってやり過ごす。
「このようなものを頂けるとは思ってもいませんでしたよ。私を呼び寄せた理由があるのでしたら聞きたい所なのですが」
「へぇー、今日が何の日か分かって無かったんですか? 今日はですね、葛西、あんたの誕生日なんですよ。幾つになったのか聞くのは野暮ですから聞きませんけどねー」
「詩音さん、貴方に尋ねられるまですっかり忘れていましたよ。そうでしたか。どうりで私好みのケーキだと」
エンジェルモートだけではないケーキ屋さんにも聞きに行った甲斐があって良かった。葛西は、その筋では名が通っているから苦労したんですよ。私も園崎という名が通っているから余計に。『姉』の顔の広さがあって何とかなりましたから、結果よければ全てよしにしましょう。
「お魎婆さんやお母さんは、いつものお萩だそうですっ。あ、バラしちゃった。まあいっか」
「ハハハ、聞かなかったことにしておきますよ」
相変わらずの詩音お嬢様ですね。そんなだから私は園崎家を離れられないのですよ。
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途中うまくいかない部分もありましたが、いつか書きたかった「かさいたん」を書けて良かったですっ。(普段は小此木さんメインなので)
学生ではなくなってもマンションの一室は引き払われず、想い人(悟史くん)がまだ(興宮の病院に)入院していて、このマンションを拠点に付き添いをしていることを加味して、書き上げました。
葛西は詩音をどう思っているのか。少しは分かるようになったかなぁ。あまり感情を表に出さないので。
魅音/詩音/真魅音/真詩音は、明確には振り分けてません。ここの詩音は詩音であって、真かどうかは考えてないです。