巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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第二章 炎の悪魔
#1


「おい、あれ見ろ!いきなり噴火したぞ!」

「恐ろしや!「炎の悪魔」のお目覚めじゃ!」

メキシコのイスラ・デ・マーラ島の火山が突然噴火し、火口から赤黒い巨大な爪と翼が突き出した。

地元の人々から「炎の悪魔」と呼ばれ恐れられている巨神ラドンの覚醒の瞬間だ。

サイバーテロに伴う国内の混乱もありメキシコ空軍の軍用ヘリ CH-53D 数機が火山の周囲を飛行していたが、噴火に巻き込まれ全機墜落している。

 

「ルクス様、メキシコにラドンが出現しました。いかが致しましょう?」

 

「巨神相手にあの 3 機がどれくらい力を発揮出来るか試そう。ガルーダの直通回線と繋げ。地球人との会話は私に任せて欲しい。」

 

「助かります。どうも私はあの未開人連中の顔を見るのも声を聞くのも苦手でして。」

 

ヨヴェルからラドン出現の報告を受けたホシェルはそのラドンと寺内一行と対決させる形で 3 機の性能を試すことにした。

オペレーターがガルーダとの直通回線を繋ぐと大画面に寺内の顔面が大映しになる。ホシェルは寺内のニヤついた表情を見た途端、この世襲政治屋が大量殺戮を楽しみ浮かれた気分になっていることを瞬時に見抜き強い嫌悪感に襲われた。

 

「やあ金星人のホシェルちゃん、未来の総理であるこの俺に何か頼み事かな?今俺物凄く機嫌いいし何でも聞いちゃうかもね。」

 

寺内の眉間と心臓を光線銃で撃ち抜きたい衝動に駆られたホシェルだが、平静を装い淡々とした姿勢を崩さない。

「防衛相閣下、メキシコに怪鳥ラドンが出現とのことです。」

 

「では今からその糞バードを俺達の手で焼き鳥にしに行ってくる。者共出陣じゃ!」

 

直後にホシェルが通信回線を切ったのは戦国武将気取りの寺内に心底呆れたからである。寺内が悪ノリし始めると止まらなくなる性格と聞いてはいたホシェルだが、流石にここまで酷いとは思っていなかったのだ。

 

「ヨヴェル、君には悪いが私はあの 3 機がラドンにやられてもいいと思えてきたよ。あの男は早く始末した方がいい。殺戮を楽しんでいる。君の言った通りだ。あんなに邪悪な連中に 3 機を貸すべきではなかった。後悔してもしきれない。」

 

「自制心の無い未開人連中が我々の兵器を使えば自分達が最強と勘違いして調子に乗ると先日申し上げましたが、ようやくご理解頂けたようで何よりです。地球最強の巨神ゴジラならともかくラドン程度なら 3 機で簡単に倒せますので、寺内と自衛官連中がラドンを倒し戻ってきたところを全員射殺はいかがでしょうか?勿論遺体も始末します。あいつら舞い上がっていて隙だらけですよ。」

 

「では寺内一行がラドンを倒したらそうしよう。ところでヨヴェル、楠木武との面談は私が引き受けるということでいいかな?」

 

「是非ともお願いします!あの男は無駄に声が大きいですし画面越しでも顔合わせるのが苦痛です!」

 

その楠木武陸将は管制室で建造中の巨大戦艦を眺めながら苛立っていた。この戦艦は潜水艦のような形状だが船首が巨大なドリルになっているのが特徴である。

「何!?轟天号の完成を待たずにもうアメリカへの攻撃を開始しワシントンを陥落させただと!大和民族の誇りに泥を塗った鬼畜米国への報復にはこの轟天号こそ相応しいというのに全くわかっとらん!」

 

ワシントン D.C.陥落の報を電話で聞いた楠木は、電話の相手の鼓膜が破れそうな大音量で受話器に向かって怒鳴っている。

 

轟天号は太平洋戦争末期に日本海軍が開発計画を立てた陸海空全てで行動可能な万能戦艦で、長年中断していた建造が金星人の支援で再開していた。

轟天号の建造再開を訴え続けていた楠木は轟天号によるワシントン D.C.陥落を夢見ていたのだが、肝心の建造が停滞し一刻も早くワシントン D.C.を陥落させたい天皇や門長は轟天号完成を待たずにアメリカ侵攻を開始したのである。

 

「楠木陸将、轟天号建造の進捗状況はいかがでしょうか?ヨヴェル・マスティマは体調不良のため、代わりに私がお伺い致します。」

 

受話器に向かって怒鳴っていた楠木は、目の前の画面にホシェルの顔が映った途端に受話器を置き軽く咳払いした。楠木がいる管制室は建造中の轟天号全体を見渡せるよう三方がガラス張りになっていて、室内には大量の書類が散らばっている。床で横倒しになっていてあちこちに蹴られた跡があるのは書類が入っていたと思しき段ボール箱だ。

 

「ルクス殿、いやはやもうすぐ完成とのことだが、結局ワシントン陥落には間に合わず口惜しい限り。こんなに優秀な精鋭自衛官である俺様が音頭を取っているというのに、全く誰のせいで轟天号建造が停滞したことやら!?」

 

平静を装うホシェルだが、お前のせいだろと内心毒づいている。何を隠そう設計図通りに建造すれば轟天号はすぐ完成すると言ったヨヴェルに対しもっと装備を強化しろと口を挟み勝手に設計図を書き換え、自身の部下のみで建造を進めるヨヴェルに日本の誇り轟天号を日本人の手で建造させろと横槍を入れる等楠木のわがままが建造停滞の要因である。

天皇といい、寺内といい、楠木といい日本の上層部は自分勝手なクズしかいないのかとホシェルは徐々に苛立ちを募らせていく。

 

「門長は親の七光りで総理になれただけの癖にいつもふんぞり返っている。今回のワシントン陥落にしたって本来なら楠木正成公の末裔であるこの俺様が指揮する轟天号建造が完了する待つべきなのに、俺様のいない所でアメリカへの出撃を決め轟天号から檜舞台を奪った。文民統制だか何だか知らんが世襲野郎が自衛隊の最高司令官とか反吐が出そうだ。やはり世襲はいかん。」

 

ホシェルは延々と門長の悪口を言い続ける楠木の姿を鏡に映したくなった。何故なら楠木自身が椅子に座ってふんぞり返っているからだ。

門長が親の七光りで首相になれたのは全くもってその通りだが、楠木自身常日頃から楠木正成の末裔であることを自慢しているため結局は門長同様に血統頼みなのだ。

 

「あまり世襲を悪く言わない方がよろしいかと。世襲を悪く言うと御父上である上皇陛下から皇位を世襲された天皇陛下を悪く言ったことになってしまいますので。それに今回のアメリカへの出撃は天皇陛下も賛同なされたことです。ワシントン D.C.陥落に歓喜され靖国神社を参拝なされた天皇陛下が今の楠木陸将のご様子をご覧になられたらどう思われるでしょうか?」

 

ホシェルが天皇の名を出した途端に楠木の顔色が変わり、世襲自体は悪くないなどと先程とは違うことを言い始めた。天皇の悪口を言うわけにもいかず冷や汗をかきながらペラペラ言い訳する楠木を画面越しに眺めながら、ホシェルは内心嗤っている。

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