巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
「やれやれ、やっとうるさいのが帰ってくれた。これで朕はようやく食事に専念出来る。」
美味そうにステーキ肉を口にする天皇だが、無論この豪華な食事も全額税金で賄われている。その税金を納めている人達の中には 1 日の食事も満足に出来ないワーキングプア、即ち貧困労働者も多数いるのだが、税金での贅沢暮らしが当たり前になっている天皇ら皇族にそうした人達の苦しみはわからない。
「それにしても兄上、正直最初は不安でしたが、金星人の連中を信用して正解でした。これで八紘一宇が実現すれば万々歳です。」
「金星人の科学技術なら朕を不老不死にすることも可能であろう。そうなれば朕は永遠に君臨し続けられる。万々歳だ。」
一瞬天皇の弟の目に強い殺意が宿ったが、能天気さ全開の天皇はその殺意に全く気付かず食事を続けている。
「失礼、気分が悪くなったのでお手洗いに行ってきます。」
トイレに向かう天皇の弟は頭の中でろくでもないことを考えていた。
「あの現人神気取りの弟がルクス様に内密の話があると言っておりますが、いかが致しましょう?」
天皇の弟からの緊急連絡にヨヴェルはかなり迷惑げな表情だ。
「早速私の端末に回線を繋いでくれ。直接話す。」
「かしこまりました。正直私はあの弟にもいい印象がありません。報道陣の前では紳士ぶっていますが早く自分が即位したい下心が見え透いていて感じが悪いといいますか、とにかくあの一族はどいつもこいつもろくでなしですよ。」
ホシェルが胸ポケットから小型端末を取り出すと、天皇の弟の上半身が立体映像で浮かび上がった。ちなみに天皇の弟はトイレの個室に籠った状態でスマホの遠隔会議用アプリを使用している。
「先日は本当に驚いたよ。ベルトのボタン1つで皇居と宮内庁を行ったり来たり、いやはや、あの時は言葉が出てこなかった。金星人が大昔にこの地球に来ていたことだけでも十分驚いたけど。そうそう、門長君から聞いたよ、秋の園遊会への出席を辞退するんだって?君達の多大な支援は十分出席に値する素晴らしいものなんだけど、金星人って謙虚なんだね。感心したよ。」
ペラペラと余計なことを言う天皇の弟の薄ら笑いが不快なホシェルは直球でこう言った。
「お兄様を、即ち陛下を病死か事故死に見せかけて始末する方法を教えてほしいというご相談でしょうか?」
ヨヴェル同様にホシェルも天皇の弟の薄汚い野心など最初からお見通しだ。
「な、な、な、何てことを言うんだ貴様!おっ、俺がそんな無礼で非道な人間に見えるか!」
ホシェルにいきなり本心を言い当てられた天皇の弟は激昂し、両手で持つスマホに向かって大声で怒鳴る。ところで先述の通りここはトイレの個室なのだが。
「おやおや、違いましたか。これは大変失礼致しました。」
「当たり前じゃないか!金星人は礼節や常識を知らんのか!」
「では一体どのようなご用件でしょうか?口元に付着した肉汁を踏まえますと、殿下はお食事の直後、あるいはお食事中に突然席を外した状況であり、私の緊急回線に繋ぐということはよほどお急ぎということでしょう。さあご用件をどうぞ、殿下。」
天皇の弟は言葉を詰まらせた。嘘をついて誤魔化したいところだが、兄を病死か事故死に見せかけて始末したい本心をいきなりホシェルに言い当てられ頭の中が真っ白なので今どういう嘘をつけばいいのかが全くわからない。
「もういい!貴様ら金星人にはもう何も頼まん!」
ホシェルとの通話を一方的に終了しトイレから出てきた天皇の弟は心底苛立っている。
「殿下、顔色がすぐれないようですが、お加減はいかがでしょうか?」
「黙れ!卑しい平民の分際で聖なる血統を有するこの俺に気安く話しかけるな!失せろ!」
心配げに声をかけてきた宮内庁職員に八つ当たりで怒鳴り散らすその横暴さは、新聞や TV が報じる温厚で慎み深い様子の天皇の弟とはまるで別人だ。
天皇制反対の世論を広めたくない日本政府と結託した報道機関が報じる天皇ら皇族の姿は過剰に美化されたもので、実態とはかけ離れた虚像に過ぎない。天皇ら皇族を「いい人」と思い込んでいる時点で日本の嘘報道に騙されている。
「あの弟の狼狽えた表情、かなり笑えましたよ。現人神気取りがくたばればあいつが即位するのを踏まえると全く笑えませんが。あんな連中が多額の税金で贅沢暮らしするのを容認し続けるこの国は色々終わっています。」
「あの弟の希望通り病死か事故死に見せかけて天皇を始末するのは簡単だが、今は敢えて生かしておいて弟に地団駄を踏ませておこう。もしそれで皇室が分裂し日本中が大混乱に陥るならそれはそれで面白い。ところであの 3 機はどうなった?」
「ラドンと戦っている途中で通信が途絶え、発信器も壊れた模様です。今部下達が様子を探っていますが現状把握は困難です。」
3 機がラドンを撃破すると信じていたヨヴェルは不安げな表情である。ホシェルは 3 機の捜索の続行を命じた。