巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
「ジョナ大佐、国際手配の身であることをお忘れですか?観光地で民間人と会うのは危険です。」
「長年危険と隣り合わせの人生を歩んできた私がそれくらいでたじろぐことは無い。あの一ノ瀬という女性の論文は見事。ゴジラ細胞が培養液を変質させるため培養不可能なことまで一個人で調べている。だからこそ直接会って話したいのだよ。第一私はもう大佐ではない。既にイギリス陸軍とも MI6 とも縁を切っている。」
Mr. A の正体はアラン・ジョナであった。ジョナは元イギリス陸軍大佐で、現役時代はクレムリンやペンタゴンにも潜入する技量を持つ MI6 の敏腕エージェントとしても活躍していた。
汚職、暗殺、人体実験、兵器開発等軍や国家や軍の汚い部分を長年見てきたことから反政府主義者となり、国家や軍の力の及ばない巨神という存在にも強い関心を示している。
「地球は人類のもの」という発想は人類の傲慢さの現れであり地球は本来巨神のものというのがジョナの強固な持論だ。
「妙な兵器で調子に乗っていた自衛隊連中が全員ラドンの餌食になった。高性能兵器を得て強くなった気になっても巨神の前では塵同然だ。そんな巨神の活動が活発になってきた今こそより深く巨神について知る必要がある。そのためなら危険は承知だよ。」
自身の思いを部下達に語るジョナの背後に巨大な壁画がある。ジョナはこの壁画を撮影し画像を一ノ瀬に送ったのだ。部下達に日本に向かう準備をするよう命じたジョナは壁画に描かれたキングギドラに懐中電灯の光を当てる。
ジョナは巨神の中でも特にキングギドラに注目している。地球最強の巨神ゴジラと互角に戦える強さを持ち、星と共に降ってきた存在即ち地球外の存在であることが壁画から推察出来るからである。
「おい、老いぼれ!俺の声が聞こえているならさっさと返事をしろ!聞こえてないならさっさと老人ホームに行け!」
ノート PC のスピーカーからホイットモアの暴言が響く。ホイットモアが管制室で画面越しに話していたのはジョナだったのだ。
「失礼、こちらも色々忙しくてな。ところで例の 3 機はもう全滅したぞ。搭乗していた自衛官連中も全員死亡した。」
驚愕するホイットモアにジョナがタブレット端末の画像を見せた。ラドンがガルーダを撃墜しガンダルヴァとナーガを機能停止させる様子を撮った画像だ。
「嘘だろ?あの 3 機を単身でやりやがった。何だその化け物は?」
「現地で『炎の悪魔』と恐れられている巨神ラドンだ。さあどうする?報復する相手はもういない。引き返すなら今だぞ。」
「この地球は俺達人類のものだ!その俺達人類の支配を揺るがすそんな化け物を放置出来る筈無いだろ!ふざけんな!」
巨神を化け物呼ばわりし、地球は人類のものと思い上がるホイットモアにジョナは心底呆れ返った。
「好きにしろ。私は貴様らに情報を提供しただけで別にああしろこうしろと指図するつもりは一切無いし引き止めもしない。アメリカ軍が勝てなかったあの 3 機を単身で叩き潰したラドン相手に貴様ら残党が勝てるとも思わないがな。まあせいぜい頑張ることだ。」
「俺達は愛国者で国家の威信を背負っているから強いし正しいんだ!国家に背を向けたお前ら極悪テロリストとは違うんだよ!デカいだけの鳥にやられるとか3機も大したことないな。俺達アメリカ軍ならあんな鳥瞬殺だよ。お前だって近いうちにぶっ殺してやるからな!3 機の居場所教えたくらいで俺達がお前を見逃すと思ったら大間違いだ!早いこと自分の墓用意しておけよ、老いぼれ!」
ホイットモアは言いたい放題言って通信を切った。ホイットモアが挑発に乗ったことを確信したジョナの両目がギラリと光る。
「アメリカ軍残党は地獄行きを選択した。『炎の悪魔』即ち巨神ラドンの強さと恐ろしさを特等席で思う存分満喫してもらおう。」
ジョナがアメリカ軍残党に 3 機がメキシコシティにいることをわざわざ教えたのは、3 機がラドンに始末されるのを最初から承知していて、アメリカ軍残党がラドンに喧嘩を売り返り討ちに遭うことまで計算しているからだ。そしてアメリカ軍残党が確実にラドン討伐に向かうよう仕向けるためわざとホイットモアを挑発したのである。