巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
一方日本では公用車から降りたばかりの門長と宮中から退出したばかりの天皇の弟が鉢合わせしていた。
「で、殿下、今からお帰りですか。わ、私は急用で再び陛下にお会いするところでして。」
「うるさい!俺は今疲れているんだ!消え失せろ!ボンクラ野郎!」
何故自分が天皇の弟に怒鳴られているのかさっぱりわからない門長は唖然としたが、同伴する秘書官から早く参内するよう促されその場を去っていく。
「な、なあ、俺何か殿下を怒らせるようなことしたか?」
「殿下も今はお疲れなのでしょう。それより総理、陛下はあちらにおいでです。」
「さっき来たからそんなことはわかっている!お前はいちいちうるさいんだよ!馬鹿野郎!」
天皇の弟は今猛烈に不機嫌で、門長の口から兄に関する話題が出ただけで頭の中が沸騰する。
この弟が不機嫌なのは勿論兄を亡き者にする目論見をホシェルに挫かれたからで、逃げるように宮中から退出したのも今日はこれ以上兄の顔を見たくないし声も聞きたくないからだ。
無論秘書官に怒鳴り散らして天皇の弟に怒鳴られた鬱憤を晴らす門長も全く褒められたものではないが。
「よいか門長、空母ロナルド・レーガンは爆発事故で沈没したと公表せよ。ゴジラは無関係だ、わかったな。ワシントンを見事に陥落させ我が国を戦勝に導いた F-2 部隊がゴジラに壊滅させられたとあっては戦勝祝いの妨げになる。幸いにも乗組員は全滅し現場を知る者は誰もいない。ゴジラめ、本当に余計なことを!」
門長から空母ロナルド・レーガン沈没の経緯を聞かされた天皇は勿論苛立ち目の前の机を力任せに叩いた。すると振動で机の上の水の入ったコップが床に落ちて割れ、天皇が着ているオーダーメイドの超高級スーツはズボンの裾がびしょ濡れである。
「早く掃除せよ!現人神である朕をこれ以上苛立たせるな!そなた達平民に温情で仕事を与えた朕に報いる姿勢を示せ!そなた達などいつでもクビに出来るのだからな!」
天皇の怒鳴り声に怯えながら清掃員達はその天皇が落として割ったガラスのコップの破片を回収している。勿論これは天皇による清掃員達への八つ当たりで、先程天皇の弟が宮内庁職員や門長に怒鳴り散らしたのと全く同じ構図だ。
「朕は今門長と大事な話をしている。そなた達平民は今すぐこの部屋を出て行くように。」
自分でガラスのコップを落として割っておきながら、コップの破片を綺麗に片付けた清掃員達に対し天皇は傲岸不遜な姿勢を崩さない。
数々の特権で甘やかされ続けると人間ここまで傲慢で自分勝手になるのである。清掃員達は慌てて部屋を出て行った。いつも以上に天皇へのご機嫌取りが必要と悟った門長は全身冷や汗だらけである。
「へ、陛下、ほ、本日はお休みになられて下さい。私もそろそろ、か、官邸に戻りますので。あ、明日は、一般参賀の日です。ゴッ、ゴジラが何をしようと、わ、我が国がアメリカに戦勝した事実は、ゆ、揺らぎません。こ、国民と共に、お、思う存分戦勝を祝いましょう。」
以前組閣した際は閣僚の不祥事が続発し自身の脱税疑惑も報じられ仮病で首相の職責を放棄した門長だが、ここまで天皇のわがままに振り回される毎日だと今度は本当に病気で首相辞任もあり得そうだという不安が頭をもたげている。
一方で今辞任すると首相権限で隠蔽し続けてきた不正が全て暴露され塀の中で名前を番号で呼ばれる毎日が始まる不安もあり門長は気が気では無い。
「本日はドクターホエールさんの講演会に参加しています。あの方の素敵なお言葉のお陰で私の中の宇宙が大きく、大きく広がりました。貴方も一度お聞きになられてはいかがですか?きっと今ある悩みも全部消えますよ。by 通江(みちえ) 20:17/2019/6/8」
公用車の車内で未読メールを読んでいた門長は思わずスマホを足元に叩きつけた。怪しげなブレスレットを 100 万円で売り付ける等数々の悪徳商法で有名な人物の講演会に首相夫人が参加となれば当然世間が黙っていない。通江は門長の悩みを消すどころか余計に増やしてしまったのである。
大声で叫びたい衝動に駆られ両手で頭を抱えた門長は、足元のスマホを誤って踏んでしまった。
「おい、貴様!今俺が落としたスマホを踏んで壊したのを見て笑っただろ!」
「とんでもございません。今目の前の信号が変わるのを見ていたところですよ。」
いきなり門長に難癖をつけられ運転手は困惑している。
「全くどいつもこいつも!」
門長は苛立ちが止まらない。苛立ちが止まらないのは楠木も同じだ。
「ええい!轟天号完成はまだか!?急げ!急げ!怠けるなぁ!長年国防の現場で汗をかいてきたこの俺のように、貴様らも一刻も早い轟天号完成のため汗をかけ!貴様らも俺と同じ日本男児ならもっともっと大和魂を輝かせろ!金星人の力を借りずとも日本男児だけで轟天号を完成させられることを示してやれ!」
「恐れながら、そのように怒鳴られますと現場の方が皆委縮し結果的に完成の遅延につながると考えられるのですが。」
この部下が呈した苦言は至って正論である。
「貴様!轟天号建造の遅延を俺のせいにする気か!よしわかった!貴様の腐った性根は楠木正成公の末裔で大和魂を備えたこの俺様が直々に叩き直す!」
苦言に逆上した楠木は「軍人精神注入棒」と書かれた棒で部下の全身を滅多打ちにした。性根が腐っているのは楠木に苦言を呈した部下ではなく楠木本人なのは明白だ。楠木が力任せに殴打し過ぎたせいで棒は折れてしまった。
「何だこの棒は!?粗悪品じゃないか!中国製か!」
折れた棒を床に叩きつけ何度も踏みつける楠木のやっていることは八つ当たりそのものである。楠木に限らず粗悪品を中国製と決めつける日本人は今でも多いが、それは中国に対する偏見だ。
そして棒には「MADE IN JAPAN」としっかり表記されている。棒が日本製であろうと中国製であろうと乱暴な使い方をすればすぐ折れるのは当たり前である。
楠木の暴虐ぶりを映像で眺めていたホシェルとヨヴェルは心底呆れ返っている。
「楠木武があんなに激昂しているのは、心のどこかで轟天号建造の遅延は自分のせいと自覚しているからではないだろうか?痛いところを突かれて狼狽えたのを誤魔化すために逆上という構図だ。」
「あの楠木武は私や部下にも色々横槍入れてきて建造現場を混乱させています。我々金星人に轟天号建造を丸投げした張本人の癖にやっぱり日本人技術者を轟天号建造に使えと言ってきたりと支離滅裂過ぎますよ。」
「零戦を製造開発した人達も軍部の無茶過ぎる要求に頭を抱えたと聞いているが、それと同じだ。」
「仰せの通りです。一旦公職追放された旧日本軍幹部の連中が自衛隊の前身、警察予備隊に入隊しそのまま自衛隊幹部になったのを踏まえると自衛隊の体質が旧日本軍のままなのは当然ですが、ここまで酷いと最早かける言葉もありません。」
2 人は揃ってため息をついた。金星人を上手く利用した気になっている日本政府から他にも複数の兵器製造開発を依頼されている状況下で明日また楠木の怒鳴り声を聞かされると思うと余計に気が滅入る。
「では私はそろそろ 3 機の修復作業に戻ります。日本政府に従順なフリをし続ける日々を 1 日も早く終わらせるためにも早急に 3 機
の修復及び最終兵器実装を完了させる必要がありますので。」
「ヨヴェル、暴力的な接し方は部下全員を委縮させ作業がかえって遅れるということを肝に銘じておけ。」
するとヨヴェルは苦笑しながらこう返答した。
「楠木武という反面教師のお陰で部下との関係は良好で修復作業は順調に進行中です。」
ヨヴェルの返答に思わず大笑いしたホシェルだが、普段の愛想笑いとは違い今回は本気で笑っている。