巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
#1
皇居長和殿のベランダに天皇ら皇族が姿を見せると東庭に集まった人達が一斉に日章旗を振り「陛下!」と叫ぶ。
勿論これは教祖の登場に信者達が歓喜するカルトそのもので、国家が主催し多額の税金を浪費している分他のどのカルトよりも悪質だ。
「俺この前の一般参賀も来たけど、やっぱり天皇陛下は偉大だよ。そんな天皇陛下を頂く俺達日本人も偉大だよ。」
天皇が偉大などというのは、天皇を頂点にした日本の支配層連中が大多数の市民を支配し続けるためにでっち上げたデタラメに過ぎない。
そのデタラメを真に受けて天皇が偉大、その天皇を戴く日本人が偉大と思い込むのは愚の骨頂である。
「陛下が即位された時の一般参賀はおばあちゃんの看病で来られなかったけど、陛下はそんな私のためにもう一度一般参賀を開催して下さった。天国に行ったおばあちゃんの分もこの一時を大切にしたい。」
天皇が今回一般参賀を開催したのは、アメリカへの先制攻撃という他国への武力行使を固く禁じた憲法 9 条に真っ向から違反する日本政府の暴挙への批判を天皇自身の威光で封じる政治的意図に基づいていて、間違えても祖母の看病で前の一般参賀に来られなかった大学生への配慮などでは無い。天皇制カルトの信者は天皇が何をやっても好意的に解釈するものだ。
ベランダという高所から東庭に群がる臣民達を見下ろす天皇はご満悦で、よく見ると半笑いを浮かべている。
「日本国民の皆様、この度は突然の一般参賀にもかかわらず遠路はるばるお越し頂き誠にありがとうございます。皆様もご存知の通り、我が祖父の悲願、大東亜共栄圏の夢を挫いた邪悪な白人国家に我が国が正義の鉄槌を下しました。英霊の皆様の無念の思いがようやく解消され、真の世界平和への道が開かれたことに私自身胸が熱くなる思いです。今後とも私は国民に寄り添いながら憲
法に則り、日本国及び日本国民統合の象徴としての務めを果たすことを誓います。」
その後も天皇の「おことば」は続くが所詮は絵空事に過ぎない。
ありもしない大量破壊兵器を口実にイラクで民間人を大量虐殺等21世紀になってからもアメリカ政府の暴虐さが目に余るのは事実だが、アメリカのイラク侵攻を全面支持した件を全く反省せず手のひらを返してアメリカで民間人を大量虐殺した日本に正義などある筈もなく、ましてや憲法 9 条を完全無視してアメリカへの武力行使を容認しておきながら今後とも憲法に則ると放言するのは完全な二枚舌だ。二枚舌でなければ天皇など務まらない。
「そうだ!やっぱり日本はアジア解放のために欧米と戦ったんだ!天皇陛下を頂点に戴く日本こそ世界の頂点に君臨するべき国なんだよ!大日本帝国万歳!大東亜共栄圏万歳!天皇陛下万歳!」
旭日旗の鉢巻をした男が高揚感に駆られ絶叫しているが、日本はアジア解放のため欧米と戦ったと言いながら同じ口で日本こそ世界の頂点に君臨するべき、即ち他の国は皆日本に支配されるべきと言っていることの矛盾に気付かないのであろうか。
天皇の側近達と共にベランダの出入口付近に控えるホシェルは、信者達を見下ろしながら延々と絵空事を宣う天皇の横顔を冷たい目で眺めている。
一般参賀を終えた天皇が戻ってくると、ホシェルはいつもの愛想笑いを浮かべながら天皇に話しかけた。
「お疲れ様です、陛下。寺内閣下は残念でした。お悔やみ申し上げます。閣下が消息を絶ったことを総理からお聞きになられた時の陛下は大層お心を痛められ、お食事が喉を通らなかったと伺っております。そのような陛下の海よりも深いお心は閣下にも必ず届いていることでしょう。改めて陛下を頂点とする大和民族の偉大さを知りました。」
防衛相の代わりはいくらでもいる、夕食を邪魔するなと天皇が暴言吐いたことなどホシェルは百も承知だ。
ホシェルの皮肉に全く気付かずお世辞を真に受けた天皇は超高度な科学力を持つ金星人集団の長が従う程自分は偉いのだとますます増長し舞い上がっている。
天皇を中心とした日本が調子に乗り暴走すればするほどホシェルにとっては好都合なのだ。
「我々金星人の支援あってのワシントン D.C.陥落なのに、あの現人神気取りは自力でアメリカを打ち倒したとデタラメを言っていて実に腹立たしいです。元々の自分の予定を放り出して皇居に群がり愚にもつかない現人神気取りの戯言に感涙したり絶叫したり、全く日本国民というのはおめでたいにも程がありますよ。」
「先程薄っぺらいお言葉を宣っていた天皇は勿論、日本政府の連中は皆私のつまらない世辞を真に受け大和民族とやらの偉大さに我々金星人が心打たれたと本気で思い込んでいる。勿論我々の支援に裏があるとは夢にも思っていない。天皇をはじめとする愚かな日本人連中が束の間の栄光に酔っている間に、我々金星人は粛々と計画を進めようではないか。」
天皇の傲慢さにヨヴェルが強い反感を示したのに対し、あくまでホシェルは冷淡な姿勢である。