巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
「オラ!大阪に長州一の超絶美男子、リョウアズマ様が来たぞ!コラ!見ておけよ!おい!」
大阪市内の中央公会堂前で花火を打ち上げているのは、首里城公園内で落書きする自分を撮影した動画を投稿し非難殺到中のリョウアズマだ。ニヤニヤ動画に限らず自分が注目されれば何やってもいいと言わんばかりの悪質な動画投稿者が最近本当に多い。
「すみません、ここ花火禁止なんですが。」
一ノ瀬と共に大阪市内で開催された沖縄基地反対デモに参加し帰宅途中のアイリーンがリョウアズマに苦言を呈する。
「てめえ!女の分際で長州一の超絶美男子、リョウアズマ様の楽しみを妨害するつもりか!自分が清楚な色白美人だからって調子に乗るな!俺様は高校時代に 5 人の美女と付き合っていた超絶モテモテ美な、って、熱い!熱い!熱いぃ!」
アイリーンに逆上したリョウアズマだが、両手の花火が自分の髪の毛に引火し一気に燃え広がった。ネット上の失言や不祥事をきっかけに非難コメントが殺到し収拾がつかなくなることを俗に炎上と言うが、リョウアズマの場合本当の意味で髪の毛が炎上している。
「何かもう色々間抜け過ぎていてかける言葉も見つからない。アイちゃん行こう。明日は奈良だよ。」
「うん、あの人あれで少しは頭を冷やしてくれればいいな。」
鉾流橋を渡る一ノ瀬とアイリーン、そしてペロは、堂島川に飛び込みずぶ濡れで岸に上がった文字通りの炎上野
郎を呆れ顔で見下ろしている。中央公会堂が建つ中之島は堂島川と土佐堀川に挟まれた中洲で、すぐ近くの東洋陶磁美術館には日本だけでなく、中国や韓国朝鮮の貴重な陶磁器がある。炎上野郎を見飽きたペロは「へっへっへっへっ」と息を上げ駆け出した。
「畝傍―、畝傍でございます。お降りの際はお足元にご注意下さい。」
一ノ瀬とアイリーンは JR 桜井線、通称万葉まほろば線で畝傍駅に到着した。古びた無人駅の改札口から外に出た女性 2 人に昼間に差し掛かりつつある日差しが照りつける。奈良市内のペットホテルにペロを預けた 2 人は「神武天皇陵」を見に来たのだ。
「ここは幕末に天皇陵ってことにされた場所で、国を挙げての拡張工事で全国から集められた巨木が植えられた。天皇陵としてでっち上げられる前は田圃の中の小さな塚だったことを示す絵図もある。(※後藤秀穂「皇陵史稿」木本事務所 1913 年 P.192、住井すゑ・古田武彦・山田宗睦「天皇陵の真相」三一新書 1994 年 P.161)神武天皇自体が架空の存在なのは考古学界の常識。」
「流石アイちゃんは考古学者だね。宮内庁が各地の天皇陵の発掘調査を許さないのは、本当は天皇陵でも何でも無い場所を天皇陵だと言い張っているだけなのがバレちゃうのを阻止するためなのは私でもすぐにわかるよ。」
「中国人の私がこんなこと言ったらまた工作員だとか言われそうだけど、天皇陵はちゃんと調査するべきだし、私もその調査に参加したい。天皇陵だと嘘をつかずに当時の人達が残したものを一つ一つ丁寧に調べるのが考古学だから。」
考古学者としての抱負を語りながら目を輝かせるアイリーンを見て一ノ瀬は微笑んだ。国家権力や多数派にこびへつらうことなく純粋に考古学者としての使命を追究するアイリーンの姿勢は同じ学者として見習うべきものだと一ノ瀬は考えている。
畝傍山中腹には被差別部落があったのだが、この「天皇陵」を見下ろす位置にあるのが不敬という差別丸出しの理由で 100 年ほど前に強制移転させられた。
21 世紀になってからもネット上では部落差別を煽る書き込みが後を絶たないが、アイリーンと一ノ瀬の目の前の「天皇陵」は部落差別の歴史を語る上で欠かせない。天皇制と部落差別は濃厚に関連しているのだ。