巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
「由衣ちゃん、そろそろ行こうか。」
「丁度いい時間帯だし近くのおふさ観音でお昼食べよっか。あそこのハーブカレーは私のお勧め。」
2人が向かった十無量山観音寺は、おふさという娘が白い亀に乗って現れた観音菩薩を祀ったのが起源という350年ほど前の伝承からおふさ観音と呼ばれている。
本堂は庶民の自発的な寄付で建立されたもので、近くにある国家権力が多額の税金を浪費し人々を動員してでっち上げた「天皇陵」とは正反対だ。境内では約4000 種類のバラをはじめ、四季の草花を見ることが出来る。
「由衣ちゃんのお勧めのハーブカレー、上品な辛さが程よく口の中に広がる感じが素敵。」
「アイちゃんにそう言ってもらえるとお勧めした身として凄く嬉しい。このハーブティーもいい香りしているよ。」
アイリーンと一ノ瀬は境内の茶房「おふさ」で昼食のひと時を楽しんでいる。国境の枠を超えた女性 2 人の友情は傍目から見ても微笑ましい。
食事を終えた 2 人は本堂に行き十一面観音像を参拝した。この像は秘仏である本尊を守護する「お前立ち」で、本尊を祀る厨子の扉が開くのは毎年4 月17 日と 18 日のみだ。おふさ観音を出た 2 人は畝傍駅で再び JR 桜井線に乗り奈良市内に戻る。
「ここの亀、外来種のミシシッピアカミミガメがほとんどなんだよね。でも悪いのは飼いきれなくなった亀を捨てた人間であって、亀達に罪は無い。軽い気持ちで亀を飼いすぐに捨てる無責任な飼い主が生態系破壊をお膳立てしている。」
一ノ瀬とアイリーンはJR奈良駅から三条通りを歩き興福寺に到着した。一ノ瀬は猿沢池の亀達を眺めながら複雑な表情だ。アイリーンは生物学者として環境問題を真剣に考え人類による環境破壊に危機感を持つ一ノ瀬のひたむきさを羨望している。
興福寺は奈良県内でも特に歴史ある寺院で奈良の大仏で有名な東大寺よりも古い。だが朝廷と薩長が結託し徳川幕府から権力を横取りした直後に出された神仏分離令により勃発した廃仏毀釈で大打撃を受け、敷地の大半を政府に没収された経緯がある。その時政府に没収された興福寺の敷地こそ現在の奈良公園なのだ。
猿沢池をぐるりと一周した 2 人は石段を登り南円堂に向かう。
南円堂は西国三十三所観音巡礼の九番札所で、本尊の不空羂索観音像は毎年 10 月 17 日のみの公開だ。とはい
え西国三十三所巡礼者をはじめとする参拝者が後を絶たず、皆扉の向こうの観音像にひたむきに手を合わせている。
「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空度 一切苦厄舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是 舎利子 是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中 無色無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界 乃至無意識界 無無明 亦無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽 無苦集滅道無智亦無得」
2 人が般若心経を唱えながら南円堂の前で合掌していると、いきなりアイリーンが卒倒した。
「アイちゃん大丈夫!?你没事吗!?怎么样!?」
中国語を交えながらアイリーンに呼びかける一ノ瀬は必死な表情だ。するとアイリーンがゆっくりと両目を開く。
「心配してくれてありがとう。私、不思議な夢を見た。宇宙の果てから物凄い速さで彗星みたいなのが太陽系に向かってくる夢。その彗星が三つの首を持つ龍に変身した。あの壁画に記されている星と共に降りてきた王なるギドラそのもの。まさかこれ予知夢?」
普通の人なら予知夢と聞けば一笑に付すだろう。だがアイリーンの話を聞く一ノ瀬は真剣な表情だ。
「科学者の私が予知夢なんて信じたら笑われそうだけど、あれだけいないとされていたゴジラも結局いたわけだし私はアイちゃんを信じるよ。そういえば自衛隊がアメリカ侵攻に使ったあの 3 機はどう見ても地球上の科学技術で製造開発出来る代物じゃないし、日本政府を陰で操る宇宙人がいるという噂も案外本当かも。キングギドラが地球に来るのはその宇宙人と戦うためだったりして。」
「だとしたらキングギドラは宇宙人の侵略を許さない存在ということになる。あ、そろそろ 14 時だから五重塔前に行こうか。」