巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
茨城県の東海第二発電所は、現在廃炉作業中の東海発電所に隣接している原子力発電所だ。
福島原発ほどではないが東日本大震災で被害を受け運転を停止していたこの原発は、ワシントン D.C.陥落で日本中が沸き上がるドサクサに紛れて再稼働していた。
政府与党の政治屋の大半は原発推進派で、原発利権目当てに原発再稼働反対という現地住民の声を無視した暴挙に出たのだ。
「再稼働反対という現地住民の声を聞け!日本政府は早く脱原発に舵を切れ!ゴジラが来る前に原発を停止しろ!」
原発の敷地の外には原発再稼働に抗議するデモ隊が押しかけ、抗議者の中には新日本婦人の会の人達もいる。
「由衣っぺにも来て欲しかったけど、流石に大阪から茨城は遠いか。」
「由衣はこの前大阪市役所前で沖縄基地反対デモやった時も中国の女の人と一緒に来てくれはったし、ああいう若い子はほんま心強いわ。ああいう若者が 1 人でもおったら今どんだけしんどい状況でもウチらは将来に絶望せずに済むわけやし。」
この人達は母桐子の影響で10代からデモに参加していた一ノ瀬と親交が深い。
するとデモ隊の頭上に爆音が響きAS365N2ヘリコプターが飛来した。差別的な放送で悪名高い坂下門チャンネル(国民文化放送坂下門チャンネル)の報道ヘリだ。
「日本国民の皆様、旧皇族の宮田国臣でございます。見て下さい、あの腐れ左翼の皆さんの馬鹿騒ぎを!門長総理も仰っていた通り中国の原発と違い日本の原発は汚染水対策が万全でゴジラが来ることなど 20000%あり得ないにも拘らず、ゴジラが来るから原発を止めろと寝言を言っている。良い子の皆さん、ああいう大人になってはいけません!あの馬鹿共を笑ってやりましょう!」
その頃福井県の大飯原発と美浜原発がゴジラに襲撃されていた。日本海に垂れ流されていた汚染水がゴジラを呼んだのだ。原子炉から放射能を吸い尽くしたゴジラはそのまま去っていく。報道ヘリの中でヘラヘラ笑っていた宮田も速報で顔が一気に青ざめた。
「何でゴジラが来ちゃうのよ!?これじゃ今さっき生中継で日本の原発にゴジラが来ることなど20000%無いと言った俺が全国に嘘言ったことになるじゃないか!あいつら反日左翼連中が正しくて俺間違ってるとか旧皇族の面目丸潰れだよ!」
急に弱気になった宮田は同伴するスタッフ達に泣き言を言う。この下劣な男は旧皇族であることを鼻にかけているのでその面目が潰れるのを何よりも恐れている。旧皇族という血統に頼ることでしか自尊心を保てない陳腐な男だ。
ちなみにこの旧皇族は TV 番組で数々の差別発言を繰り返し、とある TV 局の女性職員に暴言を吐きその局の看板番組を降板させられた外道でもある。
「どけ平民共!旧皇族の俺が一番乗りだ!」
燃料が残り少なくなってきたヘリから降りた宮田一行はクルーザーに乗り込んだ。全速力で鹿島灘を南下し房総半島南端を旋回したクルーザーが三浦半島に近付き始めたその時、周囲を包囲するように海中から巨大な背びれが出てきた。ゴジラである。
「何故ゴジラがここにいる!?福井の方にいたんじゃなかったのか!?」
人類がまだ発見さえしていない海底の空洞の位置を熟知しているゴジラは、日本列島の真下の空洞を通り若狭湾から相模湾に近道していた。
ゴジラの背びれにクルーザーが乗り上げた状態のため宮田一行は身動き出来ない。ゴジラが潜水する気配もなく宮田一行が希望を失い始めたその時、F-35A 戦闘機数機が飛来した。空自の到着だ。
「おお、現代の防人が、この国を守る力が与えられている最後の砦、自衛隊の到着だ!これでゴジラもおしまいだな!ざまあみやがれ国賊のデカブツ野郎!早くくたばりやがれ!あ、自衛隊の皆さん、今撃つと俺達に当たるからゴジラが潜るまで待っててね。」
舞い上がった宮田は甲板で旭日旗を振り空自に歓声を送っている。
だが途端に宮田の顔色が変わった。F-35A が Mk.84爆弾を投下してきたのだ。
この爆弾の直撃でクルーザーは木っ端微塵になり宮田一行は悲鳴を上げる暇さえなく全員爆死したものの、全く負傷していないゴジラは速度を落とすことなく東海第二原発を目指して泳いでいる。
「海自や陸自の連中に見せ場与えたくないからクルーザーごと爆撃したのに、肝心のゴジラに全然効いてないだと!?」
自衛隊内部の下らない意地の張り合いに負けたくない一心でクルーザーごとゴジラを爆撃したF-35Aの操縦士だが、肝心のゴジラにその爆撃が全く通用せず単に宮田一行を爆死させただけだからどうしようも無い。
「そ、総理、空自の爆撃で、ゴッ、ゴジラの背びれに引っかかっていた、クッ、クルーザーが大破し、の、乗っていた民間人が、ぜ、全員、し、死亡しました。これでは、じっ、自衛隊が国民を殺したという、あ、悪評が立ってしまいます。ゆ、由々しき事態です。」
怯える秘書官に対し門長はこう言い放った。
「空自を悪者にするわけにはいかん!あの宮田という男はイラク人質事件で人質達に自己責任だと言い放ったが、今度は宮田自身が世間から自己責任だと叩かれる番だ!直ちにネットサポーターズクラブに動員をかけろ!官房機密費も遠慮なく使え!」
反動的思想を評価され幹部自衛官育成講師に指名される等日本政府から優遇されまくりの宮田でも、状況が変わればすぐ裏切られ切り捨てられる。
イラクで人質にされた人達を見捨てた日本政府を庇うため自己責任という暴論を持ち出した宮田だが、結局その日本政府に裏切られた。自分自身が世間から自己責任だと叩かれるのを冥界で知れば宮田はどんな顔をするだろうか。