巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

4 / 102
#3

時は流れ 2010 年代末期、日本では本来 1945 年の敗戦時に廃止しておくべきだった天皇制が今なお存続し、1990 年代初頭のバブル崩壊以降は経団連と結託した日本政府の意向もあり雇用の流動化と称した労働者の切り捨て、使い捨てが横行している。

 

政財界は自分達の目先の利益ばかりを優先し、その他の人々の生活を切り捨てにかかったのである。

 

首相官邸では門長四郎首相がふんぞり返っている。

 

この世襲政治屋は皇室との血縁関係から野党に転落した保守第一党が巻き返しのため総裁に擁立しそのまま首相になった身だが、本人はイエスマンとイカサマ無しでは本当に何も出来ない。

 

そのため門長内閣は大手報道陣の幹部達を多額の税金を使った会食で懐柔し恒常的な世論操作で延命してきた。

 

「総理、自衛隊の皆様の勇ましさにはいつも胸躍る思いです。」

 

「私もだよ。矢口蘭堂君も言っていたが、自衛隊はこの国を守る力が与えられている最後の砦だからな。」

秘書官と共に富士総合火力演習を TV 画面で眺めながら門長は悦に入っている。

 

富士総合火力演習は静岡県御殿場市の東富士演習場畑岡地区で実施される陸上自衛隊の演習で航空自衛隊の戦闘機も参加する大規模なものだ。

 

ここ最近は日本版海兵隊と称される水陸機動団も島嶼奪回と称し演習に参加している。

 

この物騒極まりない演習を日本政府が国内外に公開するのは近隣諸国への敵意と憎悪を煽る邪悪な意図によるものだ。

 

SNS 上では自衛隊による近隣諸国への武力行使を渇望する邪悪な連中が歓喜の声を上げていて、在日外国人を外国の工作員と決めつけ自衛隊に虐殺を懇願する書き込みも目立つ。

 

政府自らこの邪悪な連中を扇動している時点で日本は平和国家ではない。

 

突然、官邸を包囲するように銀色の機体が出現した。

 

両翼にローターを備えティラノサウルスを彷彿とさせる巨大生物の生首をぶら下げている巨大戦闘機、腕のような形状の砲台を持ちクローラーで走行する戦車、前部が爪先のような形状でペン先のような形状の回転式砲台を搭載し多数の車輪で走行する戦車の 3 機である。

 

「一体これはどうしたことだ!?まさか宇宙人が侵略に来たとでもいうのか!?」

 

怯える門長がコーヒーをこぼし机の上の機密書類がコーヒー色に染まる。もっともこの書類は元々黒塗りなのだが、不都合な情報を徹底的に隠蔽するのが門長内閣の方針だ。そうしなければこの内閣は1年もたずに総辞職している。1945年の敗戦直後にGHQからの戦犯追及から逃れるため機密書類を焼却した頃から日本は文書主義を粗末にしてきた国だが、門長内閣は特に酷い。

3機から降りてきたのは遮光器土偶に似た形状の金色の宇宙服で全身を覆う集団で、SPに警護されながら恐る恐る外に出てきた門長に丁寧に一礼した。彼らの低姿勢を目にした門長は急に高慢になり、いつも以上にふんぞり返っている。

 

「君達は一体何のつもりで来たのかな?場合によっては君達の逮捕もあり得るのだよ。覚悟したまえ。」

すると集団の 1 人が左手のひらを上に向け巨大戦闘機が運んできた巨大な生首を指し示す。

「これは先日銚子漁港を襲った化け物の生首じゃないか!君達が退治してくれたのか!?」

門長の問いかけに生首を指し示した 1 人が肯いた。この生首は 1 週間ほど前に千葉の銚子漁港に上陸しマグロ等を食い荒らした巨獣(ジラ)のもので、出動した自衛隊に銃撃されるも素早い動きで太平洋に逃走し行方をくらましていた。

 

一部でゴジラと報じられたこの巨獣だが放射熱線を吐く能力も無く機銃で普通に出血する程度の耐久なので本物のゴジラには遠く及ばないまがい物だ。

 

「君達が我々の味方だということはよくわかった。中で話をゆっくり聞こう。さあ入りたまえ。」

 

「総理、彼らをいきなり官邸に入れてもよろしいのでしょうか?」

 

「化け物を退治しこうやって首を届けてくれたのだから門前払いはいかんだろう。そんなことより報道管制の準備を急げ。銀色の巨大機体が 3 機官邸に出現と全国放送されたら、また野党や市民デモの連中が騒ぐのは目に見えているからな。」

 

矢口蘭堂は懸念を示したが門長は取り合わない。この矢口は門長同様に世襲政治屋で、やたらと自衛隊を持ち上げる発言が軍拡を目論む政府与党内で持て囃され内閣官房副長官に任じられた経緯がある。

 

翌日、宮中に参内した門長以下閣僚達は例の集団を同伴している。

 

「門長、これが昨日例の生首を持って官邸に現れた集団か。まるで金色の遮光器土偶が歩いているかのようだ。」

 

困惑する天皇の目の前でその集団の格好が金色の宇宙服から銀色のライダースーツ状の服装に変化した。その上集団の長と思しき長身の男性が腰のベルトのボタンを押し一瞬で姿が消えたものだから、天皇は勿論他の皇族連中も宮内庁職員達も皆騒然としている。

 

門長が大画面にリモコンを向けスイッチを入れると、今ベルトのボタンを押し消えたばかりの男が大画面の中にいた。

 

「これは宮内庁内部のライブ映像ではないか!い、今朕の目の前にいた男が、な、何故そこにいる?ち、朕は夢を見ているのか?」

 

大画面の中の男は困惑する天皇ら皇族に向け手を振っている。途端に男が大画面の中から消え門長の隣に姿を現したものだからざわついていた人達はもう発する言葉が見つからない。

 

「陛下、彼らは金星人でして約10000 年間地球で密かに暮らしていたそうです。金星人といっても私達地球人と同じホモ・サピエンス系種族です。そして今消えて戻った男が金星人達のリーダー、ホシェル・ルクスでございます。」

 

「私ホシェル・ルクスをはじめとする金星人一同、天皇陛下のご尊顔を拝し奉り恐悦至極でございます。我ら金星人一同、陛下がご即位なされたと伺い参上した次第です。」

 

門長に紹介されたホシェル・ルクスなる男性は爽やかな笑顔と流暢な日本語で天皇に挨拶した。

 

ホシェルは勿論金星人集団全員が金髪碧眼の所謂コーカソイド系北方人種に酷似した外見で、得体の知れない輩が来たと内心怯えていた天皇は安堵し、また自らの威光が金星人にも通用すると思い増長した。

 

「そなた達、朕に献上したいものがあると聞いたが申してみよ。」

 

「はい、陛下にこの世界を献上したいとの思いで馳せ参じました。」

 

「この世界とな。それはまた随分と大層な献上品ではないか。」

 

「はい、私共は大和民族の偉大さに、天皇陛下の真摯さに心打たれ、八紘一宇の実現のため尽力したいと考えております。手始めに2発も原爆を落としてきた上に憲法を押し付けてきたあの国への報復です。ご安心下さいませ、私共の手にかかればあの国は短時間で落とせます。あの国だけではございません。世界中がこの日本に、天皇陛下にひれ伏す日はもうすぐそこです。」

 

最初はホシェルの発言を冗談だと思い苦笑していた天皇だが段々と邪悪な目つき、例えるなら金庫にたっぷりカネがありそうな銀行を見つけた銀行強盗の目つきに変わっていった。門長をはじめとする閣僚全員が同じ邪悪な目つきなのは言うまでも無い。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。