巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#10

門長は左手親指の爪を噛んでいる。治安出動を利用した中国の工作員(と門長が勝手に決めつけた人物)の弾圧はキングシーサーの覚醒やジョナ一行の妨害で大失敗、キングシーサーは退治出来ずジョナ一行は全員取り逃がす、日本の原発はゴジラの標的にならないと国会で大見得切った直後に日本の原発にゴジラ襲来と面目丸潰れな事態が続き苛立ちが頂点に達しているのだ。

 

「総理!事ここに至っては轟天号完成を待たずゴジラを抹殺すべきです!この楠木に全権委任して下さるなら即座にゴジラを抹殺してご覧に入れましょう!何を隠そう、この楠木は既にゴジラを亡き者にする切り札を手にしております!」

 

「ではそうしてもらおうか。ゴジラ抹殺が成功すれば私の支持率も回復する筈だ。」

 

門長はゴジラ抹殺のため陸海軍全ての自衛隊の指揮権を楠木に授与することを決意した。直情径行で独断専行が目立つ楠木を内心毛嫌いしている門長だが、他の幹部自衛官は皆ゴジラ抹殺作戦の指揮を執るのを嫌がり進退窮まっていたのである。野党は現役自衛官への全権委任は軍事政権だと非難したものの、悪法を強行採決でゴリ押しする門長内閣の暴挙で特別措置法は成立した。

 

「楠木司令官、この核弾頭はいかがされたのでしょうか?」

 

「金星人からの贈り物だよ。楠木正成公の末裔で大和魂を備えた有能な日本男児である俺様は金星人連中からも尊敬されているからな。諸君、この核弾頭は手動で起爆させるしかない!そこで諸君の中から烈士を 1 人選びゴジラの傍で起爆させる!核でゴジラを殺って大和民族の英雄として後世に名を残せるまたとない機会だ!さあ諸君、我と思わん者は挙手せよ!」

 

楠木の目の前にあるメガトン級の核弾頭は嘉手納基地に秘蔵されていたもので、在日アメリカ軍基地全てを制圧し核弾頭を回収した金星人達がわざと 1 発だけ残していた。ホシェルはこの 1 発を楠木の手に渡るように仕向けどう使うか試す所存である。

「どうした!?この俺が折角大和民族の英雄になれる最高の機会を用意したのに何故誰も名乗り出ない!?早く名乗り出んかぁ!」

当然誰一人挙手しないため楠木は苛立った。無論この男は自分がゴジラに特攻する気は全く無い。

 

「司令官、この軽部が行きたいと言ってるっす!」

 

このままだと自分達が楠木に指名されると焦った海上自衛官連中は無理矢理軽部の右手を上げさせた。

「よし軽部、貴様が行け!おお、合意してくれるか!流石日本男児だ!靖国の英霊達もお前を誇りに思っているぞ!一ノ瀬由衣とかいう尻の青い小娘がゴジラを殺すのが間違っているとか抜かしていたが、戦後の左翼教育があの小娘みたいな平和ボケを量産し続けた中で日本男児の意地と誇りを示した君に感謝したい。全く!女に教育の機会や選挙権を与えるとろくなことにならん!」

軽部に詰め寄った楠木は女性差別丸出しの暴言を連発し、新調した「軍人精神注入棒」の先端で軽部の顎をコンコン突きながら殺気立った目で威圧する。気が弱い軽部1 人を犠牲にすることに合意し一斉に拍手する自衛官連中はまさしく卑劣そのものだ。

 

「軽部!腰抜けの貴様に日頃から軍人精神を注入し続けたあたごの艦長ら海自の皆さんと、自らの命と引き換えに核でゴジラを殺った偉大なる英雄として後世に名を残す最高の機会を用意したこの俺様に感謝するんだぞ!勿論貴様は靖国神社に英霊として祀られるから他の英霊達によろしく言っておいてくれ!諸君!軽部烈士を見送るべく万歳を三唱しようではないか!」

 

海上自衛官連中から毎日いじめの標的にされていた軽部は、楠木に威圧され半泣き状態で言葉を発することも出来ない。自分に向かって万歳と叫ぶ自衛官全員がとても恨めしく思える軽部であった。

 

「司令官、現在ゴジラは小笠原諸島近海を遊泳中です。この距離なら回天による作戦実行は十分可能です。」

 

「うむ、では核弾頭を搭載した回天の出撃準備をせよ。作戦開始だ!成功を祈る!」

 

あたごから連絡を受け楠木は作戦の実行を命じる。太平洋戦争末期に開発された人間魚雷の同型に核弾頭を乗せ気弱な軽部にゴジラへの特攻を強要する楠木の卑劣さに戦慄したホシェルは、やはり日本人に核兵器を使わせてはいけないと思いを新たにした。

「こちらあたごです。安全圏への移動を完了しました。」

 

「よし出番だ、軽部!頼むぞ!お前のど根性をゴジラに見せてやれ!行け、軽部!」

 

楠木は一昔前のスポ根漫画の熱血教師を気取っている。この外道に軽部を威圧し特攻を強要したことへの罪悪感は一切無い。

 

狭苦しい艦内で回天を操縦する軽部は手動で起動させた核弾頭と共に泣き叫びながらゴジラに特攻し、凄まじい閃光が夜空を照らし轟音と共に巨大なキノコ雲が上がった。作戦通り核弾頭はゴジラに命中したのである。

 

「軽部よくやった!俺はお前を誇りに思うよ!これでゴジラも木っ端微塵、ってあれ?」

 

直後に海面を割り出現したゴジラは以前より大幅に強大化した姿で、核爆発時の膨大な核エネルギー全てを吸収したため天に向けて吐く放射熱線の威力も凄まじい。

核攻撃でゴジラが消滅したと思い浮かれていた楠木だが、結局ゴジラ抹殺どころかゴジラの更なる強大化をお膳立てしてしまったのである。核攻撃でゴジラを殺す発想自体が根本的に間違っていたのだ。

 

「いいか!俺の作戦は間違ってない!回天に乗った途端にビビって逃亡しゴジラから遠く離れた場所で核弾頭を起爆させた腰抜けの軽部が全部悪い!わかったな!」

死人に口無しなのをいいことに作戦の失敗を軽部のせいにする楠木はどこまでも人間のクズである。

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