巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
空自の爆撃で死亡した宮田を自己責任と叩く風潮は光の速さで全国に広まり、生前宮田がレギュラー出演していた坂下門チャンネルが今では宮田叩きの特集を組む有様だ。
「本日の坂下門チャンネルは昨日に引き続き『宮田国臣をぶった斬る!』をお送り致します。なおこちらの宮田国忠さんはご多忙のところ本番組のためわざわざ駆け付けて下さりました。」
「ただいまご紹介にあずかりました宮田国忠でございます。なお先日の緊急記者会見でお伝え致しました通り、あの男とは絶縁しておりますので親子関係などありません。くれぐれもそこのところをお間違え無きようお願い申し上げます。」
宮田の父国忠は世間が宮田を叩くのを先読みしたかのように緊急記者会見で宮田との絶縁を公表した。
国忠は東京五輪組織委員会の会長で門長内閣とも繋がりがあり、宮田を爆死させた空自を擁護するため自己責任論を持ち出す門長の意向をいち早く知ることが出来たからだ。なお海上で爆死し遺骨自体が無い宮田の葬儀は無縁仏扱いである。
「あの馬鹿とはもっと早く絶縁しておくべきだったと今物凄く後悔していますよ。視聴者の皆様、繰り返しますがあの男は私の息子でも何でもありません。あの男が馬鹿なのは私の教育が不味かったからなどという風説はお門違いにも程があります。」
生前の宮田が旧皇族であることをひけらかしていたのは父国忠からそう教えられたからだが、国忠本人は自分が世間から叩かれるのを避けるため溺愛していた息子を即座に切り捨てたのだから余りにも卑劣過ぎる。確かに生前の宮田は卑劣極まりない男ではあったが、どれほど卑劣な男であろうと空自の民間人殺戮を免罪するため自己責任論を持ち出して叩く行為が許される筈も無い。
皇居では天皇が弟と共にその坂下門チャンネルを観ている最中だ。
「女系の癖に自分に皇位継承権があると思い込み色々出しゃばっていた宮田がやっと死んでくれて気分爽快だよ。あの恥知らずは皇室典範に皇位継承は男系男子に限ると書いてあるのも知らんからな。やたらと他人を平民と見下していたようだが父上や朕やそなたと違いあの男も所詮は平民に過ぎん。本来なら平民の分際で皇族を騙った時点で打首獄門だ。そなたもそう思わぬか。」
以前から目障りに思っていた宮田の爆死にご満悦の天皇は、差別丸出しの暴言を吐きながらニヤニヤ笑っている。「民度」なる民族差別的表現を公の場で使う父上皇同様に、この外道には差別が悪いことだという認識が全く無い。皇族という特権階級であることに胡坐をかき続け、皇族以外の人々を「平民」と見下している時点で天皇は差別主義者以外の何者でも無いが。
「兄上、イラク人質事件で「全部世の中は自己責任だと思うことで気が楽になった。自己責任論に救われた。」と放言した宮田なら死後自分自身が世間から自己責任だと叩かれるのは大歓迎でしょう。父親からも絶縁され無縁仏とかいい気味過ぎますよ。」
天皇の弟は死んだ宮田を愚弄する兄に賛意を示したが、その兄がのうのうと生きていて自分がなかなか即位出来ない現状に内心苛立っている。この弟は兄が宮田と一緒に爆死してくれたらよかったのにと思っているのだ。勿論死んだ宮田への愚弄自体は大歓迎なこの弟も兄と同類の最低野郎なのは言うまでも無い。
官邸前に到着した高機動車から楠木が出てくると、TV局の報道記者達が一斉に押しかけてきた。
「楠木陸将、中央テレビです。今回のゴジラ抹殺作戦の失敗は軽部という者が全ての原因とお聞きしましたが?」
「全く、回天に搭乗した途端にゴジラが怖いと叫び逃亡したあの軽部のせいで、本来殺せていた筈のゴジラを殺せず作戦が台無しですよ。単身で執務室に乗り込んできて、ゴジラを滅し日本男児の偉大さを世界中に示したいので是非とも回天に搭乗させて下さい、などとこの楠木に懇願した癖に結局このザマですからあの男は日本男児の面汚しです。では今から総理と面談します。」
ニュー山王ホテルの一室で何気なく TV を点けたホシェルが即座に TV を消したのは、報道記者達に大嘘をつく楠木の顔が大映しになったからだ。元々アメリカ海軍が管理していたこのホテルは自衛隊に接収され、現在は日本政府高官や金星人が利用している。
「ルクス様、日頃から軽部孝士をいじめていた自衛官全員が口裏合わせるのは余りにも酷過ぎます。本当に理不尽ですよ。」
「地球人が嫌いなヨヴェルも軽部孝士を不憫に思うか。楠木武は典型的な事大主義者だから我々金星人に刃向かうことはまず無いと最初からわかってはいたが、こんなことになるなら核弾頭をあの男に渡すべきでは無かったと正直後悔している。結局楠木武の浅はかな核攻撃のせいで余計にゴジラが強大化したがその点は大丈夫なのか?」
「心配無用です。あの兵器が完成すれば強大化したゴジラといえどもひとたまりもありません。では私はこれで。」
作業に戻るヨヴェルを見送ったホシェルは新聞を広げた。紙面には「ゴジラ抹殺失敗」「政府の非核三原則違反に野党攻勢」「ドクターホエール被害者の会結成」等の見出しが躍っている。門長内閣に媚び続けてきた報道機関も支持率下落で態度を翻したようだ。
総理執務室のドアの前に立ち 3 回ノックする楠木は忌々しげな表情である。内心毛嫌いしている門長にこれから何を言われるかわかったものではないからだ。ドアの向こうから「入りたまえ。」と声がしたので楠木がドアを開け部屋に入ると、門長がいつも通り椅子に座ってふんぞり返っている。
「さて楠木君、君には当分の間謹慎してもらう。非核三原則も文民統制の原則も無視して好き勝手したにも関わらず肝心のゴジラ抹殺に失敗したのだから本来君は懲戒免職だが、総理である私の恩情で処分が大幅に軽減されたんだ。感謝するように。」
勿論この処分は温情などではなく、自衛隊内に最早居場所は無いと楠木に思い知らせ、間接的に退職を強要する嫌がらせに他ならない。あからさま過ぎる嫌がらせに腹を立てた楠木は一瞬門長の顔面を力任せにぶん殴りたい衝動に駆られたが、相手が日本国首相なのでぐっと堪えた。部下等立場の弱い相手には平気で暴力を振るうこの外道も自分より立場が上の相手には二の足を踏む。
「総理!今回の件は本来ゴジラを殺せていたこの楠木の作戦を台無しにした腰抜けの軽部が全部悪いのですよ!作戦失敗の全責任は軽部が負うべきで、この楠木は嘘つき軽部に騙されていた被害者です!謹慎させられるいわれはありません!」
「そこまで駄目な軽部君を作戦に参加させた司令官は誰かな?そうだよ、楠木君、君だよ。そしてゴジラ打倒作戦の司令官になりたいと総理である私に直訴したのも他ならぬ君だ。だから当然君には司令官として負うべき重大な責任がある。総理である私が下した寛大な処分に不服があるなら今ここで辞表を書きなさい。紙とペンが必要なら秘書に用意させる。」
強行採決で対ゴジラ特措法を成立させたお前の責任はどうなるんだと心の中で門長を罵り続けていた楠木は、執務室を出た途端に拳で壁を殴打した。無論死んだ軽部を嘘つき呼ばわりしてまで責任逃れしようとした卑劣な楠木に同情の余地は微塵も無い。
「世襲の能無しめ!総理という自分の立場を利用して俺に責任なすりつけやがって!」
部下への責任なすりつけは大好き、でも自分が責任を取るのは死んでも嫌という点では門長も楠木も同類である。1945 年の敗戦後も GHQ に取り入って戦争責任を一切取らず死ぬまで税金で贅沢三昧し続けた無責任な天皇が頂点なだけあって、日本という国では政府も自衛隊も企業も上層部ほど無責任なのだ。
「本日は朝からドクターホエールさんの一行と伊勢神宮を参拝し、とても素敵なブレスレットを購入しました。これを付けるだけで私の中の宇宙が大きく広がります。1 個で 100 万円と極めて良心的なお値段で貴方の分も購入済みです。by 通江11:04/2019/6/15」
扉の向こうで楠木が壁を殴打していることに気付きニヤニヤ笑っていた門長だが、通江からのメールを読んだ途端に右手のスマホを床に叩き付けた。一国の首相が金切り声を上げ何度も何度もスマホを踏みつける姿は何とも滑稽である。