巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#3

大阪府警が管轄する大阪市北区の曽根崎警察署では一ノ瀬とアイリーンが取り調べを受けている。

 

「日本語流暢に話せたくらいで日本人になれたと思ってるんやったらそれは大間違いやからな。ホンマはあんたを逮捕したいねんけど、証拠不十分や!まあええ、中国人はこの国では嫌われとるからな。いずれはあんた自身がこの国を嫌になって自発的に出て行くわ。これ区別やからな。差別とちゃうで!さあ、さっさと出て行き!俺あんたみたいな中国人がごっつい嫌いやねん!」

 

アイリーンに捨て台詞を吐くこのクズ刑事は矢野謙一警部補だ。

日本では警察を正義の味方と勘違いしている人が多いが、平気で差別的暴言を吐くクズ刑事は矢野以外にも普通にいるし、機動隊が差別的暴言を吐く輩を厳重に警護し差別扇動を援護する事態も珍しくない。

そもそも警察は国家権力の一端を担う組織であり、国家権力自体が腐っていれば当然警察も腐る。

 

アイリーンが取り調べ室から出てくると一ノ瀬が待っていた。

 

「お疲れ様。日本人の私より中国人のアイちゃんの方が取り調べ時間長いって明らかに中国人への偏見だよ。本当に胸糞悪い。」

 

「でも私もこうやって釈放してもらえたわけだし、由衣ちゃんが言うほど日本の警察腐ってないよ。」

「それならいいけど、自衛官連中が私達を中国の工作員と決めつけて射殺しようとした件が大々的に報じられたばかりなのを踏まえると、警察も今は迂闊なことが出来ないと警戒しているだけって可能性もあるんだよね。」

一ノ瀬とアイリーンが中国の工作員呼ばわりされるのは勿論門長内閣の意向、即ちゴジラ打倒という国策に反対する 2 人への迫害の一環なのだが、何でもかんでも外国の、主に中国や韓国朝鮮のせいにしたがる大多数の日本人の偏見に起因する悪影響も無視出来ない。外国を悪者扱いして被害者ぶる日本国民ほど悪人であり腐れ外道なのである。

 

「俺は夕刊富嶽で記事書いとるブン屋や。姉ちゃんら 2 人とも超べっぴんやし、色仕掛けであのテロリストに取り入ったんか?」

 

一ノ瀬とアイリーンが曾根崎署から出てくると、外で待ち構えていたスポーツ紙記者がニヤニヤしながら絡んできた。

報道陣の執拗な取材に辟易している 2 人はノーコメントで突っぱねようとするが、このセクハラ記者はとにかくしつこい。周囲の通行人達は知らん顔しながら通り過ぎていく。

 

「このオッサン、盗撮DVD を販売したアダルトビデオ制作会社を庇う記事書いてた女性の敵やんか!」

 

「本当だ!お前全然反省してないな!また懲りずにセクハラ記事書く気かこの下衆野郎!」

 

一ノ瀬とアイリーンの全裸姿を妄想しながら鼻息を荒げていたこのセクハラ記者は突然駆け付けた女子高生、鈴木イオと女子大生、工藤ありさの剣幕に圧倒され、冷や汗をかきながら目を泳がせている。

 

「これ何!?ペンの形した隠しカメラやんか!ウチこれでセーラー服のスカートの中撮られたことあるからよう知ってるねんで!」

 

隠しカメラを鈴木に没収されたセクハラ記者は血相変えて逃げ出した。このセクハラ記者が逃走直後にポイ捨てされていた空き缶を踏んで転倒し路上で顔面を強打しても、周囲の人達は相変わらず知らん顔しながら通り過ぎていく。

 

「貴方達はあの時の!ありがとうございます。お陰で助かりました。」

 

どうやら一ノ瀬は鈴木及び工藤と面識があるようだ。

 

「先程イオちゃんと偶然一緒になったのですが、遠くから一ノ瀬さんらしき人が絡まれているのが見えたのでいても立ってもいられず駆け付けました。貴方の提訴のお陰で私は泣き寝入りを止めることが出来て、大学にもまた通えるようになったんです。」

 

「色々しんどくてトイレで吐いたウチの背中優しく撫でながら励ましてくれた一ノ瀬さんのことは一生忘れへん。その一ノ瀬さんに詰め寄るクズ男は絶対許さへん!お姉ちゃんは一ノ瀬さんの友達?この人はウチらの救世主やで。」

 

「アイリーン・チェンです。この人のお陰で私も色々救われています。私にとってかけがえのない親友なんです。」

 

「貴方もですか。一ノ瀬さんみたいな方がもっとたくさんいれば生きやすい世の中になるのにと思います。」

 

3 人の女性から尊敬のまなざしを向けられた一ノ瀬はうつむきながら赤面している。普段は気の強さが目立つ一ノ瀬だが、本当は繊細で純真で恥ずかしがり屋さんなのだ。

 

一方隠れ家に戻ったジョナは部下からの質問に答えていた。

 

「何故隊長はあの民間人 2 人をあそこまで庇うのですか?大勢の人達の目の前で 2 人を撃とうとした自衛官を射殺したり、自衛官があの 2 人を、即ち丸腰の市民を撃とうとした瞬間を動画撮影して世界中に配信したりと明らかにリスクが大き過ぎます。」

 

「彼女達は我々と違い裏社会とは無縁だ。そんな彼女達が国家権力の隠蔽工作をものともせず巨神を熱心に研究し、暴虐な自衛官達に丸腰で抗議した。そんな彼女達をみすみす死なせるわけにはいかない。」

 

ちなみに警察が一ノ瀬とアイリーンの不当逮捕を断念したのは、今迂闊なことをすれば自分達の悪事もジョナに暴かれると怯えたからである。

ジョナ一行の動画配信が無ければ警察は 2人の不当逮捕に何の躊躇もせず、門長内閣も航空自衛官が民間人2人に言いがかりをつけ射殺しようとした暴挙そのものを闇に葬っていたのは明白だ。

 

「そういうことでしたか。私自身反政府活動や巨神の研究は我々の専売特許ではないことを忘れかけていたようで、反省することしきりです。それはそうと隊長、ロシアの同志達がドローンで撮影した映像が届きました。」

部下が提示した映像はウラル山脈近くのタイガで、20年以上前にMOGERAがプラズマレーザー光線で焼き尽くしたが今では焼かれる前以上の緑の楽園と化している。

「20 年以上前に MI6 の任務で現地を訪れた時は防護服が必要なくらい放射能濃度が高く、ゴジラの足跡が残っていた。放射能汚染された焼け野原がわずか20年でここまでの緑の楽園と化すのは一見異様だが、最近巨神に破壊されたばかりのこの都市で既に植物の生育が始まっているのを踏まえると、巨神には傷ついた自然を急速に回復させる力があるのは間違いない。」

 

ジョナが提示したのは最近までメキシコシティだった廃墟街の映像で、ラドンに焼き払われてからまだ半月も経っていないにも拘らず至る所で新芽が出始めているのだから驚きだ。ラドンの衝撃波が種子をあちこちに飛散させていたのかもしれない。このままこの廃墟街が緑の楽園となり草食動物の数が増えれば、餓死寸前のところをラドンに救われたあのメキシコオオカミ夫婦も一安心だろう。

「この巨神の力、最早科学で解析出来る領域ではありませんね。まさしく神の領域です。」

 

「巨神達が文明人達に大打撃を与えて環境破壊を頓挫させ、通った場所が緑の楽園と化していく。これは巨神達が地球の主としての使命を見事に果たしている証だよ。地球人であろうと金星人であろうとそれを妨げることは出来ない。日本では官邸の連中が特措法を強行採決し非核三原則を無視してゴジラへの核攻撃を行ったが、ゴジラ抹殺どころか余計にゴジラが強大化する有様だ。」

 

その官邸に到着した矢口は大きな封筒を抱えている。総理執務室に入ると床に散らばる多量のスマホの残骸が一瞬気になった矢口だが、首相の顔色を伺うのに敏なこの内閣官房副長官は疑念を素早く胸の奥底にしまった。

「矢口君、自衛隊はどうしてこうも私の足を引っ張るんだ?沖縄でも奈良でも東海村でも自衛隊は本当に恥を晒した。無能共が!」

ジョナ一行の動画配信で隠蔽工作が失敗に終わった門長内閣は、一ノ瀬とアイリーンを射殺しようとした航空自衛官達が所属する部隊の部隊長を辞職に追い込んだ。

沖縄で自衛官達が丸腰の市民達に暴行した件でも部隊長を辞職させ治安出動を発令した自分達の責任はウヤムヤにしたこの無責任内閣は、見ての通りトカゲの尻尾切りが常套手段である。

 

「この国はまだまだやれます。自衛隊を、この国を守る力が与えられている最後の砦を信じましょう。もうすぐ金星人達が新兵器を完成させますので挽回は十分可能です。それはそうと総理、例の一ノ瀬由衣に関してお渡ししたい資料があるのですが。」

 

「一ノ瀬由衣といえば関西の自衛官連中は駄目だな。撃とうとした瞬間を撮られていたせいで隠蔽は台無し、お陰でアメリカ攻撃にも憲法9 条違反だと難癖つけてきたあの生意気小娘は今でも野放し状態、やはり関西人は皆駄目だ。で、一ノ瀬由衣が何だって?」

 

平然と女性と関西人を差別する門長だが、矢口から手渡された資料を目にした途端に顔色が変わった。

 

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