巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#4

ペットホテルから引き取ったペロと共に帰宅した一ノ瀬とアイリーンは心身共に疲れきっている。

航空自衛官に射殺されそうになるわ、警察から言いがかりつけられるわ、報道陣から悪意ある執拗な取材されるわとここ数日で数年分歳を取ったような気分だ。

すると突然一ノ瀬のスマホが振動した。表示されている電話番号に見覚えがある一ノ瀬はまた矢口かと呆れ顔である。

 

「もしもし、もう二度と電話かけてくるなと言った筈だけど。」

 

「私は日本国首相の門長だ。突然の電話で申し訳ない。実は君に首相補佐官をお願いしたい。」

 

電話の相手は矢口ではなく門長であった。自衛隊を動かし迫害してきた門長とは口もききたくない一ノ瀬だが、意外過ぎる申し出に戸惑いを隠せない。無論一般人である一ノ瀬に日本国首相である門長が直接電話すること自体が異例中の異例だが。

 

「今日エイプリルフールじゃないんだけど。ああそうか、あんたは年中エイプリルフールだっけ?」

 

「私は本気で君に首相補佐官をお願いしたいんだ。何しろ君は陛下のご落胤なのだからな。」

 

門長は密かに採取した DNA サンプルで一ノ瀬が天皇と実の親子であることが判明した旨を伝えた。

 

「陛下がまだ皇太子殿下だった頃宮内庁職員である一ノ瀬桐子といい関係になった。彼女は陛下の子を懐妊し皇太子妃殿下、現在の皇后陛下の側近達が大層激怒され宮内庁を追われたんだ。そしてその時彼女が懐妊した陛下の子こそ君だ。陛下にこの件をお話ししたところ、皇族扱いは無理だが自分の血を分けた娘にそれなりの地位を与えて欲しいと仰せられた。では手続を。」

 

一方的に話を続ける門長を一ノ瀬が凄まじい剣幕で遮る。

 

「勝手に私の DNA 調べて天皇の子だから補佐官になってとか身勝手過ぎる!母さんは女手一つで私を育て父のことは亡くなるまで一切話さなかった。母さんを妊娠させ宮内庁から追放されるのを止めもしなかった男が今天皇とか冗談じゃない!血統ばかりありがたがるからこんなふざけたことがまかり通る!私に父親なんていない!庶民から搾取した税金で贅沢に暮らす皇族連中と一緒に

されたくない!消費税増税で庶民を苦しめ憲法9 条無視してアメリカ攻めて大勢殺したお前の悪政を補佐する気も一切無い!」

 

一ノ瀬の剣幕に圧倒され椅子ごと背後に転倒した門長は床で後頭部を強打し失神した。

 

電話を切った一ノ瀬はアイリーンに抱きつき号泣している。初めて親友の号泣する姿を見たアイリーンは両目に涙を浮かべながら優しく一ノ瀬を抱きしめた。

 

「由衣ちゃん、気が済むまで泣いていいよ。私も一緒に泣くから。由衣ちゃんは泣いているところを人に見られて笑い者にされるのが怖くて今までずっと泣きたくても泣けなかったんだね。でも大丈夫、ここには泣いている由衣ちゃんを笑い者にする人は誰もいないから。今夜は 2 人で一緒に泣こう。由衣ちゃんの父親が誰であろうと関係無い。由衣ちゃんはこれからもずっと私の親友だから。」

 

ペロはもの言いたげな表情で一ノ瀬の膝に右前足を置いていて、彼女を慰めようと一生懸命なのが傍目からでもよくわかる。

 

意識を取り戻した門長は後頭部にアイスノンを装着した状態で天皇に電話した。またもや天皇のわがままに振り回された門長は二重の意味で頭が痛い。

 

「そうか、彼女は断ったか。まさかと思うが彼女はこの件を週刊誌に売ったりはしないだろうな?」

 

「彼女と陛下の件は一切記事にするなと全出版社に圧力かければ問題ありません。菊タブー様々です。第一彼女は執拗な取材で週刊誌は勿論報道陣自体を嫌悪しています。自身の着替えや入浴姿を盗撮したアダルトビデオ制作会社を他の被害者達と共同提訴し盗撮DVD 販売を取り止めさせた件で、制作会社側に立ち彼女を叩いた週刊誌やスポーツ紙からも敵視されていますので。」

 

一ノ瀬の懐柔に失敗し週刊誌沙汰になるのを恐れた天皇だが、門長の解説に安堵しほくそ笑んだ。ちなみに先程曾根崎署近辺で一ノ瀬とアイリーンを助けた鈴木と工藤も共同提訴の原告団の一員である。

 

そもそも天皇が自分の父親で母桐子を捨てたと知り号泣するほど傷ついた一ノ瀬が、その件を世間に暴露という心の傷を自分で抉るような真似をする筈が無い。

反天皇制を公言する舞踏家の女性を転落事故に見せかけて殺害するよう国家公安委員長に指示する等、菊タブーをいいことに陰で散々悪事を働いてきた天皇は後ろめたさから疑心暗鬼に陥っている。

 

「ところで陛下、代替わりで世間が沸いている今こそ改憲の好機です。この改憲で忌々しい占領軍憲法を葬れば陛下は名実共に現人神ですよ。」

 

「今現在朕が現人神であることを否定する者は誰もおらぬし、改憲などせずとも我が国はワシントンを陥落させたではないか。世論調査を踏まえても国民投票で改憲が成功するか否かは未知数だ。今そんな危ない橋を渡る必要は無かろう。これまで通り憲法解釈変更で行け。父が皇位にあった頃から憲法解釈変更を繰り返してきたそなたには容易いであろう。」

 

天皇に梯子を外された門長は愕然とした。とはいえ憲法解釈変更とやらで憲法を骨抜きにするわ、ホシェルの甘言に乗せられアメリカへの奇襲攻撃を強行するわと自分のやったことが跳ね返ってきただけなので同情の余地は一切無い。

憲法即ち国家権力に好き勝手をさせないための法規を天皇も首相も無視して好き勝手している今の日本は事実上の無法国家である。

 

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