巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#6

夕方、帰宅するためキャンパスを出た一ノ瀬の両目に強い敵意が宿る。目の前に矢口が立っていたからだ。

「二度と電話かけてこないでと言った私にわざわざ会いに来るとか完全にストーカーなんだけど。」

 

「俺と結婚を前提に付き合って欲しい。結婚は今すぐでなくていい。俺は 10 年後に総理として組閣することを考えている。それまでに君との挙式披露宴を開くことが出来れば問題無い。帝国ホテルで挙式し総理夫人としての君を政財界にお披露目したい。何を隠そう俺の両親も、俺の父方の祖父も帝国ホテルで挙式した。帝国ホテルでの挙式は矢口家の伝統だ。」

 

唐突過ぎる矢口の求婚に一ノ瀬は一瞬唖然としたが、すぐにその申し出の奥にあるものに気付いた。

「そうか、お前も門長同様に私の父があの男だと知っているのか。で、その私と結婚し自分に箔付けときたわけか。つまり私は政争に勝つための手段か。ひょっとして私がその申し出受けると本気で思ってる?女の私が玉の輿に乗るのを夢見ていると本気で思ってる?ふざけるな!人を出世の道具にするな!女の幸せはこうだと男が勝手に決めること自体が男尊女卑そのものだ!」

 

「これは君にとっても素晴らしい話だ。俺はゴジラ打倒に繋がる有力な情報を手にした。世界中のどの国も打倒出来なかったゴジラをこの国が打倒すれば、世界がこの国の力にひれ伏し新たな秩序が生まれる。俺は総理としてその秩序を統べたい。君にもその手伝いをしてほしい。総理夫人の地位はその報酬だ。君はもっと自分の血統を利用するべきだ。この俺のようにな。」

 

矢口が自分を天皇の血族と姻戚関係になるための手段扱いしていることなど一ノ瀬はお見通しである。

矢口は平気で約束を破る性格で、ゴジラに関する機密情報を世界中に拡散というアメリカ大統領特使カヨコ・アン・パタースンとの約束を破った重大な裏切り行為を全く後悔せず反省もしていない。

もしここで一ノ瀬が求婚に応じたとしても、遅かれ早かれ矢口に裏切られるだけだ。

「何故笑う?俺の何が面白い?」

 

「自分が血統や親のコネを臆することなく利用してのし上がってきた恥知らずだからって、勝手に私を同類と決めつけるお前の浅はかさが本当に面白いよ。私は母さんを捨てたあの男も、あの男と一族の贅沢三昧のため税金を浪費する政府も許さない。血統頼みのお前とは立っている地平が違う。大体私とあの男が親子だと公表しても誰も信じないからお前の求婚自体が無駄。」

 

「ではこうしよう。ゴジラとの戦いが終わったら、俺がゴジラを打倒したら、その時は俺と結婚してほしい。結婚に応じてくれるなら君が陛下のご落胤であることをDNA鑑定書と共に公表するから君は晴れてシンデレラになれる。言うなれば俺は君にガラスの靴を届けにきた王子様だ。さあ幸せへの第一歩を踏み出そう、この俺と共に。今のつまらない生活とは永遠におさらばだ。」

顔を近付けながらいつもの単調な早口で一方的に結婚を迫り続ける矢口は、一ノ瀬から余計に反感を買っている。仮にこの世襲政治屋が映画の主人公だとしたら、その映画はやたらと主人公の顔を大映しにして安っぽいヒロイズムを強調する内容であろう。

ところで「戦いが終わったら結婚」発言をした者は得てしてその戦いが終わる前に死亡するものだが、果たして矢口はどうであろうか。

 

「私の今の生活を勝手につまらないと決め付けるとかお前どこまで傲慢なんだよ。これ門長にも言ったけど、私そもそも皇族扱いされたくないから。生物の概念を超えた存在、ゴジラを単なるヒトに過ぎないお前が倒すとか笑止千万。お前は世襲与党議員特権で下駄はかせてもらって万能感に酔っているけど、ゴジラの前ではその特権自体が消し飛ぶよ。血統で人を差別し、日本国民さえ死ななければいいという姿勢で自衛隊がアメリカで大勢殺すのを後押しした内閣官房副長官サマの顔はもう見たくない。」

 

太平洋戦争時の日本国民の犠牲ばかり強調し日本軍が殺したアジアの人々を無視する矢口は、自衛隊がアメリカで行う大量殺戮に案の定賛同し内閣官房副長官として後押しした。

そして天皇の血統以外を卑しいと切り捨てる差別的価値観を全面肯定しているからこそ、矢口は天皇の血統と姻戚関係になりたがっている。そんな矢口を一睨みした一ノ瀬はそのまま群衆の中に消えていった。

 

「ついに見つけたぞ!カヨコの仇!くたばりやがれ!」

 

突然群衆の中から飛び出し矢口の腹部に包丁を突き立てたのはパタースンの婚約者、トニー・シドニー・メアだ。

矢口に裏切られたパタースンは自衛隊がワシントン D.C.を空爆した際に重傷を負い、矢口を恨みながら死亡した。ホシェルからパタースンの最期を聞かされたメアは当然激怒し、矢口への復讐を決行したのである。とはいえ直後に駆け付けた SP 達に射殺されたが。

病室のベッドで矢口が目を覚ますと秘書や SP 達が心配げな表情をしている。刺されて意識を失った矢口は阪大病院に緊急搬送されたのである。

 

なお秘書や SP 達は矢口が一ノ瀬にストーカー行為をしていることは知らない。現役の内閣官房副長官のストーカー行為が世間に知れ渡ればそれこそ矢口は政界にいられなくなる。

「矢口官房副長官!無断で出歩かれては困ります!今回のように暴漢に襲われもし取り返しのつかないことになれば私達は悔やんでも悔やみきれません!何故お 1 人になられたのですか!?」

 

「腹の傷が痛むから返答を差し控える。俺が今入院中の怪我人だということを忘れるな。」

本当のことを言えば一ノ瀬へのストーカー行為が明るみに出るため矢口はお茶を濁した。

 

命に別条無い矢口だが当分は入院生活で退院後も警備が強化され無断で出歩くのはまず無理なのは明白だ。

一ノ瀬への求婚もといストーカー行為自体の断念を余儀無くされた矢口は小声で「クソッ!」と呟いた。

なおホシェルとヨヴェルはメアの死亡と矢口の生存を知っても特に動揺していない。

「地球人を嫌うヨヴェルがトニー・シドニー・メアに肩入れしていて妙だと思っていたが、結局捨て駒か。無人攻撃機を多数調達し中東への空爆を後押しした癖に、自分が空爆されると被害者面するあの大統領特使サマは正直悼む気にもなれないが。そういえばトニー・シドニー・メアは巨大軍需産業の御曹司だったな。カヨコ・アン・パタースンとは悪い意味でお似合いのカップルだよ。」

 

「同じ地球人を憎悪し殺意を抱く地球人が実に滑稽ですのでほんの少し手を貸したまでです。3 機の修復や轟天号建造で忙しい我々に新兵器を作れとうるさい矢口蘭堂にお灸を据えることが出来て溜飲が下がりました。その新兵器も先程完成しまして 2 機のうち 1 機が韓国に向かうようです。今回の新兵器は試作品ですが性能は折り紙付きで、巨神共もただでは済まないでしょう。」

 

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