巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
地球の天文学者が X 星と呼ぶ木星の第13 衛星ではヒューマノイド種族である X 星人が地底都市で暮らしていて、統制官を頂点に電子計算機、即ちコンピューターの計算で全てを決定する高度管理社会を築いている。
「統制官、この制御装置を起動させれば怪物0を我々の意のままに操れます。電子計算機の計算によりますと怪物0到着まであと58分でして、到着次第捕獲し手駒にします。先発隊の出発準備もあと 43 分で整うとのことです。地球の水が我々のものになるのも時間の問題かと。」
部下からの報告を受け統制官が肯く。
「既に
この星では水素と酸素を合成させる形でしか生存に必要な水分を得られないため水が豊富な惑星をコンピューターで探していたX星人は、コンピューターの計算に従い地球を移住先に決定したのである。無論ここで言う移住は侵略と同じ意味だ。
「妙です。もう怪物0 が到着しました。電子計算機の計算では到着まであと 27 分かかる筈ですが。」
「確かに妙だ。電子計算機の計算に狂いや誤差は無い筈。本当に怪物0 は到着したのか?」
「はい、たった今隕石の姿で到着したと先発隊から連絡が入っております。」
「であれば 31 分前の電子計算機の計算と食い違う。一体電子計算機はどうしたんだ?」
行動の全てをコンピューターの計算で決定する X 星人にとって、計算の食い違いはあってはならないことである。
一方先発隊は怪物0 と対面していた。X 星人は顔以外の全身を灰色タイツで覆った上から巨大な襟のある黒いベスト状の衣装を着込み黒い手袋とブーツを着けている。先発隊はさらにその上から金星人のものとよく似た形状の宇宙服を着ていて、持ち歩いているトランクらしきケースに入っているのは地球人になりすますための衣服だ。
「コイツが怪物0 か。思ったより大きいな。だがいくら身体が大きくても制御装置の電磁波で既に我々の支配下にあるがな。」
先発隊の中心人物と思しき男性が怪物 0 に接近しようとすると、1 人の女性が急に呼び止めた。ちなみに X 星人の女性は全員クローンのため皆同じ顔をしていて、この女性は地球人になりすますため「波川」というコードネームを与えられている。なお X 星人男性は細いサングラスで両目を隠しているが、女性である波川はサングラスをかけていない。
「いけません!不用意に怪物0 に近寄っては危険です!お戻り下さい!」
「大丈夫だ、電子計算機の指示通り製造した制御装置で怪物 0 は我々の支配下にある。だから私が近寄っても何もしないさ。君も一緒にどうだ?我々がもうすぐ夫婦になることは電子計算機の計算で決まっているのだから怪物0 の間近で記念撮影をしたい。」
「その電子計算機の計算では到着がまだの筈の怪物0がもう到着したんです。であれば怪物0が電子計算機の計算通り制御可能なのかどうかも今の時点ではまだ判断出来ません。」
「貴様!電子計算機の計算を疑うのか!?電子計算機の計算に従わない者、電子計算機の計算を疑う者は反逆罪で即刻処刑されることを承知しているのか!?」
波川を罵倒していたこの男性は直後に背後からキングギドラの右の首に捕食された。X星人が怪物0と呼ぶ黄金の三つ首龍、即ちキングギドラが先発隊を次々喰い殺すという計算の食い違いどころでは無い事態に男性陣は絶叫し慌てふためくが、1 人波川は両目を閉じ佇んでいる。左右の首と共に先発隊を捕食していた中央の首がふと波川を見つめた。
「どうぞ私をお食べ下さい。電子計算機の計算に支配され、女性である私が何体もクローンで製造され男性連中の結婚相手になることを強いられるこのおぞましい管理社会を貴方が破壊して下さるならこれ以上の喜びはありません。」
小さく頷いたキングギドラの中央の首が直後に単独で引力光線を吐き波川を消滅させたのは、彼女に苦しむ暇の無い最期をという中央の首なりの配慮である。キングギドラが先発隊を喰い殺す様子を映像で観た統制官は動揺の色を隠せない。
「早く制御装置を起動させろ!早く怪物0 を我々の制御下に置くんだ!急げ!」
「もう既に制御装置を起動させております!ですが怪物0 を全く制御出来ません!制御不能です!」
「そんなことは絶対にあり得ない!電子計算機の計算では制御装置の起動で怪物0 を制御可能と表示されていた筈だ!」
統制菅達が狼狽していると地底都市が大きく揺れた。キングギドラの左の首が地表から文字通り首を突っ込んできたのだ。
物珍しげに地底都市を見回す左の首はX星人による必死の銃撃にも全く動じない。続けて中央の首と右の首も地表から突っ込んできた。周囲を見回す左の首と違い、右の首は銃撃してくる X 星人達を殺気立った目で睨む。無論先発隊は既に全滅している。
「こうなったら怪物X に怪物0 を始末させるしかない!怪物X の封印を解け!」
X星人達が巨大な金属扉を開くと中にいたのは全身を鎖で縛られた怪物Xである。
怪物Xは怪人めいた細身の体型で黒い皮膚を白骨状の外骨格で覆い両肩の外骨格は頭蓋骨を縦に二等分したような形状で、両肩のものを含め赤く光る眼が何とも不気味だ。鎖を外された怪物X は素早くキングギドラに跳びかかり、回転しながら 2 本の尾を右の首に打ち付ける。
「統制官、怪物X が怪物0 を追い払いました。我々の支配を拒んだ怪物0 に死の制裁を加えてやりましょう。」
「電子計算機の計算で怪物X の勝率は100%と出ているから怪物0 に勝ち目は無い。怪物0 も怪物X同様に我々の制御装置の支配を受け入れていればここで死ぬこともなかったのに愚かなものよ。それに科学力も文明力も我々に大きく劣る地球人の制圧は怪物X だけで 100%可能と電子計算機の計算で出ている。つまり怪物0 が反逆しても我々の計画に支障は無いということだ。」
岩盤に首を突っ込んだままでは戦えないと判断したキングギドラの中央の首は、左右の首に地表で戦うよう指示する。キングギドラが穴から 3 本の首を抜いた途端、その穴を大きくえぐる形で岩盤を割り怪物X が飛び出してきた。
荒涼とした X星の地表でキングギドラと怪物X が対峙する。
一方は制御装置による支配を断固として拒み、もう一方は制御装置の操り人形である。
怪物 X は先程同様の身軽な動きでキングギドラに跳びかかるが、キングギドラは左の翼で殴打し怪物 X を地面に叩き落とした。確かに怪物Xは身軽だが、跳躍している間は無防備になる隙を突かれたのだ。
地表に激突した怪物Xはすぐ起き上がり赤く光る眼から雷撃を放つ。その雷撃の直撃でキングギドラの巨体がよろけたのだから、威力はなかなかのものだ。
体勢を立て直したキングギドラは反撃のため引力光線を吐く。引力光線の直撃で怪物Xは仰向けに転倒したが、またもや瞬時に起き上がり今度は跳びかからず地面を駆け突進してきた。怪物 X を操る X 星人も跳びかかったらまた翼の殴打で叩き落とされると気付いたのである。
ここで接近戦も一興と考えたキングギドラは各首が素早く怪物X の身体に噛みつき遠くに放り投げる。
キングギドラが吐く引力光線と怪物 X が放つ雷撃の激突で数㎞にわたる大爆発が発生した。キングギドラは両翼の棘を素早く地表に食い込ませ爆風に耐え抜いたが、細身で高重心な怪物 X は爆風で吹っ飛び瓦礫の中だ。
怪物 X が瓦礫から出てくる気配が無いので再び地底都市に狙いを定めたキングギドラは各首が地下の X 星人達を睨む。
「勝つのは我々だ!電子計算機の計算では怪物0 は 100%銃殺可能と出ているからな!」
「銃撃が全く効かない!電子計算機の計算では 10 回の銃撃で怪物0 は死ぬ筈なのに!」
この期に及んでコンピューター頼みの X 星人だが、キングギドラの各首が地下都市の電力源に噛みつき電力を吸い尽くしたことで彼らの拠り所であるコンピューターは停止し地底都市全体が停電した。
最早コンピューターには頼れないX星人は暗闇で無造作に銃撃して同士討ちを多発させた上、暗闇でも目が見えるキングギドラの各首が吐く引力光線の餌食になっていく。
「統制官!金星から移住して以来電子計算機の計算に従い続けてきましたが、これまでのようです!怪物 0 が我々の文明を 0 にするのが無念です!」
「我々は脱出する!未来に向けて脱出する!まだ見ぬ未来に向かってな!」
統制官は自爆装置を起爆させた。キングギドラを道連れにするため地底都市全体を吹き飛ばしたものの、直後に瓦礫の中から姿を現したキングギドラは全く負傷していない。
キングギドラを制御装置で全く操れず逆に自分達が滅ぼされるのはX星人にとって致命的過ぎる計算違いだが、X 星人は最後の最後まで計算違いを繰り返してしまったのである。