巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
数か月後、東富士演習場で 4 機のイェーガーが戦闘訓練を行っている。なおジプシー・デンジャー以外の3機の名称はストライカー・エウレカ、クリムゾン・タイフーン、そしてチェルノ・アルファだ。
かつて日独伊三国同盟を締結した時同様にナチスに親近感を持っている門長ら日本政府の面々は、軍事同盟締結というネオナチ連中の申し出に歓喜し気前よく演習場を貸し出したのである。
「やはりドイツとの軍事同盟はいいものだ。今度はイタリア抜きでやろうか。」
訓練を終えジプシーから降りてきたスコルツェニーを笑顔で出迎えた門長は縁起でも無いことを言った。元俳優のスコルツェニーは内心門長を嘲りながら見事に「友人」を演じている。この茶番劇を遠巻きに眺めているホシェルとヨヴェルは呆れ果てた表情だ。
「イェーガーを乗りこなすのにも日本政府を騙すのにも成功し舞い上がるネオナチ連中、そしてネオナチ連中に騙されているとも知らず偽りの軍事同盟締結に舞い上がる日本政府、どちらも本当に目障りですよ。」
「こうやってネオナチ連中と仲良くする日本が同時並行で他国の資源を収奪している。ヨヴェルよ、この島国は本当におぞましい。」
太平洋戦争時に油田を横取りするためインドネシア(※当時の呼称はオランダ領東インド)に侵攻した日本軍は現地の人達を強制労働させ、現在のインドネシアの歴史教科書にもロームシャ(労務者)、即ち日本軍による強制労働の記載がある。そしてワシントン D.C.陥落で調子に乗った日本はアメリカの会社が保有するインドネシアの油田を横取りと同じことを繰り返している。
勿論インドネシアの油田だけではない。日本以外の国が経済破綻したのをいいことに、経済援助の見返りと称しその国の資源をタダ同然で収奪したり、少子高齢化で日本国内の労働者人口が減ったため外国人労働者を受け入れ日本人より劣悪な条件で働かせたりとやりたい放題な横暴さに、日本への隷属を強いられる国々の間で密かに日本への憎悪が広まっていった。
富士山を挟んで東富士演習場の反対側にある青木ヶ原樹海では、楠木が「皇国義勇軍」の団員達と共に何かを調査している。謹慎中の楠木が現役自衛官達と行動を共にするなどまず許される筈も無いが、楠木を崇拝する団員達は懲戒免職も覚悟の上だ。
「楠木司令官、こちらです。『護国聖獣伝記』に記された絵図と形状が一致します。この風穴の中に護国聖獣の魏怒羅が。」
「でかした湊川!去年メールをくれた時からお前なら必ずやると信じていたぞ!では早速中に、うわっ!」
興奮した楠木は苔で足を滑らせ転倒した。すぐに起き上がった楠木だが鼻血が出ている。湊川2等陸曹が笑ったと勘違いしその場で鉄拳制裁を加えたこの暴力主義者は本当に浅はかだ。
気を取り直して団員達と共に風穴の奥に進んだ楠木を全身氷漬けの黄金の巨体が出迎えた。護国聖獣、魏怒羅である。
「おお、何と神々しい姿だ。よし、例の石を出せ。『護国聖獣伝記』の記述に従いこの俺様が魏怒羅の、千年竜王の封印を解く。魏怒羅が蘇れば轟天号の完成を待たずともゴジラを葬れる。ゴジラを葬れば門長の世襲野郎もこの俺様に土下座し総理の地位を譲るのは間違いない。楠木正成公の末裔でこの国を守るため長年汗をかいてきた俺様こそ総理に相応しいのだぁ!グハハハハ!」
楠木の下品な笑い声に団員達は必死で両耳を塞いでいる。
途端に風穴全体に亀裂が入り、轟音と共に崩落し始めた。自分だけ助かりたい楠木は真っ先に脱出したものの、その楠木に突き飛ばされた湊川が逃げ遅れて帰らぬ人になっている。
「何故だ!?何故俺様が魏怒羅を復活させるのを邪魔する!?この俺様は護国聖獣を復活させ大和民族の英雄になる男だぞ!」
「司令官、落ち着いて下さい。これ以上ここにいても仕方ありません。落盤があった以上警察は勿論、東富士演習場から陸自や空自の部隊が駆け付ける可能性が高いです。謹慎している筈の司令官がここにいることを知られては大変です!」
駄々をこねる楠木だが東富士演習場に門長が来ていると知り撤収を決意した。謹慎命令を無視して自衛官達と一緒にいるところを門長に見られたらまたどんな嫌がらせをされるかわかったものではないからだ。なお楠木は団員達に今回の件は湊川が勝手に 1 人で風穴に入り落盤の犠牲になったことにしろと厳命している。
楠木達が去った途端に落盤で押し潰された風穴が突然ガタリと動いた。