巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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六本木ヒルズには所謂「勝ち組」とされる人達が大勢暮らしている。榊大翔(さかきはると)もその 1 人で、東大在学中に起業したインターネット関連のベンチャー企業で大儲けし、一度インサイダー取引で逮捕されたものの出所後に巨額の資産を投じ国内最大手の派遣会社ANOSAP(アノサプ)を買収して会長の座に収まり、門長内閣とも太いパイプを構築し現在に至る。

 

「皆様、今年はいよいよ待ちに待った東京五輪2020 です!私、榊大翔も優良人材の提供という形で五輪運営を支える所存です!」

 

演説する榊を政財界の大物や富豪達が囲む。日本以外の国が経済破綻した状況で五輪開催は完全なる暴挙だが、元々この五輪自体福島被災地復興を放置し聖火なる五輪の火が通る場所だけ綺麗にする等、被災地を見殺しにする気満々の罪深き祭典だ。

 

経済政策顧問として派遣労働拡大を政府与党に提言し、自身が会長を務める派遣会社 ANOSAP の利益拡大に繋げるマッチポンプを行ったり、門長内閣との癒着を利用して五輪関連事業を異様に安い金額で落札等榊は金儲けのためなら手段を選ばない。自分が儲かれば被災地がどうなろうが、派遣社員が安い賃金でこき使われようが知ったことではないというのが榊の姿勢である。

 

榊を囲む富豪達にはサイバーテロで政府中枢が麻痺した祖国を捨て東京に移住した外国人も数多い。榊はこうした富豪達を株主とすることで ANOSAP の財源を安定させ、派遣社員から搾取した利益を彼らと共に貪っている。経済破綻で大混乱する諸外国を無視した五輪開催という暴挙は東京在住の富豪達への娯楽提供でもあり、その娯楽のために被災地切り捨てが加速というのも酷い話だ。

 

被災地切り捨てといえば「Fukuichi311」なる映画が最近公開された。近年の邦画大作の例に漏れず人気役者を寄せ集めた安っぽいお涙頂戴物語で、福島第一原発事故の際の電力会社の対応を正当化し原発推進という門長内閣及び電力会社の意向に沿った内容だ。

本編は被災地を放置した五輪の火のリレーで締めていて、被災地の実態を隠す邪悪な被災地切り捨て映画に他ならない。

 

「映画を利用して被災地の実態を隠し東京オリンピックをゴリ押し。こんなに邪悪な映画は観たことない。」

 

「由衣ちゃんは最後まで観たんだね。私は出演者達のわざとらしい演技がつまらなさ過ぎて途中で寝ちゃったよ。」

 

映画館から出てきた一ノ瀬とアイリーンは脱力感を拭えない。期限切れ寸前の格安鑑賞券で「Fukuichi311」の駄目駄目さを満喫した 2 人は東京メトロ有楽町線に乗車し新木場駅を目指す。彼女達の目的地は江東区新木場の都立第五福竜丸展示館だ。

 

「ここオリンピック開催中は閉鎖される予定だと聞いていたけど、結局閉鎖は取り止めになってよかった。由衣ちゃんをはじめ心ある人達が閉鎖に抗議したお陰だよ。デモや抗議を無駄だと腐す人もいるけど、実際はこうやってデモや抗議が事態を良い方向に動かすこともちゃんとある。」

 

「ここを閉鎖とか本当に許せないから考えるより先に身体が勝手に動いたんだ。第五福竜丸は1954年にビキニ環礁でアメリカ軍が行った熱核攻撃で被曝した漁船。原潜ノーチラスの潜行でゴジラを覚醒させた事実を隠すために熱核攻撃でゴジラを殺そうとしたのはアメリカ軍の身勝手さ、そして原発推進と将来の核武装のため放射能汚染被害を隠そうとしたのは日本政府の身勝手さ。」

 

2 人は真剣な表情で目の前の第五福竜丸を眺めている。アメリカ軍の都合だけで熱核攻撃で殺されそうになったゴジラは紛れも無い核の被害者であり、第五福竜丸に乗っていて被曝した船員達も、ビキニ環礁周辺の動植物も皆核の被害者に他ならない。

 

展示館を出た 2 人は夢の島熱帯植物館に立ち寄り大阪に帰った。この植物館では温室の暖房や館内の冷暖房にゴミ焼却時に発生する熱を利用していて、毎日多量のゴミを排出し続ける大都市東京ならではの設備といえる。毎日多量のゴミを排出しているといずれ埋め立てるわけにもいかなくなるのは明白だが、その時はどうするのだろうか。

 

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