巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#5

中国雲南省の密林にはピラミッドを彷彿とさせる巨大な石造遺跡がある。

 

その遺跡の内部には蛾らしき存在を描いた壁画があちこちにあり、遺跡の最深部では各国が共同して結成した調査隊が透明な膜で覆われた巨大な卵を調査している。

すると膜の奥で何かが動き始めた。膜を破りゆっくりと外に出てきたのは蚕によく似た姿形の巨大な幼虫だ。

 

「タイタヌス・モスラ、今ここに新たな生を受ける。文献が示す通り、ここはモスラを祀る神殿。」

 

「これがモスラですか。本当にいたのですね。正直上手く今の気持ちを言い表す言葉が見つからずもどかしいです。」

 

アジア系女性と西欧系女性の 2 人は巨神モスラ誕生に目を輝かせる。

だが同行する警備兵達は殺気立った目つきでモスラ幼虫に自動小銃AR-18 を向けた。

 

「何するのですか!?撃つのは止めて下さい!」

 

「正直俺達はモスラの存在自体半信半疑でここまで来たが、こんなデカい芋虫を放置は出来ん。射殺する。」

 

「勝手に危険だと決めつけて射殺はあまりにも乱暴です!銃を下ろして下さい!」

必死で警備兵達を止める2人の女性が突き飛ばされても他の調査隊員達は見て見ぬフリだ。

直後にAR-18の銃弾を全身に浴びたモスラ幼虫だが全く負傷せず弾丸状の糸の塊を吐き警備兵全員を背後の壁に縛り付けた。

 

ゆっくりと身体を起こした 2 人の女性は一目散に逃げ出した他の調査隊員達を意に介さず目の前のモスラ幼虫を優しく見守っている。

「モスラヤ モスラ ドゥンガン カサクヤン インドゥムウ ルスト ウィラードア ハンバ ハンバムヤン ランダ バンウンラダン トゥンジュカンラー カサクヤーンム」

2 人の女性が歌う太古の歌とモスラ幼虫の鳴き声が遺跡内部に優しく響き渡った。すると警備兵達は己の蛮行を悔い、涙を流す。

 

 

大阪大学では生物学者の一ノ瀬由衣がゴジラの細胞に関する自身の研究成果を発表している最中だ。

 

「ゴジラ細胞には驚異的な復元能力がありまして、わずか5時間でこのように細胞全体の傷が消えています。またご覧のように培養液が瞬く間に使い物にならなくなってしまい、ゴジラ細胞は培養自体が不可能と断言出来ます。」

PowerPoint を駆使し真剣な表情で自身の研究成果を語る一ノ瀬だが、教授達は皆退屈そうな様子で居眠りする者もいる。

 

「で、ゴジラを倒す方法は見つかったんかいな?姉ちゃん、ワシらはゴジラ倒す方法が知りたいんや。」

「私の研究の主題はゴジラ細胞の性質についてでして、ゴジラ打倒については研究の対象外です。」

 

「相変わらず可愛げのない姉ちゃんやな。そんなんやから超べっぴんさんやのに彼氏出来ひんねんで。せや、今晩ワシと一緒にホテルに泊まれへんか?学部長のワシが直々に大人の女にしたるで。折角ええ身体しているのに男知らんのは勿体無いわ。折角やしそのええ身体に似合う派手な下着もプレゼントしたる。今着けてる下着はワシが言い値で買い取るから小遣い稼ぎ出来るで。」

 

学部長の最低過ぎるセクハラ発言で会場全体を下劣な笑い声が覆い、頭に来た一ノ瀬はノートPCを片づけ外に出た。すると突然スマホに着信が入り、見慣れない電話番号に一ノ瀬は困惑を隠せない。

ちなみに一ノ瀬がスカートを一切着用しないのは小学生の頃同級生男子にスカートをめくられたトラウマからだ。スカートをめくる側は遊び半分でもスカートをめくられた側の心の傷は深い。

 

「もしもし、あんた誰?振り込め詐欺ならお断りだからね。」

 

「俺は矢口蘭堂、内閣官房副長官だ。君はゴジラについて研究していると聞いた。この俺にゴジラを倒す方法を伝授してほしい。」

 

今は亡き母 桐子(とうこ)に女手一つで育てられ父親に関しては顔さえ知らない一ノ瀬は、小学生時代から度々セクハラ被害に遭ってきたため男性への嫌悪感や不信感が強い。そんな一ノ瀬にとって電話の向こうの矢口の単調な早口は耳障りな雑音でしかない。

ただでさえセクハラ発言で大爆笑する学部長ら教授陣への怒りで頭が真っ白になっているのだから尚更だ。

「お前みたいな世襲政治屋は周りに同類しかいないから誰も言わないだろうけど、その単調な早口、聞き取りにくいし鬱陶しいよ。大体、ゴジラ倒すなんて無茶過ぎる。月まで徒歩で行くより無謀だよ。見果てぬ夢にしがみつくのはさっさと止めたら?」

 

「先の戦争では、旧日本軍の希望的観測、机上の空論、こうあってほしいという発想などにしがみついたために、国民に 300 万人以上もの犠牲者が出た。だから俺は根拠のない楽観は禁物だと思っている。だがこの国を守るため、俺はゴジラを倒す方法を何としてでも見つけたい。諦めず、最後までこの国を見捨てずにやるこの俺に力を貸してくれ。」

上から目線で絵空事を言う矢口に一ノ瀬はますます苛立っている。

 

「国民に 300 万人以上の犠牲者が出たとか言うけど、その戦争は欧米から植民地を横取りするため日本が勝手に始めた戦争じゃないか。お前は国民さえ死ななければ日本が戦争始めて他国で大勢殺してもいいのかよ。この国を守るとか言うのも天皇ら皇族、そしてお前達政治屋が庶民から巻き上げた税金で贅沢し続けられる体制を守りたいだけなのがバレバレで笑えるんだけど。」

 

一ノ瀬の指摘通り当時の日本は欧米から植民地を横取りするため勝手に戦争を始めたのだ。同盟国ナチスドイツの快進撃に乗じてフランスの植民地だったベトナムに居座り過剰な米の収奪で大勢のベトナム人を餓死させ1930 年代にあと 10 年で独立させるとアメリカ政府が決定していたフィリピンに侵攻しその独立を妨害した挙句、フィリピン人を大量虐殺等旧日本軍はどこまでも罪深い。

 

「君とは話が合わないようだな。」

 

「私はお前みたいな料簡の狭い世襲政治屋と話合わせる気無いから。日本が勝手に始めた戦争で殺された大勢のアジア人を無視して日本国民の犠牲ばかり強調するのはお前の料簡が狭い何よりの証拠。あ、もう二度と電話かけてこないでね。バイバイ。」

 

一ノ瀬に一方的に電話を切られ、矢口は憮然とした表情だ。

 

「総理、一ノ瀬由衣はゴジラ打倒に関して我々に一切協力しません。先程、電話を切られました。」

「あの生意気小娘はよく国会前のデモに参加して私の悪口を言っているよ。外見だけは大和撫子だからあの生意気さが余計に目障りだ。あんな小娘放っておけ。構うだけ時間の無駄だよ。」

 

国家権力に好き勝手をさせないための法規である憲法を憲法解釈の変更と称し骨抜きにする等、門長内閣の悪政には枚挙にいとまが無い。

そんな悪政への正当な抗議を悪口と曲解するのは門長自身の料簡の狭さの表れだ。「生意気」という物言い自体に相手を見下す意味合いがあり、「大和撫子」なる物言いも女性は男性に従順なのが当然という女性を見下す歪んだ価値観と一体である。

 

矢口が総理執務室から退出すると、門長は机の上の地球儀を眺めながらニヤニヤ笑っている。

世界規模のサイバーテロで政府中枢が麻痺した各国が大混乱に陥ったのは金星人一行が皇居を訪れてから 10 日後のことだ。

 

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