巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
現在飛翔中のモスラの背中にいるのはパグ犬1 匹と女性4 人だ。
一ノ瀬はモスラが凄まじい速度で飛翔しているにも拘らず自分達が全く息苦しくなくて振り落とされもしないことを不思議に思った。何か目に見えない力が働いているのだろうと思った一ノ瀬だが、同時にそれが何なのかは科学では到底解明出来ないことも瞬時に理解している。
「由衣ちゃん、あっちに物凄く大きな雲があるよ。」
アイリーンが指差した巨大な雲こそキングギドラが操り関東全域を覆う積乱雲に他ならない。
「東京にゴジラが出現し、巨大隕石が姿を変えた 3 つの頭を持つ龍と物凄い戦いを繰り広げている最中だって。去年アイちゃんが見た彗星みたいなのが太陽系に向かってきて龍に変身した夢はやっぱり予知夢だったんだよ。」
一ノ瀬が誇らしげな表情でスマホの画面に表示されたニュース記事を見せると、アイリーンは恥ずかしそうに微笑んだ。
「何だか照れちゃう。私超能力者になりたいなんて思ったこと一度も無いのに。キングギドラは過去に地球に来た時も天候を操り大雨を降らせたと伝わっているけど、今度は東京を、関東全域を飲み込む積乱雲を発生させたわけだから途方も無い力だよ。まさしく龍の力。地球最強の巨神ゴジラと遠い宇宙からやって来た巨神キングギドラ、どっちが勝つのかな?」
「どっちが勝つにせよこれで日本は終わりそう。天皇ら皇族といった特権階級や富裕層だけを優遇し、他国の弱みにつけ込んで資源を収奪し、日本国籍の有無で人を差別し、とうとう公然と非核三原則を無視するようになった日本はもう滅んだ方がいいのかも。」
アイリーンが黙って頷いたのは一ノ瀬と同意見だからである。リンとマリアは一ノ瀬とアイリーンを眺めながら、彼女達がどれだけ日本政府から迫害されてきたのか、どれだけ日本社会から嘲笑されのけ者にされてきたのかを考えている。
「マリアさん、モスラはどこに向かっているのでしょうか?」
一ノ瀬の問いに対しマリアはこのように答えた。
「リンさんと私が今暮らしている場所です。上手く言葉で言い表すことが出来ませんが、とにかく夢のような場所ですよ。」
マリアとリンの自然な微笑みから 2 人の幸せな日常が伺える。一ノ瀬とアイリーンも思わず微笑んだ。ペロはモスラの背中の上が余程快適なのか、先程からずっといびきをかいている。巨大な積乱雲をチラリと見たモスラは、どこか心残りな表情だ。
信太山駐屯地ではジョナへの内通者以外のほぼ全ての自衛官が皇居全壊及び皇族全滅に衝撃を受け自決していた。
ジョナに内通している自衛官達は皆上官や同僚からいじめの標的にされ続けた人達で、上官からのセクハラに悩む女性自衛官も複数いる。
なお暗号化されたサイト経由で彼らの相談に乗りジョナへの内通を勧めたのは藤崎である。
「皆さんに礼を言う。お陰でこの駐屯地を頂くことが出来た。」
「いえいえ、こいつらが勝手に自決してくれたので頂いたこの毒薬の出番もなく終わりましたよ。それに礼を言うのは僕の方です。僕の背中にタバコの火を押し付けてニヤニヤ笑っていたこのクズ上官に仕返しする機会をくれたのは他ならぬ貴方ですし。」
「ここで死んでるクズ司令に自決強要されたので眉間と心臓を撃ち抜いてやりました。このクズ司令の部屋から私の下着が全部出てきてようやく犯人わかったのが本当によかったです。自分の下着が無くなるのが本当に怖くて、怖くて仕方ありませんでした。」
国際手配中の自分に礼を言う内通者達に苦笑したジョナは、司令室の画面を眺めた。画面に映っているのは数分前まで皇居だった一帯で、今現在は大爆発と大規模な地盤沈下で元々ここに何があったのかを推測するのも難しい状態だ。
そして対決を邪魔してきた轟天号を撃墜し皇居を全壊させたキングギドラとゴジラの二神は、10000 年前の決着をつけるため激突を再開した。
二神が激突を繰り広げている皇居外苑は勿論皇居同様に原型をとどめていない。
皇居外苑に安置されている騎馬姿の楠木正成像も倒壊し半分地面に埋もれている。ゴジラが尾を大きく振ってキングギドラを攻撃した際に地面が抉れ、その楠木正成像が遠くに吹っ飛んだ。
両翼で飛翔しゴジラの尾による一撃をかわしたキングギドラは、降下する勢いでゴジラの顔面を蹴りつける。
「隊長は王なるギドラに、キングギドラに肩入れされていましたよね?もしキングギドラがゴジラに敗れたらどうされるのでしょうか?」
画面の中の激闘を眺める藤崎がふと疑問を口にすると、ジョナは思わず微笑んだ。裏切りと謀略の人生を歩んできたジョナにとって物怖じせず直球で質問する藤崎の素直さは貴重な癒しであり、昔失くした大切な物が戻ってきたような気分になる。
「その時はその時だ。捕鯨船爆破、化学工場の従業員達の暴動を扇動、大量破壊兵器の機密情報を世界中に拡散等数々の悪事を働いてきた私は間違いなく死ねば地獄行きだろう。それは別に構わない。だがどちらが勝つかはこの目で見届けたい。」
確かにジョナが行ったことは悪事ではあるが、一方で鯨が救われ、化学工場の有害物質排出が止まり工場内で虐げられていた人々が自由を手にし、大量破壊兵器開発が白紙撤回されと数々の良い結果をもたらしたのもまた事実である。
「私もこの戦いの行く末が気になります。それはそうと富士山周辺でキングギドラに酷似した黄金の怪物が目撃されたとのことです。」
「富士山周辺に護国聖獣、魏怒羅なる存在が封印されていると『護国聖獣伝記なる胡散臭い本で読んだことがあるが、おそらくはそれだろう。弓矢くらいしか武器の無い古代日本人に退治されるようでは"キング"ギドラには程遠いがな。」
ジョナの言う通り富士山周辺に出現したのはその魏怒羅である。先日楠木が「皇国義勇軍」の団員達を同伴して訪れた際に封印されていた魏怒羅が蘇り風穴を崩落させたが 2000 年以上氷漬け状態だったため身体がまともに動かず、今朝になってようやく本調子を取り戻したのだ。
小さく唸り声を上げた魏怒羅は飛翔を開始し太平洋方面に向かう。