巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
日比谷公園に集結した戦車隊の大多数を占めているのは最新鋭の 10 式戦車だ。
日米安保条約破棄に伴い土浦駐屯地の 90 式戦車同様に朝霞駐屯地に大量の10式戦車が配備されるようになり、昨日の治安出動では大虐殺を繰り広げた。車体の至る所にべっとりとこびりついた血痕は、この 10 式戦車が幼子を含む大勢の人々を生きたまま踏み潰した残忍な形跡に他ならない。
「許さん!俺はお前らを許さん!絶対に許さんからなぁ!くたばれ化け物!」
国会議員の中でも特に軍事オタクとして名高い花村巌は、皇居を全壊させ天皇ら皇族を全滅させたキングギドラとゴジラを憎悪し自ら戦車隊を率いて攻撃を開始した。
与党である保守第一党所属とはいえ首相でも防衛相でも無い花村が戦車隊を指揮など本来許される筈も無いが、既に自衛隊の指揮系統は壊滅していて個々の自衛官が好き勝手している。
「返せぇ!今すぐ天皇陛下を返せぇ!皇居を元に戻せぇええっ!」
戦車隊の一斉砲撃に併せて怒鳴り散らす花村は、砲撃の爆音に負けず劣らずやかましい。
多分に漏れず花村は天皇制カルトの信者で、その天皇制を守るため敗戦後にアメリカに差し出された沖縄がどれほどの苦難を強いられ、また敗戦直後に廃止しておくべきだった天皇制の廃止を訴える人達が警察と結託した右翼にどれほど酷い目に遭わされてきたのかなど眼中に無い。
またもやゴジラとの対決を邪魔されたことに憤激したキングギドラは、後脚でゴジラの口と首を掴み 2 本の尾をゴジラの胴体に巻き付けて引きずり回し、箒で落ち葉を払うのと同じ感覚でゴジラをぶつけて戦車隊を大破させていく。
自身が搭乗している 10 式戦車がゴジラの右膝の直撃で粉々になり即死した花村だが、大好きな戦車の中で最期を迎えることが出来たのだから本望であろう。
ゴジラも負けてはいない。尾で地面を殴打してブレーキをかけ、一瞬の隙を突き放射熱線をキングギドラの腹部に撃ち込み強引に引き離した。この尾による殴打で破壊を免れていた10式戦車も全壊し、結局2分足らずで花村率いる戦車隊は全滅した。
放射熱線の直撃で宙を舞ったキングギドラは両翼を大きく広げて体勢を立て直し、国会議事堂を踏み潰しながら着地し各首がゴジラを睨む。
「私は騙されていた。ドクターホエールに騙されていた。何故あんな詐欺師に騙されていたのかいくら考えても全然わからない。とにかく本当に情けなくて穴があったら入りたい気分です。こんな私とはさっさと離婚して下さい。by 通江8:41/2020/6/23」
皇居全壊及び皇族全滅を知った門長は執務室の床で大の字になり大爆笑中で、両目から溢れ出る涙が止まらない。
門長の周囲には例のブレスレットが散らばっていて、通江からの最後のメールを受信したばかりのスマホは床に叩きつけられ画面が割れている。
直後に官邸が全壊し門長も即死した。
イエスマンとイカサマに頼り続けてきた愚劣な世襲政治屋に相応しい惨めな末路である。
ゴジラは突進しながらキングギドラの両肩を掴んで仰向けに転倒させた。
官邸が全壊し門長が即死したのはこの時だ。2 本の尾でゴジラの両足を払い転倒させた隙に起き上がったキングギドラは右足でゴジラの顔面を踏みつける。悲鳴を上げるゴジラだが直後に右足のかかとに噛みついたため今度はキングギドラが悲鳴を上げた。
ゴジラはキングギドラの右かかとに噛みついたまま起き上がる。またもや仰向けに転倒しそうになったキングギドラだが、ゴジラの顔面を狙い右の首が引力光線を吐き振りほどかせたため事無きを得た。
ゴジラも負けじと背びれを青白く発光させ放射熱線を吐く。
放射熱線をひらりとかわしたキングギドラの各首が一斉に引力光線を吐いた。
引力光線が腹部に命中しゴジラが放射熱線を吐いたまま転倒したことで、放射熱線は官庁街を直撃し霞が関一帯が消し飛んだ。見ての通り二神の激闘で東京の首都機能が猛烈な速度で崩壊しているが、それは即ち一極集中国家日本そのものの崩壊に等しい。
この二神の激闘で議員会館や議員宿舎が吹っ飛び国会議員の大多数が死亡したが、前日の治安出動時に都心から強制退去させられた議員達は皆無事だ。
強制退去という門長内閣と自衛隊による嫌がらせは門長内閣や自衛隊にとって目障りな議員全員を安全圏に避難させる結果に終わった。
先程冥界に旅立った門長がこの不本意な結果を知れば悔しさの余り号泣するであろう。