巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
立川広域防災基地ではその腐乱死体の件で矢口と赤坂秀樹首相補佐官が殴り合いの最中だ。矢口は額から幾筋
も出血し左頬が腫れ上がっていて、前歯が何本も折れている赤坂はワイシャツに付いた血が生々しい。
外務官僚出身の赤坂は父親の急死で地盤を継いだ矢口に政界のノウハウを教えた人物で、2 人は互いに信頼し合っていた。その信頼関係も昨日までだが。
「牧悟郎博士が残した解析情報は結局無意味だったぞ!矢口、俺は貴様の特命担当相就任と矢口プラン推進のため色々根回ししてきたが根本が間違っていたのだからどうしようも無い!俺の顔に泥を塗った落とし前をどうつける?さあ言え!言ってみろ!」
「赤坂貴様は味方だと思っていたが違ったな。政界には敵か味方しかいない。シンプルだ。俺の味方で無いなら貴様は敵だ!」
1 年前、相模トラフ付近の海底でゴジラに喧嘩を売ったのはどことなくゴジラに似た姿で身長もほぼ同じ巨大不明生物である。
巨大不明生物は本物を倒し成り代わるつもりのようだが、愚鈍過ぎて一方的に殴打されている。新幹線が突っ込んできても東京駅構内で棒立ちし続けていそうなくらい愚鈍なのに、楠木の核攻撃で大幅に強大化した直後のゴジラに喧嘩を売ったのだから無謀過ぎる。
巨大不明生物の耐久は地中貫通爆弾で大量出血する程度で、地中貫通爆弾も核兵器も効かない本物のゴジラには程遠い。結局巨大不明生物は放射熱線の直撃に耐えられず全身を爆砕され即死と、例の巨獣と全く同じ最期を迎えた。無性繁殖による群体化で例の巨獣同様に大量発生の危険性もあった巨大不明生物だが、その前に爆死したので大量発生することは永遠に無い。
矢口がゴジラの弱点を解析したものと信じていた牧の解析情報は 3 日前由比ヶ浜に頭部だけの腐乱死体が漂着したその巨大不明生物に関するもので、ゴジラとは何の関係も無かった。牧の解析情報を元に製造開発された血液凝固剤は既に死亡している巨大不明生物には有効でも、身体の構造が巨大不明生物とは全く異なる本物のゴジラには何の効果も無い代物だ。
本物より遥かに脆弱、その本物に返り討ちにされ大量発生にも失敗と、例の巨獣の二番煎じ丸出しのこの巨大不明生物が何かの間違いで東京に上陸していたら、その愚鈍さで墓穴を掘りまんまと血液凝固剤を飲まされる間抜けな姿を披露したことであろう。
「希望的観測がどうこう言っていた矢口自身が、牧博士の怪しげな解析情報がゴジラの弱点についてのものであってほしいという希望的観測だけで動いていたとはな!本当に笑えるよ!お前お笑い芸人に転職したらどうだ?笑われ役はお前の天職だ。」
「流石俺の敵だけあって俺の揚げ足取りに全力投球してくるな。俺は敵の打倒という俺の使命を果たす!」
矢口プランとやらを推進していた自分の責任を矢口に押し付けたい赤坂、解析情報をゴジラのものと勘違いした自分の失態を認めたくない矢口と両者共に日本の政治屋によくある無責任と意固地を拗らせた結果暴力沙汰に発展した。普段なら暴力を振るうことなどまず無い 2 人も皇居全壊及び皇族全滅を知り門長同様に自暴自棄になっている。
「東京駅に繋がる線路や架線全てを無傷のまま放置する詰めの甘いゴジラであってほしいという願望、爆弾積んだ新幹線を避けもせず東京駅構内で棒立ちし続ける間抜けなゴジラであってほしいという願望、矢口、お前本当に希望的観測ばかりだな。標的が線路から少し離れるだけで頓挫するヤシオリ作戦など机上の空論に過ぎん!やはり確実に駆逐するには熱核攻撃が現実的だ!」
実はこの赤坂、楠木にゴジラへの核攻撃を勧めた張本人で、核攻撃ならゴジラ駆逐は可能と未だに信じている間抜けな現実主義者気取りだ。
そんな赤坂でも的確な突っ込みが可能なのだからヤシオリ作戦とやらは本当に壊滅的過ぎる。
そもそも今現在関東全域が停電している上東京駅は勿論周辺の線路全てが瓦礫の山であり、新幹線の車輛に爆弾を搭載したところで使い物にならない。
一応巨大不明生物は意味もなく下顎が割れ口から、そして背中や尾の先端から紫色の光線を発射可能だ。
とはいえ仮にその光線を東京駅付近で乱射して東京駅に繋がる線路と架線が無傷、あるいは多少の修復でヤシオリ作戦とやらを実行出来る程度の損害しか与えられないなら破壊力はたかが知れている。無論その程度の破壊力で核爆発の直撃に耐え抜くゴジラを倒すのは無理だ。
そもそも世界各国が半世紀研究しても弱点解析不可能な本物のゴジラと、無名の科学者が 1 人で弱点解析可能な巨大不明生物を同列に扱う発想自体が愚の骨頂過ぎる。
ゴジラ打倒のため官民一体で巨災対(巨大不明生物特設災害対策本部)を立ち上げた矢口だが、本物のゴジラと巨大不明生物を全く識別出来ていなかった時点で完全に詰んでいたのである。
実を言うと数週間前九十九里浜で大河が回収したのは巨大不明生物の背びれの欠片に他ならない。
要するに大河も矢口同様に巨大不明生物と本物のゴジラを全く識別出来ていなかったのだ。放射熱線の直撃で爆死した巨大不明生物の死骸は由比ヶ浜に漂着した頭部と九十九里浜に漂着した背びれの欠片以外に無く、いずれも細胞全てが壊死している。
「黙れ!ゴジラは無理でも赤坂貴様なら打倒出来る!俺の敵である貴様はこの場で息の根を止める!ぶっ殺してやる!」
昨晩衝動的に泉修一保守第一党政調副会長を撲殺した矢口に最早殺人を思いとどまる自制心など無く、本気で
赤坂を殺すつもりだ。
パタースンを裏切りゴジラに関する機密情報を世界中に拡散しても全く悪びれない癖に、ゴジラと巨大不明生物を誤認していた自らの失態を赤坂に密告した盟友泉の裏切り行為に逆上しその場で撲殺とこの世襲政治屋は本当にタチが悪い。
「調子に乗るな!矢口!所詮貴様は俺の立身出世のための駒に過ぎん!用済みの駒は捨てられる運命だ!運命に従え!」
直後に空から降ってきたゴジラの衝突で立川広域防災基地が全壊し矢口も赤坂も即死した。
ゴジラを抱えたまま成層圏まで飛翔したキングギドラがそのままゴジラを叩き落としたのである。
結局矢口と赤坂の愚かでおぞましい罵り合い及び殴り合いは両者の死亡で呆気無く終了した。無論キングギドラは政治屋2 人の殴り合いなど最初から眼中に無いが。