巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
成層圏から地上に叩きつけられたにも関わらずゴジラは起き上がり舞い降りてきたキングギドラを睨んで咆哮するが、体力が底を尽いていたため直後に再び倒れ込んだ。
キングギドラの各首はゴジラにトドメを刺すため引力光線を吐こうとするが、何故か吐く直前に取り止めた。
中央の首の指示を待たず単独で引力光線を吐くことも多い右の首も自発的に吐くのを止めたのだからかなり異例だ。
再びゴジラを絡め取り飛翔したキングギドラが 10000m上空からゴジラを太平洋に叩き落とした。こうして 10000 年ぶりの二神の激闘はキングギドラの勝利に終わり、この激闘で東京の首都機能が根こそぎ破壊されたため一極集中国家日本は文字通り滅んだ。
今朝まで官邸だった瓦礫の山から突き出ているボロボロの布切れに最早日章旗だった頃の面影は無い。
「キングギドラの勝ちだ。これから金星人連中がどう出るのか見物だな。」
ぐったりとしたゴジラを抱え積乱雲の中に消えていくキングギドラの姿を映す画面の前で、ジョナは不敵な笑みを浮かべている。
ここは 10000 年前地球に来た金星人達が密かに築いた円盤状の深海都市エレボスで、今現在はホシェルの拠点である。
総面積はバチカン市国の約4倍の2km²、人口は約1000人で、海底に擬態するため周囲を岩盤で覆っている。エレボス全体を構成するのはガルーダ、ガンダルヴァ、ナーガの 3 機やフルメタルミサイルと同じ金属で、鉄を金星人独自の技術で錬成したものだ。
「ゴジラが倒されただと!?あの未開人連中にゴジラを倒すほどの軍事力は無い筈だ!」
「マスティマ閣下、ゴジラを倒したのは地球人ではありません。あの暴悪龍です。」
「何だと!?あの暴悪龍は今宇宙の果てにいる筈だ!」
キングギドラが地球に来ていることを信じられず驚愕するヨヴェルに、部下がゴジラを卒倒させるキングギドラの映像を見せた。
「間違いない!こいつはあの暴悪龍だ!まさか暴悪龍にここがバレたわけではあるまいな!?」
「流石にこの深海都市を見つけ出すのはあの暴悪龍でも不可能でしょう。現に 10000 年前に暴悪龍が地球に来た時もここは最後まで見つからずに済みました。」
「確かにそうだがゴジラとの激闘が痛み分けに終わり地球を去った10000年前と違い、今回あの暴悪龍はゴジラを倒している。3機の修復と最終兵器実装がようやく完了した途端にこれか!まだイェーガーへの例の装置の搭載は終わっていないというのに!」
部下達にイェーガーへの装置搭載を急ぐよう命じたヨヴェルは頭を抱えながら第二兵器格納庫を出る。
横移動式エレベーターに乗ったヨヴェルが向かうのは勿論ホシェルがいる第一兵器格納庫だ。
エレベーター出入り口の左隣には生ゴミや排泄物を分解する処理室があり、先程射殺されたスコルツェニーとメンゲレの死体もここで分解され粉末肥料にされたばかりである。
「悪夢だ!10000 年前に我々の帝国を滅ぼしたあの暴悪龍が、今現在我々が潜伏するこの地球に来ている!こんなに恐ろしい悪夢は他に無い!畜生!夢なら早く醒めてくれ!」
エレベーター内でヨヴェルは完全に怯えきっている。
ヨヴェルは金星帝国宰相の 113 代目のクローンで先代のクローンから電子化された宰相の記憶を誕生時に移植された身であり、10000 年前金星帝国を滅ぼしたキングギドラの恐ろしさが骨身にしみている。
なおヨヴェルだけでなくエレボス在住の金星人は全員クローンで、金星帝国滅亡時に地球に亡命した皇帝の側近や親衛隊の末裔だ。
ここエレボスで暮らす金星人達は海水を電気分解し酸素を発生させる酸素発生装置、二酸化炭素濃度を上げ過ぎないための二酸化炭素排出装置の配備で深海の密閉空間に快適な生活環境を確保し、優れたクローン技術と記憶保存技術で金星帝国時代の記憶と技術を継承し続けてきた。新たな技術開発にも熱心で、瞬間移動装置の発明と実用化はその成果の 1 つである。 エレベーターの扉が開きヨヴェルが出てくると、扉の前の廊下を歩いていた金星人達は騒然とした。
ヨヴェルが余りにも怯えた目つきをしていたからだ。ヨヴェルが左手のひらを認証装置にかざすと第一兵器格納庫の大扉がゆっくりと開いていく。
「見たか、マスティマ閣下が怯えていたぞ。」
「勇猛果敢な閣下があそこまで怯えた表情をされるとは、一体何が起きている?」
第一兵器格納庫に入っていくヨヴェルの後姿を眺めながら作業員2人が会話している。この2人が浮遊式台車で運搬している袋詰めの粉末は肥料に加工されたスコルツェニーとメンゲレの死体だ。
深海では外での農作業などまず不可能なためエレボス内部の農園では人工の太陽光と海水を蒸留した真水を使い大規模な水耕栽培が行われていて、この粉末肥料も水耕栽培に使われる。
「こ、これはマスティマ閣下。今すぐ閣下の分のお食事をお運び致します。先程ルクス陛下がお食事を終えたところでして。」
第一兵器格納庫に入ったヨヴェルと鉢合わせしたシェフが申し訳なさそうに頭を下げて退出した。金星人はプランクトンを配合し食事用に加工する技術を確立していて、エレボスにはプランクトン培養用の巨大な水槽もある。先程ホシェルが食べたのは配合した動物プランクトンをウインナー状に加工したもので、味も地球人が食べているウインナーとほぼ同じである。