巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#10

食事を終えたホシェルが 3 機の変形合体に立ち会うため個室から出てくると、青ざめた表情のヨヴェルが立っている。

 

「そうか、暴悪龍は今地球にいるのだな。しかもあのゴジラを倒すとは。」

「ゴジラ打倒で我々金星人の軍事力を誇示し地球人を屈服させる計画が水の泡ですよ。ルクス様をここエレボスにお迎えして 7 年経ちましたが、ようやくここまで来たのにまたもや暴悪龍のせいで存亡の危機です。」

「私がここに来てからもう 7 年か。戴冠式の日がまるで昨日のように感じられる。」

 

ホシェルに事態を報告したヨヴェルは 7 年前のことを思い出していた。

 

「マスティマ閣下、深海探査艇が 1 隻接近中です。口封じのため撃沈が肝要と思われますが、念のため乗組員を遠隔顔認証したところ、ルクス陛下と人相が一致しました!」

 

管制室から報告を受けたヨヴェルは驚愕し自ら顔認証映像を覗き込んだ。

当時のヨヴェルはエレボスの事実上の統治者で、エレボスの住民達は金星帝国滅亡時に行方不明になっていた皇帝ホシェル・ルクスのクローンを10000 年間探し続けていた。

そして乗組員の青年の顔が皇帝ホシェルと 100%一致している旨を顔認証映像で確認したヨヴェルが檄を飛ばす。

 

「あの探査艇にはルクス陛下がお乗りだ!探査艇ごと確保しこちらにお連れしろ!間違えても撃沈するな!もし撃沈したら貴様ら全員分解して粉末肥料にしてやるからな!肝に銘じておけ!」

 

大型の硬質ゴムチューブが深海探査艇を飲み込み第二兵器格納庫へと運び込む。金星人達が探査艇のハッチを開けると中から困惑顔の青年が出てきた。

 

ここには最近完成したものの操縦の困難さからお蔵入りになった4機のイェーガー、即ちジプシー、ストラ

イカー、クリムゾン、チェルノが格納されている。

 

「ここは一体どこなんですか?一体何故僕はここにいるのですか?」

 

「貴方様は金星帝国皇帝ホシェル・ルクス、そして私は金星帝国宰相ヨヴェル・マスティマでございます。ここは深海都市エレボスでして、我々金星人の拠点です。」

 

「一体何を言っている?僕はパウル・ヴォルタース、地球で生まれ育った海洋生物学者で金星人なんかじゃない。貴方達は誰か別の人と勘違いしているんだ。ここで見たことは誰にも言わないから早く地上に帰してくれ。」

 

この海洋生物学者は 1980 年代末期に森でマリアが保護しパウルと命名したあの赤子の成長した姿である。

そしてその赤子こそヨヴェルをはじめとする金星人達が長年探し求めていた皇帝ホシェルのクローンに他ならない。

金星帝国滅亡時に脱出カプセルで打ち上げられた皇帝のクローンは冷凍睡眠状態で 10000 年間宇宙を漂流し続け地球に漂着していたのだ。

 

「ではルクス様をこちらにお連れせよ。戴冠式を執り行う。」

 

「だから僕はパウルだと何度も言っているだろう。ルクスなんて知らないよ。」

 

金星人が実在することさえ知らないマリアに地球人として育てられたパウルは、ヨヴェルの言うことを全く理解出来ずにいる。

 

「ご心配なく。あちらの玉座に腰掛けて帝冠をかぶってもらうだけです。それが済んだらあとはご自由にどうぞ。地上へお戻りをご希望されるなら勿論その通りに致しますので。」

 

ヨヴェルは戸惑うパウルを半ば強引に玉座に座らせた。ヨヴェルが両手で捧げ持つ帝冠を戴冠した途端パウルの脳内に激しい衝撃が走り、大勢の人がひれ伏す中玉座に座る自分、コンピューターに文明の支配を委ねるか否かの論争、キングギドラに攻め滅ぼされる帝国等皇帝の記憶が次々浮かんできた。帝冠が内蔵する電子化された皇帝の記憶がパウルの脳内に移植されたのだ。

 

「私は、金星帝国皇帝ホシェル・ルクス。帝国の再興こそ我が使命。」

 

「おかえりなさいませ、ルクス様。それでは帝冠をお預かり致します。本日をもってエレボスは帝都と相成りました。私ヨヴェル・マスティマ、ルクス様の僕として帝国再興に邁進する所存です。」

 

皇帝の記憶の移植に伴いパウルの脳内でホシェルの人格が覚醒した。目の前の青年がパウルからホシェルになったことを確認したヨヴェルはニヤリと笑う。エレボスはホシェルの「帰還」を喜ぶ人達の歓声で覆われた。

「陛下が、ルクス陛下がお戻りになられた!」

「10000 年間深海で待った甲斐があった!これで金星帝国の栄光の復活が見えてきたぞ!」

 

パウルは海難事故で死亡と聞きマリアが嘆き悲しんでいると知っても、ホシェルは顔色一つ変えない。マリアと共に自宅の窓から流れ星や天の川を眺め、怪我した鳩が懸命な手当も虚しく天に召された時は号泣した純真な青年パウルとは最早別人である。

 

「ルクス様も戴冠式の時のことを回想されているようですね。」

 

「私としたことがついつい回想に夢中になってしまった。あの暴悪龍の地球襲来を知り気が動転して焼きが回ったようだ。」

 

不意にヨヴェルに話しかけられ回想を終えたホシェルの目の前で最終兵器実装を完了したガルーダ、ガンダルヴァ、ナーガの3機が変形合体した。

 

メカゴジラ完成の瞬間である。鬼神の名を冠する 3 機は神として地球に君臨することを企てるホシェルの「三種の神器」であり、その 3 機の合体はいよいよ本腰を入れ地球制圧に乗り出すというホシェル達金星人の意思の表れだ。

 

「諸君、ついに我が帝国が復活する。地球最強の巨神ゴジラを模した兵器でゴジラを打倒し、地球最強が我々金星人であることを地球人に知らしめ屈服させる計画だったが、打倒する相手が変わっただけで計画に変更は一切無い。10000 年前に我が帝国を滅ぼしたあの罪深き暴悪龍を我ら金星人の手で血祭りに上げ、帝国復活の生贄とするのだ。」

「そうだ!もう俺達はあの暴悪龍に怯える必要は無い!今度はあの暴悪龍が俺達金星人に滅ぼされる番だ!」

「ついに金星帝国の栄光が復活する!ルクス陛下万歳!」

 

ホシェルの号令が生放送されるとエレボス全域の金星人達が歓声を上げる。

支配者が「外敵」の打倒を訴え大衆が熱狂という構図は全体主義そのものだが。ヨヴェルは目の前で号令を発するホシェルを何故か一瞬睨みつけ、直後にニヤリと笑う。

 

 

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