巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#4

一ノ瀬一行を背中に乗せ飛翔し続けていたモスラはある場所に到着した。ペロはモスラの背中から真っ先に降りて楽しそうに走り回っている。一ノ瀬がスマホの画像をチェン姉妹に見せているとマリアが驚いた表情で話しかけてきた。

 

「間違いありません、これは私の息子、パウル・ヴォルタースです。一ノ瀬さん、この画像はどちらで?」

マリアの両目に涙が浮かんでいる。息子は生きているという自身の思いが正しかったことがようやく判明したのだから無理もない。

 

「以前アラン・ジョナという人から送られて来ました。そのアラン・ジョナ曰く、彼は金星人で日本政府を陰で操り暴走させ、世界中が大混乱に陥った隙に地球の征服を企てているとのことです。アメリカ侵攻時に自衛隊が使用した妙な兵器も全部金星人が製造したものと聞いています。」

 

一ノ瀬の返答にマリアは愕然とした。息子として育てたパウルがそんな恐ろしいことを企てていると信じたくないからだ。すると今にも号泣しそうな表情のマリアにリンが優しく語りかけた。

 

「ここでモスラと一緒に暮らす金星人さん達によりますと、彼らは今でも帝国再興のため暗躍していて記憶を電子化し保存する技術を持ち、記憶を脳内に移植されるとその記憶に沿った人格が生まれるとのことです。息子さんも別人の記憶を移植され別の人格に支配されたのかもしれません。とはいえ息子さんがマリア先生との生活で培った記憶と人格はまだ消えてはいない筈です。」

 

「では、何かのきっかけで元に戻ることもあるかもしれないということですか?」

 

すがるようにリンを見つめるマリアに対し、リンは頷く以外に無い。

 

壁崩壊後のマリアが苦難を承知で様々な国を渡り歩いたのは、パウルに様々な文化を、そして自然の多様性を教えるためだ。多忙でも親子 2 人で過ごす時間を大切にするマリアの方針もありパウルは純真な青年に成長し、ハーバード大学で海洋生物学を学ぶ秀才でもあった。

そして海洋調査中のパウルが偶然エレボスに接近したことで、この親子から幸せな時間が奪われてしまったのだ。

パウルが死亡したと聞かされ嘆き悲しむマリアを慰めたのは彼女の教え子、リンである。

リンは姉と共に調べていたモスラの伝承についてマリアに詳しく話し、6 年の調査を経て雲南省の密林でモスラの孵化や羽化に立ち会うことになったのだ。

イエローストーンで生まれた個体も親から記憶を継承しているため 2 人のことは知っていて、アイリーンと一ノ瀬とペロの救出にも快く応じてくれた。

「ごめんなさい、リンさん。貴方には慰められてばかりで。」

 

「幼い時分をアメリカで過ごし、アジア人であることで差別され続けた私達姉妹の力になってくれたのはマリア先生ですよ。」

 

「マリア先生になかなか会えなかった私の分までリンが恩返ししてくれていると聞いて感激です。長年ご一緒だったマリア先生はもうお気付きでしょうがリンは姉の私よりずっと優秀な妹なんですよ。」

 

姉アイリーンに褒められた途端に赤面し恥ずかしそうに俯くリンの姿はいつぞや一ノ瀬にもよく似ている。リンと会うのは今回が初である一ノ瀬だが、姉同様に彼女とも親友になれそうだと思った。

 

彼女達のやり取りを眺めるモスラは憂鬱そうな様子である。ゴジラと共にキングギドラと戦いたかったからだ。そんなモスラをペロは物言いたげな目で凝視している。一ノ瀬が号泣した時も慰めようと一生懸命になっていたが、ペロには相手の悲しみを察知し慰めようとする心優しさがあるようだ。なお一ノ瀬を号泣させた門長も元凶である天皇も既にこの世にいないことをまだ彼女は知らない。

 

ゴジラは本能で重大な脅威が地球に潜んでいるのを察知していた。だからこそキングギドラという難敵相手にモスラと共に挑み両者共に倒されてしまうとその重大な脅威に対応出来なくなるという危機感から、モスラの参戦を強く拒絶していたのである。霊体と化しゴジラと融合した親からも参戦を強く拒絶されたため、モスラは泣く泣く参戦を思いとどまった。

 

その重大な脅威であるホシェル達金星人一行は、深海都市エレボスにて出撃の準備を進めている。ホシェルとヨヴェルの目の前の大画面が大映しにしているのは、あの皇居の成れの果てである大規模な瓦礫の山だ。

 

「ヨヴェルよ、いよいよだな。地球制圧の第一歩として轟天号を遠隔操作し皇居に墜落させ日本国民を絶望のどん底に叩き落す手筈だったが、その前に暴悪龍とゴジラが轟天号を撃墜させ見ての通り皇居は瓦礫の山と化している。天皇ら皇族連中は暴悪龍もゴジラも皇居には手を出せないと勝手に決めつけていたが、その皇居の全壊と同時に全滅だ。だからこのリモコンはもう必要無いな。」

ホシェルから手渡されたリモコンをその場で踏み潰したヨヴェルがニヤリと笑う。

 

「あの居丈高な矢口蘭堂の死亡も勿論朗報ですが、楠木武や矢口蘭堂以上に威張り腐っていてわがまま放題だった現人神気取りら皇族連中の全滅に胸がすく思いです。ルクス様が遠隔操作なさらずとも轟天号は皇居に墜落ですから、連中はどうあがいても滅びる運命だったんですよ。それはそうとこちらも皇居同様に瓦礫の山と化しておりまして、生存者は誰一人いません。」

 

ヨヴェルが指し示す映像は木星の第 13 衛星、即ち X 星の地表を撮影したもので、瓦礫の山から円盤の残骸が突き出ている様子まで詳細に映し出されている。キングギドラが地球に来る直前に X 星に立ち寄っていたことを知ったホシェルは、木星方面に探査機を飛ばすようヨヴェルに命じていたのだ。

 

「暴悪龍を機械で操ること自体が不可能なのはすぐにわかる。電子計算機の言いなりになり暴悪龍を機械で操るなどと無茶をした挙句、その暴悪龍に滅ぼされたあの連中は金星人の恥だ。いずれ我々の手で滅ぼすつもりだったのだが、その前に暴悪龍が滅ぼしてくれた。皇居を全壊させた件も含めて暴悪龍には感謝しているよ。そして感謝の意を込めこれから我々が暴悪龍を滅ぼす。」

コンピューターに支配を委ねるか否かで元祖ホシェル、即ち金星帝国皇帝と対立し金星を追放された金星人の一派こそ X 星人の正体に他ならない。

金星帝国を滅ぼしたキングギドラを制御装置で操り、自分達の先祖を追放した金星帝国を超えたことを示すつもりだった X 星人だが、前述の通りキングギドラを操るのに失敗し自爆に追い込まれる形で滅ぼされた。

 

「ところでヨヴェル、イェーガーへの装置搭載の進捗状況を聞かせてもらおうか。」

 

ホシェルの問いかけに対しヨヴェルは困惑の色を隠せない。

 

「もう少し時間がかかります。本来イェーガーが4機揃った状況でその装置を使うことを想定して製造しましたが、ご存知の通り2機がゴジラに破壊されてしまいました。そのため余計に作業時間がかかっているのが現状です。」

 

ヨヴェルの返答にホシェルが頷く。

「わかった。既にメカゴジラは完成し出撃準備もすぐに終わるが、イェーガーへの装置搭載の完了まで出撃を待つか、先にメカゴジラのみで出撃し、装置搭載が完了したらすぐにイェーガーを出撃させるかどちらにするべきだろうか?」

 

「イェーガーにも瞬間移動装置を搭載しておりますので、先にメカゴジラのみで出撃し、装置搭載の完了と同時にイェーガーを出撃させるのがよろしいかと存じます。」

 

「長年兵器製造を担当してきたヨヴェルがそう言うなら大丈夫だ。それで行こう。ではまず私が東京に赴く。話をしたい人物がいるからな。暴悪龍は今太平洋上空だし、ゴジラはその暴悪龍に倒され海の底だ。放射能汚染対策さえすれば今の東京に危険は無い。」

 

ホシェルがベルトのボタンを押し瞬間移動したのを見届けたヨヴェルは、部下達を集めメカゴジラへの搭乗を命じた。

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