巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
約 6600 万年前の地球で生態系の頂点に君臨していたのは
この
どういうわけかこの植物由来の暴君はゴジラに似た姿をしている。
だが背びれらしきものが柊の葉のような形状になっていたり、尾の先端がアスパラガスのような形状になっていたりと、少し注意して見れば偽物であることはすぐにわかる。
本物のゴジラがペルム紀末期以降は深海で永い眠りについているのをいいことに好き放題、これもゴジラの偽物らしいセコさと言えるだろう。
そんな地球に巨大隕石が迫っていた。
みるみるうちに暴君の頭上を巨大な積乱雲が覆い尽くしたのは、勿論キングギドラの天候操作能力である。暴君は上空のキングギドラを狙い光線を放つが、キングギドラが隠れている積乱雲の至る所から発生する雷に妨害され正確に狙うことが出来ない。暴君から
細胞分裂して生じたフィリウスなる暴君の小型個体も出現し暴君同様に光線を撃つが、やはり雷に妨害されている。
私利私欲で地球全体の生態系を滅茶苦茶にした極悪非道な暴君は、全身からキングギドラの各首が閉口する程凄まじい邪念を放っている。暴君は咆哮しセルヴァム、即ち下僕達を呼びつけた。セルヴァムには翼竜型とワーム型がいて、いずれも暴君と同一の細胞を持つ分身である。暴君は「外敵」キングギドラに下僕の群れを従える自分が地球の頂点ということを示したいようだ。
暴君の咆哮を合図として翼竜型セルヴァムの群れが積乱雲に突入していく。翼竜型セルヴァムの群れにキングギドラを襲わせて雲の外に引きずり出すという暴君の作戦だ。ところがここで暴君にとってあってはならないことが起こった。天候を自由自在に操るキングギドラが咆哮し、翼竜型セルヴァムの群れも操り始めたのである。
キングギドラの下僕と化した翼竜型セルヴァムの群れは積乱雲を出て一斉に暴君を襲う。フィリウスもキングギドラを狙うのを止め暴
君を狙って光線を撃つ。暴君は核爆発も通さない頑丈な電磁シールドで全身を覆っているため翼竜型セルヴァムの突撃もフィリウスの光線も受け付けない。だが自分の分身達に造反され集中攻撃されているのだから精神的苦痛はいかばかりか。
積乱雲の中から暴君と分身の激闘を眺めるキングギドラの左右の首はふと疑問を感じた。分身である翼竜型セルヴァムやフィリウスを操れるなら本体である暴君も操るべきではという疑問である。一方中央の首は地球全体の生態系を滅茶苦茶にして 20000 年間好き勝手してきた暴君を直接操らず分身全員に裏切られる苦痛を味わわせるべきと考えていて、左右の首も中央の首の解説に納得した。
暴君は最早裏切り者と化している翼竜型セルヴァムの群れに容赦無く光線を撃ち込み殲滅していく。だが地球上全ての翼竜型セルヴァムが今ではキングギドラの意のままに動く下僕であり、いくら暴君が口や尾の先端からの光線、超大音量の咆哮による超振動波等様々な攻撃で群れを殲滅しても、次々と後続の群れが押し寄せるためキリが無い。
突然暴君が悲鳴を上げ左方向に転倒した。ワーム型セルヴァムも皆フィリウスや翼竜型セルヴァム同様にキングギドラの下僕と化していて、群れで暴君の足元を掘り進み落とし穴を作ったのだ。なおフィリウスは暴君同様に全身を頑丈な電磁シールドで覆っているものの、暴君が転倒する直前に撃った光線にその電磁シールドが耐えられず 1 発で爆死している。
キングギドラの各首は相談し、電磁シールドを突破出来ないセルヴァムの群れを手助けすることにした。暴君が光線 1 発でフィリウスの息の根を止める様子を眺めていた左の首は、多量のエネルギーで一点を狙えば電磁シールドに穴が開くことに気付いたのだ。
暴君は巨大化し過ぎたのが災いし、一度転倒するとなかなか起き上がれない。
そんな暴君の右脇腹にキングギドラが操る落雷が直撃し、10 億ボルトという凄まじい高電圧の落雷で一点を狙われたため電磁シールドに大穴が開いた。間髪入れず翼竜型セルヴァムが電磁シールドの大穴に群がり暴君の身体に一斉に噛みつき、ワーム型セルヴァムも同じく大穴に群がり暴君を襲う。
セルヴァムの群れが一斉に噛みつくと暴君は普通に負傷する。どうやら暴君は同一の細胞を持つ者の攻撃には弱いようだ。
再びキングギドラは落雷で暴君を攻撃し、今度は背中を覆う電磁シールドに大穴を開けた。
更に多量の電磁波を帯びている背中の器官が電磁シールド生成のための増幅機関であることを見抜き、引力光線で破砕する。途端に暴君の全身の電磁シールドが消滅した。
電磁シールドを失った暴君の全身をセルヴァムの群れが容赦なく喰い荒らす。植物由来だけに並外れた再生能力を持つ暴君もこの状況では再生する暇など無い。ようやく起き上がった暴君は重力波による分子振動で 5000℃超の高熱を発散しフィリウスの死体もろとも周囲のセルヴァムの群れを消滅させたが、既に全身傷だらけである。
すかさずキングギドラの各首が引力光線を吐いた。
暴君は植物由来だけに骨格が存在せず、何故か全身を構成する繊維は金属成分を多く含有し全身に帯びる強い電磁波の発生源となっている。だがキングギドラの各首が吐いた引力光線の直撃時にその電磁波が暴走し物体の分子構造を乱す引力光線の性質を増幅させたのも相まって、暴君の全身に無数の亀裂が入った。頭に来ている暴君は上空のキングギドラを睨み攻撃態勢に入る。
突然暴君の全身が大爆発で消し飛んだ。全身亀裂だらけの状態で高威力の光線を無理矢理撃とうとすれば、その全身の亀裂から一気にエネルギーが漏れ大爆発するのは当たり前である。
結局暴君は力で相手を潰すことに夢中になり過ぎて自滅した。自分こそ最強と思い上がる傲慢な暴君には、その自分の力による破滅が本当によく似合う。
暴君が爆死した途端に生き残っていたセルヴァムの群れが一斉に死亡し、地球全体を覆う暴君と同一の細胞を持つ植物も全て枯れ風化し始めた。本体である暴君の滅亡に伴い分身も全て滅び去ったのだ。地球全体の生態系を滅茶苦茶にして 20000 年間好き勝手し続けてきた暴君の滅亡は、暴君に破壊された地球上の生物多様性に復活の目途が立ったことを意味する。
それにしても例の巨獣といい、巨大不明生物といい、この植物由来の暴君といいゴジラの偽物は生態系への悪影響を無視した大量発生がお好きのようだ。
大量発生する前に本物のゴジラに瞬殺された例の巨獣や巨大不明生物と違い、分身の大量発生で地球全体の生態系を滅茶苦茶にすることに「成功」した暴君だが、キングギドラの介入によりその「成功」は文字通り無に帰したのである。
着地したキングギドラの目の前には巨大なクレーターが広がり、暴君は最早跡形も無い。キングギドラの左の首は徐々に風化していくセルヴァムの死体の山を悲しげに眺めているが、セルヴァムも地球上の生態系を滅茶苦茶にした暴君の共犯者だ。共犯者に同情は無用と左の首を叱った中央の首は右の首に次の星に行く旨を伝え、直後にキングギドラは飛翔し大気圏外に消えていった。