巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#8

魏怒羅と白眼巨獣を葬り去ったキングギドラは、そのまま東京に舞い戻るため太平洋上を飛翔している。

キングギドラが地球飛来時の着陸地点に東京を選んだのは、X 星を発った時から世界の国々を隷属させ調子に乗る天皇ら皇族は勿論門長ら政府与党の連中が発する濃厚な邪念を感じ取っていたからだ。

その邪念の根源はゴジラとの激闘を経てほぼ全滅したものの、キングギドラの各首の脳内に電流が流れるような感覚を伴い東京に新たな邪念が出現する予感がほとばしったのである。

キングギドラの右の首は今まで感じたことの無い予感に困惑している。この予感は本当に正しいのかという戸惑いをどうしても消せないからだ。宇宙空間で MOGERA と戦闘した際左の首が磁場の乱れという予兆からニュートリノの衝撃波の発生を予知したが、何の予兆も手掛かりも無い状態で未来を予知する能力はキングギドラのどの首にも備わってはいないため戸惑うのも仕方無い。

 

キングギドラの左の首はその好奇心から予感が正しいのかを確かめるため東京に引き返すべきと考えている。中央の首も左の首の申し出に賛同し、戸惑う右の首を説得して東京に舞い戻ることにした。一応中央の首の説得に応じた右の首だが、自分達を地球に招いた「気配」の正体を探るのが先ではないのかという疑念が残ったままである。

 

呆然と佇む楠木が眺める靖国神社本殿は引力光線の直撃で半分以上消し飛んでいて、柱等残骸はことごとく黒焦げだ。そもそも靖国神社は日本軍の戦死者、即ち天皇のために戦って死んだ人達を祀り上げて日本政府が起こした戦争を正当化するためだけの存在であり、天皇ら皇族が全滅し日本政府が瓦解した今となっては最早何の意味もなさない。

 

「もうすぐ俺は陛下から叙勲されるんだ。そして赤坂さんの根回しで門長の世襲野郎に代わって総理になるんだ。」

 

日本政府自体が瓦解し天皇も赤坂も門長も既にこの世にいないので、楠木が天皇から叙勲されることも門長に代わって総理大臣になることも永遠に無い。轟天号の指揮を執っていた時はギラギラ輝いていた楠木の瞳だが、今では死んだ魚そのものである。

 

楠木の右隣の靖国八千代食堂は瓦礫の山で、破損した楠木正成像がさかさまに突き刺さっている。この銅像は皇居外苑でキングギドラとゴジラが激闘を繰り広げた際に 2km 以上もの直線距離を吹っ飛んだのだから驚きだ。そして楠木の背後では倒壊した大村益次郎像が雨に打たれ続けている。

その大村益次郎像の陰から現れたホシェルは、関東全域を覆う高濃度の放射能に備え宇宙服姿だ。

 

ブツブツ独り言を繰り返している楠木は、左隣にホシェルが立っても全く気付いていない。ホシェルは今まで気前よく日本を支援し続けた自分達の真意を楠木に伝えるため、宇宙服のスピーカーの音量を上げた

 

「超大国になって調子に乗り、五輪どころではない諸外国を無視して五輪に浮かれ、経済支援の見返りに資源を収奪等数々の暴挙を重ねた貴方達日本人のお陰で今世界各国が日本を憎んでいます。私達金星人は世界中が日本を憎むのに夢中なこの隙に地球を制圧します。貴方達日本人はおだてるとすぐ調子に乗り、どこまでも傲慢になるので本当に支援の甲斐がありましたよ。地球人全員が結束し異星人の侵略に立ち向かうどこぞのハリウッド映画のような展開はまず無理ですので、あらかじめご了承下さい。」

 

突然ホシェルから衝撃的な告白をされた楠木は半泣きの表情である。シャワーのような軽妙な雨音はまるで楠木を嘲笑うホシェルの本心をそのまま反映しているかのようだ。

 

「大和民族の偉大さに、天皇陛下の真摯さに心打たれたというのは嘘か!?第一我が国はドイツと軍事同盟を締結しているぞ!」

 

楠木のすがるような目は、ホシェルの告白が冗談であることに一縷の望みを懸けているようにも見える。

 

「あんな嘘を信じ込む大和民族は程度が低過ぎます。私が授けた計画通り日本を騙し続けていたあのネオナチ連中は、本心では貴方達日本人を劣等民族扱いしていて日本侵攻を企てていましたが、もう用済みですので先程ヨヴェルが始末しました。八紘一宇は全世界が天皇の支配下にあるという戯言で、日本の侵略正当化のための屁理屈に過ぎません。私達金星人の支援で日本は一時的とはいえ超大国になれたのですから感謝して下さい。ですがもう君が代は終了です。千代に八千代に続きませんでしたね。」

 

楠木は悔しそうな表情でホシェルを睨みながら全身を震わせている。今まで散々楠木ら日本人のわがままを聞き続けてきて鬱憤が溜まっているホシェルは、まだまだ怒りが収まらずもっともっと楠木を精神的に叩きのめしたい思いに駆られていく。

 

「そういえば貴方の息子さん、正義さんでしたっけ?彼は私達金星人の本心に気付いていましたよ。」

 

憤激し9mm拳銃でホシェルを撃とうとする楠木だが、防衛省中央管制室の大画面に全弾撃ち込んだ直後にその拳銃自体を投げ捨てていたためホルスターは空っぽだ。無論ホシェルの全身を覆う頑丈な宇宙服が銃弾を通す筈無いのだが。

「デタラメ抜かすな!正義は酒に酔った勢いで父親である俺を衝動的に罵倒したことを死ぬほど後悔し、本当に死を選んだ孝行息子だ!もし本当に正義が貴様ら金星人の薄汚い本心に気付いていたなら、真っ先にこの俺に報告し金星人殲滅を訴えた筈だ!」

 

ホシェルに向かって必死に怒鳴る楠木は、拳銃がもう無いことに気付かず撃とうとした自分の失態を誤魔化しているようにしか見えない。するとホシェルは宇宙服に付属する小物入れからボイスレコーダーを取り出し、再生ボタンを押した。

 

「轟天号を完成させたのは父ではなく貴方達金星人なのは存じております。貴方達はこの国を滅ぼすおつもりですよね。滅ぼすのはなるべくお早めにお願いします。あんな野郎が防衛相としてふんぞり返ることが出来る国なんて早く滅ぶべきです。」

今になってようやく息子の本心を知った楠木は雷に打たれたような表情だ。すかさずホシェルは追い討ちをかける。

 

「お母様を手にかけた件で貴方を憎んでいた息子さんがあの時貴方を射殺しなかったのは、あそこで貴方が死亡すれば私達金星人の本心やこれからすることを知らないまま逝ってしまうことになるからです。つまり今現在貴方が味わっている絶望や屈辱は、息子さんが貴方に味わってもらいたくて仕方無かったものということですよ。確かに貴方が仰る通り素敵な孝行息子ですね。」

 

ポカンと口を開けたままへなへなと座り込んだ楠木はもう何も言い返してこない。部下への暴言暴力で悪名高い楠木が暴力を振るったり暴言吐いたりする気力は勿論、反論する気力さえ失う有様を眺めながらホシェルは微笑んでいる。

 

だが東京湾方面から高速でこちらに迫る巨大な積乱雲を目にした途端にホシェルの顔色が変わった。キングギドラが戻ってきたのだ。

ホシェルのベルトの瞬間移動装置は小型化された試作品で、一度瞬間移動した後の 1 時間は半径200m 圏内に一度しか瞬間移動出来ない欠点がある。

そしてホシェルが靖国神社境内に瞬間移動してからまだ 10 分も経っていない。ホシェルは恐怖で自身の全身が硬直するのを感じていた。なお魂の抜けた表情で座り込んでいる楠木は、積乱雲の急接近に何一つ反応を示さない。

 

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