巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
「右移動で背後を突け。プラズマ原子炉からのエネルギー充填は継続中だから撃ち続けろ。この赤坂離宮が暴悪龍の墓場だ。」
「ルクス様、勝てますよ!暴悪龍は我々に手出し出来ません!このまま押し切って討ち果たしましょう!」
ホシェルが冷静に指揮を下す中、ヨヴェルは高揚感を抑えきれず今にも座席ベルトを引きちぎって立ち上がりかねない様子だ。
キングギドラの右の首はメカゴジラの執拗な砲撃に苛立ち、またもや単独で引力光線を吐いた。といっても先程と違い引力光線が一斉砲撃の隙間をかいくぐってメカゴジラの機体に命中するようしっかりと狙って吐いている。ところが突然メカゴジラの全身を不可視のバリアが覆い、引力光線を遮断した。
「ヨヴェル、私に黙ってメカゴジラにこんな機能を実装していたのか。」
ホシェルの右隣の座席に座るヨヴェルが焦燥感に駆られた表情で黄色いボタンを押している。キングギドラの右の首が吐く引力光線に驚いたヨヴェルがバリア展開装置を起動させたのだ。
「申し訳ございません、ルクス様。報告が遅れてしまいました。」
「お陰で助かったから叱責は無しにする。ところで他にも何か私に内緒でやってはいないだろうな?」
ホシェルの問いかけにヨヴェルは一瞬だけ目が泳ぐ。
「滅相も無いことです!このバリアはラドンの一件があり急遽実装したもので、実験結果をまとめたデータも今ここにあるのですが、そのデータをお渡しする前に出撃となり現在に至った次第です!」
妙に饒舌な弁解をするヨヴェルに対しホシェルは初めて小さな猜疑心を持った。
「たった今、バリアのデータをルクス様の端末に送信致しました!」
ホシェルが自身の小型端末を見ると、確かにバリアに関するデータをヨヴェルの端末から受信している。ヨヴェルがバリアの実験結果の全てをまとめたデータを小型端末に入れ持っていたのは本当だったのだ。
「確かにデータは受け取った。もうこの話はおしまいだ。今は暴悪龍の打倒に専念しよう。」
キングギドラとの戦闘中にヨヴェルを問い詰めている暇など無いことくらいホシェルは重々承知している。
一方そのキングギドラは、落雷を操り植物由来の暴君の全身を覆う電磁シールドに大穴を開けたことを踏まえ、今回もその方法でメカゴジラのバリアを突破出来るのではないかと左の首が発案した。6600 万年も前のことをよく覚えていたものだ。中央の首は頷き、右の首も両目をギラリと輝かせる。直後にキングギドラは落雷を操りメカゴジラを攻撃した。
だが直後に待っていたのはキングギドラの各首が驚愕する事態だ。
メカゴジラが機体の頭頂部をバリアの外に出しキングギドラが操る落雷を全て吸収したのである。
赤色が際立つメカゴジラの機体の頭頂部から吸収された落雷は機内のコンデンサーに蓄電される仕組みとなっている。勿論10 億ボルトの落雷を蓄電可能なコンデンサーなど地球人の科学技術で製造開発出来る代物ではない。
蓄電で新たなエネルギーを得たメカゴジラのバリアはより頑丈になり、砲撃も激しさを増す。
悔しそうにメカゴジラを睨むキングギドラを操縦席の画面で観ながらヨヴェルは大笑いしている。特にキングギドラの右の首は悔しそうな表情である。
「残念だったな、暴悪龍!10000 年前に貴様が金星帝国に攻めてきた際に天候を操っていたのはしっかり覚えているよ。フハハハハ!だからこのメカゴジラには落雷対策も施してあるんだ!ざまあみろ!暴悪龍!さっさとくたばってしまえ!」
勝ち誇った表情で画面に映るキングギドラを指差して大笑いする今のヨヴェルは、少々短気だが決して相手を指差して笑ったりはしない普段のヨヴェルとは大きく異なっている。
長年キングギドラを恐れ続けてきたことに伴う鬱憤がキングギドラを愚弄する形で噴出しているのだろうか。
「ヨヴェル、いい気になるな。笑いたいなら暴悪龍を抹殺し金星帝国を再興した後いくらでも気が済むまで笑えばいいではないか。」
「申し訳ございません、ルクス様。ついつい舞い上がってしまいました。」
ホシェルにたしなめられた途端にヨヴェルは恐縮し、急におとなしくなった。
「だが落雷の蓄電とは見事なものだ。10000 年前に暴悪龍に酷い目に遭わされた時のことを踏まえ、きちんと対策を施していたのだからな。やはりヨヴェルは頼りになる。これからもよろしく頼むぞ。」
「恐れ入ります。ルクス様からそのようなお言葉を賜り恐悦至極です。」
頻繁に部下に暴言を吐き暴力を振るう楠木を反面教師にしているのもあり、ホシェルは部下への気配りを忘れない。だがフォロー後のヨヴェルの反応が少し芝居じみているように見えたため、今自分は疑心暗鬼に陥っているのではないかという不安がホシェルを襲った。
今まで自分を支えてくれたヨヴェルを疑うようでは楠木武を反面教師にした意味が無いのではという思いもある。
「ルクス様、暴悪龍が飛翔し、逃亡を開始しました!追いかけましょう!」
ヨヴェルからの呼びかけで、不安から俯いていたホシェルが我に返った。
「無理だ。今現在メカゴジラはプラズマ原子炉が生成したエネルギーの大半を火力面に充填していて、あの速度で飛翔する暴悪龍を追うには一度動力面にエネルギーを集中的に充填する必要がある。だからこのまま引き続き撃て。暴悪龍を撃ち落とせ。」
メカゴジラの砲撃を浴びながら飛翔するキングギドラをよく見ると、膝や翼、腹部等がわずかに出血している。魏怒羅の黄金の粒子や雷撃を吸収した程度では雀の涙でゴジラとの激闘時の疲労を回復させることなど出来ず、キングギドラは落雷のエネルギーを吸収し火力が増したメカゴジラの攻撃で少なからず負傷するまで追い込まれていた。キングギドラの各首は傷口の痛みもあり苦しそうだ。
「暴悪龍は負傷している。このまま砲撃を続ければ勝機は必ずある。ヨヴェルよ、あと一歩だ。10000 年の忍耐がようやく報われる。」
「ルクス様、メカゴジラ完成まで本当に色々苦労がありましたが、こんなに早く暴悪龍を葬れるなら安いものです。」
メカゴジラの執拗な砲撃の前ではキングギドラは傷口を再生させる暇も無い。キングギドラの左の首は不安げな目つきで中央の首を見た。右の首もメカゴジラを睨むが目に覇気が無い。中央の首は左右の首を申し訳なさそうな目で見ている。
いつも冷静沈着でゴジラが全身を灼熱化させ熱波を放った時も逆転の秘策を練る余裕があった中央の首も、今回はお手上げのようである。
珍しくキングギドラの左の首が怒りをあらわにして咆哮した。落雷攻撃を発案し事態を悪化させてしまった自分自身への強い怒りである。途端に中央の首が閃いた。自分自身に落雷を浴びせるよう左右の首に指示したのだ。左右の首は戸惑ったが、既にメカゴジラの砲撃で全身を負傷し飛翔する体力が無くなりつつある今それに賭けるしかないと考え、中央の首の指示に従うことにした。
「暴悪龍は自分自身に雷を浴びせました。どうやら追い詰められて血迷ったようですね。自決というやつでしょうか。」
ヨヴェルはキングギドラを嘲笑ったが、ホシェルは戦慄の表情を浮かべている。
「違う。我々のメカゴジラが落雷を吸収し強化したのを踏まえ、暴悪龍は自身に落雷を浴びせて自己強化するつもりだ。」
ホシェルの指摘は正しかった。自身が操る落雷を浴びたキングギドラは全身に力が漲りみるみるうちに傷口が完治していく。一度は敗死を覚悟したキングギドラの中央の首だが、落雷攻撃を発案しメカゴジラ強化をお膳立てしてしまったことを悔やむ左の首を見て自分自身に落雷を浴びせて自己強化することを思いついたのだ。傷口の再生を完了したキングギドラの各首が一斉に咆哮する。
「おのれ暴悪龍!だがメカゴジラの砲撃は止まらない!勝つのは我々金星人だ!ありったけの火力を暴悪龍に撃ち込め!」